Tetsu-to-Hagane
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Casting and Solidification
Effects of Steel Grade, Austenite Structure and Cooling Conditions on the Deformation of Square Section Bloom of Steel Cast Continuously and Stress Generation in the Bloom by Immersion Cooling
Kohichi Isobe
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2018 Volume 104 Issue 3 Pages 128-137

Details
Synopsis:

In recent years, the treatment of inverse-transformation has been adopted in the HCR (Hot Charge Rolling) process of CC (Continuous Casting)-Blooming for steel production to prevent surface cracking on blooming. However, the quenching of bloom in this treatment occasionally causes some troubles, such as distortion of bloom and quenching crack. On the behavior of deformation of bloom and the generation of stress in cross section of bloom, the effects of cooling conditions of immersion cooling (quenching), steel grade and size of austenite grain were analyzed in order to prevent these troubles by the model of metallo-thermo-mechanics in this study. The results obtained from this analysis are as follows: The behavior of deformation of bloom and the distribution of stress in cross section of bloom by quenching is affected by steel grade and size of austenite grain caused by the difference in the distribution of amount of both diffusion and no diffusion transformation accompanying expansion and heat generation by latent heat in cross section of bloom.

1. 諸言

鋼の連続鋳造・分塊圧延工程では省エネルギーの観点から連鋳で鋳造した鋳片を熱間のまま加熱炉に装入してその後,抽出し直接分塊圧延する,ホットチャージローリング(HCR)工程が一般に採用されている。この連続鋳造・分塊圧延工程をHCR 工程で行う場合,連鋳鋳片を冷却後,オーステナイト(以下γと記述)相のまま加熱炉を経て熱間圧延するとγ粒が粗大なため熱間延性が低く1),分塊圧延時に表面割れが発生しやすい。この分塊圧延時の表面割れを防止するためには,γ相をベイナイトやマルテンサイト等の低温相に一旦変態させて,再度γ域に加熱する逆変態処理を適用することで,新たにγ粒を生成させることによりγ結晶粒を細かくすることで熱間延性を向上することが有効である2,3)。しかしながら,この逆変態処理では,鋳片表層のγ相を変態させるために鋳片を水槽につける浸漬冷却などの3次冷却時に鋳片が曲がったり,マルテンサイト変態等による変態膨張に起因すると推定される焼割れ等のトラブルが発生したりする。

これらの鋳片熱処理時のトラブルの発生メカニズムが十分明らかにされていないために,その防止方法を試行錯誤で探索したり,採用された対策が有効でなかったりする。これらのトラブルの発生防止方法を確立するためには,これらの現象の本質的なメカニズムや支配因子を明らかにすることが重要である。

そこで,本研究では変態を考慮した熱弾塑性計算の手法4,5)を用いて,焼割れ,鋳片曲がりの発生に及ぼす各種操業条件の影響を解明するとともに,3次冷却適用時の焼割れや鋳片曲がりに関する力学的な検討を加え,さらに,焼割れ,鋳片曲がりを防止しつつ鋳片表層の強靱化を実現する適正冷却条件について考察した。

2. 解析方法

2・1 解析モデル

熱処理変形では熱収縮,熱膨張に加え,変態にともなう収縮,膨張が変形や応力場に影響を及ぼし,また温度場や応力場も変態挙動に影響を及ぼす。よってこれらの相互影響を考慮して熱処理変形について検討するには,相変態を考慮した温度−変形連成解析を可能とする連成モデル4)での解析が必要となる。本連成モデル4)では,応力・ひずみ場,温度場,変態挙動の間の相互影響を考慮するため,熱伝導解析と変態を考慮した熱弾塑性解析および各種変態挙動の解析を連成させ,さらに鋼材成分や鋼種の各種特性への影響を考慮して,各基礎式に基づき有限要素法により2次元または3次元での数値計算を行う。今回の解析では鋳片の形状を考慮し,2次元の平面歪みを仮定して解析した。

熱伝導解析では加熱条件,冷却条件および変態潜熱を考慮して,鋳片断面内の温度推移を計算する。また,変態を考慮した熱弾塑性解析では,熱膨張,熱収縮および各種変態,逆変態による膨張,収縮を考慮した熱弾塑性解析により応力分布,ひずみ分布や鋳片の変形挙動を数値計算で推定する。加えて,各種変態挙動は,各鋼種のCCT線図(連続−冷却−変態線図)に基づき,熱処理時の冷却速度を考慮し,冷却過程での変態挙動を推定する。CCT線図は鋼種や鋼材成分だけでなく,γ粒サイズにも依存するため,同一鋼種でγ粒サイズが大きく異なる場合で得られたCCT線図を用いて解析し,熱処理変形や応力場に及ぼすγ粒組織の影響についても検討した。

