Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Correlation in the Parameters Obtained by Direct-Fitting Method and Modified Williamson-Hall Method for Cold Worked Iron
Setsuo TakakiTakuro Masumura Toshihiro Tsuchiyama
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 6 Pages 648-654

Details
Synopsis:

In the dislocation characterization using radiation diffraction, the modified Williamson-Hall method gives the parameter α, φ and S, in which the information about crystallite size, dislocation density and screw component of dislocation are contained respectively. On the other hand, the direct-fitting method gives the parameter α, micro-strain ε and the correction parameter ωh00. In this study, the correlation in these parameters was investigated in cold rolled ferritic steel (Fe-0.0056%C). Results obtained are as follows: Almost same values were obtained for the parameter α in both methods. The value of parameter ε increases as the S-value becomes small even under the same dislocation density. At the constant S-value, however, linear relationship was found between ε and φ. Between the parameter S and ωh00, there is an identical relationship expressed by the equation; S=1.16+1.46ωh00–3.71ωh002 regardless of dislocation density. In addition, it was confirmed that there is no large effect of texture on the dislocation characterization by the direct-fitting method and the modified Williamson-Hall method.

1. 緒言

加工した金属において,回折ピークの半価幅と転位密度の間に何らかの相関性があることはよく知られており,Williamson and Hallは半価幅の値から転位密度を見積もる方法を提案した1)。使用したX線の波長をλ,回折ピークの角度をθ,その半価幅をβ(rad)とすると,パラメーターK(=2sinθ/λ)と∆K(=βcosθ/λ)の関係について次のようなWilliamson-Hall(WH)の式が得られる。

  
ΔK=α+εK(1)

ここで,パラメーターαは結晶子サイズに依存した値,εは転位密度や転位の性質,転位の分布状態に依存した値でミクロひずみと言われているが,本論文では,パラメーターεと言うことにする。結晶面毎に弾性異方性がなければKと∆Kの関係(WHプロット)は直線となり,その傾きからεの値を決定できる。しかし,実際には結晶面毎に弾性異方性があるため,WHプロットのデータは不規則に分布してしまう。

そこで著者らは,次式で定義される補正係数ωhklを用いて,WHプロットにおける弾性異方性の影響を直接補正するdirect-fitting(DF)法を提案した2)

  
ωhkl=Ehkl/E0(2)

Ehklは多結晶金属の{hkl}面に対応し,補正係数ωhklを与えるための任意のヤング率,E0は,ひずみを一定と仮定したVoigtモデルで得られる基準ヤング率である3)。ここでのEhklは回折ヤング率に近い値をとるが,外部応力を負荷したときの格子ひずみと転位の弾性場による格子ひずみは性質が異なると考えられるため,厳密には回折ヤング率ではWHプロットを正確に補正することはできない。Ehklを実験的に求めることは困難であるため,以下のようにEhklおよびωhklを決定する。

金属の弾性定数は結晶方位と関係があり,次式で与えられる方位パラメーターΓの関数として整理できることが分かっている。

  
Γ=(h2k2+k2l2+l2h2)/(h2+k2+l2)2(0Γ1/3)(3)

たとえば,bcc金属のX線回折で現れる{200},{310},{110}と{211},{222}については,それぞれ0,0.09,1/4,1/3という値となる。ヤング率の逆数とΓの間には直線関係が成立するため,(1/ω)とΓの間にも同様に直線関係が成り立つ3)Fig.1に,応力を一定と仮定したReussモデルとVoigtモデルに基づいて得られた結果を示す。結晶構造がbccの鉄については,(0.261, 1)という座標点で2つの直線が交差しており3),この点は固定点と考えることができる。ReussモデルとVoigtモデルでは多結晶体における応力とひずみに関する設定条件が極端であり,実際にはその中間の状態(破線)が妥当と思われる。そこで,Γ=0に対応する値を1/ωh00とすると,次式により結晶面{hkl}に対応するωhklの値を決定できる。

  
1/ωhkl=(1/ωh00)Γ{(1/ωh00)1}/0.261(4)
Fig. 1.

Relation between orientation parameter Γ and the correction parameter ωhkl in the direct-fitting method.

DF法では,ωhklを補正係数として用い,WHプロットにおける弾性異方性を次式により補正する2)

  
ΔK=α+ε(K/ω)(5)

ωωhklを意味するが,以降,式を簡略化するために添え字を省略する。DF法では,補正したWHプロットに関して,直線近似したときの誤差が最小となるようにωh00の値を決定するところに最大の特徴がある。したがって,DF法では,最終的にωh00αεという3つパラメーターの値を求めることができる。

一方で,Ungár and Borbélyは,次式で定義されるコントラストファクターCを用いてWHプロットの弾性異方性を補正する方法を提案した4)

  
C=Ch00(1qΓ)(6)

ここで,Ch00は{h00}面のコントラストファクター,qはコントラストファクターの方位依存性の大きさを示す係数である。これらの値は,転位のらせん成分の割合Sに対応して次式で与えられる。

  
Ch00=Ch00E+S(Ch00SCh00E)(7)
  
q=qE+S(qSqE)(8)

