Tetsu-to-Hagane
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Effect of Low Temperature Aging on Hall-Petch Coefficient in Ferritic Steels Containing a Small Amount of Carbon and Nitrogen
Satoshi ArakiKohei FujiiDaichi AkamaToshihiro TsuchiyamaSetsuo TakakiTakahito OhmuraJun Takahashi
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2017 Volume 103 Issue 8 Pages 491-497

Details
Synopsis:

Effect of aging treatment at 373 K on Hall-Petch coefficient (ky) was investigated in consideration of the change in friction stress associated with carbide/nitride precipitation in ferritic steels containing 60 ppm carbon or nitrogen (C60 and N60). Tensile tests revealed that the ky was monotonously increased with increasing aging time in both steels, and also, C60 exhibited a larger ky value than that of N60 under the same aging time. As a result of 3DAP analysis and theoretical calculation for grain boundary segregation of carbon and nitrogen, the ky corresponded to the amount of carbon and nitrogen existing at grain boundary. There was no difference in the effect on ky increment between both elements. The larger ky in C60 under the same aging condition was due to the larger amount of segregated carbon compared with nitrogen.

1. 緒言

一般的な多結晶金属材料において,降伏強度(σy)と結晶粒径(d)の間に次式のような直線関係,いわゆるHall-Petchの関係が成り立つことが知られている1,2)。   

σy=σ0+kyd1/2(1)

(1)式中のkyは結晶粒微細化強化の強化能を示す係数でありHall-Petch係数と呼ばれる。kyの値は材料の剛性率や化学成分3)に依存することが知られているが,フェライト単一組織を有する工業用純鉄や低炭素鋼の場合,約600 MPa・μm−1/2の一定値を示すことが報告されている1,4)。しかしTiにより固溶炭素を析出物として固定したInterstitial Free(IF)鋼では約150 MPa・μm−1/2と非常に小さいkyが報告されており5,6),炭素や窒素などの侵入型元素が固溶した場合,それが極微量であってもkyの値に顕著な影響を及ぼすことが示唆されている。Wilsonら7)は,43 ppm炭素を含む鋼に時効処理を施すとkyが徐々に上昇し,およそ700 MPa・μm−1/2で最大値に達することを報告するとともに,その理由として時効に伴う炭素の粒界偏析の可能性を指摘している。一方,Takedaら8)は,フェライト鋼のkyに及ぼす炭素および窒素の微量添加の影響を調査し,数十ppm程度の極微量炭素によって結晶粒微細化強化が顕著となり,kyが固溶炭素量の増加に伴って大きくなることを定量的に示している。また同時に,窒素の効果は炭素に比べると非常に小さいことを示し,同じ侵入型元素であっても原子種によってkyへの影響が異なることも明らかにしている。このTakedaらの試料についてTakahashiら9)は,3次元アトムプローブ法を用いた原子マッピングによって炭素と窒素の粒界偏析挙動を調査し,炭素は焼鈍まま材でも顕著に粒界に偏析しているが,窒素は炭素に比べて粒界偏析し難く,偏析濃度は非常に低いことを報告した。この偏析量の測定結果はTakedaらによるkyの測定結果とよく対応しており,フェライト鋼におけるkyの上昇が粒界偏析によりもたらされるとする考えを強く支持するものである。

しかし現状では定性的な傾向が示されているにすぎず,kyの粒界偏析量依存性について定量的な説明はなされていない。結晶粒微細化強化に及ぼす炭素および窒素の役割を理解するためには,単に添加される炭素・窒素含有量だけではなく,kyに及ぼす粒界での偏析炭素および窒素量の観点からHall-Petchの関係を再検討する必要がある。そこで,本研究では,固溶炭素・窒素を単独に微量添加したフェライト鋼について,粒界偏析量を変化させる目的で時効処理を施した試料を作製した。そして,時効処理に伴う炭素・窒素偏析量変化とky変化の対応関係を定量的に考察した。なお,正確なky測定を行うため,(1)式右辺の第1項すなわち摩擦力(σ0)の時効処理に伴う変化も考慮に入れたHall-Petchの関係を評価に用いることとした。

