Tetsu-to-Hagane
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Welding and Joining
Fatigue Strength Improvement by Replacing Welded Joints with Ductile Cast Iron Joints
Tetsuro HidakaNao-Aki NodaYoshikazu SanoNobuhiro KaiHiroyoshi Fujimoto
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2019 Volume 105 Issue 6 Pages 619-628

Details
Synopsis:

In this study fatigue experiments are conducted for ductile cast iron (DCI) to compare with the fatigue strength of cruciform welded joints. Here, several DCI specimens are prepared to have nearly the same fatigue strength in smooth specimens before welding and to have similar cruciform shapes in the welded joints. It is found that the fatigue strength of DCI specimen is about three times larger than that of the welded joint specimens. The fatigue strength improvement can be explained in terms of the small stress concentration factor, notch insensitivity and compressive residual stress generated by shot blasting for DCI joints.

1. 緒言

溶接構造物は溶接部の急熱・急冷による残留応力や形状・材質の不連続性による応力集中,溶接欠陥等の影響により,疲労破壊の起点となる場合があり,特に橋梁をはじめとする土木分野を中心に有用な材料の選定や対策方法が求められている1,2)

これに対し,球状黒鉛鋳鉄3,4)は鋼材に匹敵する強度・靭性を有する材料である他57),鋳造による一体成形が可能で自由形状成形性に富む特徴を有する。そのため,急激な断面変化を避け,形状要素を起因とする応力集中を低減できる。また,砂型鋳造では徐冷することにより,熱影響による残留応力も比較的少なく,溶接構造物に対して疲労強度を向上し得る可能性がある。近年では球状黒鉛鋳鉄の疲労強度優位性に着目し,溶接構造物を鋳鉄にて一体化した製品の開発8,9)も行われている。しかし,球状黒鉛鋳鉄は一般的に鋼と比較して疲労強度が低い10,11),シャルピー衝撃値が小さい1215),さらに鋳造欠陥が発生するなどの理由から構造部材として敬遠される傾向にある。また,溶接継手と球状黒鉛鋳鉄継手の疲労強度を直接比較した実験データは見当たらない。これらが原因で球状黒鉛鋳鉄は疲労耐久部材としてほとんど活用されていない現状にある。以上の背景をふまえ,本研究では,溶接継手を球状黒鉛鋳鉄継手にて一体化した場合の疲労強度を実験的に検証するとともに,その要因について比較考察する。

2. 荷重非伝達型十字溶接継手の疲労強度特性

溶接継手の疲労強度はその継手形状や溶接部の仕上げ状態に依存することから,継手形状や仕上げ状態ごとに実験的に求められた強度等級と呼ばれる設計基準強度が定められている16)。今回はその中から溶接継手の実験データが豊富で,かつ鋳鉄部材としても補強リブ等で頻繁に活用される形状に近い荷重非伝達型十字溶接継手16)(Fig.1参照,以下,鋼溶接継手または単に溶接継手,Welded jointと記す)を比較対象とする。

Fig. 1.

Dimension of welded joint (t1=20).

Fig.2にSM50B材の溶接継手とその母材である平滑材(以降,鋼平滑材,Steel plate before weldedまたは単にBefore weldedと記す)の疲労試験結果17)を示す。これは,溶接継手の設計基準にも多数参照されている,科学技術庁金属材料技術研究所の疲れデータシートから引用したデータである。溶接継手の試験体形状をFig.1,鋼平滑材の試験体形状をFig.2中に示す。ここで,溶接継手の溶接止端部半径ρ=0.485 mm(Fig.1参照)は,29本の試験片の平均値であり,グラインダ処理の有無は不明である。Fig.3は溶接継手のマクロ組織写真,Table 1は鋼平滑材の化学成分,Table 2は鋼平滑材の機械的性質やFig.2の疲労試験結果についてまとめたものである。Table 2より,溶接継手の疲労強度σw1STEEL=80 MPaは鋼平滑材の疲労強度σw0STEEL=240 MPaの30%と著しく小さく,鋼材そのものの疲労強度特性を十分に発揮できていない。また,主板厚(Main plate thickness)t1の増加によって疲労強度は低下するが,板幅(Plate width)wやリブ厚(Rib plate thickness)t2が疲労強度に及ぼす影響は小さいことが知られている18)

Fig. 2.

