Tetsu-to-Hagane
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Casting and Solidification
Introduction of Dendrite Fragmentation to Microstructure Calculation by Cellular Automaton Method
Shugo Morita Yuji MikiKeigo Toishi
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2018 Volume 104 Issue 10 Pages 559-566

Details
Synopsis:

Control of solidification microstructure is necessary because the microstructure affects material characters. In order to predict solidification microstructure, effect of fragmentation was indirectly introduced to the cellular automaton method using Vcrit, which is threshold of molten steel flow. Calculations were carried out with various Vcrit (200 μms–1Vcrit≦1 mms–1) and the results were compared with the results of casting experiment using high carbon steel. Observed specimens were extracted from upper part and lower part of casting. Equiaxed grains and branched columnar grains were observed in the microstructure of upper specimen and just columnar grains were observed in the microstructure of lower specimen. Calculation results with Vcrit which is greater than 400 μms–1 show good agreement with microstructure of both observed specimens qualitatively. The microstructures were calculated because flow velocity of molten steel around upper specimen was much greater than flow velocity around lower specimen. There is a possibility that solute transportation which induces the fragmentation occurs even if velocity of molten steel flow was in the order of 10–4 ms–1.

1. 緒言

凝固組織は,材料特性を変える因子の一つであり,その制御が望まれている。例えば,凝固組織微細化が結晶粒径の微細化に直結し,強度が向上する場合がある。また,凝固組織は材料特性を下げる鋳造欠陥の一つである中心偏析とも関係する。鋼の連続鋳造において発生する中心偏析は,過去の研究によりバルジングや凝固収縮による濃化溶鋼のサクション1,2),さらに近年では固液共存体の変形との関係が示唆されている3,4)。これらのうち特に凝固収縮による濃化溶鋼のサクションと固液共存体の変形に関しては最終凝固部,すなわち厚み中央部の凝固組織が大きく影響を与える。

最終凝固部の凝固組織が柱状晶であるか,等軸晶または分岐柱状晶(以下等軸晶的な組織とする)であるか,さらにその領域の広さといった情報は中心偏析の形態,偏析の強度を決定付ける因子の一つであり5),等軸晶的な組織の生成領域の予測精度向上が中心偏析の予測精度向上には必要である。

凝固過程における等軸晶的な組織の生成は,過冷領域での不均質核生成に加えてデンドライトの溶断にも起因する68)。デンドライト溶断は,工業的には電磁撹拌が溶鋼の動圧による溶断を用いて等軸晶率を制御する技術として確立されているが9,10),溶鋼の動圧だけでなく局所的な溶質の濃化などによっても発生し得るという報告がされている現象である。RuvalcabaらはAl-20 wt.%Cuを対象としてX線を用いた直接観察を行い,デンドライト樹間における局所的な溶質の濃化部においてデンドライトの溶断が発生していることを確認した11)。またLiottiらは局所的な濃化は固液界面の曲率の変化を誘起し,デンドライトの再溶解を促進する方向であることを指摘している12)

等軸晶的な組織の生成領域を予測する手法の一つにセルオートマトン法による凝固組織成長過程の数値計算が挙げられる13,14)。しかしながら固相の生成に関して,基本的なセルオートマトン法に含まれるメカニズムは不均質核生成のみであり,デンドライト溶断による等軸晶的な組織の生成は考慮されていないため,実際の鋼の組織予測に適用できる事例には制限がある。そこで本研究では,溶鋼流動によるデンドライトの溶断をセルオートマトン法へ間接的に導入することにより,セルオートマトン法を用いた等軸晶的な組織領域の予測精度を向上させることを目的とした。まず,デンドライト溶断による固相粒子生成モデルのセルオートマトン法への導入を検討した。次に固液共存域を流れる凝固収縮流を意図的に発生させる鋳型を用いた鋳造実験を高炭素鋼を用いて行い,観察された組織と計算パラメーターを変更した場合の計算結果とを比較することで検討したモデルの持つ性質について考察を行った。

