鉄と鋼
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論文
ミクロ凝固組織形成モデルと連成したマクロ偏析シミュレーションモデルの開発
棗 千修
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2017 年 103 巻 12 号 p. 730-737

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Synopsis:

A numerical model was developed to predict solidification grain structures and macrosegregation based on a three- dimensional cellular automaton finite difference method coupling with flow calculation of natural convection. For validation of the proposed model, simulations of unidirectional solidification cooled on the bottom surface of mold were performed at Al -10wt.%Mg alloy. Columnar grain structures have formed from the bottom to the top in alloy melt. During solidification, Mg-rich plumes rising in the melt were seen due to a subsequent upward flow, which caused by the thermosolutal buoyant force. Once the plume occurred in the melt above the mushy zone, the morphology of columnar grains varied and the grains became coarse. Mg-rich channels forming in the mushy zone were observed. Such region could delay solidification inside liquid-rich channels and results in a freckle defect. Examined the average Mg concentration profiles of the cross section from the bottom to the top, the negative segregation occurred in the middle of solidification and the positive segregation occurred at the end of solidification. From these results, it was confirmed that the proposed model was effective to predict the macrosegregation coupling with the grain structure formation. Moreover, the influence of the anisotropic permeability on macrosegragation formation was investigated in the present simulations. As the results, it was confirmed that the anisotropic permeability should be considered to predict quantitatively macrosegregation.

1. 緒言

鉄鋼材料をはじめとする金属材料の鋳造製品には種々の鋳造欠陥が形成する。中でも凝固収縮に起因する内部空隙(引け巣,ポロシティなど)の形成と溶質分配,拡散および流動に起因する偏析の生成は,鋳塊・鋳片の割れや機械的性質の低下などに直接影響することから可能な限り低減させることが望まれている。完全無欠陥の鋳塊・鋳片を製造することは極めて難しいが,引け巣のように比較的大きな内部空隙に対しては,その形成位置・領域を精度良く予測できる高性能な鋳造シミュレーションが可能であり,多数のソフト1)が市販されている。偏析についてもミクロ偏析予測に関する研究は1970年代頃から盛んに行われ,解析式2,3,4,5)や数学モデルによる数値計算法6,7,8,9)が多数提案されている。近年ではPhase-field(PF)法10,11,12,17)やCellular Automaton(CA)法13,14,15,16,17)を用いた数値シミュレーションにより凝固組織形態を考慮してより精緻にミクロ偏析を予測することも可能となってきた。このように数値シミュレーションを用いた欠陥予測法の発展は著しいが,偏析予測について言えばミクロ偏析に比べマクロ偏析の予測は,まだ発展途上である。マクロ偏析は,ミクロスケールの現象(ミクロ偏析,組織形成など)とマクロスケールの現象(熱移動(凝固伝熱),液相流動など)が複合的に関連したマルチスケールの現象であるため,モデルが複雑化し全ての要素を考慮すると計算量も膨大になる。現状のマクロ偏析シミュレーションモデル(以下,マクロ偏析モデル)18,19,20)では,温度場(凝固熱伝導方程式),濃度場(拡散方程式),流れ場(Navier-Stokesの式,連続の式)をマクロスケールの現象として取り扱い,それらの支配方程式を連成してシミュレーションする。ミクロスケールの現象は,凝固時の固液共存領域にDarcy流れを仮定しNavier-Stokesの式にDarcy項を外力項として加えることで近似的に考慮している。すなわち,Darcy流れをデンドライト間隙内の流れと仮定し,ミクロ組織の情報を透過率としてモデルに与えている。しかしながら,透過率の値により計算される偏析分布が異なるなど,定量的に予測するには課題が残る。ミクロ組織の情報をより厳密に考慮するためには,従来型のマクロ偏析モデルとPF法やCA法のような凝固組織形成モデルを連成したマルチスケールモデルが必要である。凝固組織形成モデルでは,精緻なデンドライト組織形成を取り扱えることが最良であり,PF法がその最有力候補となるが,PF法では要素サイズが小さくマクロ偏析を対象とすると計算量も膨大になるため現実的には適用は難しい。それに対しCA法は,ミクロスケールのデンドライト組織形成を対象としたモデル13,14,15,16,17)とそれよりもスケールの大きい結晶粒組織形成を対象としたモデル17,21,22,23,24)が提案されており,幅広い組織スケールに対処できる。現状では後者の結晶粒組織形成を対象としたCAモデル(以後,このモデルを単にCAモデルとする)が,凝固組織形成モデルとして適していると思われる。CAモデルは,dendrite envelope (DE)として結晶粒組織を取り扱う凝固組織形成モデルであるため,従来型のマクロ偏析モデルと同様にデンドライト間隙の液相流動はDarcy流れとして取り扱うこととなる。しかしながら,凝固組織形成を反映した偏析分布が計算できるため,従来型のマクロ偏析モデルとは異なる結果が得られる。Carozzaniら25)はCAモデルとマクロ偏析モデルの連成計算を行い,従来型のマクロ偏析モデルによる偏析分布と比較し,明らかな偏析分布の違いを示した。これは,凝固組織形成を反映させたモデルの有用性を示している。また,彼らは,Sn-Pb合金によるベンチマーク実験26)との比較も行っており,おおよその傾向はシミュレーションできるものの定量的な予測にまでは至っていないことも報告している。この原因として固相移動,凝固収縮流などの複数の因子がモデルに考慮されていないことや異方性を考慮した透過率が導入されていないことなどを指摘しており,マクロ偏析を定量的に予測するためには更なるモデルの改良が必要であると述べている。

