Tetsu-to-Hagane
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Numerical Simulation of Macrosegregation Formed Due to Solidification Shrinkage and Bridging of Solidification Structures
Yukinobu Natsume
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2017 Volume 103 Issue 12 Pages 738-746

Details
Synopsis:

Direct simulations of macrosegregation were performed using a numerical model to predict solidification grain structures and macrosegregation based on a three-dimensional cellular automaton finite difference method coupling with flow calculation of shrinkage flow and natural convection. In order to investigate the relationship between solidification structures and macrosegregation, the simulations for a special mold used in model experiments of Sato et al. [Tetsu-to-Hagané, 99(2013), 101], which can form macrosegregation in the central region of the small ingot, were carried out. In the simulations, the bridging of columnar grains formed in the center of ingot during solidification, and then the positive segregation was generated in the region below the bridging. On the other hand, the negative segregation was generated in the region above the bridging. The primary factor of this macrosegregation was the shrinkage flow with the formation of bridging, and the degree of positive and negative segregation was enlarged by the presence of natural convection. As the results, it was confirmed that the shrinkage and the bridging of solidification structures played an important role for the formation of macrosegregation.

1. 緒言

金属材料の鋳片・鋳塊で生成する種々のマクロ偏析は,割れや機械的性質を低下させるため,可能な限り低減させることが望まれている。そのためにはマクロ偏析の生成機構を正しく理解することが重要である。マクロ偏析に関する研究は1960年代頃から盛んに行われ,生成要因の本質的な理解はかなり進んできた1)。鋼の連続鋳造で問題となる中心偏析については,凝固収縮流,凝固組織によるブリッジングおよび鋳片凝固殻のバルジングによる流動が主要因であるとされ,その防止対策としてブルーム・ビレットに対する鋳型内電磁攪拌技術やスラブに対するバルジング抑制技術などが開発されてきた2,3)。これらのマクロ偏析生成要因の理解には,多くの実験と実機鋳片・鋳塊の調査が行われてきたが,現象の本質を理解するためには数学モデルや数値シミュレーションも活用されている4)

マクロ偏析の先駆的な解析モデルとしてFlemingsらのモデル5)がある。彼らは固液共存領域のデンドライト間隙流動がマクロ偏析を引き起こす要因として, Scheilの式に凝固収縮とDarcy流れを適用したモデルを提案した。その後,固液共存領域でDarcy流れを仮定した流れ場と温度場,濃度場の各支配方程式を連成したマクロ偏析シミュレーションモデル(マクロ偏析モデル)の基本が確立し,自然対流下で生成するマクロ偏析の再現が可能となった。現在でもマクロ偏析の定量的な予測には至っていないが,大型鋼塊に見られる逆V偏析やフレッケル欠陥などのチャンネル状偏析もシミュレーションできるようになってきた6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)