S-N diagram showing fatigue properties of before welded and welded joint (t1=20).

Fig. 3.

Macrostructure of welded portion (Etched by nital).

Table 1. Chemical composition of steel plate before welded (wt%).
CSiMnPSCeq*
0.1660.331.450.0210.0110.42

*Carbon equivalent Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14

Table 2. Mechanical and fatigue properties of steel plate before welded and welded joint.
JIS Z 2201 (1968), No.1A type tensile test specimenSteel plate before weldedWelded joint
Upper yield stress (MPa)Tensile strength (MPa)Elongation
(%)
Vickers hardness
(HV 98N)
Fatigue limit Δσ (MPa)Vickers hardness* (HV 98N)Fatigue limit Δσ (MPa)
39753431154240225 ~ 25080

*Maximum hardness of heat affected zone

溶接により疲労強度が低下する要因は,溶接止端部の形状的な応力集中や,溶接部に発生する残留応力があげられる1921)。形状的な応力集中係数Ktは後に示す解析結果からKt=3.47と大きい。Kt低減には溶接止端部の仕上げを行うなど様々な手法があるものの,現実的にはコスト等の兼ね合いから,溶接のまま使用されることが多い。残留応力はTable 2にまとめた溶接継手の実測値は不明であるが,一例では母材の引張強度が500 MPa相当の鋼板を用いて製作した十字継手の溶接止端部近傍に,母材の降伏強度に近い300~400 MPaの引張残留応力が発生しており,疲労強度低下の要因となっていることが報告されている22)

3. 球状黒鉛鋳鉄継手の疲労試験条件

ここでは,溶接継手形状を球状黒鉛鋳鉄で一体化した試験片(以降,鋳鉄継手,DCI jointと記す)の寸法と疲労試験条件について述べる。

3・1 球状黒鉛鋳鉄継手疲労試験片

Fig.4に試験片寸法を示す。主板厚は寸法効果の影響を考慮し,Fig.1に示した溶接継手のt1=20 mm以上とし,t1=24 mmとした。板幅,リブ厚,リブ高さは疲労強度への影響が小さいため,試験機の荷重容量や製作上の便宜上,図に示す寸法とした。主板とリブの交差部は溶接継手の脚長s=10 mm(Fig.1参照)より小さく,かつ鋳造欠陥を考慮して経験的にρ=6 mm(Fig.4参照)にて滑らかに繋いだ。つかみ部は補強のため主板厚に対して9 mm増厚した。鋳物の製作上必要となる抜け勾配は,主板厚方向に1°として設定した。この抜け勾配による主板の板幅の変化は0.5 mm以下である。なお,球状黒鉛鋳鉄の平滑材(以降,鋳鉄平滑材またはDCI plateと表記する)の疲労試験には,便宜上鋳鉄継手と同様の十字形状で主板厚t1=12 mmの試験片を用いている(Fig.4参照)。この試験片は破断位置が全て平滑部であったため,鋳鉄平滑材の試験片として代用した。

Fig. 4.

Dimension of DCI joint.

