鉄と鋼
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特集「熱間圧延ロールの課題の克服」
多合金白鋳鉄の耐摩耗特性に及ぼすミクロ組織の影響
山本 郁 笹栗 信也松原 安宏
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2018 年 104 巻 12 号 p. 750-757

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Synopsis:

In this study, multi-component white cast irons containing various the amount and combination of MC, M2C and M7C3 carbides were heat treated by hardening and tempering, and their abrasive wear behavior was investigated using Suga type abrasion wear tester.

The wear rate (Rw) decreased greatly with an increase in macro-hardness and slightly with volume fraction of retained austenite (Vγ) regardless of the kinds of carbide or heat treatment conditions. In order to clarify the effect of carbide types on the abrasive wear resistance, the subzero treatment was conducted to get the specimens with very low Vγ and adjusted to almost the same hardness. It was found that in spite of a decrease in total amount of carbides, the specimen containing only MC carbide showed almost same Rw as the basic alloy specimen in which MC and M2C carbides coexisted. On the other hand, Rw increased as the M2C carbide amount increased from that of basic alloy specimen.

1. 緒言

多合金白鋳鉄は,Cr,Mo,W,V等の強い炭化物形成元素を多量に含有しており,凝固中に複数の炭化物が晶出するとともに,その後の熱処理で微細な二次炭化物が析出し,著しい二次硬化を示すことから優れた耐摩耗性を有する。このため,従来の高クロム鋳鉄に代わって鉄鋼熱間圧延用ロール材等に適用されている。本鋳鉄の優れた耐摩耗性は,晶出炭化物の種類や量および熱処理条件によって大幅に変化する基地組成に依存する。これまで合金組成を大きく変化させた本鋳鉄を用いて,凝固組織15),状態図6),変態挙動や熱処理特性710),さらに機械的特性1114)に関して系統的な研究が行われてきた。しかし,耐摩耗性とミクロ組織との関係については十分に明らかになっているとは言い難い。そこで本研究では,多合金白鋳鉄の主な構成相である晶出炭化物の種類や量および基地のミクロ組織とアブレージョン摩耗特性の関係を主眼に調査を行った。

2. 実験方法

2・1 実験試料

本研究に用いた試料の化学組成をTable 1に示す。試料No.1を基本組成とし,表中に示した炭化物が凝固時に晶出する15)ように各合金組成を調整した。各試料は目標成分に配合した純鉄,フェロアロイ,加炭材を用いた原材料30 Kgを高周波誘導炉で溶解し,鋳込温度1823 Kで55×55×200 mmの実体部と押湯部からなるYブロック形状の砂型に注湯して作製した。Yブロックから50×50×7 mmの摩耗用試験片および15×15×7 mm熱処理実験用試験片等を切り出した。

Table 1. Chemical compositions of specimens (mass%).
CCrMoWVSiMnCarbide type
No.11.975.015.022.064.970.540.48MC, M2C
No.21.975.014.964.985.100.490.47MC, M2C
No.31.975.184.882.016.950.540.46MC, M2C
No.41.965.002.172.005.000.480.46MC, M2C, M7C3
No.52.035.045.031.985.000.500.47MC, M2C
No.62.303.162.002.036.920.530.51MC
No.72.084.946.895.044.980.510.50MC, M2C
No.82.136.962.112.045.130.510.50MC, M7C3

2・2 組織観察および炭化物量測定

各試験片は,湿式研摩,バフ研摩を行った後,村上試薬(KOH:10 g,K3[Fe(CN)6]:10 g,H2O:100 cc)を用いて腐食し,光学顕微鏡により組織観察を行なった。また,炭化物晶出量は,村上試薬およびアルカリピクレート液(ピクリン酸:2 g,NaOH:25 g,H2O:75 cc)を用いた着色エッチング,さらに顕微鏡観察による炭化物の晶出形態の特徴から各炭化物を分離し,画像解析装置を用いて測定した。

2・3 熱処理実験

各試験片は,1223 K×18 ksで焼鈍した後,真空雰囲気中のシリコニット炉で1373 K×3.6 ksのオーステナイト化を施した後,扇風機による強制空冷により焼入れした。なお,一部の試料(試料No.5~No.8)については,強制空冷後直ちに液体窒素中に投入するサブゼロ処理を行った。次の焼戻処理はマッフル炉を用いて673~873 Kの各温度で12 ks保持後空冷した。

