Tetsu-to-Hagane
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Problems in Thermodynamic Analyses in a Fe-Cr-Ni-Mo System Alloy
Hidekazu Todoroki
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2019 Volume 105 Issue 3 Pages 358-362

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Synopsis:

Thermodynamic data including interaction coefficients necessary for molten Fe-Cr-Ni-Mo system alloys have not been sufficient to calculate terminal compositions in equilibrium as a result of some reaction. Particularly, the coefficients in relation with Mo are insufficient so that the corresponding coefficients have to be neglected usually. In this status, eAlMo = 0.007 was estimated by regularity according to atomic number after rearranging the other coefficients related to the activity coefficients for Al according to periodical table. Applying the value for the stability diagram of MgO / MgO·Al2O3 / Al2O3 previously reported by the author, the boundaries did not vary so much.

Subsequently, interaction coefficients related to the activity coefficients for Si, used as deoxidant the same as Al, were also rearranged with periodical table resulting in finding less clear periodic relation than Al. In particular, the values of eSiTi so far reported have significant deviation between the researchers leading to the difficulty in prediction about the terminal compositions in equilibrium when considering some reactions. Furthermore, the value of eSiMo = 0.11 recently proposed could describe the lower attained oxygen content in SUS316L containing 2 mass% Mo than that of SUS304 stainless steels. Finally, it is truly expected that the interaction coefficients related to Mo is made clear in the near future.

1. 緒言

熱力学的諸数値はスラグ/溶鋼間の化学反応における平衡値の把握,あるいは,非金属介在物形態を予測する上で極めて重要である。そのような背景の下,学振製鋼第19委員会にて,現在までに蓄積されてきた熱力学的諸数値をデータ集に集約する活動も行われた1)。特に,溶鉄中で活性であり実験も困難であるMg,Ca,Ti等の元素に関わる溶鉄中での酸化反応の標準自由エネルギー変化や相互作用助係数の充足は,著しく進展を遂げたと言える。

通常のステンレス鋼であるFe-Cr-Ni系に比較して,合金系がより高いFe-Cr-Ni-Mo系溶鋼の熱力学的解析は,未だに難しいことを示すことが本報告の目的である。著者の前報2)では,Fe-Cr-Ni-Mo系合金の酸化物相安定図を計算し,実測値と一致することを述べた。しかしながら,Fe-Cr-Ni-Mo系等ではデータが不十分であり,Alの活量係数に及ぼすMoの影響を表す相互作用助係数eAlMoは無視せざるを得なかった。そこで,本報では本係数を推測して,影響の程度を考察した。さらに,実用合金系において,その他の相互作用助係数についても妥当性を検証し,Fe-Cr-Ni-Mo系に対して現状抱えている熱力学的解析の問題点を整理する。

2. Fe-Cr-Ni-Mo系における熱力学的解析の結果と考察

2・1 酸化物の安定領域図

前報2)にて,溶融Fe-22%Ni-24%Cr-6%Mo(in mass%)合金における非金属介在物組成の予測について報告した。予測にあたって,MgO/MgO·Al2O3/Al2O3の安定領域図を計算した。計算の詳細は既に詳述したので,本報では省略する。ここで,溶鋼中各成分の活量係数を求めるにあたり,各構成成分に関する相互作用助係数が必要となる。Table 12)に示す通り,Alの活量係数に及ぼすMoの影響を表すeAlMoの値,およびMgの活量係数に及ぼすMoの影響を表すeMgMoは,共に報告が無いことが分かる。したがって,これらの値を無視して計算を行った。

Table 1. Interaction coefficients eij 2) applied for the calculation of stability diagram for oxides.
i \ jSiMnCrNiMgMoAlO
Mg–0.0880.047–0.012–0.12–430
Al0.0560.012–0.0173 (0.00021)–0.130.043–1.98
O–0.066–0.021–0.0330.006–2800.005–1.17–0.20

( ): second order rij

特に,eAlMoはAl脱酸による平衡酸素値を計算する上でも必要であり,溶存酸素値によっては予測が大きく変化する。Fig.1に,eAlMoを0として計算した結果2)を破線で示す。前報において,EDSを用いて測定した介在物組成は,それぞれの安定領域と良く一致することを示した。すなわち,Alの活量係数に及ぼすMoの影響は無視し得るという仮定は,それほど真実から遠いものではないと考えられた。

Fig. 1.