連続鋳造におけるマクロ偏析については,凝固収縮とバルジングにより生じる流動を考慮したモデルがMiyazawaら16),Kajitaniら17)によって提案されており,その解析結果では凝固収縮のみでは中心部の正偏析は生成せずバルジングによる流動が考慮されることで中心部の正偏析とその周囲の負偏析を再現できることが示された。さらに自然対流を考慮した連続鋳造のマクロ偏析モデルによる解析18)も報告され,その解析結果もまた中心部の正偏析とその周囲の負偏析を再現できるものであった。しかしながら,これまで報告されてきたモデルは,マクロ偏析をマクロスケールの現象として取り扱うものであり,ミクロ組織の影響についてはDarcy流れにおける透過率として考慮するのみであった。したがって,凝固前面でのミクロ組織形態に依存するブリッジングについては詳細な議論はなされていない。近年,柱状晶の対面により形成するブリッジング(以下,柱状晶ブリッジング)が中心偏析に与える影響を調査するための数値シミュレーション19)や小型特殊鋳型の実験20)が行われ,柱状晶ブリッジングと凝固収縮流によってもスポット状の正偏析が生成することが報告された。しかし,この数値シミュレーションに関しては凝固組織形成を直接考慮していないため,ミクロ組織形態としての柱状晶ブリッジングの影響は明確ではない。また,小型特殊鋳型の実験では,ブリッジングの形成状態や凝固収縮流の存在を直接観察することが困難なため実験結果の詳細な考察には,同条件での数値シミュレーションとの比較が重要となる。中心偏析への柱状晶ブリッジングの影響をより正しく理解するためには,近年,急速に発展している凝固組織形成シミュレーションモデルと従来型のマクロ偏析モデルを組み合わせた直接シミュレーションが有効である。凝固組織形成モデルには,Phase-field(PF)モデルとCellular Automaton(CA)モデルがある21)が,PFモデルはデンドライト組織を精緻に再現できるもののマクロ偏析を対象とする場合には計算要素サイズが極めて小さく計算量が膨大になるため,現状では直接シミュレーションに用いることは難しい。一方,CAモデルは結晶粒の組織形成を対象としておりPFモデルに比べ計算要素サイズも大きくマクロ偏析のスケールを対象とすることも可能である。CAモデルと従来型のマクロ偏析モデルの連成はCarozzaniら22)によって提案されており,従来型のマクロ偏析モデルでは得られない凝固組織形成の影響がマクロ偏析分布に反映されることを示した。また,著者は前報23)でCAモデルによる凝固組織形成と自然対流による流動解析を連成した新たなマクロ偏析モデルを構築し,Al-Mg合金の一方向凝固シミュレーションから凝固組織を考慮したマクロ偏析モデルとしての有効性を示した。そこで本研究では前報で提案した3次元CAモデルに基づくマクロ偏析モデルに凝固収縮を考慮し,Satoらの小型特殊鋳型の実験手法20)を模擬した直接シミュレーションを行って,柱状晶ブリッジングと凝固収縮流および自然対流がマクロ偏析に与える影響について検討した。

2. モデル

本研究では,前報23)の数値流体解析と連成した3次元CAFD(Cellular Automaton Finite Difference)モデルに凝固収縮に伴う液相流動と凝固収縮時の体積変化を考慮したモデルを構築した。以下に前報で提案した3次元CAFDモデルの概要と本研究で新たに導入した凝固収縮に関連するモデルについて説明する。なお,本研究で用いるCAFDモデルの詳細については前報23)を参照されたい。

2・1 CAFDモデル

本研究で用いるCAFDモデルは,マクロスケールの粗い計算要素サイズ(FD grid)で計算する温度場とミクロスケールの細かい計算要素サイズ(CA cell)で計算する核生成・結晶粒成長,溶質濃度,固相率とを連成させるミクロ−マクロ連成モデルであり,凝固伝熱および溶質濃度拡散には有限差分法,核生成・結晶粒成長にはCA法を用い,各要素サイズで分割された計算領域に対して数値計算する。

2・2 液相流動

液相はBoussinesq近似に基づく非圧縮性流体とし,式(1)に示す固液共存領域のDarcy流れと自然対流を考慮したNavier-Stokesの式および式(2)に示す凝固収縮を考慮した連続の式を離散化して数値計算する。なお,前報23)では,自然対流による流動までを考慮しており,連続の式は∇・u=0を用いている。   

ut+uu=pρ+ν2uνK1u{βT(TTreff)+βc(ccreff)}fLg(1)
  
u+g(fS)βfSt=0(2)

ここでuは流速ベクトル,tは時間,pは圧力,ρは密度,νは動粘性係数,Kは透過率のテンソル,βTβcはそれぞれ熱および溶質の体膨張係数,Tcはそれぞれ温度および溶質濃度,Treffcreffはそれぞれ参照温度および参照濃度,fLfSはそれぞれ液相率および固相率,gは重力加速度ベクトル,g(fS)は任意の内挿関数(0≦g(fS)≦1),βは凝固収縮率である。

