Tetsu-to-Hagane
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Instrumentation, Control and System Engineering
Flying Gauge Control for a Specified Section Including a Welding Point in a Cold Strip Mill
Tomoyoshi OgasaharaShinji TomiyamaKazuya AsanoTatsuhito FukushimaToru IsokawaYusuke Yoshioka
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2018 Volume 104 Issue 6 Pages 312-321

Details
Synopsis:

In a continuous cold strip mill, the succeeding strip and the preceding strip are welded together and then rolled continuously. The section near the welding point is often processed as scrap due to the constraints of the downstream manufacturing processes. Therefore, thickness reduction is desired as a means of reducing the scrap weight. To this end, this paper presents a new flying gauge change (FGC) controller design which achieves thickness change in the section including the welding point. Because of the short length of the target section, two thickness change points can exist simultaneously in the mill. In the conventional FGC, the set values of the roll gap and the roll speed are calculated without considering the positions of the two thickness change points in the mill. However, this can possibly result in a poor roll speed set value and cause large strip tension deviations. The proposed scheme utilizes the transition pattern of the positions of the two thickness change points in the mill during FGC to calculate the set values of the roll gap and the roll speed. Thickness change with small strip tension deviations is achieved by applying these set values to the control systems of the rolling mill according to the positions of the two thickness change points. The validity of this approach was verified by computer simulations and experiments with a real process. Application of this technology has improved cold strip yield.

1. 緒言

連続式冷間圧延ミルでは,要求仕様の異なるコイルを溶接した場合,圧延機を停止することなく,溶接位置を境として,各コイルで目標とする最終スタンド出側での板厚(仕上厚)となるように圧延する走間板厚変更(以下,走変)1,69)がおこなわれる。走変では,板厚制御精度は重要な指標であるが,破断や絞り込み等の圧延トラブル防止のためには,圧延スタンド間の鋼板張力変動も抑制することが必要とされる。

鋼板の溶接部を含む区間は,次工程以降の設備制約のため屑として処理されることがある。これに対しては,溶接部を含むある区間の仕上厚を定常部に対して薄くなるように圧延することができれば,屑重量の削減が期待できる。反対に,目標とする仕上厚が薄い材料の場合,走変中の張力変動により破断が生じることがあり,この対策としては,溶接部付近の仕上厚を厚くして単位断面積あたりの張力を下げることが有効と考えられる。このように,溶接部を含む区間に限り,他の長手位置とは異なる仕上厚に走変することで,製品の歩留やミルの稼働率向上を図ることができる。

従来,材質,パススケジュール(圧延前板厚,目標とする各スタンド出側厚,各スタンド前後の張力設定値),板幅が同一のコイルを溶接した場合,走変はおこなわれなかった。溶接部付近を目標板厚とは異なる板厚にするには,意図的に溶接点前後で,本来の目標板厚とは異なる部分(以下,板厚変更部と呼ぶ)を作成し,先行材尾端で本来の目標板厚から板厚変更部の板厚に変更するための走変と,後行材先端で板厚変更部の板厚から本来の目標板厚に変更するための走変の2回の走変が必要となる。

これまでに,溶接部付近で2点の板厚変更点を設定して走変をおこなう技術が開発されている68)。目的別には,先行材と後行材の仕上厚差が所定範囲外の場合に中間パススケジュールを設けることで先行材と後行材の張力応力の差を小さくして圧延トラブルを抑制する目的6,8)と,仕上厚を厚く設定することでテンションリールへの巻きつけを安定しておこなう目的7)に分類できる。そして,手法別には,2点の板厚変更点に対して,圧延ミル内に1点のみ板厚変更点が入るように板厚変更部の長さを設定して,走変をおこなう手法6,7)と同一スタンド間に2点の板厚変更点が入らないように圧延ミル内に2点の板厚変更点を設定して走変をおこなう手法8)となる。明らかに後者8)の方が板厚変更部の長さを短く調整できる。後者の手法8)は,先行材と後行材のパススケジュールを用いて,中間パススケジュールを演算し,先行材のパススケジュールから中間パススケジュールに遷移させる第1板厚変更点と中間パススケジュールから後行材のパススケジュールに遷移させる第2板厚変更点におけるロールギャップ設定値およびロール速度設定値をあらかじめ決定する設定値演算手段と,圧延材上の第1板厚変更点位置と第2板厚変更点位置を決定する板厚変更点位置決定手段と,前記板厚変更点位置決定手段で決定された板厚変更点の位置を検出し,板厚変更点が各スタンドに到達したタイミングで,前記設定値演算手段の結果を用いてロールギャップとロール速度の設定値を変更する設定値出力手段を有する。さて,2つの板厚変更点が圧延ミル内に存在するということは,ミル内に3つのパススケジュールが存在することである。これは,圧延ミル内における2つの板厚変更点の位置に依存して,各スタンド出側板厚目標値や張力が設定されるとともに,圧延条件に応じて先進率が変化するということである。したがって,走変中(第1板厚変更点が第1スタンド通過から第2板厚変更点が最終スタンド通過までの間)において,圧延ミル内における2つの板厚変更点の位置関係の遷移パターンが上記設定値を求めるための情報として必要である。これに対して,前記設定値演算手段では,第1板厚変更点と第2板厚変更点が各スタンドに到達した際に設定するロール速度を,遷移パターンを考慮せずに,パススケジュール情報のみを用いて計算して設定するため,張力変動が大きくなるという課題がある。

