鉄と鋼
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論文
焼結充填層におけるコークス共存下の金属鉄およびマグネタイト精鉱の酸化挙動
藤野 和也村上 太一葛西 栄輝
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2017 年 103 巻 6 号 p. 365-371

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Synopsis:

This study has been performed to clarify the oxidation characteristics of iron-bearing agglomeration agents charged with coke in the iron ore sintering bed as an approach toward the reduction of CO2 emissions from the sintering process. A series of oxidation experiments were carried out for metallic iron particles and magnetite concentrate pellets using laboratory-scale sintering simulator, which gave the changes in their O2 consumption rate and reaction ratios during sintering.

When metallic iron particles were used with coke, oxidation reaction of metallic iron was suppressed at an initial few seconds in the case of 25% metallic iron addition. However, it was not suppressed in the case of the higher metallic iron addition. The final oxidation ratio of metallic irons was approximately 0.8 in any case of the mixing ratio.

When magnetite pellet and that containing 20 mass%CaO were used as agglomeration agent for sintering, reaction ratio of the former was always higher than that of the latter. It suggests that melt-formation led to a decrease in the specific surface area for the oxidation reaction. When magnetite pellets were charged with coke, oxidation of magnetite was suppressed by a decrease in the oxygen partial pressure around the burning coke particles.

1. 緒言

地球温暖化防止の観点から,二酸化炭素排出量削減への取り組みが行われている。日本で生産される粗鋼の約7割は高炉を経由しており,多くの二酸化炭素を排出する。焼結鉱は年間約8000万 t生産される1,2)日本で最も広く使われている高炉用鉄源である。その聖像のためのエネルギー源は主に凝結材と呼ばれ,主に高炉用コークスの篩下粉が使用されており,排出される二酸化炭素量は日本全体の約2%である3,4)

焼結プロセスにおいて,金属鉄または二価鉄の酸化熱を有効に利用できれば,二酸化炭素排出量削減につながる。これまで,上記に関する研究5,6,7)は,主に焼結プロセスにおけるSOxおよびNOxの排出量削減を目的として行われてきた。これは,SやNを含有するコークス使用量の減少が期待できるためである。本報では鉄および二価鉄の酸化熱を利用するエネルギー源をコークスなどの炭素の燃焼反応を用いる一般的な凝結材と区別するため,鉄系凝結材と呼ぶ。凝結材の性状比較のためには,焼結充填層における総発熱量評価が重要であり,コークス共存下での鉄系凝結材の発熱量を把握する必要がある。従来,鉄系凝結材を増配すると製品焼結鉱中の二価鉄の割合が増加するという結果が得られている。これは鉄系凝結材の酸化反応が完全に終了していないことを意味しており,酸化反応促進によりさらなるコークス削減の可能性を示す。

既往の研究8,9)より,焼結プロセス中の酸化鉄の還元および再酸化は以下のように進行すると考えられる。コークス燃焼によりCOガスが生成する900°C以上の条件を考慮すると,ヘマタイトやゲーサイト鉱石中の三価鉄(Fe3)+は二価鉄(Fe2+)に還元されると考えられ,層内が最高温度に到達する時点で,Fe2+の割合は約10-15 mass%に達する。コークス燃焼終了後は,上層から供給される酸素を含んだガスによりは再酸化され,最終的に製品焼結鉱に含まれるFe2+は5 mass%程度となる。マグネタイトなどのFe2+を含む鉄原料を用いた場合,Fe2+は酸化され発熱する。しかし,製品焼結鉱中のFe2+はFe3+を用いた場合と比較して増加し,また,コークス配合率が増加するとFe2+の割合も増加する10)。これは,マグネタイト等の酸化反応がコークス燃焼で生じるCOガスにより抑制されることを示唆する。そこで,本研究ではコークスと鉄系凝結材を同時に使用した際の挙動について検討を行った。

