Tetsu-to-Hagane
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Analysis of Heat Crystallization Behavior of Polyester Film on Laminated Steel Sheet
Junichi KitagawaYoichiro YamanakaYasuhide YoshidaHiroki NakamaruKatsumi Kojima
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2017 Volume 103 Issue 11 Pages 617-621

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Synopsis:

Polyester films have been used widely as laminate films of beverage and food cans due to their excellent properties of formability, corrosion resistance, and adhesion to steel sheets. Recently, excellent formability under the condition of a higher processing degree has been required in laminated steel sheets for drawn and ironing (DI) cans, which are used as beverage and food cans. Therefore, polyester films which are almost amorphous are used since high formability is needed in the laminate film. In this study, we investigated the thermal crystallization behaviors of a near-amorphous oriented polyester film and non-oriented film by thermal analysis and Raman spectroscopy. We found that the two types of films display different thermal crystallization behaviors.

1. 緒言

近年,地球環境の保全,塗装作業の労働環境改善などの観点から,缶用材料に対し,有機溶剤を用いる塗料から水溶性塗料への転換,あるいはポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を被覆した材料への転換が進められている。今まで,飲料缶を中心として,ポリエステルフィルムを被覆したラミネート鋼板を素材とした缶が商品化されてきた1,2)

ラミネート鋼板に二軸配向ポリエステルフィルムを適用する場合,ラミネート後のポリエステルフィルムの配向状態がフィルム密着性や耐食性等の特性に大きく影響を及ぼすため,用途に応じて,ポリエステルフィルムの配向度および共重合化率などの樹脂組成を考慮して,設計されている3)。加熱された鋼板の両側に二軸配向ポリエステルフィルムをラミネートロールにより熱圧着することで,鋼板側の接着面の樹脂層のみが溶融し,表層の樹脂層は配向構造を有している。

一方,省資源の観点から缶の軽量化4)に対応するため,高加工用ラミネート鋼板や,国内外で広く適用されている絞り・しごき(DI;Drawn and Ironing)缶用ラミネート鋼板に,無延伸ポリエステルフィルムをラミネートすることが検討されている5)。高加工が要求される用途では,二軸配向ポリエステルフィルムの加工性の不足に起因したフィルム割れが発生する場合があり,結晶性が低く加工性に優れる無延伸ポリエステルフィルムが有利となることが報告されている4)

また,前述したラミネート鋼板を缶用材料に用いた場合,缶加工後のフィルム層の残留ひずみ除去や印刷のための熱処理が施される場合があり,フィルムの熱結晶化による物性変化が生じる6)ため,フィルムの熱結晶化挙動について把握することが重要である。

本報告では,高温でラミネートすることにより,二軸配向(延伸)ポリエステルフィルムの結晶化度を無延伸ポリエステルフィルムと同じように,X線回折ピークが現れない非晶状態にした場合(以下,非晶化延伸フィルムと呼ぶ)と,無延伸ポリエステルフィルムの熱結晶化挙動の違いについて,熱分析とラマン分光法を用いて調査した結果を報告する。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材は,ラミネート原板として,低炭素Al-killed連続鋳造鋼種,板厚0.21 mm,調質度T-3CA,金属クロム量120 mg/m2,クロム水和酸化物量15 mg/m2(金属Cr量換算)のクロムめっき鋼板(ECCS:Electrolytically Chromium Coated Steel)を用いた。ラミネートフィルムは,イソフタル酸を共重合させた二軸延伸ポリエステルフィルム(厚み25 μm,融点228°C)と,押出し製膜機で,延伸成形せずに製膜した無延伸ポリエステルフィルム(厚み23 μm,融点228°C)を用いた。なお,無延伸ポリエステルフィルムは,二軸延伸フィルムと同様にイソフタル酸を共重合させたポリエステル樹脂を用いた。

この2種類のフィルムを,それぞれフィルム融点付近まで加熱したクロムめっき鋼板の両面に熱融着し,ラミネート鋼板を作製した。なお,ラミネート鋼板の熱処理は熱風乾燥炉を用いて,ラミネート鋼板の鋼板到達温度が220°Cで,5分間の熱処理を行った。Table 1に本実験で用いたラミネート鋼板のフィルム種類と熱処理条件を示す。

Table 1.  Laminated steel sheets (heat treatment conditions).
No. Films Heat treatment
1 Amorphized Oriented Polyester none
2 Amorphized Oriented Polyester 220°C, 5 min
3 Non Oriented Polyester none
4 Non Oriented Polyester 220°C, 5 min

2・2 X線回折測定によるラミネートフィルムの結晶状態評価

非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムの結晶状態を調べるため,(株)リガク製X線回折装置(RINT2000)を用いて,ラミネート鋼板のポリエステルフィルムのX線回折測定を行った。X線回折測定は,CuKαの波長を用いて,スキャン角度は2θ=10°から2θ=35°まで,スキャン速度を4°/minで行った。Fig.1にX線回折測定の結果を示す。

Fig. 1.