このような現状から本研究では,3次元CAモデルに基づく新たなマクロ偏析モデルを構築し,Al-Mg合金の自然対流下での一方向凝固シミュレーションを行い,マクロ偏析モデルとしての有効性を検証する。また,Carozzaniらの指摘にもあるように,マクロ偏析モデルにおいて重要な役割を果たす透過率についてその値の大小や異方性の考慮がマクロ偏析シミュレーションの結果に与える影響を理解することは重要である。そこで,自然対流下での凝固組織形成およびマクロ偏析生成に与える透過率の影響についてもケーススタディを行い考察する。

2. モデル

本研究のCAモデルでは,凝固組織形成に関する核生成モデルと結晶粒成長モデルはGandinらが提案する3次元CAFE(Cellular Automaton Finite Element)モデル23)と同様のものを用い,溶質濃度モデルを新たに構築した。凝固伝熱解析に関しては,直交格子による有限差分法(Finite Difference method, FD)を用いるため,本モデルは3次元CAFDモデルである。また,本モデルでは液相流動を考慮するために3次元数値流体解析と連成させる。計算時間の低減のためにFig.1に示すようなマクロスケールのFD gridで凝固伝熱および液相流動を計算し,ミクロスケールのCA cellで核生成,結晶粒成長,固相率および溶質濃度を計算する。計算手順は,液相流動,凝固伝熱,核生成・結晶粒成長,溶質濃度・固相率の順である。この計算手順に沿って本モデルに用いる支配方程式と計算方法を以下で説明する。なお,FD gridに対するCA cellの分割数は解析する問題によって設定値を決定することになるため,Fig.1での分割数はマクロスケールとミクロスケールの関係を示す一例である。

Fig. 1.

 Schematic illustration of CA cells and FD grids used in CAFD model to predict dendritic grains as a dendrite envelope.

2・1 液相流動

液相はBoussinesq近似による非圧縮性流体とし,式(1)に示すNavier-Stokesの式と式(2)に示す連続の式を離散化して数値計算する。Navier-Stokesの式には,右辺第3項に固液共存領域の流動(Darcy流れ)と,右辺第4項に自然対流を外力項として導入する。   

ut+uu=pρ+ν2uνK1u{βT(TTreff)+βc(ccreff)}fLg(1)
  
u=0(2)

ここでuは流速ベクトル,tは時間,pは圧力,ρは密度,νは動粘性係数,Kは透過率のテンソル,βTβcはそれぞれ熱および溶質の体膨張係数,Tcはそれぞれ温度および溶質濃度,Treffcreffはそれぞれ参照温度および参照濃度,fLは液相率,gは重力加速度ベクトルである。なお,固液共存領域内の流れにおける解の安定条件を緩和するためにDarcy項のみ陰的に離散化するSOLA法を用いる20)

