Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Development of Rolling Oil with Cationic Emulsifier for Sheet Gauge Cold Rolling
Satoshi InagakiTatsuaki IshiiQi HuXiao Ping RenMasachika Wakimoto
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 103 Issue 3 Pages 134-141

Details
Synopsis:

Cold sheet gauge rolling in a tandem mill is used to produce many types of steel, including automotive and high-strength steel sheet.

A recirculating oil in water emulsion is used as a lubricant between the roll and material in sheet gauge rolling. With an increase in steel sheet production and the ratio of high-strength steel sheets, the amount of fine iron particles produced by the rolling process also increases. Thus, maintaining the cleanliness of the mill and sheet is difficult when using conventional rolling oil with a non-ionic emulsifier, as dispersion of fine iron particles is not enough efficient.

Therefore, a rolling oil is developed by adding a cationic emulsifier to a conventional rolling oil used for sheet gauge rolling. As a positive charge is produced on the surface of the newly developed oil, it can easily disperse fine iron particles that would otherwise adversely affect the cleanliness of both the mill and sheet.

In this study, the newly developed oil was compared with conventional oil with a non-ionic emulsifier in a laboratory to verify its performance. The following findings were then applied to an actual mill.

The oil developed for sheet gauge production was used in an actual mill to maintain stable emulsion to ensure a high level of productivity without friction pick-up.

Fine iron particles that are inevitably produced owing to the rolling process were effectively removed. The newly developed oil is superior to conventional oil in terms of maintaining the cleanliness of the mill and steel sheet.

1. 緒言

最近のタンデムミルにおけるシートゲージの冷間圧延では,自動車外板材やハイテン材など多種の鋼板が圧延されている1)。冷間圧延の潤滑方式は,良好な潤滑性能と冷却性能をあわせ持つエマルション潤滑が用いられており2),シートゲージ圧延でのエマルション給油方式は,リサーキュレーション型が一般的である。

リサーキュレーション型の冷間圧延油は,基油,油性剤,酸化防止剤,極圧添加剤,防錆添加剤および乳化剤などからなる3)。これらの組成物からなる圧延油を水に分散させたエマルションが各スタンドに毎分数千L噴霧され使用されている。

従来,シートゲージ用冷間圧延油の乳化剤には,エマルションの粒子径を乳化剤の添加量で制御しやすいことからノニオン系乳化剤が使用されていた。しかし,最近生産量の増加とハイテン材の割合が増すにつれ,圧延時に発生する鉄粉量が増加し,これまでの鉄粉分散能力の弱いノニオン系乳化剤を配合した圧延油では,圧延後の鋼板清浄性を維持するのが難しくなってきた。発生する鉄粉が増加するとスカムが発生しやすくなり,ミルハウジングも汚れる。ハウジングに付着したスカムが鋼板に落下すると,鋼板清浄性を更に低下させる。特に,自動車外板材の圧延後の鋼板清浄性は,非常に高いものが要求される4)ので,ハウジングの清浄性を維持する必要があり,できるだけ清掃回数を少なくすることが鋼板の生産性向上にもつながる。

高潤滑性が要求される冷間圧延油には,その基油に合成エステルや油脂が用いられている5)。圧延中にロールバイト間に存在する基油は,高圧延荷重を受け加工熱や摩擦熱の発生する厳しい状態にあるため,圧延油希釈水と反応し加水分解されやすくなる。加水分解して生成した脂肪酸が,圧延により発生した鉄粉と反応してスカムとなり,鋼板清浄性やミルハウジング清浄性を低下させる原因となっている。ノニオン系乳化剤を配合したエマルションの油滴表面は,非常に弱い負電荷であるため,圧延時に発生した活性な鉄粉と容易に結び付きやすい。