2・2 モデル基礎式4)

2・2・1 変形解析の基礎式

変形解析では以下の(1)~(6)の基礎式を用いて計算する。変態にともない複数の相が混在する場合は混合則を適用して,物性値や各計算に使用するパラメーターを求めた。

弾性ひずみや塑性ひずみの各ひずみ速度は(1)~(3)式で求め,(1),(2)式で熱膨張,熱収縮と変態での膨張,収縮を考慮して各相の弾性ひずみを計算した。弾性ひずみおよび塑性ひずみ増分の和で定義した全ひずみ増分は(4)式により計算する。

1)弾性ひずみ:

  
εe=ρg^eσ=ΣI=1NεIeξI(1)

ここでρ:密度,g^e:弾性変形に寄与するGibbs(ギブス)の自由エネルギー,σ:応力テンソル,εIe:各相の弾性ひずみ,ξI:各相の内部状態変数(体積分率)

  
εeI=1+νIEIσνIEI1trσ+αI(TT0)1+βI1(2)

ここでEI:各相の縦弾性係数,αI:各相の線膨張数,βI:各相の変態膨張数,νI:各相のポアソン比,1:単位テンソル

2)塑性ひずみ増分:

  
dεP=G^(Fσ:dσ+FTdT+ΣI=1NFξIdξI)Fσ(3)

ここでF:降伏関数,1/G^:硬化関数,T:温度

3)全ひずみ増分:

  
ε˙=ε˙e+ε˙p(4)

(5)式は上記ひずみ増分式を,応力増分について解いてマトリックス表示した式である。

4)応力増分:

  
{σ˙}=[Dep]({ε˙}{α}T˙[De]1T{σ}T˙ΣI=1N(aI(TT0)+βI+[De]1ξI{σ})ξ˙I{1})1S0{Fσ}(FTT˙+ΣI=1NFξIξ˙I)(5)
  
S0=12GG^+Fσ:Fσ(6)

ここで[Dep]=[De]−[Dp],[De]:弾性マトリックス,[Dp]:付加マトリックス,G:横弾性係数

熱弾塑性材料に関する有限要素法剛性方程式は,仮想仕事の原理を用いて導出され,本式を用いて数値計算することにより,弾性変形,塑性変形,熱ひずみ,相変態を考慮した熱処理変形の解析が可能となる。

2・2・2 伝熱計算の基礎式

温度計算は以下の(7),(8)式を用い,相変態にともなう潜熱の発生,弾性変形や塑性変形による発熱を考慮し,また,鋳片表面を熱伝達境界として熱伝達係数Hを与えて鋳片表面での抜熱速度を逐次計算しながら,鋳片各部の温度推移を推定した。(7)式の左辺第2項で変態潜熱を,第3項以降で変形にともなう発熱を考慮し,(8)式により鋳片表面の熱流束を計算する。

(1)連成熱伝導方程式

  
ρcT˙+ρΣI=1NlIξ˙I+TεeT:σ˙+[ρhεp:ε˙p+ρhκκ˙σ:ε˙p]=kdiv(gradT)(7)

ここでρ:密度,c:比熱,T:温度,l:潜熱,h:エンタルピー,κ:硬化パラメータ,k:熱伝導率

(2)流体からの熱流入

  
k(gradT)n=H(TTg)(8)

ここでH:熱伝達係数,Tg:冷却剤の温度(水温),n:境界の外向き単位法線ベクトル

2・3 解析モデルおよび解析条件

変形解析は有限要素法二次元モデルで相変態を考慮し,断面サイズ200 mm角の正方形鋳片の断面を鋳片幅方向,厚み方向ともに30分割し,全部で900個の要素に分割して計算を行った。要素分割図をFig.1の図中に示す。有限要素法による熱処理変形の解析は,アイデアマップ社製ソフト COSMAP with GiDを用いて計算を行った。なお,本熱処理変形解析ソフトではフェライト変態,パーライト変態,ベイナイト変態の拡散型変態による体積分率変化はJohnson-Mehlの式6)に静水圧応力の影響を考慮した式7)により計算し,各拡散変態の体積分率の総計(以下ベイナイト,パーライト体積分率と称す)が算出される。一方,マルテンサイト変態の体積分率の変化は,Mageeのカイネティクス8)に応力依存性を考慮した式7)を用い計算する。

Fig. 1.

Relations between temperature and heat transfer coefficients,12) element dividing method for FEM and boundary conditions of heat transfer.

