Tetsu-to-Hagane
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Effect of Ni on the Dislocation Strengthening in Ferritic Iron
Daichi AkamaToshihiro TsuchiyamaSetsuo Takaki
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2017 Volume 103 Issue 5 Pages 230-235

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Synopsis:

The dislocation strengthening was estimated by applying the dislocation theory for a Fe-18%Ni alloy which has a lath martensitic structure. The yield stress of highly dislocated metals is dependent on both the friction stress and the dislocation strengthening. Regarding the coefficient of dislocation strengthening, it is governed by the shear modulus of metals. Ni addition plays a role in increasing the friction stress but decreases the shear modulus. This means that the coefficient of dislocation strengthening is smaller in the Fe-18%Ni alloy than pure iron. It was confirmed that the yield stress, which was experimentally obtained in Fe-18%Ni alloy, is reasonably explained by the mechanism of dislocation strengthening, taking the effects of Ni into consideration. On the other hand, in the case of lath martensite with a dislocation density of 2×1015 /m2, it was also found that the effect of Ni addition does not appear on the yield stress because the increment of solid solution strengthening is cancelled out by the decrement of dislocation strengthening.

1. 緒言

炭素を含むマルテンサイトは,バネや軸受けなど高い強度が必要とされる用途に広く使われているが,その強化機構については未だに不明な点も多く残されている。マルテンサイトの強度には,固溶した炭素による固溶強化,高密度の転位に起因した転位強化,パケットやブロックなどの組織に起因した結晶粒微細化強化,炭化物等の析出に起因した粒子分散強化が関与していると考えられており,従来,これらの強化機構を加算する単純加算則でマルテンサイトの強度が議論されてきた1)。一般的に,炭素含有量が多くなるほど固溶強化の寄与は大きくなるが,同時にラスマルテンサイト組織も微細化される傾向にあるので2),強度に及ぼす炭素の影響を正確に評価するのは容易ではない。しかも,炭素量が0.5%以下のマルテンサイト鋼については,焼入れ中に起こる自己焼戻しの程度がMs点の差異によって大きく異なることも報告されている3)。このように,マルテンサイト鋼の強度に及ぼす炭素の影響は複雑なため,著者らは,炭素を含まないFe-18%Ni合金を用いて強化機構の調査を行ってきた。その結果,パケットやブロックなどの組織を大きく変化させても降伏強度はほとんど変化しないことを示し4),炭素を含まないマルテンサイトの強度が転位強化に支配されていることを指摘した。一方,合金成分の影響として,Fe-18%Ni-C合金とFe-C合金を比較して,マルテンサイト鋼の硬さや引張り強さに関して添加したNiの影響がほとんど現れないことも確認した4)。このことは,マルテンサイト鋼ではNiによる固溶強化が全く発現しないことを示唆しているように思われるが,一方でフェライト鋼については,Niが1 mass%あたり約0.04 GPaの固溶強化が発現することも分かっている5,6)。本研究では,炭素を含まないマルテンサイト鋼に関して,降伏応力が転位強化の機構で支配されることを理論的に検証するとともに,添加したNiの影響が発現しない理由を明らかにした。

2. 実験方法

本研究で用いた供試材の化学組成をTable 1に示す。固溶強化や転位強化に及ぼすNiの影響を調査する目的で,炭素および窒素を約10~20 ppm程度まで低減し,Ni量を12~18 mass%まで変化させたFe-Ni二元系合金を用いた。また,炭素の影響を調査するために炭素を0.14 mass%まで添加したFe-18%Ni-C合金も併せて用いた。本研究における熱処理条件をFig.1に示す。試料は高周波溶解炉を用いて溶製し,1473 Kで種々の厚さまで熱間圧延を施した。熱間圧延材は,1173 Kで1.8 ksの溶体化処理後水冷し,そのあと77 Kで1.8 ksのsub-zero処理を施すことによりマルテンサイト単一組織とした(焼入材)。焼入材の一部の試料については,転位分布を変化させることを目的として20%までの冷間圧延を施した(加工材)。