2・4 硬さ試験および残留オーステナイト量の測定

焼入れおよび焼戻し試料について,ビッカース硬さ試験機を用いて荷重294 N(30 kgf)でマクロ硬さを測定した。また,基地に対して荷重4.9 N(500 gf)でミクロ硬さも測定した。

残留オーステナイト量(Vγ)の測定は,X線回折法16)を用いて行なった。X線源としてMo-kα線を用い,50 kV-30 mAの条件で22°~44°(2θ)の範囲を回折した。Vγは,回転揺動試料台に取り付けた試験片にX線ビームを照射し,回折チャートから得られたγ(220),γ(311),α(200),α(220)における回折ピークの相対積分強度から算出した。

2・5 摩耗試験

本研究では,耐摩耗性の評価を2 body-typeのスガ式摩耗試験により行った。スガ式摩耗試験機の概略図をFig.1に示す。本試験機は,アブレッシブ材としてSiCサンドペーパー(粒度#180,平均粒径:約63 μm)を用い,摩耗輪の周囲に貼り付けたアブレッシブ材に試験片を荷重29.4 N(3 kgf)で押しつけながら往復させる機能を有する。試験片を連続400往復(摩耗距離24 m)させた後,アセトン中で超音波洗浄し,摩耗減量を計測した。以上の操作を8回繰り返して,摩耗距離と摩耗減量との関係を求めた。なお,摩耗試験における初期摩耗条件を一定にするため,予め平面研削盤により試験片表面の最大高さ粗さ(RZ)を3 μm以下に調整した。

Fig. 1.

Schematic view of Suga abrasion wear tester.

摩耗減量は試験片の表裏で同一条件の試験を繰り返し,その平均とした。耐摩耗性は摩耗速度(Rw(mg/m)=摩耗減量(mg)/摩耗距離(m))により評価した。

また,摩耗面の様相は摩耗試験後にSEMにより調査した。

3. 実験結果および考察

3・1 凝固組織

Fig.2に各試料の代表例として試料No.5~No.8の鋳放し組織写真を示す。本研究において基本組成の試料No.1およびNo.5は,共晶炭化物としてVを主体としたひも状および粒状のMCとMo,Wを主体としたラメラ状また板状M2Cが初晶オーステナイトデンドライト間隙に分散した組織を呈している。MoやW量を増加させたNo.2,No.7では,晶出炭化物はNo.1やNo.5と同じであるが,M2C量が増加している。V量が7%と高いNo.3,No.6ではMC炭化物が全面に分散し,M2C量が減少している。MoおよびW量が2%と低いNo.4とMoおよびW量が低くCr量が7%と高いNo.8は,M2C量の代わりにCrが主体で複雑形状のM7C3炭化物がかなりの量晶出している。

Fig. 2.

Microstructures of as-cast specimens.

各試料について各炭化物の晶出量を測定し,その結果をFig.3に示す。No.1はMCおよびM2C炭化物がそれぞれ約9%晶出しているが,その他の試料は合金組成により,各炭化物量に差がある。特に,No.6にはMC炭化物のみが約15%晶出し,No.8ではM2CのかわりにM7C3が13%晶出している。

Fig. 3.

Amount of crystallized carbides in each specimen.

3・2 熱処理特性

試料を1373 Kで3.6 ks保持して強制急冷により焼入れ後,673 K~923 Kの各温度で12 ks保持する焼戻し処理を行った。各試料のマクロ硬さおよび残留γ量(Vγ)と焼戻し温度との関係をFig.4に示す。試料No.1の焼入硬さは約800 HV30であるが,硬さは673 K焼戻しによりいったん700 HV程度に低下する。その後,温度の上昇と共に増大し,823 K付近で最高硬さ(HTmax)を示した後,再び降下する。焼戻硬さが焼入れ硬さより高くなるのは,いわゆる焼戻し二次硬化である。一方,Vγについては,焼入れ状態では約30%存在するが,焼戻し温度の上昇とともに漸次減少して773 K以上で減少割合が大きくなり,923 Kでは5%以下にまで低下した。試料No.3を除くその他の試料も,No.1と同様な焼戻し曲線が得られ,Vγは焼戻し温度の上昇に伴って減少する傾向は類似している。試料No.3は,他の試料と比較して焼入硬さおよびVγが著しく低い。これはフェライト形成元素であるVが7%と多く,V炭化物量が増して基地中のC量が少なくなるためである。しかし,焼入状態でVγが10%程度存在しているため,焼戻しを行うことにより二次硬化を示し,硬さは700 HV程度まで上昇する。

Fig. 4.

