Tetsu-to-Hagane
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Voids Nucleation and Growth Examination during Tensile Deformation for IF Steel by Synchrotron X-ray Laminography and EBSD
Osamu FurukimiYuji TakedaMasayuki YamamotoMasatoshi AramakiShinji MunetohAkihisa TakeuchiHirofumi IdeMorihiko Nakasaki
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2017 Volume 103 Issue 8 Pages 475-482

Details
Synopsis:

The mechanism behind the large elongation of Ti-added interstitial free (IF) steel has been investigated from the view point of voids’ nucleation, growth and coalescence in a local elongation region of tensile tests. Electron back scatter diffraction showed that in the case of IF steel, 50% of the voids nucleated at grain boundaries, 20% nucleated at Ti (C, N) on grain boundaries, 30% nucleated at Ti (C, N) in matrix. In the case of industrial pure iron, 70% of the voids nucleated at large angle grain boundaries while 30% nucleated at non-recrystallized grain boundaries. Synchrotron X-ray Laminograph observation showed that the voids in the IF steel grew, however, the coalescence was suppressed until a large plastic strain as compared with the pure industrial iron. Nano-indentation hardness (HIT) was measured when the tensile test stopped at a maximum load. This result showed that HIT at the grain boundaries of the industrial pure iron largely increased during tensile tests as compared with the IF steel. This finding was an indication that the industrial pure iron has heterogeneity of strain near grain boundaries previously in the region of uniform deformation. This finding also suggested that the large local elongation in the IF steel is caused by lowering heterogeneity of strain in the uniform deformation region followed by the suppression of voids’ growth and coalescence in the local elongation region.

1. 緒言

CおよびN量が0.005%以下の極低C・N鋼にTi,Nbを単独あるいは複合添加し,炭化物,窒化物,炭窒化物として析出させ,CおよびN原子の拡散を抑制することによって非時効性を向上させ,さらに,圧延条件と焼鈍条件の適性化で板面平行に(111)集合組織をより多く集積させr値の向上を図ったInterstitial Free(IF)鋼が,1970年代以後,深絞り成形が多用される自動車用外板などに広く用いられてきた1)。しかし,自動車用鋼板が深絞りだけで成形されるわけではなく,曲げ,張出しの場合,それらの成形性は伸び特性に依存する。TokunagaらはTi添加IF鋼の全伸びがTi無添加鋼より大きいことを2),また,Hashimotoらは,Nb添加IF鋼ではNb/Cが高くなると全伸びが低下するとの結果を示している3)。これらの結果は実験事実を述べたにとどまり,IF鋼の伸びに関する支配因子の基礎的解明はいまだになされていない。さらに,全伸びは均一伸びと局部伸びの総和であり,それぞれの伸びの組織学的な支配因子は異なる。均一伸び域では,転位の増殖とともにすべり変形と結晶回転が進行する。一方,局部伸び域では均一変形域での組織変化に加え,応力三軸度の増加とともにボイドが発生,成長し4),最後に連結して破断に至る。したがって,局部伸びはこのボイド発生・成長・連結に大きく依存するが,この観点からIF鋼の伸びを研究した例は少ない。ここで言うボイドの成長とは,個々のボイドが連結することなく体積を増加することである。

著者らは,フェライト単相16%Cr鋼において,ボイドの発生界面はCr析出物であること,また,平板引張試験で得られた全伸びはCr析出物間間隔すなわちボイド発生界面間隔が大きくなるに従い増加し,この増加分は局部伸びによることを明らかにした5)。この結果は,均一伸びと局部伸びではそれらの組織学的支配因子が異なり,局部伸びではボイドの発生・成長・連結が重要な要素を成すことの実験的な証拠である。

また,León-Garcíaらは,Ti添加IF鋼の引張変形におけるボイド発生がTiN起因であり,母相との剥離またはTiN析出物の分断で生じることを光学顕微鏡,Scanning Electron Microscope(SEM)観察およびElectron Back Scattered Diffraction(EBSD)解析で示している6)。しかし,局部伸びとボイド発生・成長・連結の関係は明らかにされていない。

