Tetsu-to-Hagane
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Proposal for Predictions of Gigacycle Fatigue Strength in High-strength Steel
Yoshiyuki Furuya
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2016 Volume 102 Issue 7 Pages 415-422

Details
Synopsis:

Predictions of gigacycle fatigue strength in high-strength steel were derived by using previously proposed method and past fatigue test results. The predictions were proposed for 5 grades of high-strength steel mainly underR= –1. SUP7 then had 2 heat treatment conditions and predictions for SCM440 were not only under R= –1 but also under R= 0. Accuracy of the predictions was mostly good, while the predictions for S40C, SUJ2 and SCM440 under R= –1 showed a little bit inferior accuracy to others. Although the accuracy for S40C was the lowest, this was perhaps attributable to large scattering of the fatigue test results caused by poor hardenability. In these analysis, existence of fatigue limits was suggested in case of the internal fracture. The new fatigue limits could probably be confirmed by conducting 1011 cycles fatigue tests in future. Temporary predictions of the fatigue limits were derived in this report. Predicted S-N curves showed large difference among the steel grades in a short life region, while the difference was small in a gigacycle region. Although the predicted gigacycle fatigue strength were reduced according to increase of the inclusion size, the reduction became gentle for large inclusions. Accordingly, terribly low fatigue strengths were not predicted even for huge inclusions. Mean stress effects showed good agreements with modified Goodman’s rule. However, general predictions regardless of the steel grades were difficult to derive in this study, so analogy or additional fatigue tests were necessary to predict the gigacycle fatigue strength of unlisted steels.

1. 緒言

通常,鉄鋼材料は107回までの繰返し数で決定可能な疲労限を示す。ところが,引張強度が1200 MPa以上の高強度鋼1)では介在物を起点とした内部破壊2,3)(フィッシュアイ破壊)が生じ,通常の疲労限が消滅する。そのため,高強度鋼では109回を超えるギガサイクル域までの疲労特性を考慮する必要がある。これが,本研究で対象としている高強度鋼のギガサイクル疲労という現象である。通常の疲労限を示す鉄鋼材料で,疲労限を予測する手法はほぼ確立されているといえる4)。しかし,高強度鋼のギガサイクル疲労特性を予測する手法は確立されているとは言い難い。従って,高強度鋼のギガサイクル疲労特性の予測法を確立することが本研究の最終目標となる。

高強度鋼のギガサイクル疲労における大きな特徴は,内部破壊の出現である。通常の疲労は表面破壊となるが,高強度鋼では内部破壊が生じ,内部破壊は107回以上でも生じる。また,内部破壊は引張強度等から期待される通常の疲労限以下の低い応力で生じる。このような内部破壊が生じることにより,高強度鋼では疲労限が消滅する5)。従って,高強度鋼のギガサイクル疲労の研究では,内部破壊特性の評価が主な論点となる6,7)

内部破壊の特性は通常の表面破壊とは大きく異なる。疲労限の有無も大きな違いであるが,水素の影響8,9)や寸法効果10,11)等でも違いが認められる。また,通常の疲労限は強度支配となり引張強度やビッカース硬さとよい相関を示すが,内部破壊では起点となる介在物の寸法が主な支配因子となる12,13)。そのため,内部破壊特性を評価するためには材料の介在物寸法を評価し,介在物寸法を考慮した特性評価を行う必要がある。介在物寸法の評価に関しては,極値統計法2)で評価できる見通しが立っている11)。従って,介在物寸法を考慮した内部破壊特性の予測式を導くことが本研究のより具体的な目的である。