Relationship between hardness, amount of retained austenite (Vγ) and tempering temperature of specimens No.1 to No.4.

3・3 摩耗特性に及ぼすミクロ組織の影響

まず,晶出炭化物の種類や形態が類似している試料No.1からNo.4について,焼入れ試料を最高硬さ(HTmax)を示す焼戻温度で焼戻した試料,硬さは同じであるがVγが異なるHTmaxより低い温度(L-HTmax)および高い温度(H-HTmax)でそれぞれ焼戻した試料についてスガ式摩耗試験を行った。

摩耗試験結果の代表例として,各熱処理を施した試料No.1での摩耗試験結果をFig.5に示す。いずれの熱処理条件においても摩耗減量は摩耗距離の増加とともに直線的に増大する。熱処理別にみると,H-HTmax試料で最も摩耗減量が多く,L-HTmax試料で最も少ない。また,他の試料の摩耗結果でも摩耗減量は摩耗距離に比例して増加し,熱処理条件と摩耗減量との関係も同様であった。

Fig. 5.

Relationship between wear loss and wear distance of heat treated specimens (No.1).

そこで,耐摩耗性に及ぼす熱処理条件の影響を評価するために,摩耗減量−摩耗距離直線の傾き,すなわち摩耗速度(Rw:mg/m)を各試料について求め,試料のマクロ硬さとの関係をFig.6に示す。データに多少ばらつきはあるが,試料の種類や熱処理条件にかかわらず,Rwは硬さの上昇とともに減少し,耐摩耗性は増加する。これは一般的な耐摩耗用鋳鉄におけるスガ式摩耗試験の傾向13,17,18)と類似している。一方,Rwと熱処理試料のVγとの関係をFig.7に示す。RwはVγの増加とともに漸次減少している。なお,試料No.3でRwが非常に大きい試料がある。この試料は,Vγが7%程度であるにもかかわらず,硬さが約300 HV30と著しく低く,硬さの影響が強く現れたと考えている。

Fig. 6.

Relationship between wear rate (Rw) and macro-hardness.

Fig. 7.

Relationship between wear rate (Rw) and amount of retained austenite (Vγ).

以上の結果から,Rwには硬さと残留γ量の両者が影響しているものと考えられる。そこで,Rwをマクロ硬さおよびVγを加味して重回帰分析を行った結果,(1)式で示す関係が得られた。

  
RW=8.66×104HV302.36×103Vγ+1.04(mg/m)(R2=0.81)(1)

ここで,HV30はマクロ硬さ,Vγは試料の残留γ量(%)である。

Fig.8に実験値と(1)式から求められた摩耗量との関係を示す。実測硬さおよび残留γ量から得られた予測摩耗量は概ね実験値と一致としており,スガ式摩耗試験による摩耗特性は試料のマクロ硬さと残留γ量に密接に関係していると推察される。

Fig. 8.

Experimental wear rate vs. predicted wear rate.