鋼種や鋼材成分の差異の熱処理変形や発生応力への影響の解析では,代表成分をTable 1に示したSCM420,SCM440,SCr420の3鋼種を対象とした。これらの3鋼種について微細γ粒組織で得られたCCT線図8)に基づき,また,SCr420のみは粗大γ粒組織でのCCT線図9)も得られており,両組織でのCCT線図を用いて,均一冷却と不均一冷却の解析を行い,熱処理変形挙動へのγ結晶粒サイズの影響についても検討を加えた。

Table 1. Chemical compositions of each steel grade for analysis. (mass%)
GradeCSiMnPSCrMo
SCM4200.200.250.760.0140.0171.040.24
SCr4200.210.190.800.0170.0151.150.02
SCM4400.380.230.640.0190.0130.990.16

2・4 変態挙動

変態挙動の解析は文献のCCT線図9,10)を参考としたが,SCM420微細γ粒組織のCCT線図9)が2種類(γ化温度:1148,1193 K)存在したため,二つを平均化したCCT線図に基づき変態挙動を計算した。また,SCM440,SCr420微細γ粒組織のCCT線図9)γ化温度1123 Kのもの,SCr420の粗大γ粒組織ではγ化温度1613 Kで得られたCCT線図10)を用いて計算を行った。微細γ粒組織ベースのCCT線図では,SCr420に比べSCM420,SCM440では拡散変態が遅延し,SCr420では,γ粒組織の粗大化で拡散変態が大幅に遅延し,焼入性がかなり増大している。

2・5 熱伝達境界および変形拘束条件

伝熱解析では鋳片表面を熱伝達境界とし,鋼材を焼入時の沸騰伝熱状態でJIS銀法により測定された,Fig.1に示す鋼材表面温度と熱伝達係数の関係11)を与えて鋳片表面での熱流束を求めた。均一冷却では,Fig.1に実線で示した水焼入れ時の表面温度と熱伝達係数の関係(ベース条件①)を外表面全てに適用し,不均一冷却では,Fig.1に示したように鋳片下面のみ,Fig.1に②の破線で示した条件(①のベース条件に比べ各温度に対する熱伝達係数の値を半減)条件を適用し,他の3面にはベース条件①を適用して計算を行った。

また,本解析では,鋳片の厚み中心と幅中心で,厚みや幅各方向の変位と各中心軸の回転を拘束して解析した。

2・6 物性値

本解析では,鋼材の密度,比熱,炭素の拡散係数,熱伝導率,ポアソン比,変態潜熱,縦弾性係数,熱膨張係数,降伏応力,硬化係数,変態膨張係数,変態塑性係数等の各物性値は,マルテンサイトやパーライト等の相毎に炭素濃度や温度の関数として定式化された各推定式12)を用いて,各物性値の相や炭素濃度,温度依存性を考慮して計算を行った。

3. 解析結果および考察

3・1 鋳片熱処理変形に及ぼす鋼種の影響

各種鋼種の熱処理変形への影響については,微細γ粒組織でのCCT線図を用いた熱処理変形解析を行い検討した。

各種鋼種の焼入れ後の断面形状とマルテンサイト体積分率の計算結果をFig.2に,ベイナイト,パーライトの体積分率の計算結果をFig.3にコンター図で示す。カラーバーは上の方ほど各相の体積分率が高い。また,鋳片幅中央部でのマルテサイト体積分率の鋳片厚み方向の分布をFig.4に,ベイナイトとパーライトの体積分率の鋳片厚み方向の分布をFig.5に示す。焼入れ後の断面形状は総変位量を18倍に拡大して表示し,実際の断面形状に比べ熱処理変形を誇張して示した。これらの図より以下のことが判明した。

Fig. 2.

Contour maps of volume fraction of martensite in the cross-section of bloom (at the end of quenching (110 s), Total displacement × 18). (Online version in color.)

Fig. 3.

Contour maps of volume fraction of bainite and pearlite in the cross-section of bloom (at the end of quenching (110 s), Total displacement × 18). (Online version in color.)

Fig. 4.

Distribution of volume fraction of martensite in the direction of the thickness of bloom at the center of width of bloom on cross sectionof bloom. (at the end of quenchng: 110 s, Coarse structure)

Fig. 5.

