Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Transformations and Microstructures
Phase-field Simulation of Recrystallization in Cold Rolling and Subsequent Annealing of Pure Iron Exploiting EBSD Data of Cold-rolled Sheet
Yoshihiro Suwa Miho TomitaYasuaki TanakaKohsaku Ushioda
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2019 Volume 105 Issue 5 Pages 540-549

Details
Synopsis:

A unified theory for continuous and discontinuous annealing phenomena based on the subgrain growth mechanism was proposed by Humphreys about twenty years ago. With the developments in the unified subgrain growth theory, a number of Monte Carlo, vertex and phase-field (PF) simulations have been performed to investigate the nucleation and growth mechanisms of recrystallization by considering the local alignment of the subgrain structure.

In this study, the effects of the microstructural inhomogeneities created in the deformed state on recrystallization kinetics and texture developments were investigated. Numerical simulations of static recrystallization were performed in 3D polycrystalline structures by coupling the unified subgrain growth theory with PF methodology. In order to prepare the initial microstructures, 2D electron back scattering diffraction (EBSD) measurements were performed on 90% and 99.8% cold-rolled pure iron. Our previous experimental study has shown that the texture formation processes in the recrystallization of those samples have large difference.

In cold-rolled iron with 90% reduction, simulated texture exhibited nucleation and growth of γ-fiber (ND//<111>) grains by consuming α-fiber (RD//<011>) components, where ND and RD denote normal direction and rolling direction respectively. On the other hand, in cold-rolled iron with 99.8% reduction, simulation results reproduced the high stability of the rolling texture during recrystallization. As a consequence, the simulation results were in good agreements with experimentally observed textures in the both samples.

1. 緒言

金属材料などを塑性変形すると,結晶内部に格子欠陥が多数導入され内部エネルギーが増加し硬化する。その後,この結晶を加熱すると格子欠陥密度が減少し軟化する。このようなエネルギー開放過程が回復・再結晶・粒成長であり,多結晶材料の組織制御において極めて重要な役割を果たす1)。実験のみで,鋼種に応じて変化する最適な冷間圧延(以下,冷延と略す)圧下率や焼鈍条件を導き出すことは非常に高コストであり,また,経験のみによって得られた関係式を用いての最適化には限界がある。したがって,物理冶金学に立脚したモデルの開発が急務となっている。そのため本研究では,Humphreysによって考案された,再結晶からその後の粒成長までを統一的に扱う事が可能な“サブグレイン(SG)成長モデル”2)に組織計算手法としてフェーズフィールド(PF)法3)を組み合わせる事で再結晶・粒成長を一貫して予測する事を最終目標としている。ここで,SG成長モデルと組織計算手法としてMonte Carlo(MC)法4,5),PF法68),Vertex法9,10)を組み合わせて得られた数値解析結果については,例えば文献11)に概要が示されている。

一般的な再結晶挙動(すなわち,不連続再結晶)は核形成/成長過程に分けられる。再結晶の核形成は「均質な変形母相から転位密度の低い領域が熱揺らぎで生成する」という古典論では説明できず,不均一な変形組織が重要な役割を果たすことが分かっている12)。しかし,何らかの方法で“核形成”過程をモデル化する必要がある。そこで,“核形成と成長を明確に区別するモデル”では例えば歪エネルギーやSG境界を含む界面方位差を閾値として核形成を取り扱い13),その後の成長過程においては歪エネルギー差を主要な成長駆動力としている。一方,本研究においては前述のSG成長モデルにしたがって,核形成と成長を区別せずに扱う。具体的には,不均一な変形組織を様々なサイズ・方位を持つSG組織に変換し,特定SGの異常粒成長として再結晶の核形成を表現する。本報では変形組織として,冷延加工材のSEM-EBSD(Scanning Electron Microscope-Electron Back Scatter Diffraction)法による測定結果(以下,“測定値”と呼ぶ)を用いて,それをSG組織に変換8)する。そして,SG間の結晶方位差に依存した界面エネルギー・易動度を考慮する事で,特定SGの異常粒成長の可能性,すなわち“不連続再結晶の核形成”を表現する。加工組織としてSG組織を仮定することが常に許されるわけではないが2),このようなモデル化を行う事で再結晶核の方位まで含めた再結晶の自発的な核形成挙動を表現可能である。

上記手法を用いて,実験結果が得られている強冷延した純鉄の焼鈍時における再結晶挙動14)を対象とし,集合組織変化に及ぼす冷延率依存性の再現を試みた。

2. 計算モデルと計算方法

2・1 再結晶・粒成長のためのPFモデル(MPFモデル)