Fig.6に示したRwとマクロ硬さの関係で,硬さが600~900 HVの範囲を拡大し,Fig.9に示す。炭化物の種類で分類すると,RwはM2C系のNo.2が最も大きく,MC系のNo.3が最も小さい。この結果から,M7C3炭化物量を増加させたNo.4はその中間にくることが推定される。Fig.9の中で,同一試料で硬さが同じであってもRwが異なったものがある。これは,熱処理条件の相違による基地組織差に起因すると考えられたので,Rwと基地のミクロ硬さとの関係を調査し,Fig.10に示す。Rwと基地硬さとの関係はマクロ硬さとの傾向と同様で,Rwは硬さの上昇とともに低くなり,耐摩耗性が大きくなる。この場合も,同一試料で基地硬さが同じでもRwが異なっており,これは基地中のVγの差と考えられる。これまでの研究で,熱処理後残存する残留γ量が耐摩耗性に大きく影響し,残留γは使用時に加工誘起マルテンサイト変態を起こし,表面が加工硬化することにより耐摩耗性が改善されることが明らかにされている19)。そこで,残留γが摩耗特性に影響を及ぼすことを明らかにするため,摩耗試験後の試料を用いて,摩耗表面から内部に向かって残留γ量の分布を測定した。一例として,試料No.1を773 Kで焼戻した試験片について,摩耗面から深さ方向に電解研磨(過酸化水素水:40 ml,エタノール:110 ml,H2O:20 ml,電流密度:0.5 A/cm2)により摩耗面の基地を順次除去し,Vγを測定した。Fig.11に摩耗面から深さ方向へのVγ分布を示す。摩耗試験前の試験表面におけるVγは25%程度(Fig.4)であるが,摩耗表面では6%程度しか存在しない。Vγは摩耗表面から深さ方向に増加していき,深さが10 μm以上になると試験前のVγと同程度である。これは試料表面の基地中に存在していた残留γが摩耗時に塑性変形応力を受けマルテンサイト化したため,表層部の硬さが増し,摩耗の進行を抑制したものと考えられる。したがって,同程度の基地硬さであっても,Vγの高い試料の方がRwが低下することがわかる。

Fig. 9.

Relationship between wear rate (Rw) and macro-hardness.

Fig. 10.

Relationship between wear rate (Rw) and micro-hardness of matrix.

Fig. 11.

Relationship between amount of retained austenite (Vγ) and distance from worn surface of specimen No.1 tempered at 773 K. (Suga wear test)

3・4 晶出炭化物の種類・量が摩耗特性に及ぼす影響

前節では,本合金の摩耗特性は基地の硬さやVγに大きく影響されることが明らかにされた。そこで,摩耗特性に及ぼす晶出炭化物の影響が明確となるように,基本合金組成である試料No.1において,合金量を大きく変化させた試料No.5~No.8を作製した。Table 1に示したように試料No.5は基本組成と同成分とした試料,No.6はMC炭化物のみ晶出させた試料,No.7はM2C量を基本組成試料から倍増させた試料,No.8はM2C炭化物の代わりにM7C3炭化物を晶出させた試料である。さらに,残留γ量や硬さの影響を無くすために,1373 Kからの焼入れ後ザブゼロ処理を行いVγを5%以下とし,その後の焼戻処理によりマクロ硬さを約800 HVになるように調整した試料を作製した。

これらの試料を用いてスガ式摩耗試験を行い,摩耗減量と摩耗距離の関係をFig.12に示す。この場合も,各試料とも摩耗減量は摩耗距離とともに直線的に増加した。これらの結果から得られたRwとマクロ硬さとの関係をFig.13に示す。いずれの試料においても,硬さは約800 HVであり,基地硬さについても同様にほぼ同じ780 HV0.5であること,また,Vγもいずれの試料も5%以下であることから,摩耗特性に及ぼす硬さや残留γ量の影響は非常に小さいと考えると,M2C炭化物量の多い試料No.7のRw:0.34 mg/mは,その他の炭化物が晶出した試料のRw(0.25 mg/m程度)と比較して著しく大きく,耐摩耗性の低いことがわかる。

Fig. 12.

Relationship between wear loss and wear distance of specimen No.5 to No.8.

Fig. 13.

Relationship between wear rate (Rw) and macro-hardness of tempered specimens after subzero treatment.

Fig.12からRwを求め炭化物総量との関係をFig.14に示す。晶出MC量がほぼ同等(8~10%)であるNo.5,No.7およびNo.8で比較すると,基本組成試料(No.5)に対してM2C炭化物量が増加することによって耐摩耗性が低下する。一方,M2C炭化物の代わりにM7C3炭化物を晶出させることで,耐摩耗性が若干向上することもわかる。また,MC炭化物のみ晶出した試料(No.6)では,基本組成試料と比較して炭化物総量が減少するにもかかわらず,耐摩耗性は同程度である。

Fig. 14.

