Tetsu-to-Hagane
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Numerical Simulation of Effect of Thermo-solutal Flow on Macrosegregation in Continuously Cast Slabs
Katsunari OikawaNaoya HirataKoichi Anzai
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2017 Volume 103 Issue 12 Pages 747-754

Details
Synopsis:

Effect of thermo-solutal convection on the macrosegregation in continuously cast slabs was investigated by numerical simulation using a finite-volume scheme. The thermo-solutal convection and solidification shrinkage induced flow was considered in the numerical model. The thermos-solutal flow induced the vortex flow during the solidification. The solute-rich liquid was washed out from the mushy zone by the vortex flow and the V-shaped segregation pattern was formed. The solidification shrinkage induced flow from top side to bottom side was dominant at the last stage of the solidification. However, the segregation pattern induced by this flow could not be calculated by well accuracy because of the grid size and convergence error.

1. 緒言

鉄鋼材料の凝固にともなうマクロ偏析は,熱処理・加工時の割れの原因や品質欠陥になることから,極力抑制することが求められる。連続鋳造プロセスにおけるマクロ偏析としては,主に,V偏析,中心偏析が問題となる。V偏析,中心偏析に関する実験データおよびそれに基づく生成機構の考察ついては,解説がいくつかある1,2,3,4)。V偏析は,等軸晶領域に発生するすべり部が原因とする説もあるが,凝固界面の部分的ブリッジングとそれに伴う凝固収縮流が原因とする説もある。ブリッジングの原因については分岐柱状晶とする説がある。中心偏析については,凝固殻のサポートロールによるバルジングや,凝固収縮流動に伴う説がある。最近,Ogibayashiは4),バルジングが抑制された後でも,スポット状の中心偏析が残り,且つ粗大な分岐柱状晶がなくても柱状晶においてV偏析がみられることから,凝固界面の凹凸5,6)とそれに伴うブリッジングおよび凝固収縮流が,V偏析,中心偏析の原因となることを提唱している。また,Isobeは7),ブルームの連続鋳造において,凝固末期にクレーターエンドへ向かう凝固収縮流動が凝固界面直交方向の物質移動を促進することが原因であると提唱している。Bruneら8)は,中心偏析部の詳細な観察から,V偏析は周期性があり,ポロシティと中心偏析部は連結しており,固相率が0.65のところで,V偏析とポロシティが生成すると報告している。以上のように,V偏析,中心偏析は,流れによる溶質移動と凝固現象が相互に影響し合う複雑な現象である。

このような複雑な現象を実験だけで理解するのは困難であり,数値解析による現象の可視化は,現象の理解を深めるためには有効であり,モデルが精緻になれば現象の定量的予測も可能となり,軽圧下パラメータの最適化などが期待される。鉄鋼材料の連続鋳造に関する中心偏析の数値解析としては,バルジングによる流れを考慮するモデルがMiyazawaら9)により報告されている。このモデルでは,凝固収縮流とバルジングによる流れが考慮され,凝固収縮流のみでは中心偏析は生じず,バルジングによる流れが中心偏析形成に影響することが示唆されている。その後,同様のモデルにより複数ロール間バルジングや熱対流を考慮した解析が行われ,複数ロールにより中心偏析が助長されることが示されている10,11,12)。Kajitaniら11),Domitnerら13)は,同様のモデルに軽圧下の効果も加え,中心偏析が軽減されることを示している。しかし,これらのモデルではV偏析は再現できていない。基本的には,バルジングによる流動で固液界面の洗浄効果が生じ,中心部付近に正,負の偏析分布が現れ,凝固収縮流や,熱対流の効果は小さいとされている。Reza Aboutalebiら14),Yangら15)は,鋳型内の乱流を考慮した解析を行っている。Reza Aboutalebiら14)は,ロール間バルジングは考慮せず,鋳型内乱流,熱溶質対流,凝固収縮流を考慮している。乱流による洗浄効果で,表面付近が負偏析となり,中心にむけてなだらかに溶質の偏析率が増加するような偏析パターンが示されている。中心部に偏析はしているが,スラブでみられるような,中心部での急峻な偏析2)は再現できておらず,またV偏析も再現できていない。Muraoら16)は,ブリッジングを意図的形成するモデルを作製し,熱溶質対流,凝固収縮流を考慮したモデルで解析を行い,ブリッジング形成と凝固収縮流により,中心偏析やV偏析が生じることを示している。

