Tetsu-to-Hagane
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Size Adjustment and Heavy Metal Removal of Fly Ash through Continuous Process
Yusuke SakaiManabu IguchiSatoshi NaitoToshihiko MaruyamaYusuke NakahataMoriyoshi Shitara
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2017 Volume 103 Issue 3 Pages 166-173

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Synopsis:

A continuous process is proposed for adjusting the particle size of fly ash and removing heavy metals from the ash. The reactor of the process is a cylindrical vessel with a semi-spherical bottom. Many spherical balls are placed on the bottom. A fly ash-laden water jet or a fly ash-laden air-water two-phase jet is injected vertically downwards onto the balls to crush the ash until a predetermined ash size is obtained. The fly ash thus size-controlled is lifted up towards the bath surface by rising water. The flow field near the bath surface is strongly agitated by swirl motion of a bubbling jet. The heavy metals contained in the ash are extracted from the ash into the water near the bath surface and then carried out of the reactor together with the processed ash.

1. はじめに

平成23年東北地方太平洋沖地震を端緒に,原子力発電所が一斉に停止したことによって石炭火力発電の需要が高まってきている。環境問題が叫ばれる中,石炭火力発電が存続するためには,環境調和型の二酸化炭素排出量が少ない発電方式が必要なのは勿論のこと,年間1,350万tも排出される燃焼灰のうち,石炭火力発電所からの微粉炭燃焼灰(フライアッシュ:FA,以下FAと称す)は70%を占め,その処理方法の確立が必須となっている1)

現状のFAは,電気集塵機,気流分級によって品質管理され有価取引されているJIS灰,およびJIS規格(JIS A 6201)外の非JIS灰に分けられる。FA有効利用状況の詳細をFig.1に示すが2,3),前者では全体排出量の僅か2.0%に当たる量が乾式分級等による処理物のセメント・コンクリート混和材利用に止まり,一方,後者では,土工材,建材,埋立等に利用されているものの,その約70%がセメント原料として利用されている。この割合はこの10年間ほとんど変わっていない。「その他」の中には埋立も含まれている。欧米では石炭火力発電所から排出されるFAを含む残渣はCCPs(Coal Combustion Products)として定義,処理利用されているのに対して,我が国ではCCW(Coal Combustion Wastes)として扱われており,その利用形態は世界でも極めて特殊とされる1)

Fig. 1.

 Utilization of fly ash (JIS ash and non-JIS ash).

FAの処理ではセメント生産量の減少によるセメント原料としての受け入れ量の限界と共に,有効利用を含め,処分場確保上の喫緊な課題を抱えている中,非JIS灰の有効利用が切に望まれているが,主として以下に示す2つの問題点を内包していることから,思ったほど非JIS灰の有効利用が進んでいない。第一に,FAを構成する粒度の不均一さである。FAは,炭種,燃焼条件等によってその性状・量も異なると共に,多孔質な脆弱性粗粒子(ガラス化溶融物,炭化物)を含んでいる場合が多く,粒度構成・性状が不安定である。そのため,利用範囲も自ずと限定されることから,各種用途に適した粒度構成・性状となるように調整して,広い用途に供されることが重要である1,2,3,4,5,6,7)

第二に,FAは排出物そのままでは土壌環境基準を超える重金属が溶出する可能性があることである。その対象となる重金属は,六価クロム,セレン,ヒ素,フッ素,ホウ素などであるが,その抑制処理の不十分さから,最も期待の大きい建設・土木資材の他,土壌改良材等農業分野への利用が進まず,結果的にセメント原料を主体としたリサイクルに留まっているのが現状である8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19)

そのようなセメント分野への受け入れ,処分場確保等のFA処理を巡る逼迫した状況の中で,(一財)電力中央研究所を始めとして,FA原粉そのままで,土木建設資材等への利用拡大に向け,原粉の集荷・貯蔵,性状調整・供給,施工等を含む利用システムが検討されている。また,上述のFA重金属洗浄関連技術に関する研究開発も行われ,その成果は本研究で湿式FA処理を進めるうえでの重要な示唆を与えた。