Oxide stability diagram for Fe-22Ni-24Cr-6Mo (in mass%) steel system.

2・2 相互作用助係数eAlMoの推定

炭素飽和溶鉄中において,Cに及ぼす各元素の影響を示す相互作用母係数εCjは,周期律表に従い規則正しく繰り返されることが知られている3)。そこで,現在報告のあるejAl値をラウール基準の相互作用母係数εjAlに変換し,原子番号に対してプロットしてFig.2に示す1,4,5)。第2周期から第4周期まで,全ての元素ではないが,ある程度報告値は揃っていた。第3および第4周期では,それぞれMg,Caを最小値として,Si,Tiを極大値とする周期性が見られる。MoはCrと同じ族なので,相互作用母係数は同一の値を取るものと考えると3),相互作用助係数eAlMoは0.007と推定された。この値を前報での数式に代入して再度計算した結果を,Fig.1の実線で示す。領域の境界線はほとんど変化しないことが分かる。したがって,前報ではAlの活量係数に及ぼすMoの影響を表すeAlMoの値を0としたが,その影響はAl濃度,Mg濃度の測定誤差に隠れる程度に小さかったと考えられる。

Fig. 2.

Estimation of eAlMo with atomic number referring to periodical table.

なお,炭素飽和溶鉄中において,Cに及ぼす各元素の影響を示す相互作用母係数εCjは,同じ振幅を持ちながら,周期律表に従い規則正しく繰り返されるのに対して,相互作用助係数ejCは周期性を持ちながらも振幅が小さくなる3)。つまり,比較的軽元素の活量係数に及ぼす遷移元素など原子番号が大きい元素の影響は小さくなることが示されている。相互作用助係数は濃度単位をmass%に取り適用するものであるから,遷移元素などの重元素は,合金成分として数%~10数%添加されても,モル分率では小さな値となり,影響が小さくなるわけである。

2・3 相互作用助係数εjSiの考察

次に,Alと同じ脱酸元素であり,実用的に多く使われているSiについても同様に,周期律表と対照して規則性の有無の検証を試みた。Fig.3に示す通り,全ての報告値1,68)をプロットするとεjSiには規則性が認められない。特に,εSiTiの値1,68)は研究者間で値が大幅に異なっていることが明らかであり,これが規則性の検証を妨げていると考えられる。

Fig. 3.

εjSi values plotted against atomic number.

そこで,εSiTiが60を超える値を取るプロットを除いてFig.4に示す。すると,Fig.2ほどには周期性は見られないものの,第3および第4周期では,それぞれ,Mg,Caを最小値として,Si,Tiを極大値とする周期性が見られる。ただし,第4周期のCrより原子番号が大きい領域では,一律に上昇する傾向にあり,Fig.2のAlの場合より周期性が明確とは言い難い。さらに,εSiMoの値も同じ族であるCrと比べて高い。このような検証結果からも,周期性のみから推定することは難しいとも言える。

Fig. 4.

εjSi values plotted against atomic number eliminating the values of εSiTi higher than 60.

2・4 Si脱酸平衡に及ぼすTiとMoの影響

以上のように,周期性に関してはAlほど明確ではなかった。そこで,TiとMoの影響を検証することを目的に,Fe-18%Cr-8%Ni溶鋼を基本組成として,Siの脱酸平衡に与える影響を考察した。

Siの脱酸反応は下記の式で表せる。

  
SiO2(s)=Si_+2O_(1)
  
logK=11.4030110/T1)(2)
  
K=aSiaO2aSiO2=fsi[mass%Si]fO2[mass%O]2aSiO2(3)