そこで,従来のノニオン系乳化剤に新たにカチオン系乳化剤を添加することで,乳化分散したときの油滴表面の総合電荷を正電荷とし,圧延中に発生する鉄粉の分散性を高めてスカムをできにくくすることで,清浄性良好な鋼板やミルハウジングを示すシートゲージ用カチオン系冷間圧延油を開発した。従来のカチオン系分散剤を使った冷間圧延油は,分散剤が完全水溶性であるため,圧延油と分散剤の2液使用としなければならないのに対し,カチオン系乳化剤を用いた開発油は,1液での使用が可能となり取り扱いやすい。

本研究は,リサーキュレーション使用実績のある合成エステルベースの低分子量ノニオン系冷間圧延油(以下ノニオン系圧延油A)と開発したカチオン系冷間圧延油(以下開発油)をラボ試験で各種性能について比較した。次に,開発油を実機に適用し,切り替え前の圧延油である油脂ベースのノニオン系冷間圧延油(以下ノニオン系圧延油B)と比較した結果を報告する。

2. ラボ試験での性能比較

2・1 乳化性試験

水に分散した圧延油の粒子径は,希釈水の温度,電気伝導度や圧延によって生じた鉄粉量,そして作動油などの異種油の混入により変化する6)。圧延油の粒子径が変化すると,鋼板に付着する油膜量が変化してしまい7),ロールバイトに導入される油膜量が変わるため,安定な圧延操業に影響を及ぼす。そのため,リサーキュレーション型の圧延油の粒子径変化は,これらの影響因子に対して変化の少ないことが要求される。まず,ノニオン系圧延油Aと開発油の乳化安定性を比較した。

2・1・1 試験方法および試験条件

乳化安定性は,1 Lビーカーに776 gの水に24 gの圧延油(濃度3.0 wt%)を投入し,ホモミキサー(プライミクス株式会社製,「T.K.HOMOMIXIER MARKII Model 2.5」)で強制撹拌し,コールターカウンター(BECKMANCOULTER社製「Multisizer 3」)にて,平均粒子径とその分布を測定して調べられた。平均粒子径とその分布は,エマルションが流れるコールターカウンター測定部のアパチャーに一定の電流を流し,その電気抵抗を計測することにより測定することができる。ホモミキサーの回転数は,5000 rpmであった。実機で用いる希釈水は,イオン交換水や工業用水など様々で,広範囲の電気伝導度を示すため,電気伝導度が0.2と100 μS/cmの場合で乳化性試験をおこなった。電気伝導度が0.2 μS/cmの場合は,イオン交換水を用い,100 μS/cmの場合は,イオン交換水と大和郡山工業用水(電気伝導度約200 μS/cm)を用いて調整しておこなった。実験時のエマルション温度は50と70°Cで,実験中は,ヒーターで一定温度を維持した。撹拌開始から5,15,30分の平均粒子径とその分布を測定した後,0.4 gの鉄粉(株式会社高純度化学研究所製「酸化鉄(IIIII)1 μm以下」)をビーカーの中に投入し,更に30分撹拌した後,鉄粉が乳化性に及ぼす影響も調査した。比較したノニオン系圧延油Aと開発油の一般性状と一部組成をTable 1にそれぞれ示した。開発油にはノニオン系とカチオン系乳化剤を配合しており,その配合比は,ノニオン系乳化剤:カチオン系乳化剤=1:2である。エマルションの油滴表面の電荷に影響を及ぼすのは乳化剤であり,ノニオン系乳化剤は,ほとんど電荷をもたずカチオン系乳化剤は正電荷をもつため,開発油の油滴表面の総合電荷は,正電荷である。

Table 1.  Composition of rolling oil used in test.
Cationic type Nonionic type
Base Oil Vegetable oil Synthetic Ester
Vegetable oil
EP agent P compound
S compound
P compound
Viscosity
50°C cSt
33 39
Acid Value
mgKOH/g
4 9
Saponification Value
mgKOH/g
180 180

2・1・2 試験結果

ノニオン系圧延油Aと開発油の希釈水の温度が50°Cと70°Cの場合の撹拌時間に対する平均粒子径の変化をそれぞれFig.1Fig.2に示した。

Fig. 1.