本研究では,粒成長だけでなく再結晶の主たる駆動力もSG境界および粒界エネルギーの減少であると考えている。この仮定については,議論がある4,15,16)が,SG境界エネルギーの減少,すなわち,界面曲率を駆動力とした数値解析結果が実験結果を良く再現した例も報告されている17)。したがって,多結晶組織を対象に局所的な平均曲率に界面の移動速度が比例する現象を再現可能な,Steinbach and Pezzollaにより開発されたMulti-Phase-Field(MPF)モデル3)を用いて数値解析を実施する。MPF法においては,連続的な値を取る秩序変数φi(i=1, 2, ...., N)を,結晶方位を区別するものとして定義する。ここで,Nは秩序変数の総数である。このときφi(r, t)の値は時刻t,位置rにおける方位場変数iを持つ粒の存在確率を表す。すなわちφ1と名付けられた粒の内部においては,φ1(r, t)の値は1に漸近し,i≠1のφi(r, t)は0に漸近する。

このモデルにおいて,系の各位置rにおける秩序変数の合計値は保存される。

  
i=1Nϕi(r,t)=1.(1)

解くべき支配方程式群は以下のようになる。

  
ϕit=2n(r,t)jNsisjMij[fiCfjC8πϕiϕj(fiEfjE)],(i=1N)(2)

ここで,MijはPF法における界面の易動度である。計算安定化のため,0で無いφi(r, t)が3つ以上存在する差分格子点においてはMaveを下記で定義し,式(2)のMijMaveに置き換えて数値計算を実行する18)

  
Mave=i,jNMijϕiϕji,jNϕiϕj(3)

さらに,

  
fiC=k=1N[εik222ϕk+Wikϕk+l=1N(Wiklϕkϕl+m=1NWiklmϕkϕlϕm)](4)

と書けて,εikはエネルギー勾配係数,Wikは二重障壁ポテンシャルの深さであり,εikWikを同時に調整することで界面エネルギーを制御することが可能である。式(4)において計算精度向上のためにMiyoshi and Takakiが提案した四重点,三重線についてのペナルティー項を導入しており,そのパラメータ(Wikl, Wiklm)は文献19,20)の方法で決定している。そして,方位場変数iを持つ粒の過剰エネルギー密度をfiEと表記する。上述の式(2),(3),(4)のΣ記号の下にj≠i等の制限が必要となるが,式の表記を簡単とするため,Wii=0,εii=0,Mii=0とする事で記載を省略している。また,

  
n(r,t)=i=1Nsi(r,t).(5)

であり,si(r, t)はφi(r, t)>0でsi(r, t)=1,それ以外でsi(r, t)=0を満たすステップ関数である。なお,MijεijWijはPF解析上の界面幅δ,界面エネルギーσij,そして,物理的な易動度Mijphysと以下の関係を持つ。

  
Wij=4σijδ,εij=2π2δσij,Mij=π28δMijphys(6)

上述した式(2)の数値解を差分法により求めることで,再結晶・粒成長挙動の予測が可能となる。なお,大規模三次元解析を可能とするため,並列計算手法21)と効率化アルゴリズム2224)を併用している。

2・2 実方位の導入

本研究では,SG成長モデル2)を用いて再結晶を表現する。このモデルでは,SG間の方位差によってSG界面エネルギー・易動度を与え,特定のSGの異常粒成長によって再結晶の核形成を表現する。従来は,Euler角で表現される実方位を粒成長・再結晶予測モデルに導入するために,φi(r, t){1~N}に方位giを割り当て,PF計算実施前にN×Nの方位関係を確認しておき,方位関係に応じた界面エネルギー・易動度を与える手法が用いられていた。この方法はMC法でも多くの実績25)を持つ一般的な手法であるが,最大でN×Nの行列を保存するためのメモリ空間を全てのコアに確保せねばならず,Nの値が104以上となるとメモリの確保が困難となる。

一方,方位関係行列を保存せずに,結晶対称性を考慮した方位差計算を各差分ステップに実施すると,例えば立方晶であれば,各格子点で24回も方位差を計算せねばならないため,著しく計算量を増大させる。これを避けるため,本報では,事前に粒iと粒j間の方位差行列Δg=gi・gj−1に応じた,界面エネルギーと易動度を1°刻みでメモリに保管(以降,これらの配列をそれぞれE配列,M配列と呼ぶ)しておき,界面領域にある各差分格子点で一度だけΔgを求める事で,PFシミュレーションを実施する。この手法において,E配列とM配列を作成する際に結晶対称性を考慮する事で計算量を大幅に削減できる。また,Euler角(φ1,EulerΦEuler,φ2,Euler)で考えるとE配列とM配列はそれぞれ360×180×360≒2.3×107の要素を持つが,Nに依存しないため,N>4830ではN2の方がメモリを多く必要とする。本報ではE配列とM配列は方位差θのみ関数としているが,θだけで無く回転軸を考慮した界面特性を与える事も可能である。

