鉄と鋼
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分析・解析
カソードルミネッセンス法による製鋼スラグ中の遊離石灰の識別
常田 大喜今宿 晋我妻 和明
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2019 年 105 巻 5 号 p. 522-529

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Synopsis:

In steelmaking industry of Japan, one-third steelmaking slag is reused for road constructions. Steelmaking slag contains a few weight percent of calcium oxide, which is termed as free-lime. Free-lime expands its volume by the reactions with water and carbon dioxide, leading to collapse of road substrates. To prevent the road collapse, free-lime in steelmaking slag is now treated to be transformed to Ca(OH)2 and CaCO3 by an aging process; however, the residual free-lime still causes the road collapse. Therefore, it is necessary to detect free-lime in steelmaking slag to safely reutilize it for road constructions. In the present study, we carried out a cathodoluminescence (CL) analysis for identification of free-lime in steelmaking slag. For this purpose, we prepared a synthesized slag sample including free-lime by heating mixtures of reagents. A part of the sample was soaked in water at 70°C for 3 h (aging process). Crystallized free-lime in the sample illuminated orange due to an emission peak of Mn2+ at 600 nm regardless of the precipitation forms of free-lime. Undissolved free-lime illuminated blue due to an emission peak of oxygen vacancy at 460 nm. The sample after the aging process illuminated orange because of CaCO3 having with an emission peak of Mn2+ at 620 nm. We could identify free-lime and CaCO3 by camera detecting light over 680 nm selectively because the luminescence of CaCO3 also appeared on longer wavelength side over 690 nm. Thus, we could detect free-lime in steelmaking slag by capturing CL images within 30 s.

1. 緒言

製鋼プロセスの副産物である製鋼スラグは日本国内で年間約1400万トン副次的に生産されている1)。大量に生産される製鋼スラグを再利用することは限られた資源を有効活用するという観点から重要であり,実際に土木材料として生産量全体の約70%が再利用されている。中でも最も多い製鋼スラグの用途として道路用路盤材が挙げられ,生産量全体の約3分の1を占めている1)。しかし,製鋼スラグには遊離石灰と呼ばれる,酸化カルシウム(CaO)の鉱物相が含まれることがあり,水和反応(CaO+H2O→Ca(OH)2)および,その後の二酸化炭素との反応(Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O)によって2倍程度体積が膨張することが知られている26)。これらの反応が,道路を膨張・崩壊させる原因となるので,鉄鋼メーカーは日本工業規格(JIS)に定められた出荷前処理および水浸膨張試験を行ってから出荷している7)。出荷前処理とは製鋼スラグを6ヶ月以上屋外に山積みにして雨水や散水で遊離石灰の水和反応を行う通常エージング処理,もしくはオートクレーブを用いて数日間で水和反応を行う3)促進エージング処理のことである。その後,製鋼スラグを80°Cの温水に1日6時間浸す作業を10日間行い,膨張率を測定する水浸膨張試験を実施し,膨張率が1.5%以下である製鋼スラグだけを出荷している。つまり,実操業では遊離石灰を直接分析していないので,遊離石灰が少量残留していても道路用路盤材として,製鋼スラグを出荷している可能性がある。実際,製鋼スラグ中の残留遊離石灰による道路の膨張・崩壊が報告されている8)。したがって,道路用路盤材として再利用するには製鋼スラグ中の遊離石灰を識別する必要がある。過去にX線回折(XRD)法を用いた製鋼スラグ中の遊離石灰を識別する方法が報告されているが4,911),製鋼スラグには様々な鉱物相が含まれているため,ピークが重なり,遊離石灰が微量の場合,識別が困難になる可能性がある。また,溶媒抽出によるCa濃度の測定と熱重量分析を組み合わせた方法によって,製鋼スラグ中の遊離石灰を測定する方法も報告されており4,1214),この方法は遊離石灰の定量が可能である。日本鉄鋼協会では,鉄鋼スラグ中の遊離石灰および水酸化カルシウムの定量法として,抽出溶媒はエチレングリコールを用い,溶媒中のCa濃度はICP発光分光分析法またはフレーム原子吸光法で定量する方法を推奨している15)。この方法は遊離石灰の定量測定ができるが,複雑な分析手順と溶媒抽出に熟練した分析技術が必要とされる。そのため,簡便に遊離石灰を識別できる方法が望まれている。そこで,我々は簡便な遊離石灰分析手法として,カソードルミネッセンス法(CL法)を検討した。CL法は絶縁体もしくは半導体に電子線を照射した際に放出される光を検出する分析手法である。観察される発光スペクトルは発光体の結晶構造や元素構成に依存し,その同定や存在量を評価するための分析情報を与える。我々はCL法を用いて鋼中の非金属介在物の迅速な識別1620),および希土類磁石中の希土類元素の識別ができることを示した21,22)。CL法では同じ元素を含む化合物でもCLスペクトルが異なるので,スラグ中に複数のCaを含む鉱物相が含まれていても,遊離石灰を選択的に識別できる可能性がある。過去のCL法を用いた製鋼スラグに関する分析例は,スラグに巻き込まれたMgO-C転炉耐火物の分析23)および浸漬ノズルや二次精錬取鍋の耐火物で用いられるイットリア安定化ジルコニアの分析24)が報告されている。これらの報告は耐火物に関する分析が中心となっており,CL像の取得が主眼となっている。本研究では遊離石灰を含む模擬製鋼スラグを合成し,合成スラグのCLスペクトルを取得して,得られたスペクトルと共にCL像を撮影することで,製鋼スラグ中の遊離石灰を識別する方法を確立することを目的とした。