 Relationships between mean particle size and stirring time with homogenized mixer at 50°C.

Fig. 2.

 Relationships between mean particle size and stirring time with homogenized mixer at 70°C.

Fig.1から50°Cの場合,ノニオン系圧延油Aの平均粒子径は,5分から30分まで電気伝導度が0.2,100 μS/cmとも変化せず11 μmとほぼ一定であり,鉄粉を加えた後も0.2 μS/cmでは,ほとんど変化せず,100 μS/cmは,少し大きい約13 μmとなった。開発油の平均粒子径は,0.2,100 μS/cmとも5分から30分まで時間とともに増加し10 μmから約14 μmとなり,その後,鉄粉を加えてもほとんど変化しなかった。

次にFig.2から70°Cの場合,ノニオン系圧延油Aの平均粒子径は,0.2,100 μS/cmとも鉄粉を投入してもほとんど変化がなかったが,100 μS/cmの方が約3 μm程度大きかった。開発油の場合は,100 μS/cmではほとんど変化が無かったが,0.2 μS/cmで鉄粉を投入してから3 μm程度大きくなった。

以上の結果より,開発油の平均粒子径は,実機使用の実績のあるノニオン系圧延油Aと大きな差は無く,実機で鉄粉が混入してもリサーキュレーション使用できる程度の平均粒子径変化であることがわかった。

次に,上記試験後,撹拌を停止し室温で一日経過したビーカー底部の写真をFig.3に示した。ノニオン系圧延油Aは,圧延油と鉄粉が合一して浮上しているのに対し,開発油のそれは,鉄粉分散性が良好なため圧延油と合一する鉄粉は少なく,ビーカーの下部に沈降しているのが良くわかる。

Fig. 3.

 Photograph of emulsion with cationic and nonionic emulsifier after emulsification test.

2・2 プレートアウト性試験

冷間圧延でのロールと鋼板間の潤滑性は,ロールと鋼板間に導入される油膜量に影響される。その油膜量は,ロールと鋼板にプレートアウトした油膜量と噴霧されたエマルションが導入部に近づくにつれて濃縮されて生じる油膜量との和と関係がある8)。また,タンデムミルで圧延される鋼板の各スタンドでの圧延前の温度は,各スタンドで圧延されたときの加工熱と摩擦熱が鋼板に加わるため最終スタンドに近づくほど上昇し,100°Cを超えることも報告されている9)。圧延速度が最終スタンドに近づくほど,鋼板速度は増加するため,鋼板に噴霧されるエマルションの噴霧時間は短くなる。そのため後段スタンドでは,短時間噴霧でのプレートアウト油膜量の確保が潤滑にとって重要となる。ノニオン系圧延油Aと開発油の各温度に対するプレートアウト特性を調査した。

2・2・1 試験装置について

Fig.4にプレートアウト性試験機を示した。試験機は,クーラントタンク(8 L),ポンプ,エマルションを噴霧する部分からなり,エマルションは循環使用することができる。エマルション噴霧部には,シャッターが設置されており,Fig.5に示した。シャッター部には窓があり(縦45 mm横115 mm),ピンでとめたシャッターを落下させることにより,一定時間エマルションを鋼板に噴霧することができる。この噴霧時間は,約0.1秒であり,この間に鋼板に衝突するエマルション量は,58~60 ml/m2であった。ノズル先端から窓までの距離は75 mmで,窓から鋼板までの距離も同じで75 mmであった。また,エマルションタンクにはヒーターが設置されており,クーラントの温度を一定に維持することができる。

Fig. 4.

 Test equipment of plate-out.

Fig. 5.

 Schematic view near nozzle in plate-out test.