CEh00qECSh00qSは,それぞれ完全な刃状転位とらせん転位に対応する値であり,材料の弾性定数c11c12c44から求めることができる5)。結晶構造がbccの鉄については,c11=237 GPa,c12=141 GPa,c44=116 GPaという値が報告されており6),これらの値から,bccの鉄に関してCSh00=0.309,CEh00=0.264,qS=2.653,qE=1.398という結果が得られる5)。つまり,各結晶面のコントラストファクターCは,パラメーターS(0≤S≤1)の値に連動して変化することになる。また,Ungár and Borbélyは,コントラストファクターCを用いて,WHの式から次式を導出している4)

  
ΔK=α+φKC+OK2C(9)

この式はmodified Williamson-Hall(mWH)の式と呼ばれるものであるが,右辺第三項は他の項に比べて大変小さな値であることが確認されており,mWHの式として簡略化した次式を用いることができる7)

  
ΔK=α+φKC(10)

ここで,φは転位密度ρと転位の分布状態に依存した定数A,転位のBurgersベクトルの大きさbを含むパラメーターであり,具体的には次式で与えられる。

  
φ=(π/2)1/2Abρ(11)

パラメーターAについては,転位の分布が均一なほど大きな値となることが予想されるが,冷間加工したフェライト鋼については,0.5程度の値となることを確認している8)。上述のように,C値はパラメーターSに連動して変化するので,S値を0から1の間で変化させてΔKKCとの関係が最良の直線性を示すようにS値を選定することで,パラメーターαφの値を決定できる。パラメーターαの求め方については,従来のmWH法4)とは若干異なっているが,原理的には同じであるため,本研究では上述の方法を採用した。結局,mWH法では,最終的にSαφという3つのパラメーターの値を求めることができる。パラメーターφについては,式(11)からわかるように転位の性質に依存した影響が含まれていないので,WH法で得られるパラメーターεとは異なった値が得られる。

mWH法は周知の解析法であるが,DF法については,著者らが新たに開発した解析法であるため,その妥当性を検証する必要がある。パラメーターαについては,幸い両手法でその値を求めることができるので,その値を比較することでDF法の妥当性を検証できるはずである。また,DF法で得られるωh00εについても,物理的な意味を明確にする必要がある。そこで,本研究では,80%までの冷間圧延を施したフェライト鋼(Fe-0.0056%C)に対して両手法を適用し,得られたパラメーターの相関性を調査することとした。

2. 実験方法

実験には,結晶粒径を50 μmに調整したフェライト鋼(Fe-0.0056%C)を用い,厚さが1.1~5 mmの熱延板を1 mmまで冷間圧延することにより,5%から80%の範囲で圧延率が異なる試料を作製して使用した。これらの冷延板から15l×15w×1t mmの試料を切り出し,表面をサンドペーパーで平坦にしたのち,表面研磨の影響9)を除去するために0.05 mmだけ電解研磨を行った。X線回折実験は,線源としてCu-Kα(波長:0.15418 nm)を使用し,0.003 deg/sの速度で検出器を回転させて行った。Cu-KαIIの影響は,Rachingerの仮定10)に基づいて数学的なコンピューター処理により除去した。得られたX線ラインプロファイルは装置由来の影響を含んでいるため,その影響は,Voigt関数を利用した補正法11)により除去した。なお,その補正には,標準材としてLaB6(NIST製,SRM660c)を用いた。X線回折実験で得られた回折角(2θ;deg)と半価幅(β;rad)の値をTable 1に列記している。なお,{220}の回折ピークについては,回折強度が大変小さく,信頼できる半価幅の値が得られなかったため,本研究では除外することにした。また,DF法ならびにmWH法で補正したWHプロットの精度については,(Correl関数)2をFitting indexとして定義し,その値によって評価した。

Table 1. Diffraction angle (2θ) and full width at half maximum (β) in cold rolled ferritic steel (Fe-0.0056%C). The data of {220} was not used due to very weak diffraction intensity.
hkl7%13%20%40%60%80%
1102θ (deg)44.6144.9044.7644.7344.6944.69
β (rad)0.001170.001400.001310.001480.001690.00185
2002θ (deg)64.9265.2465.1065.0965.0465.04
β (rad)0.001910.002260.002150.002430.002990.00308
2112θ (deg)82.2482.5282.3982.3882.3482.34
β (rad)0.001740.002100.002000.002510.003030.00308
3102θ (deg)116.20116.51116.38116.42116.41116.41
β (rad)0.003780.004700.005010.005890.006960.00736
2222θ (deg)136.99137.22137.14137.17137.14137.14
β (rad)0.003840.004890.005000.006770.008070.00913

3. 実験結果

3・1 direct-fitting法ならびにmodified Williamson-Hall法によるWilliamson-Hallプロットの補正

ここでは,Table 1に示した試料の中から,60%冷延材を例に挙げて,DF法による解析法を説明する。回折角θと半価幅βの値から得られるKΔKの関係をFig.2に示す。WHプロットには結晶面毎に大きな差が生じており,ΔKの値は,ヤング率が低い{200}や{310}で大きく,ヤング率が大きな{222}では小さくなる傾向を示している。

Fig. 2.