ここで,鋳鉄鋳物は通常機械加工は行わず,鋳肌と呼ばれる鋳造したままの表面状態で使用されることが多い。鋳肌は砂型表面を転写した際にできる凹凸や砂かみ等の表面欠陥を含んでおり,機械加工面と比較して疲労強度が低下することが知られている23,24)。よって今回は,より実用時の疲労強度に近い結果を得るため,鋳鉄継手,鋳鉄平滑材ともに鋳肌のままで疲労試験を行う。なお,砂落としのためのスチールショットブラストは行っている。

鋳鉄継手の化学組成をTable 3に示す。一般的に疲労強度は試験体の引張強度と相関があることから,比較対象である溶接継手の引張強度と同等にする必要がある。よって,Table 2を参照して引張強度が550 MPa相当となるよう化学成分を調整した。鋳鉄継手の機械的性質をTable 4に示す。機械的性質はFig.5に示すように板状の引張試験片(JIS14B号引張試験片)を鋳鉄継手から機械加工にて切り出し,引張試験を実施して得られたものである。これらより,鋳鉄継手の引張強度や降伏強度に相当する0.2%耐力はTable 2に示した溶接継手と多少の差異はあるものの,ほぼ同等の機械的性質であることが確認された。Fig.6に鋳鉄継手のミクロ組織写真を示す。これより,本試験片は一般的な球状黒鉛鋳鉄に見られるブルスアイ組織を呈していた。なお,鋳鉄平滑材(t1=12 mm)の化学組成,機械的性質は鋳鉄継手とほぼ同様であった。

Table 3. Chemical composition of DCI joint (wt%).
CSiMnPSCuMgCeq*
3.672.450.410.0240.0040.310.0423.84

*Carbon equivalent Ceq=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14

Table 4. Mechanical properties of DCI joint.
JIS Z 2241(2017), No.14B type tensile test specimen
0.2% Proof stress (MPa)Tensile strength (MPa)Elongation
(%)
Brinell hardness (HB)
34056015.8191
Fig. 5.

Dimension and machining location of tensile test specimen.

Fig. 6.

Microstructure of DCI joint (Etched by nital). (Online version in color.)

3・2 疲労試験方法

繰返し荷重は溶接継手の試験方法に合わせて試験片長手方向軸引張荷重(応力比R=0)とし,荷重容量±100 kN電気油圧式サーボ疲労試験機(MTS製)を用いて荷重制御にて実施した。繰返し波形は正弦波,周波数は30 Hzとし,室温(23±3°C)・大気中で行った。最大荷重は試験片耐力を目安に350 MPaから順次低下させ,最大繰返し数Nf=1.00×107回まで実施し,未破断の場合は試験中止とした。

4. 疲労試験結果

4・1 球状黒鉛鋳鉄継手の疲労試験結果

Fig.7に鋳鉄平滑材と鋳鉄継手のS-N曲線を示す。図中には次節の考察のため,Fig.2に示した溶接継手や鋼平滑材のS-N曲線も示している。Table 5に鋳鉄継手の破断位置,破断面に確認された破壊起点を示す。表中の試験片No.はFig.7中の番号と対応している。No.7*はNo.7の破断面観察のため,最大負荷応力を300 MPaに増大して再度疲労試験を行い破断させた試験結果である。ここで,Fig.7中に示すNo.7*の試験データはS-N曲線上から大きく離れていない。これは最大負荷応力が十分に大きく,コーキシング効果がほぼないためと考えられる。よってNo.7*も有効なデータであると判断し,同図に示している。

Fig. 7.

S-N diagram showing fatigue properties of DCI specimen and steel specimen.

Table 5.

Broken position and fracture origin of DCI joint in Fig.7. (Online version in color.)