2・2・2 試験方法および試験条件

エマルションタンクに5 Lのイオン交換水を入れ温度を50°Cにし,150 mlの圧延油を投入する。ポンプにて10分間循環させた後,試験を開始した。試験を開始する前にコールターカウンターにて平均粒子径を測定した。ノニオン系圧延油A,開発油の平均粒子径は,それぞれ6.5,7.3 μmであった。エマルションの温度は,実験中50°Cで一定であった。鋼板をあらかじめ所定の温度となるように恒温槽で加熱しておき,噴霧毎に表面温度計で鋼板の温度を確認してからエマルションを噴霧した。噴霧するエマルションの圧力は0.2 MPaであり,ノズルからの噴霧量は,約2 L/minであった。噴霧した後,エアースプレーにて鋼板に残留したエマルションを取り除き風乾した。プレートアウト油膜量は,試験前後の試験片の重量差と鋼板面積から算出した。

試験に用いる鋼板は,試験前に中性洗剤にて洗浄し,鋼板上の水分を取り除くために,まずメタノールに,次に油分を完全に取り除くためにエチルエーテルに通したものを使用した。鋼板の材質は,SPCC-SDであり,その寸法は,厚み0.8 mm,幅80 mm,長さ100 mmで,鋼板の温度は,50,100,140,170°Cであった。

2・2・3 実験結果

Fig.6に各鋼板温度に対してのプレートアウト油膜量を示した。鋼板の温度が50°Cから100°Cに上昇したとき,ノニオン系圧延油A,開発油ともプレートアウト油膜量は大きく増加したが,100°Cから150°Cでは,ノニオン系圧延油Aのプレートアウト油膜量がほとんど増加しないのに対し,開発油のそれは少し増加し,170°Cではいずれも大きく減少するが,開発油は,200 mg/m2程度付着した。これらの結果からエマルション噴霧量の少ない高温域で,開発油は,ノニオン系圧延油Aより良好な潤滑性を示す可能性があることがわかった。

Fig. 6.

 Relationships between amount of plate-out oil film and specimen temperature.

2・3 耐ミルハウジング汚れ性・鋼板清浄性試験

2・3・1 試験装置について

Fig.7に試験に用いた装置を示した。この装置は,ラボ圧延機,クーラントタンク(10 L)とポンプからなる。ラボ圧延機は,ロール径150 mmの1スタンド2Hiのもので,ロール速度は13 m/min一定で,ロールの表面粗度は中心線平均粗さRaで2.7~3.0 μmであった。エマルションタンクには,ヒーターが設置してあり,一定のエマルション温度に維持することができる。

Fig. 7.

 Schematic view of mill and sheet cleanness test equipment.

2・3・2 試験方法および試験条件

エマルションタンクにイオン交換水5 Lを投入し,加温して50°Cになってから圧延油を100 ml投入した。10分間循環させた後,試験を開始した。試験を開始する前のノニオン系圧延油A,開発油の平均粒子径は,それぞれ9.0,6.4 μmであった。圧延に用いた鋼板の材質は,鋼板表面粗さが粗いSPHC材で,その寸法は厚み2.3 mm幅50 mm長さ250 mmであった。一回の試験で10本の酸洗板を10パス圧延した。各パスにおけるロール間隙と圧延後の鋼板の厚みをTable 2に示した。

Table 2.  Pass schedule of rolling, roll gap in each pass and sheet thickness after rolling.
Pass Number 1 2 3 4 5
Roll Gap (mm) 2.0 1.75 1.5 1.25 1.0
Thickness (mm) 2.19 2.06 1.89 1.67 1.46
Pass Number 6 7 8 9 10
Roll Gap (mm) 0.8 0.6 0.4 0.2 0
Thickness (mm) 1.26 1.09 0.92 0.76 0.61

圧延時にノズルから噴霧するエマルションの圧力は,0.1 MPaであり,エマルションの流量は,1.7 L/minであった。この試験での鋼板の総圧下率は,約72%であった。