一方,インゴットの凝固に関する数値解析では,V偏析,逆V偏析などのチャンネル偏析は熱溶質対流を考慮することで再現できることが知られている17,18,19,20)。本研究グループでは19,20),このような偏析は,熱溶質対流による固液界面の洗浄効果で,固液共存領域にマクロ的な固相率の不均一が生じ,固相が少ないところでは流れの圧力損失が少ないために,周囲から溶質が濃化した液相が流れ込み,融点が低下し凝固が遅れることで正偏析となり,固相率が高いところでは溶質濃度が高い液相を固相率が低いところに流れ出すために負偏析なるという,溶質の供与/授与対の形成がチャンネル偏析で重要であることを明らかにしている。また,このような数値解析では,グリッドサイズや収束誤差により,大きな傾向は変化しないものの,細かい偏析模様が現れやすいことが知られている。本研究グループでは,連続鋳造プロセスにおける偏析予測のための統合型数値解析モデルの構築を目指してしている。本報告では,最初に熱溶質対流と凝固収縮流をとりいれた矩形のモデルを構築し,グリッドサイズや収束誤差の偏析模様への影響,および熱溶質対流の偏析挙動への影響について解析を行った。

2. 数値解析手法

2・1 支配方程式

解析の基本的な手法は,チャンネル偏析の数値解析で報告した手法とほぼ同じである19,20)。液体は非圧縮性とし,固液共存領域内における流れは,ダルシー則に従うとした。熱溶質対流には,ブシネスク近似を用いている。液相中の溶質の輸送は,固液分配と流動によるものだけを考慮した。液相内および固相内の原子拡散による輸送は,流動による輸送と比較して小さいために無視した。本解析で用いた支配方程式を以下に示す。   

ut+uu=ppνKu+ν2u+ρ+Δρρg(1)
  
u=βfst(2)
  
Tt+(Tu)=qρcΔHcfst(3)
  
CLt+(CLu)=fst(1k)CL1fx(4)

ここで,式(1)は流体の運動方程式,式(2)は連続の式であり,凝固収縮流を考えない場合,右辺はゼロとなるが,凝固収縮流を考慮する場合は,単位時間当りの凝固収縮量となる。式(3)はエネルギーの式,式(4)は液相溶質の移流方程式である。

tは時間[s],uは流速ベクトル[m/s],ρは密度[kg/m3],pは圧力[Pa],νは動粘性係数[m2/s],Kは透過率[m2],Δρは熱溶質濃度変化に伴う密度変化[kg/m3],gは重力ベクトル[m/s2],βは凝固収縮率[−],fsは固相率[−],Tは温度[K],cは比熱[J/(K·kg)],qは熱流束ベクトル[W/m2],∆Hは融解潜熱[J/kg],CLは液相溶質濃度[−],kは固相/液相間の平衡分配係数[−]である。

2・2 解析手法

流動解析は,SOLA法で行った。固/液共存領域の透過率Kに関しては,デンドライト形状や異方性を考慮したモデル21,22,23)も提案されているが,本研究では,アルゴリズムを簡便にするために,一般的に用いられるKozeny-Caramanモデルを用い,次式で表した。   

K=K0(1fs)3fs2(5)