2. 計算モデル

本研究では温度場・速度場の計算を予め行い,その計算結果を入力として溶断を考慮したセルオートマトン法により凝固組織形成過程の計算を行った。セルオートマトン法による計算では,凝固組織形成過程を計算するため要素サイズを100 μmオーダー以下にすることが望ましい。しかしながら,特に速度場の計算では要素サイズを小さくすると計算が不安定になり易い。本計算では,セルオートマトン法による計算では要素サイズを200 μm×200 μmとし,5 mm×5 mmのメッシュサイズで行った温度場・速度場の計算結果を内挿することで各時刻における温度・溶鋼流速の入力値とした。

2・1 温度場・速度場計算

温度場の計算に関しては式(1)に示すエネルギー保存式を用いた。凝固の取り扱いに関しては式(2)に示す等価比熱法を用いた。

  
T t = k ρ c ' ( 2 T x 1 2 + 2 T x 2 2 + 2 T x 3 2 ) (1)
  
c ' = c L d f s d T (2)

T[K]は鋼の温度,k[Wm−1K−1]は鋼の熱伝導率,ρ[kgm−3]は鋼の密度,c’[Jkg−1K−1]は凝固潜熱を含んだ等価比熱,c[Jkg−1K−1]は鋼の比熱,L[Jkg−1]は凝固潜熱,fs[−]は固相率である。速度場の計算は式(3)(4)で示される,溶鋼の運動方程式・質量保存式を用いて計算した。

  
ρ u i t + ρ u j u i x j = τ j i x j P x i μ K u i (3)
  
β f s t = u j x j (4)

u[ms−1]は溶鋼流速,τji[Nm−2]は粘性による応力テンソルの成分,P[Nm−2]は圧力,μ[Pa・s]は溶鋼の粘性係数,K[m2]は透過率,β[−]は凝固収縮率である。透過率Kについては式(5)に示されるKozeny-Carmanの式を用いて計算を行った15)

  
K = K 0 ( 1 f s ) 3 f s 2 (5)

K0はPermeability coefficientである。凝固計算の際,凝固収縮率4%として計算を行うことで凝固収縮流を発生させた。計算領域全体の質量保存については上側の領域外から流入をさせることで質量を保たせた。

Table 1に本計算において対象とした組成,伝熱計算・流動計算に用いた物性値の値を示す。本計算では高炭素鋼(JIS-S58C)を対象組成とした。鋳型−鋼間の熱伝達係数については熱伝達係数を変えた計算をあらかじめ5ケース行い,鋳物外側の熱電対の位置が液相線温度となった時刻から中心の熱電対の位置が固相線温度を15 K下回る時刻までの平均温度勾配が最も近い1100 Wm−2 K−1を用いた。

Table 1. Steel composition and parameters for flow and temperature calculation.
units units
Initial Composition Fe-0.59 wt. %C-0.27 wt. %Si-0.75 wt. %Mn Thermal conductivity (Liquid) 29.7 Wm–1K–1
Viscosity coefficient 1.00 × 10–3 Pa·s Thermal conductivity (Solid) 29.7 Wm–1K–1
Density (Liquid) 7.00 × 103 Kgm–3 Thermal conductivity (Mold) 30.0 Wm–1K–1
Density (Solid) 7.80 × 103 Kgm–3
Density (Mold) 7.00 × 103 Kgm–3 Solidification shrinkage 0.04
Specific heat (Liquid) 6.53 × 102 Jkg–1K–1 Heat transfer coefficient (Mold/Casting) 1100 Wm–2K–1
Specific heat (Solid) 6.53 × 102 Jkg–1K–1 Latent heat 2.51 × 105 Jkg–1
Specific heat (Mold) 7.03 × 102 Jkg–1K–1 Permeability coefficient 5.70 × 10–11 m2