2・2 凝固伝熱

凝固伝熱における潜熱の取り扱いにはエンタルピー法を用い,式(3)の移流熱伝導方程式を離散化して陽解法により各FD gridのエンタルピーを計算する。得られたエンタルピーを温度−エンタルピー曲線を用いて温度に変換する。   

ρ[ht+(hu)]=λ2T(3)

ここで,hはエンタルピー,λは熱伝導率である。本研究では温度−エンタルピー曲線は熱力学計算ソフトPandatにより計算し,予め温度とエンタルピーの関係をリスト化する。

2・3 核生成・結晶粒成長

凝固伝熱計算で得られたFD gridの温度からCA cellの温度および過冷度ΔTを算出し,式(4)の核密度nT)のガウス分布を用いて核生成させる21)。なお,CA cellの温度はFD gridの温度を線形近似による内挿により計算する。   

n(ΔT)=nmax2πΔTσ0ΔTexp[12(ΔTΔTmΔTσ)2]d(ΔT)(4)

ここでnmaxは最大核密度,ΔTσは標準偏差,ΔTmは核生成過冷度の平均である。鋳型表面およびバルク液相での核生成は異質核生成の条件が異なるため,それぞれの核生成パラメータ(合計6つ)が必要である。核生成イベントにより核が与えられたCA cellでは,過冷度に応じて結晶粒を成長させる。Fig.1に示すようにデンドライト成長する結晶粒はDEの成長として取り扱う。3次元でのDEの成長はDEよりもサイズの小さな正八面体の移動によって行い,その正八面体の中心を通る面への垂線の長さをDEサイズLtとすると,Ltは式(5)により与えられる(decentered octahedron growth algorithm)23)。   

Lt=130tv[ΔT(τ)]dτ(5)

ここで,vT]は過冷度ΔTにおけるデンドライト先端の成長速度であり,デンドライト成長理論27)から式(6)の過冷度ΔT,式(7)のデンドライト先端曲率半径R,式(8)の溶質ペクレ数Pcを用いて計算する。具体的な計算手順は式(6)と式(7)を満たすPcをNewton法などにより数値的に求め,求めたPcから式(7)と式(8)を用いてvT]を計算する。   

ΔT=kΔT0Iv(Pc)1(1k)Iv(Pc)+2ΓR(6)
  
R=Γ2σ*Pc(kΔT01(1k)Iv(Pc))(7)
  
Pc=v[ΔT]R2DL(8)

ここで,Iv(Pc)はIvantsovの関数,kは平衡分配係数,ΔT0は凝固区間,ΓはGibbs-Thomson係数,σ*は定数(=1/4π2),DLは液相の拡散係数である。

2・4 溶質濃度と固相率

Fig.1で示すようにCA cellの状態は核生成,結晶粒成長によって液相セルから固液共存セルそして固相セルへと遷移する。固液共存セルはさらにDEを含むActiveセルと成長が進みDEを含まないInactiveセルに分けられる。本モデルではそれぞれのセルの状態変化に合わせて溶質濃度および固相率の計算を行う。以下にCA cellの溶質濃度および固相率の計算手順を説明する。

まず,単相領域において拡散および移流による各CA cellの溶質移動を計算する。本モデルでは固相セルおよびInactiveセルを固相の単相領域と仮定し,液相セルおよびActiveセルを液相の単相領域と仮定する。固相の単相領域では,式(9)の固相の拡散方程式を液相の単相領域では式(10)の移流拡散方程式を用いて溶質移動を計算する。   

ct=DS2c(9)
  
ct+(cu)=DL2c(10)

ここで,DSは固相の拡散係数である。なお,溶質濃度が与えられるCA cellと流速が与えられるFD gridのサイズが異なるため,移流項(式(10)の左辺第2項)は,対象とするCA cellを含むFD gridとそれに隣接するFD gridの流速から線形近似により内挿して求めた流速を用いて計算する。このように拡散および移流による溶質移動計算で得られたCA cellの溶質濃度と温度から平衡状態図の情報を用いて,Lever ruleによって固相率を計算する。