マグネタイト精鉱は今後,主要な焼結原料として使用される可能性がある11,12)。これは金属鉄とは異なりFe2+とFe3+で構成されているが,ヘマタイトへの酸化熱を焼結プロセスにおいて有効利用できれば,凝結材の使用量削減につながる。しかしながら,コークスと共存する場合に想定される還元性雰囲気および昇温時に生成する融液の影響13,14,15)でなどについては明らかでない。そこで,本研究では,マグネタイト精鉱を使用して調整したペレット試料単独およびコークスと共存する条件での酸化実験を行った。得られた結果に基づき,鉄系凝結材の酸化熱を焼結プロセスにおいて有効利用する方法を検討した。

2. 実験方法

鉄系凝結材試料として,金属鉄粒子(Fe:99.9 mass%),マグネタイト精鉱(T.Fe:68.52 mass%,FeO:28.84 mass%,SiO2:2.72 mass%:d50:25.02 μm),また,炭素系凝結材試料として冶金用コークス(F.C.:87.5 mass%)を用いた。コークスおよび金属鉄粒子は篩を用いて粒径1-2 mmに調整した。マグネタイト精鉱は水分を添加しながら造粒後,篩分けし,1-2 mmのミニペレット(Magnetite Pellet,MP)を調整した。同様に,仮焼後のCaO濃度が20 mass%となるようにCaCO3試薬を混合して作製したミニペレット(Magnetite Pellet-20%CaO,MP-20%CaO)を作製した。

凝結材試料と混合して試料層に充填する粒子として,金属鉄粒子の場合にはモデルペレット(Alumina Cored Pellet:ACP)を,MPの場合にはアルミナ球をそれぞれ使用した。ACPは以下のように作製した。まず,直径600 mmのパンペレタイザーを用いて粒径2 mmのアルミナ球にFe2O3とCaCO3の混合粉を造粒し,2.38-2.80 mmに篩分した。混合粉の組成は,仮焼後Table 1に示す組成となるよう調整し,試料層中のCaO濃度が15 mass%で一定となるようACPを選択した。

Table 1.  Mixing ratios of Fe2O3 and CaO for the adhering layer of ACP (mass%).
Pellet name Fe2O3 CaO
ACP-15 85.4 14.6
ACP-20 79.8 20.2
ACP-25 73.9 26.1
ACP-30 67.7 32.3
ACP-35 61.2 38.8

各凝結材の添加量は,それぞれが完全酸化する場合の発熱量が,コークス配合量0.068 g-coke・cm−3と同等になるよう調整した。ただし,マグネタイトの酸化発熱量は相対的に小さく,試料層にMPのみを充填しても発熱量は上記条件に満たない。そのため,基礎的な酸化挙動を調べる実験は,試料層にMPおよびMP-20%CaOのみを充填した条件で行い,コークスと同時使用する場合は,試料層の半分の体積に相当するMPにアルミナ球を混合し,試料層内の発熱量が基準条件と等しくなるよう調整した(MP+Coke)。それぞれの実験条件をTable 2に示す。

Table 2.  Experimental conditions.
Agglomeration agents Packed balls Coke (g) Metallic Iron (g) Magnetite pellet (g) Pre-heating temperature (°C)
Coke ACP-15 1.3 0.0 0 900
Fe-25 ACP-20 1.0 1.5 0 900
Fe-50 ACP-25 0.7 3.0 0 900
Fe-75 ACP-30 0.3 4.6 0 900
Fe-100 ACP-35 0.0 6.1 0 900
MP 0.0 0.0 25 800, 900, 1000
MP-20%CaO 0.0 0.0 20 800, 900, 1000
MP+Coke Alumina ball 1.1 0.0 13 800, 900, 1000