耐ミルハウジング汚れ性の評価は,ロールの下に置いた厚み0.8 mm幅140 mm長さ300 mmで材質がSPCC-SDである鋼板に付着した油分と鉄分スカム分の量で評価した。それらの測定方法は,まず試験終了後にロール下に設置した鋼板を100°Cの恒温槽に入れ水分を除去し,鋼板付着物をエチルエーテルで洗浄し,洗浄液中に油分と鉄分スカム分を取りだした。次に,その洗浄液をろ過することで鋼板付着物中の油分のみを抽出し,パネルヒータにてエチルエーテルを蒸発させ,鋼板上の油分を得た。最後に試験後の水分を除去した後の設置鋼板の重量とあらかじめ試験前に洗浄した後の設置鋼板の重量差から上で得た鋼板上の油分を差し引いた重量を鉄分スカム分とした。また,鋼板清浄性の評価は,10パス圧延後の鋼板をセロハンテープにて剥離し,反射率を測定しておこなった。

2・3・3 試験結果

Table 3に10パス終了時のロール下に設置した鋼板上の付着物である油分と鉄分スカム分の量を示した。Table 3より開発油の油分と鉄分スカム分は,ノニオン系圧延油Aのそれに比べそれぞれ10%,15%程度少なかった。植物油は,合成エステルに比べ加水分解され易い。そのため,加水分解により発生した脂肪酸と鉄分とが反応し,スカムを形成しやすくなる。しかし,ベース油がすべて植物油である開発油が,ノニオン系圧延油Aと同等以上の耐ミルハウジング汚れ性を示したのは,開発油の鉄粉分散性が良好であるからと考えられる。次に,圧延後の鋼板をセロハンテープで剥離し,色差計(NIPPON DESHOKU製Color Meter ZE 2000)にて明度を測定し,明度から反射率を計算した結果をFig.8に示した。反射率は,次の式を用いて算出した。

反射率(%)=(鋼板明度/台紙明度)*100

鋼板明度:圧延後の鋼板をセロハンテープ剥離して台紙に貼って色差計を用い測定した明度

台紙明度:台紙にセロハンテープを貼って測定した明度

Table 3.  Amount of oil film and scum on sheet in mill and sheet cleanness test.
Cationic type Nonionic type
Amount of oil film on sheet (g) 0.137 0.165
Amount of scum on sheet (g) 0.332 0.410
Fig. 8.

 Comparison of sheet reflectance ratio between rolling oils with cationic and nonionic emulsifier.

反射率は,鋼板上の鉄分スカム分の少ない方が高い値を示す。Fig.8に各圧延油に対する圧延後の鋼板表面と裏面の反射率を示した。Fig.8より,ノニオン系圧延油Aに比べ開発油の反射率は,約15%程度高く,圧延後の鋼板清浄性が良好であった。いずれの圧延油の場合も表面に比べ裏面の方が高い値を示した。これは潤滑油として噴霧したエマルションが,鋼板上の鉄分スカム分を洗い流す役割も果たしており,表面の鉄分スカム分は,裏面よりも落ちにくいためであると考えられる。

2・4 圧延油の耐ヒートスクラッチ性

2・4・1 試験装置について

試験には,Fig.9に示すようなラボ圧延機10)とエマルションタンク(25 L),ポンプからなる装置を用いた。ラボ圧延機は,ロール径76 mmの2スタンド2 Hiのもので,メインスタンドとサブスタンド間の距離は,約1 mである。メインスタンドで用いたロールの材質はSUJ-2で,表面粗度はRa=0.1 μmであり,実験ごとにNo.600エメリ紙を用いて研磨した。エマルションタンクにはヒーターが設置してあり,実験時のエマルションの温度を50°C一定とした。

Fig. 9.

 Schematic view of friction pick up test equipment.