2. 実験方法

Table 1に本研究で用いた供試材の化学組成を示す。炭素と窒素の影響を個別に評価するために,炭素と窒素をそれぞれ約60 ppm単独添加したフェライト鋼(以後,C60,N60と呼ぶ)を用いた。比較材として,炭素,窒素をTi(C, N)として固定できる十分な量のTiを添加したIF鋼を用いた。真空溶解にて溶製した横断面110 mm角のインゴット(25 kg)を1523 Kにて3.6 ksの均質化処理を施し,厚さ10 mmまで熱間圧延した。得られた熱延鋼板を90%冷間圧延後,粒径制御および固溶化を目的として,フェライト単相域である973 Kで0.015 ks~3.6 ks保持後水冷して試料を得た(焼鈍材)。その後油俗中にて373 Kで0.6 ks~60 ksの恒温時効処理を行い,各種測定に供した(時効材)。ただし,室温での保持時における時効現象の進行を避けるため,試料は全て223 Kに保持した冷凍庫に保管し,各種試験の際に必要量取り出して迅速に取り扱った。

Table 1. Chemical composition of specimens used in this study (mass ppm).
CNSiMnPSAlOTiFe
IF< 10< 1< 30< 30< 20< 105018240bal.
C605611< 30< 30< 20< 34039bal.
N60554< 30830< 20< 34021bal.

得られた各試料について,まず光学顕微鏡観察またはFE-SEMを用いたEBSD結晶方位マップ(逆極点図)の取得を行い,求積法10)により結晶粒径を決定した。つぎに降伏強度を測定するため,JIS13B号板状試験片を用いた引張試験を行った。初期ひずみ速度は10−3 s−1とし,室温にて測定を行った。なお,本稿においては降伏強度σyを下降伏応力により評価している。時効処理に伴う微視組織変化を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し,炭素・窒素の偏析挙動の変化を3次元アトムプローブ(3DAP)装置を用いて追跡した。3DAPの測定条件は,電圧モードではパルス/DC電圧比20%とし,試料温度は65 K,レーザーモードではレーザーパルスエネルギーを30 pJとし,試料温度は50 Kで行った。電圧モードとレーザーモードでの定量性に違いがないことは確認している。各試料毎に,一般大角粒界を2箇所測定し,N=2の平均として粒界偏析量を求めた。また,粒界偏析量は単位粒界面積当たりの過剰偏析原子数を表すInterfacial excess値として評価した。(本研究ではNを質量電荷比スペクトルにおいてN+のピークとして同定した*1。)さらに時効処理を行った試料については,四端子法を用いた電気抵抗測定11)を行い,析出挙動の推定も行っている。電気抵抗測定には50 mml×1 mmw×1 mmtの大きさに切り出した線材を使用した。測定の際には試料を液体窒素中(77 K)にて1分間保持し,電流の向きを変えて電圧を2回測定し,平均の電気抵抗値を測定値として採用した。

*1 3DAPによる元素分析の場合,NはN+とNN2+が現れることが知られている。しかしNN2+はFe2+のピークに隠され観察できないため測定される窒素量が少なめに見積もられている可能性がある。そうであるなら,窒素の寄与は炭素よりも少し小さくなると考えられる。