2. 実験方法

本研究では製鋼スラグの模擬試料として,CaCO3(和光純薬工業,純度99.9%),FeO(高純度化学研究所,純度99.5%),SiO2(ナカライテスク,特級試薬),MnO(高純度化学研究所,純度99.9%)を出発原料とし,試薬を混合して熱処理した合成スラグを用いた。作製した合成スラグの仕込み組成はCaO,FeO,SiO2,MnOがそれぞれ,50,42,5,3 mass%とした。この組成の混合粉末は1300°Cで急冷した際に遊離石灰が生成することが報告されている25)。混合した試薬を鉄るつぼに入れ,縦型電気炉で1300°C,1時間,Ar雰囲気で保持した後,鉄るつぼを電気炉から取り出し,速やかにArガスを鉄るつぼ側面に噴射した後,るつぼ内の試料にも噴射して試料を急冷した。また,作製した合成スラグの一部は70°Cの温水に3時間浸漬し乾燥させた(エージング処理)。

CL測定の電子線源として,走査型電子顕微鏡(SEM)(テクネックス工房,Migty-8DXL)の電子銃を用いたSEM-CL法で行った。Fig.1に本測定に用いたSEM-CL装置の模式図を示す。CL像を撮影する場合,試料室側面に石英製のビューポートを取り付け,焦点距離が100 mmのズームレンズ(精密ウェーブ,LZM-06075A)を装着したデジタル一眼レフカメラ(SONY,α7RII)を用い撮影した(Fig.1(a))。一方,CLスペクトルは,先端に集光レンズ(中央精器,LGL-50)を装着した光ファイバーを試料室側面から挿入し,分光器(Ocean Optics,QE65 Pro)を用いて測定した(Fig.1(b))。測定時間は100秒とした。試料室側面からCL像の撮影およびCLスペクトル測定ができるように試料台を60°傾けた。さらに,SEMの電子銃で用いられているフィラメントの発光が検出されることを防ぐため,光軸をずらした。走査型電子顕微鏡の加速電圧は17 kVとした。

Fig. 1.

Schematic illustrations of SEM-CL system in the present study for (a) capturing CL images and (b) obtaining CL spectra.

また,エネルギー分散型X線分析装置(EDX)(Bruker,Quantax 70)を付属したSEM(日立ハイテクノロジーズ,TM3030plus)によりSEM像の取得およびEDX分析を行った。さらに,作製した合成スラグの鉱物相はX線回折装置(Rigaku,UltimaIV)を用いて同定した。

3. 実験結果および考察

3・1 合成スラグのCL測定

遊離石灰を含む合成スラグを作製し,CL像を撮影することで発光色から遊離石灰を識別できるか検討を行った。X線回折の結果,作製した合成スラグにはダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe2O3),遊離石灰(CaO),ウスタイト(FeO),トリカルシウムシリケート(3CaO・SiO2),ダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO2)が含まれていた。これらの相は製鋼スラグに含まれる典型的な鉱物相である2,4)