凝固収縮による負圧は,液相流動の発生以外に溶存ガス成分によるミクロポロシティの形成,固相の変形等によって解消される。特に流動限界以上の固相率では,凝固収縮による液相流動が困難なためミクロポロシティの形成か固相の変形が起こる。このような凝固収縮が流動効果以外として現れる場合を考慮すると,固相率によって凝固収縮流発生の有無を表現する必要がある。そこで本研究ではFig.1に示すような凝固遷移層24,25)を考え,凝固収縮による流動効果を固相率に対応させるようにした。凝固遷移層は固液共存領域を液相流動が可能な領域(q層)と不可能な領域(p層)に分け,液相流動が可能な領域(q層)に関しては,さらにデンドライト間隙を流動する領域(q1層)とほぼ完全液相と見なす領域(q2層)に分けることで,液相流動とデンドライト組織の関係を示すものである。凝固収縮の流動効果を固相率に対応させるために,固相率の内挿関数g(fS)(0≦g(fS)≦1)を考え,fS=0の時にg(fS)=1,fS=1の時にg(fS)=0を満たすような関係を与える。ここでp層とq層の境界固相率をfS,pq1層とq2層の境界固相率をfS,qとするとfS,pが流動限界固相率に相当し,これらのことを全て満たすような状態はFig.1に示す①~④の状態になる。①は流動限界固相率まで凝固収縮の流動効果が固相率に依存しない状態,②は流動限界固相率の近くの固相率で急激に凝固収縮の流動効果が減少する状態,③は流動限界固相率に向かって直線的に凝固収縮の流動効果が減少する状態,④はq1層に入ると急激に凝固収縮の流動効果が減少する状態である。これらの状態を全て表現できる関数としては式(3)のようなものが考えられるが,実際にどのような関数あるいはどのような状態が正しいのかは,今後詳細に検討する必要がある。   

g( f S )={ 0 ( f S f S,p ) ( f S,p f S f S,p f S,q ) n ( f S,p < f S f S,q ) 1 ( f S < f S,q ) (3)

ここで,nは任意の定数である。

Fig. 1.

 Schematic illustration to explain the condition of solid fraction in mushy region.

2・3 凝固収縮による体積変化

本研究では凝固収縮による体積変化を溶湯の湯面低下として考慮する。湯面に対応するCA cell(湯面セル)に液相率以外に空隙率fgを設定しfL+fg=1が満足するようにする。なお,湯面セルでは固相が生成しないものとする。1ステップ毎に計算領域全体の固液共存領域での凝固収縮量を算出し,その平均値を湯面セルの空隙率増加Δfgとして考慮し,fg=1となった湯面セルは空隙として取り扱い1セル下の隣接CA cellを新たな湯面セルに遷移させる。このとき新たな湯面セルには結晶(固相)が存在していないこと(fL=1)を確認する。本モデルは体積変化を簡易的に取り扱うモデルであるため,ミクロポロシティ形成や固相変形で解消される凝固収縮分も湯面低下として考慮される。さらに表面張力などの表面効果は考慮していない。

3. マクロ偏析シミュレーション

3・1 計算条件

凝固収縮と柱状晶ブリッジングのマクロ偏析への影響を調査するために,Satoら20)の実験手法を模擬したAl-10wt.%Cu合金のマクロ偏析シミュレーションを行った。なお,本研究はSatoらの実験結果の定量的な比較を目的とするものではなく,意図的にブリッジングを形成させる条件としてSatoらの実験で用いられた鋳型形状・サイズを模擬したものである。Fig.2に計算条件の模式図を示す。初期条件として直方体(内寸:50 mm×30 mm×120 mm)の鋳型内に溶湯(650°C)が充填された状態を設定した。境界条件はxz面を底部からMold-1,Chill,Mold-2の3段の異なる熱伝達係数の鋳型表面とし,上面を大気,底面とyz面をMold-2とした。Chillの高さでブリッジングが形成することを想定し,熱伝達係数はChill, Mold-1,Mold-2の順に小さくなるように設定した。なおTable 1にシミュレーションで用いたAl-Cu合金の物性値と計算パラメータを示す。凝固組織形成に関しては柱状晶ブリッジングの形成を目的とするため,鋳型表面からの柱状晶成長のみを考慮し,バルク液相中での核生成および自由等軸晶の成長は起こらないものとした。従って,核生成は鋳型表面のみで考慮した。固液共存領域の透過率には異方性を考慮し,柱状晶の成長方向に対して平行な流れの場合の透過率KPを式(4),垂直な流れの場合の透過率KNを式(5)によって与え26),シミュレーションでは式(6)のようにxyz軸に平行な方向の流れに対して異方性を持つ透過率とした。   