2・4・2 試験方法および試験条件

エマルションタンクにイオン交換水5 Lを投入し,加温して50°Cになってから圧延油を100 ml投入した。10分間循環させた後,試験を開始した。試験を開始する前のノニオン系圧延油A,開発油の平均粒子径は,それぞれ8.6,6.3 μmであった。

試験に用いた鋼板の材質は,SPCC-SBであり,その寸法は,厚み0.4 mm幅20 mmのコイル材であった。エマルションは,ロールバイトに噴霧し,そのときの噴霧圧と流量は,それぞれ0.1 MPa,8 L/minであった。試験時のメインスタンドの上ロール速度は,144 m/minであり,サブスタンドの上下ロール速度は,メインスタンドの1/10で,14.4 m/minであった。鋼板のメインスタンド入側の速度は,約14.4 m/minであるため,メインスタンド上ロールと鋼板の速度差は大きい。従ってこのラボ圧延機は,ヒートスクラッチが発生しやすいすべり状態を比較的容易に与えることができる11)。試験時の圧延距離はメンイスタンドとサブスタンド間の距離の約1 mであり,ヒートスクラッチが発生するまで圧下率を徐々に上昇させていき,発生するまで試験をおこなった。

2・4・3 試験結果

Fig.10にヒートスクラッチが発生した時の鋼板とロールの写真例をそれぞれ示した。Fig.11にノニオン系圧延油A,開発油の各圧下率でのヒートスクラッチ発生状況を示した。Fig.11より,開発油の耐ヒートスクラッチ性は,ノニオン系圧延油Aのそれより良好であり,圧下率で約3%の差があった。その理由は,開発油には,ノニオン系圧延油Aと同じリン系極圧剤のほかに硫黄系極圧剤が添加されているためであると考えられる。

Fig. 10.

 Photograph of pick up on sheet and on upper roll.

Fig.11.

 Relationship between limit reductions of friction pick up and rolling oils with cationic and nonionic emulsifier.

3. 開発油の実機への適用

3・1 実機圧延機について

開発油を適用した圧延機は,5スタンド6Hiのシートゲージ用冷間圧延機で,最終スタンドのロール最高速度は,1500 m/minで,年間の生産量は,約180万トンである。

圧延される鋼板種類は,絞り用軟鋼板,自動車内外板,高張力鋼板など多品種である。圧延機のワークロール径は,1スタンドから5スタンドとも520~540 mmであり,鋼板板幅は,800~2000 mmまで製造可能である。

エマルション供給用のタンクは,1~4スタンド用(S2タンク)と最終スタンド用(S3タンク)の2つであり,それぞれのタンク容量は30万Lと8万Lである。鉄粉除去装置はホフマンフィルタとDEMフィルタの2種類である。

3・2 実機使用時の圧延油とエマルション性状

開発油を実機適用した約3か月間のエマルション濃度,圧延油の酸価(AV),鹸化価(SV)の変動をFig.12に示した。

Fig.12

 . Change of emulsion concentration, saponification and acid values during actual rolling.

エマルション濃度は,ほぼ2.5~2.7%であり,毎日1000 L程度補給していたが,濃度応答性も良く安定していた。次に,酸価は5.8~8.9 mgKOH/gで推移した。新油の値と比較しても増加量が小さく,圧延油中のベース油である植物油の加水分解や前工程からの酸性物質流入がほとんどなかったと推察される。加水分解が起こる時,鉄粉が触媒の役割を果たすが,開発油は油滴表面が正電荷であるので鉄粉分散性が良好であり,加水分解がおこりにくかったと考えられる。最後に鹸化価は,170~175 mgKOH/gの範囲で推移した。これは,新油の値と比べると5%程度減少しているだけであり,エマルション中に混入した作動油などの異種油の量が少なかったことを示唆している。