 X-ray diffraction pattern of laminated polyester film.

2・3 温度変調示差走査熱量計によるフィルムの熱分析

TAインスツルメンツ(株)製温度変調示差走査熱量計(Q-100,以下,温度変調DSCと略す)を用いて,Fig.2に示すような等速昇温にサイン波の温度振動(交流成分)を加えた方式(温度変調方式)で測定を行い7,8,9),ガラス転移に伴う熱量変化(可逆熱流束)および結晶化に伴う熱量変化(不可逆熱流束)から,熱処理前後の熱流速の変化を調べた。温度変調DSCの測定条件をTable 2に示す。温度変調DSCでは,前述の可逆熱流速と不可逆熱流速から,ガラス転移点前後の比熱差が精度良く測定できる。したがって,ガラス転移点を示す可動非晶量を求めることができ,結晶量が分かれば残りの非晶成分として,剛直非晶量が求められる。そこで,より詳細なフィルムの構造を把握することが可能である。

Fig. 2.

 Temperature rise curve of Modulated DSC.

Table 2.  Measurement conditions of modulated DSC.
Item Conditions
Temp. range of measurement 0 ~ 200°C
Average heating rate 2°C/min
Modulation amplitude ± 0.5°C
Modulation period 40 s
Atmosphere N2, 50 ml/min

なお,可動非晶量は,式(1)に示す方法により,ガラス転移点前後の比熱差から求めた。剛直非晶量は,式(2)から求めた9)。ここで,フィルムの結晶量(結晶化度)は,密度勾配管によりフィルムの密度(d)を測定し,非晶相の密度(da)を1.335 g/cm3,結晶層の密度(dc)を1.501 g/cm3として,式(3)から求めた。   

[ % ] = ( 0.4052 J / ( g°C ) ) × 100 (1)
  
[ % ] = 100 - - (2)
  
[ % ] = dc ( d da ) d ( dc da ) × 100 (3)

2・4 共焦点顕微レーザーラマンよるラミネート鋼板の深さ方向分析

ラミネート鋼板のフィルムの厚み方向の結晶化度変化について,サーモフィッシャー(株)製共焦点型顕微レーザーラマン分光分析装置(Almega XR)を用いて調べた。ポリエステルフィルムのラマンスペクトルにおいて,約1730 cm−1に現れるカルボニル基(C=O)の半値幅が大きくなるほど,ポリエステルフィルムの結晶化度が低下する関係がある。したがって,カルボニル基の半値幅を測定することで,ポリエステルフィルムの結晶性の評価が可能である10)。測定条件をTable 3に示す。

Table 3.  Measurement conditions of confocal Raman spectroscopy.
Item Conditions
Laser wavelength 532 nm
Laser output power 50%
Exposure time 2 s
Frequency of exposure 2
Aperture size 25 μm
Object lens 100-fold
Interval of measurement 0.5 μm

3. 実験結果および考察

3・1 温度変調DSCによるフィルムの熱分析結果

温度変調DSCを用いた測定における熱処理前後の可逆熱流束をFig.3に示す。可逆熱流束が階段状に変化する中央部分が,ポリエステルフィルムのガラス転移点(Tg)である。熱処理前は非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムはほぼ同じようなガラス転移点および比熱差を示すが,熱処理後では,非晶化延伸フィルムの比熱差が小さくなり,ガラス転移点も高温側にシフトしている。

Fig. 3.

 Reversing heat flow of polyester films.

また,非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムの熱処理前後における可動非晶量,剛直非晶量および結晶量の測定結果をFig.4に示す。熱処理前は非晶化延伸フィルムも無延伸フィルムも可動非晶量は,ほとんど同じであるが,熱処理を行うことによって非晶化延伸フィルムは可動非晶量が大きく減少し結晶量が大幅に増加している。無延伸フィルムも可動非晶量が減少するが,非晶化延伸フィルムに比べ熱処理後の減少量が小さく,また,剛直非晶量が増加するため,結晶量の増加は2%程度である。剛直非晶量に関して,熱処理後は無延伸フィルムの方が増加している。

Fig. 4.