作製した合成スラグのSEM像をFig.2(a),対応するCL像をFig.2(b)に示す。また,Fig.2(a)に示した領域A,B,D,EおよびFのEDXによる組成分析の結果をTable 1に示す。領域AはX線回折とEDXによる結果からFeOとMnOが固溶した遊離石灰と考えられる。領域Aの遊離石灰は粒状になっており,過去の報告から26),融液から晶出した遊離石灰と考えられる。領域BはX線回折とEDXの結果から,3CaO・SiO2であると考えられる。領域Cについては,面積が小さいために正確な定量値を得ることができなかったが,領域Bと近い組成であったので3CaO・SiO2であると考えられる。領域DおよびEはX線回折とEDXの結果から,2CaO・Fe2O3であると考えられる。それ以外の領域では同じような組成を示し,代表的な測定値がTable 1中の領域Fの組成として示されている。X線回折の結果と併せて考えると,領域Fは2CaO・Fe2O3とFeOの混合相であると考えられる。SEM像に示した領域のCL像を撮影したところ,Fig.2(b)のように,領域Aの遊離石灰のみが橙色に発光した。領域Aの発光のみでは強度が小さくスペクトル測定ができなかったので,橙色に発光した領域Aを含む融液から晶出した複数の遊離石灰のCLスペクトルを取得したところ,Fig.2(c)のように,600 nm付近に発光ピークが存在した。このピークは酸化カルシウムの結晶中に不純物として存在しているMn2+によるものである27)。また,このピークは橙色(590~620 nm)の波長範囲に存在するため,遊離石灰に含まれるMn2+によって橙色に発光したと考えられる。以上より,Fig.2(a)に示すSEM像の範囲では,3CaO・SiO2,2CaO・Fe2O3およびFeOは発光せず,遊離石灰のみCLによる発光が認められた。

Fig. 2.

(a) SEM and (b) CL images in the synthesized slag. Exposure time of the CL image was 15 s. (c) CL spectrum of free-lime. (Online version in color.)

Table 1. Chemical compositions in areas A, B, D, E and F in Fig.2(a) measured by EDX (mol%), and their phases determined by EDX and XRD.
CaFeMnSiPhases determined
by EDX and XRD
A85114< 1Free-lime
B656< 1283CaO·SiO2
D5147212CaO·Fe2O3
E5047122CaO·Fe2O3
F3460512CaO·Fe2O3 + FeO

同じ合成スラグの異なる場所のSEM像をFig.3(a),対応するCL像をFig.3(b)に示す。Fig.3(a)の領域GとHが緑色の発光を示した(Fig.3(b))。領域GおよびHについてEDXによる点分析を行った結果をTable 2に示す。領域GとHはX線回折とEDXの結果から3CaO・SiO2であると考えられる。Fig.2(a)の領域BおよびCも3CaO・SiO2であったが,CL像では発光が認められなかった。EDXによる組成分析の結果を比較すると緑色に発光した3CaO・SiO2のほうがFeが多く,Caが少なくなっていた。しかし,領域BおよびC以外に発光しない他の3箇所の3CaO・SiO2についてEDXによる組成分析を行ったところ,FeとCaの組成がそれぞれ7,9,11 mol%と65,66,64 mol%となり,3CaO・SiO2中のFeおよびCaの濃度と緑色の発光には相関が認められなかった。3CaO・SiO2の緑色の発光はFe,Ca以外に微量含まれるMnなどの元素が関係している可能性があると考えられる。しかし,3CaO・SiO2の発光は緑色なので,遊離石灰の発光と区別することは可能である。領域GとHのCLスペクトルは発光領域および発光強度が小さかったため,CLスペクトルを測定することができなかった。

Fig. 3.

(a) SEM and (b) CL images in another area of the synthesized slag. Exposure time of the CL image was 15 s. (Online version in color.)