以上のようなFA処理に係る緊急,かつ重要なニーズへの対応として,これまでの乾式FA処理・利用の観点を変えて,現在取り組んでいるのが,湿式処理によるゼロエミッション型FA高次リサイクルプロジェクトである。その狙いは,湿式FA原料化前処理,圧搾脱水による固液分離・液分浄化(リサイクル),および脱水物硬化処理・加工プロセスから構成された技術システム開発による低コスト,高付加価値のある非JIS灰の土木分野での利用の拡大,農業・林業等用CCPs化である。更には,海外炭は国・炭田毎の炭種・炭質,混炭等によって,FAの粒度分布,重金属存在状態等が大きく異なることから,その原料化前処理によるFA改質法として旋回噴流による微砕化・洗浄処理はFAの有効利用を進める上で工学的にも意義が高い。

本論文では,上記技術システム構築の前提となる湿式FA原料化前処理プロセスに関して,FA原粉の微砕化・粒径調整と重金属除去を同時に行えるプロセスの提案と要素技術に関する基礎的研究成果について述べる。

2. FA連続処理プロセスの基本構成

粒径の微砕化と重金属除去の連続処理を目的として,鉄鋼プロセスで利用されているガス吹込み操作を参考にFig.2に示すようなプロセスを提案した。容器底部ではアルミナボールに向かってFAを含んだ水噴流,あるいはFAを含んだ水―空気系気液二相噴流を吹付けることによって,アルミナボールの運動を誘起し,粒径の微砕化をはかる。微砕化されたある直径以下のFAは上昇する水,あるいは水と空気気泡によって反応容器の上部へ運ばれ,旋回噴流20,21,22,23,24,25,26,27)による強攪拌を受けて半強制的に重金属の溶出促進が行なわれ,反応容器の外へ運ばれる。なお,FAにはガラス成分の付着した密度が水のそれよりも小さいものも含まれる。これらはほとんど粉砕による微砕化を受けることなく浴表面まで浮上し,大部分は排出されることなく浮遊しながらそこに留まる。もちろんこれらの粒子にも重金属は含まれているので,除去しなければならないが,何もしなければ表面に浮いているのみで除去はおぼつかない。ところが,浴表面近傍での気泡噴流による旋回運動によって浴表面は非常に激しく乱れ,浴表面の軽い粒子も容易に浴内に巻込まれるので,効率的な除去が期待できる。このような軽い粒子は浮灰と呼んでいるが,有価な微小中空体(マイクロバルーン)である。

Fig. 2.

 Schematic of proposed process.

3. 噴流によるFAの微砕化・重金属除去に関する基礎的検討

本プロセスにおける基本的な要素技術は次の3種類に大別できる。

(1)FAの粒度調整

(2)微砕化されたFAの浮上

(3)FAからの重金属除去

FAの粒度調整には,FAを含む液体噴流の吹込みあるいは気液二相噴流の吹込みによる微砕化,洗浄にはガス吹込みによって生じる旋回気泡噴流の強攪拌効果を利用した。粒度調整は反応容器の底部で,重金属の除去は上部で行うが,FAを浮上させるために,FAとともに吹込まれた水の上昇流ならびに吹込まれた気泡が上昇する際に現れるガスリフト効果によって誘起される水の上昇流を利用する。本章ではこれら3種類の要素技術の詳細について述べる。

3・1 噴流による粒度調整効果

FAの破砕による粒度調整を行うには,FA中の粒径の大きな脆弱性粒子を破壊する必要がある。本研究では,所定深さまで液体を満たした容器にジルコニアボールやアルミナボールといった粒状物を入れ,FAを含む噴流をこれらの粒状物に向かって吹付けることによって,粒状物とFAを衝突させれば,FA中の脆弱性粗粒子が破壊されると考えた(Fig.3)。

Fig. 3.

 Schematic of collision of FA with alumina balls.

3・2 FAの浮上

衝突によって微砕化されたFAには流動抵抗が働くので,FAは液体噴流の場合には液体の上向き方向の流れ,気液二相噴流の場合には気体と液体の上向き方向の流れによって浮上する。その際,上昇する液体の空塔速度vspLを調整することによって上昇するFA粒子の粒径を制御することが可能となる。空塔速度vspLは次式によって与えられる。   

v spL = 4 Q L π D 2 (1)

ここで,QLは上昇する水の流量,Dは容器の直径である。

浮上原理は以下の通りである。FAは実際には球状ではないが,簡単のために直径dpの球で近似する。FAは小さく,比較的ゆっくりと動いているため,非定常力は無視することができ,球に働く力の釣り合いは次式で近似できる28)。   