そこで,本論文では,圧延ミル内に同時に2つの板厚変更点を含む場合でも張力変動を抑制しつつ板厚変更を実施できる走変手法を提案し,その有効性をシミュレーションと実機実験により検証する。

本論文では,先行材と後行材の材質とパススケジュール,板幅は同一で,鋼板の溶接部を含む前後区間の板厚を薄く仕上げる走変を取り扱う。適用の前提条件として,2つの板厚変更点は同時に隣接するスタンド間には入らないものとする。この条件は,2つの板厚変更点間の距離が短く,隣接するスタンド間に入る状況では,同一の圧延スタンドに対して,先に通過する板厚変更点に対応したロールギャップの設定替え指令と,後に通過する板厚変更点のロールギャップの設定替え指令が重複して印加されて,目標とする板厚に制御できない可能性が高まるためである。なお,先行材と後行材の材質,パススケジュール,板幅の少なくとも一つが異なる場合で,溶接点前後に板厚変更点を設定する場合では,先行材と後行材と溶接部で合計3点の板厚変更点が必要となり,本手法は適用できないが,先行材と後行材で材質等が異なる場合でも,2点の板厚変更点を先行材と溶接点,溶接点と後行材のように,溶接部をまたがずに設定すれば適用可能である。

本論文の構成を次に示す。まず,2章では,連続式冷間圧延工程と走変の設定計算に用いるモデル,既存の走変技術の原理について説明する。3章では,提案法の設計方法について示す。4章では,シミュレーションに必要となる動的モデルを説明した後,シミュレーションと実験により,本手法の有効性を検証する。最後に5章で結論をまとめる。

2. 連続式冷間圧延工程と走変の設定計算に用いるモデル,既存の走変技術

本章では,連続式冷間圧延工程と走変の設定計算に必要なモデル式について説明した後,1点の板厚変更点に対する既存の走変技術1)について述べる。

2・1 連続式冷間圧延工程と走変の設定計算に用いるモデル

連続式冷間圧延工程では,コイルをアンコイラーにより払い出し,その先端部と先に払い出されているコイルの尾端部を溶接して,ラインを停止させることなく,複数のコイルを連続的に処理する。この工程のうち,ルーパーは,圧延機の入側速度と出側速度の差を解消するためのバッファであり,これによりコイルの接続処理をおこなっても連続圧延が可能となる。また,溶接される2つのコイルは機械的性質や各スタンド出側での板厚目標値等の要求仕様が異なる場合に,連続的に圧延機で処理するためには,走変をおこない,溶接部前後で仕上厚を変更するように制御する必要がある。なお,材質,パススケジュール,板幅が同一のコイルを溶接した場合,溶接部前後での板厚変更部を設定しない限り,走変はおこなわれない。最終的に鋼板は溶接部近傍で切断され,テンションリールにより巻き取られ出荷されるか,次の工程へ搬送される。

次に,この走変の設定計算で必要となるモデル式を下式(1)~(4)に示す。ここで,添字iは第iスタンドに関するパラメータであることを表しており,それぞれのモデル式に含まれる変数の意味はTable 1に示すとおりである。圧延荷重は,例えばBland and Fordの式2)を近似したHillの式3)に張力補正項4)を追加した(1)式で計算できる。また,先進率は,Bland and Fordの式2)で計算できる((2)式)。(3)式に示す板厚モデルは,ロールギャップSiPi/Miで示される圧延機の弾性変形の和からなる。したがって,ロールギャップや鋼板張力等の圧延条件を操作することで,板厚を制御することができる。また,冷間圧延では,圧延中の板幅の変化は微小であるため,鋼板体積保存則は,速度と板厚の積として(4)式で表される。

Table 1. Parameters used in setup models.
Symbol Notes
Pi Rolling force
w Strip width
ki Mean deformation resistance
kbi Entry deformation resistance
kfi Exit deformation resistance
Kt Tension correction term
Ri Work roll radius
R′i Flattened work roll radius
Hi Entry thickness
Er Young’s modulus of work roll
hi Exit thickness
Qi Influence of friction coefficient to rolling force
σbi Unit tension of entry side of a stand
σfi Unit tension of exit side of a stand
ri Reduction rate
μi Friction coefficient
ν Poisson’s ratio of work roll
fi Forward slip
Vi Entry strip velocity; VRi(1+fi)hi/Hi
vi Exit strip velocity; VRi(1+fi)
Si Roll gap
Mi Mill modulus

・圧延荷重モデル24)

  
P i = w k i K t Q i R i ' ( H i h i ) (1)

ここで,

  
K t = ( 1 σ b i k i ) ( 1.05 + 0.1 1 σ f i / k i 1 σ b i / k i 0.15 1 σ b i / k i 1 σ f i / k i )
  