2・2 核生成モデル

核生成モデルについては不均質核生成モデルのうち,式(6)を用いて表されるガウス分布に従う核生成・過冷度の関係を用いて表した16,17)

  
d n d ( Δ T ) = n max 2 π Δ T σ exp [ 1 2 ( Δ T Δ T max Δ T σ ) 2 ] (6)

ここでn[m−2]初晶の核密度,ΔT[K]は溶鋼の過冷度,nmax[m−2]は初晶の最大核密度,ΔTσ[K]は標準偏差,ΔTmax[K]は平均過冷度である。式(6)を用いて計算を行うために必要なパラメーターをTable 2に示す。不均質核生成に関するパラメーターについては,Luoら18)の計算で用いられた高炭素鋼についての値を用いた。

Table 2. Used parameters for calculation of cellular automaton method.
units
Max nucleation undercooling in the bulk 11.5 K
Standard deviation in the bulk 1.5 K
Nucleation density in the bulk 2.22 × 106 m–2
Max nucleation undercooling at surface 1.0 K
Standard deviation at surface 0.1 K
Nucleation density at surface 6.53 × 105 m–1

2・3 成長モデル

固相の成長に関して,式(7)を用いて表現されるKGTモデルを19,20)用いて得られた過冷度と成長速度の関係を多項式近似することで利用した。

  
Δ T = { m i c 0 i ( 1 1 1 ( 1 k i ) I v ( P c ) ) } + 2 Γ R (7)

添字iは溶質元素を表す。m[K]は液相線勾配,c0は平均組成,k[−]は分配係数,Pc[−]は溶質ペクレ数,Γ[Km]はGibbs-Thomson係数,R[m]はデンドライト先端半径である。S58Cについて計算する際に用いたパラメーターをTable 3に示す。また得られた多項式を式(8)に示す。

  
v ( Δ T ) = a 1 Δ T + a 2 Δ T 2 + a 3 Δ T 3 + a 4 Δ T 4 (8)
Table 3. Used parameters to get relationship between growth velocity and undercooling with KGT model.
units units
Partition coefficient of C 0.35 Diffusion coefficient of Mn in liquid phase 7.38 × 10–8 m2s–1
Partition coefficient of Si 0.54 Liquidus slope of C –84 K wt.%–1
Partition coefficient of Mn 0.78 Liquidus slope of Si –13 K wt.%–1
Diffusion coefficient of C in liquid phase 1.05 × 10–7 m2s–1 Liquidus slope of Mn –4.8 K wt.%–1
Diffusion coefficient of Si in liquid phase 2.72 × 10–8 m2s–1 Gibbs-Thomson coefficient 1.96 × 10–7 Km

v[ms−1]はデンドライト先端の成長速度,a1[ms−1K−1],a2[ms−1K−2],a3[ms−1K−3],a4[ms−1K−4]はそれぞれ多項式近似に用いた1次,2次,3次,4次の項の係数であり,それぞれa1=3.0×10−4 ms−1K−1,a2=1.0×10−5 ms−1K−2,a3=5.0×10−5 ms−1K−3,a4=3.0×10−7 ms−1K−4を用いた。また,セルオートマトン法における固相成長についてはdecentered square growth algorithm10)を用いた。

2・4 デンドライト溶断による固相粒子生成の考慮

不均質核生成に加えて,本研究では固相デンドライトの溶断による固相粒子の生成を考慮した。Esaka and Tamuraは,透明有機物を用いた撹拌実験により,液相の流速が低流速な領域では観察される等軸晶の数は少なく,ある程度の流速の領域では観察される等軸晶の数が急速に増加することを示している21)。従って,デンドライト溶断はある程度溶鋼流速が増加するとその頻度が急激に増加すると考えられる。本研究では,その傾向を単位時間当たりに発生する核密度の増分として式(9)(10)に示す式を用いた。

  
Δ n f = Δ n f,max ( 1 1 exp ( | V | V crit A ) h ( V ) + 1 ) (9)
  
h ( V ) = ( 1 1 exp ( | V | V crit B V crit ) + 1 ) (10)