2・3 EBSD測定結果からSG組織への変換方法

まず,文献14)と同一の素材を用いて,90%および99.8%冷延した純鉄のND(Normal Direction)とRD(Rolling Direction)を含むTD(Transverse Direction)面を研磨後に50nm間隔で測定を実施した。ここで,EBSD熱延板粒径は200~500 μmであったが,冷延後の最終板厚を0.1 mmに揃えているため,冷延前の粒数が大きく異なる。たとえば90%冷延材においては板厚方向の粒数が5個程度であった事を明記しておく。次に,EBSD測定結果をSG組織に変換する方法について述べる。ここで理想的には,EBSD測定結果に修正を施す事無く,再結晶計算の初期値として用いる事が好ましい。しかし,モデルの入力値としてはSG組織が必要となるため,以下の方法で初期組織の作成を試みた。なお,本節で行う操作は加工組織からSG組織への変換,すなわち,回復過程のモデル化の一種である。

まず,PF解析における曲率計算精度を考慮して,一つのEBSD測定格子点をPF法の複数の差分格子点(PF格子点)に対応させる。具体的には,3・1節に結果を示す90%冷延材については1測定格子を2×2のPF格子点に,3・2節の99.8%冷延材については4×4のPF格子点に変換した。EBSD測定間隔は同一であるが,冷延圧下率に依存した測定組織の細かさ14)を考慮する目的で,異なるPF格子点数を割り当てている。なお,三次元計算を実施するに当たり,測定面の法線方向,すなわち,TD軸方向,について同一方位かつ同一Image Quality値(以下ではIQ値と省略する)の測定点が並んでいると仮定し二次元のEBSD測定結果を三次元に拡張した。また,測定面垂直方向の長さについては,事前検討において周囲のSGによる三次元的な拘束が核形成頻度に大きな影響を与える事が示唆されたため,計算時間増大との妥協点として平均SG直径の3倍以上となるように決定した。この点については3・1・2節で具体例を用いて説明する。

測定格子点における出力として,SG変換には結晶方位g(Bunge表式でのEuler角)とIQ値(蓄積歪に対応,歪が高いほど値が低下26))を用いる。変換手順は以下の通り8)とした。

(0)IQ値を系内の最大値が1,最小値が0となるよう規格化し,これをIQ’と称する。加えて,SG組織を作成する目的で,系の全格子点にfiE>0を持つ方位場変数1を割り当てる。この操作により,配置されたSG核が方位場1を持つ領域を速やかに浸食し,SG組織が形成される。この時,SG核の方位は測定値の結晶方位を反映し,一つのSG内では同一の方位場変数,すなわち,一定の方位を持つ。さらに,形成したSG内部の転位密度は十分に小さいと仮定し,fiE=0(i>1)と与えた。

(1)測定領域から任意に座標P(x, y, z)を選択する。

(2)PにおけるIQ’値に応じてSG半径R(x, y, z)をR=Rmin×{1+IQ’×(Les−1)}と定める。ここで,Rminは最小SG半径,LesはLes×Rminが最大SG半径となるように定めたパラメータである。この時,IQ’=1でSG半径は最大値Les×Rminを取り,IQ’=0で最小値Rminを取る。

(3)既に配置した全ての最近接SG核Pi(i=1~nn)のSG半径をRiとし,PとPiとの距離を|P-Pi|で定義したとき|P-Pi|>(R+Ri)(i=1~nn)であれば座標Pに新たなSG核を配置する。ここで,nnは近接SGの数である。

(4)新たにSG核が配置出来なくなるまで(1)~(3)を繰り返す。配置されたSGの総数をNSGとすると,方位場変数1はSGから蚕食される領域に割り当てているため,N=NSG+1の関係を持つ。