Fig.7より,鋳鉄継手の疲労強度はσw1DCI=220 MPaが得られており,鋳鉄平滑材の疲労強度σw0DCI=240 MPaに対して90%程度であった。

Table 5より,破断位置はNo.5を除きリブ交差部もしくはつかみ部近傍R部の応力集中箇所であった。また,破面の鋳肌近傍には比較的小さな介在物欠陥が確認され,破面の様相からこれらの表層欠陥が破壊の起点であることがわかる。なお,これらの欠陥はマッピング分析により砂かみや球状化剤等のドロスと呼ばれる欠陥と判断される。欠陥サイズは球体に換算すると直径1~2 mm程度であった。No.5は内部の空洞状の大きな欠陥を起点に破壊している。これは鋳造時の凝固収縮によりしばしば発生する引け巣欠陥と考えられる。この試験体の破断位置は応力集中部から少し離れた平行部であった。これは,他の試験片と異なり,応力集中や表層欠陥よりも内部欠陥の影響を強く受けたためと想定できる。このような比較的大きな欠陥については,試作段階で鋳造方案等を修正し,許容できる欠陥サイズに収まるよう抜本的な欠陥対策を行う。その上でロット数に応じて抜き取りUT検査を実施し,構造的に重要な部位については欠陥サイズがφ2 mm以下となるよう品質管理を行っている。今回は試験片であることから全数X線検査を実施し,欠陥の存在を把握した上で試験を行った。なお,No.5以外は検出されなかった。

鋳鉄平滑材(t1=12 mm)の詳細は記述していないが,破断位置は全て平行部であり,欠陥サイズは鋳鉄継手(t1=24 mm)とほぼ同等であった。これらの詳細な考察については今後行うこととする。

4・2 球状黒鉛鋳鉄継手と溶接継手の疲労強度比較

Fig.7より,σw1STEEL=80 MPaであるのに対し,σw1DCI=220 MPaが得られており,鋳鉄継手の疲労限度は溶接継手に対し2.75倍の優位性が確認された。また,σw1DCI/σw0DCI=90%に対し,σw1STEEL/σw0STEEL=30%であり,平滑材に対する低下率は著しく小さい。

一方,鋳鉄継手のS-N曲線の傾きは溶接継手に対して小さく,切欠き効果が小さいと考えられる。これらの要因はリブ交差部近傍の応力集中や切欠き感受性,残留応力の違いが影響していると考えられる。詳細は次章にて考察する。

5. 球状黒鉛鋳鉄継手の疲労強度が溶接継手より優れる要因分析

ここでは,引張強度が同等である溶接継手と鋳鉄継手の疲労強度が異なる要因について考察する。

5・1 平滑材の疲労強度

切欠き材である溶接継手と鋳鉄継手を比較する上で基本となるそれぞれの平滑材の疲労強度や表面状態について改めて整理しておく。

Table 6にそれぞれの平滑材の疲労強度と表面状態を示す。疲労強度はそれぞれ240 MPaで同じである。表面状態は鋼平滑材は黒皮,鋳鉄平滑材は鋳肌であるが,鋳鉄平滑材については砂型鋳造後に通常実施する砂落としのためのスチールショットブラストを施している。なお,溶接継手,鋳鉄継手においても表面状態はそれぞれの平滑材と同様である。次節以降,これらを前提に考察を行う。

Table 6. Fatigue limit and surface condition of steel plate before welded and DCI plate.
Specimen typeFatigue limit Δσ (MPa)Surface condition
Steel plate before welded240Mill scale
DCI plate240Cast skin and shot blast

5・2 応力集中係数の違い

形状的な応力集中の影響を比較するため,溶接継手(t1=20)と鋳鉄継手(t1=24)のFEM解析を行い,リブ交差部近傍に発生する応力集中係数を調査した。解析コードには市販の汎用解析ソフトMarc 2012(MSC Software社製)を用いた。

Fig.8に示すように解析モデルは対称性を考慮して1/4分割モデルとし,溶接継手についてはフランク角を45°,止端部の曲率半径ρは実測されている平均値17)から0.485 mmとした。鋳鉄継手についてはFig.4に示した設計寸法にてモデル化した。境界条件は分割面に対称拘束を,平行部断面に引張荷重を与えた。

Fig. 8.

FEM model and boundary conditions. (Online version in color.)