ここで,Kは平衡定数,Tは絶対温度(K)である。aSiaOは,それぞれ溶鋼中のSiおよび酸素の活量を表し,mass%を単位とした無限希薄溶液を基準に取っている。aSiO2は純固体基準のスラグ中シリカの活量を表す。fsifOは,それぞれ,Siと酸素の活量係数であり,次式で表される。

  
logfSi=eSij[mass%j]+rSij[mass%j]2(4)
  
logfO=eOj[mass%j](5)

ここで,eijおよびrijは,それぞれ一次および二次の相互作用助係数である。ここで,シリカの活量は0.001とした。これは,実用的な還元性のCaO-SiO2系スラグとの平衡を考えるためである10,11)。(4)および(5)式に用いる相互作用助係数をTable 21,69,12,13)に示す。(2)~(5)を組み合わせて,酸素濃度について解くと,Si脱酸の平衡曲線が得られる。

Table 2. Interaction coefficients eij applied for the calculation of Si deoxidation.
i \ jSiCrNiTiMoO
Si0.103–0.02112)
(0.00043)
–0.00913)
(0.0002)
0.846)
0.047)
–0.0138)
0.119) –0.119
O–0.066–0.0330.006–0.340.005–0.20

( ): second order rij

まず,Tiの影響について,Fig.3およびTable 2に示した3種類のeSiTi=−0.0138),0.047),0.846)を用いて計算した。前提として,スラグ中のシリカの活量が十分に低いので,Tiはスラグとの反応に寄与しないと仮定しても問題ない範囲で,Ti濃度を0.3および0.5%と与えて計算した。計算結果を,それぞれFig.5(a),(b)および(c)に示す。(a)および(b)は,いずれも大きな相違はなく,Ti濃度の上昇に伴い,酸素濃度が高くなる傾向にある。一方,(c)ではTi濃度の依存性は大きくないものの,Ti濃度の上昇に伴い酸素濃度は僅かに低下する傾向にある。なお,(a)および(b)で見られたTi濃度の上昇により,酸素濃度が高くなる傾向は,酸素の活量係数に及ぼすTiの影響を示すeOTi=−0.34と負に比較的大きい値の影響が表れているためである。このように,係数によって挙動に差が表れるため,予測自体が困難な状況である。

Fig. 5.

Deoxidation equilibrium of Si using three different eSiTi values68) of (a) –0.013, (b) 0.04, and (c) 0.84.

次に,Moの影響について,Fig.3およびTable 2に示したeSiMo=0.119)を用いて計算した結果をFig.6に示す。MoはSiによる脱酸に大きく影響し,SUS304に比較して,Moを2%含有するSUS316Lの方が酸素濃度は低い。Sakata14)は,Si脱酸の条件下にて,SUS304とSUS316Lの高清浄度化に取り組んだ。その結果,連続鋳造機のノズル閉塞を防止し,なおかつ品質向上を達成している。図より,0.5%Siにおいては,SUS304で17 ppmに対してSUS316Lで9 ppmと約10 ppmの差がある。Fig.6には,Sakata14),筆者10,11),およびEharaら15)が報告している酸素濃度の範囲を示した。Table 3にはそれぞれの研究の実験条件を比較して示す。いずれも,酸素濃度はトータル酸素値であるが,実機データであるSakataおよび江原に関しては,高清浄度化した溶鋼での値を採用したので,ここでは[O]total≈[O]sol.と仮定した。筆者の値は,実験室でのスラグ脱酸の結果であるので,やはり,[O]total≈[O]sol.と仮定した。

Fig. 6.

Deoxidation equilibrium of Si accounting for Mo in comparison with the data reported by Sakata14), the present author10,11) and Ehara15).