(5)短時間のPFシミュレーションを実施する事で方位場変数1を持つ領域が蚕食されSG組織が形成される。

なお,上記方法では一個のSGは等軸粒であるが,類似の結晶方位から成るSG群はND方向に扁平し,RD方向に伸長している。また,この方法でIQ値に応じたSGサイズを与える事は可能となるが,歪値とSGサイズの関係は明確となっていないので,Lesは数値解析上のパラメータとなる。更に,上記の方法では全てのSGが同時に形成する事を暗に仮定しているが,実材料においては結晶方位や周辺の拘束に応じて加工状態が異なりその結果としてSG形成までの時間,すなわち回復速度,が異なるとされている1)。最後に,上記変換方法を用いた場合,異なるSG核から形成したSGは別のSGとして定義されるので,隣接するSG間の方位差が仮に0°であったとしても,そこに方位差0°のSG境界の存在を仮定している事を明記する。

2・4 共通の計算条件

本報では,方位差に依存した界面特性の変化のみを考慮している。界面特性について,結晶の方位差をθとすると,界面エネルギーσij(θ)は,高角粒界(θ>θm)では一定とし,低角粒界についてはRead and Shockley27)のモデルを用いて

  
σij(θ)=σ0θθm(1lnθθm)θθm(7)

と定義する。ここで,σ0は高角粒界の界面エネルギー密度である。同様に,易動度Mphys(θ)は高角粒界では一定とし,低角粒界については

  
Mijphys=Mphys(θ)=M0phys(1exp(5(θθm)4))θθm(8)

と定義する2)。ここで,M0physは高角粒界の界面易動度である。また,これまでの報告に習い,θm=15°とする2)。更に数値計算の安定性を考慮して,0.01M0phys<Mphys(θ),0.52σ0<σ(θ)の条件を付与する。ここで0.52という値は界面におけるwetting現象を禁ずるための仮定であり,式(7)においてθm=15°とした際のθ=3°に対応する。すなわち,θ<3°のSG境界は全て等しい界面エネルギーを持つと仮定した。このwetting現象28)とは,一つの高エネルギー界面が複数の低エネルギー界面に置き換わる,solid state wetting現象を意味している。本報ではwettingが生じる事による数値計算の不安定化を抑制するために,上記の仮定を用いているが,今後,wettingが一次再結晶で果たす役割についても検証する必要があると考えている。更に,次の仮定をおいた。

・PF法における界面幅 δ:4PF格子間隔

・基準界面易動度 M0phys=2.0×10−12 m4J−1s−1

・基準界面エネルギー σ0=1.0 Jm−2

・境界条件;全ての軸方向に周期境界条件を適用した。

・計算時間;80000ステップ

実時間への換算も可能であるが,差分ステップにて表記する。

・数値解析に要する時間;基準動作周波数3.2 GHzを有するCPUを搭載したメモリ共有型の並列計算機の一部(16コア×16ノード=256コア)を用いて9.5時間を必要とした。ただし,これは4・2節に示す99.8%冷延材(SG050-2-a)に対する結果であり,数値解析時間は,系内の総差分格子点数だけでなく,初期のSG境界および粒界領域の総量とその減少速度,すなわち,再結晶速度に大きく依存する事を明記する。

3. 数値解析結果

3・1 90%冷延材の再結晶シミュレーション

3・1・1 計算条件

計算格子点数は48(TD)×3744(ND)×960(RD)であり,空間差分間隔は2.5×10−8 mであるので,1.2 μm(TD)×94 μm(ND)×24 μm(RD)に相当する。また,時間差分間隔は4.4×10−5とした。

3・1・2 再結晶挙動のシミュレーション結果

Table 1にSG組織への変換条件および2・3節の手順(5)完了時のSG数(Nsg_init)を示す。ここでは,理論的に決定する事が困難なサイズ分布関数が再結晶挙動に与える影響について確認するため,Nsg_initおよび平均SG半径〈Rinitを極力変化させずにサイズ分布のみを制御する事を試みている。表中のSG設定範囲列のRmin,Lesで示したSGサイズの設定を3種類用意し,それぞれの条件にて乱数列を変化させて3回,合計9回の計算を実行している。ここで,乱数列の違いについてはa,b,cで区別した。Fig.1に全9条件に対する〈Rinitで規格化した初期SGサイズ分布関数を示す。なお,全ての条件において〈Rinit=0.17 μmであった。次にFig.2に初期値における方位分布関数(以降,ODFと略す)を示す。ここではTD方向のサイズが平均SG直径の3.5倍と他方向と比較して著しく小さいため,TD断面のデータを基にODFを作成している。なお,本報で示す全てのODF図はTD断面で作成したφ2,Euler=45°断面図でサンプル対称性はOrthotropicを選択している。説明のため,図中にbcc金属を圧延した際に得られる主要方位であるα-fiber(RD//〈011〉)およびγ-fiber(ND//〈111〉)を示す。加えて,許容方位差を15°とした場合に,初期組織における双方の分率はα;0.56,γ0.23であった(双方に属する(111)[1-10]方位は重複して算出した)。ここで,マクロな集合組織は変換において完全に維持されていることを明記しておく。Fig.3(a)にEBSD測定結果を,同(b)および(c)に条件SG100-2-bで変換したTD断面の初期SG組織をNDの方位をカラー化したIPF図を用いて示す。加えて,2・3節で触れた二次元のEBSD測定結果を,三次元へ拡張した影響について説明するため,Fig.3(b)の黒線位置でのND-TD断面図をFig.3(c)に示す。この図から,TD方向にもSGが配列している様子が確認できる。SG成長モデルで再結晶の核形成を考える場合,周辺SGからの拘束が大きな影響を有するが,EBSD測定結果が二次元に限られていたため,今回はこのような領域拡張手段を取った。三次元測定結果を用いた場合の計算結果との比較は今後の課題である。