Fig.9に溶接継手と鋳鉄継手の解析結果を最大主応力のコンター図で示す。図中に示す応力集中係数Ktはリブ交差部近傍(フィレット部)の最大応力σmaxを公称応力σnにて除して得られる。ここで,フィレットの応力集中問題では最大応力σmaxが生じる位置と公称応力σnが生じる位置は異なる(Fig.10参照)けれども,ここでは一般的に強度設計に用いられる応力集中係数の定義を用いている2530)

Fig. 9.

Results of stress simulation by 2D FEM. (Online version in color.)

Fig.10.

Stress concentration factor of a stepped flat bar with shoulder fillets.

これより,鋳鉄継手のKtは1.68であり,溶接継手のKt=3.47と比較して小さい。これは鋳鉄継手のリブ交差部がR形状によって滑らかに形成されており,切欠き半径ρが大きいためである。このように,鋳鉄継手は溶接継手に比べて応力集中係数が小さく,疲労強度が向上する要因の一つと考えられる。なお,鋳鉄はこのR形状を設計次第でさらに大きくすることが可能であり,型による形状成形のため,溶接ビードと比較して製作上のばらつきも少なくすることができる。よって,さらに応力集中係数を低減することが可能である。

5・3 切欠き感受性の違い

Fig.7に示したように,σw0DCI=240 MPa,σw1DCI=220 MPaであり,今回の疲労試験において,鋳鉄は切欠きの影響をほとんど受けていない。これは鋳鉄が切欠きに対して鈍感であることが要因と考えられる。Fig.11は応力勾配χと切欠き底の弾性最大応力σmaxの関係を示したもので,種々の切欠き半径ρに対する鉄系材料の切欠き鈍感性を表している31,32)。FCD550(引張強度σB=550 MPa相当の球状黒鉛鋳鉄)の曲線はデータが見あたらないので,S10C(σB=372 MPa)とS30C(σB=537 MPa)の引張強度とσmax/σw0の比を用いてFCD700(σB=730 MPa)の曲線から予測したものである。これより,球状黒鉛鋳鉄であるFCD550やFCD700は軟鋼のS10CやS30Cと比較すると,応力勾配χが同じであれば疲労破壊する最大応力σmaxが大きく,切欠きに対して非常に鈍感であることがわかる。

Fig. 11.

Notch insensitivity (Relationship between the stress gradient and the maximum elastic stress at a notch root).

ここで,σmax/σw0=Ktσw1/σw0で表され,Ktは応力集中係数,σw1は切欠き材の疲労強度,σw0は平滑材の疲労強度である。図中の破線は応力勾配χに関わらずKtσw1/σw0=1,切欠き係数Kf=σw0/σw1であるから,Kt=Kfの関係にあり,疲労強度に対する切欠き感受性が非常に敏感であることを意味している。このことは,ばね鋼(spring steel)33)がこれに近いことからも理解できる。逆にχが大きい範囲となる鋭い切欠きでもσmax/σw0=Kt/Kfが大きい材料は切欠きに対して鈍感であるといえる。なお,鉄鋼材料の切欠き感受性は,化学組成や基地組織が著しく異なる場合を除き,引張強度との相関が強いことが知られている33)

以上をふまえ,溶接継手について,母材であるSM50Bと引張強度が近いS30Cを参考にすると,Fig.11よりχ=2/ρ=2/0.485(≅4.12)となるから,Ktσw1/σw0≅1.19である。前節の解析結果より,Kt=3.47であるから,σw1/σw0≅0.34となり,この溶接継手の疲労強度は平滑材に対して34%の疲労強度を有すると考えられる。よって,鋼平滑材の疲労強度は240 MPaより,溶接継手の疲労強度は82 MPaと予測できる。

一方,鋳鉄継手はχ=2/ρ=2/6(≅0.33)であるから,Fig.11のFCD550を参考にするとKtσw1/σw0≅1.13である。Kt=1.68であるから,σw1/σw0≅0.67となり,鋳鉄平滑材の疲労強度240 MPaより鋳鉄継手の疲労強度は161 MPaと予測でき,溶接継手の2倍程度となる。