R i ' = R i ( 1 + 16 ( 1 ν 2 ) E r π P i w ( H i h i ) )
  
r i = H i h i H i
  
Q i = 1.08 + 1.79 r i μ i R i ' H i 1.02 r i

・先進率モデル2)

  
f i = tan 2 ( 1 2 tan 1 ( r i 1 r i ) 1 4 μ i log ( H i h i 1 σ f i / k f i 1 σ b i / k b i ) h i R i ' ) (2)

・板厚モデル

  
h i = S i + P i / M i (3)

・鋼板体積保存則

  
V i H i = v i h i (4)

2・2 既存の走変技術

本節では,1つの板厚変更点に対する走変手法を従来手法の一例として,説明する。板厚変更点はFig.1に示すように,上流スタンドから下流スタンドの順番に通過する。走変では,事前にFig.1の各state別に全スタンドのロールギャップとロール速度を計算し,state間の結果の差を変更量として保持しておく。そして,Fig.2に示すように板厚変更点の各スタンド通過タイミングと同期して,ロールギャップとロール速度を上記変更量にもとづいて設定替えすることで,張力変動を抑制しつつ板厚変更する。

Fig. 1.

Transition of thickness change point.

Fig. 2.

FGC chart with one thickness change point.

まず,ロールギャップ変更量の計算方法について説明する。これは,走変前後で目標とする各スタンド出側板厚と鋼板張力設定値等の圧延条件を用いて,走変前後の圧延荷重をモデルにより計算し,これと板厚モデルである(3)式を用いて,目標とする板厚を達成するロールギャップを逆算する。そして,走変前後のロールギャップの差を変更量として求める。

続いて,ロール速度設定値を当該スタンド出側での鋼板速度と次スタンド入側での鋼板速度の差が生じないように計算する。この計算に必要な情報は,走変前後で目標とする各スタンド出側板厚と先進率,最終スタンドのロール速度である。この計算は,板厚変更点が各スタンドを通過している状態に対して,全スタンドのロール速度に対しておこなう。

そして,板厚変更点の通過スタンドを示すトラッキング情報にもとづき,ロールギャップとロール速度を設定時間τで同期して設定替え1)する。このように,設定替えを同期することで,スタンド間の鋼板の速度差(第iスタンド出側速度と第i+1スタンド入側速度の差の絶対値)が最小化され,張力変動が抑制される。

いま,先行材と後行材が同一素材,同一幅,同一入側厚で,先行材に比べて後行材の仕上厚を高全圧下率で薄くする場合を考える。まず,板厚変更点が第1スタンドを通過するタイミングで,第1スタンドの圧下位置を閉方向に動作させることで,第1スタンド出側板厚は薄くなる。これによる先進率の上昇による板速増速分だけ,第1スタンドのロール速度を減速させて,第1スタンドと第2スタンド間の張力変動を抑制する。続いて,板厚変更点が第2スタンドを通過する際には,第2スタンドの圧下位置を閉方向に動作させることで,第2スタンド出側板厚を薄くする。これによる,先進率の上昇による板速増速分だけ,第2スタンドのロール速度を減速させる。このとき,第2スタンド出側板厚が薄くなるため,体積保存則により第2スタンド入側における鋼板速度は小さくなる。このとき,張力変動を抑制するために,スタンド間の入出の鋼板速度差を0にするように,第1スタンドを減速させる必要が生じる。板厚変更点が第3スタンド到達時の動作も同様であるが,第2スタンドの減速に応じて上流スタンドである第1スタンドも減速させる必要がある。最終的にFig.2のように設定される。

以上が,既存手法の概要である。

3. 溶接部前後の走変制御器の設計

本稿では屑重量を削減するために,Fig.3のように溶接部前後のある区間の仕上厚を薄く圧延する手法を提案する。仕上厚を薄くする区間長は次工程での処理に応じて決められるが,特に区間長が短いケースではFig.4のように2つの板厚変更点が同時にミル内に存在することがある。ここでは,圧延ミル内に同時に2つの板厚変更点を含む場合に適用できる走変制御器の設計方法について述べる。

Fig. 3.

Thickness reduction for yield improvement.

Fig. 4.

Two thickness change points in mill.

本稿で提案する方法は次の3ステップからなる。第1ステップでは,ミル内での2つの板厚変更点の位置の遷移パターンを特定する。第2ステップでは,遷移パターンに基づくロールギャップとロール速度の設定計算をおこなう。第3ステップでは,2つの板厚変更点のトラッキング情報にもとづき,第2ステップで求めた設定値を適用する。

3・1 第1ステップ:遷移パターンの特定

2つの板厚変更点に挟まれた部分(以後,板厚変更部と呼ぶ)の体積は不変である。本節では,この事実にもとづいた,2つの板厚変更点のミル内での位置の遷移パターンの分類方法を示す。最初に遷移パターン分類の説明で必要となる記号の定義を述べる。Mは前述の板厚変更部の体積である。Aは先に圧延スタンドを通過する板厚変更点を示し,Bは後で圧延スタンドを通過する板厚変更点を示し,板厚変更点ABが圧延スタンドを通過するイベントをそれぞれAiBiとする。下付きの数字iは直近で通過した圧延スタンドの番号を示している。hiIIは,板厚変更部の第iスタンド出側における板厚目標値とする。なお,本節で対象とする圧延スタンドの数は5とする。