Table 2. Chemical compositions in areas G and H in Fig.3(a) measured by EDX (mol%), and their phases determined by EDX and XRD.
CaSiFeMnPhases determined
by EDX and XRD
G63261013CaO·SiO2
H62261013CaO·SiO2

同じ合成スラグのさらに異なる場所のSEM像をFig.4(a),対応するCL像をFig.4(b),対応するEDXマッピングをCa,Fe,Siの順にそれぞれをFig.4(d),(e),(f)に示す。Fig.4(a)のI,J,Kで示した領域はEDXマッピングの結果より,Caのみが検出されており,粒状になっているので,融液より晶出した遊離石灰であり,Fig.2の場合と同様に遊離石灰に含まれるMn2+によって橙色に発光したと考えられる。一方,その他の橙色に発光した場所はCaのほかにSiも検出された。橙色に発光したFig.4(b)の領域におけるCLスペクトルを取得したところFig.4(g)のようになり,Fig.2(c)と同じ600 nm付近にピークをもつスペクトルが得られた。したがって,Fig.4(b)の橙色の発光はすべて遊離石灰に含まれるMn2+によるものと考えられる。Niidaら26),およびInoue and Suito25)の報告によると,晶出型の遊離石灰(晶出石灰)は融液から晶出する以外に,カルシウムシリケート中に微細な結晶粒として析出,あるいは3CaO・SiO2→2CaO・SiO2+CaOの分解反応によって生成し,縞状の組織を形成することが報告されている。領域Lを拡大したSEM像をFig.4(h)に示す。1 µmほどの微小な析出物が複数存在しており,上述したように,カルシウムシリケート中に析出した遊離石灰と考えられる。この遊離石灰に含まれるMn2+によって,領域Lは橙色に発光したと考えられる。領域M,NおよびOについても,領域Lと同様に微小な析出物が複数確認されたので,遊離石灰に含まれるMn2+によって橙色に発光したと考えられる。領域Pを拡大したSEM像をFig.4(i)に示す。縞状の組織が認められ,上述したように,3CaO・SiO2→2CaO・SiO2+CaOに分解したときに形成された組織であると考えられる。つまり,領域Pには3CaO・SiO2が分解した際に析出した遊離石灰が存在し,この遊離石灰に含まれるMn2+が橙色に発光したと考えられる。また,遊離石灰は2CaO・Fe2O3とFeOの混合相を伴う境界に析出することも報告されている25,26)。ここで,EDX分析とXRDの結果からFig.4(a)において2CaO・Fe2O3とFeO相と考えられる領域を灰色で示した図とCL像を重ねた図をFig.4(c)に示す。領域I~P以外で発光した場所はすべて,2CaO・Fe2O3およびFeOを含む相の境界に存在している。上述のようにこの境界には遊離石灰が析出することがあり,この遊離石灰に含まれるMn2+が橙色に発光したと考えられる。

Fig. 4.

(a) SEM and (b) CL images in another area of the synthesized slag. Exposure time of the CL image was 30 s. (c) 2CaO·Fe2O3 and FeO phases shown on the CL image (Fig.4(b)) in gray. EDX mapping of (d) Ca, (e) Fe and (f) Si in the area of Fig.4(a). (g) CL spectrum in the area of Fig.4(b). Enlarged SEM images in the area (h) L and (i) P in Fig.4(a). (Online version in color.)

また,転炉または電気炉に装入した生石灰が未反応のままスラグ中に存在する未滓化石灰も存在し3-5,11,25,26),遊離石灰の一部として定義されている15)。今回作製した合成スラグ中には未滓化石灰は確認できなかったので,未滓化石灰を模擬した試料として,試薬のCaCO3(和光純薬工業,純度99.9%)をMgOるつぼに入れ,合成スラグを作製する場合と同様に,1300°C,1時間,Ar雰囲気で保持した後,Arガスを試料に噴射して急冷した。未滓化石灰を模擬した試料のCLスペクトルをFig.5(a),CL像をFig.5(b)に示す。CLスペクトルは上述の晶出石灰で検出された600 nmのピークに加え,330 nmおよび460 nm付近にピークが存在した。330 nmおよび460 nm付近のピークは酸素空孔によるもの28)である。一般的にCL測定では数ppmオーダーでも不純物が存在していれば不純物によるピークが検出される。例えば,酸化アルミニウム中にCr3+が5 ppm含まれていれば,Cr3+による強いピークが検出される29)。したがって,今回用いた試薬のCaCO3にはMn2+が不純物として数ppmあるいはそれ以下の濃度で含まれていたと推測され,そのMn2+によって600 nmのピークが検出されたと考えられる。CLスペクトルとカメラが検出できる波長(400 nm~680 nm)を考慮すると,600 nmのピークよりも相対的に強い強度をもつ460 nm付近のピークによって,CL像は青色に発光したと考えられる。また,実操業で用いられている生石灰(CaO)の原料である,石灰石(CaCO3)にはMn2+が不純物として数十から数百ppmオーダーで含まれている30)。したがって,実操業の未滓化石灰には今回用いた試薬のCaCO3より高濃度のMn2+が不純物として含まれると考えられ,Mn2+による600 nmのピークは検出されると推測される。一方,晶出石灰では酸素空孔によるピークは発現しなかった(Fig.2(c)Fig.4(g))。これは晶出石灰に固溶しているFeとMnが2価よりも大きい価数をとりうることが関係していると考えられる。