KP=0.0194[d21+(d2/d1)]2fL3(1fL)2(4)
  
KN=0.0097[d21+(d2/d1)+(d2/d1)2]2fL3(1fL)2(5)
  
K=(KN000KP000KN)=(Kx000Ky000Kz)(6)

ここで,d1d2はそれぞれ1次,2次デンドライトアーム間隔,KxKyKzはそれぞれxyz軸に平行な方向の流れに対する透過率である。

Fig. 2.

 Solidification system used in the simulations. This system is the same as that of the experiment reported by Sato et al.20)

Table 1. Materials properties of Al-Cu alloy and calculation parameters used in this simulation.
VariableValueUnit
Thermal conductivityλ103WK–1m–1
Densityρ2.39gcm–3
Equilibrium partition coefficientk0.17
Liquidus slopem–3.37Kwt.%Cu–1
Diffusion coefficient. in solidDS3.0×10–13m2s–1
Diffusion coefficient. In liquidDL3.0×10–9m2s–1
Kinematic viscosityν5.45×10–7m2s–1
Thermal expansion coefficientβT7.05×10–5K–1
Solutal expansion coefficientβC–1.79×10–2wt.%Cu–1
Solidification shrinkageβ0.066
Gibbs-Thomson coefficientγ2.4×10–7mK
Fourier numberα0.01
Primary dendrite arm spacingd12.5×10–4m
Secondary dendrite arm spacingd25.0×10–5m
Initial melt temperatureTini650°C
Temperature of mold and chillTmold&chill100°C
Heat transfer coefficient of mold-1hmold-1400WK–1m–2
Heat transfer coefficient of mold-2hmold-2200WK–1m–2
Heat transfer coefficient of chillhchill1000WK–1m–2
Size of CA cellΔxCA5.0×10–4m
Size of FD meshΔxFD2.0×10–3m

シミュレーションは凝固収縮と柱状晶ブリッジングがマクロ偏析生成に与える影響を調査することを基本とし,Table 2に示すように自然対流の有無,凝固収縮が液相流動として寄与する条件(Fig.1)の違いを含めた5ケースのケーススタディとして行った。Case-1とCase-3は液相流動として凝固収縮のみを考慮し,凝固収縮の液相流動への寄与を異なる条件(Fig.1の①と③)とした場合であり,Case-2とCase-4は液相流動に凝固収縮流と自然対流を考慮して,凝固収縮の液相流動への寄与を異なる条件(Fig.1の①と③)とした場合である。Case-5は液相流動を考慮しない場合である。なお,凝固収縮の液相流動への寄与の条件は,最も寄与が大きいと考えられるFig.1の①の条件(式(3)のn=0に相当)と固相率との関係が最も単純な直線関係になるFig.1の③の条件(式(3)のn=1に相当)を選択した。また,凝固遷移層内の境界固相率はそれぞれfS,p=0.7,fS,q=0.1を用いた。

Table 2. Cases of simulation.
CaseShrinkage flowNatural convectionShrinkage mode
1YesNo③ in Fig.1
2YesYes③ in Fig.1
3YesNo① in Fig.1
4YesYes① in Fig.1
5NoNo