次に前記イベントが発生する順番で板厚変更点の位置の遷移パターンを定義する。最初に先行する板厚変更点Aが必ず第1スタンドを通過するので,A1というイベントが発生する。

続いて,2つの板厚変更点は同時に第1スタンドと第2スタンド間には入らないという仮定があるので,次に必ずAが第2スタンドを通過し,A2のイベントが発生する。続いて,Bが第1スタンドを通過するか,Aが第3スタンドを通過するかは,Mとその板厚目標値から判定できる。すなわち,第1スタンドと第3スタンド間の鋼板の体積がMと均しいFig.5の場合では(h1II+h2II)L=Mとなるから,(h1II+h2II)L>Mが成り立てばBが第1スタンドを通過するイベントB1が先に発生し,成り立たなければAが第3スタンドを通過するイベントA3が先に発生する。すなわち,(h1II+h2II)L>Mならば,A1A2B1の順番となり,不等号の向きが逆ならばA1A2A3の順番が確定する。

Fig. 5.

Situation when A3 and B1 occur simultaneously.

いま,A1A2A3以降の分岐パターンを考えると, (h1II+h2II+h3II)L>Mが成り立てば続くイベントはB1となり,A1A2A3B1となる。不等号の向きが逆ならば,続くイベントはA4となる。さらに,A1A2A3A4からの分岐を考えると,(h1II+h2II+h3II+h4II)L>Mならば,続くイベントは,B1となる。そして続くイベントは,(h2II+h3II+h4II)LMの大小関係で決定するが,既に(h1II+h2II+h3II)L<Mと判定されているため(h2II+h3II+h4II)L<(h1II+h2II+h3II)L<Mの関係があるので,続くイベントは必ずA5となる。最終的に,A1A2A3A4B1A5B2B3B4B5の順番が確定する。上述のA1A2A3A4からの分岐で,(h1II+h2II+h3II+h4II)L<Mならば,続くイベントはA5となり,A1A2A3A4A5B1B2B3B4B5の順番が確定する。これは一般的な走変を繰り返し2回適用することに相当する。

同様の考え方で,全遷移パターンを整理すると,Fig.6が得られる。なお括弧で囲まれた部分は,括弧内の矢印の前後のイベントが同時発生する場合を含んでいることを意味する。このように,5つの圧延スタンドがある場合には,遷移パターンは8ケースに分類できる。

Fig. 6.

Classification of the transition patterns.

ケース1の例として,Fig.7に示す遷移パターンを考える。まず,state-1では,Aは第1スタンドと第2スタンドの間に存在する。そして,state-2では,Aは第2スタンドと第3スタンドの間に移動する。これは,仮定より,BAと同時に隣接する第1スタンドと第2スタンドの間に入ることができないためである。この仮定を数式で表現すると,h1IIL<Mとなる。続くstate-3では,Bは,第1スタンドと第2スタンドの間に入る。これは,(h1II+h2II)LMの条件を満たしているためである。state-4では,Aは第3スタンドと第4スタンドの間に移動する。これはstate-2が成立するならば,不等式h2IIL<h1IIL<Mが成り立つため,Bは先に第2スタンドと第3スタンドの間に入ることができないためである。state-5では,(h2II+h3II)LMであるため,Bが第2スタンドと第3スタンドの間に入る状況を示している。続くstate-6では,Aは第4スタンドと第5スタンドの間に移動する。これもstate-2が成立するならば不等式h3IIL<h1IIL<Mが成り立つため,Bは先に第3スタンドと第4スタンドの間に入ることができないためである。続くstate-7では,(h3II+h4II)LMのためBが第3スタンドと第4スタンドの間に移動する。そして,state-8,state-9,state-10は全ケースで共通の状態となる。

Fig. 7.

Transition pattern of positions of two thickness change points (case 1).

3・2 第2ステップ:ロールギャップとロール速度の設定計算

次に,板厚変更点の各スタンド通過時点でのロールギャップとロール速度の設定計算方法について説明する。ここで,設定計算とは,各state別に全スタンドで目標出側板厚を得るためのロールギャップとロール速度を求める操作を指し,各state間の計算結果の差である変更量を設定値とする。