以上のことから,球状黒鉛鋳鉄は軟鋼と比較して切欠きに対して鈍感であり,今回比較した試験片形状から予測されるσw1についても溶接継手よりも鋳鉄継手の方が2倍ほど大きいことから,疲労強度が大きく向上したと考えられる。

5・4 残留応力の違い

Table 7に溶接継手と鋳鉄継手の残留応力測定値と測定箇所を示す。測定箇所は溶接継手,鋳鉄継手ともに繰返し荷重作用時に最大応力が発生するリブ交差部近傍である。溶接継手の測定値は,他の文献でほぼ同形状で,機械的性質も同等であるSM490Bの溶接継手の測定結果34)を引用しており,Table 7にあるA~Dの4点の平均値として示した。鋳鉄継手は疲労試験を行った試験片と同ロットで鋳造したものから3本選定し,1点ずつ測定した平均値である。測定にはX線残留応力測定装置を用い,Table 8に示す測定条件とした。なお,溶接継手,鋳鉄継手ともに疲労試験実施前に残留応力を測定している。

Table 7.

Residual stress and measuring point of welded joint and DCI joint.

Table 8. Residual stress measurement condition of DCI joint.
X-rayCrKα
Diffraction planeFe (211)
FilterV
Stress constant (MPa/deg.)–323
Tube voltage (kV)30
Tube current (mA)10
Collimator (mm)2
Incident angle φ0 (deg.)0
Measuring methodHalf height breadth

これらの結果から,溶接継手は100 MPaの残留応力が発生していることがわかる。溶接残留応力は200~300 MPaと大きな場合もあるが,今回の測定値はそれに比べると小さい。これは,測定箇所が溶接止端部から3 mm離れていることが要因と考えられ,溶接止端部はさらに大きな残留応力が発生していると推察される。一方,鋳鉄継手は300 MPa以上の大きな圧縮残留応力が発生している。これは試験片の製作過程で施したスチールショットブラスト処理の影響と考えられる。過去の研究においても,同処理によりほぼ同等の圧縮残留応力が確認されている35,36)

ここで,これらの残留応力が疲労強度に及ぼす影響を考える。残留応力は,繰返し応力が作用すると減衰する場合がある22,36)。溶接継手は大きな残留応力でなければ初期の残留応力で考えることが通例である22)。今回は溶接継手に発生している残留応力が100 MPaと比較的小さいことから,溶接継手についてはTable 7に示した疲労試験前の残留応力を用いることとする。一方,鋳肌にショットブラストを施した際の残留応力分布は,表層近傍が最大で,深さに応じて低下する。また,応力振幅や応力比の影響により異なるが,およそ500~1000 μmの深さでは残留応力の影響はほぼなくなるという報告がある36)。今回は破壊起点となった欠陥サイズが1000 μm以上で,残留応力の影響を受けない欠陥深さになる場合が想定されるため,Table 7に示した−305 MPaのおよそ半分である−150 MPaの残留応力が作用していることとする。

両振り疲労強度σwを式(1)のように引張強度σBの0.48倍37)と見積もると,溶接継手と鋳鉄継手の疲労限度線図はFig.12のようになる。図中のσ1σwを基準とした片振り疲労強度であり,式(2)で表される。σ2σ1を基準として残留応力σresが平均応力として作用した場合の疲労強度であり,式(3)で表される。これらより,残留応力による疲労強度の増減率はσ2/σ1で表すことができ,これを式(4)のようにCrと定義する。Fig.12より,溶接継手は残留応力により疲労強度が0.72倍(Cr=0.72)になる一方,鋳鉄継手は1.40倍(Cr=1.40)になることがわかる。以上のことから,残留応力の観点からも鋳鉄継手は溶接継手に対し疲労強度が向上すると考えられる。

  
σw=0.48σB(1)
  
σ1=σw/(1+σw/σB)(2)
  
σ2=σw{1(σ1+σres)/σB}(3)
  
Cr=σ2/σ1(4)

σw:両振り疲労強度(MPa)

σB:引張強度(MPa)

σres:残留応力(MPa)

σ1:残留応力がない場合の疲労強度(MPa)

σ2:残留応力がある場合の疲労強度(MPa)

Cr:残留応力による疲労強度の増減率

Fig. 12.