3・2 結果と考察

3・2・1 凝固組織

最初に鋳型表面の条件をChillとして設定した位置(以下,Chill位置)での柱状晶ブリッジング形成の有無を確認するため,結晶粒組織のシミュレーション結果を示す。Fig.3はCase-1におけるyz断面(x=25 mm)の結晶粒組織の形成過程である。なお,図中の色の違いは異なる結晶方位を持った結晶粒であることを示している。初期温度からの冷却開始後,すぐにChill位置の鋳型表面で核生成し,続いてChill位置より下部の鋳型表面,上部の鋳型表面の順に核生成する。経過時間t=15 sではChill位置より下部で中心部に向かって成長する柱状晶が確認できる(Fig.3(a))。Chill位置での柱状晶成長が他の位置よりも先行し,t=25 sにおいて対面して成長する柱状晶同士が衝突し柱状晶ブリッジングが形成した(Fig.3(b))。t=32 sにおいて柱状晶ブリッジングより下部で液相単相領域がなくなり(Fig.3(d)),t=40 sにおいて上部で外引けを形成して液相単相領域がなくなる(Fig.3(e))。最終的に形成した結晶粒組織は,Chill位置近傍で柱状晶が若干放射状に成長しているものの,全体としては中心部で対面した柱状晶組織となっている。このような結晶粒組織の凝固過程はCase-1~5の全ての条件でCase-1と同様であった。従って,全ての条件で柱状晶ブリッジングの形成が確認できた。全ての条件での凝固完了後のyz断面(x=25 mm)の結晶粒組織をFig.4に示す。柱状晶の成長方向と最上部に形成する外引け形状に若干の違いが見られるが,基本的にはどの条件においても対面する柱状晶組織が形成している。また,各条件での凝固完了時間は,Case-1~5の順に70.2 s,71.0 s,70.4 s,71.7 s,84.4 sであり,流動を考慮しないCase-5で最も凝固時間が長かった。これは,液相流動が凝固組織形成に影響を与えた結果であると言える。なお,Case-5では凝固収縮流の効果は考慮していないが,凝固量を他の条件と合わせるために凝固収縮による体積変化は考慮しているため最上部に外引けが形成している。

Fig. 3.

 Grain structures during solidification obtained by the simulation of Case-1. The elapsed time since solidification start is (a) t=15 s, (b) t=25 s, (c) t=30 s, (d) t=32 s, and (e) t=40 s, respectively. (Online version in color.)

Fig. 4.

 Grain structures at the end of solidification obtained from each simulation. The total solidification time is (a) t=70.2 s (Case-1), (b) t=71.0 s (Case-2), (c) t=70.4 s (Case-3), (d) t=71.7 s (Case-4), and (e) t=84.4 s (Case-5), respectively. (Online version in color.)

3・2・2 凝固時の溶質濃度分布

このように本シミュレーションで用いた鋳型条件によって柱状晶ブリッジングが形成することを確認した。次に柱状晶ブリッジングの形成前後での溶質濃度分布の変化についてのシミュレーション結果を示す。まずは液相流動として凝固収縮流のみを考慮したCase-1の場合である。Case-1における柱状晶ブリッジング形成前後の溶質濃度分布と流速分布をFig.5に示す。柱状晶ブリッジングが形成する前からChill位置で柱状晶が若干先行して成長し,それより下部では柱状晶に囲まれた大きな液相領域が形成している。その下部の液相領域の液相濃度は上部の液相濃度よりも若干高くなっており(Fig.5(a)),これはFig.5(d)の流速ベクトルからわかるように下部の凝固に伴う凝固収縮流が上部の凝固によって排出された溶質を引き込んでいるためである。流速は非常に小さいが上部の凝固前面に沿って降下する流れが確認できる。さらに凝固が進むとChill位置の液相領域が徐々に狭くなり,狭隘部での流速が著しく高くなって,上部の溶質濃度の低い液相が下部に一気に引き込まれている(Fig.5(b),(e))。柱状晶ブリッジングが形成した後も凝固収縮により下方向(−z方向)の液相流動が確認できるがその流速は大幅に小さくなり,上部から引き込まれた溶質濃度の低い液相は徐々に周囲の液相と拡散するように混ざり合っていく(Fig.5(c),(f))。

Fig. 5.