最近,ボイドの発生・成長・連結に関し,Todaらは二相ステンレス鋼を対象として放射光X線を用いたComputer Tomography(CT)による三次元解析手法を確立し,フェライト相とオーステナイト相の画像コントラストの差を用いて引張試験におけるボイド発生界面が二相組織粒界であることを示すとともに,その成長挙動を明らかにした7)。また,Hoshinoらは放射光X線解析手法として,板厚が1.2 mm以上の試料に適用可能なラミノグラフィー法を開発した8)。CTは非破壊で試料内部を三次元観察できる優れた測定方法であるが,適用できる試験片形状に制限がある。視野よりも大きな試料および平板形状の試料の内部構造を観察するには適さない。試料の回転軸を斜めにすることで,平板状の試料内部を非破壊で観察できるように開発された手法がラミノグラフィー法である。

以上述べたCTおよびラミノグラフィー法は,引張応力下におけるボイドの発生・成長・連結を三次元で観測することができる極めて有用な手段である。しかし,いずれの手法でも,組織のコントラストが付かない単一組織におけるボイド界面を明らかにすることはできない。一方,著者らは,二相ステンレス鋼,工業用純鉄におけるボイド発生界面がそれぞれ二相組織粒界9)および大傾角粒界あるいは未再結晶粒界10)であることを,EBSD解析で明らかにした。したがって,放射光X線ラミノグラフィー法とEBSD解析を併用することで,フェライト単相であるIF鋼の平板引張試験におけるボイド発生・成長・連結を詳細に解析できる。

本研究では,Ti添加IF鋼,および比較材としてCとN量の総和が0.005 mass%と微量でかつ析出物形成元素を含まない工業用純鉄を供試材とした。これらの試料について,引張試験機によりひずみ量を逐次増加させつつ最終破断近傍まで荷重−除荷を繰り返し,放射光X線ラミノグラフィー法により三次元的にボイドの発生・成長・連結過程を観察した。また,引張試験後の試験片をEBSD解析し,ボイドの発生界面を特定した。最後に,以上の結果をもとにボイドの発生・成長・連結と局部伸びの関係について考察した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材には,熱間圧延−焼鈍プロセスで作製したTi添加IF鋼および極低C・Nで析出物形成元素を含まない工業用純鉄を用いた。化学組成をTable 1に示す。IF鋼および工業用純鉄それぞれの焼鈍条件は973 Kで150 s加熱および1138 Kで75 s加熱であり,仕上げ板厚は4.2 mmおよび4.0 mmであった。極低C鋼では,焼鈍後,粒界にCが偏析することが実験的に11),また,Cが粒界偏析元素であることが第一原理計算12)で明らかにされている。

Table 1.  Chemical compositions of IF steel and industrial pure iron. (mass%)
Specimen C Si Mn P S Ti Al N
IF steel 0.002 0.002 0.14 0.01 0.004 0.046 0.048 0.0020
Industrial pure iron 0.003 0.001 0.16 0.01 0.004 0.001 0.0017

供試材の板厚中心部から,組織観察用試料を微細切断機で切り出した。Rolling Direction(RD)に対して垂直面を観察するように樹脂に埋め込み,順次150~2000番のエメリー紙を用いて湿式研磨し,さらにアルミナバフによる鏡面研磨仕上げを施した。その後,フラットミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製,IM-3000)により,加速電圧4 kV,試料傾斜角80°,回転速度25 rpmの条件でArスパッタリングを180 s間行い,表面の損傷層およびコンタミネーションを除去しEBSD観察試料とした。これらの試料について,Field Emission Scanning Electron Microscope(FE-SEM,Carl Zeiss Microscopy GmbH製,Ultra 55)に付置されているEBSD装置により,加速電圧15 kVの条件でEBSD像を得た。EBSDにより得られたデータを電子線回折結晶方位解析装置Orientation Imaging Microscopy Analysis Software(OIMTM,AMETEK社製,DigiView IV)によって解析した。

IF鋼中の析出物について,FE-SEMに付置されているEnergy Dispersive X-ray(EDX)で組成分析を行った。また,EBSD観察面を10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウムクロリド−89%メタノール溶液で腐食後,抽出レプリカを採取しFE-SEMにより加速電圧15 kVの条件で析出物を観察した。