実験は,Fig.1に示す微分型焼結シミュレータ5)を用いて行った。反応管は内径35 mmのアルミナ製で,試料層予熱温度は900°Cを基準とした。試料層の層高は20 mmとし,その上方にはガスを予熱するため,下方には溶融試料の滴下を防止するため,それぞれ高さ50 mmおよび20 mmの2 mmφのアルミナ球充填層を置いた。凝結材の酸化反応を防止するため,少量のN2ガス流通下で所定温度まで加熱し,その後ガス流速を4.5×10−1 Nm・s−1に調製した。層内温度が900°C付近で定常となった後,流通ガスをマスフローコントローラーにより同一流量に制御したN2-21%O2混合ガスに切り替え,反応を開始させた。この時,試料層中心部および試料層と下部アルミナ球層の境界の位置に装入した熱電対により層内温度を,またガス分析計により排出ガス中のO2濃度をそれぞれ連続的に測定した。また,MPを用いた実験に関しては,BET法を用いて反応後試料の表面積の測定を行った。

Fig. 1.

 Schematic diagram of sintering simulator1).

3. 実験結果と考察

3・1 コークス共存下の金属鉄粒子の酸化挙動

コークス共存下における金属鉄の酸化反応について検討するため,充填粒子としてACP,コークス,金属鉄粒子を用い,予熱温度900°Cにおいてそれらの混合物を反応させ挙動を検討した。

Fig.2に各条件における試料層下部温度の変化を示す13)。測定範囲内において層内温度に大きな違いは確認されない。凝結材を用いずにアルミナ球だけを試料層に充填し,900°Cに予熱した状態でガス切り替えを行った結果をBlank条件とした。各実験の酸素濃度変化とBlankでの変化の差は,使用した凝結材の反応で消費される酸素量を示す(Fig.3)。酸素濃度の低下のピーク値は金属鉄混合割合の増加と共に小さくなっている。コークス,金属鉄粒子それぞれの反応率を考察するため,以下の検討を行った。コークス燃焼反応による酸素消費速度を排ガス中のCO,CO2ガスの濃度変化より導出し,完全に酸化する場合に消費される酸素量で規格化した結果をFig.4に示す。これらは,いずれの条件でも同様な変化を示す。Fig.5はCO,CO2ガスの濃度変化より求めたコークス燃焼による酸素消費速度と総酸素消費速度の差から,金属鉄粒子の酸化に伴う酸素消費速度を求め,完全酸化の場合の酸素量で規格化した結果である。金属鉄をコークスと同時に使用した場合,二つのピークを持つ特徴的な形をしており,二つ目のピーク値はコークスの割合の増加と共に大きくなる。Fig.2より,層内温度に大きな違いはなく,温度の影響は小さいと考えられる。よって,これらはコークスとの競合反応に起因して生じたと考えられる。特にFe-25 ACP-20では一つ目のピークは極めて小さく,主たる酸化反応は後半で進行する。

Fig. 2.

 Changes in temperatures at bottom of sample bed. (Online version in color.)

Fig. 3.

 Changes in the total O2 consumption rate by coke and metallic iron. (Online version in color.)

Fig. 4.

 Changes in the normalized O2 consumption rate by coke combustion. (Online version in color.)

Fig. 5.

 Changes in the normalized O2 consumption rate by metallic iron. (Online version in color.)

実験後試料の凝集部を化学分析して得られたFe3+/(Fe3++Fe2+)をFig.6に示す。Fe3+の割合はコークスのみの場合が最も高い。金属鉄添加量の増大とともにFe3+の割合は減少する。Fe2+は金属鉄の酸化と付着粉層の還元のいずれかの反応で生じたものと考えられる。ここで,全てのFe2+が金属鉄由来と仮定し,Fig.5に示した化学分析値より金属鉄の酸化反応量を推算した値(Chemical analysis)をFig.7に示す。この図において,反応率0は全てが金属鉄,反応率1は全てヘマタイトで存在することを意味する。

Fig. 6.

 Fe3+/(Fe3++Fe2+) of agglomerated sample. (Online version in color.)

Fig. 7.