介在物等の欠陥寸法を考慮した疲労強度の予測式としては,村上の式2)( a r e a パラメータモデル)が有名である。村上の式は疲労限を算出するが,ODA14,15)(Optically Dark Area)の影響を考慮することで疲労限の消滅を表現できると考えられている。しかし,実際にはODAの成長則を導くことは容易ではないため14,15,16,17),ギガサイクル疲労強度を予測するまでには至っていない。また,内部破壊がき裂伝ぱ支配であると仮定して,破壊力学計算によりき裂伝ぱ寿命を求めることで疲労強度を予測する方法が田中と秋庭によって提案されている18)。この方法では疲労寿命を算出するため,ギガサイクル疲労を表現するにはより適している。内部き裂の伝ぱ曲線を実験的に求めることは容易ではないが,通常の疲労試験結果(S-N曲線)から内部き裂の伝ぱ曲線を簡便に逆計算する方法が提案されている19)。従って,田中と秋庭の方法は実用的といえる。しかし,田中と秋庭の方法では通常はき裂が伝ぱしないような低負荷の条件で,格子間隔より遥かに小さい速度でき裂が伝ぱするような特性が算出されてしまう。すなわち,通常は考えられないような極低速でのき裂伝ぱを仮定しなければギガサイクル疲労を表現できない点が問題であった。このように通常のき裂伝ぱではギガサイクル疲労を表現できないため,内部破壊がき裂発生支配であるという説もある20,21)。しかし,き裂発生支配とした場合には疲労強度を予測できる目処は立っていない。

このように内部破壊に関する研究は一見すると混沌としているように見えるが,発生初期の内部微小き裂の伝ぱという視点で見直すと統一的に理解することができる。内部微小き裂の伝ぱをODAの成長過程とみなせば,村上の式に基づいて考えることができる。Tanaka and Akiniwaの方法ではそれが極低速でのき裂伝ぱとなる。また,内部微小き裂の伝ぱをき裂の発生過程とみなせばき裂発生支配として考えることできる。従って,内部破壊に関する研究の核心部分は,内部微小き裂の伝ぱの解明であったといえる。

それに対して,著者らは内部破壊の研究に取り組むにあたって,最初に加速試験技術の確立を行った。通常の試験法ではギガサイクル疲労試験に膨大な時間を要してしまうため,内部破壊の研究を行う上で加速試験技術は不可欠と考えた。加速試験には超音波疲労試験22,23,24,25,26)を利用した。超音波疲労試験では20 kHzという通常よりも200倍以上速い試験速度を実現できるため,通常は3~4ヶ月を要する109回試験を一日で終えることができる。超音波疲労試験では繰返し速度の影響が問題であったが,内部破壊となる場合には繰返し速度の影響は小さいことが分かった。繰返し速度の影響は通常の疲労試験結果と超音波疲労試験結果を比較することで調査したが,内部破壊となる場合には両者はよく一致した27)。繰返し速度の影響を調査する際には,100 Hzの回転曲げ疲労試験により3年間かけて1010回までの試験を行うことにより,基準となるギガサイクル疲労特性を求めたこともあった28,29)。また,超音波疲労試験による加速試験技術を確立できたことにより,様々な材料や条件下での内部破壊特性の調査が可能となった10,11,12,13,30,31,32)。これらの研究により,内部破壊特性に関する膨大なデータを蓄積するに至った。

このような研究を経て,著者は内部微小き裂の伝ぱに関する研究に着手した。その際には,内部微小き裂の伝ぱ速度を評価する技術を確立する必要があった。内部き裂は,通常の表面き裂のように直接観察することができないためである。そこで著者は,ビーチマークを利用することで内部き裂伝ぱの様子を可視化することを考えた。それまで,ビーチマークを通常の表面き裂の解析に適用した例33)はあったが,内部微小き裂伝ぱの可視化に成功した例は無かった。ビーチマークは二段多重の変動応力疲労試験により作製するが,内部微小き裂に対応する微細なビーチマークができる試験条件の探索が問題であった。ここでも,超音波疲労試験による多数の予備試験を行うことにより,微細なビーチマークができる条件を見出すことに成功した34)。また,内部微小き裂の伝ぱ速度を測定した結果35),内部微小き裂が前述のような極低速で伝ぱしていることが確認された。内部き裂伝ぱの特徴は,田中と秋庭の方法で仮定したき裂伝ぱのモデルと傾向がよく一致した。これは,内部破壊が内部微小き裂の伝ぱにより支配されていることを示すものである。