次に,結晶粒成長での溶質分配に伴う固液共存セルの溶質濃度計算を行う。CA法は結晶粒成長に伴い隣接するCA cellを捕捉していくことで凝固界面の発展を取り扱うため,DEの成長に伴ってActiveセルをInactiveセルへ遷移させ,続いて隣接する液相セルをActiveセルへ遷移させる。本モデルではActiveセルをInactiveセルに遷移させるタイミングで溶質濃度に溶質分配を考慮する。Fig.2は状態遷移時に溶質分配を考慮させる固液共存セルへの溶質濃度計算の概念図である。上記の状態遷移のタイミングではこのInactiveセルは元々Activeセルであったため,その溶質濃度は液相領域としての溶質濃度cLである。固液混合状態での平均濃度をcmixとすると,cmixはミクロ偏析の解析式における初期組成に相当する。本モデルではClyne-Kurzの関係式3)を用いるためcmixは式(11)のようになる。このcmixを溶質分配後の溶質濃度として,遷移したInactiveセルの溶質濃度とする。なお,式(12)はClyne-Kurzの関係式における修正フーリエ数αmである。   

cmix=cL[1(12αmk)fS]1k12αmk(11)
  
αm=α[1exp(1α)]12exp(12α)(12)

Fig. 2.

 Schematic illustration to explain the calculation method of the solute concentration of mushy cells when the state of cell is varied from “Active” to “Inactive”.

ここで,fsは固相率,αはフーリエ数である。cmixを計算した後,Δc=cLcmixに相当する溶質濃度を隣接する液相セルおよびActiveセルに等分配することで,溶質バランスを保存する。

3. 自然対流下の一方向凝固シミュレーション

3・1 計算条件

本モデルの有効性を検証するためAl-10wt.%Mg合金の自然対流下での一方向凝固シミュレーションを行った。Fig.3に計算条件の模式図を示す。初期条件として直方体(内寸:20 mm×20 mm×80 mm)の断熱鋳型に溶湯が充填された状態を設定し,境界条件として側面および上面を断熱,底面をチルによる冷却とした。底面からチルへの熱流束q˙は式(13)よって計算した。   

q˙=h(TTchill)(13)

Fig. 3.

 Unidirectional solidification system used in the simulations.

ここでhは熱伝達係数,Tchillはチルの温度である。Table 1にシミュレーションに用いたAl-Mg合金の物性値および計算パラメータを示す。なお,本モデルでは,浮遊晶のような固相移動は取り扱わないため,凝固組織形成の条件として底面からの柱状晶の成長のみを考慮し,バルク液相中での核生成および自由等軸晶の成長は起こらないものとした。従って,核生成はチル表面のみで考慮した。

Table 1. Materials properties of Al-Mg alloy and calculation parameters used in this simulation.
VariableValueUnit
Thermal conductivityλ120WK–1m–1
Densityρ2.39gcm–3
Equilibrium partition coefficientk0.44
Liquidus slopem–6.06Kwt.%Mg–1
Diffusion coefficient. in solidDS5.0 × 10–13m2s–1
Diffusion coefficient. In liquidDL6.1 × 10–9m2s–1
Kinematic viscosityν5.45 × 10–7m2s–1
Thermal expansion coefficientβT1.0 × 10–5K–1
Solutal expansion coefficientβC3.5 × 10–3wt.%Mg–1
Gibbs-Thomson coefficientγ2.4 × 10–7mK
Fourier numberα0.01
Initial melt temperatureTini640°C
Temperature of chillTchill25°C
Heat transfer coefficienth3000WK–1m–2
Size of CA cellΔxCA250 × 10–6m
Size of FD meshΔxFD1.25 × 10–3m

本研究では,モデルの有効性を検証すると共に,透過率による凝固組織形成およびマクロ偏析生成に与える影響についても検討した。透過率は固液共存領域における液相の流れやすさを表現するものであり,それは形成する凝固組織によって変化する。柱状晶組織ではその成長方向に対して平行および垂直方向の流れで透過率は異なる28,29,30,31,32)。これは透過率の異方性として知られており,本シミュレーションでは柱状晶の成長のみを考慮するため,柱状晶の成長方向に対して平行方向の流れにおける透過率KPと垂直方向の流れに対する透過率KNを表現する関係式(式(14)および式(15))を用いた33)。   