ここで,K0は透過率係数である。本研究では,過去の数値解析14)の入力値などを参考にK0=5・10−11を与えている。Scheniderら24)は透過率と一次デンドライトアーム間隔(λ1)に関するデータについて,異方性を無視した重回帰を行い,K0=6・10−4λ12の関係を得ている。この式を参考とすると,本解析で与えた透過率係数は一次デンドライトアーム間隔が約290 μmを想定することになる。Nuriら25)の実験では,250 μm厚のスラブのλ1は表層付近で300 μm程度で,表層から60 mmのところでは800 μmと大きくなることを報告している。本研究で想定しているλ1は,表層付近に近く,中心部では大きなK0が適している可能性がある。しかし,K0の値に関しては,λ1だけでなく,λ2も考慮するモデルも提案されているなど複雑である21,23)。また,本研究で採用したモデルでは,洗浄効果が大きい低固相率における実験値のばらつきが大きく26),実際の合金の絶対値と一致しているわけではない。K0を大きくすれば,固液界面付近の洗浄効果が大きくなり,偏析が助長されることが期待されるが,本研究は,定量性を比較できるまでの解析レベルとなっていない。今後,解析のレベルが上がり,実際のスラブと比較検討できる状況になれば,K0の最適化が必要になると考えられる。

凝固解析には,温度回復法を用いた。また,凝固途中の各グリッド内では,固相内無拡散,液相内均一組成を仮定した。

2・3 解析条件

計算形状はスラブの連続鋳造を考慮してFig.1のように設定した。連続鋳造機の機長と同じ長さのモデルを使うことが理想ではあるが,本研究のモデルでは,膨大なグリッドが必要となり,計算が不可能であることから,Fig.1(a)に示すように厚さ250 mmで長さ2 mのスラブを形状モデルとしている。スラブの底は冷却されており,また表面は,最初は断熱とし,冷却帯が1 m/min.で動くことで,引抜き速度を表現している。冷却帯は,凝固開始100 s後に移動を始めるようにした。スラブのトップは断熱としているが,凝固収縮分の液相を供給するための供給口を5グリッド分もうけている。凝固収縮にともない,供給口からは初期組成とおなじ組成の液相が供給され,その時の温度は供給口の直下のグリッドと同じとした。また,連続鋳造機は,Fig.1(b)に示すような垂直部4 m,曲げ半径10 mの垂直曲げの連続鋳造機を想定した。経過時間により,各グリッドの重力方向を変化させることで,スラブ内での熱溶質対流への重力方向の影響を考慮している。

Fig. 1.

 (a) Geometry of numerical analysis and (b) geometry of caster.

体膨張係数,純鉄の密度,凝固収縮量は,純鉄の実験結果を参考に決定している27,28,29)。また,溶鉄中における炭素のみかけの密度は,Fe-C系の密度測定の実験結果が,Fe側における炭素濃度依存性がほぼ直線に近い結果を示すことから,溶鉄中炭素の部分モル体積を求め,その値を密度に変換し,溶鉄中における炭素のみかけの密度としている30,31,32)。流動限界固相率は,固/液共存領域内での流速が十分に遅くなり,偏析模様への影響が少なくなる時の値として0.95と設定した。計算に用いたパラメータをTable 1にまとめて示す。

Table 1. Parameters for the numerical analysis.
Parametersunitvalue
Thermal conductivityW/(m K)41.86
Heat capacityJ/(kg K)837
Latent heatJ/kg251163
Initial temperatureK1773
Initial compositionmass%0.55
Heat transfer coeff. (slab/chill)W/(m2 K)0.005
Density of Fekg/m37100
Density of Ckg/m33440
Shrinkage ratio0.03
Thermal expansion coeff8.28·10–4
Permeability coeff.m25·10–11
Grid sizemm10 or 5

計算で用いられる液相線温度TLの組成依存性,液相線組成CLおよび平衡分配係数kの温度依存性は統合型熱力学計算ソフトThermo-CalcのデータベースSSOL33)を使って得られた計算結果を多項式近似した以下の関数を用いた。   

TL=18015980CL59881CL2(6)
  
CL=0.23121+4.1761104T1.6056107T2(7)
  
k=8.658973.8327CL134.2105CL28.9477103T+4.2951102CLT+2.39012106T2(8)

