鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
特集「熱間圧延ロールの課題の克服」
熱間薄板圧延時の絞り込みのシミュレーション
小森 和武
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2018 年 104 巻 12 号 p. 742-749

詳細
Synopsis:

In hot sheet rolling, the sheet end often snakes, contacts the side guide, buckles, and goes into the roll gap, while the overlapped sheet end is squeezed. Although many simulations on sheet snaking are reported, very few researches have been performed to simulate both the sheet snaking and sheet buckling. In this study, we proposed a combined method to simultaneously simulate the sheet snaking through the rigid-plastic FEM and to analyze the sheet buckling by the elementary theory of buckling. The in-plane lateral load and the in-plane bending moment were assumed at the surface of the region for the simulation by the rigid-plastic FEM. The amount of snaking at the sheet end simulated by the rigid-plastic FEM agreed with that calculated from the analysis by the elementary theory. Finally, we clarified the effects of rolling conditions on the occurrence of squeezing, such as the difference in the sheet thickness in the roll axis direction, the difference in the roll gap in the roll axis direction, and the amount of the off-center.

1. 緒言

熱間薄板圧延においては,絞り込みと呼ばれる以下の現象がしばしば発生する。すなわちまず,板後端がi番目の圧延機のロール間隙を通過した後に蛇行する。次に,板後端がi+1番目の圧延機の入側側面ガイドに接触すると共に座屈する。更に,座屈により折り重なった板後端がi+1番目の圧延機のロール間隙内に絞り込まれる。ここで,板が座屈すれば,板がロール間隙内に絞り込まれることは明らかである。そこで本研究では,絞り込みが板の蛇行と板の座屈により起きると考える。

絞り込みが発生した時,i+1番目の圧延機のロールが非常に損傷する1)。そのため,絞り込みの前半である板の蛇行に関する多数の研究28)が行われている。しかしながら,絞り込みの全体である板の蛇行および板の座屈を取り扱った研究9)は殆ど無い。ここで文献9)においては,板後端が入側側面ガイドから受ける面内横荷重は,経験式で与えられており,解析的に与えられていない。すなわち,板の蛇行および板の座屈を解析的に取り扱った研究は,著者の知る限り全くない。

本研究では,剛塑性FEMによる板の蛇行解析と座屈の初等理論による板の座屈解析を組み合わせた解析法を提案する。そして,その解析法を使用して絞り込みのシミュレーションを行うと共に,各種圧延条件が絞り込みの発生に及ぼす影響を解析的に明らかにする。

2. 解析法

2・1 概要

Fig.1に解析全体の流れ図を示す。

Fig. 1.

Flow chart of entire simulation.

まず,板後端がi番目の圧延機のロール間隙を通過したと仮定する。そして,剛塑性FEMによる板の蛇行解析を行って,板後端がi+1番目の圧延機の入側側面ガイドから受ける面内横荷重を計算する。また,座屈の初等理論による板の座屈解析を行って,板の座屈荷重を計算する。ここで,面内横荷重が座屈荷重よりも大きい場合,絞り込みが発生すると判定する。一方,面内横荷重が座屈荷重よりも小さい場合,絞り込みが発生しないと判定する。

以上の解析を板後端がi+1番目の圧延機のロール間隙に侵入するまで繰り返す。

2・2 剛塑性FEMによる板の蛇行解析

2・2・1 概要

i番目の圧延機とi+1番目の圧延機の間の板を要素分割して有限要素解析を行うためには,膨大な計算時間が必要である。そのため,i+1番目の圧延機のロール間隙内の板のみを要素分割して有限要素解析を行う。ここで,解析領域の入口横断面に面内横荷重および面内曲げモーメントを与えて解析を行う。そして,解析領域よりも上流にある板が剛体であると仮定して,板後端の速度を求める。

Fig.2に剛塑性FEMによる板の蛇行解析における各ステップの流れ図を示す。

Fig. 2.

Flow chart of each step in simulation of sheet snaking using rigid-plastic FEM.