Table 1.  Chemical composition of the steel used in this study (mass%).
C N Si Mn P S Ni Fe
12%Ni 0.001 0.0015 < 0.01 0.07 0.001 < 0.0002 11.91 bal.
14%Ni 0.001 0.0013 < 0.01 0.09 0.002 < 0.0002 13.95 bal.
16%Ni 0.002 0.001 < 0.01 0.08 0.001 < 0.0002 15.83 bal.
18%Ni 0.001 0.001 < 0.001 < 0.01 0.001 < 0.0002 17.80 bal.
18%Ni-0.009%C 0.009 0.0019 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.0002 18.15 bal.
18%Ni-0.042%C 0.042 < 0.001 < 0.001 0.002 < 0.001 0.0002 18.02 bal.
18%Ni-0.14%C 0.140 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.001 < 0.0002 18.21 bal.
Fig. 1.

 Treatment route of the steel used in this study.

転位の観察は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行った。ヤング率は共振法を用いて測定し,ポアソン比を0.29として剛性率に変換した。硬さはビッカース硬度計を用いて98 Nの荷重で測定し,5点以上の平均値で評価した。引張試験はインストロン型試験機(49 kN)を用いて,以下のようなJIS規格に準じた試験条件において実施した。試験温度:室温,クロスヘッドスピード:1 mm/s(初期ひずみ速度3.3×10−4 s−1),試験片:厚さ1 mm,標点間距離50 mmの板状試験片(JIS13B号試験片)。なお,すべての試料で明確な降伏点が現れなかったため,降伏応力は0.2%耐力で評価した。

3. 結果および考察

3・1 マルテンサイト変態で導入される転位の特徴

Fig.2は,焼入材ならびに20%までの加工を施した試料について引張変形挙動を示す。焼入材については,加工材に比べて弾性限がかなり低いことがわかる。それは,焼入材では可動転位が多く存在し,それらが低い応力から運動して塑性ひずみを生ずるためと考えられる7)。また,焼入材にわずかな加工を施すと,ランダムに分布していた転位が安定な配置を取るように再配列することも確認されており7),その効果によって降伏強度(0.2%耐力)は高くなる。Fig.3に,冷間加工に伴う降伏強度の変化を示す。焼入材の降伏強度が低いのは上述の理由によるが,注目すべき点は,5~20%の冷間圧延を施しても降伏強度がほとんど変化しないことである。この結果は,マルテンサイト鋼では降伏後に顕著な加工硬化が起こらないことを物語っている。一方,Fig.4は,冷間加工に伴う転位密度の変化7)をModified Williamson-Hall/Warren-Averbach法8)より測定した結果を示しており,冷間加工を施しても転位密度はほとんど変化しないことがわかる。この事実は,マルテンサイト鋼では転位密度がほぼ飽和値に達していることを示唆しており,Fig.3で示した降伏強度の変化と良く一致している。

Fig. 2.

 Stress strain curves of Fe-18%Ni alloy with martensitic structure, which was cold rolled up to 20% thickness reduction.

Fig. 3.

 Change in 0.2% proof stress with cold rolling in Fe-18%Ni alloy with martensitic structure.

Fig. 4.

 Change in dislocation density with cold rolling in Fe-18%Ni alloy with martensitic structure.

一般に,金属を加工して導入される転位は混合転位であり,らせん転位成分と刃状転位成分の割合は1:1と考えられる。しかし,マルテンサイト変態では,格子変形で生じたせん断ひずみを緩和するために転位の運動による補足変形が起こるので,導入される転位の性質が加工で導入される転位の性質と異なることが予想される。Fig.5に,Fe-18%Ni合金に関してModified Williamson-Hall法8)で求められた結果を示す7)。焼入材では,転位の約88%がらせん転位成分であるという興味深い解析結果が得られており,5~20%の冷間加工を施してもその値はほとんど変化しないことがわかる。以上の結果を要約すると,1)焼入材ではほぼ飽和密度の転位がマルテンサイト変態で導入されている,2)導入された転位は,らせん転位の成分が約88%程度の可動転位であり,ランダムに分布している,3)応力を負荷すると可動転位が運動して安定な配置に再配列するが,その間,転位密度や転位の成分は変化しないということになる。

Fig. 5.