Table 1. Conversion conditions of SG structure for 90% cold-rolled iron and the properties of converted SG structures. Regarding the conversion conditions, Rmin is the minimum radius and Rmin×Les corresponds to the maximum radius. In the converted structures, Nsg_init and <R>initial are the total number of SGs and the mean radius of SGs, respectively.
Conversion conditionsConverted properties
NameRmin [μm]LesNsg_init<R>init [μm]
SG075-3-a0.07531265330.17
SG075-3-b0.07531267580.17
SG075-3-c0.07531266290.17
SG100-2-a0.121348990.17
SG100-2-b0.121347850.17
SG100-2-c0.121347850.17
SG125-1.2-a0.1251.21346620.17
SG125-1.2-b0.1251.21349150.17
SG125-1.2-c0.1251.21348180.17
Fig. 1.

Normalized SG size distributions in the initial stage for 90% cold-rolled iron. (Online version in color.)

Fig. 2.

φ2,Euler=45° ODF section of the converted SG structure with the condition SG100-2-b. (Online version in color.)

Fig. 3.

(a) ND-orientation map measured by EBSD technique and (b), (c) those of the converted SG structure with the condition SG100-2-b. In Fig.3(b) and (c), white lines indicate the boundary with θ value of 15° or more, and black lines indicate the boundary with θ value less than 15°. (Online version in color.)

ここから,再結晶挙動の数値解析の結果について述べる。Fig.4に再結晶率の時間発展を示す。ここで,再結晶粒と判定する半径の閾値をRth=20[g.p.]=0.5[μm]とした。この値は,〈Rinitの3倍に相当する。図中にて,初期サイズ分布に依存せず,大凡等価な再結晶挙動が得られている。ただし,詳細に確認すると,計算条件に応じて若干の違いが見える。更に,再結晶挙動の変化に明確なSG設定条件依存性が確認できない。続いて集合組織変化挙動について,全9条件の再結晶完了直後(再結晶率99%)のODFをFig.5(a)−(i)に示す。まず,何れの場合においても,α-fiberの減少が確認できる。更に,殆どの場合についてγ-fiberの発達が確認できる。これは,実験結果14)と合致する。測定手法・範囲が大きく異なっているため直接の比較は難しいが,特に,SG100-2-cで得られた再結晶後のODFは実験結果と良い一致を得ている。ただし,文献14)では室温から10°C/minの昇温速度で焼鈍しているが,本報の計算ではM0physを固定しており,SG形成過程を除くと,等温焼鈍に対応する事を明記する。また,計算結果について,同一のEBSD測定結果から計算を開始しているにも関わらず,初期SGの与え方で計算結果,特に,集合組織が異なる。この相違の要因については,4・1節で考察する。数値解析の実行前には,SGのサイズ分布を決定するパラメータであるLesに応じて,集合組織発達に明確な傾向が得られる事を期待した。確かに,Fig.5からはLesが大きい,すなわち,SGのサイズ分布が広いほど,γ-fiberが発達しているような印象も受けるが,明確では無い。

Fig. 4.

Temporal evolutions of the fraction recrystallized for the SG structures converted from 90% cold-rolled iron. (Online version in color.)

Fig. 5.

(a)-(i) φ2,Euler=45° ODF sections of 90% cold-rolled iron calculated from the microstructures just after recrystallization showing the influence of SG conversion conditions. (Online version in color.)