まず,板後端に面内横荷重が作用していないと仮定して解析を行って,板後端の面内横方向速度vy1を得る。板後端が入側側面ガイドに接触していない場合,次のステップに進む。

一方,板後端が入側側面ガイドに接触している場合,更に2回解析を行った後に次のステップに進む。すなわちまず,板後端に試行面内横荷重Fy2を仮定して解析を行って,板後端の面内横方向速度vy2を得る。次に,板後端に最適化された面内横荷重Fy2×vy1/(vy1vy2)を仮定して解析を行う。3章で検討するように,面内横荷重の変化に対する面内横方向速度の変化は,面内横荷重の大きさに拘わらず殆ど一定である。従って,無視できる板後端の面内横方向速度vy3を得る。言い換えると,板後端が入側側面ガイドに接触しているという境界条件が満足される解析結果を得る。

2・2・2 入口横断面の速度の境界条件

Fig.3に解析領域の入口横断面における速度の境界条件を示す。ここで,x軸を圧延方向に,y軸をロール軸方向に,そしてz軸を板厚方向に一致させる。また,上下のロール軸を含む平面の中心に原点を置く。ここで,bは板幅である。

Fig. 3.

Boundary condition for velocity at entrance cross section of region for simulation.

解析領域よりも上流にある板は,剛体であると仮定される。ここで,上流にある板が全く拘束されていない場合,解析領域の入口横断面において,次の3種類の力の境界条件が満足されなければならない。(a)軸荷重すなわち後方張力Fxがゼロである。(b)面内横荷重Fyがゼロである。そして,(c)面内曲げモーメントMzがゼロである。

Fig.3(a)に軸荷重に対応する速度の境界条件を示す。すなわち,入口横断面の圧延方向速度が一定値vxBであると仮定される。この仮定は板圧延の解析において普通に使用される。Fig.3(b)に面内横荷重に対応する速度の境界条件を示す。すなわち,入口横断面のロール軸方向速度が一定値vyBであると仮定される。そして,Fig.3(c)に面内曲げモーメントに対応する速度の境界条件を示す。すなわち,入口横断面の圧延方向速度がロール軸方向に線形に変化すると仮定される。ここで,板縁の圧延方向速度が±ΔvxB/2であると仮定される。

入口横断面の速度は,これらの3種類の速度の和であると仮定される。そしてこの仮定を使用した剛塑性FEMによる解析結果は,軸荷重すなわち後方張力Fxがゼロである,面内横荷重Fyがゼロである,そして面内曲げモーメントMzがゼロである,という3種類の力の境界条件を満足する。

2・2・3 面内横荷重および面内曲げモーメントの導入

軸荷重すなわち後方張力を解析において考慮するためには,荷重Fxと速度vxBの積である−FxvxBが通常の汎関数に追加される10)。同様に,面内横荷重および面内曲げモーメントを解析において考慮するためには,荷重Fyと速度vyBの積である−FyvyBおよびモーメントFyLと角速度ΔvxB/bの積である−FyLΔvxB/bが通常の汎関数に追加される。すなわち,次式で与えられる汎関数Φが通常の汎関数に追加される。

  
Φ=FyvyBFyLΔvxBb(1)

ここで,Lは板後端から解析領域の入口横断面までの距離である。なお,モーメントと角速度の積を通常の汎関数に追加することは既に行われている。例えば文献11)においては,汎関数の追加により,山形材圧延において圧延後の山形材の上下方向の反りが無くなるような,出口横断面の面外曲げモーメントが求められている。

式(1)を使用するためには,入口横断面のロール軸方向速度が一定値であるという拘束および入口横断面の圧延方向速度がロール軸方向に線形に変化するという拘束が与えられなければならない。ここで,式(1)において面内横荷重Fyを限りなくゼロに近づけた場合,Fy≈0の解析結果が得られることは明らかである。従って,これらの拘束を与えることは,面内横荷重Fyがゼロであると仮定することおよび面内曲げモーメントFyLがゼロであると仮定することを意味する。同様に,入口横断面の圧延方向速度が一定値であるという拘束を与えることは,後方張力Fxがゼロであると仮定することを意味する。