2・2 引張試験

熱間圧延−焼鈍板から板厚1.2 mm,平行部幅2 mm,平行部および標点間距離3 mmの平板引張試験片をRDと平行に板厚1/4部分から採取し,表面を1200番のエメリー紙で仕上げた後,油圧制御型万能試験機(島津製作所製,サーボパルサ4830)を用いて,初期ひずみ速度1.0×10−3/sの条件で引張試験を行った。この結果得られた応力−ひずみ曲線から,放射光X線でボイド観察するために途中止する条件を決定した。

2・3 破面およびボイド観察

引張試験後の破面をFE-SEMにより加速電圧5 kVの条件で観察した。さらに,引張試験破断片の板幅中央部からTransverse Direction(TD)に対して垂直な面をEBSDでボイド観察するように試料を微細切断機で切り出した。EBSD解析方法は先に述べた供試材に準じたが,その際,SE(Secondary Electron)像も取得した。

大型放射光施設であるSPring-8のビームラインBL20XUにおいて,37.7keVのX線を用い,voxelサイズ約0.51 μm,試料の回転軸傾き角45°,検出器には可視光変換型高解像度X線イメージングユニット(浜松ホトニクス社製,BM-AA50およびSCMOS:ORCA FLASH 4.0)を用いて,X線ラミノグラフィー法によりボイドの透過画像データを取得した。試料の組成および試験片の板厚を考慮し,十分な透過強度を得られる条件となっている。また,露光時間を600 msとして撮像し,投影数は3600枚/360°とした。Todaらが鉄鋼材料のボイド解析に用いた条件に準拠して,これらの条件を設定した7)

IF鋼において伸び26%,28%,51%,65%,68%および71%の最終破断近傍,工業用純鉄においては伸び23%,26%,47%,55%および59%の最終破断近傍において引張試験を逐次途中止めして,ボイドの透過画像データを得た。ラミノグラフィー法により得られた投影データをメジアンフィルター(2×2 pixels)処理した後,二次元断層像を回転軸の傾きを考慮したフィルタ補正逆投影法を用いて再構成した13)。レイヤーについて再構成した2048枚の二次元断層像を用いて画像解析ソフトウェアー(FEI社製,Avizo 9.1.1)により三次元画像を再構築し,解析を行った。

2・4 ナノインデンテーション硬さ試験

局部伸び域での変形においてはボイドが発生し,さらに成長するが,均一変形に引き続き加工硬化が同時に進行する。IF鋼と工業用純鉄の伸びの差異を論じる際には,両者の加工硬化挙動とボイド発生界面近傍の局所的なひずみを考慮する必要がある。局所ひずみ評価法として,Digital Image Correlation(DIC)法14)あるいはマイクログリッド法15)が用いられているが,これらの手法では精緻な定量的解析ができるものの材料表面における解析であり,内部の局所ひずみ評価が出来ない。そこで本研究においては,定量評価には適さないがナノインデンテーション硬さ試験による局所ひずみの評価を試みた。なお,著者らは加工硬化現象をナノインデンテーション硬さ試験で調べられることを,二相ステンレス鋼を対象として示している16)

IF鋼と純鉄の加工硬化挙動の差異を明らかにするために,引張試験前と最大荷重で引張試験を中断した試料をTDに対して垂直面で硬さ測定するように樹脂に埋め込み,バフ研磨した後,さらにコロイダルシリカを用いて琢磨処理し,ナノインデンテーション硬さ試験機(エリオニクス社製,ENT-2100)で硬さ測定した。測定点数を縦方向20点×横方向20点,試験力を9.8 mNとし,ナノインデンテーション硬さとしてHITを用いた。硬さ試験後に3%硝酸アルコールで腐食し,粒界上とくぼみの三角形の頂点との最近接距離を求めた17)

3. 実験結果

3・1 供試材組織および強度,伸び特性

供試材組織のEBSD解析結果をFig.1に示す。IF鋼,工業用純鉄の平均結晶粒径はそれぞれ20 μmおよび35 μmであり,IF鋼の方が細粒であった。また工業用純鉄では粒内に数度の角度差を有する未再結晶粒界が存在していた。

Fig. 1.