 Structural change with heat treatment of polyester films.

次に温度変調DSCで測定した不可逆熱流束の結果から,熱処理前後の結晶化ピークの変化をFig.5に示す。熱処理前は非晶化延伸フィルムの結晶化温度は低く,2つのピークが認められる。一方,無延伸フィルムは結晶化温度が高く1つの結晶化ピークを示している。さらに,熱処理後の非晶化延伸フィルムは結晶化ピークが大幅に減少している。それに対して,無延伸フィルムは結晶化ピークが若干減少はしているものの,非晶化延伸フィルム程の大きな変化は見られない。非晶化延伸フィルムは結晶化ピークが2つ観察されることから,少なくとも2つの異なる構造を有していることが推定される。非晶化延伸フィルムは熱処理により,低温側の結晶化ピークが減少していることから,結晶核を多く含む構造を有する部分の結晶化が進行していると推測される。熱処理前の結晶量の違いから非晶化延伸フィルムは,結晶核が存在する構造を有するが,一方,無延伸フィルムは,結晶核となる結晶が少ないため,結晶化が進みにくい構造になっているものと推測される。

Fig. 5.

 Non reversing heat flow of polyester films.

3・2 共焦点顕微レーザーラマンによるフィルム厚み方向の結晶量評価

熱処理前後におけるラミネート鋼板のフィルム深さ方向の結晶量を調べるために共焦点ラマンによる非破壊測定を行った。非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムの熱処理前後のフィルム深さ方向の分析結果をそれぞれFig.67に示す。熱処理前は非晶化延伸フィルムも無延伸フィルムもC=O半値幅が大きく,結晶量は少ないことがわかる。一方,熱処理後では,非晶化延伸フィルムはフィルム表層側(表層から15 μm程度)のC=O半値幅が減少し,結晶量が増加している。

Fig. 6.

 Crystallinity of film thickness direction before heating.

Fig. 7.

 Crystallinity of film thickness direction after heating.

一方,無延伸フィルムは熱処理後では,フィルム表層側3 μm程度のC=O半値幅が小さくなっているが,それより下層部分のC=O半値幅はほとんど変化がない。これはフィルム表層側で一部結晶化が進行しているが,ほとんど非晶構造を保持していることを示している。熱処理前後におけるフィルム厚み方向の層構造の変化の模式図をFig.8に示す。

Fig. 8.

 Schematic film structure of laminated steel based on confocal Raman spectroscopy.

以上より,共焦点ラマンにより調査したフィルム層構造の結晶量の変化から,非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムの熱処理による層構造の変化の相違が明らかになった。この結晶化挙動の違いは,非晶化延伸フィルムの表層には,ラミネート時の加熱により完全に溶融されなかった微細な結晶が残り,その微細な結晶が結晶核となり,熱処理による結晶化を促進しているものと推定される。無延伸フィルムには,結晶核となる微細な結晶が少ないため,熱結晶化が抑制されていると考えられる。

4. 結言

本研究では,X線回折ではほぼ非晶状態である非晶化延伸フィルムと無延伸フィルムを適用したラミネート鋼板について,熱処理による結晶化の挙動の違いを調査した。熱分析および共焦点顕微レーザーラマン分析を行った結果の要約を以下に述べる。

(1)非晶化延伸フィルムは熱処理により可動非晶量が減少し結晶量が増加する。無延伸フィルムは熱処理により可動非晶量は減少し,剛直非晶量が増えるが結晶量の増加は非晶化延伸フィルムに比べ,少ない。これは,無延伸フィルムは,結晶核となる微細な結晶が非晶化延伸フィルムに比べ少ないためと推定される。

(2)非晶化延伸フィルムは結晶化温度が低く,2つの結晶化ピークが認められるが,無延伸フィルムは結晶化温度が高く,1つのピークのみである。このことは,非晶化延伸フィルムは結晶化が進みやすい構造をもち,無延伸フィルムは結晶化が進みにくい構造を有していることを示している。また,非晶化延伸フィルムは2つの構造を示唆している。

(3)共焦点ラマンの結果から非晶化延伸フィルムは熱処理後にフィルム表層側(15 μm程度)の結晶化が進むが,無延伸フィルムは表層側(3 μm程度)がわずかに結晶化するが,下層の大部分は非晶構造である。

以上から,非晶化延伸フィルムにおいて,結晶化温度が低い部分は,フィルムの表層側(表層から15 μm程度)の構造に対応し,結晶化温度が高い部分は,フィルムの鋼板側の構造に対応していると考えられる。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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