そこで,次のステップとして,蓄積した疲労試験結果の一部を利用して内部破壊特性を予測する方法について検討した36)。先ずは田中と秋庭の方法について検討したが,介在物寸法の影響が過大評価となることが分かった。次に村上の式について検討したが,その際には妥当なODAの成長則を得ることができなかった。このように既存の方法に問題があったため,田中と秋庭の方法を改良した新しい方法について検討した。新しい方法の特徴は,基礎となるき裂進展則に通常のパリス則37)ではなく,き裂寸法が影響する新しい進展側を用いる点である。このような改良により,介在物寸法の影響が過大評価される問題は解消された。また,新しいき裂の進展側を用いることにより,計算により求めた内部微小き裂の伝ぱ速度とビーチマーク法で実測した伝ぱ速度がよりよく一致することが明らかとなった。これらの研究結果により,内部破壊特性の予測式を導出する準備が整った。

以上の結果を踏まえ,本研究では内部破壊による高強度鋼のギガサイクル疲労強度の予測式を導出する。蓄積した膨大な疲労試験結果を用いて複数の材料や条件について予測式を導き,予測式の精度について議論する。また,疲労限の存在や予測式から示唆される傾向についても議論する。

2. 予測式の導出方法

予測式の導出は前報36)で提案した新しい方法により行う。この方法では,内部破壊が内部微小き裂の伝ぱにより支配されるとして,破壊力学計算によりき裂伝ぱ寿命を算出することで疲労強度を予測する。基礎となるき裂進展則には通常のパリス則ではなく,次式を用いる。   

d a r e a d N = C ( Δ K a r e a α ) m (1)

ここで, a r e a はき裂寸法(m),ΔKは応力拡大係数範囲,Cmαは定数である。右辺のm乗の括弧内でΔK a r e a α を乗じている点がパリス則との大きな違いで,定数αはパリス則にはない新規の定数である。ΔKの計算には次式(2)を用いる。   

Δ K = 0.5 Δ σ π a r e a , Δ σ = 2 σ a (2)

ここで,σaは応力振幅である。式(2)を式(1)に代入して, a r e a が介在物寸法 a r e a i n c から介在物寸法の2倍( 2 a r e a i n c )までの範囲で積分すると次式が得られる。   

( Δ K i n c a r e a i n c α ) m ( N f a r e a i n c ) = 2 1 m ( 1 2 + α ) 1 C ( 1 m ( 1 2 + α ) ) = D (3)

ここで,Dは式(3)の右辺を適当な定数に置き換えたものである。また,介在物寸法の2倍までとした積分範囲は,ODA寸法が介在物寸法の2~3倍程度になるという実験的知見14,15,38)に基づくものである。すなわち,内部微小き裂の伝ぱ領域はODAに相当すると考えている。

式(3)に基づき,疲労試験結果からΔKinc a r e a i n c α N f / a r e a i n c の関係を求め,両者の関係を累乗近似することにより式(1)の各定数を決定する。ここで,α値を決定する際には累乗近似した際の決定係数(R2値)を用いる。α値を適当に変化させながら累乗近似を行い,決定係数が極大となる点をα値として決定する。前報の例では,α値が−0.5~0の範囲で決定係数が極大となる点が現れたため,この範囲がα値を探索する際の目安となる。また,式(3)に式(2)を代入して変形すると,次のようの疲労強度の予測式が得られる。   

σ a = 1 π ( D ) 1 m × ( N f ) 1 m × ( a r e a i n c ) ( 1 m 1 2 α ) , D = 2 1 m ( 1 2 + α ) 1 C ( 1 m ( 1 2 + α ) ) (4)

従って,蓄積した疲労試験結果を用いて各定数の値を決定すれば,各材料や条件ごとの疲労強度の予測式が得られる。

3. 使用する実験データ

供試材の一覧と化学成分範囲をTable 1に示す。使用する実験データは,NIMS疲労データシート39)と論文10,11,30,31,32,35,38)で公表したデータである。大半の材料はNIMS疲労データシートで使用した実炉材であるが,論文ではラボ材も使用している。いずれの材料も,素材形状は丸棒である。これらの材料には焼入れ・焼戻しの熱処理を施し,組織は焼戻しマルテンサイトとなっている。焼入れは,SCM440とS40Cの疲労データシート材では高周波焼入れ(全断面焼入れ)を施してあるが,それ以外は炉加熱による油焼入れである。SCM440鋼では実炉材とラボ材および高周波焼入れ材と通常の油焼入れ材が混在しているが,疲労試験結果への影響は認められなかった36)Table 2に焼戻し温度とビッカース硬さを示す。焼戻し温度は,ばね鋼SUP7については400°C以上であるが,それ以外の材料では200°C以下の低温焼戻しとなっている。ビッカース硬さは低強度側の材料ではHV438,高強度側の材料ではHV753となっている。