3. 結果および考察

3・1 Hall-Petch係数に及ぼす時効処理の影響

Fig.1に組織観察結果の一例として,973 Kで焼鈍したC60およびN60の結晶方位マップと逆極点図を示す。両鋼種とも等軸な再結晶フェライト組織を呈しており,結晶粒の結晶方位はほぼランダムに分布していると見なせる。求積法で求めた結晶粒径はそれぞれC60が18 μm,N60が19 μmであり,両者に顕著な差異は見られない。Hall-Petch係数の関係を調査する目的で焼鈍時間を制御し,結晶粒径を最大55 μmまで成長させた試料を作製しているが,ほぼ均一に粒成長を生じ,結晶粒の方位分布にも顕著な変化が生じないことを確認している。Fig.2に結晶粒径の異なるC60,N60焼鈍まま材の公称応力−ひずみ曲線を示す。両鋼種とも明瞭な降伏点を示し,結晶粒の微細化に伴う降伏応力の上昇が確認できるが,同一粒径のC60とN60を比較すると,N60よりもC60の方が高い降伏応力を示している。またFig.3には粒径を約30 μmで一定とし,373 Kで時効処理時間を変化させたC60,N60の公称応力−ひずみ曲線を示す。時効処理により両鋼種とも降伏応力が上昇しており,明確な降伏点伸びの増大も確認されるが,降伏応力については依然としてN60よりもC60の方が高い。

Fig. 1.

 Orientation imaging maps and inverse pole figures of C60 annealed at 973K for 20 s (a) and of N60 annealed at 973 K for 15 s (b).

Fig. 2.

 Nominal stress-strain curves in as-annealed specimens of C60 (a) and N60 (b) controlling grain size.

Fig. 3.

 Nominal stress-strain curves of C60 (a) and N60 (b) aged at 373 K.

以上のように,窒素よりも炭素の方がフェライトの降伏強度を増大させること,また,いずれの鋼種においても時効処理により降伏強度が増大することが明らかとなった。しかし,強度を担う機構の内訳には(1)式に示されるように,摩擦力(σ0)と結晶粒微細化強化(kyd−1/2)の項が存在することから,強化機構を議論するにはそれぞれを別個に評価しておく必要がある。摩擦力は転位が運動する際の抵抗力に相当し,一定の温度とひずみ速度のもとでは,固溶強化のみに依存する値である。したがって時効処理により炭化物や窒化物の析出が生じると,フェライト基地中の固溶炭素・窒素濃度が減少しσ0の値は低下すると考えられ,さらにこの変化によってHall-Petchプロットから見積もられるkyの値にも影響が生じる可能性がある。つまり時効処理に伴うkyの変化を正確に求めるには,各時効処理材におけるσ0の値が必要となるわけであるが,結晶粒径が無限に大きい多結晶体の降伏強度に相当するσ0を実験的に実測することは困難であることから,本研究では固溶炭素・窒素濃度を実験的に測定し,以下に示す換算式(Cracknellの式)を用いてσ0への変換を試みた。   

σ0[MPa]=40+4500×{mass%(C+N)}(2)