Distribution of volume fraction of bainite and pearlite in the direction of the thickness of bloom at the center of width of bloom on cross sectionof bloom. (at the end of quenchng: 110 s, Coarse structure)

SCM420やSCM440では鋳片表層部,特にコーナー部でマルテンサイトが生成したのに対し,焼入れ性が低いSCr420では上記マルテンサイトの生成量が減少し,コーナー部に一部生成するのみで,断面内部でベイナイトとパーライトの生成量が増大した。このような各低温相の生成,分布状況に対応し焼入れ後の鋳片断面形状が変化した。

焼入れ性が高いSCM420とSCM440では焼入れ後,特にコ−ナー部でのマルテンサイト変態にともなう膨張で,コーナー部が外側に突出した断面形状となり,断面内部でのベイナイトとパーライトの生成量はSCr420に比べ減少する影響で,各面中央部の張り出しは抑制され,面中央部が凹む形状になる。一方,焼入れ性が低いSCr420ではコ−ナー部でのマルテンサイト変態量が減少してコーナー部の突出が抑制され,断面内部でのベイナイトとパーライトの変態量と変態膨張量が増加して各面中央部が外側に張り出すように変形した。

3・2 鋳片熱処理変形に及ぼす不均一冷却および鋳片γ粒組織の影響

不均一冷却の条件で,SCr420の微細γ粒組織と粗大γ粒組織のCCT線図を用いて鋳片焼入れ時の熱処理変形について解析し,焼入れ過程および焼入れ後の鋳片断面形状に及ぼす不均一冷却やγ粒組織の影響について検討した。

焼入れから43 s経過後と焼入れ完了直後(110 s経過後)の鋳片断面形状と粗大γ粒組織の場合のマルテンサイト体積分率および微細γ粒組織の場合のベイナイトとパーライトの体積分率の鋳片断面におけるコンター図をFig.6に示す。本図でも総変位量を18倍して鋳片断面形状を表示した。また,鋳片幅中央位置のマルテンサイトまたはベイナイトとパーライトの体積分率の鋳片厚み幅方向の分布をFig.7に示す。さらに,焼入れ開始から43 s経過後と焼入れ完了直後(110 s経過後)の温度分布をコンター図でFig.8に,鋳片幅中央位置の厚み方向の温度分布をFig.9に示す。

Fig. 6.

Distribution of volume fraction of martensite/bainite and pearlite on cross section of bloom during quenching. (SCr420, Total displacement × 18). (Online version in color.)

Fig. 7.

Distribution of volume fraction of martensite/bainite and pearlite in the direction of the thickness of bloom at the center of width of bloom on cross section of bloom during quenching. (SCr420)

Fig. 8.

Distribution of temperature on cross section of bloom during quenching. (SCr420, Total displacement × 18). (Online version in color.)

Fig. 9.

Distribution of temperature in the direction of the thickness of bloom at the center of width of bloom on cross section of bloom during quenching. (SCr420)

粗大γ粒組織の鋳片では,γ化温度1613 KのCCT図10)より明らかなように,拡散変態の核生成に有利な結晶粒界の減少に起因して拡散変態が大きく遅延13,14)して焼入れ性が増大する影響が大きく,焼入れではベイナイトとパーライト相はほとんど生成せず,鋳片表層部にマルテンサイトが生成した。特に冷却されやすいコーナー部側で変態膨張量が大きいマルテンサイトが増加する影響で,焼入れ途中から焼入れ完了後まで,コーナー部が外に張り出した形状を呈した(Fig.6(a),(b))。また,粗大γ粒組織の鋳片では,鋳片断面形状に不均一冷却の影響が明瞭に認められ,焼入れ開始から43 s経過後では,熱伝達係数が大きい上面と側面側では外表面が平坦な形状となるが,熱伝達係数が小さい下面側では面中央部がより外側に張り出す形状になった。さらに,焼入れ完了後は,一旦外側に膨らんだ下面側中央部も含め,各面中央部は凹んだ断面形状になるとともに,鋳片上面に比べ下面側で鋳片幅がより減少した歪んだ断面形状となった。このような鋳片断面形状の変化は,粗大γ粒組織の場合,焼入れ開始43 s後では,熱伝達係数が大きく冷却強度が高い上面側,両側面側ではより温度が低下し熱収縮量が増加するが,一方,マルテンサイト変態量も多く(Fig.8(a)Fig.6(a)),変態膨張量は下面側より増大し,それらがバランスした結果,上面側,両側面側では平坦な断面形状になったと考えられる。これに対し,下面側では焼入れ開始43 s後の段階では,面中央部でマルテンサイト変態が起きない(Fig.6(a)Fig.7(a))ため,冷却過程での熱収縮挙動で断面形状が規定され,温度降下量および熱収縮量が最も少ない幅中央部が外側に張り出した形状になったと考えられる。さらに,微細γ粒組織の場合に比べ焼入れ中の低温相への変態量が少なく(Fig.6(b)Fig.7(a)),変態膨張量が大きく減少することに加え,変態潜熱の放出量も大きく減少するため,その分温度が低下し(Fig.8(b)Fig.9),熱収縮量が大きく増大するため,特にその量がコーナー部に比べても大きい各面の中央部が凹んだ形状になったと推察される。また,下面側では焼入れ後43 sから110 sの時間帯で,表面温度が沸騰熱伝達の遷移域から核沸騰域の温度範囲にあり,熱伝達係数が増大し(Fig.1),抜熱速度も増加する影響もあり,下面側で熱収縮量が増加したため,上記時間帯で上述したように断面形状が大きく変化したと考えられる。

