Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Steelmaking
Effect of Liquid Phase in Flux on Hot Metal Desulfurization by Mechanical Stirring Process
Tsuyoshi Yamazaki Shin-ya KitamuraTooru Matsumiya
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 1 Pages 1-9

Details
Synopsis:

A study has been made on the desulfurization by the use of CaO-CaF2 flux and CaO-Na2CO3 flux with mechanical stirring. The followings were found: 1) The desulfurization rate was correlated with the mixing ratios of CaF2 and Na2CO3 in the fluxes and had local maximum. 2) Although aggregation of flux was observed in the case of the high mixing ratio of CaF2, the reaction area seemed to be constant throughout the reaction. This is because aggregation was almost completed at the very beginning of the experimental time. 3) It is possible to estimate the rate of desulfurization by using effective liquid phase ratio, in which the liquid phase used as cross-linking agent is excluded from the total liquid phase ratio.

1. 緒言

溶銑脱硫工程では生石灰(CaO),Mg,ソーダ灰(炭酸ナトリウム,Na2CO3)等のフラックスが使用されている。なかでもCaO系フラックスはコスト・操業性の点で優れており,広く使用されているが,溶銑温度が1573~1673 Kと低いため,従来,蛍石(フッ化カルシウム,CaF2)等の副剤使用により液相生成を促進させることで処理の安定化と脱硫能の向上を図ってきた。しかしながら,F溶出規制により蛍石の使用が制限されており,また,スラグ発生量の低減の観点からも,フラックスの反応性を一層高め,脱硫工程の効率性を追求していくことが重要となっている。

CaOやNa2CO3に,他の物質を混合したフラックスの脱硫性については,これまでに多くの検討が行われているが1,2),CaOを主剤にCaF2やNa2CO3の混合比率を大きく変えた条件での報告はShimodaら3)やMukawa and Mizukami4)の報告があるものの比較的少ない。

また,溶銑の脱硫方式としては溶銑表面上のフラックスを強い攪拌力で溶銑内へ巻き込ませることができる機械攪拌方式がスラグ発生量低減の観点からも見直され,各社で機械式攪拌方式の導入が図られてきている59)。溶鉄中に巻き込まれたフラックスは,フラックス間の凝集により溶鉄との反応性に大きな影響が出てくるが,機械攪拌方式でのフラックスの凝集現象については,フラックス単分散粒子の変化についてNakaiら10)が詳細な検討を行っている。しかしながらNakaiらの検討は,フラックスの溶融性が比較的低い条件での検討であるため,フラックスの溶融性が高く,液相が多い条件での凝集現象については,十分に検討されているとは言えない。

そこで,機械攪拌方式での脱硫反応への副剤使用によるCaO系フラックス溶融状態の影響を検討するため,液相生成量が大きく変化する条件にて機械攪拌式での溶銑脱硫実験を行い,高液相生成条件での脱硫挙動を調査した。CaOに配合するフラックスとしては,CaF2に加え,液相生成と高い脱硫能が期待されるソーダ灰(炭酸ナトリウム,Na2CO3),Na2O分の揮発性が低位と推定されるメタ珪酸ソーダ(Na2SiO3)を使用した。

2. 実験方法

誘導加熱方式の電気炉を使用し,機械攪拌方式での脱硫フラックスの精錬能評価実験を行った。装置の概要をFig.1に,主な実験条件をTable 1に示す。攪拌用のフィンは径を0.130 m,高さが0.090 mとし,鉄製の芯金にAl2O3-SiO2系キャスタブル耐火物を被覆して使用した。実験ではフィンの回転数を250 rpm一定とし,溶銑浴の攪拌を行った。また,インペラーの高さは,攪拌状態でフィンの上端部が溶銑表面位置になるように調節した。フラックスの添加条件としては,粉状のフラックス(粒径0.1×10−3 m以下)を使用し,実験開始後,20 sec毎に5分割で溶銑表面中央の陥没部へ投入した。また,フラックス量は2.8 kgとし,実験時間は20 minとした。CaOを主剤として,Table 2に示す種々のフラックスを混合し脱硫能の評価を行った。実験終了後に溶銑面上のフラックスを回収し,CaO-CaF2フラックスについては,アルキメデス法によりフラックスの見かけ密度を測定した。

Fig. 1.