Fig. 5.

(a) CL spectrum and (b) CL image of CaO obtained by heating CaCO3 reagent at 1300°C in an argon atmosphere and quenching. Exposure time of the CL image was 2 s. (Online version in color.)

以上より,遊離石灰は析出形態に関係なくMn2+による600 nmのピークが検出されることがわかった。未滓化石灰はこのピークに加え,330 nmと460 nm付近にピークが検出され,青色に発光した。一方,晶出石灰は600 nmのピークのみが検出され,橙色に発光した。MnOの固溶量がppmオーダーあるいはそれ以下の場合,遊離石灰は青色に発光し,MnOの固溶量がppmオーダー以上の場合,遊離石灰は橙色に発光すると考えられるが,今回作製した合成スラグ中には青色あるいは橙色に発光する鉱物相は他に存在しないので,CL測定によって遊離石灰は容易に識別できると考えられる。また,広範囲をEDXマッピングした結果から判別することが難しい微細な結晶粒として析出した遊離石灰,分解反応によって生成した遊離石灰および2CaO・Fe2O3とFeOの相境界に析出する遊離石灰でもCL像であれば識別できることがわかった。

3・2 エージング処理後の合成スラグのCL測定

次に,合成スラグをエージング処理して,エージング処理前後によって,遊離石灰を識別できるか検討した。70°Cの温水でエージング処理を行った後の合成スラグのSEM像をFig.6(a),対応するCL像をFig.6(b)に示す。SEM像から数十µmの結晶が多数付着していることが観察され,CL像ではその結晶が橙色に発光していた。X線回折によって,エージング処理を行った合成スラグには炭酸カルシウムが検出されたので,この結晶は炭酸カルシウムと考えられる。炭酸カルシウムはスラグ中の遊離石灰が温水と反応することで水酸化カルシウム水溶液となり,水溶液中の二酸化炭素,または乾燥過程で大気中の二酸化炭素と反応することで試料表面に炭酸カルシウムとして付着したと考えられる2,46)Fig.5(c)にエージング処理後の合成スラグのCLスペクトルを示す。620 nmにピークが認められ,これは炭酸カルシウム中に不純物として存在しているMn2+によるものである31)

Fig. 6.

(a) SEM and (b) CL images of the synthesized slag after the aging process. Exposure time of the CL image was 5 s. (c) CL spectrum of the whole area of Fig.6(b). (Online version in color.)

