Tetsu-to-Hagane
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In-Situ Observation of Flow of Residual Liquid Deducing from the Movement of Bubbles Generated at the End of Solidification
Eiichi AritakaHisao EsakaKei Shinozuka
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2017 Volume 103 Issue 12 Pages 688-694

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Synopsis:

In-situ observation of flow of residual liquid has been deduced from the movement of bubbles generated at the end of solidification. Succinonitrile-water alloy system was used for experiment. At the final stage of solidification, some bubbles formed at the interdendritic region, because of the limit of solubility of air in the liquid phase. These bubbles grew and traveled as the solidification proceeded, keeping the position where the fraction solid was approximately constant. The loci of some bubbles were characterized, changing the solidified structure from columnar to equiaxed. In case of columnar dendrites, the bubbles moved along and normal to the primary trunks. On the other hand, in case of fine equiaxed grains, the loci of bubbles were very smooth. In case of coarse equiaxed grains, the loci of bubbles were very complex. Since the bubbles could not penetrate the equiaxed grains, they went around the equiaxed grains along the boundary. Therefore, the path was circuitous and complex. These observations suggested that the complex shape of solidified structure may increase the resistance of liquid flow at the final stage of solidification.

1. 緒言

マクロ偏析は鋳造時の凝固末期の樹間のミクロ偏析が何らかの作用で流動することによって生じると考えられている1,2,3)。この流動の要因として連鋳鋳片の変形やバルジングなどの機械的な外力も重要であるが4),液相−固相の変態に伴う凝固収縮も大変重要である5,6,7,8,9,10)。具体的には,凝固末期において,凝固の遅れた部分が凝固の進んだ部分の残液相を吸い込んで,凝固遅れ部にマクロ偏析が発生する。凝固末期の流動を抑えればマクロ偏析を低減できることから,収縮量に見合う分だけ機械的に圧下を行う軽圧下法11,12),熱収縮を利用する鋳片強冷法13)等が開発され実用化されているが,マクロ偏析の発生しない鋳片が常に得られているわけではないようである。さらに最近では高級鋼指向に伴い,従来は問題とならなかったレベルの偏析までもが製品欠陥につながることが明らかになってきており14),対策の抜本的見直しが求められているのが現状である。

このように鋳片のマクロ偏析は凝固末期の液相流動が原因であることから,低減策を考察するにあたって,凝固末期の流動を本質的に理解することは重要である。固相間を流動する液相の流通抵抗に対応する透過率(=permeability)が流動の難易度を表す指標となることから,古くから半理論的,あるいは実験的に評価されてきた15,16,17,18,19,20,21,22)。実験的に決定するのは凝固の進行に伴う固相率変化を加味するのが容易でないこと,実際に流す液体の選定基準があいまいであることなどから,フェーズフィールド法などの凝固シミュレーションと流動計算を組み合わせて数値的に求める方法も提案されている21,22)。これによると凝固の進行に伴う時間発展や3次元的な評価も可能と考えられる。

しかし,マクロ偏析の発生原因が上述のように明らかになっているにもかかわらず,その濃化液相の流動の様子を観察・評価した,という報告例は著者らの知る限り見当たらない。それは,液相の中にわずかに固相粒子があるような場合ならば,固相粒子をトレーサーとして追跡することにより流れを可視化し,評価することができる23)。しかし,固相の割合が高い場合に固相の間隙に存在する液相の流れを計測することは極めて難易度が高い。その最大の理由は固相が入り組み,あるいは3次元的に重なるために,液相の流路が明瞭に観察できないことが挙げられる。さらに,トレーサーを用いるにしても,その観察は周囲の固相に妨げられるため容易ではないと言える。以上のことから,どのような実験技術を用いるにしても,凝固末期の流動を直接観察することは困難であると考えられる。

凝固末期の固相間の流動を直接観察することができれば,マクロ偏析低減策を探索する重要な手掛かりとなる。本研究においては,結晶粒のサイズと形態が変化すると,濃化液相の流通経路はどのように変わるのかを明らかにすることを目的とし,実験的に検討した。しかし,一般的には上述の通り,凝固末期流動の可視化は困難とされる。そこで,本研究では透明有機物であるサクシノニトリル−H2O系合金を大気中で溶融−凝固を繰り返すと,凝固中に気泡が発生する現象があることに注目した。凝固途中で発生する気泡の挙動を利用することにより,凝固末期に固相間を流動する液相の挙動を推定できると考え,系統的な実験を行った。具体的には固相の等軸晶化とそのサイズを変えることによって気泡挙動に差が生じるかどうかを検討した。