Schematic diagram of experimental apparatus.

Table 1. Experimental conditions.
MetalWeight400 kg
Temperature1613 ~ 1626 K
Chemical
composition
C4.1 ~ 4.4 mass%
S0.029 ~ 0.033 mass%
Depth0.520 m
Rotation time20 min
ImpellerRotation speed250 rpm
Immersion depth0.090 m
FluxDiameter< 0.1 × 10–3 m
Weight2.8 kg
Table 2. Chemical compositions of flux.
No.compoundFlux composition (mass%)
CaOSiO2CaF2Na2CO3Na2O
1100.0
2Calcium difluoride95.05.0
390.010.0
485.015.0
575.025.0
6Sodium carbonate95.05.0
791.48.6
887.112.9
975.025.0
10Metasilicate soda93.03.43.6
1190.04.95.1
1286.66.66.8
1380.69.59.8

3. 実験結果

3・1 脱硫挙動

フッ化カルシウム(CaF2)を配合した条件での溶鉄中S濃度の経時変化をFig.2に示す。配合比率が10 mass%まではCaF2配合比率の増大に伴い脱硫速度は増大する傾向を示すが,配合比率が15 mass%以上では脱硫速度は低下する傾向を示す。炭酸ナトリウム(Na2CO3)を配合した条件での結果をFig.3に示す。この場合も,配合比率の低い範囲ではNa2CO3配合率の増大に伴い脱硫速度は増大する傾向を示すが,配合比率が高い25 mass%の条件では脱硫速度は低下する傾向を示す。メタ珪酸ソーダ(Na2SiO3)を配合した条件での結果をFig.4に示す。Na2SiO3の場合,配合比率の増大に伴い,脱硫速度は単調に増大する傾向を示す。

Fig. 2.

Influence of CaF2 mixing ratio on the desulfurization rate by CaO-CaF2 mixtures.

Fig. 3.

Influence of Na2CO3 mixing ratio on the desulfurization rate by CaO-Na2CO3 mixtures.

Fig. 4.

Influence of Na2SiO3 mixing ratio on the desulfurization rate by CaO-Na2SiO3 mixtures.

3・2 フラックス凝集性

CaF2配合の場合,CaF2の配合比率増大に伴い,著しいフラックスの凝集傾向が見られた。Fig.5Fig.6に実験終了後の溶銑面状のフラックスを示すが,CaF2の配合比率増大に伴い,フラックスが凝集し,粗大なフラックス粒が生成する傾向が見られる。そこで,実験終了後に溶銑面上のフラックスを回収し,粒径分布を測定した。Fig.7にCaF2配合の場合,Fig.8にNa2CO3の場合,Fig.9にNa2SiO3の場合の粒径分布の測定結果を示す。Na2CO3やNa2SiO3の場合は,著しい凝集傾向は見られなかった。

Fig. 5.

Appearance of flux after experiment. (CaO-CaF2 mixture with CaF2=10 mass%)

Fig. 6.

Appearance of flux after experiment. (CaO-CaF2 mixture with CaF2=15 mass%)

Fig. 7.

Influence of CaF2 ratio in CaO-CaF2 mixtures on the particle size distribution after experiment.

Fig. 8.

Influence of Na2CO3 ratio in CaO-Na2CO3 mixtures on the particle size distribution after experiment.

Fig. 9.

Influence of Na2SiO3 ratio in CaO-Na2SiO3 mixtures on the particle size distribution after experiment.

Fig.10に粒径分布測定結果から求めた(面積)平均径の試算結果を示す。CaF2配合の場合は15 mass%以上の配合条件で凝集径が著しく増大することに対し,Na2CO3やNa2SiO3の場合は,凝集径は若干増大する程度である。

Fig. 10.

Relation between mixing ratios of various elements in CaO-based fluxes and mean particle diameter.