 EBSD images of hot-rolled and annealed (a) IF steel and (b) industrial pure iron.

引張試験により得られたIF鋼と工業用純鉄の応力−ひずみ曲線をFig.2に,また,各鋼種の0.2%耐力(0.2%Proof Strength:0.2%PS),引張強さ(Tensile Strength:TS),均一伸び(Uniform Elongation)および局部伸び(Local Elongation)をTable 2に示す。0.2%PSおよびTSはわずかにIF鋼のほうが低かった。一方,IF鋼の均一伸びおよび局部伸びは純鉄に比べ大きく,局部伸びにおいてより大きな差が認められた。この結果は,局部変形領域におけるボイドの発生・成長・連結が両試料で異なっていることを示唆する。この2つの試料の粒径の差による降伏応力への影響を,Hall-Petch式18,19)から粒径の−1/2乗の係数,kyに及ぼす固溶C量の影響を調べたTakedaらの実験式20)を参照して見積もると,結晶粒径の寄与は0.2%PSの約10%である22 MPaと小さかった(なお,Takedaらの論文では降伏応力として弾性限あるいは上降伏点を用いている)。しかし,局部伸び域におけるボイドの発生・成長・連結には,この粒径の差が影響を及ぼすと推定される。本研究では,結晶粒径の差を考慮してIF鋼と工業用純鉄のボイドの発生・成長・連結の差を論じることとした。

Fig. 2.

 Stress-strain curves of hot-rolled and annealed (a) IF steel and (b) industrial pure iron: Arrows show stopping points to observe voids by Synchrotron X-ray.

Table 2.  Strength and elongation of IF steel and industrial pure iron.
Specimen 0.2% Proof Strength (MPa) Tensile Strength (MPa) Uniform Elongation (%) Local Elongation (%)
IF steel 188 275 26 52
Industrial pure iron 216 281 23 42

応力−ひずみ曲線から,2・3で述べた放射光X線によるボイド観察を行う途中止めのひずみ量を決定した。途中止めのポイントをFig.2に矢印で示してある。引張試験を途中止めするごとに実体顕微鏡により試験片標点間距離中央部の板厚,板幅を測定し,ボイド観察視野となる塑性ひずみ,εpを以下の(1)式で算出した。   

ε p = ln ( A 0 A ) (1)

ここで,A0は試験片の初期断面積,Aは引張試験後の板厚と板幅から求めた観察視野部断面の面積である。

3・2 析出物およびボイド解析

IF鋼中の析出物のEDX分析結果をFig.3に示す。析出物はTi(C, N)であることが明らかとなった。他の析出物についても分析を行ったが,すべてTi(C, N)であった。つぎに,抽出レプリカによる析出物観察結果の代表例をFig.4に示す。図中に析出物を示してあるが,10視野について1000 μm2あたりの析出物数を測定した結果,平均個数は14.3個,最大18個,最小10個であり,比較的均一に分布していると判断された。

Fig. 3.

 (b) EDS analysis result of (a) precipitate in IF steel.

Fig. 4.

 SE image of precipitates by extracted replica for IF steel.

つぎに,IF鋼および工業用純鉄におけるボイドの発生界面を明確にするために,SE像観察およびEBSD解析を行った。IF鋼の結果を,Fig.5(a),(b),(c)およびFig.6(a),(b)に示す。Fig.56εpがそれぞれ1.2および1.1の領域で観察した結果である。Fig.5(a)はSE像,(b)は全組織のInverse Pole Figure(IPF)像,(c)はTi(C, N)(Face Centered Cubic Lattice)を抽出したIPF像である。これらの結果から,(b)におけるノイズの大きい部分はボイドであり,ボイドが粒界上のTi(C, N)から発生したことが明らかとなった。また,引張方向であるRDに伸長したボイドを挟む二つのフェライト粒の結晶方位が違っていたことから,粒界に沿ってボイドが連結したと言える。ボイドを繋ぐ二つのTi(C, N)の方位も異なることから,Ti(C, N)の分断ではなく,近接するTi(C, N)で個別に発生したボイドが連結したと考えられる。Fig.6(a),(b)は,同じくIF鋼で違う視野でボイド近傍を観察したSE像およびEBSD解析結果である。ボイドは粒界で発生していたが,Ti(C, N)は認められなかった。一方,その他の視野の観察によると,粒内のTi(C, N)からのボイド発生も確認された。ボイド観察した20視野について統計的にボイド発生界面を整理すると,粒界が50%で,粒界のTi(C, N)が20%,粒内のTi(C, N)が30%となっていた。

Fig. 5.