Δnf[m−2s−1]は単位時間当たりに発生する核密度,Δnf,max[m−2s−1]は単位時間当たりに発生する核密度の最大値,V[ms−1]は溶鋼流速,Vcrit[ms−1]は溶断によって増加する核密度が急増する流速でありV=VcritにおいてΔnf=0.33 Δnf,maxとなる。この0.33という値は用いた関数の性質上出る係数であり物理的な意味を持たない。A[ms−1],B[−]はΔnfの増加傾向,それぞれΔnfが急増した後の増加傾向,Δnfが急増する際の傾きを決める定数である。本研究では溶断による核密度が急増する指標であるVcritを変化させることによるモデルの性質を調査するため,一定の値(A=0.021,B=0.07)を用いた。

3. 観察,計算手法

3・1 観察手法

Fig.1に鋳造実験の模式図を示す。実験は,50 kg鋼塊の鋳造が可能である鋳型を用いて行った。凝固収縮分を補うため,鋳型の上には断熱板を内貼りした押し湯を設置した。鋳型内部の底には,厚さ20 mmの鉄板を底板として設置した。鋳造過程の温度勾配を得るため,鋳型壁面に穴を開けR熱電対を鋳型内部に設置し測温を行った。

Fig. 1.

Experimental apparatuses and schematic of specimen.

溶解は誘導加熱式の大気炉を用いて行い,目標温度到達後タンディッシュに注湯した。目標温度は平居の式より液相線温度を1754 Kと推定し,加熱度が160 Kとなる1914 Kとした。 注湯後,湯面の凝固を防止するため押し湯上部に焼き籾を投入することで保温を行った。また実験中は,大気−鋳型間の対流熱伝達率を一定にするため,扇風機を用いて鋳型周りの大気を入れ替えた。

鋳造後,得られた鋳物のうち下端から140 mm,450 mmの横断面を切り出し飽和ピクリン酸水溶液にて腐食した後,光学顕微鏡を用いて組織観察を行った。観察領域は冷却条件を対称とみなし,断面の4分の1を観察した。

3・2 計算手法

伝熱計算は3次元非定常計算を行った。計算領域は実験系に合わせたサイズで計算を行った。メッシュサイズは5 mm×5 mmとした。初期温度は実験時の熱電対を用いた温度測定結果から溶鋼を1847 K,鋳型温度を291 K,断熱板,焼き籾,空気の温度を281 Kとした。溶鋼初期温度については注湯直後の熱電対の値を,その他の温度については注湯直前に熱電対が示した値を用いた。組織形成計算の計算領域は実験によって観察された横断面に対応する面を計算領域とし,メッシュサイズ200 μm×200 μmの2次元平面で行った。固相デンドライトの溶断による固相粒子の生成を考慮するため導入した式(9)(10)の性質と妥当性を評価するため,Vcritを1 mms−1から200 μms−1まで,200 μms−1毎にcase1からcase5の5水準計算を行い,それぞれの計算結果と観察された組織の等軸晶的な組織の面積率を比較した。各水準での単位時間当たりに発生する核密度ΔnfVcritの関係をFig.2に示す。Δnf,maxは1.0×105 m−2s−1とした。case1からcase5何れの水準においても,溶鋼流速がVcritとなったときΔnf=3.3×104 m−2s−1となる関数である。

Fig. 2.

Functions show the relationship between nucleation density increment by fragmentation and flow velocity of molten steel (case1-cas5).

4. 観察・計算結果

4・1 観察結果

鋳造された試料の底部から450 mmの位置(上部試料)の横断面の組織写真をFig.3(a),140 mm(下部試料)の写真をFig.3(b)に示す。下部試料では熱流方向と考えられる表層から試料中央に向かって柱状晶が成長している組織が主であるのに対して,上部試料では中央部分においてデントライト主軸の方向が鋳型に垂直な方向からずれた,かつ粒状に近い等軸晶的な組織が見られた。またFig.3(c)に(a)で見られた等軸晶的な組織をそれぞれ縁どったものを示す。上部試料では,等軸晶的な組織が見られた領域の面積率は11%であった。

Fig. 3.