KP=K0,PfL3(1fL)2=0.0194[d21+(d2/d1)]2fL3(1fL)2(14)
  
KN=K0,NfL3(1fL)2=0.0097[d21+(d2/d1)+(d2/d1)2]2fL3(1fL)2(15)

ここで,K0,PK0,Nはデンドライト1次アーム間隔d1と2次アーム間隔d2によって決定されるパラメータであり,ミクロ凝固組織の特徴はこのパラメータに含まれている。本モデルでは透過率をテンソルで表現しており,実際の柱状晶の成長方向に対する透過率の異方性を考慮できるモデルとなっている。しかし,本シミュレーションでは概ねz軸方向に向かって柱状晶が成長すると考えられるため,式(16)のようにxyz軸に平行な方向の流れに対して異方性を持つ透過率とした。   

K=(KN000KN000KP)=(Kx000Ky000Kz)(16)

ここで,KxKyKzはそれぞれxyz軸に平行な方向の流れに対する透過率である。このような透過率の設定においてTable 2で示す3つの透過率の条件でケーススタディを行った。Case-1とCase-2は,透過率の異方性を考慮した条件であり,Case-1の透過率を基準とするとCase-2は透過率が約10倍大きい条件となる。Case-3は透過率の異方性を考慮しない条件であり,Case-2の平行方向の透過率と同じ透過率を等方的に与えた条件となる。これらの3つの条件で透過率の大小と異方性の有無が凝固組織形成およびマクロ偏析生成に与える影響を確認した。なお,Darcy流れを用いる関係上,CA cellサイズは,透過率を決定するデンドライトアーム間隔との関係を考慮して適切に設定する必要があるが,本計算では透過率の大小による流動の影響を明確化することが目的であるため,CA cellサイズとデンドライトアーム間隔の関係は任意に決めた。

Table 2. Cases of simulation.
Cased1 [m]d2 [m]K0,P [m2]K0,N [m2]
1500 × 10–650 × 10–64.0 × 10–111.9 × 10–11
2500 × 10–6200 × 10–64.0 × 10–101.3 × 10–10
34.0 × 10–104.0 ×10–10

3・2 結果と考察

最初に本モデルの有効性の検証を踏まえCase-1とCase-2の比較から透過率の大小による凝固組織形成とマクロ偏析生成への影響について詳しく検討する。Fig.4Fig.5はそれぞれCase-1およびCase-2における凝固中の結晶粒組織とMg濃度分布である。それぞれの図において上段には結晶粒組織の形成過程およびx=2.5 mm位置でのyz断面の流速分布を示し,下段にはMg濃度の変化過程を示している。なお,凝固中の結晶粒組織形成過程およびMg濃度分布を3次元的に確認しやすくするため,結晶粒組織の形成過程は液相単相領域以外を示し,液相内の流速分布もx=2.5 mm位置の2次元断面のみとした。Mg濃度分布についても初期組成よりも高い10.1 wt.%Mg以上のMg濃度領域を示した。

Fig. 4.

 Grain structures (upper) and Mg concentration distribution (lower) during solidification obtained by unidirectional solidification simulation of Case-1. The elapsed time since solidification start is (a1), (b1) t=50 s, (a2), (b2) t=70 s, and (a3), (b3) t=90 s, respectively. In this simulation, anisotropic permeability of K0,P =4.0×10–11 m2 and K0,N=1.9×10–11 m2 was used. (Online version in color.)

Fig. 5.

 Grain structures (upper) and Mg concentration distribution (lower) during solidification obtained by unidirectional solidification simulation of Case-2. The elapsed time since solidification start is (a1), (b1) t=30 s, (a2), (b2) t=50 s, and (a3), (b3) t=70 s, respectively. In this simulation, anisotropic permeability of K0,P=4.0×10–10 m2 and K0,N=1.3×10–10 m2 was used. (Online version in color.)