3・2 99.8%冷延材の再結晶シミュレーション

3・2・1 計算条件

計算格子点数は48(TD)×3584(ND)×1440(RD)であり,空間差分間隔は1.25×10−8 mであるので,0.6 μm(TD)×45 μm(ND)×18 μm(RD)に相当する。また,時間差分間隔は1.1×10−5とした。

3・2・2 再結晶挙動のシミュレーション結果

Table 2にSG組織への変換条件および2・3節の手順(5)完了時のSG数(Nsg_init)を示す。3・1・2節と同様に,Nsg_initおよび平均SG半径,〈Rinitを極力変化させずにサイズ分布のみを制御する事を試みている。表中のSG設定範囲列のRmin,Lesで示したSGサイズの設定を2種類用意し,それぞれの条件にて乱数列を変化させて3回,合計6回の計算を実行している。3・1・2節と同様に,乱数列の違いについてはa,b,cで区別した。表から,Nsg_initおよび〈Rinit共に大凡一定値に保たれていることが確認できる。Fig.6に〈Rinitで規格化した初期サイズ分布関数を示す。狙い通り,SG設定条件により分布の広がりは変化し,一方で,乱数列種は分布関数に影響を及ぼしていない。次にFig.7に初期値におけるODFを示す。純鉄の強冷延材では,90%冷延材と比較して強く発達したα-fiber繊維集合組織,主方位は{100}〈011〉から{113}〈011〉,が確認できる14)。ここで,変換前(測定まま)のODFを示していないが,マクロな集合組織は変換において完全に維持されていることを明記しておく。Fig.8(a)および(b)にEBSD測定結果と条件SG050-2-aで変換した初期SG組織をIPF(ND)図を用いて示す。この図から強冷延純鉄に特徴的な0.2 μm以下の幅を有する層状組織14)がSG組織に変換されている事が確認できる。90%冷延材と比較して計算領域を狭くした。これは,99.8%という高圧延率により,圧延後の組織単位が微細化しており,板厚方向に含まれる既存粒数(熱延板換算)が50倍程度となっているためである。ここで,Fig.7に示した計算領域の冷間圧延ままのODFと測定範囲全体のODFを比較するとγ-fiber強度が若干異なるものの,特徴は十分に捉えており,計算領域で測定範囲を代表可能と考えた。

Table 2. Conversion conditions of SG structure for 99.8% cold-rolled iron and the properties of converted SG structures. Regarding the conversion conditions, Rmin is the minimum radius and Rmin×Les corresponds to the maximum radius. In the converted structures, Nsg_init and <R>initial are the total number of SGs and the mean radius of SGs, respectively.
Conversion conditionsConverted properties
NameRmin [μm]LesNsg_init<R>init [μm]
SG050-2-a0.0521780500.085
SG050-2-b0.0521778110.085
SG050-2-c0.0521780010.085
SG075-1-a0.07511790300.086
SG075-1-b0.07511790000.086
SG075-1-c0.07511790290.086
Fig. 6.

Normalized SG size distributions in the initial stage for 99.8% cold-rolled iron. (Online version in color.)

Fig. 7.

φ2,Euler=45° ODF section of the converted SG structure with the condition SG050-2-a. (Online version in color.)

Fig. 8.

(a) ND-orientation map measured by EBSD technique and (b) that of the converted SG structure with the condition SG050-2-a. In Fig.8(b), white lines indicate the boundary with θ value of 15° or more, and black lines indicate the boundary with θ value less than 15°. (Online version in color.)

ここから,再結晶数値解析の結果について述べる。Fig.9に再結晶率の時間発展を示す。再結晶粒の判定については初期SGサイズを鑑み,再結晶粒と判定する半径の閾値をRth=20[g.p.]=0.25[μm]とした。この値は,〈Rinitの3倍に相当する。比較として,90%冷延材における再結晶挙動を示す。なお,PF計算格子サイズの違いから90%冷延材における1計算ステップは99.8%冷延材における4ステップに対応する事を考慮してグラフを描画している。99.8%冷延材に関して,初期サイズ分布に依存せず,大凡等価な再結晶挙動が得られている。加えて,90%冷延材では確認された,乱数列種に依存した再結晶挙動の微妙な変化も確認できない。続いて集合組織変化挙動について,全6条件の再結晶完了直後(再結晶率99%)のODFをFig.10(a)−(f)に示す。若干の違いは確認できるものの,いずれの条件においても,再結晶前後で集合組織が殆ど変化しないという実験で観察された特徴14)を良く再現できている。これら,99.8%冷延材における計算結果のロバスト性については,上述した組織単位が微細であったことと深く関係していると考えられるが,4・2節において考察する。ODFでは抽出できない,隣接再結晶粒に関わる情報として,Fig.11Fig.10で示したODFと同一時刻における方位差分布関数(三次元計算領域全体から作成)を示す。Fig.11においては,再結晶による低角粒界分率の減少と高角粒界分率の増加が確認できたが,初期条件に起因する相違は確認できなかった。

Fig. 9.