π 6 d p 3 ρ p g = π 6 d p 3 ρ L g + C D π 8 d p 2 ρ L v pr 2 (2)

ここで,左辺はFAの自重,右辺第1項はFAに働く浮力,右辺第2項はFAに働く流動抵抗である。また,ρpはFA粒子の密度,gは重力加速度,ρLは周囲液体の密度,CDは抵抗係数,vprはFAの相対上昇速度である。   

v pr = v L v p (3)

ここで,vLは周囲液体,すなわち水の速度,vpはFAの速度である。

なお,抵抗係数CDvprの関数であって近似的に次式で与えられる27,28)。   

C D = 24 Re ( Re < 1 ) (4)
  
C D = 10 Re 1 / 2 ( Re 1 ~ 300 ) (5)
  
C D = 0.44 ( Re 300 ~ 10 5 ) (6)
  
Re = v pr d p ν L (7)

ここで,Reは粒子レイノルズ数,νLは周囲液体の動粘度である。FAの粒子径は小さいことから,Reが105を超えることはない。

上の関係式から明らかなように,Reはvprの関数であるため,式(2)のCDvprの関数であり,vprを陽に求めることはできない。そこで,まずvprに適当な値を代入してReを求め,これからCDを計算して式(2)に代入し,vprを求める。もし,これらのvprの値が一致していればそこで計算を打ち切り,その値をvprとするが,一致しなければ一致するまで計算を繰り返せばよい。以上のようにして数値的にvprを求めることができる。FAが球状でない場合は,その形状に応じてCDを求めることになる。

なお,相対速度vprをやみくもに与えるわけにはいかない。Repの大小を予想して,式(4)~(6)に対応する次式からvprの初期値を求めればよい。

(1)Re<1   

v pr = g d p 2 18 ν L ρ p ρ L ρ L (8)

(2)Re≈1~300   

v pr = [ 2 g d p 15 ( d p ν L ) 1 / 2 ρ p ρ L ρ L ] 2 / 3 (9)

(3)Re≈300~105   

v pr = [ 3.03 g d p ρ p ρ L ρ L ] 1 / 2 (10)

3・3 旋回噴流による洗浄促進効果

通常,溶出現象は濃度差を駆動力として起こる28)Fig.4は,ある重金属XのFA表面での濃度とその周囲の液体中での濃度勾配を示した模式図である。横軸zは,FA表面からの距離(z=0はFA表面)を示し,縦軸Cは重金属Xの濃度を示す。すなわち,FA表面(z=0)において重金属Xが濃度C0を有し,FA表面から離れる(zが大きくなる)につれて重金属Xの濃度が徐々に低下し,濃度境界層を超えると重金属Xの濃度が一定値C1になることを示している。重金属の液体中への溶出は濃度勾配に支配され,濃度勾配が大きいほど溶出量は大きくなる。濃度勾配はFAの周囲の濃度境界層の厚さに関係するが,濃度境界層が薄いほど濃度勾配が大きくなるので,重金属が溶出しやすくなる。したがって,重金属の溶出を容易にするためには濃度境界層を薄くする必要があるが,そのためには,FAが含まれる液体をできるだけ強く攪拌しなければならない。なお,多孔質なFAは浴表面に浮上するが,前述のように, 旋回噴流による激しい浴表面の運動によって浴内へと取り込まれ,溶出が促進される。

Fig. 4.

 Concentration of heavy metal near the surface of FA.

4. 本プロセスの実現可能性を確認するための基礎実験

第3章で示した基本的要素技術の内,FAの浮上については既存の知見を適用できるので,本章では,主として粒度調整と重金属除去について小型モデル実験装置を用いて行った実験結果について述べる。