Relationship between wear rate (Rw) and total amount of eutectic carbide in specimens No.5 to No.8.

試料No.5について,摩耗表面のSEM観察を行った結果をFig.15に示す。全体的に摩耗方向に沿って摩耗痕が得られており,表面の様相は各試料で大きな差異は見られなかった。しかし,写真中に点線で囲んで示すようにchippingと思われる組織の脱落が観察された。また,摩耗表面の状態を詳細に調査するため,摩耗部断面ミクロ組織を観察し,Fig.16~Fig.18に示す。写真全体から,基地部分が摩耗しているだけでなく粒状やひも状に観察されるMC炭化物が脱落していることが分かる(Fig.16)。M2C量の多いNo.7の場合,組織が大きく脱落している部分およびM2C炭化物に沿ったき裂の進展が確認された(Fig.17)。また,M2C炭化物の代わりにM7C3炭化物が晶出しているNo.8では,No.7と同様基地中に亀裂は生じていたが,M2C炭化物の場合とは異なり,炭化物に沿った亀裂の伝播や大きな組織の脱落は見られなかった(Fig.18)。

Fig. 15.

SEM photograph of worn surface of specimen No.5.

Fig. 16.

Cross-sectional microstructure of worn surface of specimen No.6.

Fig. 17.

Cross-sectional microstructure of worn surface of specimen No.7.

Fig. 18.

Cross-sectional microstructure of worn surface of specimen No.8.

以上の結果を総合すると,じん性が低くラメラ状に成長しているM2C炭化物が多く晶出している場合は,摩耗の進行中にM2C炭化物界面で亀裂が生じ,それが炭化物間を伝播することにより,基地部分と共に大きく脱落し,摩耗減量が増大すると考えられる。一方,M7C3試料の場合は,炭化物の脱落は共存するMCのみである。M7C3炭化物はM2C炭化物と同様に共晶成長するものの,M2C炭化物とは異なり,共晶炭化物同士が内部で連結した形態を有するため,(γ+M7C3)共晶として強度とじん性があり,亀裂の進展に及ぼす影響は小さく,大きな脱落が生じにくく,その結果として摩耗特性が向上したと推定される。以上のことから,炭化物の影響は種類だけではなく,共晶を形成する形態も摩耗特性に大きく寄与すると考えられる。

これらの結果を踏まえ,Rwと基地硬さ,炭化物の量および種類の関係を重回帰分析すると,次式が得られた。

  
RW=0.243.03×105HVmat+1.93×103MC%+5.70×103M2C%+0.45×103M7C3%(R2=070)

ここで,HVmatは基地硬さ(HV0.5),MC%,M2C%,M7C3%は各炭化物の晶出面積率である。

共晶炭化物の形態までは加味できなかったが,この結果で,本研究組成範囲内でのRwと炭化物の種類と量および基地硬さの関係を明確することができた。

4. 結言

多合金白鋳鉄の硬さ,残留オーステナイト量(Vγ)および炭化物の種類,量を変化させ耐摩耗特性に及ぼす影響を調査し,次に示す結果が得られた。

(1)多合金白鋳鉄のスガ式摩耗試験では,摩耗減量は摩耗距離に比例して増加する。

(2)摩耗速度は基地組織による影響が大きく,硬さおよびVγを関数とした相関関係が得られ,耐摩耗性は硬さの増加およびVγの増加とともに向上する。

(3)基地中の残留オーステナイトは,摩耗中に加工誘起マルテンサイト変態して摩耗表面の硬さが上昇するため,耐摩耗性を改善させる。

(4)組織中にMCおよびM2C炭化物が分散する基本組成試料に対して,M2C量の増加は耐摩耗性を低下させる。一方,M2CのかわりにM7C3炭化物を晶出させると耐摩耗性は若干向上する。また,MC炭化物のみが晶出した試料は総炭化物量が減少したにもかかわらず,基本組成試料と同程度の耐摩耗性を示す。

(5)摩耗速度(Rw)と基地硬さ,炭化物の種類および量には次式の相関関係が得られた。

  
RW=0.243.03×105HVmat+1.93×103MC%+5.70×103M2C%+0.45×103M7C3%
文献
 
© 2018 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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