 Reaction ratios of metallic iron calculated by gas concentration in out let gas and chemical analysis of agglomerated sample after reaction. (Online version in color.)

実験終了後の金属鉄の酸化反応率の推算にはFig.5の結果を適用し,以下の式を用いて求めた。   

R = M mea / M max (1)

R(−)は反応率,Mmea(mol)とMmax(mol)はそれぞれガス分析値より求めた測定された酸素消費量と完全に酸化した場合の酸素消費量である。これにより得られた値(Calculated Value)をFig.7に併せて示す。なお,この値はすべての凝結材が均一に反応するという仮定に基づいて求めた値である。本図から,いずれの方法で求めた反応率も反応前の凝結材中金属鉄の割合に大きく依存しないが,化学分析から求めた値がガス分析から求めた結果よりも高いことが分かる。化学分析は,溶融,凝集した塊のみに対して行っており,その差が表れたと考えられる。

いずれの条件も層内温度は1300°Cを超えていたことから,CaO(15 mass%)-FeO融液が1300°Cで空気中,および金属鉄と共存する条件における,金属鉄の酸化反応率をFeO-CaO系融液のLog(Fe3+/Fe2+)平衡値16,17)を用いて推定した。結果,それらの値はそれぞれ0.99および0.71となる。粒径数mm程度の金属鉄凝結材を使用した従来ケース14)では,反応終了後も一部が未反応で融液中に残存していた。本実験条件においては,融液と接触する金属鉄粒子近傍のFe3+の割合は金属鉄と平衡していた場合の値に近くなり,融液表面近傍は大気と平衡した場合の値と近かったと考えられる。Fig.7のChemical analysisはこれらの中間の値をしており,矛盾しない。

以上,粒径1-2 mmの金属鉄粒子を凝結材とした場合,共存するコークスは初期の金属鉄酸化反応を抑制し,特に金属鉄の割合が少ないとき顕著である。このように,コークスとの混合率は金属鉄の酸化挙動に大きく影響を及ぼすことから,鉄系凝結材の反応制御には重要なパラメータとなるものと考えられる。

3・2 マグネタイトペレット(MP)の酸化挙動

マグネタイト精鉱を使用して作製したミニペレットの酸化反応について,MPとMP-20%CaOのみを充填した試料層により,予熱温度800,900および1000°Cで実験を行った。各実験条件で得られる試料層下部の温度変化をFig.8示す。予熱温度の上昇と共にMPおよびMP-20%CaOの最高到達温度は上昇している。ただし,等しい予熱温度であっても最高到達温度はMPを用いた場合の方がMP-20%CaOの場合よりも高い。

Fig. 8.

 Changes in temperatures at bottom of sample bed by two types of magnetite pellets pre-heated to 800, 900 and 1000°C. (Online version in color.)

3・1で示したように完全に酸化した場合の酸素量で規格化した各実験条件で得られる酸素消費速度をFig.9に示す。MPとMP-20%CaOの酸素消費速度はともに予熱温度800°Cで最も小さく,反応時間はMPとMP-20%CaOで共に予熱温度900°Cの場合が最も長い。

Fig. 9.

 O2 gas consumption rate by two types of magnetite pellets pre-heated to 800, 900 and 1000°C. (Online version in color.)

実験条件で得られるMPとMP-20%CaOの反応率をFig.9の結果と式(1)を用いて求め,Fig.10に示す。本図において用いたマグネタイトの反応率0および1はそれぞれマグネタイトおよびヘマタイトである。反応率はいずれの予熱温度においても,MPの方がMP-20%CaOよりも高く,予熱温度900°Cで最大値をとる。予熱温度900°Cにおける反応後試料の断面観察結果をFig.11に示す。MPにはペレットの形状変化が認められないが,MP-20%CaOでは,MPよりも最高到達温度が低いが溶融に伴う変形が確認される。そこで,BET法を用いてMP-20%CaOに関して反応後試料の表面積の測定を行い,予熱温度900,1000°Cの試料に対し,それぞれ1.7と1.0 cm2g−1を得た。すなわち,CaOの添加によりMP-20%CaOを構成するマグネタイト精鉱粒子の凝集が進行し,表面積が低下している。表面積の低下は一般に反応速度を低下させるため,MPやMP-20%CaOの反応率が減少した可能性が考えられる。MP-20%CaOの反応温度が低かった理由としてCaCO3を20 mass%添加したことによる総発熱量の低下が考えられるが,その状態であっても溶融の進行による表面積の低下が確認された。そのため,マグネタイト微粉の疑似粒子を製造する際はCaOと混合せずに使用した方が高い反応率を得る可能性を示唆する。