Case-1では凝固開始から70秒までは定常的に柱状晶が成長しており,凝固界面も全面でほぼ平坦になっている。その後,凝固開始から90秒に至る間に凝固界面が大きく乱れ柱状晶形態にも変化が生じている。このような組織形態の変化は,凝固開始70秒を過ぎた頃から発生したMg濃化液相の浮上流による凝固界面近傍のMg濃度分布の乱れによって生じたものであると考えられる。また,柱状晶形態に変化が見られた部分では結晶粒組織内に若干のMg濃化領域も確認できる。

一方,Case-2では凝固開始から30秒の時点で既に浮上流が発生しており,凝固界面の乱れ,柱状晶形態の変化(粗大化),結晶粒組織内でのMg濃化領域の形成などがCase-1よりも顕著に現れている。Case-2においてより早い段階で浮上流が発生した理由としては,式(17)に示す固液共存領域のRayleigh数Ramushyと透過率の関係から説明できる34)Ramushyは,ある臨界値を越えるとFreckle欠陥が生成することを示した無次元数であるが,Ramushyが大きいほど浮上流が発生しやすいとも言える。Case-2ではCase-1よりも大きな透過率を用いているためCase-2のRamushyはCase-1よりも大きくなり浮上流が発生しやすい条件である。従って,Case-2においてより早い段階で浮上流が発生した本シミュレーションの結果は妥当である。   

Ramushy=g(βTΔTmushy+βCΔCmushy)K¯(h)hνα(17)

ここで,gは重力加速度,ΔTmushy,ΔCmushyはそれぞれ固液共存領域の温度差および溶質濃度差,K(h)は固液共存領域の平均透過率,hは固液共存領域の幅である。

また,RamushyによるFreckle欠陥生成条件について検討する。Ni基超合金ではあるがFreckle欠陥生成の臨界Ramushyは0.125~0.25であると報告34)されており,この条件が1つの目安となる。Case-2でのRamushyは,各変数の概算値(ΔTmushy=20 K,ΔCmushy=2 wt.%Mg,K(h)=4×10−9 m2h=10−2 m)とAl-Mg合金の物性値を用いて計算すると約0.11となる。なお,シミュレーション結果における測定位置によって各変数にばらつきが生じるため,ここでは各変数の概算値を用いた。概算値を用いた計算ではあるが,Case-2でのRamushyはFreckle欠陥の生成条件に近く,Fig.5のMg濃度分布を詳しく見るとMg濃化領域が筋状に形成しているように見える。この筋状のMg濃化領域をFreckle欠陥が生成するときのマクロ偏析であるとするならば,本モデルによってチャンネル状偏析のシミュレーションが可能であり,今後の研究により定量的な予測も期待できる。

続いて横断面の平均Mg濃度分布から計算領域全体でのマクロ偏析について確認した。Fig.6はCase-1およびCase-2での凝固完了時の横断面の平均Mg濃度分布である。Case-1では底部から上部に掛けてMg濃度分布は初期組成の10 wt.%Mg前後でほぼ一定になっている。一方,Case-2では,柱状晶形態に変化が見られた底部から30 mm辺りで負偏析になり,その後70 mmの辺りで大きく正偏析に転じている。これは負偏析となった領域においてチャンネル状のMg濃化領域が形成した一方でMg濃度の低い領域が形成したことを示しており,濃化液相の浮上と柱状晶の成長速度のバランスによりこの領域では負偏析となり,さらに上部では正偏析となる結果が得られたものと考えられる。このように正・負偏析のような計算領域全体に渡って形成するマクロ偏析やCase-1のようにマクロ偏析のほとんど形成しない状態も本モデルによってシミュレーション可能であることがわかる。また,透過率の大小による自然対流の発生状況の変化,それに伴う結晶粒組織形態の変化などもシミュレーション可能であることがわかった。

Fig. 6.

 Average Mg concentration profiles of cross section at the end of solidification obtained by unidirectional solidification simulations for anisotropic permeability.