4・1 空気噴流による粒度調整と重金属溶出実験

噴流によるFAの粒度調整と重金属の溶出が可能かどうかを調べるために,まず最も簡便な気泡噴流を,水を入れた容器底においたアルミナボールとFAに吹付けてFAの微砕化を行うとともに,重金属の溶出実験を行った。実験装置の概要をFig.5に示す。攪拌に対する効果は気泡噴流が最も小さいので(噴流の密度が小さいことによる),気泡噴流について調べておけば,他の水噴流や水−空気系気液二相噴流の効果はそれよりも大きいということになる。容器にはパイレックスガラス製のナス型フラスコを使用し,その容器に水1 LとFA200 gを入れガス吹込み操作を15分間行った。FA粒子微砕化を促進させるために容器底部に直径2 mm,密度4,000 kg/m3のアルミナボールを128 g堆積させた。微砕化されたFAを5Cのろ紙でろ過し,自然乾燥させた。乾燥したFAをレーザ回折式粒度分布測定装置によって粒度分布を測定した。重金属の溶出量は環境省告示第46号試験に従って求めた。粒径の大きなFAは微砕化され(Fig.6),溶出試験においても,環境基準を超過する項目があるものの,全体的に溶出量が低減したといった比較的良好な結果を得た(Table 1)。

Fig. 5.

 Equipment for particle size adjustment of FA using gas jet and alumina balls.

Fig. 6.

 Particle-size distributions of FA1 from blended foreign coals before and after treatment (Gas jet and alumina balls).

Table 1.  Experimental results of heavy metal extraction for FA1 fly ash.
Heavy metal EQS (mg/L) Before treatment (mg/L) After treatment (mg/L)
Cr6+ 0.05 0.12 0
Se 0.01 0.13 0.02
As 0.01 0.007 0.017
F 0.8 1 0.1
B 1 27 3.6

EQS: Environmental Quality Standards for Soil Pollution

4・2 本論文で提案したプロセスの小型モデルを用いた噴流による粒度調整と重金属溶出実験

上記空気吹込みによって,予想通りの粒度調整効果と重金属溶出促進効果が得られたので,実機を想定した中規模な大きさのモデルを作製し実験を行った。

4・2・1 実験装置および実験条件の詳細

本実験で用いた実験装置の模式図をFig.7に示す。内径D=450 mmのアクリル樹脂製の容器に水道水を浴深HL=1.5 Dまで満たした。FA中の重金属溶出には,溶液のpH,AlやCaといったFAが含有する微量元素,FA粒径などが影響を与えると考えられるが,今回は最も単純な系であるFA−水系とした。今後,pH,粒度などが溶出量に与える影響について検討したい。FAを水に対して20 wt%の割合で浴表面より静かに投入した。すなわち,濃度CFA=16.6 wt%である。浴表面から吹込み口までの距離Hin=0.3 Dまでステンレス製のノズルを浸漬させ,コンプレッサから供給された空気を流量計によって制御し,鉛直上向きにQg=3,000 cm3/sで吹込み, 気泡噴流の旋回現象を発生させた。さらに,浴底部から高さH=0.4 Dの位置に設置されたステンレス製のノズルより鉛直下向きに水をQL=500 cm3/sで吹込んだ。排水口は浴表面から0.3 Dの位置に設置した。水とFAの混合溶液はポンプにより循環している。吹込み時間は15分間とした。粒径微砕化促進を目的として,浴底部には密度ρp=4,000 kg/m3のアルミナボールを堆積させた。その直径dpdp=1 mm,2 mm,4 mmであり,それぞれ27.40 g,219.2 g,1,753 gである。これは各直径のアルミナボールの数量が同じになるように設定した。

Fig. 7.

 Schematic of middle-size experimental apparatus.

また,既往の研究でFAの前処理として水浸漬が有効であることが報告されている。本実験で用いたFAに対して水浸漬が有効かどうか確認するため,水浸漬による前処理実験を行った。FAと水との質量比は1:5であり,FA混合溶液の体積に対して十分大きな容器に入れ,1日,3日,7日浸漬期間を設けた。また,7日間浸漬した混合溶液をそのまま旋回撹拌処理も行った。ただし,このFAは4・1節で用いたものとは異なる発生源から入手したものである。

4・2・2 粒度調整実験結果(FA性状)

今回用いたFA原粉の粒度分布をFig.8に示す。左縦軸は頻度を,右縦軸は累計を示している。メジアン径D50=22.0 μmであった。予備試験で用いたFAほど微砕化に対する効果は大きくなかったものの,メジアン径は20.2 μmと,約8.2%の微砕化に成功した。なお,ボールの種類と吹付ける噴流の流量などを調整することによってさらなる微砕化が可能である。

Fig. 8.

 Particle-size distributions of FA2 from blended foreign coals before and after treatment.