Cracknell12)は,窒化処理により窒素濃度を増大させて(炭素+窒素)量を約0.004~0.026 mass%の範囲で変化させたフェライト鋼におけるHall-Petch関係の切片の値から(2)式を算出している。ただし,使用された試料には一部析出物が生成していると述べられており,(2)式が純粋に固溶炭素・窒素の影響のみを表しているわけではないこと,また,上式は,固溶炭素量が非常に少なく,主に固溶窒素量を変化させた試料を用いて導出されている点に注意すべきである。本研究では(2)式が成り立つと仮定し,固溶元素量の変化を高い感度で検出が可能な電気抵抗測定13,14,15)を用いて時効処理に伴う固溶量変化の評価を行った。Fig.4に時効処理に伴う各鋼(結晶粒径:約20 μm)の電気抵抗の変化を示す。電気抵抗値は所定の時効処理終了後,液体窒素温度で測定されたものである。析出を生じないIF鋼については,時効処理による電気抵抗変化は見られない。それに対してC60およびN60の電気抵抗は,両鋼種とも6 ksまではほとんど変化しないが,その後大きく低下している。すなわち,6 ks以上の時効処理を施すと炭化物や窒化物の析出が生じ,固溶炭素・窒素量の低下が生じていると考えられる。さらに時効時間が103 ks以上になると電気抵抗の値はほぼ一定となり,373 Kでの固溶限まで固溶炭素・窒素量が低下したと判断される。なお,電気抵抗変化が見られない6 ks以下の時効処理においても,後述のように炭素および窒素の粒界偏析が進行していることが確認されているが,結晶粒径が20 μmの場合には粒界が占める体積割合が小さいことから粒界偏析による粒内固溶量の低下は非常に小さく16),電気抵抗値には影響が現れなかったと推察される。Fig.5に時効処理を施したC60,N60それぞれの組織についてTEM観察を行った結果を示す。6 ks以下の時効処理では析出物はほとんど観察されなかったが,60 ks時効材では両試料において析出物の存在が認められ,電気抵抗測定の結果と一致している。構造解析の結果,C60に観察される樹枝状の析出物はセメンタイト(Fe3C)であり,N60の60 ks時効材における塊状の析出物はFe4Nと同定された*2。ただし,これらの析出物の核生成頻度は高くはなく,基地中にまばらに分散している。そのサイズも数十から数百nmの粗大なものが多く,強度にはあまり寄与していないようである。実際に時効処理に伴う粒内の硬さ変化を測定したところ,析出開始後も硬化は起こらず固溶量の低下による軟化のみが生じることを確認している。以上の測定結果を用いて,各試料の時効処理に伴う固溶炭素・窒素量の変化を算出した。まず時効処理前の試料については,フェライト単相域から急冷されているため,全ての炭素と窒素が基地中に固溶していると仮定した。なお,一部の炭素と窒素は粒界に偏析しているが,本実験で用いた結晶粒径の範囲(16 μm~55 μm)ではフェライト基地中濃度に及ぼすその影響は小さいと見なせる16)。さらに,時効温度373 Kでの固溶限は炭素,窒素ともに1 ppm以下と非常に小さいため,電気抵抗の下限値においては,すべての固溶炭素・窒素が析出していると仮定した。Fig.6に炭素および窒素の固溶量と時効処理時間の関係を示す。求めた各時効材の固溶量を(2)式に代入することでそれぞれσ0に換算することができる。得られた各供試材のσ0をそれぞれの切片として固定し,最小二乗法により直線関係を描いて求めたHall-Petchの関係をFig.7に示す。ここで,IF鋼においては固溶炭素・窒素は存在しないとみなし,(2)式よりσ0は40 MPaとした。C60,N60ともに全ての時効条件で,結晶粒径の平方根の逆数と降伏応力の間に直線関係が見られ,時効材の降伏応力がHall-Petchの関係で整理できることがわかる。σ0の見積もりに多少誤差があったとしてもその変化量は高々25 MPa程度であり,kyへの影響は小さいと考えてよい。Fig.7の結果から明らかなように,時効時間の増加に伴いC60,N60両鋼種ともその傾き,すなわちHall-Petch係数kyが増加する傾向にある。Fig.8にkyと時効処理時間の関係を整理した。まず焼鈍材に着目すると,N60ではkyの値がIF鋼のそれとほぼ同等であるが,C60ではIF鋼よりかなり大きなkyが得られている。これはTakedaらの報告と一致する結果である。時効処理を施すと両鋼ともにkyが上昇していく。これまでは窒素のkyへの影響は小さいと考えられていたが8),時効処理するとその効果が助長され,窒素も炭素と同様にkyを増大させることが明らかとなった。しかし両者を比較すると,いずれの時効時間においてもC60の方が大きなkyを示している。電気抵抗測定の結果(Fig.4)と併せてここで注目すべき点は,両鋼種とも6 ksの時効処理によってkyは大きく上昇しているにも関わらず,電気抵抗がほとんど変化していないことである。この事実は,kyを増大させる要因として炭化物や窒化物の析出は無関係であり,固溶している炭素と窒素が極微量粒界偏析することにより結晶粒微細化強化能が高められていることを物語っている。

*2 低温時効において短時間側ではε–炭化物およびFe16N2の析出が報告されている25,26,27)

Fig. 4.

 Changes in electric resistivity of C60 and N60 with aging at 373 K.

Fig. 5.