4. 考察

4・1 脱硫速度

Fig.2~4に示したS濃度の時間変化では脱S挙動はS濃度に強く依存する傾向が見られる。脱硫反応が溶鉄側境膜内物質移動律速であると仮定して,式(1)に示すように1次反応の脱硫反応速度式で整理を行い,0~20 minのS濃度変化から見かけの脱硫速度定数Ksを求めた。なお,脱硫挙動が20 minで停滞する条件も見られるため,停滞する条件については,Ksは0~15 minのデータから求めた。

  
d[S]dt=Ks[S](1)

Fig.11にフラックス配合比率と見かけの脱硫速度定数Ksの関係を示す。CaF2配合の場合,脱硫速度定数Ksは配合比率の増大に伴い増大するが,15 mass%で一旦低下し,その後,緩やかに増大する傾向を示す。また,Na2CO3配合の場合も,脱硫速度定数Ksは配合比率の増大に伴い増大するが,10 mass%を超える条件では低下する傾向を示す。Na2SiO3の場合は,脱硫速度定数は配合比率の増大に伴い,単調に増大する傾向を示す。

Fig. 11.

Relation between mixing ratios of various elements in CaO-based fluxes and apparent rate constant Ks.

液相フラックスが多量に生成する一方で,フラックスの凝集挙動が顕著な条件も見られるため,脱硫反応挙動はフラックス−溶鉄間の反応面積変化,および,液相フラックス生成量や液相組成の影響を強く受けるものと考えられる。そこでまず,フラックスの凝集による反応面積変化の影響について考察を行い,次いで液相生成量の変化による反応に寄与する液相量と組成の影響について考察を行うことで,多量液相生成条件下での脱硫反応挙動における支配因子の明確化を試みた。

4・2 フラックス凝集性の影響

脱硫フラックスの凝集による脱硫挙動への影響を評価するため,Nakaiら10)の凝集の扱いにならい実験結果の解析を行った。Nakaiらはフラックスの凝集速度が2分子反応の式で表されるとし,γ:単位体積中の粒子数(1/m3),γe:平衡状態における粒子数(1/m3),γf:初期粒子数(1/m3),ka:凝集速度定数(m3/s),t:時間(s)として,粒子数の変化を式(2)で表し,粒子数を式(3)で表した。

  
dγdt=ka(γγe)2(2)
  
γ=γe+1kat+1γfγe(3)

また,Wf:フラックス重量(kg),D:粒子径(m),ρf:粒子密度(kg/m3),ε:空隙率(−),Vm:メタル体積(m3)とし,粒子径Dの粒子がn個存在するとして,粒子数を式(4)で表し,粒子形状を一定としてDについて解き,式(5)を導出した。

  
γ=Wf(π6D3ρf(1ε)n)n1Vm(4)
  
D(t)={Wfπ6ρf(1ε)1Vm1γ(t)}13(5)

さらに,式(5)中の粒子数γに式(3)を代入することで,式(6)を導出した。

  
D(t)={Wfπ6ρf(1ε)1Vm1γe+1kat+1γfγe}13(6)

CaF2を配合した条件でのフラックスの粒子径変化を,(6)式を用いて計算した。Wf=2.8 kg,ρf=3000 kg/m3とし,εについては,Nakaiらの扱いと同様に,Iwaseらの結果11)より,かさ密度を1300 kg/m3としてε=0.567とした。Vmはメタルの密度を7000 kg/m3として,メタル量400 kgよりVm=0.057 m3とした。γfは初期粒子径を0.1×10−3(m)として式(4)から求めた値を使用した。Nakaiらは機械式攪拌による脱硫実験を30 minまで行い,30 min時点での粒子径を平衡粒子径として評価を行ったが,本実験では多量の液相生成により凝集速度が大きく,20 min時点での粒子径はほぼ平衡に達していると仮定して,γeはフラックス条件毎に20 min時点での粒子径が平衡粒子径の0.95倍であるとして平衡粒子径を求め,式(4)から求めた値を使用した。kaは式(6)で計算される20 minでの計算粒子径が実測粒子径に合うようにフラックス条件毎に求めた。計算結果をFig.12に示すが,凝集は実験初期の段階から進行し,CaF2の高配合条件では実験の初期に粒子径が著しく増大する傾向が見られる。

Fig. 12.