4・2・3 溶出試験結果

旋回噴流撹拌処理前(原粉)の溶出試験結果をTable 2に示す。併せて,環境基準値も示している。全ての元素に対して土壌環境基準を1.8~18倍超過する量の重金属が溶出した。続いて,水浸漬結果について述べる。全ての浸漬期間において,ヒ素を除く4元素に対して溶出量低減が確認された。また,1日,3日,7日と今回設定した浸漬期間においては優位な差が見られなかったため,本実験で用いたFAに対しては1日水に浸漬するだけで一定の溶出量低減効果があると言える。旋回噴流撹拌処理した結果と比較すると,水浸漬の結果と同様の値を示しており,2・2で述べた見解と一致する。一方で,水浸漬で溶出した量と15分の撹拌処理の値がほぼ同程度ということは,処理時間の短縮をはかれたとも言える。しかしながら,水浸漬の溶出量がどの時間で一定になったのかについては検討していないため,更に短い時間での溶出挙動については今後の検討課題である。ただし,本実験結果は今回用いたFAに対しての結果であり,全てのFA種に対して常にこの傾向を示すわけではないことに留意されたい。FA種が異なることによって,溶出挙動は大きく異なる可能性は十分あるため,その場合には反応条件(吹込み条件,溶液pH,温度等)を変化させることによって対応することを考えている。他のFA種を用いて溶出挙動がどのように変化するかは今後の検討課題としたい。

Table 2.  Effects of water bath immersion and swirling jet treatment on heavy metal extraction from FA2 fly ash (unit: mg/L).
Heavy metal EQS Before (a) (b) (c) (d) (e)
Cr6+ 0.05 0.19 0.034 0.037 0.033 0.032 0.038
Se 0.01 0.097 0.051 0.052 0.050 0.055 0.068
As 0.01 0.018 0.068 0.061 0.058 0.047 0.069
F 0.8 0.91 0.50 0.53 0.55 0.56 0.36
B 1 18 5.5 6.4 5.8 6.9 6.0

(a) Water immersion into bath for one day (b) Water immersion into bath for three days (c) Water immersion into bath for seven days (d) Swirling jet treatment after immersion into water for seven days (e) Swirling jet treatment

4・2・4 考察

以上のことから,旋回噴流撹拌処理の効果は以下のように整理できる。

(1)粒子微砕化:FA粒子が細かい場合には,旋回噴流撹拌処理の効果はあまり大きくないものの,粗い粒子がある場合には大きな効果を発揮する。石炭の調達という観点から考えるに,今後安定した高品質な石炭の調達は困難になってくると考えられる。そのため,低品質な石炭による操業は不可避であり,生成したFA粒径も粗くなると予想できる。本処理方法はそのような場合に大きな効果が期待できる。

(2)溶出量:本実験で用いたFAに関して言えば,わずか15分間の旋回噴流撹拌処理を行うことによって,六価クロム,セレン,フッ素,ホウ素に対して溶出量低減効果が確認された。具体的には,六価クロムは80%以上,セレンは30%,フッ素は約60%,ホウ素は約66%の溶出量が減少した。しかしながら,溶出量が減少したものの,セレン,フッ素,ホウ素は未だ土壌環境基準値以上の値を示している。また,ヒ素は溶出量が減少するどころか,増加している。

ヒ素の溶出挙動について,Inoba and Shimogaki9)はFA中のCa化合物の溶解平衡,非晶質Al酸化含有量で規定される分配係数,pHなどが複雑に影響しあっていると報告している。また,Kashiwakuraら29)は希硫酸による酸洗浄を行い,ヒ素の溶出および吸着挙動についてアルカリ条件下では以下の反応が起きていると推定している。   

S H 2 AsO 4 + OH = S O + 2 HAsO 4 2 + H 2 O (11)

ここで,Sは固相を示している。溶液中のpH=10になると固相中のH2AsO4が溶液中にHAsO42−となって溶解すると述べている。本実験結果も旋回噴流処理後のpH=11.5であり,Kashiwakuraらの結果と一致する。Kashiwakuraら29)は,酸洗浄する前のFAの表面にヒ素は主としてCa(AsO4)2の形で存在すると報告している。そして溶媒中に添加した硫酸濃度が高いほど,すなわちpHが低いほど,ヒ素の溶出量は多くなり,下記のような二つのタイプが存在することを示している。