2. 実験方法

2・1 可視化に用いた合金系

本研究では可視化実験をするために,サクシノニトリル−1 wt.%H2O合金を用いた。この有機物系合金は金属と同様の凝固形態をとり,液相線温度は約57°C24),凝固時の体積収縮率は約6%である25)。また本有機物系合金は立方晶として凝固し,その優先成長方向は[100]である26,27)。本合金を大気中で溶解−凝固を繰り返すと,液相状態で空気を飽和量まで溶け込ませることができる。これを凝固させ,ある温度における溶解度を下回ると気泡が発生する。その様子を模式的にFig.1に示す。図のような柱状デンドライトが生成する条件の場合,ある温度,すなわち,ある固相率に達すると気泡が発生する(Fig.1a))。そして一旦発生した気泡はFig.1b)に示したようにつながって成長することもあるし,切れて移動することもある。いずれの場合も気泡の先端位置は凝固の進行に伴ってほぼ一定固相率と思われる位置を保つ。この気泡の経路は上方に負圧の領域が生成したと考えると,樹間液相が吸い出される際の経路と考えることができる。一方,逆に見れば,下部の凝固の進行による収縮によって樹間液相が柱状晶の根元に引き込まれる現象とみることができる。本研究では温度場を与えるステージを工夫することによって,前者の様な状況を再現し,気泡の先端の軌跡を追うことによって凝固末期の樹間液相の流動の様子を推定できると考えた。

Fig. 1.

 Schematic views of formation and growth of gas bubble at the final stage of solidification in case of columnar dendrite growth condition. a) formation of gas bubble b) growth of gas bubble with the growth of dendrites

2・2 ガラスセル

サクシノニトリル−1 wt.%H2O合金は50 mm×100 mm,ギャップ1.5 mmのガラスセルに封入した。ガラスセルは50 mm×100 mm×0.4 mmtの上下用の平板ガラスと5 mm幅で1.5 mmtの棒状ガラスを適当な長さに切断して組み合わせ,エポキシ系接着剤により自作した。ギャップを1.5 mmとしたのは凝固組織の観察には上下に重なりが生じるために不利であるが,ガラス壁の影響を最小化して凝固末期の流動を可視化しやすくするためである。また,あらかじめガラスセル内に鋼線(直径0.8 mm,長さ5 mm)を導入したのはこれを回転させることによりガラスセル内を撹拌するためである。

2・3 実験装置

Fig.2に模式的に示した実験装置の上に,前述したガラスセルを水平に設置した。温度分布を与えるステージは真鍮製の冷却部とカンタル線製のヒーター部からなる。真鍮製の冷却部には20°Cに制御した冷却水を流した。カンタル線のヒーター部は3系統からなり,凝固の進行をFig.3に模式的に示したように制御した。すなわち,真鍮冷却部でのチル板部(図中のB部)での凝固を比較的早く起こるようにし,続いてA部,C部となるようにした。これは著者ら9,10)が報告した実験室規模でのマクロ偏析再現用鋳型の主要部の冷却パターンを模擬したものである。Fig.3c)に示した通り,図中のB部で故意にブリッジングを生起させることを目的としている。また,Fig.2b)に示した通り,装置の上部には図中のx,y方向に可動範囲を持たせたモーターを設置し,モーターの先には小型の永久磁石を取り付けた。

Fig. 2.

 A schematic drawing of an experimental equipment for in-situ observation of gas bubble movement at the final stage of solidification.

Fig. 3.

 Schematic views of solidification processes in this study with an experimental equipment shown in Fig.2.