熱収縮量の断面内のバラツキで,粗大γ粒組織の鋳片の焼入れ時のように冷却途中で一面のみ中央部が張り出す断面形状を呈する場合,直方体の鋳片は鋳片長手方向にその面側が伸び,その面側を凸にして鋳片が長手方向に弓なりに曲がることが想定される。一方,焼入れ完了後のように下面中央部が凹んだ断面形状に変化すると,冷却途中で一旦長手方向に弓なりに曲がった変形が緩和されたり,逆方向に曲がることが考えられる。本研究では,浸漬冷却時の鋳片断面内の変態挙動や組織変化と鋳片断面形状および鋳片断面内の応力発生挙動の関係の解明に主眼を置き2次元での解析を実施した。しかしながら,2次元の解析では,鋳片長手方向の変形量に関する実測値と解析結果の定量的比較が困難であり,また,焼入れによる鋳片の曲がりについては,重量が大きい鋳片の場合曲がる方向によっては自重の影響も無視できないが,2次元の解析ではその影響も考慮できない。そのため,鋳片の長手方向の曲がりの検討では,鋳片の自重の影響も考慮した3次元での解析が必要と考えられ,今後検討を加えたい。

微細γ粒組織の場合は焼入れ性が低下するため,マルテンサイトはコーナー部の一部のみに少量生成しただけで,冷却強度が低い鋳片下面側中央部を除き断面内で表層から広い範囲にベイナイトとパーライトが生成し,その影響で焼入れの途中から完了後まで,各面の中央部が外側に張り出した形状を呈した(Fig.6(c),(d))。不均一冷却の影響で断面内のベイナイトとパーライトの変態量は,熱伝達係数の差で上面側,側面側と下面側とでは大きな差異が認められたが,焼入れ開始から43 s経過後および焼入れ完了直後とも,鋳片断面形状の差異は小さかった。このように断面形状の差異が小さい理由は次のように推察される。

焼入れ開始から43 s経過後まではベイナイト変態とパーライト変態の変態量や変態膨張量が,冷却強度の低下で下面側では減少するものの(Fig.6(c)Fig.7(b)),温度分布(Fig.8(c)Fig.9)から明らかなように,焼入れ後から43 sまでの熱収縮量は下面側で低下し,変態膨張量と熱収縮量の合計で決まる変形量や面中央部の張り出し量は下面側と他の面でほぼ同程度になったためと推察される。さらに,その後焼入れ完了までは,鋳片表面温度が沸騰伝熱の遷移域から核沸騰域に入り熱伝達係数が上昇する影響もあり,下面側では他の面に比べ,ベイナイト変態とパーライト変態がより進行し,変態量および変態膨張量が下面側で増大するが(Fig.6(d)Fig.7(b)),温度分布(Fig.8(d)Fig.9)から明らかなように熱収縮量も増大するため,それらの合計で決まる変形量や面中央部の張り出し量は下面側と上面および側面側でほとんど差異がなかったためと考えられる。

γ粒組織が粗大な場合と微細な場合を比較すると,鋳片温度分布に大きな差が認められ,粗大γ粒組織の方が焼入れ完了後の断面内の温度がより低下している(Fig.8Fig.9)。このような差は組織の差による焼入れ性の差で,γの低温相への変態量が大きく異なり,その差に対応した変態潜熱量の差で生じた結果と推察される。よって,粗大γ粒組織と微細γ粒組織の差は変態膨張挙動の差だけでなく,変態潜熱の発生量の差に起因する熱収縮量や熱収縮のタイミング等の熱収縮挙動の差を通しても鋳片断面形状の変化や後述する鋳片断面内の応力発生挙動にも影響していると考えられる。

3・3 焼入れ時の断面内応力分布に及ぼす各種変態挙動および鋳片γ粒組織の影響

焼入れ時の焼割れの発生機構を明らかにするには焼入れ時の鋳片断面内の応力発生挙動を明らかにする必要がある15)。鋳片γ粒組織が粗大な場合と微細な場合における焼入れ開始43 s経過後の断面内の鋳片厚み中央部における鋳片厚み方向(y軸方向)の垂直応力(Syy)の鋳片幅方向分布をFig.10に示す。

Fig. 10.