(a)グループ1:表面に付着していたヒ素の溶出量は時間とともに単調に増加し,やがてほとんど溶出する。

(b)グループ2:表面に付着していたヒ素の溶出量は時間とともに多くなるが,やがて最大値を示したのち,減少に転じる。これは,溶出したヒ素が硫酸と反応して生成したH2AsO4あるいはHAsO42−がFA表面に吸着するためである。

酸洗浄したグループ1のFAを水洗浄しても水中に溶出するヒ素の量は少ないが,酸洗浄したグループ2のFAを水洗浄すると,FA表面に吸着しているH2AsO4あるいはHAsO42−が表面から離脱してpHの低くなった水中に溶出する。これが再溶出現象(Returning phenomenon)の機構であると彼らは述べている。

グループ1か2かの分かれ目は,Ca含有量と酸洗浄時の初期pHに依存するようであり,彼らの用いたCa含有量の少ない試料A,B(CaO換算でそれぞれ1.07,1.09 wt%)はグループ1に,多い試料C,D(CaO換算でそれぞれ8.52,6.68 wt%)はグループ2に属している。一方,著者らの用いたFAの組成はCaO換算で0.54 wt%と試料A,Bのほぼ半分,初期pHは彼らの値よりも高く,ほぼ7であるにも関わらず,再溶出現象が現れている。著者らの用いたFAに関しては,ヒ素がどのような形態でFAの表面あるいは内部に存在しているのかを調べていないので,再溶出の機構について述べることはできない。これについては今後の検討課題としたい。

以上より,既往の研究18,29,30,31)を参考に以下の様な対策を考えている。

(a)繰り返し洗浄による溶出促進:水を交換し,繰り返し洗浄することによって溶出量が低減することが報告されている。全ての灰,元素に対して効果があるわけではないが,繰り返し洗浄がFA洗浄に一定の効果があることが分かっている。

(b)pH調整によるヒ素溶出量促進:旋回噴流撹拌処理後の溶液のpH=11.5であった。これはFA中のカルシウムが溶出したことに起因すると考えられる。一方,旋回噴流撹拌処理後,ろ過したFAを溶出試験と同条件で振盪し,再度ろ過を行い,溶液のpHを測定したところpH=9.9であった。以上のことから,pHが高い場合,ヒ素の溶出は抑制されるということである。つまり,溶液のpHが強塩基性でない場合には,溶出量が促進されることを意味している。そのため,溶液を硫酸酸性下で撹拌処理を行えば,本実験で用いたFAに対しても溶出促進が行なわれる可能性は十分にあると考えられる。

5. FAの連続処理プロセスとその課題

5・1 処理フロー

前述までの実験結果をもとに,実際の処理フローをFig.9に示す。最初にFAを水浸漬させる。この前処理は貯留と重金属を含有していた場合に溶出量を一定の範囲内に抑える役目を担っている。続いて,粒度分布を測定し,粒度分布によってその後の処理工程が決定される。

Fig. 9.

 Real flow chart of treatment.

5・1・1 粗粒灰がある場合

環境基準を超過する重金属が溶出する,しないに関わらず,噴流による粉砕処理が必要となる。基準値を超過した場合には,旋回噴流を発生させ重金属の洗浄を粉砕処理と同時に行う。それでも基準値を超過してしまうときは,セメント等を配合し重金属の固定化を図る。この処理でも基準値を超えてしまうときは廃棄物として処理する。基準値以下の場合には,旋回噴流撹拌洗浄を行なわず,噴流による粉砕操作のみを行う。他の条件のときはFig.9に倣って,FAはリサイクル原料となる。ただし,目的とする利用方法によっては,強度が求められる場合も考えられるのでその場合には,セメント等を添加し,高強度なリサイクル原料を製造する。

5・1・2 粗粒灰がない場合

環境基準を超過した場合には,旋回噴流撹拌洗浄を行い,それでも超過するときはセメント等を添加し,固定化を行う。それでも基準値を満たさない場合には,上記と同様に廃棄物として処理する。基準値未満の場合では,そのままフィルタープレスを行い,水分量を調整し,リサイクル原料となる。前述したように,高強度な製品が欲しい場合にはセメント等を配合する。

5・2 粒度調整

粒度調整は原粉の性状に大きく依存する。処理すべきFAが与えられたときに,所定の粒度にするには次のパラメータと粒度との関係をあらかじめ明らかにしておく必要がある。

(1)FAの性状(化学組成,密度,粒度分布,形状など)