2・4 等軸晶径の制御法

上記のモーターを利用して,ガラスセル内の鋼線を回転させることにより機械的に撹拌を与え,凝固組織を等軸晶化させた。なお,モーター回転の時期および印加電圧を変更して,等軸晶サイズを変化させた。そして,Fig.3のb)からd)にかけての凝固末期の時期を中心として,破線で示した観察領域をビデオカメラにより撮影した。機械的撹拌により生成した等軸晶のサイズの測定は,ある面積あたり(=150 mm2)の領域内に凝固初期状態から成長していく結晶粒数をビデオカメラでとらえることによって実施した。

2・5 気泡挙動の解析法

気泡の動きは動画解析ソフト(Move-Tr/2D)を用いてトレースした。気泡は複数観察されたが,左右のチル板近傍を発生源とする任意の5点の気泡を選択し,この気泡の先端の動きを追った。トレース区間は気泡がチル板間からチル板の下部の凝固最終点に向けて進んでいる時間の75秒間とした。これを5秒ごとにプロットし,これらを結ぶことにより気泡の経路を求めた。なお,等軸晶生成のための鋼線は観察領域にとどまったが,気泡の発生やその挙動にはガラスセルのギャップに対して細いために影響を及ぼさなかった。

3. 実験結果

3・1 柱状晶凝固の場合の気泡挙動

チル板上で核生成し,その後中央に向かって柱状デンドライトが成長し,おおむね中心部で左右から成長してきた柱状デンドライトの先端がぶつかり合う様子が観察された。その後,チル板近傍で微細な気泡が多数発生した。この条件で,任意に選択した5つの気泡のトレース結果をFig.4に示す。これは5秒ごとにトレースしたものを4点抜き出したものである。気泡はジグザグに移動しているように観察され,最終的には下部の凝固最終点に向かって図中の下方へ移動した。気泡移動の経路は直線的であり,図中の水平方向と垂直方向に直角に折れ曲がった形状を呈していた。これらから,気泡は柱状デンドライトの1次枝と2次枝の方向に移動したと判断できる。

Fig. 4.

 The loci of gas bubbles at the final stage of solidification when the solidified structure was columnar dendrites. a) t=0 s, b) t=25 s, c) t=50 s and d) t=75 s.

3・2 等軸晶の場合の気泡挙動

3・2・1 等軸晶径の評価

鋼線の回転の時期と回転速度を変更して,得られる等軸晶径を4水準変更した。ここでの等軸晶化は鋼線が柱状デンドライトに直接触れて,もしくは流動により柱状デンドライトの側枝が分断したものと観察できた。これら以外の,例えば溶質濃度分布による分断や組成的過冷あるいは熱的過冷の増加による核生成の促進なども等軸晶化の機構としては考えられるが28,29,30),今回の観察の範囲内では確認することができなかった。

ここでは撹拌の激しい順に,撹拌強度1~4と呼称する。撹拌強度1(最強撹拌)では,等軸晶径(d)は1.0 mm以下であり,2次枝はほとんど発達していないものが多数生成した。なお,この場合は広範囲の観察を優先したために等軸晶径の計測はできなかった。撹拌強度2では,10 mm×15 mmの基準領域内には27個の等軸晶が見られた。円相当経(d)で粒径を算出すると,2.7 mmであった。撹拌強度3および4では,基準領域内の等軸晶数はそれぞれ14個と8個であり,等軸晶の円相当径(d)はそれぞれ3.7 mmと4.9 mmであった。今回用いたガラスセルのギャップは1.5 mmであるので,撹拌強度1の場合は厚さ方向に数個の等軸晶が重なって存在する。一方,撹拌強度が2~4の場合には,粒径がギャップよりも大きいため,等軸晶は平面的に広がり,2次元的な挙動を取ると考えられる。

3・2・2 微細等軸晶の場合の気泡挙動

チル板部の左右から成長してきた柱状デンドライトの成長は多数生成した微細な等軸晶のために止められ,観察領域の大半は微細な等軸晶で埋め尽くされた。その後,さらに凝固が進み,チル板の方から微細な気泡が発生した。この条件下でも,任意の5点を選んだ気泡のトレース結果をFig.5に示す。すべての気泡は中心部に向かって進み,チル板下部の凝固最終点に向かって徐々に下方へ移動した。気泡の経路の形状は曲線状であるように観察された。最終的な軌跡を示したFig.5d)を見てわかるように,すべての気泡は多少のジグザグはあるものの,非常にスムースな軌跡をとったと判断できる。

Fig. 5.

 The loci of gas bubbles at the final stage of solidification when the solidified structure was fine equiaxed grains. a) t=0 s, b) t=25 s, c) t=50 s and d) t=75 s.