Optical micrograph of specimens (cross section): (a) Upper part (b) Lower part (c) Manually traced grains in upper part

Fig.4に縁どった等軸晶的な組織の粒径分布を示す。縁どられた粒は19個であり,粒径については測定する粒のデンドライト主軸の長さとすると,最大粒径は16 mmであった。本研究において導入したモデルでは溶断によって固相粒子が生成されたと判定された場合,ある大きさの初期粒径を持って生成される。観察結果では,試料上部における最終凝固部の等軸晶的な組織の粒径は最大16 mmであることから初期粒径は最大粒径を16 mmとした乱数を用いて決定した。実際の凝固過程では固相同士が合体し一つの粒のように見えることがあるのに対して計算では固相デンドライトの優先成長方向が異なればはっきりと粒が分かれて表示される。結果として実際の粒径分布を用いた場合,観察結果に見られるような大きな固相粒はほとんど見られず,小さな固相粒で最終凝固部が埋められ実際の組織からは離れた組織が計算されると考え,その差を小さくするため,本計算では観察された粒径分布では無く乱数を用いて初期粒径を決定した。

Fig. 4.

Distribution of grain diameter.

4・2 計算結果

伝熱計算による温度分布を基にして,計算された実験と同位置における横断面の組織の例(Vcrit=400 μms−1)をFig.5に示す。(a)は上部試料,(b)は下部試料の計算結果である。上部試料では最終凝固部である左下に等軸晶的な組織が見られるのに比べて下部試料では最終凝固部まで柱状晶組織が得られている。

Fig. 5.

Examples of calculation result. (Δnf,max=105 m–2s–1, Vcrit=0.4 mms–1)

Fig.6にcase1からcase5の各水準で計算を5回行った際の,溶断によって生成された固相が占める領域の頻度コンター図を上部試料,下部試料について示す。セルオートマトン法では,核密度に対して確率的に固相生成が決まるため,同じ条件でも全く同じ計算結果とはならない。従って各水準において5回ずつ計算を行い,溶断によって生成した領域が占める面積率を評価した。Vcritが少なくなるほど,左下に溶断によって生成した固相粒が高確率で存在し,その領域も広がっている。また上下試料の組織の差の再現性に着目すると,特にcase1からcase4,すなわちVcritが400 μms−1以上では上部試料では等軸晶的な組織が見られ,下部試料ではほとんど柱状晶という組織の差を定性的に再現している。

Fig. 6.

Occupation frequency of microstructure due to fragmentation (frequency is from 0 to 5).

Fig.7に上部試料について,各水準での溶断によって生成した固相粒が5回の試行のうち3回以上占められていた領域の面積率と,観察された等軸晶的な組織の面積率を示す。今回の水準ではcase4が10.8%であり最も観察結果に近い値を示した。

Fig. 7.

Area ratio of grains created by fragmentation.

5. 溶断による固相粒生成モデルの性質

初めに,確率的に溶断による固相の生成が決まる本モデルについて,5回の試行での結果の収束性について検討する。5回の試行における計算結果の収束性を確認するため,case4の上部試料についての計算を20回行い,それらを比較した結果をFig.8に示す。(a)は試行回数5回のうち溶断によって等軸晶的な組織がその領域を占めた回数,(b)はその試行回数を20回とした場合を示したコンター図である。(a)のうち,3回以上等軸晶的な組織であった領域の面積率は10.8%であるのに対し(b)のうち10回以上等軸晶的な組織であった領域の面積率は9.8%であり,差は1%であった。従って5回の試行の結果はある程度収束した結果を表していると考えられる。

Fig. 8.