未滓化石灰を模擬した試料では青色に発光するので,炭酸カルシウムと容易に識別できる。一方,晶出石灰に含まれるMn2+と炭酸カルシウムに含まれるMn2+のCLスペクトルのピーク位置はFig.7(a)に示すように,600 nm(晶出石灰のMn2+)と620 nm(炭酸カルシウムのMn2+)と非常に近く,CL像ではともに橙色に発光し,両者の識別は困難であった(Fig.4(b)Fig.6(b))。Fig.7(a)のCLスペクトルの690 nm以上の波長に着目すると,晶出石灰では発光強度がゼロに近いのに対し,炭酸カルシウムはある程度の発光強度が認められた。したがって,690 nm以上の光のみを選択的に撮影することができれば,炭酸カルシウムと晶出石灰を識別できる可能性がある。そこで,ズームレンズに波長680 nm以下の光を透過させない光学フィルター(富士フィルム,SC-68)を取り付け,露光時間30秒で撮影を行った。また,690 nm以上の波長領域は市販のカメラが検出できる波長よりも長波長であるので,測定に用いたカメラに内蔵されているフィルターを除去してCL像の撮影を行った。この内蔵フィルターはCMOSセンサーが紫外光と赤外光を検出しないようにするものであり,この内蔵フィルターを取り去ることで690 nm以上の光も検出することができる。Fig.7(b)Fig.4(b)で示したエージング前の晶出石灰のCL像,Fig.7(c)に内蔵フィルターを取り去ったカメラに光学フィルターを装着してFig.4(b)と同じ範囲を撮影したCL像を示す。光学フィルターを装着せず撮影したCL像は赤色の発光が認められるのに対し,光学フィルターを装着して撮影したCL像は発光が認められなかった。Fig.7(d)にエージング処理後の合成スラグのCL像,Fig.7(e)に光学フィルターを装着してFig.7(d)と同じ範囲を撮影したCL像を示す。エージング処理後の合成スラグでは光学フィルターが装着せずに撮影したCL像は赤色の発光が認められ,光学フィルターを装着して撮影したCL像も発光強度は小さくなったが,赤色の発光が認められた。以上の結果から,680 nm以上の光を選択的に撮影することで遊離石灰と炭酸カルシウムを識別することができた。

Fig. 7.

(a) Normalized CL spectrum of free-lime in the area of Fig.4(b) and that of CaCO3 crystals in the area of Fig.6(b). CL images of the free-lime in Fig.4(a), (b) without and (c) with an optical filter blocking the light below 680 nm. CL image of the CaCO3 crystals in Fig.6(a), (d) without and (e) with the filter blocking the light below 680 nm. A camera, from which the built-in filter had been removed was used for capturing the CL images. Exposure times of the CL images of (b) and (d) were 10 s, (c) and (e) were 30 s, respectively. (Online version in color.)

4. 結言

本研究では,遊離石灰を含む合成スラグを作製し,CLスペクトルおよびCL像を取得して,製鋼スラグ中に含まれる遊離石灰をCL法によって識別する方法の確立を目指した。遊離石灰を含む合成スラグはCaCO3,FeO,SiO2,MnO試薬の混合粉末をAr雰囲気中で1300°C,1時間熱処理した後,Arガスを試料に噴射することで作製した。その合成スラグ中には,融液から晶出した遊離石灰,カルシウムシリケート中に微細な結晶粒として存在する遊離石灰,3CaO・SiO2の分解反応によって生成した遊離石灰,2CaO・Fe2O3およびFeOを含む相の境界に存在する遊離石灰,の4つの形態で析出する遊離石灰が観察されたが,析出形態に関係なく,晶出型の遊離石灰(晶出石灰)はすべて橙色に発光した。遊離石灰のCLスペクトルを測定すると不純物として含まれるMn2+による600 nmにピークが認められた。未滓化石灰を模擬した試料ではMn2+による600 nmのピークに加えて,330 nmと460 nm付近のピークが検出され,青色に発光した。また,一部の3CaO・SiO2は緑色に発光した。一方,70°Cの温水に3時間浸漬してエージング処理を行った合成スラグの表面には炭酸カルシウムの結晶が多数付着していた。CL像を撮影すると炭酸カルシウムの結晶は晶出石灰と同じような橙色の発光を示した。CLスペクトルを測定すると不純物として存在しているMn2+による620 nmにピークが認められた。690 nm以上の波長では,炭酸カルシウムはある程度の発光強度が認められたが,晶出石灰は発光強度がゼロに近かった。この現象に注目して,波長680 nm以下の光を透過させない光学フィルターを,内蔵フィルターを取り去ったカメラに装着しCL像を撮影すると,晶出石灰は発光が検出されないのに対し,炭酸カルシウムは赤色の発光が認められた。以上のように,晶出石灰と炭酸カルシウムのCL像は適切な光学フィルターを用いることで簡単に識別することが可能であった。したがって,本法は遊離石灰を識別する新たな手法として提案することができる。

謝辞

本研究はJSPS科研費17H03435の助成を受けたものである。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本鉄鋼協会
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