ここまでの結果で本モデルは,自然対流下での凝固組織形成およびマクロ偏析生成を適切にシミュレーションできることがわかった。そこで次に,透過率の異方性の有無がシミュレーション結果に与える影響について検討する。多くのマクロ偏析シミュレーションでは,適切な透過率が不明なため式(18)のようなKozeny-Carmanの式を透過率として用いている。しかしながら,式(18)は等方的な凝固組織に対する透過率を与えるものであり,指向性凝固でのマクロ偏析生成を想定した場合では,1次デンドライトアーム間隔d1に適切な値を用いても柱状晶の成長方向に対して垂直方向の透過率を過大評価してしまうこととなり,シミュレーション条件としては適切ではない。そこで,自然対流の影響が顕著に現れたCase-2を基準にしてCase-2のK0,NK0,Pと同じにした条件をCase-3として等方的な透過率を用いた場合のシミュレーションを行った。   

K=d12180fL3(1fL)2(18)

Fig.7はCase-3における凝固中の結晶粒組織とMg濃度分布である。Case-3では凝固開始から20秒の時点で浮上流が発生している。凝固開始から70秒での凝固界面位置をCase-1(Fig.4(a2)),Case-2(Fig.5(a3)),Case-3(Fig.7(a3))で比較すると,Case-1,Case-2,Case-3でそれぞれ底部から62.6 mm,71.3 mm,67.8 mmであり,Case-2が最も凝固が進行している。これはCase-2, 3では凝固前面の濃化液相が浮上流により上方に運ばれることで柱状晶の成長速度が一時的に速くなり,その結果,上部では液相濃化が起こりCase-3ではCase-2よりも液相濃化が進んだことでCase-2に比べ凝固が遅れCase-2が最も凝固が進行する結果となったものと考えられる。次にマクロ偏析の生成状況について確認する。Fig.8は,Case-2とCase-3における凝固完了時の横断面の平均Mg濃度分布である。Case-2でも負偏析領域が形成していたがCase-3ではさらにMg濃度の低い負偏析領域とMg濃度の高い正偏析領域が形成していることがわかる。従って,等方的な透過率で柱状晶の成長方向に垂直な方向の透過率を過大評価(あるいは過小評価)すると,マクロ偏析の生成状況が大きく変化し,定量的なマクロ偏析予測が困難になることが示された。また,液相流動の状況は形成するミクロ組織が影響するため,マクロ偏析を定量的に予測するためには,本モデルのようにミクロ凝固組織形成を考慮することが極めて重要であることが確認できた。

Fig. 7.

 Grain structures (upper) and Mg concentration distribution (lower) during solidification obtained by unidirectional solidification simulation of Case-3.The elapsed time since solidification start is (a1), (b1) t=20 s, (a2), (b2) t=50 s, and (a3), (b3) t=70 s, respectively. In this simulation, isotropic permeability of K0,P=K0,N=4.0×10–10 m2 was used. (Online version in color.)

Fig. 8.

 Average Mg concentration profiles of cross section at the end of solidification obtained by unidirectional solidification simulations for isotropic permeability (Case-3). For comparison, that of Case-2 is shown as well.

4. 結言

本研究では,3次元CAFDモデルに基づくミクロ凝固組織形成を考慮した新たなマクロ偏析モデルを構築し,自然対流下でのAl-Mg合金の一方向凝固シミュレーションを行ってマクロ偏析モデルとしての本モデルの有効性を検証した。また,マクロ偏析の定量的な予測において重要となる透過率の凝固組織形成,マクロ偏析生成に与える影響について検討した。ケーススタディとして行った3つの透過率条件でのシミュレーション結果から,本モデルによりチャンネル状偏析のようなマクロ偏析から正・負偏析のような領域全体に渡って形成するマクロ偏析に至るまで種々のマクロ偏析をシミュレーション可能であることがわかった。さらに,透過率の大小による自然対流の発生状況の変化,それに伴う結晶粒組織形態の変化などもシミュレーション可能であることがわかった。これらの結果から,本モデルがマクロ偏析モデルとして有効であることが確認された。加えて,透過率の異方性の有無についても検討し,透過率の異方性を考慮することが定量的なマクロ偏析予測には極めて重要であることも確認した。

謝辞

本研究の一部は日本鉄鋼協会「固液共存体の挙動制御によるマクロ偏析低減」研究会に対する助成および第25回鉄鋼研究振興助成を受けて行われたものである。ここに感謝申し上げます。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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