Changes in mean particle diameter of flux. (Marks are experimental points and curved lines are calculated results.)

次に粒子径変化を考慮し脱硫挙動の推定を行った。見掛けの反応速度定数Ksは,反応面積をA(m2),物質移動係数をkm(m/s),メタル体積をVm(m3)として,式(7)で表すことができる。

  
d[S]dt=AkmVm[S](7)

Fig.12に示す粒子径変化より凝集粒子を球形と仮定して反応面積変化を求め,(7)を使用して,フラックス条件毎に20 min時点でのS濃度に合うようにkmを求めた。求めたkmと反応面積変化から計算したS濃度推移をFig.13に示す。CaF2が10 mass%以下の配合条件では実験値と計算値は比較的良い相関を示すものの,凝集挙動が著しい15 mass%以上の配合条件では,凝集による粒子径変化を考慮しても脱硫挙動を推定することは困難である。このように多量の液相が生成するフラックス条件の場合,反応面積変化を考慮しても脱硫挙動を再現できないことから,溶鉄側物質移動律速では整理は難しいものと推定される。なお,20 min時点での粒子径を平衡粒子径の0.95倍と仮定したことで,凝集挙動を過度に考慮していることも考えられるため,γeをNakaiらの報告にある30 min時点での粒子径と20 min時点での粒子径の比((20 min時点での粒子径)/(30 min時点で粒子径)=0.43)を使用して平衡粒子径が大きい条件で同様の整理を行ったが,この場合も,凝集挙動が著しい15 mass%以上の配合条件では,脱硫挙動を再現することは困難であった。

Fig. 13.

Comparison between observed and calculated results of desulfurization behavior. (Marks are experimental points and curved lines are calculated results.)

4・3 溶融フラックスの影響

4・3・1 フラックス液相率の推定

CaO単体に比べいずれの条件でもKsが大きいことから,配合により溶融フラックスが生成し,この溶融フラックスが微細分散することで脱硫反応を促進しているものと考えられる。フラックスの溶融状態を評価するため,実験温度でのフラックス溶融性(液相率)をSOLGASMIXを使用して計算した。SOLGASMIXは多元平衡解析計算プログラムであり,注目する相の自由エネルギー関数を熱力学的モデルによって記述し,系全体の自由エネルギーの最小化条件を用いて平衡状態を計算できる12)。なお,計算ではSiO2分として実験中に溶鉄中の珪素が酸化された分も考慮し,Na2CO3については実験後のスラグ組成からCaOとの比を使用して揮発ロスを考慮した組成とし,Na2CO3をNa2Oに換算して計算を行った。計算結果をFig.14に示す。フラックス配合比率の増大に伴い液相率が増大する傾向が見られ,CaF2の場合,配合比率20 mass%での液相率は30 mass%程度,Na2CO3,および,Na2SiO3の場合,配合比率20 mass%での液相率は20 mass%程度と計算される。

Fig. 14.

Relation between mixing ratios of various elements in CaO-based fluxes and liquid phase ratio.

液相率とKsの関係を整理した結果をFig.15.に示す。CaF2を配合した条件では液相率の増大に伴い脱硫速度は増大するが,さらに液相率が増大すると脱硫速度は低下する傾向を示す。Shimodaら3)は,CaO-CaF2系フラックスの脱硫速度はCaF2が10~50 mass%の配合率において,配合率の増大に伴い単調に増大すると報告しているが,今回の結果は,Shimodaらの報告とは異なる傾向を示す。

Fig. 15.

Influence of liquid phase ratio in various CaO-based fluxes on apparent rate constant Ks.