Fig. 10.

 Reaction ratios of two types of magnetite pellets pre-heated to 800, 900 and 1000°C. (Online version in color.)

Fig. 11.

 Cross section of two types of magnetite pellets pre-heated to 900°C.

3・3 コークスと同時使用時のマグネタイトペレットの酸化挙動

予熱温度が800,900,1000°Cの場合に,MPとコークス粉を同時に使用した際(MP+Coke)の反応挙動について検討を行った。他の結果と同様に試料層下部に設置した熱電対で測定した温度をFig.12に示す。最高到達温度は予熱温度1000°Cの場合が最も高い。予熱温度800°Cの場合の温度が900°Cよりも高温であるのは15秒程度で最高温度の差も30°C程度である。測定できた結果の中で連続なものを記述したが,不連続なものを含めると実験ごとに最高温度の測定誤差が存在した。最高到達温度が予熱温度900°Cの結果よりも低い場合も存在し,基本的に層内温度は予熱温度の順であった。このような誤差が生じた理由として,本条件では熱源としてマグネタイトペレット以外にコークスを用いており,コークスと温度測定位置との関係が異なったことが生じたと考えられる。ここで,予熱温度800°Cの挙動はFig.8Fig.12で大きくことなるが,これはTable 2に記述したようにMPとMP+Cokeでミニペレットの充填量とコークス添加の有無が異なり,完全に反応した場合に試料層内で発生する熱量がMP+Cokeの方が多いためと考えられる。

Fig. 12.

 Changes in temperatures at bottom of sample bed by coke mixed with magnetite pellet pre-heated to 800, 900 and 1000°C.

排ガス中のガス濃度から求めた値を完全に酸化した場合の酸素消費量で規格化し,コークスおよびMPの酸素消費速度を求めそれぞれFig.13および14に示す。コークスによる酸素消費速度は反応開始後20-25 sにピークを示した。この酸素消費のピーク値は予熱温度の上昇と共に高くなり,MPの酸素消費のピーク値もコークスの場合と同様に予熱温度の上昇と共に大きくなる。一方で,マグネタイトによる酸素の消費が確認される時間は予熱温度の上昇と共に短くなる。この結果とFig.8および12の結果から,コークス添加時には,コークスは予熱温度800°Cであっても燃焼し,MP+Cokeの場合のマグネタイトの酸素消費の増加は,コークスの燃焼に伴う層内温度の上昇によって反応速度が上昇したためと考えられる。

Fig. 13.

 Changes in the O2 gas consumption rate by coke mixed with magnetite pellet pre-heated to 800, 900 and 1000°C.

Fig. 14.

 Changes in the O2 gas consumption rate by magnetite pellet mixed with coke pellet pre-heated to 800, 900 and 1000°C.

実験条件で得られるMP+coke試料中のMPの反応率をFig.15に示す。比較のために,層内の総発生熱量は異なるが,MPの結果も示す。MP+cokeの反応率は予熱温度の上昇と共に小さな上昇を示す。このような挙動は,予熱温度900°Cでピークを示すMPの結果(Fig.10)と大きく異なる。

Fig. 15.

 Reaction ratios of magnetite pellets in the case of mixed with coke and magnetite pellet only pre-heated to 800, 900 and 1000°C. (Online version in color.)