3・2・3 気泡挙動の等軸晶サイズ依存性

撹拌強度を変更し,等軸晶のサイズを変化させた時の気泡のトレース結果をFig.6に示す。これらは気泡のスタートからトレース終了時までの経路を色別に表している。等軸晶径は図中に示した通りであり,Fig.6a)~d)の順に小さくなっている。気泡の発生位置はチル板部近傍であり,気泡の最終到達点は図中下方の凝固最終点であるが,これはFig.6の全てに対して当てはまる。気泡の最終到達点は凝固組織形態やサイズには依存せず,固相率分布にのみによって決まることを示している。

Fig. 6.

 Results of roci of gas bubbles as a function of the size of equiaxed grains.

等軸晶サイズが大きくなるほど,気泡の経路は何かを大きく迂回したような形状をしており,ジグザグの程度は大きいといえる。一方,等軸晶が微細であるほど,気泡の経路は自由かつスムースな滑らかな曲線状を呈していると判断できる。

4. 考察

4・1 気泡の軌跡の凝固組織による相違

凝固組織による気泡の移動経路の相違をより明瞭に示すために,横軸に経過時間,縦軸に気泡の進む方向を示したものをFig.7に示す。観察方法,観察領域は同一であるので,Fig.7に矢印で示すような方向(=角度)を定義した。そして,気泡の進む方向をトレース時間に対してプロットした。Fig.7a)に示したものは柱状晶凝固の場合である。ここでは急激に方向が変化したことを示すために,測定点ごとの折れ線グラフとして表示した。この場合には,90°,180°,270°方向に階段的に移動しながら,最終的に180°方向に向かっていることがわかる。進む方向がほぼ90°ごとに段階的に変化することが特徴として挙げられる。Fig.7b),Fig.7c)は等軸晶の場合であるが,気泡の方向変化は比較的緩やかであったため,データ点を滑らかな曲線で結んだ。Fig.7b)に示した微細等軸晶の場合,チル板左右の90°,270°方向を出発点として,大きく変化することなく一様に180°方向へ向かっていることが特徴である。それに対して,Fig.7c)に示すd=4.9 mmの粗大等軸晶の場合は,チル板左右を出発点として90°,180°,270°のような特徴ある方向を示さず,大きく迂回しながら最終的に180°方向へ収束していく挙動が見られた。これらは,いずれも最終的には180°方向へ向かうことは共通しているが,180°への近づき方は全く異なっていた。すなわち,凝固末期に発生し,ほぼ等固相率線に従って成長もしくは移動する気泡の挙動は,結晶粒のサイズと形態によって大きく異なることを示している。

Fig. 7.

 Change of growth direction of gas bubbles in time as functions of solidified structure. a) columnar dendrite, b) fine equiaxed grains and c) coarse equiaxed grains.

以上の内容を模式的に表したものをFig.8に示す。柱状晶凝固の場合(Fig.8a)),デンドライトアームの1次枝の方向と2次枝の方向に気泡の動きが顕著に観察されたが,これはデンドライトアームの1次枝の方向と2次枝の方向に気泡が動きやすいためであり,その結果気泡をトレースしたときの形状が直線状となり,所々で直角に折れ曲がったものと考えられる。図の下方で,気泡にとっては斜めの方向から吸引力が作用したとしても,凝固組織の制約から斜め方向に直接には移動できない。柱状デンドライト組織では,1次枝に平行および垂直な経路が最も液相の通りやすい経路と考えられ,本実験で得られた気泡の経路はこの考え方に合致している。Natsumeら21)は柱状デンドライトが整列した状態で3次元的に透過率を数値計算により推定している。これによると,固相率が低いほど差は顕著であるが,1次枝に平行な方が透過率は大きい結果となっている。今回の実験からは,1次枝に平行,1次枝に垂直のどちらかの方向が選択されやすいかを決定することはできないが,他の方向に比較すれば両者とも透過率は著しく大きく,残液相が移動する経路になることを示している。

Fig. 8.

 Schematic drawing of the movement of gas bubbles as function of solidified structure. a) columnar dendrite, b) fine equiaxed grains and c) coarse equiaxed grains.