Distribution of normal stress Syy and volume fraction of maetrnsite/bainite and pearlite in the direction of the width of bloom at the center of thickness of bloom on cross section of bloom after 43 s from quenching start. (SCr420)

鋳片γ粒組織が粗大な場合は鋳片表面で最大の圧縮応力が作用し,Fig.10に示した焼入れ開始43 s経過後に比べ焼入れ完了直後(110 s経過後)には表層部でのマルテンサイト変態量の増加にともなって,この圧縮応力は大幅に増大すると推定された。また,マルテンサイト体積分率がおよそ0.1の位置より表層側の領域では,断面厚み方向の膨張をともなうマルテンサイト変態量の減少にともない断面内部ほど圧縮応力は減少するが,マルテンサイト体積分率がおよそ0.1から0までのマルテンサイト変態の開始位置近傍の領域では,その位置より表層側でのマルテンサイト変態による膨張で引っ張られ,引張応力が最も高くなる。焼入れ完了直後には,焼入れ開始43 s経過後に比べ,引張応力の発生域はより断面内部へ拡大し,ほぼ断面中央部まで拡がると推定された。

この引張応力の作用領域の断面内部への拡大は,Fig.8Fig.9に示した温度分布の変化より明らかなように,粗大γ粒組織の場合,微細γ粒組織の場合に比べ変態潜熱の発生量が少ないため,断面内部側での温度降下量や熱収縮量が大きいが,その熱収縮が拘束されるため引張の熱応力が増大する影響と考えられる。また,焼入れ開始43 s経過後に断面中央部で広範囲に圧縮応力が作用しているが,マルテンサイト変態開始点近傍領域に引張応力が作用するため,その反作用で圧縮応力が作用したと推察される。

鋳片γ粒組織が粗大な場合における断面内の引張応力のピーク位置は,マルテンサイト変態が開始する領域に対応し,その位置がある程度表層側の方が内部の場合より大きな値になることが判明した。

鋳片γ粒組織が粗大な場合の,鋳片厚み中央位置で側面表面から0 mm,5 mm,11 mm位置における鋳片厚み方向の垂直応力Syyとマルテンサイト体積分率の時間推移をFig.11(a)に示す。本図より焼入れ開始後マルテンサイト変態が内部へ進展し,それにともない表層部の引張応力発生域が内部に拡大することや,その位置がほぼマルテンサイト変態開始するタイミングでそこでの引張応力は最大となり,それ以降は変態の進行にともない引張応力が低下し圧縮応力に遷移している。上記のようなマルテンサイト変態開始前の引張応力の発生は,その位置より表層側や上下面側表層部でのマルテンサイト変態による膨張で引っ張られためと推定される。さらに,その後の引張応力の低下や圧縮応力への遷移およびその圧縮応力の増大は,その位置やその位置近傍でのマルテンサイト変態の進行による膨張変形が断面表層側や上下面側から拘束されるためと考えられる。鋳片厚み方向の最大引張応力は鋳片表面から5 mm付近でその位置がマルテンサイト変態する直前に発生し,最大300 MPa程度の引張応力が発生すると推定された。

Fig. 11.

Change of normal stress Syy and volume fraction of maetrnsite/bainite and pearlite at each position of near side surface at the center of thickness of bloom on cross section of bloom during quenching. (SCr420)

一方,鋳片γ粒組織が微細な場合は,Fig.10に示した鋳片厚み中央位置でのSyyの鋳片幅方向分布より以下のことがわかった。

鋳片断面内の側面側表層では断面内部のベイナイトとパ−ライト変態による膨張で,厚み中央部が外側に張り出すように変形するため,その部分が鋳片厚み方向に引っ張られ,鋳片厚み方向に引張応力が作用するが,その引張応力は断面内部程外側へ張り出すような変形が減少するため低下し,ベイナイトとパ−ライトの体積分率が1からおよそ0.8の間の領域で,引張応力は減少し,圧縮応力に転じる。さらに,ベイナイトとパ−ライトの体積分率がおよそ0.8から0の間のより断面内側の領域では,Fig.10から明らかなように,ベイナイトとパ−ライト変態量や変態膨張量が断面内側ほど減少する影響で,圧縮応力が内側ほど減少し,焼入れ開始43 s経過後の段階では表面から30 mm付近で引張応力に遷移している。また,より断面内側の未変態領域の大部分の領域では,広範囲に鋳片厚み方向の圧縮力が作用しているが,これは,断面表層部に鋳片厚み方向の引張応力が作用するその反作用として鋳片厚み方向の圧縮力が作用したり,鋳片上,下面中央表層部でのベイナイトとパ−ライト変態(Fig.6(c),(d))による膨張で断面中央部が圧縮されるためと推察される。