フラックス液相率の増大は,フラックス粒子間の凝集を促進する。脱硫フラックスはフラックス自体が溶融しつつ,溶融したフラックスが粒子間の結合に架橋剤として作用すると考えられる。Capes and Danckwerts13)は回転ドラムにより砂の造粒速度における粒子間の液充満度の影響を報告しているが,液充満度が90 vol%を超えると急激に造粒が進行することを示している。ここに液充満度とは粒子間空隙の体積に対する液体の体積の比であり,(液充満度)=(液体の体積)/(粒子間空隙の体積)×100 vol%である。フラックスの液相率の増大に伴いフラックスの凝集は進行していくが,CaF2が15 mass%以上の配合条件で凝集が著しく進行する傾向が見られるのは,CaF2の15 mass%配合条件の前後で,液充満度が90 vol%を超えるためと推定される。

Fig.16に実験後CaO-CaF2フラックスの見かけ密度を測定した結果を示す。配合率の増大に伴い見かけ密度は低下するが,配合率が15 mass%以上では3 g/cm3に漸近していく。図中にフラックス組成から計算した真比重の値を点線で示すが,3 g/cm3はこの値に近い。配合率が15 mass%未満の条件では,フラックス粒子間が溶融フラックスで充填されておらず,溶鉄がフラックス粒子間に入り込んでいるため見かけ密度が多くなっているものと考えられる。一方で,配合率が15 mass%以上では溶融フラックスがフラックス間を満たし,充填性の高い状態になっているものと考えられる。Fig.17に計算液相率と見かけ密度の関係を,Fig.18に計算液相率と実験後のフラックス平均粒子径の関係を示す。液相率が20 mass%以上になると,溶融していない固体粒子間の空隙が生成した液相でほぼ満たされた状態になると推定される。生成する液相量の増大に伴いフラックス粒子間に架橋剤として作用する液相量が増え,フラックス粒子間の液充満度が増大する。Capes and Danckwertsは粒子間空隙が90~100 vol%充填される条件で急激に造粒が生じると報告しているが,多量に液相が生成するフラックス条件では,実験初期の段階でフラックス粒子間の液充満度が90 vol%を超える液相量が生成し,急激な凝集挙動が生じる。急激な凝集挙動でフラックス粒子間に取り込まれた液相フラックスは溶鉄との接触が無いため脱硫反応には寄与しないと考えられる。そこで,多量の液相が生成する条件では5 minより前の時点で急激な凝集挙動が生じており,フラックス粒子間の充填に消費される液相フラックスは脱硫反応には寄与しないと考え,この無効分を考慮した脱硫に有効な液相フラックス量を検討した。

Fig. 16.

Density of CaO-CaF2 fluxes after experiment.

Fig. 17.

Influence of liquid phase ratio on bulk density of CaO-CaF2 fluxes.

Fig. 18.

Influence of liquid phase ratio on mean particle diameter of various CaO-based fluxes.

液相率が20 mass%の条件を境界に20 mass%以上の条件では,液相率20 mass%に相当する液相量は粒子間の結合に寄与するが脱硫には寄与しないと考え,液相率をηとし,式(8)で定義する脱硫反応に有効な液相率をη’として,脱硫速度定数Ksとの関係を整理した。なお,液相率が20 mass%未満の条件では,一部の液相が固体粒子間の架橋剤として作用するが,架橋剤として使用される液相量は少ないとして有効な液相率から除外しないこととした。ηη’の関係をFig.19に示す。CaF2の配合率が5 mass%,10 mass%,15 mass%,20 mass%,25 mass%での液相率ηは,それぞれ,7.8 mass%,15.1 mass%,22.2 mass%,30.1 mass%,37.7 mass%と計算されるが,CaF2の配合率が15 mass%以上の条件では液相率が20 mass%を超えているため,脱硫反応に有効な液相率η’は,それぞれ7.8 mass%,15.1 mass%,2.2 mass%,10.1 mass%,17.7 mass%となる。CaF2の配合率が15 mass%の条件では,殆どの液相が凝集の架橋剤として働くため,脱硫に有効な液相率が少なくなっていると考えられる。η’とKsの関係をFig.20示す。有効液相率η’の増大に伴い脱硫速度定数Ksは増大する傾向を示し,配合したフラックスにより生成した液相のうち,フラックスの凝集に使用されない有効な液相量を考慮することで,脱硫性を整理可能と推定される。

  
η=η(η<20)η=η20(η20)(8)
Fig. 19.

Relation between total liquid phase ratio and effective liquid phase ratio.

Fig. 20.

Relation between effective liquid phase ratio and apparent rate constant Ks.