Occupation frequency of microstructure due to fragmentation. (a) Frequency is from 0 to 5 (b) Frequency is from 0 to 20

次に,case1からcase4,すなわちVcrit≧400 μms−1の計算結果が上下の組織差を再現した要因について考察する。Fig.9は(a)上部試料位置,(b)下部試料位置それぞれの横断面において計算上固液共存要素に隣接し,液相線温度以下である要素の平均溶鋼流速Vaveを示したものである。本計算では,流速計算結果は全てのcaseにおいて同じ値となる。点線はcase4のVcritであり,400 μms−1を示している。case1からcase5の中で最も観察組織に近い組織が計算されたcase4では下部試料におけるVaveVcrit(400 μms−1)をほとんど上回らず,上部試料におけるVaveは特に凝固末期においてVcritを上回っていた。これは,凝固末期において上部試料位置を通過する凝固収縮流の流路が下部試料位置を通過する溶鋼の流路に比べて狭くなることに起因すると考えられる。この凝固末期におけるVaveの差が本計算における上部試料の組織と下部試料の組織の差を生じさせたと考えられる。

Fig. 9.

Average velocity of molten steel related with fragmentation. (a) Upper part (b) Lower part

最後に今回計算された流速(400 μms−1以上)を持った溶鋼流動によってデンドライト溶断が発生する可能性を検討する。今回計算された流速のオーダーは電磁撹拌に関する報告などで指摘されているオーダーに比べれば小さい。従って動圧による溶断が発生する可能性は低いと考えらえる。一方,溶質元素の拡散係数はそれぞれ炭素は1.05×10−7 m2s−1,マンガンは7.38×10−8 m2s−1,シリコンは2.72×10−8 m2s−1であり平方根を用いて1次元について見積もると,1次元ではそれぞれ炭素324 μms−1,マンガン272 μms−1,シリコン165 μms−1と見積もられる。従って,324 μms−1より大きな流速であれば溶質の流動による輸送の影響が大きくなり,局所的な再溶解が発生する可能性がある。溶質の移動について,流動よる影響と拡散による影響の関係は式(11)を用いて表される無次元数である溶質ペクレ数PCを用いても評価することができる。

  
P C = V L 2 D (11)

ここで,V[ms−1]は流速,L[m]は代表長さ,D[m2s−1]は拡散係数である。Lに凝固末期のデンドライト1次アーム間隔オーダーである1 mm,Dに炭素の拡散係数である1.05×10−7 m2s−1,またVにはそれぞれ上部試料,下部試料におけるVaveの最大値である1.0 mms−1,0.3 mms−1を代入すると溶質ペクレ数はそれぞれPC=0.98,0.26であった。従って,無次元数を用いた評価においても上部試料位置では下部試料位置に比べて溶鋼流動の影響が大きいと言える。Fig.10に流動による溶質輸送から溶質濃化,デンドライト溶断までの模式図を示す。流動による溶質輸送の影響が小ければ,拡散により溶質濃度は均一に保たれる傾向にあるが,流動による溶質輸送の影響が大きくなれば,流動の上流から下流に溶質が流され,結果として局所的に溶質濃度の高い領域が形成されることで再溶解が進行し,デントライトが溶断する可能性がある。

Fig. 10.

Schematic of dendrite remelting induced by solute localization.

6. 結言

凝固組織,特に等軸晶的な組織の予測精度向上を目的としてセルオートマトン法を基礎として凝固組織予測モデルを構築した。また,ラボスケールで行った鋳造実験結果と比較することで以下の知見を得た。

・本計算では,Vcrit≧400 μms−1とした計算において観察された上部試料と下部試料の組織の特徴を定性的に再現した。これは,上下の凝固界面付近の流速差に起因するものと考えられる。

・本計算において観察組織を再現したVcritは電磁撹拌などで報告されている流速に比べて小さい値である。溶質拡散の影響と対流による溶質輸送の影響を考えると,Vcritの値は対流によって生じる局所的な溶質濃化に起因する再溶解・デンドライト溶断を再現するための値であると考えられる。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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