Temporal evolutions of the fraction recrystallized for the SG structures converted from 99.8% cold-rolled iron. For comparison, a recrystallization kinetics obtained for 90% cold-rolled iron is plotted in the figure. (Online version in color.)

Fig. 10.

(a)-(f) φ2,Euler=45° ODF sections of 99.8% cold-rolled iron calculated from the microstructures just after recrystallization showing the influence of SG conversion conditions. (Online version in color.)

Fig. 11.

Misorientation distribution functions of 99.8% cold-rolled iron calculated from the microstructures just after recrystallization. (Online version in color.)

4. 考察

4・1 90%冷延材における再結晶集合組織の初期SG組織依存について

90%冷延材における再結晶時の集合組織変化挙動ついて,詳しく調査するため,Fig.12(a)−(i)Fig.5で示したODFと同一時刻におけるIPF(ND)図を示す。まず,再結晶時の粒径については,先述の再結晶率の時間変化と同様に大きな違いは無いように見える。一方で,集合組織変化に着目すると,γ-fiberが発達するか否かは,核形成が生じにくい領域(α-fiber,代表的にはFig.3の左端紫色の領域)をγ-fiberが蚕食できるか否かで決定されているように見受けられるが,明確な答えは得られない。この点について,最もγ-fiberが発達したSG075-3-bと最も発達しなかったSG125-1.2-cの比較を行う。Fig.13(a)−(f)に上記2条件のIPF(ND)図の時間変化を示す。この図から,双方において,再結晶の核形成が,領域内方位差の大きい(1)γ-fiber領域およびその周辺と(2)様々な方位が混在した領域(図中に黒丸印で囲った)で優先的に生じていることが確認できる。時間経過によりそれらの核が,低方位差のため核形成が生じにくいα-fiber領域を蚕食して行く。その様式は,双方において変化は無く,実験結果14)にも良く一致している。一方,大きく異なる点は形成する核の方位である。小さいSGを考慮したSGサイズ分布の広い条件SG075-3-bではγ-fiber方位粒が核となっているが(Fig.13(a)−(c)),SGサイズ分布の狭い条件SG125-1.2-cではγ-fiber方位粒が再結晶核となっている頻度が低い(Fig.13(d)−(f))。この点について考察する。本報では2・3節で述べた測定値からSG組織への変換によりSG形成過程をモデル化している。変換においてSG方位は,大凡,加工組織のそれを維持できているものの,考慮できていない局所的に不均一な情報も存在する。核形成頻度の高い領域では,方位変化が大きいため,微妙なSGの与え方で核形成方位が変化してしまう可能性もある。当初は,初期SGサイズ分布を変化させることで,γ-fiberの発達を制御する可能性を期待した。しかし,3・1・2節でも述べた通り,γ-fiberの発達とSGサイズ分布間の明確な関係性は得られていない。本節の最後として,予測精度向上に有効と考えられる,以下の方策について考察する。

Fig. 12.

(a)-(i) ND-orientation maps of 90% cold-rolled iron calculated from the microstructures just after recrystallization. (Online version in color.)

Fig. 13.

Simulated microstructural evolutions of 90% cold-rolled iron during recrystallization with the conditions ((a)-(c)) SG075-3-b and ((d)-(f)) SG125-1.2-c, respectively. Dotted circle indicates a region with variety of orientation in the initial SG structure. (Online version in color.)

(1)[測定]EBSD測定における解像度の向上

(2)[測定,モデル]三次元測定を含む,測定領域,すなわち,計算領域の拡大

(3)[モデル]SG境界特性の詳細な記述

(4)[モデル]SG変換モデルの改良

まず,計算で得られる再結晶集合組織の変化幅の低減に最も効果が高いと考えられるものは,計算結果の平均化が促進される(2)であると考える。(1)については,本報においてSG変換に,SGの代表点の方位のみを用いているため,効果は限定的であり,(4)と同時実行が必要であろう。(3)については,2・4節で述べたSG境界エネルギーと易動度の与え方を変更する事を意味しており,例えば,方位差-界面エネルギー曲線におけるカスプの考慮などについて,実行の価値はあると考える。(4)については,回復過程の詳細なモデル化を意味しており,例えば,結晶方位に応じてSG化までの時間を変化させる事が考えられる。しかし,現時点で明確な改良指針が得られていないため,(2)および(3)による予測精度向上代を確認後に取り組むべきであると考えている。