微細等軸晶の凝固の場合(Fig.8b)),左右方向から発生した気泡の経路は曲線状となったが,これは等軸晶が非常に微細であったために,凝固組織には依存せず,等温線の移動によって気泡の経路が決定されたものと考えられる。つまり,2次枝の発達が十分でない粒状晶的な等軸晶では,等軸晶中を気泡が通り抜けることは不可能であり,等軸晶を迂回する。その際,等軸晶が微細であるために,等軸晶粒界が多く存在することになり,それらの中から最も通りやすく,最短経路を選択したためにスムースな曲線状となったものと考えられる。

一方,粗大等軸晶の凝固の場合(Fig.8c))には,気泡の動きはそれぞれの等軸晶を迂回するような形をとった。等軸晶でも,粗大な等軸晶では1次枝に相当する主軸とそれに直交する2次枝から構成される。隣接する等軸晶は互いに無関係であるため,主軸や2次枝の方向は異なる。このような等軸晶組織での凝固末期流動では等軸晶内の2次枝間を移動することも可能であるが,等軸晶間の粒界部分を移動することの方が容易であると考えられる。等軸晶は独立に成長し,隣接する等軸晶とは互いに入り組んだようになるために,等軸晶の粒界は非常に複雑な形になる。したがって,凝固末期の流動は等軸晶の粒界を通るため,気泡は大きく迂回するように複雑な経路を移動したと考えられる。

4・2 気泡の凝固末期挙動と濃化液相の凝固末期流動との相似性

本研究では気泡の凝固末期挙動を観察し,これが凝固末期の樹間液相の挙動と対応するものとして解析を進めた。その妥当性を以下に挙げる。

Fig.3に示すような温度分布を与えることによって故意に凝固不均一を作ったところ,最終凝固部の方向へ向かって,気泡が移動した。

②気泡は柱状デンドライトの樹間あるいは等軸晶の粒界を選択しながら移動した。流体は抵抗の小さい部位を選んで移動することは物理的に正しいと考えられる。

③気相は液相と比較して密度,粘度共に低いので,小さな負圧でも動ける。仮に気泡発生がなかった場合,樹間液相が動いたと考えられる。

以上から,透明有機物系を用いた可視化実験で観察された凝固末期の気泡の挙動は樹間液相の挙動によく対応するものと考えられる。ただし上記③で述べたように,流動の程度については気泡の方が液相よりも大きいため,定量的な取り扱いには注意が必要と考えられる。

4・3 凝固組織形態と末期流動

気泡の経路が単純であるか,複雑であるかは流通抵抗の大小とは直接は関係しないと考えられる。しかし,流路が複雑で曲がりくねっていれば,その流路内で何らかの理由により閉塞状態になる可能性もあるため,流路が長いことは流通抵抗が大きくなるための必要条件と考えられる。そのため,整列した柱状デンドライトよりも粗大な等軸晶の方が粒界は入り組んでおり,流路は複雑であったことから,等軸晶組織は凝固末期流動を抑制できる可能性を有していると考えられる。

しかし一方で,非常に微細な等軸晶の場合は,気泡は単純な流路を取った。これは前述のように,気泡は等軸晶の内部を通ることができないために,微視的な屈曲を繰り返すことによって等軸晶粒界を通り,巨視的には滑らかな曲線状の流路を取ったと考えられる。今回の研究は透過率を測定したわけではないために定量的な議論はできないが,屈曲した流路のため圧力損失が大きく,残存する液相の流通抵抗になり得るものと考えられる。

前段での議論で,流路が複雑になれば流通抵抗が大きくなる可能性が増えると述べた。微細な等軸晶でそれを実現するためには形態複雑化が有効と考えられる10)。今回の研究では等軸晶の粒径制御は撹拌の時期と強さを変えることにより可能であったが,形態制御まではできなかった。凝固末期の収縮による負圧の程度を制御した条件下で,等軸晶間の液相挙動の等軸晶形態の影響解明が今後必要である。

5. 結論

凝固末期に発生する気泡の挙動を解析することにより,マクロ偏析につながる凝固末期の樹間液相の流動状況を検討した。その結果,以下のことが明らかとなった。

(1)柱状晶凝固ではデンドライトの1次枝の方向と2次枝の方向に気泡は動きやすい。

(2)等軸晶凝固の場合,等軸晶が微細かつその形態が単純ならば,気泡は非常にスムースに動く。

(3)等軸晶凝固の場合,気泡の経路は等軸晶サイズと形態に依存し,気泡は等軸晶の粒界を通る。

本研究の一部は,科学研究費補助金(25420796)の助成により実施したものである。ここに感謝の意を表する。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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