Table 1.  Chemical composition ranges of the analyzed steels.
Steel Number of heats Element (mass %)
C Si Mn P S Cu Ni Cr Mo
SCM440 5 0.40-43 0.18-25 0.71-92 < 0.019 < 0.018 < 0.18 < 0.13 0.96-1.16 0.15-17
SUP7 2 0.59-61 1.99-2.05 0.86-92 < 0.027 < 0.014 < 0.12 < 0.16 0.15-16 < 0.01
SUJ2 3 0.99-1.01 0.18-25 0.25-37 < 0.017 < 0.005 1.42-9
SNCM439 1 0.41 0.29 0.74 0.013 0.01 0.12 1.84 0.74 0.22
S40C 1 0.41 0.21 0.74 0.013 0.016 0.01 0.01 0.05
Table 2.  Tempering temperature and Vickers hardness.
Steel Numbe of heatsr Tempering temperature Vickers hardness Symbol
Range Average
SCM440 5 180-200°C 604-619 611 SCM440
SUP7 2 430°C 525-528 527 SUP7-430T
500°C 434-441 438 SUP7-500T
SUJ2 3 180°C 749-756 753 SUJ2
SNCM439 1 160°C 598 598 SNCM439
S40C 1 180°C 585 585 S40C

疲労試験方法は,回転曲げ疲労試験(30 or 100 Hz),軸荷重疲労試験(20~125 Hz)および超音波疲労試験(20 kHz)である。超音波疲労試験では繰返し速度の影響に注意する必要があるが,前述のように高強度鋼で内部破壊となる場合には繰返し速度の影響が小さく,回転曲げ疲労試験や軸荷重疲労試験の結果とよく一致する。また,超音波疲労試験の際には空冷と間欠試験26)により試験片の発熱を防止している。応力比の条件は完全両振りのR=−1が中心であるが,低合金鋼SCM440ではR=0の条件もある。雰囲気はいずれも室温大気中である。試験片形状は様々であるが,最小のものは試験部直径が3 mmの砂時計型で,最大のものは試験部直径が7 mmで20 mmの平行部を設けたダンベル型である。この場合,最大応力の90%以上が作用する領域として定義した危険体積は33~912 mm3の範囲となる。

上記の疲労試験結果のうち,ここでは酸化物系介在物を起点として内部破壊した結果のみを使用する。また,介在物寸法が15 μm以下では介在物寸法とギガサイクル疲労強度の相関が変わるため12,13),介在物寸法が15 μm以下のデータは除外した。

4. 予測式導出の結果

Fig.1に,ΔKinc a r e a i n c α N f / a r e a i n c の関係をプロットし,累乗近似した結果を示す。前述のようにα値は決定係数(R2値)が極大となる点から決定した。黒丸のプロットは非破断の結果であるが,これらは参考データであり,累乗近似の際には除外している。プロット点の数については材料によって異なるが,SCM440のR=−1の条件が圧倒的に多い。R2値については,0.625~0.894の範囲であった。

Fig. 1.

 Results of fitting for relationships between ΔKinc· a r e a i n c α and N f / a r e a i n c .

破断した結果では大半のプロット点で N f / a r e a i n c が1014以下となっているのに対して,非破断の結果は大半がそれ以上となっている。この傾向は疲労限の存在を示している可能性が高い。すなわち,鋼で内部破壊となる場合には疲労限はないと考えられているが,実際にはギガサイクル域において表面破壊とは異なる疲労限が出現しているように見える。その際,疲労限を決定するためのしきい値として, N f / a r e a i n c が1014となる点を利用できる可能性がある。そこで,Fig.1では N f / a r e a i n c が1014となる点で近似曲線が水平になると仮定し,そのときのΔKinc a r e a i n c α の値をThresholdとして示している。