計算には,MacPro(CPU:Xeon 5472 3.0GHz)を用い,OpenMPにより並列化し6スレッドで行った。

3. 解析結果

3・1 計算条件の最適化

本研究で対象としている計算形状は,これまで本研究グループが行ってきた数十センチ程度の計算形状19,20)からすると大きなもので,グリッドサイズや収束条件が同じままだと,計算時間が非常に長くなってしまう。そこで,グリッドサイズや収束条件による偏析パターン,凝固パターンおよび計算時間などの変化を調査し,精度が少しおちるが,妥当な時間で,妥当な結果が得られる条件の探索を行った。グリッドサイズ,収束誤差を変えたときの1200 sおける炭素濃度偏析比と凝固率の変化をFig.2Fig.3にそれぞれ示した。Fig.3より凝固パターンは,これらの計算条件にほとんど影響をうけないことがわかる。一方,偏析パターンは大きく変化している。詳細に偏析パターンをみるためにFig.2の長さ方向が上部から1~1.25 mの部分を拡大してFig.4に示した。Fig.4(a),(b)は,グリッドサイズを10 mmとして,計算の収束誤差を10−4と10−5としたときの偏析パターンを示している。収束条件が10−4の時には偏析パターンが市松模様のようになっており,溶質の流動による輸送が十分に計算できていないことを示している。一方,Fig.4(b)では,収束条件による不自然な偏析模様は解消されている。Fig.4(c)Fig.4(b)と同じ収束条件でグリッドサイズを5 mmとした時の結果である。Fig.4(b)では帯状にみられていた偏析模様が,筋状でV字のようになっている。本研究グループの経験では,グリッドサイズをより小さくすると,この筋状模様は細かく,鮮明になる傾向がある。この計算条件において,時刻1160 sになるまでに必要な計算時間を比較した結果をTable 2に示す。この時刻で,全体の平均固相率は0.75程度である。収束条件を1オーダー小さくすると,計算時間は約2倍となり,グリッドサイズを半分にすると計算時間は約12倍となる。グリッドサイズが5 mm で計算時間が1491時間となっており,これ以上グリッドサイズを小さくすることは現状の計算資源では困難であることから,これ以降の計算ではグリッドサイズ 5 mm,収束誤差10−5で行うこととした。

Fig. 2.

 Effects of grid size and convergence error on carbon segregation map at 1200 sec.

Fig. 3.

 Effects of grid size and convergence error on solid fraction map at 1200 sec.

Fig. 4.

 Enlarged view of carbon segregation map of Fig.2 at around 1-1.25 m from the top.

Table 2. Effect of simulation condition on the calculation time.
mesh size [mm]convergence errortime [hours]
1010–465.4
1010–5126.6
510–51491.6

3・2 偏析の形成過程

Fig.5は,グリッドサイズ5 mm,収束誤差10−5で解析したときの炭素濃度偏析パターンと凝固パターンを示す。Fig.5(a)の偏析パターンから,200 sでは表面に,わずかに負偏析が現れ,その内側に,偏析模様があらわれている。その模様が時間の経過とともにV字のようになっていく。また,中心部,底部のところは時間が経過するとともに正偏析となってくる。上部の偏析模様は,断熱壁と供給口があることで生じる偏析模様で,境界条件の更なる工夫が必要なことを示している。Fig.5(b)に示された固相率とFig.5(a)の偏析パターンを比較すると,200 sにおける固液共存領域において偏析模様が形成されており,固液共存領域内での流れが偏析形成に大きく影響することを示唆している。また,1200 sでは,中心部も凝固を開始しているが,その固相率は0.15程度であり,その時にはV字の模様はだいたいできており,このV字の形成には,凝固が進行する先端近傍における固液共存領域の流れが影響していることを示唆している。

Fig. 5.

 Simulation results considered shrinkage-induced flow and thermo-solutal flow. (a) Carbon segregation map and (b) solid fraction map at t=200, 800 and 1200 sec.

Fig.6は,流れの時間変化を偏析パターンの上に示したものである。矢印の大きさは全て同じで,流れの速さは示していない。凝固開始直後は,底のほうから流れが発達し,200 sのところでは渦巻き状の流れが発達している。その後,凝固殻が厚くなるにつれて,この渦巻き状の流れは小さくなり,全体が固/液共存状態になっている1200 sでは,上部から下部へ向けた流れのみとなっている。

Fig. 6.