2・2・4 上流にある板の速度

文献2)に示された解析法を参照する。剛塑性FEMによる解析から求まった解析領域の入口横断面の速度を利用する。すなわち,入口横断面の座標(x, y)における速度を(vxB+vx, vy)とすれば,回転中心のx座標xrotおよび角速度ωは次式で与えられる。

  
xrot=yvyvx+x(2)
  
ω=vxy(3)

ここで,回転中心のy座標yrotをゼロと仮定する。式(2)および式(3)より,解析領域よりも上流にある板の座標(x, y)における速度(vxB+vx, vy)は次式で与えられる。

  
vxB+vx=vxB+yω(4)
  
vy=(xrotx)ω(5)

2・2・5 出口横断面の速度の境界条件

解析領域の出口横断面において,次のような速度の境界条件が仮定される。すなわち,圧延方向速度が一定値vxFである。一方,ロール軸方向速度および板厚方向速度がゼロである。

2・3 座屈の初等理論による板の座屈解析

2・3・1 撓みおよび応力分布

Fig.4に座屈解析のための板および境界条件を示す。ここで,x軸を圧延方向に,y軸をロール軸方向に,そしてz軸を板厚方向に一致させる。また,解析領域の出口横断面の中心に原点を置く。ここで,解析領域の出口横断面を有限要素解析における解析領域の入口横断面と一致させる。すなわち,座標軸方向は蛇行解析における座標軸方向と一致するが,解析を容易にするために,原点は蛇行解析における原点と一致しない。

Fig. 4.

Sheet for analysis of buckling and boundary conditions.

解析領域の出口横断面であるx=0面が固定端であり,板後端であるx=−L面および板縁であるyb/2面が自由端であると仮定する。ここで,解析を容易にするために,板の蛇行すなわち板のz軸回りの回転を無視する。板後端の板縁に入側側面ガイドから受ける面内横荷重をFyとする。面内横荷重Fyを受けた板の板厚方向への撓みwを,板の四辺の境界条件を考慮して次式のように仮定する。

  
w=(1cosπx2L)(1cosπ(y+b/2)2b)(6)

一方,面内横荷重Fyを受けた板の内部に生じる応力の分布を次式のように仮定する。ここで,x=x面に生じるせん断応力τxyによるせん断力が面内横荷重Fyに等しくなるようにせん断応力τxvを定める。また,x=x面に生じる曲げ応力σxによるモーメントが面内横荷重Fyによるモーメントに等しくなるように曲げ応力σxを定める。

  
σx=12Fytb3(x+L)y(7)
  
σy=0(8)
  
τxy=Fytb(9)

ここで,tは板厚である。

2・3・2 座屈条件

変形が微小である場合,座屈条件,すなわち安定が中立になる条件は次式で与えられる12)

  
D2L0b/2+b/2[(2wx2)2+(2wy2)2+2ν2wx22wy2+2(1ν)(2wxy)2]dxdy=12L0b/2+b/2[σxt(wx)2+σyt(wy)2+2τxytwxwy]dxdy(10)

ここで,Dは板の曲げ剛性であり,DEt3/12(1−v2)である。

式(10)に式(6),式(7),式(8),式(9)を代入して,煩雑な計算を実行すれば,最終的に次式が得られる。

  
D128[π3(3π8)bL3+π3(3π8)Lb3+2νπ2(4π)2Lb+2(1ν)π4Lb]=Fy8b[23(72π)(π+2)(π2)π2](11)

式(11)より,板後端から有限要素解析における解析領域の入口横断面までの距離Lと座屈荷重である面内横荷重Fyの関係が求められる。

3. 解析結果

Table 1に標準解析条件を示す。ここで,文献9)に示された圧延条件を参考に圧延条件が設定された。なお,ロール軸方向における中央面であるy=0面において,圧延前板厚および圧延後板厚が定義される。また,本研究は基礎的な研究であるため,板の蛇行解析においては板は剛完全塑性体であり,板の座屈解析においては板は弾性体である,と仮定される。また,ロールが剛体であると仮定する。ただし,圧延機の縦剛性係数すなわちミル定数を一般的な圧延機のそれに仮定する。なお,本章の解析結果において解析条件が明示されていない場合,Table 1に示された解析条件が使用される。