 (a) SE and (b), (c) EBSD images after tensile test for IF steel (εp=1.2); (b): IPF map of all phases, (c): IPF map of Ti (C, N) phase. Void nucleation site was Ti (C, N) in grain boundary.

Fig. 6.

 (a) SE and (b) EBSD images after tensile test for IF steel (εp=1.1). Void nucleation site was in grain boundary.

工業用純鉄について,ボイド発生界面のEBSD解析結果をFig.7(a),(b)に示す。Fig.7(a),(b)ともに観察視野のεpは0.25であった。(a)は大傾角粒界でボイドが発生していることを示す画像であり,(b)は大傾角粒内で,わずかに方位コントラストが認められる未再結晶粒の粒界からボイドが発生していることを示す画像である。Fig.1に示したように,本供試材には引張試験前にすでに数度の方位差の未再結晶粒が存在しているので,この箇所からもボイドが発生したものと推定される。なお,20視野でボイド観察したが,発生界面の70%が大傾角粒界であった。

Fig. 7.

 EBSD images after tensile test (εp=0.25) for industrial pure iron. Void nucleation sites were (a) grain boundary, (b) internal grain.

以上の結果から,Ti(C, N)の存在しない工業用純鉄ではボイドは粒界あるいは数度の方位差の未再結晶粒界から発生し,Ti(C, N)が析出しているIF鋼では,粒界の他にボイドの30%が粒内のTi(C, N)を界面として発生したことが明らかになった。これらの結果を踏まえ,IF鋼と工業用純鉄のボイドの発生・成長・連結と引張試験におけるεpとの関係を放射光X線ラミノグラフィー法により解析した。

3・3 放射光X線ラミノグラフィー法によるボイド観察

IF鋼ではFig.2(a)で示したように伸びが26%でTS近傍となり,78%で破断に至る。これらの結果から,伸び26%(0.17),28%(0.18),51%(0.56),65%(0.62),68%(1.1)および破断近傍(破断より伸び7%手前)である71%(1.3)において途中止め試験を行った。なお,( )内はεpである。この逐次引張試験によって得られた応力−ひずみ曲線をFig.8に示す。

Fig. 8.

 Stress-strain curve for sequential voids nucleation, growth and coalescence observation by Synchrotron X-ray Laminography for IF steel.

放射光X線ラミノグラフィー法を用いてボイドを三次元的に観察した結果をFig.9に示す。図中では,ひとつのボイドごとに色分けしてある。ひずみの増加に伴いボイド数,ボイド径は増加したが,εpが0.62~1.1において新たなボイド発生がほとんど認められなかった。また,破断近傍(伸び=71%,εp=1.3)においてボイドの急激な成長・連結は観察されなかった。

Fig. 9.

 3D images of voids for IF steel obtained by Synchrotron X-ray Laminography: plastic strain εp=(a) 0.17, (b) 0.18, (c) 0.56, (d) 0.62, (e) 1.1, (f) 1.3.

同様に,工業用純鉄に関し,逐次ボイド観察した時の応力−ひずみ曲線をFig.10に示す。途中止めする伸びを,23%(0.18),26%(0.20),47%(0.63),55%(0.85)および破断近傍(破断より伸び6%手前)の59%(1.4)とした。工業用純鉄の場合,IF鋼とは異なり明確なひずみ時効現象が応力−ひずみ曲線上で認められた。この現象は,工業用純鉄では固溶CおよびNが多いことに起因すると解釈できる。工業用純鉄について,放射光X線ラミノグラフィー法により得られたボイドの三次元像をFig.11に示す。IF鋼と異なりひずみ量の増加に伴い,ボイド数,ボイド径ともに増加し続けた(定量解析は後述)。IF鋼では伸び71%(εp=1.3)でも,急激なボイドの成長・連結が認められなかったのに対し,(e)で明らかなように,破断より伸び6%手前(59%)のεp=1.4において急激なボイドの成長・連結が確認できた。

Fig. 10.