 (a), (b), (c) Cu concentration distributions and (d), (e), (f) flow vectors of vertical cross section just before and after the bridging of columnar grains was formed for the simulation of Case-1. (Online version in color.)

次に液相流動として凝固収縮流と自然対流(熱対流,溶質対流)を考慮したCase-2の場合である。Case-2における柱状晶ブリッジング形成前後の溶質濃度分布と流速分布をFig.6に示す。本シミュレーションでは,正の温度勾配となるため熱対流は凝固前面で下降流となり,溶質対流はAl-Cu合金を用いているため排出されたCuによる濃化液相領域で下降流となる。凝固初期には凝固前面近傍で下降流となり中心部で上昇流となる循環流となっていたが,凝固の進行に伴い凝固収縮流と凝固組織形成の影響により複数の渦が生成する複雑な流れになっている(Fig.6(d))。しかしながら,流速が小さいため液相濃度は凝固収縮流のみの時と同じようにChill位置より下部の液相領域で若干高くなっている程度である(Fig.6(a))。Chill位置で液相領域が徐々に狭くなると,これもCase-1と同様に狭隘部での流速が著しくに高くなり,それに伴い上部の溶質濃度の低い液相が下部に引き込まれている(Fig.6(b),(e))。柱状晶ブリッジングが形成した後は,自然対流の影響で上部から引き込まれてきた溶質濃度の低い液相はすぐに攪拌されるように液相全体に広がっていった(Fig.6(c))。このときの流速ベクトルを見ると,上方向(+z方向)に大きな流れが発生していることがわかる(Fig.6(f))。このように凝固収縮流のみを考慮した場合と凝固収縮流および自然対流を考慮した場合では流動分布が大きく異なるが,柱状晶ブリッジングの形成は上部の液相を下部の液相領域に強く引き込む流れを発生させることがわかる。凝固収縮が流動として寄与する条件を変えたCase-3とCase-4場合のシミュレーションによる柱状晶ブリッジング形成前後の溶質濃度分布をFig.7に示す。この2つの条件では,凝固収縮の液相流動に寄与する程度(流動限界固相率まで一定)がCase-1とCase-2に比べて大きいため,柱状晶ブリッジング形成前のChill位置より下部の液相濃度がかなり高くなっている他,Case-3(Fig.7(a))では柱状晶ブリッジングの形成によって下部に液相を引き込む流速が非常に大きく,上部の溶質濃度の低い液相が底部にまで達していることがわかる。さらに,Chill位置よりも上部に形成している固相領域あるいは固液共存領域の溶質濃度がかなり低くなっており,比較的高固相率となってからも固液共存領域から溶質を下部の液相領域へ輸送していったことがわかる。このようにブリッジングの形成が凝固収縮流による溶質輸送に大きく影響することがわかった。

Fig. 6.

 (a), (b), (c) Cu concentration distributions and (d), (e), (f) flow vectors of vertical cross section just before and after the bridging of columnar grains was formed for the simulation of Case-2. (Online version in color.)

Fig. 7.

 Cu concentration distributions of vertical cross section just before and after the bridging of columnar grains was formed for simulations of (a) Case-3 and (b) Case-4.