 Flow patterns and carbon segregation map at (a) t=40, (b) t=200, (c) t=800 and (d) t=1200 sec.

3・3 凝固収縮流,熱溶質対流の影響

3・2節で得られた結果への凝固収縮流と熱溶質対流,それぞれの影響を明瞭にするために,3・2節と同じグリッドサイズと収束誤差で,凝固収縮流のみ考慮した解析と熱溶質対流のみを考慮した解析を行った。Fig.7は,凝固収縮流のみを考慮した場合の偏析パターンと凝固パターンを示している。Fig.7(b)の凝固パターンについては,Fig.5(b)の結果とほぼ同じである。一方,Fig.7(a)に示した偏析パターンは,表面が白く正偏析となっており,内側が負偏析となる。スラブの凝固収縮流のみを考慮した解析は,Miyazawaら9),Kajitaniら11),Mayerら12)も行っており,同様の傾向を示している。Fig.8は,熱溶質対流のみを考慮した場合の偏析パターンと凝固パターンを示している。この場合の凝固パターンもFig.5(b)とほぼ同じである。また,Fig.8(a)に示した偏析模様はFig.5(a)に示したものとほぼ同様で,V字状の偏析には熱溶質対流が関連していることを示唆している。

Fig. 7.

 Simulation results considered shrinkage-induced flow. (a) Carbon segregation map and (b) solid fraction map at t=200 and 1200 sec.

Fig. 8.

 Simulation results considered thermo-solutal flow. (a) Carbon segregation map and (b) solid fraction map at t=200 and 1200 sec.

Fig.9は,流れのパターンを偏析パターン上に示したものである。Fig.9(a)は,凝固収縮流のみの流れを示しており,凝固初期は,表面において内側から外側に流れる。これは典型的な凝固収縮流の流れで,Miyazawaら7)の結果と同様であり,この流れにより表面が正偏析になることが示唆されている。また,中心部まで固液共存領域となった1200 sでは,中心部だけに上部から下部へ向かう流れが生じており,この部分はFig.6(d)と同様である。Fig.9(b)は熱溶質対流のみを考慮した場合の流れで,200 sの時にはFig.6(b)と同様の渦状の流れが生じる。一方,中心部まで固液共存領域となった1200 sでは,流れはほとんど生じていない。以上より,Fig.6の結果は,凝固の初期は熱溶質対流が支配的で,中心部まで凝固が始まると,凝固収縮流が支配的になることを示している。Fig.9(c)は,熱膨張の効果をなくし,溶質対流の影響のみを考慮した結果を示している。この条件は,計算が時間の都合上,最後まで進まなかったため,200 sの時点の結果のみ示す。偏析模様も発達せず,流れは固液界面前方で浮上方向の流れがあるのみである。この結果は,渦巻き状の流れには,熱と溶質,両方の効果が重要であることを示している。

Fig. 9.

 Flow patterns and carbon segregation map considered (a) shrinkage-induced flow, (b) thermo-solutal flow, and (c) solutal flow at t=200 and 1200 sec.

4. 考察

Fig.10は,Fig.6(b)の上部から1 m~1.25 m位置での片側半分の流れを矢印とともに拡大して示している。偏析のコントラストがないバルク液相内では,矢印の長さも長く,渦巻き状の流れが速いことを示している。ここでの流速は大体数センチ毎秒程度である。一方,偏析コントラストが現れる固/液共存領域では,流れはあまり入り込んでおらず,凝固界面先端のみである。また,炭素が濃化した白い部分から,バルク液相に溶質が流れ出しているように見える。従って,この偏析パターンは流れによる凝固界面先端の洗浄効果により形成していると考えられる。バルクの液相から流れ込んできた部分は負偏析になり,その隣では負偏析部から濃化した溶質が流れこむため正偏析となり凝固が遅れ,そこから濃化した液相がバルク液相に流れこんでいると考えられる。本研究グループが,チャンネル偏析の形成メカニズムで提案した溶質の供与/授与対と似たメカニズムである19,20)

Fig. 10.

 Enlarged view of flow pattern and carbon segregation map of Fig.6 (b) at around 1-1.25 m from the top at 200 sec.