 Stress-strain curve for sequential voids nucleation, growth and coalescence observation by Synchrotron X-ray Laminography for industrial pure iron.

Fig. 11.

 3D images of voids for industrial pure iron obtained by Synchrotron X-ray Laminography: plastic strain εp=(a) 0.18, (b) 0.20, (c) 0.63, (d) 0.85, (e) 1.4.

ラミノグラフィー法により得られたIF鋼および工業用純鉄におけるεpと総ボイド数およびボイド体積率の関係を,それぞれFig.12(a),(b)に示す。εpが約0.6まではいずれの試料でもほぼ同様の傾向でボイド数は上昇した。εpが0.6以上では工業用純鉄においてボイド数の増加が認められたが,IF鋼ではそのようなボイド数増加は認められず一定値を示した。また,ボイド体積率を見ると,εpが約1.1までは両試料でほぼ同様の増加傾向を示したが,1.3になると,工業用純鉄では急激に大きくなった。この現象は,Fig.11(e)に示したボイドの成長・連結に対応する。

Fig. 12.

 Effects of plastic strain on (a) number of void and (b) volume fraction of void for industrial pure iron and IF steel.

3・4 引張破面のFE-SEM観察

IF鋼および工業用純鉄の引張破面観察結果をFig.13(a),(b)に示す。IF鋼の破面では,等軸ディンプルが観察されたが,工業用純鉄ではTD方向に伸長したディンプルが主に観察された。

Fig. 13.

 SE images of fractured surface of (a) IF steel and (b) industrial pure iron.

3・5 ナノインデンテーション硬さ試験

IF鋼および工業用純鉄の引張前と最大荷重まで引張試験した後に除荷した試料について,粒界からのHIT変化をFig.14に示す。引張前の試料について見ると,IF鋼においては粒界からの距離によらずHITは約2250と一定値を示し,粒界と粒内中心で変わらなかった。一方,工業用純鉄の粒界およびその近傍のHITは,粒界から離れた場所に比較して100程度大きな値を示した。この現象は,工業用純鉄では粒界へのC原子の偏析量が大きい11,12)ことに起因すると推察される。なお,N原子の粒界偏析については不明である。引張試験で最大荷重負荷後に除荷した試料のHITについてIF鋼と工業用純鉄を比較すると,工業用純鉄においては粒界上でHITが増加し,粒界から離れると一定値となった。この傾向はIF鋼でも同様であったが,粒界上のHIT上昇はIF鋼のほうが小さかった。

Fig. 14.

 Relationships between average HIT and distance from grain boundary for industrial pure iron and IF steel.

最大荷重まで引張試験した後に除荷した試験片のHITは,均一変形域で最大荷重を負荷した時の結果である。したがって,粒界近傍における硬さの増加は局部変形に移行する時に,とくに工業用純鉄の粒界近傍ですでにひずみの不均一化が生じていることを示唆する。なお,工業用純鉄では引張試験後の粒界から離れた位置におけるHITが引張試験前と比較して約350増加していたが,この現象はFig.9に示した応力−ひずみ曲線で認められたひずみ時効に対応すると推定される。HITおよび応力の増加分も,約15%で等しかった。

4. 考察

Ti添加IF鋼の局部伸びは工業用純鉄に比べ大きかった。この理由を,局部伸び領域におけるボイド発生・成長・連結の違いによって考察する。

ボイドの発生界面を見ると,IF鋼では粒界,粒界および粒内のTi(C, N)に対し,工業用純鉄では,Ti(C, N)などの析出物がないため,未再結晶粒界も含め粒界となっていた。IF鋼では結晶粒径が工業用純鉄に比較して小さく,さらに粒内のTi(C, N)からもボイドが発生することから,大半が粒界からボイド発生する工業用純鉄と比較してボイド発生の可能性がある界面の面積が大きいと推定される。しかし,ラミノグラフィー法でボイド観察した結果(Fig.12),εpが0.6まではIF鋼と工業用純鉄でほぼボイド数は同じであったことから,この範囲では,ボイド発生・成長に関し両試料とも同等の特性を有すると言える。