2章で示したように,圧延条件を使用して圧延荷重を計算した後に(3)式でロールギャップは計算できる。本稿中では,板厚変更点A が各スタンド通過時には,各スタンドの後方張力を板厚変更部の目標値に設定し,板厚変更点Bが各スタンド通過時には,各スタンドの後方張力を板厚変更前の目標値に設定する。ここで,板厚変更部の張力応力設定値は,板厚変更前の張力応力設定値と等しい。これにより,板厚変更点ABが各スタンド通過時に,通過スタンドの後方スタンドの前方張力応力が変化する。したがって,目標出側板厚に精度良く制御するには,板厚変更点の通過スタンドとともに通過スタンドの後方スタンドのロールギャップを変更する必要がある。このような過渡状態でのロールギャップの設定方法は公知である8)。また,板厚制御精度は低下するが,上記の過渡状態は考慮せずに,板厚変更部の定常状態における前方張力応力と後方張力応力の設定値を用いて,ロールギャップ設定値を求め,板厚変更点が各スタンドを通過するタイミングで,その通過スタンドに対してのみロールギャップを設定替えする手法もある9)。本稿では,過渡状態を考慮しない後者の方法を採用した。各state別にロールギャップを求めておき,各state間の計算結果の差であるロールギャップ変更量を設定値として保持しておく。

続いて,ロール速度は走変前後の板厚目標値と走変前の最終スタンドのロール速度,圧延条件から計算可能である先進率を用いて計算できる。3・1に示した遷移パターンの分類は,ロール速度の計算に必要なミル内の板厚目標値の情報を得るための操作である。そして,ロール速度設定値は,全ての遷移状態で求める必要がある。

例として,Fig.8に示すケース1のstate-7でのロール速度計算方法を示す。Fig.8で,hiIは走変前の第iスタンドの出側板厚を示し,hiIIは,板厚変更部の第iスタンドの出側板厚を示す。そして,fiIは,走変前の板厚,走変前のスタンド前後方張力設定値で計算した第iスタンドの先進率,fiIIは,板厚変更部の板厚,板厚変更部のスタンド前後方張力設定値で計算した第iスタンドの先進率,fitIは,板厚変更部の板厚,スタンド前方張力は走変前の設定値,スタンド後方張力は板厚変更部の設定値で計算した第iスタンドの先進率,fitIIは,走変前の板厚,スタンド前方張力は板厚変更部の設定値,スタンド後方張力は走変前の設定値で計算した第iスタンドの先進率を示している。計算にあたり,第5スタンドのロール速度であるVR5は固定値とする。ここでの目的は,第1から第4スタンド速度の設定値V*R1V*R2V*R3V*R4を計算することである。

Fig. 8.

Roll speed calculation for state-7 of case 1.

計算は,次の手順でおこなわれる。

第5スタンドでの体積保存法則から,V*R4(1+f4tI)h4I=VR5(1+f5I)h5Iが得られる。本式は,次のように変形できる。

  
V R 4 * = 1 + f 5 I 1 + f 4 t I h 5 I h 4 I V R 5 (5)

同じく,第4スタンドの体積保存法則からV*R3(1+f3tII)h3II=V*R4(1+f4tI)h4IIが得られる。(5)式を代入すれば,次の式に変形できる。

  
V R 3 * = 1 + f 4 t I 1 + f 3 t I I h 4 I I h 3 I I V R 4 * = 1 + f 5 I 1 + f 3 t I I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I V R 5 (6)

同様に,第3スタンドの体積保存法則からV*R2(1+f2I)h2I=V*R3(1+f3tII)h3Iとなる。本式は(6)式により,次のように変形できる。

  
V R 2 * = 1 + f 3 t I I 1 + f 2 I h 3 I h 2 I V R 3 * = 1 + f 5 I 1 + f 2 I h 3 I h 2 I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I V R 5 (7)

同様に,第2スタンドの体積保存法則からV*R1(1+f1I)h1I=V*R2(1+f2I)h2Iとなる。本式は(7)式により,次のように変形できる。

  
V R 1 * = 1 + f 2 I 1 + f 1 I h 2 I h 1 I V R 2 * = 1 + f 5 I 1 + f 1 I h 3 I h 1 I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I V R 5 (8)

このように,ロール速度は,(5),(6),(7),(8)式として得られる。また,ケース1の全ての遷移状態でのロール速度の計算結果をTable 2にまとめる。そして,各state間の計算結果の差であるロール速度変更量を設定値として保持しておく。