4・2 99.8%冷延材の再結晶時における集合組織変化について

前節で述べた通り,本報で検討した範囲においては,初期SG組織への変換条件が再結晶挙動へ与える影響は小さいと考えられる。したがって,本節では1水準に条件を絞り,組織発展の詳細について確認する。ここでは,対象としてSG050-2-aを選択した。Fig.14(a)−(d)にSG050-2-aにおける組織発展(IPF図)とODFの時間変化を併せて示す。本モデルにおいては,再結晶核形成に高易動度を有する,高角粒界が必要である。90%冷延材では,領域内方位差の大きいγ-fiber中や,圧延時に形成された様々な方位が入り混じった領域で優先的に核形成が生じていた。一方で,99.8%冷延材においては,高圧下で生じた極めて微細な層状組織14)に起因する高角粒界を多く有するため,至るところで核形成が確認できる。したがって,再結晶粒の方位に明確な選択性が働かず,実験結果14)と同様に再結晶後のODFに大きな変化が得られなかったと考えられる。更に述べると,この点が計算結果のロバスト性にも大きく関わっていると考えられる。すなわち,90%冷延材と比較して,初期組織が微細な上に,再結晶中における再結晶先端の移動が短距離に留まるため,狭い領域で再結晶挙動を代表する事が可能であったためと考えられる。一方で,例えば20000ステップに着目すると未再結晶SGと再結晶粒が混在したバイモーダル組織(Fig.14(c))となっており,局所的には,核形成−成長過程を有する,不連続再結晶が生じていることが確認できる。最後に,本報の計算結果においてしばしば観察された“喰い残し粒”の形成過程を図中の矢印で示す。近い方位を有するSGが隣接して存在した場合(5000step)に,片方のみが著しく成長すると(10000step),もう一方を回り込みながら取り囲んでいる(20000step)。ここでは,低角粒界(低易動度,低エネルギー)が重要な役割を果たしている。更に時間が経過すると,“喰い残し”は収縮する(30000step)が,低角粒界に囲まれているため消失速度は非常に小さい。

Fig. 14.

(a)-(d) Simulated microstructural evolutions of 99.8% cold-rolled iron during recrystallization with the conditions SG050-2-a and φ2,Euler=45° ODF sections calculated from the microstructures. Arrows indicate a formation process of an “island” grain structure. (Online version in color.)

5. 結言

再結晶の核形成から再結晶後の粒成長までを同一の枠組みで扱える三次元フェーズフィールド数値計算システムを構築している。本報では,EBSD測定結果からのSG組織への変換方法の確立に向け,圧下率90%,99.8%の冷延純鉄に対して,理論から明確に決定する事が困難な,初期SGサイズ分布の制御パラメータRminとLesが変換後のSG組織や再結晶挙動に与える影響について調査し以下の結果を得た。

90%冷延材について

(1)初期SGサイズ分布の違いが再結晶速度へ与える影響は小さい。何故ならば,“再結晶の核形成が領域内方位差の大きい領域で生じ,低方位差のため核形成が生じにくいα-fiber領域を蚕食する”という点については強い再現性があるためと考えられる。

(2)一方で,再結晶完了後の集合組織について,(1)に対応して,定性的には実験結果と一致する。しかし,定量的には初期SGサイズ分布関数に応じて変化し,それは核形成する方位の“ずれ”に起因する。現時点で,その方位決定機構は完全には明確になっていない。この点について,今回用いた数値解析の入力値では冷延前粒数が5個程度であったため,三次元測定まで含めた,より広範囲の測定値を用いた検討が必要であると考える。

99.8%冷延材について

(3)初期SGサイズ分布変化が再結晶速度に与える影響は小さい。

(4)集合組織発展は実験結果に良く一致した。すなわち,再結晶前後で系全体のODFは殆ど変化しない。

(5)加えて,90%冷延材の場合と比較して,再結晶集合組織予測の再現性も良好であった。これは,強圧延材が非常に細かい層状組織で構成されており,至るところで核形成が可能なため,再結晶組織の決定に必要な代表体積(面積)と比較して,計算領域が十分に大きかったためと考えられる。

双方の結果を合わせて

(6)集合組織形成機構が異なる90%および99.8%圧延材の再結晶挙動を,自発的な核形成挙動を表現可能なSG成長モデルを用いて,統一的に再現する事に成功した。加えて,効率化アルゴリズムと並列計算機の活用により,10時間という実用的な時間での三次元解析を可能としている。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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