Table 1. Standard simulation condition.
Sheet thickness before rolling (mm)2
Sheet thickness after rolling (mm)1.6
Sheet width (m)1
Roll diameter (mm)600
Distance between two roll chocks (m)2
Distance between two rolling mills (m)5
Mill modulus (MN/mm)5
Flow stress of sheet (MPa)200
Friction shear factor between roll and sheet1
Young's modulus of sheet (GPa)150
Poisson's ratio of sheet0.3

Fig.5に標準解析条件における有限要素分割と座標軸を示す。有限要素解析では板の上下対称性が仮定される。また,ロール間隙内の板のみが要素分割される。ここで,圧延方向要素数を6,ロール軸方向要素数を20,そして板厚方向要素数を1にする。

Fig. 5.

Finite-element meshes for standard simulation condition and coordinate axes.

解析ではまず,定常解析が行われて噛み込み線が収束させられる。ここで,ロール軸方向における中央面であるy=0面の板厚を解析条件における圧延後の板厚に一致させる。次に,オイラー法により非定常解析が行われる。なお,Core i7を使用した通常のパソコンを用いた場合,一解析条件に対する平均計算時間は,10分程度である。

Table 2に板後端の試行面内横荷重が板後端の最適化された面内横荷重および板後端の面内横方向速度に及ぼす影響を示す。ここで,y=0面のロール円周方向におけるロール表面速度は1 m/sである。また,圧延前のロール軸方向における板厚差は10 µm/m,入側側面ガイド幅は板幅1000 mmである。そして,非定常解析における最初のステップにおける解析結果が示される。表より,板後端の試行面内横荷重Fy2の大きさに拘わらず,板後端の最適化された面内横荷重Fy2×vy1/(vy1vy2)がほぼ一定値になると共に板後端の面内横方向速度vy3が無視できるほど小さい。なお,あるステップにおける板後端の試行面内横荷重Fy2は,その前のステップにおける板後端の最適化された面内横荷重Fy2×vy1/(vy1vy2)に等しいと仮定される。

Table 2. Effect of trial in-plane lateral load at rear end of sheet on optimized in-plane lateral load at rear end of sheet and in-plane lateral velocity at rear end of sheet.
vy1 (m/s)Fy2 (N)vy2 (m/s)Fy2×vy1(vy1vy2) (N)vy3 (m/s)
0.014821 20000.01226811611–0.000059
0.014821 40000.00971311606–0.000053
0.014821 60000.00715511599–0.000044
0.014821 80000.00459011590–0.000031
0.014821100000.00201911577–0.000015
0.014821120000.00056211562 0.000005

3・1 蛇行量

Fig.6に板後端の圧延方向変位と板後端のロール軸方向変位の関係を示す。ここで本節においては,圧延機の縦剛性係数が無限大である,また入側側面ガイド幅が無限大である,と仮定する。また,ロール軸方向における単位長さ当たりのロール間隙差を5 µm/mから15 µm/mまで変化させる。板後端の圧延方向変位の増加と共に板後端のロール軸方向変位すなわち蛇行量は増加する。また,ロール間隙差の増加と共に板後端のロール軸方向変位すなわち蛇行量は増加する。

Fig. 6.

Relationship between displacement of sheet end in rolling direction and displacement of sheet end in roll axis direction.