Table 2. Roll speed settings (case 1).
state V R 1 * / V R 5 V R 2 * / V R 5 V R 3 * / V R 5 V R 4 * / V R 5
1 1 + f 5 I 1 + f 1 t I h 5 I h 1 I 1 + f 5 I 1 + f 2 I h 5 I h 2 I 1 + f 5 I 1 + f 3 I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I
2 1 + f 5 I 1 + f 1 t I h 5 I h 1 I 1 + f 5 I 1 + f 2 I h 5 I h 2 I 1 + f 5 I 1 + f 3 I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I
3 1 + f 5 I 1 + f 1 t I I h 2 I I h 1 I I h 5 I h 2 I 1 + f 5 I 1 + f 2 t I h 5 I h 2 I 1 + f 5 I 1 + f 3 I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I
4 1 + f 5 I 1 + f 1 t I I h 3 I I h 1 I I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 2 I I h 3 I I h 2 I I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 3 t I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I
5 1 + f 5 I 1 + f 1 I h 2 I h 1 I h 3 I I h 2 I I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 2 t I I h 3 I I h 2 I I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 3 t I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I
6 1 + f 5 I 1 + f 1 I h 2 I h 1 I h 4 I I h 2 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 2 t I I h 4 I I h 2 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 3 I I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 4 t I h 5 I h 4 I
7 1 + f 5 I 1 + f 1 I h 3 I h 1 I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 2 I h 3 I h 2 I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 3 t I I h 4 I I h 3 I I h 5 I h 4 I 1 + f 5 I 1 + f 4 t I h 5 I h 4 I
8 1 + f 5 I I 1 + f 1 I h 3 I h 1 I h 5 I I h 3 I I 1 + f 5 I I 1 + f 2 I h 3 I h 2 I h 5 I I h 3 I I 1 + f 5 I I 1 + f 3 t I I h 5 I I h 3 I I 1 + f 5 I I 1 + f 4 I I h 5 I I h 4 I I
9 1 + f 5 I I 1 + f 1 I h 4 I h 1 I h 5 I I h 4 I I 1 + f 5 I I 1 + f 2 I h 4 I h 2 I h 5 I I h 4 I I 1 + f 5 I I 1 + f 3 I h 4 I h 3 I h 5 I I h 4 I I 1 + f 5 I I 1 + f 4 t I I h 5 I I h 4 I I
10 1 + f 5 I 1 + f 1 I h 5 I h 1 I 1 + f 5 I 1 + f 2 I h 5 I h 2 I 1 + f 5 I 1 + f 3 I h 5 I h 3 I 1 + f 5 I 1 + f 4 I h 5 I h 4 I

3・3 第3ステップ:設定値の反映

現在の2つの板厚変更点の位置を示すトラッキング信号にもとづいて,遷移状態を監視しておき,前節で示したロールギャップ設定値とロール速度設定値を反映することで溶接部前後の走変が実現できる。この制御システムを,Fig.9に示す。監視している遷移状態に基づき,設定値を選択し,それらを圧延機の制御器に送信し,ロールギャップとロール速度を制御する。

Fig. 9.

Schematic diagram of control system.

4. シミュレーションと実機実験結果

本章では,シミュレーションで必要となる動的モデル式を述べた後,シミュレーション結果と実機実験結果を示す。まず,シミュレーションでは,板厚変更前の仕上厚を基準として板厚変更部の仕上厚を3%薄く圧延する条件で,従来法8)と提案法の制御結果を比較し,提案法により,張力変動を抑制しつつ良好な板厚制御精度が得られることを示す。屑量の削減という目的では,溶接部前後の仕上厚は薄い方が望ましいが,圧延機の設備上の制約(圧延荷重制約,圧延トルク制約)や設定計算で用いるモデルの精度に応じた張力変動により,達成できる仕上厚は制限される。そこで,シミュレーションにより,提案法を適用した場合における張力変動が実用上の許容範囲内となる板厚変更量の最大値(板厚変更前の仕上厚を基準としたときのパーセント表記)を求めておき,続くシミュレーションと実機実験では,板厚変更量を前記最大値より小さい値に設定し,制御精度を評価する。

本稿では,各圧延スタンドの出側板厚は次の(9)式で設定した。このように設定すると,後段スタンドの圧下率の上昇量が前段スタンドより大きくなり,前段スタンドに比べて後段スタンドの圧延荷重の上昇量が大きくなる。適用前に,この圧延条件が各スタンドの設備上の制約を超えないことと,鋼板の平坦度が許容範囲内となることを評価しておく必要がある。

  
h i I I = h i I i × h 5 I h 5 I I 5 , i = 1 , 2 , 3 , 4 , 5 (9)

シミュレーションは,MATLAB®,Simulink®を用いておこなった。ここで示すシミュレーションと実機実験のグラフの垂直軸は,物理量の初期値および固定パラメータで正規化している。

4・1 シミュレーションで用いる動的モデル

ここで示す動的モデル式は,設定計算には不要であるが,シミュレーションで必要となる。以降に示すモデル式中の変数の添字iは第iスタンドに関するパラメータであることを表しており,それぞれのモデル式に含まれる変数の意味はTable 3に示すとおりである。

Table 3. Parameters used in dynamic models.
Symbol Notes
Ti – ( i +1) Strip tension between ith stand and (i+1)th stand
s Laplace operator
Es Young’s modulus of strip
Hi Entry thickness
hi Exit thickness
w Strip width
L Length between stands
x Position between stands; 0 ≤ xL, x=0 at exit side of a stand, x=L at entry side of a downstream stand.
Vi Entry strip velocity
vi Exit strip velocity
VRi Roll speed
VRiref Reference of roll speed
Tiv Time constant of roll speed actuator
Si Roll gap
Siref Reference of roll gap position
Tis Time constant of roll gap position actuator

iスタンドと第i+1スタンド間の鋼板張力は(10)式で表される5)。この式は,スタンド間の板厚と板幅分布を考慮した式であるが,本稿では先行材と後行材で板幅は同一であるため板幅は一定値となる。そして,第iスタンドの出側における鋼板速度と第i+1スタンドへの入側における鋼板速度が異なれば,鋼板張力が変動することを示しており,鋼板張力の変動を最小化するには両者を一致させることが必要であることがわかる。冷間圧延において中心となるアクチュエータは,電動機と油圧シリンダーである。前者はロール速度を制御し,後者は,ロールギャップを制御する。これらのアクチュエータの応答は(11)式と(12)式に示すように,1次遅れの伝達関数でモデル化できる。スタンド間における板厚の移送遅れは,鋼板速度に依存して可変であり,これは(13)式としてモデル化できる。