また,鋳片γ粒組織が微細な場合における鋳片厚み中央位置で側面表面から0 mm,11 mm,29 mm位置におけるベイナイトおよびパーライト体積分率と鋳片厚み方向の垂直応力Syyの時間推移をFig.11(b)に示す。側面表面から0 mm,11 mm位置で特に顕著であるが,その位置がベイナイトおよびパーライト変態するまでは,周辺表層域でのベイナイトおよびパーライト変態による膨張により鋳片厚み方向の引張応力が作用し,その位置でのベイナイトおよびパーライト変態の進行にともない変態膨張が拘束される影響で引張応力が低下して圧縮応力に遷移する。さらに時間が経過すると,より断面内側でのベイナイトおよびパーライト変態による膨張の影響で引張応力に再度遷移し,その引張応力が時間経過とともに増大後,ベイナイトおよびパーライト変態域がより断面内部に移動すると,変態量や変態膨張量の減少する影響が増大して,鋳片厚み中央位置の側面表面から0 mm位置では,20 s経過後以降,断面内部での熱収縮による影響で引張応力が減少に転じている。側面表面から11 mm,29 mmの位置では,0 mm位置と比べ上記垂直応力Syyの時間変化はより緩やかになり,20 s経過後以降の引張応力の低下までは認められない。

鋳片厚み方向の最大引張応力は鋳片表面側で発生し,微細γ粒組織ではその位置がベイナイトおよびパーライト変態した後,より断面内部での変態膨張で発生し,最表面で最大420 MPa程度の引張応力が発生した。また,変態前のγ相へ作用する引張応力は最表面で最大であるが,最大で200 MPaと予想された。

浸漬冷却等の焼入れ時の鋳片表層における引張応力の発生は焼割れを起こす主要要因と考えられ,その挙動に注目する必要がある。微細γ粒組織の場合は鋳片表面で最大420 MPa程度の引張応力が変態で生成したベイナイト,パーライト相に発生しているが,粗大γ粒組織の場合は鋳片表層部がマルテンサイト変態する際,そのマルテンサイト変態が開始する位置近傍で最大300 MPa程度の引張応力がマルテンサイト変態直前のγ相に作用する。鋳片のγ粒組織が微細か粗大かによって,引張応力を発生原因の相変態やその引張応力が作用する相が異なることが判明した。

鋳片のようにγ結晶粒径がmmオーダーと粗大であると,それが微細な場合より熱間延性が低下し1,16),より炭素含有量が高い等でMs点が低い鋼種では,マルテンサイト変態直前のγ相はより脆化することに加え,強度の増大12,16)で変態による引張応力も増大する。このため,粗大γ粒組織のように,鋳片表層部でマルテンサイト変態直前のγ相へ大きな引張応力が発生すると(Fig.11(a)),その粒界で割れが発生し,それが表面へ伝播して焼割れにつながる危険性が高まると推定される。

上記の焼割れの発生機構を考えるとその防止には,マルテンサイトの生成速度を減少し,変態開始位置近傍での引張応力を低減することが有効と推察され,そのためには,浸漬冷却ではサブクール温度差の低減,あるいは冷却水の流動抑制,冷却水中の気泡体積含有率の増加17)や,冷却方法を水やミストでのスプレー冷却に変更し,かつ水量密度を低減する18)などで,鋳片の冷却強度を低減する方法が考えられる。

一方,鋳片のγ結晶粒が微細な場合は,γ結晶粒が粗大な場合に比べ,変態に起因して発生する引張応力は増大すると推定されたが,それが作用する変態生成相の結晶粒は,粒径がmmオーダーと粗大な鋳片のγ結晶粒に比べ格段に微細なため,その点では粒界割れの発生防止には有利と推定される。また,変態前のγ相へ作用する引張応力はγ結晶粒が粗大な場合より,かなり低下するため,γ粒界割れが発生し,それが伝播して焼割れにつながる危険性はかなり低いと推察される。

なお,今回解析に用いた相変態力学解析コードCOSMAPは,多くの解析実例において実測データと計算結果が精度良く一致することが確認されており19),また,本解析条件とほぼ同様な条件で過去実施された実機試験で焼入れ後に採取された実機鋳片の切断サンプルを用いて調査した断面形状や断面内の変態層厚みの測定結果と粗大γ粒を対象に計算で推定した結果とは概ね一致した。