4・3・2 サルファイドキャパシティの推定

配合フラックスの種類により脱硫性が異なるのは生成した液相フラックスのサルファイドキャパシティが異なるためと考えられる。そこで,Nakamuraら14)の扱いに従い,液相組成から光学的塩基度を求め,サルファイドキャパシティを計算し比較した。Nakamuraらは,式(9)に示す平均電子密度を基にした理論光学的塩基度を提案した。CaO,SiO2,CaF2,Na2Oの理論光学的塩基度Λは,それぞれ,ΛCaO=1.00,ΛSiO2=0.47,ΛCaF2=0.67,ΛNa2O=1.11であり,各フラックスの液相組成条件で,式(9),式(10)よりΛを計算した。次にSosinsky and Sommerville15)の提案した式(11)よりスラグ−ガス間の平衡に基づくサルファイドキャパシティCSを計算し,さらに,式(12)16)より,スラグ−メタル間の平衡に基づくサルファイドキャパシティC’Sを計算した。C’Sの値は,CaO-CaF2の場合,6.1~6.3×10−4,CaO-Na2CO3の場合,1.5×10−3,CaO-Na2SiO3の場会,1.5×10−3である。Na2Oを含有する系ではC’Sが大きな値を示し,本実験でのCaO-CaF2系とCaO-Na2CO3系の脱硫能の差は,C’sの差に相当しており,Na2CO3配合フラックスがCaF2配合フラックスに比べて脱硫性が高いのは,サルファイドキャパシティが大きいためと推定される。なお,ΛCaF2についてはHaraら17)がフォスフェイトキャパシティとの相関からΛCaF2=1.0が適していると報告しているが,ΛCaF2=1.0とした場合,CaO-CaF2のCs’がCaO-Na2CO3に比べて著しく大きくなってしまう。適正なΛCaF2の値には議論が必要であるが,適正値を議論するためのデータは十分では無いため,ΛCaF2の適正値に関する検討は,今後の課題である。

  
Λ=iΛiXi(9)
  
Xi=(Vi2)niNi{(Vi2)niN}(10)
  
logCs=(2269054640ΛT)+43.6Λ25.2(11)
  
logCs=logCs769T+1.30(12)

一方,Na2SiO3の場合,サルファイドキャパシティが大きいにも関わらず脱硫性が低位であるのは,Tsukihashi and Sano18)やRegoら19)が報告しているようにNa2O-SiO2融体におけるNa2O活量が低いためと推定される。TsukihashiらはNa2O-SiO2融体でのNa2Oの活量aNa2Oを実験的に求め,温度1573 K,Na2O=40~60 mass%の条件で,log(aNa2O)=−6.3~4.2とNa2Oの活量が小さくなることを報告しており,Regoらは,Na2O-CaO-SiO2融体でのaNa2Oを実験的に求め,温度1673 K,Na2O=21~36 mol%の条件で,log(aNa2O)=−7.97~−7.02とNa2Oの活量が小さくなることを報告している。Na2CO3の場合,Na2CO3からNa2Oへ変化するとともに,CaOや溶鉄中Siが酸化し生成したSiO2との溶融と並行して脱硫反応が生じているためNa2O活量の低下影響が小さいと考えられるが,Na2SiO3の場合,Na2Oは溶融前からNa2SiO3に含有されるSiO2と化合物を形成しているため,SiO2による活量低下の影響を受け易くなっているものと考えられる。

なお,Na2CO3を25 mass%配合した条件は液相比率が23 mass%と,20 mass%以上の液相生成が考えられるものの,実験後の粒径分布からフラックスの凝集傾向は小さい。Na2CO3はフラックス添加後に熱分解によりCO2を発生させ,Na2Oへと変化すると考えられるが,発生したCO2が粒子間への液相浸入を阻害することで,フラックスの凝集が進行しなかったものと推定される。従って,脱硫速度が低下したのは有効な液相量が低下したのではなく,Mukawa and Mizukami4)が報告しているように高Na2O条件ではスラグの酸化度が高くなったためと考えられるが,データが十分では無いためNa2Oが高濃度条件での検討は,今後の課題である。