 Change in the fraction of screw dislocation with cold rolling in Fe-18%Ni alloy with martensitic structure.

3・2 転位強化に関する理論的な見積もり

転位を含む金属の降伏強度σyについては,転位の均一分散を前提条件として次式が成立する。   

σ y = σ 0 + 2 M β Gb / λ (1)

ここで,σ0MβGbλは,それぞれ基地の摩擦力,テーラー因子,転位の線張力係数,剛性率,転位のバーガースベクトル,すべり面上の林立転位の平均間隔である。テーラー因子については,bcc金属の場合M=2と置くことができるが,それ以外のパラメーターについては個別に検討が必要である。

転位のバーガースベクトルbについては一般的に基地格子を形成する原子の平均直径が採用されるが,合金元素の種類や量によってその値は変化するので,使用する材料についてその値を確認しておく必要がある。Fig.6は,焼入れたままのFe-18%Ni合金に関して,X線回折で得られた回折角θと格子定数aの関係を示している。cos2θaの関係で,cos2θ=0に対応するaの値が真の格子定数を与える9)ので,Fe-18%Ni合金の場合,a=0.2873 nmということになる。bcc格子については,原子の直径をdとすると,√3a=2dという関係が成立するので,d=0.2488 nmという結果が得られる。純鉄についてはd=0.2486 nmという結果が得られており,この結果は,Niの添加が転位のバーガースベクトルbにほとんど影響しないことを示している。

Fig. 6.

 Relation between the X-ray diffraction angle (θ) and the lattice constant in Fe-18%Ni alloy with martensitic structure.

一方,剛性率Gについては合金元素によって影響が大きく異なり,Niは,Fig.7に示すように剛性率を低下させる。鉄の剛性率に及ぼすNiの影響についてはRoberts and Owenによって詳細な調査が為されているが10),本研究でも再度調査を行った。その結果,図中に示すように,著者らの実験結果はRoberts and Owenの結果と良く一致したため,Fe-18%Ni合金の剛性率についてG=67.4 GPaと決定した。

Fig. 7.

 Effect of Ni on the shear modulus of bcc-Fe.

すべり面上の林立転位の平均間隔λについては,転位密度ρ[/m2]に依存して変化する。転位密度の単位からも分かるように,1 m2のすべり面上に存在する林立転位の数はρ本と考えることができるので,林立転位1本あたりの専有面積は(1/ρ)m2と言うことになる。この面積を半径Rの円で近似すると次式が得られる。   

R = 1 / ( π ρ ) 1 / 2 (2)

したがって,すべり面上の林立転位の平均間隔λについては,λ=2Rで与えられる。Fig.8に,計算で求めたρλの関係を示す。十分に焼鈍した鉄でも1012/m2程度の転位が存在することが確認されており,λとしては500~1000 nm程度の値が予想される。また,マルテンサイト鋼の転位密度は2×1015/m2程度であるので,λとしては20~30 nm程度の値が予想される。Fig.9は,焼入材のTEM像を示しており,転位が数十nmの間隔で分布している様子を示している。この観察結果は,Fig.8で示した計算結果がほぼ妥当なことを示している。

Fig. 8.

 Relation between dislocation density and the mean dislocation spacing.

Fig. 9.

 Transmission electron micrograph of as-quenched martensite in Fe-18%Ni alloy.