 TEM images showing precipitates in C60 and N60 aged at 373 K.

Fig. 6.

 Changes in solute C or N of C60 and N60 with aging at 373 K.

Fig. 7.

 Changes in Hall-Petch coefficient in C60 (a) and N60 (b) with aging at 373 K.

Fig. 8.

 Effect of aging time at 373 K on Hall-Petch coefficient.

3・2 Hall-Petch係数と粒界偏析量の関係

多結晶金属における結晶粒微細化強化を説明する理論のひとつとしてpile-upモデル17,18)が知られている。転位源より生成した転位は結晶粒界でその運動が止められ,後続の転位もその後方で前進できずに次々と堆積(pile-up)して転位列を形成する。その転位列によって粒界に応力集中が生じ,それが結晶粒界からの二次転位放出に必要な臨界値を超えると転位が粒界から生み出されて降伏現象が発現すると考えるものである。Wilsonら7)はエッチピット法による降伏時の転位の挙動を調査し,粒界が転位運動の障壁としての役割と転位源としての役割の両方を担い,時効による粒界への炭素の偏析量の増加によりHall-Petch係数が上昇すると述べている。本研究におけるkyの上昇についても粒界偏析の影響と考え,その傾向が窒素に比べて炭素の方が強いと考えれば実験結果をうまく説明できる。

著者らは前報9)において,C60,N60焼鈍材の粒界偏析量について3次元アトムプローブ(3DAP)を用いて調査しており,C60焼鈍材における偏析炭素量は,1 nm2の単位粒界面積あたりの原子数で表すと7.6 atoms/nm2であるが,N60焼鈍材における偏析窒素量は2.1 atoms/nm2程度であることを示した。またN60焼鈍材では,不可避的に混入している5 ppmの炭素が1.6 atoms/nm2もの粒界偏析を起こしており,炭素は窒素に比べて偏析傾向が極めて強いことを報告している。このように焼鈍時にすでにそれぞれの偏析量に相違が現れていることから,時効処理に伴う粒界偏析挙動が両元素で異なっていても不思議ではない。そこで,時効処理材についても同様に3DAPを用いて粒界偏析量の定量評価を行った。分析結果の一例としてFig.9(a)はC60-6 ks時効材における炭素と窒素の3次元原子マップ,Fig.9(b)にはC60,N60の焼鈍材と100°C‐6 ks時効材における粒界偏析量の測定結果を示している。ここで偏析量を示す縦軸はInterfacial excess9)である。100°C‐6 ksの時効処理条件は,既述の通りkyは著しく増大するが析出は確認されない条件である。時効処理により両鋼種とも粒界偏析量が増加しており,C60では炭素の粒界偏析量が9.1 atoms/nm2に上昇し,N60でも窒素の偏析量が焼鈍材の約3倍に当る5.8 atoms/nm2まで上昇している。このように粒界偏析量の増加とkyの上昇がよく対応しており,これらの結果も炭素,窒素の粒界偏析に伴ってkyが上昇するという考えを強く支持するものである。Fig.10は粒界に偏析した炭素と窒素の総量とkyの関係を示す。図中のC60とN60に関する4点についてはkyおよび偏析量ともに実測値を示している。参考データとして示したC30(Fe-28 ppm C-11 ppm N)とN30(Fe-11 ppm C-24 ppm N)に関する2点については,kyの値としてTakedaらの報告値8)を,粒界偏析量として以下に示すMcLeanの式19)により見積もった推定値を採用している。   

XIφXIφ*J=1M1XIφ=XI1J=1M1XIexp(ΔGIRT)(3)

Fig. 9.

 3D elemental maps in C60 aged at 6 ks (a) and average amount of interfacial carbon and nitrogen excesses in C60 and N60 at the grain boundaries (b).

Fig. 10.

 Effect of carbon and nitrogen segregation at grain boundary on Hall-Petch coefficient.