3・2・3 凝固完了後の溶質濃度分布

Fig.8はCase-1~5における凝固完了後のyz断面(x=25 mm)の溶質濃度分布である。ここではまず液相流動を考慮していないCase-5の溶質濃度分布について説明する。柱状晶が対面する中心部でz方向に連なるスポット状の溶質濃化領域(正偏析)が確認できる。これは溶質分配を伴う凝固組織形成と拡散により生成したミクロ偏析であり,液相流動を考慮しない場合でもこのような中心部にスポット状の正偏析が生成する。すなわち,凝固組織形成を考慮することで凝固界面の凹凸に伴うスポット状のミクロ偏析が生成する。続いて液相流動を考慮したCase-1~4の溶質濃度分布について説明する。液相流動の伴わないCase-5と比較すると,どの条件でもChill位置より下部(z=70 mmより下部)で正偏析の領域,上部で負偏析の領域が確認できる。特に凝固収縮の液相流動への寄与が大きい条件であるCase-3,Case-4はその傾向が顕著に現れている。これらの偏析帯を定量的に評価するためにyz断面(x=25 mm)における中心線(y=15 mm)およびChill位置(z=70 mm)の偏析比と偏析生成位置について説明する。Fig.9はCase-1~5における凝固完了後の中心線の偏析比である。ここでもFig.9(e)のCase-5から見るとCase-5の中心線の偏析比は柱状晶ブリッジングの形成とは無関係なミクロ偏析の生成による正偏析となっている。図中の実線は偏析比と底面からの位置(z)を線形近似した直線(数式は近似直線の式)であるが,ほぼ傾きがゼロであり,底部から上部まで同程度の正偏析になっていることがわかる。一方,液相流動が伴うCase-1~4の場合では,柱状晶ブリッジングが形成したChill位置より若干下部のz=60 mm前後のところで偏析が正と負で入れ替わり,下部に正偏析,上部に負偏析が生成していることがわかる(Fig.9(a)~(d))。Case-1とCase-2(あるいはCase-3とCase-4)を比較すると近似直線の傾きの絶対値はCase-2がCase-1(あるいはCase-4とCase-3)より大きくなっており,これが自然対流の影響であると考えられる。本シミュレーションで用いたAl-Cu合金では,溶質対流はAlとCuの比重差から下降流となるため濃化液相が沈降したことがこのような結果になったものと考えられる。次に柱状晶ブリッジングが形成したChill位置の偏析比について説明する。Fig.10はCase-1~5における凝固完了後のChill位置の偏析比である。流動が伴わないCase-5の場合には中心部(y=15 mm前後)でミクロ偏析による正偏析が確認されるが,中心線の偏析比と同様に柱状晶ブリッジングの形成が影響したと思われる変化はみられない(Fig.10(e))。一方,液相流動が伴うCase-1~4の場合では柱状晶ブリッジングが形成した時に発生した強い下降流が影響したものと考えられる大きな負偏析が中心部に生成している(Fig.10(a)~(d))。これは下降流の流速が大きいCase-3,Case-4で顕著に現れている(Fig.10(c),(d))。ここでCase-1とCase-2の偏析比をより詳しく確認すると,中心部(y=15 mm)で若干正偏析となり,その周囲が負偏析になっている。これは連続鋳造鋳片の中心偏析に見られるような偏析分布であるが,連続鋳造の中心偏析と同じものであるかは詳細な検討が必要である。しかしながら,中心偏析の生成に関与していると考えられる要因は,本シミュレーションでも考慮されており,連続鋳造の中心偏析とは生成機構が全く異なる現象ではないものと思われる。

Fig. 8.

 Cu concentration distributions at the end of solidification obtained from each simulation. (a) Case-1, (b) Case-2, (c) Case-3, (d) Case-4, and (e) Case-5.

Fig. 9.

 Line profiles of Cu segregation ratio on centerline (x=25 mm, y=15 mm) at the end of solidification obtained from each simulation. (a) Case-1, (b) Case-2, (c) Case-3, (d) Case-4, and (e) Case-5.

Fig. 10.

 Line profiles of Cu segregation ratio on chill position (x=25 mm, z=75 mm) at the end of solidification obtained from each simulation. (a) Case-1, (b) Case-2, (c) Case-3, (d) Case-4, and (e) Case-5.

このように柱状晶ブリッジングの形成と凝固収縮によって柱状晶ブリッジングの狭隘部をすり抜ける強い下降流が発生し,柱状晶ブリッジングより下部で正偏析,上部で負偏析が生成される。さらに自然対流などの他の液相流動因子が偏析の位置や程度の変化に影響していることが,本シミュレーションによって示された。

3・2・4 マクロ偏析生成機構

本シミュレーションによって得られたマクロ偏析の生成機構について考察する。Fig.9で示すようにシミュレーションでは柱状晶ブリッジングの下部で正偏析,上部で負偏析が生成した。また,凝固収縮の液相流動への寄与が小さい条件では,中心部に正偏析,その周囲が負偏析となる偏析分布が見られた。