4. 結言

相変態力学理論に基づく熱処理変形解析手法を用いて,連鋳鋳片の浸漬冷却時の熱処理変形や鋳片内応力分布に及ぼす各種要因の影響について解析し,本解析により以下のことを明らかにした。

微細γ組織で得られたSCM420,SCr420,SCM440のCCT線図に基づき,これら3鋼種の鋳片の熱処理変形について解析し,以下の結果を得た。

(1)鋼種による焼入れ性の違いで鋳片最表層部やコーナー部でのマルテンサイト変態量および,表層から断面内部でのベイナイトやパーライトの変態量が増減し,焼入れ性が高いとコーナー部でのマルテンサイト変態量が増加し,コーナー部が外側へより突出した断面形状となり,焼入れ性が低下してマルテンサイト変態量が減少し,ベイナイトやパーライトの変態量が増加すると各面中央部が外側に膨らんだ形状を呈する。

また,SCr 420の粗大および微細γ粒組織で得られたCCT線図に基づき,不均一冷却やγ組織の差が鋳片断面形状や鋳片内応力分布に及ぼす影響について検討を加え,以下のことを明らかにした。

(2)鋳片γ結晶粒が粗大な場合,焼入れ性が高まりマルテンサイトの変態量が増大するが,それに加え鋳片が不均一に冷却されると,冷却過程で,より高温の鋳片面部中央がより外側に一旦張り出し,その後冷却を継続すると他の面同様,面中央部が凹んだ形状を呈する。このような断面形状の変化は,鋳片表層部でのマルテンサイト変態による鋳片断面表層部の膨張量および鋳片断面内の温度や熱収縮量の不均一な分布に起因するが,上記変態量や変態潜熱の発生が少ないため,断面内での不均一な温度や熱収縮量の分布や熱収縮のタイミングのズレの影響受けやすいことに起因する。

(3)上記のような不均一な冷却により冷却時に特定な面が張り出したり,凹んだりする鋳片断面形状の変化は,矩形断面の鋳片で長手方向の曲がりを発生させる原因と推察される。

(4)一方,鋳片γ結晶粒が微細な場合,ベイナイトやパーライト変態量や変態膨張量の断面内の増減と熱収縮量の増減がバランスする結果,不均一冷却による鋳片断面形状の歪みはγ結晶粒が粗大な場合に比べ小さくなる。また,ベイナイトやパーライト変態での潜熱の発生量が多いため,断面形状への熱収縮の影響が減少し,粗大γ粒組織の場合と異なり,焼入れ後も面中央部が外側に張り出した形状を呈すると推定された。

(5)以上より浸漬冷却での鋳片曲がりの発生は,γ結晶粒が粗大な鋳片では焼入れ性が高くベイナイトやパーライト変態せずマルテンサイト変態しやすいが,その変態量や変態発熱量が少ないため,鋳片断面形状が不均一冷却による熱収縮量や熱収縮のタイミングの断面内でばらつきの影響を受けやすいことが主因と考えられる。

(6)よって,γ結晶粒が粗大な鋳片の浸漬冷却等での曲がりの抑制には,γ結晶粒が微細な場合に比べ,鋳片断面内の温度分布の均一化や冷却条件の各面でのバラツキ低減を図り,冷却時の鋳片断面内の熱収縮量や熱収縮のタイミングのバラツキ低減がより重要と判断される。

(7)焼入れ時の鋳片断面内の発生応力に及ぼすγ結晶粒サイズの影響について検討した結果,結晶粒が粗大な場合,熱間延性を低下していることに加え,表層部でマルテンサイト変態しやすく,マルテンサイト変態するとその直下のγ相へ大きな引張応力が発生し,γ粒界割れを引き起こし,それが表面へ伝播して焼割れを発生させやすいと推定された。その防止には,浸漬冷却の冷却条件や冷却方法の変更等で冷却強度を下げ,マルテンサイト生成速度を低減して,上記γ相へ作用する引張応力を減少させることが重要と推察された。

(8)一方,鋳片のγ結晶粒が微細な場合は,変態で生成したベイナイト,パーライト相に大きな引張応力が作用するが,変態前のγ相へ作用する引張応力はγ結晶粒が粗大な場合よりかなり低下するため,焼入れ時にγ粒界割れが発生,伝播して焼割れを起こす危険性は,γ結晶粒が粗大な場合に比べかなり低いと推察された。

謝辞

最後に,本研究の成果は第23回鉄鋼研究振興助成受給結果によります。本研究に際しご支援をいただいた一般社団法人日本鉄鋼協会および本研究での数値計算で援助を得た猪俣克明君(現:(株)東北日立)に感謝の意を表します。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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