線張力βについては次式で定義されている11)。   

β = { ln ( R e / r 0 ) } / 4 π k (3)

ここで,Rer0kは,それぞれ転位の弾性応力場の半径,転位芯の半径,転位の性質に依存した定数である。Reは,すべり面上での林立転位の平均間隔λの半分と仮定し,転位密度ρから(2)式で求めた。定数kについては,ポアソン比をνとすると,刃状転位についてはk=1−ν,らせん転位についてはk=1で与えられる。鉄についてはν≒0.29である。本研究で使用したマルテンサイト鋼については,Fig.5よりらせん転位の成分割合が約88%と分かっているので,定数kについてはk=0.96とした。転位芯の大きさについては,通常,原子サイズbの2~4倍の値が用いられる12,13)ので,ここでは,2b<r0<4bの範囲においてβρの関係を計算した。得られた結果をFig.10に示す。r0の取り方によって差はあるが,βの値は転位密度に依存して0.2~0.6の範囲で変化している。ここでは便宜上,平均的な値であるr0=3bとして転位強化量を検討する。

Fig. 10.

 Relation between dislocation density and the mean dislocation spacing, which was calculated putting the radius of dislocation core (r0) as 2~4 atomic size (b).

以上,これらの結果を用いて(1)式により降伏強度を計算し,Bailey-Hirschの関係として整理した結果をFig.11に示す。図中には,Fig.3Fig.4の結果をもとに得られた実験データも示している。ただし,ここでは上述の理由により,焼入材のデータは除外している。また,純鉄の計算結果については,Niの添加されていないマルテンサイトを作製することが困難であるため,Fe-18%Ni合金の結果と同様の転位性質を有するものとして,計算を行った。まずは図中の切片,すなわち転位の影響のない基地の強度σ0については,Fe-18%Ni合金も純鉄と同様に0.05 GPa14)程度であると仮定して,転位強化量を転位密度の平方根に対して整理した。純鉄の計算結果に比べてFe-18%Ni合金のそれは常に低い値を取ることが分かる。これはFig.7に示した18%Ni添加による剛性率の低下が,同程度の転位密度であっても転位強化量を低下させているためである。これに対してFe-18%Ni合金の降伏強度の測定値は純鉄での計算結果に近い値となっており,Niによる剛性率を考慮して予測した転位強化量よりも0.1 GPa程度高い値を取ることが分かる。緒言で述べたように,極低炭素マルテンサイト鋼において,降伏強度に組織因子の影響がほとんどないため4),計算結果と実験値の相違は(1)式より摩擦力σ0のNi添加による上昇量,すなわちNiによる固溶強化が寄与していると考えざるを得ない。そこで以下,マルテンサイト鋼においてNiによる固溶強化が降伏強度を上昇させていると仮定し,18%Ni添加により0.1 GPaの強度上昇を生じさせる固溶強化機構について考察を行った。合金の添加量と固溶強化の関係については,Friedel15),Fleischer16)により,転位が運動する際に溶質原子1個1個の障害物を外しながら運動するモデルが考案され,そこでは強度が溶質原子量の1/2乗に比例することが示されている。一方で,Labusch17)は1回の転位運動の素過程に複数の溶質原子が関与するモデルを考案し,強度が溶質原子量の2/3乗に比例することを示した。さらに実験結果として強度が溶質原子量に単純に比例するという知見も多く報告されている。そこで,過去著者らが報告した1~3%のNiを含むフェライト鋼について,摩擦力とNi添加量の関係18)に1/2乗則,2/3乗則,単純比例則に合致するようにフィッティングした固溶強化曲線をFig.12に示す。ただし,多結晶合金で合金元素の影響を評価するとHall-Petch係数に及ぼす影響も含まれてしまうので,正確な固溶強化量は,Hall-Petchプロットから求められる摩擦力で評価している18)。図より,1/2乗則を仮定した際に18%Ni添加により0.1 GPaの固溶強化がもっともうまく説明できていることが示されている。なお,剛性率の低下によって摩擦力の低下が生じるにもかかわらず,Niによる固溶強化が発現する理由として,それよりも溶質原子量が増加することによる相互作用力の増加分が上回るという考え方により理解される。

Fig. 11.

 Relation between dislocation density and the flow stress which was calculated putting the radius of dislocation core (r0) as 3 atomic size (b).