初等理論によれば,板後端のロール軸方向変位uyBは次式で与えられる2)

  
uyB=12bΔhFhFuxB2(12)

ここで,hFは圧延後のロール軸方向における平均板厚,ΔhFは圧延後のロール軸方向における板厚差,そしてuxBは板後端の圧延方向変位である。

式(12)から計算される板後端の圧延方向変位と板後端のロール軸方向変位の関係をFig.6に補足する。ここで,圧延後の板厚差ΔhFを5 µmから15 µmまで変化させる。なお,板幅b=1 mであることおよび圧延機の縦剛性係数が無限大であることより,ロール間隙差5,10,15 µm/mと圧延後の板厚差5,10,15 µmはそれぞれ同じである。また,剛塑性FEMによる解析から求まる板後端の蛇行量は,初等理論から求まるそれに一致する。これより,剛塑性FEMによる板の蛇行解析の妥当性が確認された。

3・2 座屈荷重

Fig.7に板後端からロール軸までの距離と座屈荷重の関係を示す。板後端からロール軸までの距離の増加と共に,座屈荷重は急激に減少する。そして,その距離が2 m付近において座屈荷重は最小値になる。その後,その距離の増加と共に,座屈荷重は緩やかに増加する。一方,板厚の増加と共に,座屈荷重は増加する。

Fig. 7.

Relationship between distance from sheet end to roll axis and buckling load.

3・3 入側側面ガイド幅の影響

Fig.8に様々な入側側面ガイド幅における板後端からロール軸までの距離と座屈荷重または横荷重の関係を示す。圧延の進行と共に,板後端からロール軸までの距離は減少する。そのため,圧延の進行と共に,その距離が示す座標が横軸の左から右に移動するように,横軸の数値を設定する。Fig.8(a)およびFig.8(c)に圧延前のロール軸方向における単位長さ当たりの板厚差が10 µm/mおよび2 µm/mの場合の解析結果を示す。また,Fig.8(b)およびFig.8(d)に圧延前のロール軸方向における単位長さ当たりのロール間隙差が10 µm/mおよび2 µm/mの場合の解析結果を示す。

Fig. 8.

Relationship between distance from sheet end to roll axis and buckling load or lateral load in various inlet side guide widths.

図より,板後端からロール軸までの距離の減少と共に,横荷重は減少する。また,横荷重は入側側面ガイド幅の増加と共に増加する。従って,横荷重と座屈荷重が一致する板後端からロール軸までの距離は,入側側面ガイド幅の増加と共に減少する。

ここで文献9)においては,横荷重が入側側面ガイド幅に依存しないと仮定されている。そして,板後端からロール軸までの距離と横荷重の関係が経験式により与えられている。しかし,横荷重が入側側面ガイド幅に依存することは図より明らかである。従って,文献9)におけるこの仮定は不適切である。

板厚差が10 µm/mの場合およびロール間隙差が10 µm/mの場合,入側側面ガイド幅の大きさに拘わらず,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも大きい。すなわち,横荷重を表す曲線の端点が,座屈荷重を表す曲線よりも上にある。従って,これらの場合には,絞り込みが発生する。

板厚差が2 µm/mの場合,入側側面ガイド幅が板幅1000 mmならば,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも小さい。すなわち,横荷重を表す曲線の端点が,座屈荷重を表す曲線よりも下にある。従って,この場合には,入側側面ガイド幅を板幅にすれば,絞り込みが発生しない。

ロール間隙差が2 µm/mの場合,入側側面ガイド幅が1036 mmならば,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも小さい。すなわち,絞り込みが発生しない。しかしながら,入側側面ガイドが無い時,板の最大蛇行量は約19 mmである。そのため,圧延前の板縁と入側側面ガイドの隙間が18 mmである,幅が1036 mmの入側側面ガイドを使用することは殆ど意味がない。一方,入側側面ガイド幅が1036 mm以外ならば,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも大きい。すなわち,絞り込みが発生する。以上より,ロール間隙差が2 µm/mの場合には,幅が1036 mmの入側側面ガイドを使用することは殆ど意味がないため,絞り込みが発生すると考える。

Fig.8より,入側側面ガイド幅が板幅に等しい場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重が座屈荷重よりも小さければ絞り込みが発生しない。また,横荷重が座屈荷重よりも大きければ絞り込みが発生する。従って,絞り込みの有無を判定するためには,入側側面ガイド幅が板幅である場合の解析のみを行えばよい。そこで,次節以降では,入側側面ガイド幅が板幅である場合の解析結果のみを示す。

3・4 板厚差の影響

Fig.9に様々な圧延前のロール軸方向における板厚差に対する板後端からロール軸までの距離と座屈荷重または横荷重の関係を示す。図より,板厚差の増加と共に,横荷重は増加する。

Fig. 9.