Fig.11(a)は,600 sにおける上部から1~1.25 mの位置での固液界面近傍を拡大したときの偏析パターンと,Fig.11(a)中の線a-b間の組成偏析比とそれに対応する固相率を示したものである。Fig.11(a)の白い領域,黒い領域に対応するように,Fig.11(b)の偏析比はわずかではあるが上下している,その組成に対応して,固相率も変化している。このような変化が鋳片の凝固界面の先端で観察される凹凸5,6)の原因になると考えられる。一方,偏析パターンには,市松模様のようなものがみえており,固/液共存領域内での凝固収縮流に伴う溶質移動を再現するには,計算精度が不十分であることを示している。凝固収縮流による溶質移動の計算精度が上がれば,上記の凹凸がブリッジングを形成後,凝固収縮流によりV偏析を形成していく過程が計算されると予想される。

Fig. 11.

 (a) Enlarged view of flow pattern and carbon segregation map in front of mushy zone at 600 sec. (b) Carbon segregation and (c) solid fraction profile along a-b line in (a).

Fig.12(a)は,1600 sにおける上部から60 cmの位置における,厚さ方向の炭素濃度偏析分布を示している。また,Fig.12(b)は,実験でみられるような典型的な中心偏析の溶質分布の模式図を示している2)。本解析では,外側が負偏析で中心に向かってなだらかに正偏析となっていく。この傾向はReza Aboutalebiら12)の結果と同様である。一方,通常のスラブでは,Fig.12(b)で示すように中心付近にもっと鋭く中心偏析がみられる。この違いの原因は,本解析のグリッドサイズと,透過率が関係していると考えられる。Fig.13に,その説明を模式的に示している。本解析では,グリッドサイズが5 mmと大きいため,グリッド内に固相ができた場合,そこで固液界面の洗浄効果が生じ,溶質がバルク液相に運ばれ,中心部にあつまるようになる。一方,もっとグリッドサイズを小さくできれば,Fig.13(b)に示すように,固相のある部分と液相だけの部分がもっと明瞭に区別され,しかも,固相のある部分の固相率も高くなることから,透過率による圧力損失も大きくなり,溶質が運ばれにくくなる。グリッドサイズが小さいほうが,より精度よく洗浄効果による偏析も再現できると考えられる。

Fig. 12.

 (a) Carbon segregation profile across a thickness at 0.6 m from the top at 1600 sec. (b) schematic illustration of center line segregation.

Fig. 13.

 Schematic illustration of grid size on the washing effect in mushy zone. (a) Large grid and (b) small grid.

以上のように,本解析の精度など改善の余地が多くあるが,熱溶質対流を考慮することで,V字状の偏析が生じ,それに伴い凝固界面で凹凸が生じる可能性が示された。今後,計算を高速化し,グリッドサイズ,収束誤差を小さくできれば,連続鋳造における中心偏析予測がより定量的なると期待できる。

5. 結論

熱溶質対流と凝固収縮流を考慮したスラブの流動と凝固を連成した数値解析を行い以下の結果が得られた。

(1)数値解析に関する収束条件やグリッドサイズを適正化することで,V字型のマクロ偏析が現れた。

(2)凝固収縮流のみを考慮した場合,V字偏析はみられず表面に正偏析が現れ,熱溶質対流をのみを考慮した場合,V字偏析が現れることから,V字型の偏析は熱溶質対流による固液界面の洗浄効果で現れると考えられる。

(3)固相率が増加すると凝固収縮流が主な流れとなるが,偏析模様がグリッド単位の市松模様となっており,十分な解析精度が得られていなかった。また,グリッドサイズが大きいために,固液界面における洗浄効果が大きく見積もられ,中心偏析などが,実際のバルクと異なる挙動を示した。グリッドサイズや収束条件をより最適にすることで,スラブ内におけるV偏析や中心偏析を再現できると考えられる。

謝辞

本研究を遂行するにあたり,計算にご協力いただいた東北大学工学研究科安斎研究室の高山航平君に感謝申し上げます。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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