柱状晶ブリッジングが形成するまでの間,Chill位置の上部では凝固に伴い凝固前面に溶質が排出される。その排出された溶質は下部の凝固収縮負圧による流れによって引き込まれ,下部の液相が徐々に濃化する。柱状晶ブリッジングの形成直前に,上部の溶質濃度の低い液相も下部に引き込まれるが,柱状晶ブリッジング形成前に濃化した液相濃度を低下させる程では無く,Chill位置より下部は正偏析となる。一方,上部は柱状晶ブリッジング形成前に排出した溶質が下部に引き込まれたため液相濃度は低下しており,全体の溶質量のバランスから負偏析となる。Fig.5(e)Fig.6(e)でわかるように柱状晶ブリッジング形成前の比較的流路が確保されている時までは強い下降流が発生しているが,柱状晶ブリッジングが形成するとすぐに下降流の流速は著しく低下し(Fig.5(f)Fig.6(f)),流動の伴わない凝固のように柱状晶対面部でミクロ偏析生成のような溶質濃化が起こっている。柱状晶ブリッジング形成直後のデンドライト間隙の濃化液相は,凝固収縮の液相流動への寄与が大きいCase-3,Case-4では,下部の凝固進行に伴い下部へ引き込まれFig.10(c),(d)で示すように柱状晶の対面位置で負偏析となっており,Case-1,Case-2では固液共存領域内の流動が小さく下部への引き込みがあまり起こらなかったため,Fig.10(a),(b)で示すように柱状晶の対面位置で若干の正偏析として残ったものと考えられる。さらに自然対流による沈降流が下部の正偏析を助長し,全体の偏析の程度は凝固収縮の液相流動への寄与条件によっても大きく変化した。従って,本シミュレーションでは凝固収縮流がマクロ偏析の生成に大きく寄与していたことになるが,柱状晶ブリッジングが形成しなければ,凝固収縮だけでは顕著なマクロ偏析は生成しなかったものと考えられ,ブリッジングがマクロ偏析の生成に大きく影響することを組織形成シミュレーションと連成したミクロスケールの視点から改めて確認できた。

4. 結言

本研究では,3次元CAFD法に基づくマクロ偏析モデルに凝固収縮の影響を考慮して,Satoらの実験手法20)を模擬したマクロ偏析と凝固組織の連成シミュレーションを行い,柱状晶ブリッジングと凝固収縮がマクロ偏析に与える影響について検討した。

シミュレーションでは,熱伝達係数を調節した凝固条件において結晶粒組織スケールでの柱状晶ブリッジングを形成させることができた。この柱状晶ブリッジングの形成は,凝固収縮による液相流動を引き起こし,ブリッジング部の上部で負偏析,下部で正偏析となるマクロ偏析を生成させた。従って,ブリッジングが凝固収縮流起因のマクロ偏析の生成に深く関与していることが改めて確認できた。また,本シミュレーションでは1つのブリッジングを意図的に形成させたため偏析領域のサイズや位置は制限されてしまったが,複数のブリッジングが形成すれば様々なサイズの偏析が生成する可能性ある。本シミュレーションでのマクロ偏析生成機構が実鋳片に見られるスポット状偏析の生成機構を完全に説明できたとは断言できないが,組織形成シミュレーションとの連成がスポット状の偏析を再現可能であることは本シミュレーションによって示すことができた。

今後,複数の計算条件での詳細な検討を行うことでスポット状偏析への理解はさらに進むものと思われる。また,本シミュレーション結果からもSatoらの実験手法もスポット状偏析への理解を深めるためには有効であることが確認でき,このような実験とシミュレーションを組合せることにより,今後マクロ偏析の定量的な予測精度も向上することが期待できる。

謝辞

本研究の一部は日本鉄鋼協会「固液共存体の挙動制御によるマクロ偏析低減」研究会に対する助成および第25回鉄鋼研究振興助成を受けて行われたものである。ここに感謝申し上げます。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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