以上の結果により疲労強度の予測式が導かれたことになるが,より計算しやすい形で提示するために,式(4)を次のような形に置換える。   

σ a = A 1 × ( N f ) a 2 × ( a r e a i n c ) a 3 (5)

そして,A1,a2,a3の各定数を計算した結果をTable 3に示す。これが,本研究で提案する高強度鋼のギガサイクル疲労強度の予測式である。

Table 3.  Calculated parameters for Eqn. (5).
Steel Vickers hardness Stress ratio Number of data points Parameters
A1 a2 a3
SCM440 611 R = –1 95 292.2 –0.049 –0.171
R = 0 20 443.8 –0.053 –0.107
SUP7-430T 527 R = –1 42 175.9 –0.037 –0.193
SUP7-500T 438 R = –1 29 237.4 –0.027 –0.143
SUJ2 753 R = –1 43 216.1 –0.049 –0.211
SNCM439 598 R = –1 20 360.3 –0.059 –0.171
S40C 585 R = –1 24 370.8 –0.072 –0.188

5. 考察

5・1 予測式の精度

Fig.2に,疲労強度の予測値と実験値を比較した結果を示す。ここでは,疲労試験における応力振幅を実験値,破断繰返し数と介在物寸法を式(5)に代入して求めた応力振幅を予測値とした。Fig.2では86%のデータが誤差10%の範囲内となり,99%のデータが誤差20%の範囲内となっている。これは,疲労試験結果がばらつくことを考慮すると,比較的よい精度といえる。材種別に見ると,誤差が特に大きいのはS40C,SUJ2,SCM440(R=−1)の3材種である。S40Cで誤差10%以内となったデータは67%しかなく,誤差の最大値は22%であった。SUJ2とSCM440(R=−1)で誤差10%以内となったデータはそれぞれ86%と82%で,誤差の最大値はそれぞれ18%と21%であった。それ以外の材料では,95%以上のデータが誤差10%以内となり,1~2点のデータで誤差が11~12%になる程度であった。次に,式(5)による予測値を平均値として,実験値の標準偏差を求めた結果をTable 4に示す。材種毎の標準偏差に着目すると,やはりS40C,SUJ2,SCM440(R=−1)の順に大きく,その他の材料(条件)では小さい。従って,これらの3材種で誤差が大きいと言える。

Fig. 2.

 Comparison between predicted and experimental fatigue strength.

Table 4.  Standard Deviations of Eqn. (5).
Steel Stress ratio Number of data points Standard deviations (MPa)
SCM440 R = –1 95 63.8
R = 0 20 21.4
SUP7-430T R = –1 42 42.6
SUP7-500T R = –1 29 32.8
SUJ2 R = –1 43 70.5
SNCM439 R = –1 20 36.1
S40C R = –1 24 85.6
All 273 58.0

SCM440(R=−1)に関しては,データ点が多いだけでなく,ヒート数も多く,実炉材とラボ材,高周波焼入れ材と通常の油焼入れ材が混在していたことが誤差拡大の原因として考えられる。中でも,熱処理の違いによる影響が大きかったと思われる。高周波焼入れ材と通常の油焼入れ材では,焼戻し温度も180°Cと200°Cで若干異なっている。S-N曲線(疲労試験結果)では熱処理条件の違いによる影響を確認できなかったが36),今回はそれがばらつきとして現れた可能性がある。実際,誤差が10%以上となったデータに着目すると誤差がプラス側のデータでは高周波焼入れ材が多く,マイナス側のデータでは通常の油焼入れ材が多い。また,同じSCM440でもR=0の条件では誤差が小さいが,この場合には油焼入れ材のみである。なお,試験法や試験片形状の影響ついては誤差の小さかった材料でも混在しているため,SCM440だけで顕在化したとは考え難い。

S40Cに関しては,ヒート数は1で熱処理条件も統一されているが,焼入れ性の問題によりばらつきが大きくなったと思われる。すなわち,S40Cは焼入れ性が悪いため,試験片ごとの組織のばらつきが大きかったと思われる。似たような傾向は,表面破壊となる条件で炭素鋼と低合金鋼の疲労限を比較した場合にも観察される。炭素鋼と低合金鋼で疲労限を比較すると,組織のばらつきが大きい炭素鋼のほうで耐久比(疲労限/引張強度)が低くなる40)。表面破壊の場合にはき裂の発生点が複数あるため組織のばらつきの影響が疲労限の低下として現れるが,内部破壊の場合にはき裂の発生点が最大介在物の周囲に限定されるためそれが疲労試験結果のばらつきとして現れたと考えられる。SUJ2に関しては,焼入れ性はSCM440とS40Cの中間で,データ点やヒート数も中間である。従って,両者の影響が複合していると思われるが,熱処理条件が統一されている点を考慮すると焼入れ性の問題のほうが大きいように思われる。