(2)反応容器の大きさ

(3)アルミナボールの大きさ

(4)アルミナボールの密度

(5)アルミナボールの量

(6)噴流によるFAの供給量

(7)液体噴流の場合の液流量

(8)気液二相噴流の場合のガス流量と液流量の割合

(9)上記2種類の噴流を発生させるノズルの直径

(10)ノズル出口からアルミナボールまでの距離

(11)反応容器内の液体の物性値

5・3 処理粒子の浮上

粒度調整されたFAの浮上には,ちょうどタンポポの種が風によって運ばれるときのように,各FAに働く流動抵抗を利用している。したがって,下記の点を明確にしておく必要がある。

(1)粒度調整されたFAの形状の把握:第3章で述べた内容は球形粒子に対するものである。実際のFAは非球形であるので,形状を把握して,抵抗係数CDの値を把握しておく必要がある。

(2)ガラス質を含む粒子の浮上挙動の把握:このような粒子の密度は一般に水のそれよりも小さいので,浮上挙動はガラス質を含まない粒子の挙動とは大きく異なる。ガラス質を含む粒子に特徴的な形状を把握するとともに,抵抗係数CDの値を求めることが大事である。

5・4 重金属除去

重金属除去はFA粒子の性状に大きく依存する。処理すべきFAが与えられたときに,所定の重金属溶出特性にするには次のパラメータと重金属溶出特性との関係をあらかじめ明らかにしておく必要がある。

(1)反応容器の大きさ

(2)浴表面から浸漬したガス吹込み用ノズルの直径,出口位置

(3)浴表面から浸漬したガス吹込み用ノズルで吹込まれるガス流量:浴表面で発生した気泡噴流の周期と振幅に関係している。

(4)液体噴流の場合の液流量:反応容器からの液排出量,すなわちFAの処理速度に関係する。

(5)気液二相噴流の場合の液流量:同上

(6)粒度調整されたFAの性状(化学組成,密度,大きさ形など)

(7)反応容器内の液体の物性値

(8)反応容器内の液体の酸性度

(9)ガラス質を含む粒子の浴表面近傍における挙動

(10)排出口の直径と位置

5・5 圧搾脱水,真空ろ過脱水工程

リサイクル原料として使用する際には,脱水が必要であるため,脱水処理を行う。また,上記工程で無害化できなかった場合には,セメント等を添加することによって,重金属を不溶化させることが可能である。

したがって,本フローで重金属洗浄と合せて,粒度構成も改善されるFAは,高い強度と透水性の造粒物化によって環境負荷を抑え,排水機能も有する新たなSCP材・ドレーン材等の原料として,土木建設資材分野への利用が期待される。そのような土木資材を含めた農業土木等の各種利用に関する事柄については別途報告したい。

6. 結論

本論文はFAのリサイクル原料前処理に関して旋回噴流撹拌技術を用いて検討し,その実現可能性について議論したものである。FAを含む噴流によって反応容器底部においたアルミナボールなどの粒状物に運動を与えることによりFAを微粉砕し,反応容器の上部で発生させた旋回噴流撹拌によってFA中の重金属の洗浄を図った。得られた知見は以下の通りである。

(1)粒径微砕化:200 μm以上の粒径の大きなFAに対して,本噴流式吹込み方法は効果が大きいことが分かった。微砕な粒子で構成されているFAに対しても一定の効果が確認された。与えられるFAもしくはリサイクル原料によって吹込み時間もしくはこのプロセスの省略をすることによって狙うべき大きさのFAを作製すれば良い。

(2)重金属除去:本実験で用いたFAの性状の範囲では,ヒ素を除く元素の溶出量が大きく低下し,旋回噴流撹拌処理の効果が確認された。元素によっては土壌環境基準を満たしていない場合もあるが,それに関しては既往の実験結果をもとに後処理(酸洗浄処理,高温洗浄処理,繰り返し洗浄処理など)を行えば,基準値を満たす可能性は十分にあると考えている。

(3)以上より,本プロセスはFA微砕化および洗浄に関して連続処理プロセスとして実現可能性が十分にある。目的に応じたリサイクル原料を作製するためには,吹込み時間,吹込み位置,溶液の水素イオン濃度,温度,洗浄回数等を変化させれば良いと考えている。詳細については随時報告したい。

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