ここで,XIは添加元素Iの固溶原子濃度[at%],XIΦは粒界原子濃度[at%],XΦ*Iは最大偏析濃度[at%],ΔGIは偏析のギブスエネルギー[J/mol],Rは気体定数[J/(mol・K)],Tは温度[K]である。Fig.10よりkyは粒界偏析(炭素+窒素)量の増加と共に増大することがわかる。このように炭素と窒素の総量の関数として一律にkyが整理されるという事実は,炭素と窒素では粒界の強化能の差違は小さいことを示唆している*3。すなわち,同一時効条件でN60よりC60の方が大きなkyを示したのは単に粒界偏析した(C+N)量が異なっていたためと考えられる。ただし,粒界偏析傾向はNよりCの方がはるかに大きく,両者で偏析傾向挙動が異なる理由として,固溶限に起因した偏析の駆動力の差違20),あるいは炭素,窒素と粒界との相互作用の差違によって生じている可能性がある。しかし一方では,N60には溶製の際に混入した不純物である約0.08 mass%のMnが存在しており,Mn-Cの相互作用の報告がされているように21,22,23),窒素の偏析・析出挙動にMn-Nとの引力型相互作用24)の影響がなかったとは言い切れない。極微量の侵入型原子の鉄格子内での拡散については微量でも置換型元素の影響は無視できないと思われるが,それ以前にHall-Petch係数に及ぼす置換型元素自体の影響について明らかにしておく必要もあろう。

*3(3)式において,炭素と窒素の最大偏析量XΦ*IはそれぞれをFe3C,Fe4Nが析出する濃度と仮定し25 at%,20 at%とする。またΔGCを−78 kJ/mol,ΔGNを−56 kJ/mol28)として焼鈍温度973 KでのC60,N60における炭素,窒素の平衡偏析濃度を計算するとそれぞれ20 at%,3.6 at%となる。また,N60では5 ppm添加した炭素も偏析しているが,計算によれば焼鈍時に約6.5 at%の炭素が偏析することになる。ここで粒界の偏析サイトにどれだけの溶質原子が偏析したかを評価する粒界偏析率θを求めるため,炭素と窒素が同一の偏析サイトに偏析すると仮定すると,焼鈍ままの段階でC60では80%,N60では44%となる。Wilsonらは炭素によるkyの上昇は700 MPa/μm1/2で平衡に達すると報告しており,この時の粒界偏析率を100%と仮定すると,最大偏析量はC60焼鈍材の粒界偏析率から推定すると9.5 atoms/nm2となる。Fig.10では,C30,N30に対して実測されたky8)と上記関係を用いて粒界偏析率を見積もり,換算した粒界炭素+窒素量[atoms/nm2]を用いてプロットしている。

4. 結言

約60 ppmの炭素および窒素をそれぞれ個別に添加したフェライト鋼のHall-Petch係数(ky)に関して373 Kでの低温時効処理の影響を調査し,粒界偏析挙動との関連について考察を行った結果,以下の結論を得た。

(1)焼鈍材のHall-Petch係数kyは,窒素添加鋼ではたいへん小さく,IF鋼と同程度であったが,炭素添加鋼ではIF鋼よりも明らかに大きな値を示す。また時効処理を施すと両鋼ともにkyは上昇し,同一の時効処理条件では,炭素添加鋼のkyは窒素添加鋼のそれに比べて常に大きな値を示す。

(2)時効処理に伴うkyの増大は,炭素と窒素の粒界偏析によりもたらされており,その傾向は粒界偏析量の変化と対応している。ただしkyに及ぼす炭素と窒素の影響は同等であり,kyの値は炭素と窒素の総偏析量(炭素+窒素[atom/nm2])で整理できる。

(3)同一の時効処理条件で炭素添加鋼のkyが窒素添加鋼のそれより大きな値を示すのは,炭素の粒界偏析傾向が窒素よりも大きく,いずれの時効処理時間においても炭素が窒素よりも高い偏析量を維持していたためである。

謝辞

本研究は,JSPS科研費 JP15H05768の助成を受けたものです。

文献
 
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