Fig. 12.

 Effect of Ni on the friction stress in ferritic alloys.

以上の結果から,摩擦力σ0に固溶強化量0.1 GPaが加算されるとし,転位密度に伴う強度の変化を整理したものをFig.13に示す。また,Fe-18%Ni合金の実験データに加えて,同様の手法により剛性率や転位密度,降伏強度を測定したFe-14%Ni,Fe-16%Ni合金の結果も併せて示す。なお,さらに低Ni側の試料についてはマルテンサイトとマッシブフェライトが混在した組織となり,転位分布が不均一となるため採用することはできなかった。試料はFe-18%Ni合金と同様に900°C−30 minで焼入れ,サブゼロ処理後,5%の冷間加工を施した。Fig.12より算出されるNiによる固溶強化量は14~18%でほとんど変化がないため,Fig.13に示されるy切片の摩擦力は今回の合金系ではほとんど変化がない。また,Ni量が多いほど剛性率が小さくなるため,転位強化係数(傾き)が小さくなる。ここで注目すべき点は,マルテンサイト鋼の転位密度に相当する付近では両方の曲線が交差していることである。このことは,マルテンサイト鋼においてNiによる固溶強化の影響が見かけ上現れなくなることを示唆している。

Fig. 13.

 Relation between dislocation density and the flow stress which was calculated for Fe-(14~18)%Ni and Fe putting the radius of dislocation core (r0) as 3 atomic size (b).

Fig.14は,マルテンサイト鋼の硬さに及ぼす炭素の影響を示している。Fe-C合金については多くの研究結果が報告されており3,19,20),図に示すように,含有炭素量が多くなるほど硬さが増大する。図中には,Fe-18%Ni-C合金におけるマルテンサイトの硬さも示しているが,Ni添加の影響がほとんど無いことが分かる。前述ように,Fe-Ni系の合金では,Niによる固溶強化分が剛性率の低下で相殺され,結果的にNi添加の影響が硬さや強度に表れないと結論できる。

Fig. 14.

 Effect of carbon on the hardness of martensitic steels.

以上のように,極低炭素マルテンサイト鋼の降伏強度については,1)パケットやブロックなどの大きさが影響を及ぼさないこと4),2)転位の均一分散を仮定した林立転位林モデルで妥当に説明できることが明らかになったので,(基地の摩擦力)+(転位強化量)で評価できると結論できる。結晶粒微細化強化と転位強化を加算する考え方は,転位の長範囲応力場理論を基にして支持されてきたが,最近の研究により,転位強化機構としては短範囲での転位間の相互作用を基にした林立転位モデルの方が妥当と結論されている21)。林立転位モデルは数十nmという狭い領域での転位間の相互作用で転位強化を説明するものであり,遠く離れたブロック境界やパケット境界が影響を及ぼすとは考えづらい。転位強化と結晶粒微細化強化では強化原理が根本的に異なるので,両者の間には,加算的ではなく競合的な関係が成立すると考えるのが妥当であろう。

4. 結言

ラスマルテンサイト組織を有するFe-18%Ni合金の強化機構を調査した結果,以下の結論を得た。

1)Niは,固溶強化によって摩擦力を増大させるが,一方で鉄の剛性率を低下させて転位強化係数を小さくする。

2)Ni添加が固溶強化と剛性率に及ぼす影響を考慮に入れ,転位の均一分散を前提条件として転位強化量を見積もった結果,本鋼の降伏強度が転位強化で説明できることが明らかとなった。

3)約2×1015/m2の転位密度を有するマルテンサイト鋼では,Niによる固溶強化量と転位強化の減少分がちょうど相殺されて,純鉄の転位強化挙動と比較して見かけ上Ni添加の影響が発現しないことが分かった。

謝辞

なお本研究は,日本鉄鋼協会鉄鋼研究振興助成(平成28~29年度)によりなされたものであり,研究助成に対して感謝の意を表します。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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