つぎに,εpが0.6以上のボイド発生・成長挙動について考察する。Fig.12(a)で示したように,IF鋼のボイド数は飽和した。Fig.9で述べたように,IF鋼を逐次観察した結果,この領域ではボイドの個々の成長は見られたものの,新たなボイドの発生がほとんど認められなかった。また,Fig.12(b)で示したように,ボイド体積率は増加した。これらの結果から,IF鋼ではεpが0.62~1.3の範囲でボイドは連結せず主に成長のみが生じていたと言える。一方,工業用純鉄では,εpが0.6を超えてもボイドの数と体積率ともに増加を続けた(Fig.12)。そしてεpが1.4になるとボイド数の増加とともに急激に連結が進行し,体積率が増加したと推定される。工業用純鉄では,HITの結果(Fig.14)から見ると,均一伸び域ですでにボイド界面となる粒界近傍におけるひずみの不均一化が生じていたため,この不均一化が局部伸び域でも影響を与え,εpが1.4でボイドの急激な成長・連結が生じたと考えられる。

なお,Fig.13(a),(b)に示した破面観察によると,IF鋼では等軸ディンプル,工業用純鉄では主に伸長ディンプルを呈していた(Fig.13)。この結果は,IF鋼では急激なボイド成長が抑制され,一方,工業用純鉄では急激なボイド成長が生じるとのラミノグラフィー法でのボイド観察結果と対応する。

以上述べたように,工業用純鉄では粒界でのひずみ不均一化が大きいことに起因して,破断伸びより6%手前から急激なボイド成長・連結を生じ,一方,不均一化が小さいIF鋼では高ひずみ域までボイドの成長・連結が抑制され,その結果,高い局部伸びを示したと考察された。

5. 結論

Ti添加IF鋼の引張試験で得られた局部伸びの大きい要因を,工業用純鉄と比較してボイドの発生・成長および連結の観点から考察した。ボイドの発生界面を引張試験後の試料のEBSD解析を用いて,また,発生・成長・連結を引張試験の逐次途中止めした試料の放射光X線ラミノグラフィー法観察で調べた。得られた主な結論を以下に示す。

(1)熱延−焼鈍処理したIF鋼と工業用純鉄の局部伸びを比較すると,IF鋼の方が大きかった。

(2)IF鋼のボイド発生界面は,粒界が50%で,粒界のTi(C, N)が20%,粒内が30%であった。一方,工業用純鉄の発生界面の70%が大傾角粒界,30%は数度の角度差を有する未再結晶粒界であった。

(3)最大荷重まで引張試験した後にナノインデンテーション硬さを測定した結果,IF鋼では粒界と母相との硬さの差が小さく,一方,工業用純鉄の硬さの差は大きかった。この結果から,工業用純鉄では粒界近傍での引張試験によるひずみの不均一化が生じることが明らかとなった。

(4)ラミノグラフィー法でIF鋼と工業用純鉄のボイドの発生・成長・連結を観察した結果,工業用純鉄ではεpが1.4で急激な成長・連結が観察された。一方,この高εp域でもIF鋼ではボイドの急激な成長・連結が認められなかった。IF鋼で高い局部伸びを示す主な要因は,ボイドの急激な成長・連結の抑制であると考察された。

鉄鋼材料特性のインフォマティクス化にあたり,本結果が今後の研究方針への提言になれば幸甚です。

謝辞

本研究は,(社)日本鉄鋼協会インフォマティクス研究会の一環として遂行し,活発な議論と有意義なご助言を頂いた主査の鹿児島大学足立吉隆教授を初め委員の方々に深く謝意を表します。また,放射光実験はJASRI承認のもと課題採択番号2015B1426で行いました。また,試料提供して頂いたJFEスチール(株)殿に厚く御礼申し上げます。

文献
 
© 2017 The Iron and Steel Institute of Japan

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