Fig.13にエマルション中の鉄分量を示した。エマルション中の鉄分の測定は,次の方法でおこなった。ガーゼを入れたるつぼに採取してきたエマルションを入れ(このとき採取したエマルションの重量を測っておく),100°Cのパネルヒーター上で水を除去する。次に,るつぼをガスバーナーで十分焼き鉄分とスカム分を酸化鉄にする。その後,工業用塩酸をるつぼに入れて加熱し,酸化鉄を完全に溶解させ,その溶液に発色剤であるチオシアン酸アンモニウム水溶液を加え,吸光度により鉄分量を測定し,エマルション中の鉄分を算出した。図よりエマルション中の鉄分量は,120 ppm以下であり,通常,シートゲージ用冷間圧延油のクーラント中の鉄分は,300 ppm以下であることから考えても,カチオン系乳化剤を配合したことで,圧延で発生した鉄粉の分散性が向上し,鉄粉除去装置により,鉄分が効率よく除去されていた。

Fig.13.

 Change of amount of Fe in emulsion during actual rolling.

3・3 耐ミル汚れ性

Fig.1415に圧延油切り替え前(ノニオン系冷間圧延油B)と切り替え後(開発油)のスタンドの中の写真とミル近傍の写真を示した。いずれもミルを洗浄してから1カ月たった時の写真であり,1カ月間ミル内の清掃は行われていない。Fig.14から切り替え前のスタンドの中は,ハウジングにスカムが付着してこげ茶色をしていた。一方,切り替え後はハウジングの金属部を見ることができ,汚れが少ないことがわかる。Fig.15からでも切り替え前には配管にスカムが堆積して塊になっているのに対し,切り替え後の開発油は,堆積物がほとんどない。それは,カチオン系乳化剤を配合したことにより,圧延で発生した鉄粉の分散性が向上し,スカムができにくくなったためである。

Fig.14.

 Photograph of housing in actual mill with rolling oil of cationic and nonionic emulsifier.

Fig.15.

 Photograph of actual mill equipment with rolling oil of cationic and nonionic emulsifier.

3・4 鋼板清浄性

Table 4に開発油を用いて圧延した鋼板の反射率を示した。3か月間の平均値は,いずれも70を超えていた。各鋼板種類の圧延後の反射率は,ノニオン系圧延油Bと比較して5~15%程度増加し,圧延後の鋼板性状は良好であった。それは,カチオン系乳化剤を配合したことにより,クーラント中の鉄分が除去しやすくなり,圧延後鋼板上に残る鉄粉およびスカムの量が減ったためである。

Table 4.  Mean reflection ratio during actual mill.
April May June
Sample Number 209 211 233
Mean reflection ratio (%) 75.2 75.6 73.5

3・5 圧延油原単位

開発油に切り替えてからの圧延油原単位は,最初の3カ月である4,5,6月でそれぞれ0.33,0.30,0.29 kg/tonであった。

3・6 耐ヒートスクラッチ性と生産性

実機圧延中,ヒートスクラッチの発生もなく,高生産性を確保できた。圧延後の鋼板上油分を測定すると250から300 mg/m2程度であることから,ロール・鋼板間に適度な油膜量が導入され,圧延油組成中の極圧剤が作用した結果,ヒートスクラッチの発生がなかったと考えられる。

4. 結言

冷間圧延油中の乳化剤に従来のノニオン系乳化剤と新たなカチオン系乳化剤を添加し,圧延中に発生する鉄粉分散性を高め,スカムをできにくくすることで,清浄性良好な鋼板とミルハウジングを示すシートゲージ用カチオン系冷間圧延油を開発した。ノニオン系圧延油Aと開発油をラボ試験で各種性能を比較し,実機適用して以下の結果を得た。

ラボ試験での乳化安定性試験に関し,開発油はノニオン系圧延油Aと比べても大きな差は無く,実機で用いた場合,乳化性不良などは発生せず圧延操業に影響を与えることなく使用することができた。また,極圧剤の添加効果により,ヒートスクラッチが発生することなく,高生産性を確保することができた。

開発油のエマルションと圧延油の性状は安定していた。また,圧延中に発生する鉄粉も効率的に除去でき,鋼板清浄性・耐ミル汚れ性に関して,切り替え前のノニオン系圧延油Bに比べ良好な清浄性を示した。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top