5. 結言

(1)機械攪拌方式においてCaOにCaF2,および,Na2CO3を最大25 mass%配合したフラックス条件での脱硫挙動を調査した結果,配合比率の増大に伴い脱硫性は増大するが,ある配合比率で極大を示し,配合比率が高い条件では脱硫性は低下する傾向を示した。

(2)CaF2の配合比率が高い条件ではフラックスが著しく凝集する傾向を示すが,フラックスの凝集は実験の初期に生じているものと推定され,実験中のフラックス粒子の凝集に伴う反応面積変化による脱硫挙動への影響は小さいものと推定される。

(3)フラックスの凝集に作用する液相フラックス量を除外した有効な液相フラックス量を仮定することにより脱硫挙動を整理可能であると推定される。

(4)Na2CO3配合フラックスがCaF2配合フラックスに比べて脱硫性が高いのは,サルファイドキャパシティが大きいためと推定される。また,Na2SiO3配合フラックスの場合,サルファイドキャパシティが大きいにも関わらず脱硫性が低位であるのは,Na2O-SiO2融体におけるNa2O活量が低いためと推定される。

記号

[S]:Sulfer content in hot metal(mass%)

Ks:Apparent desulfurization rate constant(1/min)

γ:Number of particles in unit volume of liquid(1/m3)

ka:Aggregation rete constant(m3/s)

γe:Number of particles in equilibrium state(1/m3)

t:Time(second)

γf:Initial number of particles(1/m3)

Wf:Total weight of flux(kg)

D:Aggregated particle diameter(m)

Vm:Volume of hot metal(m3)

ρf:Particle density(kg/m3)

ε:Void ratio in aggregated particles(–)

η:Liquid phase ratio of flux(mass%)

η’:Effective liquid phase ratio of flux(mass%)

Λ:Theoretical optical basicity(–)

Λi:Theoretical optical basicity of component i(–)

Xi:Anion fraction of component i(–)

Vi:Electric charge of anion of component i(–)

ni:Number of anions of component i(–)

Ni:Mole fraction of component i(–)

T:Temperature(K)

Cs:Sulfide capacity of flux defined relative to the slag-metal equilibrium(–)

Cs’:Sulfide capacity of flux defined relative to the slag-gas equilibrium(–)

付録

Appendix(Thermodynamic data used in SOLGASMIX)
Table A1. Standard Gibbs free energy of formation.
ComponentΔG0 (J/mol)References
CaO (S)–630,930 + 144.99TA1)
CaO (L)–550,598 + 116.75TA1), A2)
SiO2 (S)–576,438 + 218.20TA3)
SiO2 (L)–566,899 + 213.43TA2), A3)
CaF2 (S)–29,706 + 17.41TA4)
CaF2 (L)0A4)
Na2O (L)0A5)
CaO·SiO2 (S)–1,284,43 + 359.84TA1), A2), A3)
3CaO·2SiO2 (S)–3,248,591 + 858.39TA1), A2), A3)
2CaO·SiO2 (S)–1,918,004 + 472.61TA1), A2), A3)
3CaO·SiO2 (S)–2,584,289 + 630.15TA1), A2), A3)
Table A2. Formation and interaction parameters in cell model.
(1) Ca-Si-O-F system
ParameterFormation/Interaction Energy (J/mol)References
WOSi-Ca–52.30012)
EOSi-Ca–18,82812)
WFSi-Ca012)
EFSi-Ca012)
WFSi-Si2,092,00012)
WFCa-Ca012)
2ESiO-F–3,34712)
2ECaO-F41,84012)
(2) Ca-Si-Na-O system
ParameterFormation/Interaction Energy (J/mol)References
WOSi-Ca–52,30012)
EOSi-Ca–18.82812)
WOSi-Na–83,680A5)
EOSi-Na–98,324A5)
WOCa-Na0A5)
EOCa-Na0A5)

(Ca-Si-Na-O系の生成自由エネルギー/相互作用エネルギーであるWOSi-Na,EOSi-Na,WOCa-Na,EOCa-Naについては,文献に値の記載が無いためYamadaへ確認し,確認した値を使用した。)

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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