Fatigue limit diagram showing the effect of residual stress.

5・5 各種要因が疲労強度に及ぼす効果

Fig.13は本章のまとめとして,疲労強度に影響を及ぼす各種要因の効果を模式的に表したものである。溶接継手,鋳鉄継手ともに平滑材の疲労強度を基準として模式的に示している。要因とその効果は,本章で考察した①応力集中係数(Kt effect),②切欠き鈍感性(χeffect),③残留応力(σres effect)である。溶接継手は①Kt effectにより鋼平滑材から疲労強度が著しく低下する(240 MPa⇒69 MPa)。②χ effectによりやや疲労強度は向上するものの(69 MPa⇒82 MPa),その効果は小さく,③σres effectによりさらに疲労強度が低下すると考えられる(82 MPa⇒59 MPa)。この結果,溶接継手の疲労強度は59 MPaと予測でき,平滑材の疲労強度240 MPaの25%程度まで著しく低下する。

Fig. 13.

Effects of various factors on fatigue limit.

一方,鋳鉄継手は①Kt effectにより疲労強度が低下するが,その効果は小さく(240 MPa⇒143 MPa),②χeffectの効果もあって(143 MPa⇒161 MPa),鋳鉄継手の疲労強度は161 MPaと予測でき,鋳鉄平滑材のおよそ67%を確保している。ここで,鋳鉄継手は③σresの影響を同様に受けている鋳鉄平滑材が基準であるため,その効果は図中には表記していない。以上のことから,鋳鉄継手の疲労強度は予測値においても溶接継手の2.7倍程度あり,疲労強度優位性があることは明らかである。また,鋳鉄継手の切欠き係数KfDCI=σw0DCI/σw1DCIは溶接継手の切欠き係数KfSTEEL=σw0STEEL/σw1STEELのおよそ1/3であり,切欠き感受性も鈍感であることがわかる。なお,これらの予測値はFig.7に示した実験値に対し25%程度の違いで一致する。

6. 結言

主板厚や引張強度と平滑材の疲労強度が同等である溶接継手と球状黒鉛鋳鉄継手の疲労強度を比較した結果,以下の結論を得た。

(1)鋳鉄継手の疲労強度はσw1DCI=220 MPaであり,溶接継手の疲労強度σw1STEEL=80 MPaと比較して2.7倍ほど大きいことを実験的に明らかにした。

(2)疲労強度に影響を及ぼす要因を考察し,その効果を定量的に検討した。それらの結果を用いて算出した疲労強度の予測値は,鋳鉄継手がσw1DCI=161 MPa,溶接継手がσw1STEEL=59 MPaであった。これより,予測値においても鋳鉄継手の疲労強度は溶接継手に対し2.7倍ほど大きい結果となった。

(3)上記(1),(2)の要因として,鋳鉄継手は溶接継手と比較して応力集中係数が小さく,切欠きに対して鈍感である,表面にショットブラストの圧縮残留応力があることがあげられる。

7. 今後の展開

鋳鉄継手は欠陥が破壊起点となっているが,この影響の詳細ついては今回考察していない。また,鋳肌の表面粗さはかなり大きく,この影響についても検討する必要がある。

以上のことから,今後は鋳鉄継手の最大欠陥サイズや表面粗さの影響を考慮した上で疲労強度の下限値を予測し,溶接継手の疲労強度と比較する。

謝辞

本研究は平成29年度基礎研究等助成金事業(佐賀県技術振興等補助金産学官連携技術革新支援事業)の援助を得て実施された。ここに深く感謝の意を表する。

文献
 
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