5・2 疲労限の検討

先に述べたように,Fig.1 N f / a r e a i n c が1014以上の領域で大半の試験片が非破断となっている点は,疲労限の存在を示している可能性がある。実際にはより長寿命域までの疲労試験を実施して疲労限の存在を確認する必要があるが,ここでは疲労限の存在を仮定して疲労限を算出する。その際には, N f / a r e a i n c が1014となる点で近似曲線が水平になると仮定し,それにより求めたFig.1のThresholdの値を利用する。

Fig.1の傾向から,疲労限では次式が成立する。   

Δ K a r e a α = T h r e s h o l d (6)

式(6)に式(2)を代入すると,次のように疲労限を導くことができる。   

σ a = T h r e s h o l d π × ( a r e a i n c ) ( 1 2 α ) (7)

これを,式(4)の場合と同様に次のように置換える。   

σ a = B 1 × ( a r e a i n c ) b 3 (8)

そして,B1,b3の各定数を計算した結果をTable 5に示す。

Table 5.  Calculated parameters for Eqn. (8).
Steel Vickers hardness Stress ratio Number of data points Parameters
B1 b3
SCM440 611 R = –1 95 60.2 –0.22
R = 0 20 80.4 –0.16
SUP7-430T 527 R = –1 42 53.4 –0.23
SUP7-500T 438 R = –1 29 99.4 –0.17
SUJ2 753 R = –1 43 44.5 –0.26
SNCM439 598 R = –1 20 53.8 –0.23
S40C 585 R = –1 24 36.4 –0.26

また,折れ曲り点については N f / a r e a i n c が1014の条件から次のようになる。   

N f = 10 14 × a r e a i n c (9)

この場合,介在物寸法が20 μmの場合に2.0×109回,100 μmの場合に1010回でS-N曲線が折れ曲る。従って,1011回までの疲労試験を実施すれば内部破壊の疲労限を確認できる可能性がある。

5・3 予測式による疲労特性の解析

Fig.3に,介在物寸法が20 μmと100 μmにそれぞれ対応するS-N曲線の計算結果を示す。Fig.3(a)の介在物寸法が20 μmに対するS-N曲線では,式(9)による疲労限を考慮した予測を示している。108回以上の長寿命域では材種間のばらつきが小さいが,それ以下の低寿命域では材種間での疲労強度の差が大きい。SCM440がほぼ中央値となり,SUP7の2材種が低強度側,SUJ2とSNCM439が高強度側となっている。S40Cは低寿命域では高強度側となっているが,長寿命域では低強度側になる傾向となっている。ビッカース硬さが高いSUJ2が高強度側で,それが低いSUP7が低強度側となっている点に着目すると,特に低寿命域での疲労強度は硬さに依存しているように見える。しかし,定量的な相関は必ずしも明確ではなく,ギガサイクル域では硬さの影響は非常に小さい。

Fig. 3.

 Calculated S-N curves.

Fig.4に,109回疲労強度および式(8)による疲労限と介在物寸法との相関を示す。Fig.4では,過去の研究で実験的に求めた109回疲労強度12,13)も一緒にプロットしている。SUJ2の結果がやや高めに位置しているが,基本的には材種間の差は小さいといえる。また,介在物寸法の増加に伴い疲労強度の低下は緩やかとなり,介在物寸法が100 μmでも109回疲労強度は500 MPa程度となっている。実験的に求めた109回疲労強度と比較するとやや低めの傾向となっているが,差は小さく,ばらつきの範囲内である。すなわち,予測式による結果と実験的に求めた109回疲労強度はよく一致していると言える。

Fig. 4.