予熱温度900°Cにおいて,MP単味とコークスを添加した場合(MP+coke)を比較すると,MP単味は最高到達温度が低い(Fig.8Fig.12)にも関わらず,反応率が高い。3・1で示したように,コークス共存が鉄系凝結材の酸化を抑制したことが示唆される。これらの実験における排ガス中の酸素濃度をFig.16に示す。反応が継続している時間においても排ガスの酸素濃度が比較的高く酸素は完全に消費されていない。よって,コークス粒子表面近傍で生成したCOガスは高温のバルク排ガス中で酸化される可能性がある。したがって,排ガス中CO,CO2ガス濃度の測定結果からコークス近傍の酸素ポテンシャルを導出することは困難である。以下,MP試料の酸化挙動について考察する。

Fig. 16.

 Changes in the O2 gas concentration in outlet gas pre-heated to 800, 900 and 1000°C.

一般にコークス添加による層内の総発熱量の増加は層内温度を上昇させる。実際にFig.8Fig.12より最高到達温度を比較すると,同じ予熱温度においてMP+cokeの最高到達温度が高い。このため,予熱温度800°Cの場合はMP+coke試料の酸化反応が促進されたものと考えられる。しかし,より高い予熱温度では,コークス表面近傍でのCOガス生成により酸化反応が抑制され,予熱温度900°CではMP+cokeの反応率はMPの場合よりも小さくなる。金属鉄粒子がコークスと共存する場合,前者の酸化反応は顕著に抑制される結果(Fig.5)は,MPの酸化も同様に抑制される可能性を示唆する。Fig.17に予熱温度900°Cの場合の排ガス中CO,CO2ガス濃度および試料層下部の温度から求めた酸素分圧を示す。図には,試料層下部の温度から求めたFe2O3/Fe3O4およびFe3O4/FeOの平衡酸素分圧も示す。排ガス組成から求めた酸素分圧と層内温度から計算した安定相との関係からは,マグネタイトが安定であったと考えられる。ただし,コークス表面近傍で生成したCOの一部が酸化した後のガス組成に基づく結果であるため,コークス近傍はさらに低酸素分圧であったと考えられる。

Fig. 17.

 Oxygen partial pressure in outlet gas and that of Fe2O3/Fe3O4 and Fe3O4/FeO.

以上,MPの酸化を抑制する要因として,まず,溶融・凝集による表面積の減少が挙げられ,さらにコークス共存下における酸化反応の抑制が考えられる。粒径数mmの金属鉄粒子の酸化反応は,表面に生成した酸化物の溶融によって促進される10)。しかし,マグネタイト精鉱の粒径は数十μm以下と小さく,溶融・凝集による表面積減少は酸化反応速度の極端な低下をもたらす。したがって,高い反応率を得るためには,焼成初期における融液発生抑制と流通ガス中の酸素ポテンシャル確保のため,焼結層内においてCaO成分やコークス粒子と距離を置いて配置する工夫が必要と考えられる。

4. まとめ

微分型の焼結シミュレータを用いて金属鉄粒子とコークスの配合割合を変化させた場合,およびマグネタイト精鉱で作製したミニペレットを使用した酸化実験を行い,以下の知見を得た。

1)粒径1-2 mmの金属鉄粒子をコークスと混合し予熱温度900°Cで酸化させると,まずコークス燃焼が優先的に進行し,金属鉄の酸化反応が抑制される傾向がある。また,混合率を変化しても焼成完了後の酸化反応率は大きく変化しない。

2)マグネタイト精鉱の酸化反応は,コークス燃焼および融液生成による凝集により抑制される。したがって,その酸化熱の有効利用には,焼成初期における融液発生抑制および流通ガス中の酸素ポテンシャル確保のため,焼結層内においてCaO成分やコークス粒子から距離を置いて配置する工夫が必要と考えられる。

文献
 
© 2017 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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