Relationship between distance from sheet end to roll axis and buckling load or lateral load in various differences in sheet thickness.

板厚差が1 µm/mおよび2 µm/mの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも小さい。すなわち,これらの場合には,絞り込みが発生しない。一方,板厚差が5 µm/mおよび10 µm/mの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも大きい。すなわち,これらの場合には,絞り込みが発生する。

3・5 ロール間隙差の影響

Fig.10に様々な圧延前のロール軸方向におけるロール間隙差に対する板後端からロール軸までの距離と座屈荷重または横荷重の関係を示す。図より,ロール間隙差の増加と共に,横荷重は増加する。

Fig. 10.

Relationship between distance from sheet end to roll axis and buckling load or lateral load in various differences in roll gap.

ロール間隙差が1 µm/mの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも小さい。すなわち,この場合には,絞り込みが発生しない。一方,ロール間隙差が2 µm/m,5 µm/m,そして10 µm/mの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも大きい。すなわち,これらの場合には,絞り込みが発生する。

Fig.9およびFig.10より以下のことが言える。板厚差の値とロール間隙差の値が等しい場合,ロール間隙差のみを仮定した場合の横荷重は,板厚差のみを仮定した場合の横荷重よりも大きい。従って,板厚差の値とロール間隙差の値が等しい場合,ロール間隙差のみを仮定した場合の絞り込みが発生する可能性は,板厚差のみを仮定した場合のそれよりも大きい。すなわち例えば,板厚差が2 µm/mの場合には,絞り込みが発生しないが,ロール間隙差が2 µm/mの場合には,絞り込みが発生する。

3・6 オフセンタ量の影響

Fig.11に様々なオフセンタ量,すなわち圧延前の板の幅方向における中心とロールの軸方向における中心のずれ量,における板後端からロール軸までの距離と座屈荷重または横荷重の関係を示す。図より,オフセンタ量の増加と共に,横荷重は増加する。ここで,オフセンタの方向と板後端の回転方向は一致する。また,入側側面ガイド幅が板幅であるため,オフセンタ量の増加に伴うロール間隙差の増加と共に,横荷重が増加する。

Fig. 11.

Relationship between distance from sheet end to roll axis and buckling load or lateral load in various amounts of off-center.

オフセンタ量が1 mmおよび2 mmの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも小さい。すなわち,これらの場合には,絞り込みが発生しない。一方,オフセンタ量が5 mmおよび10 mmの場合,板が入側側面ガイドに接触した時,横荷重は座屈荷重よりも大きい。すなわち,これらの場合には,絞り込みが発生する。

4. 結言

熱間薄板圧延における絞り込みのシミュレーションを行って,以下の結果が得られた。

(1)剛塑性FEMによる板の蛇行解析と座屈の初等理論による板の座屈解析を組み合わせた解析法を提案した。

(2)剛塑性FEMによる解析において,解析領域の表面に面内横荷重および面内曲げモーメントを仮定する解析法を提案した。

(3)剛塑性FEMによる解析から求まる板後端の蛇行量は,初等理論から求まるそれに一致した。

(4)板厚差,ロール間隙差,そしてオフセンタ量等の圧延条件が絞り込みの発生に及ぼす影響を明らかにした。

謝辞

本研究は日本鉄鋼協会の熱間圧延ロール研究会における研究活動の一部であり,貴重な御助言を賜った同研究会の委員の皆様に感謝致します。また,絞り込みの動画を提供された新日鐵住金(株)の鷲北芳郎氏に感謝致します。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top