・鋼板張力モデル5)

  
T i ( i + 1 ) ( s ) = E s 0 L 1 h i ( x ) w d x V i + 1 ( s ) v i ( s ) s (10)

ここで,hi(x)は,xにおける板厚である。

・ロール速度モデル

  
V R i ( s ) = 1 T i v s + 1 V R i r e f (11)

・ロールギャップモデル

  
S i ( s ) = 1 T i s s + 1 S i r e f (12)

・スタンド間板厚移送遅れモデル

  
H i + 1 ( s ) = h i exp ( L / v i s ) (13)

4・2 シミュレーション結果

まず,従来法8)と提案法の制御結果をシミュレーションで比較する。従来法では,ABが各スタンド通過時に設定替えするロールギャップとロール速度を計算する際に,圧延ミル内におけるABの位置情報を使用しない。したがって,本稿においても,板厚変更点前後のパススケジュールと最終スタンドの速度設定値のみを使用して,ABが各スタンド通過時の設定値を個別に計算する。そして,ロール速度の設定は,Aが通過済みかつBが未通過のスタンドはAの設定値を適用し,Bが通過済みのスタンドはBの設定値を適用する。なお,Aが未通過のスタンドの設定替えは,おこなわない。両者の比較のため圧延条件は同じとし,板厚変更量は基準値の3%とする。そして,ABが圧延ミル内に同時に2つの板厚変更点を含むように板厚変更部を設定する。Fig.10Fig.11に,それぞれロールギャップとロール速度の比較を示す。図中の凡例の“Conventional”は従来手法を示し,“Proposed”は,提案手法を示す。そして,2つの板厚変更点ABが第iスタンドを通過するイベントの発生タイミングをAiBiとして記載している。両手法でロールギャップの設定は同じとなるが,ロール速度の設定が異なる。続いて,Fig.12に鋼板張力の比較を示す。提案法では,全スタンド間で張力変動が小さいが,従来法では上流スタンド間の張力が設定値に対して大きくなる傾向にあり,特に第2−第3スタンド間では,一時的に張力設定値に対して約50%過大となっている。実操業で許容できる張力変動水準としては,この付近と考えられるため,従来法で達成できる板厚変更量の設定値は,この圧延条件では3%程度である。そして,Fig.13示す板厚の比較では,提案法の方が目標値に近く,精度良好となった。これは,従来法では,張力が設定値に対して過大となる影響で圧延荷重が設定計算時よりも低くなった結果,板厚が目標値よりも薄くなるのに対して,提案法では,張力変動が小さく,板厚変動を抑制できるためである。

Fig. 10.

Simulation results of roll gap (Comparison of conventional method and proposed method).

Fig. 11.

Simulation results of roll speed (Comparison of conventional method and proposed method).

Fig. 12.

Simulation results of strip tension (Comparison of conventional method and proposed method).

Fig. 13.

Simulation results of exit thickness at final stand (Comparison of conventional method and proposed method).

なお,提案法を用いたシミュレーションで,板厚変更量を基準値の15%以上と設定すると,張力変動が許容水準である50%以上となった。したがって,この圧延条件では,本手法を適用すると15%程度の板厚変更まで達成できる。

続くシミュレーションでは,板厚変更量の設定値を上記15%より小さい10%に設定した。これは,4・3節の実機実験でシミュレーションと同じ板厚変更量を設定したときに,モデル誤差に起因して張力変動が許容値以上となる可能性を低くするためである。Fig.14Fig.15は,それぞれロールギャップとロール速度の動作を示している。ここで,Fig.14Fig.15には,2つの板厚変更点ABが第iスタンドを通過するイベントの発生タイミングをAiBiとして記載している。Fig.14では,ロールギャップは先に圧延スタンドを通過する板厚変更点が圧延スタンドを通過する際には,閉方向に動作しており,後に続く板厚変更点が通過する際には開方向に動作させている。このように,ロールギャップの動作は,板厚変更点の各スタンド通過タイミングに同期している。他方,Fig.15のロール速度の動作も板厚変更点の各スタンド通過タイミングに同期しているが,特に上流スタンド側で複雑となる。これは,張力変動抑制のために圧延スタンド間における鋼板の入側のマスフローと出側のマスフローのバランスを均衡させる必要があり,2つの板厚変更点のミル内での位置関係に依存して適切な設定値が決定されるためである。続いて,Fig.16は鋼板張力を示している。この図中の凡例の“Calculation”はシミュレーション結果であり,“Reference”は,張力目標値である。ここで,長手の単位断面積あたりの鋼板張力を一定にするために,先の板厚変更点が圧延スタンドを通過するタイミングで後方スタンド間の設定張力を低下させ,後の板厚変更点が圧延スタンドを通過するタイミングで元の設定値に戻している。一般的に圧延の操業では,鋼板張力の変動は基準値に対して高々数十%程度であれば圧延可能な条件となっている。シミュレーションでは,全長で20%以内が確保できており,張力変動としては問題ない。このとき,Fig.17に示す板厚チャートでは,溶接部前後の仕上厚を目標値付近に制御できている。

Fig. 14.