Table 3. Comparison of oxygen contents along with the experimental conditions.
ResearcherSpecimenGradeSlag basicity
%CaO/%SiO2
Si content
(mass%)
O content
(mass%)
Sakata14)PracticeSUS3041.5 ~ 1.70.50.0020 ~ 0.0030
SUS316L3 ~ 40.50.0010
Todoroki10,11)LaboratorySUS3041.660.50.0019 ~ 0.0032
Ehara15)PracticeSUS3041.550.60.0020 ~ 0.0031

まず,SUS316に注目すると,Sakataのデータは2%Moの曲線と良く一致していることが分かる。一方,SUS304においては,Fe-18%Cr-8%Niのラインよりも高酸素濃度側に位置しており,若干のずれが確認されるが,およその一致は得ていると言える。ここで,注目すべきことは,Moを2%含有するSUS316Lの方が酸素農度は低下し得ることが,eSiMo=0.119)を用いて説明できることである。つまり,本係数はFig.4を参照し,同族と比較した場合,高い値に見える。しかし,前節でeAlMoの値を推定したように,同族のCrの値から単純に推定することの妥当性を問うものでもある。やはり,実験的に相互作用助係数を求めることは,極めて重要なことと言える。

3. 相互作用助係数の必要性

上記の通り,相互作用助係数の推定に始まり,研究者間で乖離の大きい係数の妥当性,ならびに,新たに提唱された係数の妥当性について,一部は報告値と比較し検証を行った。ここで,溶鉄中における各元素の相互作用助係数の中でも,Fe-Cr-Ni-Mo系合金で要求度の高い係数に関して説明する。Table 4に,溶鉄中のi元素の活量係数に及ぼすNi,Cr,Moの影響を求めるために必要な相互作用助係数を示す。特に,要望が大きいのは,以下の3項目に分類される。

Table 4. Requirements of interaction coefficients eij particularly necessary for Fe-Cr-Ni-Mo system alloys.
i \ jNiCrMoRequirement
C0.01–0.023–0.0137Removal of impurities
S0–0.01050.0027
O0.006–0.0330.005
P0.003–0.0180.001
Si–0.009–0.0210.11Deoxidation and control of inclusion chemistry
Al–0.01730.012
Mg–0.0120.047
Ca–0.0440.020
Ti0.01050.0158Control of yield for alloying elements having affinity with oxygen
Nb
V0.0119

(1)不純物の除去についての平衡値の予測

(2)脱酸反応と介在物組成の予測

(3)比較的酸化し易い合金元素の歩留まり予測

上記の3項目中,(1)については全て整えられていることが分かる。やはり,脱炭,脱硫,脱酸,脱燐など要求が高い反応から解析が始まったことが良く分かる。次に,(2)に関しては,Moを除いては充実していることが分かる。Fe-Cr-Ni系に比較すると,Moを含有する鋼種の生産量は少ないことによると思われる。今後,Moについての研究が進むことを期待したい。(3)に関しては,ほとんど値が無く,やはり,今後の進展を期待したい。

4. 結言

比較的合金系の高いFe-Cr-Ni-Mo系ではデータが不十分であり,Moに関する相互作用助係数は全て無視せざるを得なかった。さらに,実用合金系において,その他の相互作用助係数についても妥当性を検証し,現状抱えている熱力学的な解析の問題点を整理し,以下の結論を得た。

(1)相互作用母係数εjAlを周期律表に照合したところ規則性が確認され,この結果を基にAlの活量係数に及ぼすMoの影響を推定したところ,eAlMo=0.007が得られた。

(2)この値を用いてMgO/MgO·Al2O3/Al2O3の相安定図を再計算したところ,無視した場合と大差ないことが分かった。

(3)同じ脱酸元素であるSiに関して,εjSiの値を周期律的に整理したが,Alほどの規則性は見られなかった。

(4)特に,研究者間で乖離が大きいeSiTiに関して,Siの脱酸平衡曲線を計算し,各係数で挙動が大きく異なることを示した。

(5)新たに提案されたeSiMoの値を用いてSi脱酸平衡曲線を計算し,SUS316LのSi脱酸後の酸素濃度と比較し良く一致したことから,本係数の妥当性を検証した。

(6)今後,Fe-Cr-Ni-Mo系合金における種々の反応を予測するにあたり,Moに関する係数の測定が進むことを期待する。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan
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