 Gigacycle fatigue strength according to inclusion sizes. The plots are experimentally obtained 109 cycles fatigue strength in the past research12,13).

Fig.5に,耐久限度線図を示す。図中の点線は修正Goodman線図を示しているが,よく一致する傾向となっている。Ti-6Al-4V合金のギガサイクル疲労ではR=0付近で疲労強度の低下が大きく,修正Goodman線図が危険側となるような傾向になった41,42)。詳細に見るとFig.5でもギガサイクル疲労強度がやや低目となっているが,Ti-6Al-4V合金の場合に比べると修正Goodman線図との差は遥かに小さい。従って,高強度鋼の内部破壊の場合には,修正Goodman線図により平均応力の影響を推定することが可能と見込まれる。

Fig. 5.

 Endurance limit diagram. σa indicates fatigue strength under R = –1. σm and σB indicates mean stress and tensile strength, respectively.

次に,本研究の予測式を村上の式と比較する。先ず,介在物寸法の影響に関しては,村上の式では a r e a にかかる乗数が−1/6≒−0.17である。それに対して,時間強度ではTable 3a3,疲労限ではTable 5b3を見るといずれも−0.17に近い値となっている。従って,介在物寸法の影響に関しては同程度の評価になっている。しかし,ビッカース硬さの影響に関しては異なる評価となっている。村上の式はビッカース硬さの影響を強く受けるモデルになっているが,本研究の予測式でギガサイクル疲労強度に着目するとビッカース硬さの影響は小さい。従って,ギガサイクル疲労強度の予測式として考えた場合には,本研究の予測式は村上の式とは異なるものになっている。

以上のように,本研究の予測式を分析することにより,内部破壊の特徴が明らかとなった。低寿命域では材種間の差が大きいが,ギガサイクル疲労強度に関しては材種間の差が小さい。また,大きな介在物に対して疲労強度が極端に低くなることは無く,介在物寸法の増加に伴い疲労強度の低下は緩やかとなる。平均応力の影響に関しては修正Goodman線図により予測可能と見込まれる。しかし,これらの知見から材種によらない,一般的な疲労強度の予測式を導くことは困難である。そのため,本研究の対象にない材料のギガサイクル疲労強度を予測するためには,近い材料から類推するか新たに疲労試験を実施して予測式を導く必要がある。

6. 結論

本研究では,前報で提案した方法と過去に蓄積した疲労試験結果を用いて,高強度鋼のギガサイクル疲労強度の予測式を導出した。その結果,以下のような結論を得た。

1)5材種の高強度鋼について,主にR=−1の条件で疲労強度の予測式を導出した。その際,ばね鋼SUP7については焼戻し温度を変えた2熱処理条件で予測式を導出し,低合金鋼SCM440ではR=0の条件でも予測式を導いた。

2)予測式の精度は概ね良好であったが,S40C,SUJ2,SCM440(R=−1)の3材種で精度が若干悪かった。特に,S40Cで精度が低かったが,焼入れ性の問題で疲労試験結果がばらついたためと考えられた。

3)疲労試験結果を分析した結果,内部破壊の場合でもギガサイクル域で疲労限が現れる可能性が示された。内部破壊の疲労限は1011回までの疲労試験で確認できると見込まれるが,本研究ではその存在を仮定して疲労限の予測式を導出した。

4)導出した予測式によりS-N曲線の傾向を分析した結果,低寿命域では材種間のばらつきが大きいが,ギガサイクル域ではばらつきが小さいことが分かった。また,硬さの影響は明瞭ではなかった。

5)介在物寸法の影響を分析した結果,介在物寸法の増加に伴い疲労強度の低下は緩やかとなり,100 μmの介在物に対しても500 MPa程度の109回疲労強度を見込めることが分かった。

6)平均応力の影響に関しては,修正Goodman線図による推定が可能と見込まれた。

7)本研究の範囲内では,材種によらない一般的な疲労強度の予測式を導くことは困難であった。従って,本研究に無い材料のギガサイクル疲労強度を予測するためには,近い材料から類推するか新たに疲労試験を実施する必要がある。

謝辞

本研究の一部はJSPS科研費15K05705の助成を受けて行われたものである。ここに謝意を表する。

文献
 
© 2016 The Iron and Steel Institute of Japan

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