Simulation results of roll gap.

Fig. 15.

Simulation results of roll speed.

Fig. 16.

Simulation results of strip tension.

Fig. 17.

Simulation results of exit thickness at final stand.

以上で,板厚と鋼板張力の観点から提案法の有効性をシミュレーションにより示した。

4・3 実機実験結果

実機実験により,提案手法の有効性を検証する。本実験でも前節のシミュレーションと同様に,板厚変更部の目標仕上厚が初期の板厚に対して10%薄くなるように制御をおこなった。実機での鋼板張力と板厚チャートをそれぞれFig.18Fig.19に示す。これらの図中の凡例の“Actual Value”は実績値であり,“Reference”は目標値を示す。板厚チャートでは,目標通り10%薄く圧延できている。ここで,溶接部で板厚変動が発生しているのは,溶接部での変形抵抗の違いや板厚計の測定誤差に起因しているが,それ以外の位置での板厚変動は1%以内に精度良く制御できている。また,張力変動は,基準値に対して20%以内となり,実用上問題ない。続いて,本手法の信頼性確認のために,複数の試験で板厚精度と張力精度を検証した。目標値を基準としたときの,走変中における制御偏差の絶対値の時系列のうちの最大値を評価した結果をTable 4に示す。板厚変更部では,板厚は3.1%以内,張力変動は14.9%以内に制御されており,板厚精度,張力変動も実運用上問題ないことを確認した。以上により,本手法の有効性を実機実験により確認できた。

Fig. 18.

Experimental results of strip tension.

Fig. 19.

Experimental results of exit thickness at final stand.

Table 4. Experimental results.
No Thickness Error [%] Tension Error [%]
1 1.6 14.9
2 2.9 13.3
3 3.1 12.8
4 1.1 7.8
5 1.0 14.1

5. 結言

連続式冷間圧延ミルでは,張力変動に起因する溶接部での破断や鋼板の溶接部を含むある長手区間の屑化に起因する,工場の稼働率低下や歩留まり低下が問題となっている。これらに対処するため,溶接部を含むある長手区間のみ,他の長手位置の板厚とは異なる仕上厚に制御することが望まれていた。本論文では,圧延ミル内に同時に2つの板厚変更点を含む場合でも,張力変動を抑制しつつ板厚変更を実施できる走変手法を提案した。提案法では,2つの板厚変更点の位置関係の遷移パターンを特定し,ロールギャップとロール速度の設定値を計算する。そして,2つの板厚変更点のトラッキング情報をもとに,計算で求めた設定値を反映する。本論文では,提案手法の有効性をシミュレーションと実機実験により確認した。

本稿の問題設定として,ロールギャップ指令値の干渉が発生する可能性の高い,2つの板厚変更点が同時に隣接するスタンド間に存在する場合を除外したが,2つの板厚変更点が同時に隣接するスタンド間に存在する場合であっても,ロールギャップ指令値の干渉がなければ,3章で示す考え方を適用することが可能である。ただし,3・1節に示した2つの板厚変更点の圧延ミル内での位置関係の遷移パターンのケース分類数が多くなる。汎用的にロールギャップ指令値の干渉を回避する手法とするためには,ロールギャップの応答性から達成可能な板厚変更部の最小長さを求めるなど,さらなる検討が必要と考えられる。

文献
  • 1)  山下道雄,北村邦雄,鑓田征雄,安倍英夫,長南富雄,三宅英徳:第36回塑性加工連合講演会講演論文集,日本塑性加工学会,東京,(1985), 185.
  • 2)  D.R. Bland and H. Ford: Proc. Inst. Mech. Eng., 159(1948), 144.
  • 3)  R.Hill著,鷲津久一郎・山田嘉昭・工藤英明訳: 塑性学,培風館,東京,(1954), 186.
  • 4)  S. Shida and H. Awazuhara: J. Jpn. Soc. Technol. Plast., 14(1973), 195.
  • 5)  板圧延の理論と実際(改訂版),日本鉄鋼協会圧延理論部会編,日本鉄鋼協会,東京,(2010), 120.
  • 6)  小野一成:タンデム圧延機における圧延方法,特願2001-335283, (2001).
  • 7)  小野一成:タンデム圧延機における圧延方法,特願2001-335284, (2001).
  • 8)  井原信之,野村政功:タンデム圧延機の制御装置,特願平9-6616, (1997).
  • 9)  板圧延の理論と実際(改訂版),日本鉄鋼協会圧延理論部会編,日本鉄鋼協会,東京,(2010), 132.
 
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