Williamson-Hall plots in 60% cold rolled specimen.

Fig.3は,DF法で任意に設定したωh00の値と補正したWHプロットにおけるFitting indexの関係を示している。この例では,ωh00=0.738と設定したときに,補正したWHプロットの直線性が最良となり,Fitting indexの値についても0.989という高い値が得られている。Fig.4は,ωh00=0.738として補正したWHプロットを示しており,良好な直線関係が得られていることを確認できる。この結果から,α=0.0016 nm−1ε=0.0016という値が得られる。

Fig. 3.

Relation between the fitting index in corrected Williamson-Hall plots and the values of parameter ωh00 that was applied for the direct-fitting method.

Fig. 4.

Corrected Williamson-Hall plots in 60% cold rolled specimen that was obtained by putting ωh00=0.738.

一方で,Fig.5は,mWH法で任意に設定したS値と補正したmWHプロットにおけるFitting indexの関係を示している。この例では,S=0.204と設定したときに,補正したmWHプロットの直線性が最良となり,Fitting indexの値についても0.989という高い値が得られている。Fig.6は,S=0.204として補正したmWHプロットを示しており,良好な直線関係が得られていることが分かる。この結果から,α=0.0015 nm−1φ=0.0041という値が求められる。

Fig. 5.

Relation between the fitting index in corrected modified Williamson-Hall plots and the values of parameter S that was applied for the modified Williamson-Hall method.

Fig. 6.

Modified Williamson-Hall plots in 60% cold rolled specimen that was obtained by putting S=0.204.

3・2 パラメーターαに及ぼす解析法の影響

前節では,DF法ならびにmWH法による各種パラメーターの求め方を説明したが,本節では,同様にして求めた各種パラメーターの値と加工率の関係について説明する。Fig.7は,パラメーターαとFitting indexの値に及ぼす加工率の影響を示している。Fitting indexについては,どの試料でも0.95以上の高い値が得られており,しかも各試料について両解析法でほぼ同じ値が得られている。また,α値についても両解析法でほとんど同じ値が得られている。この結果は,DF法による解析が妥当なことを示唆している。

Fig. 7.

Effect of cold rolling on the values of parameter α (a) and fitting index (b).

3・3 パラメーターωh00とSに及ぼす冷間加工の影響

Fig.8は,DF法で得られたパラメーターωh00とmWH法で得られたパラメーターSについて,冷間加工に伴う変化を示している。パラメーターωh00の値は,加工率が大きくなるにつれて大きくなる傾向にある。前掲Fig.1からわかるように,ωh00の値が1に近いほど弾性異方性は小さくなるので,この結果は,加工率が大きくなるほど弾性異方性が小さくなることを示している。パラメーターSについては加工率が大きいほど小さくなる傾向にあり,この結果は,加工が進むにつれて転位の刃状成分が多くなることを意味している。つまり,加工率が大きくなると,転位の刃状成分が多くなり,結果的に弾性異方性が小さくなるというわけである。その理由は不明であるが,刃状転位とらせん転位では弾性応力場の性質が異なることが主な要因と思われる。パラメーターωh00とパラメーターSは,加工率に対して全く異なった変化をしているように見えるが,両者の関係を整理すると,Fig.9に示すような結果が得られる。2つのパラメーターの間には良好な対応関係があることがわかる。つまり,DF法におけるパラメーターωh00は,mWH法におけるコントラストファクターに相当する役割を果たしており,物理的には転位の性質を反映したパラメーターとして位置づけられる。

Fig. 8.

Effect of cold rolling on the values of parameter ωh00 in direct fitting method (a) and parameter S in modified Williamson Hall method (b).

Fig. 9.

Relation between parameter ωh00 and parameter S.

3・4 パラメーターεとφに及ぼす冷間加工の影響

Fig.10は,DF法で得られたパラメーターεとmWH法で得られたパラメーターφについて,冷間加工に伴う変化を示している。解析法が異なるため両者の値は異なっているが,いずれも転位密度を反映した値であるため,加工率の増加とともに単調に大きくなっている。Fig.11は,両者の対応関係を示したもので,良好な相関性は見られるものの直線的な関係は成立しない。圧延加工によって集合組織が発達することはよく知られており,両者の相関性にその影響が表れている可能性もある。実際に,本研究で使用した試料についても加工集合組織の存在が確認された。Fig.12に,圧延に伴う回折ピークの強度変化を示す。加工率が大きくなると{200}の回折強度が増大し,逆に{110}の回折強度が小さくなっていることが分かる。圧延などの加工で転位を導入すると,こうした加工集合組織の影響は避けられないため,以下,理論的に求めたWHプロットにDF法を適用して,集合組織の影響を検証することにした。

Fig. 10.

Effect of cold rolling on the values of parameter ε in direct fitting method and parameter φ in modified Williamson Hall method.

Fig. 11.

Relation between parameter ε and parameter φ.

Fig. 12.

Changes of diffraction intensity in {200}, {110} and {222} plane. Relative intensity means the intensity ratio to the total intensity.

4. 考察

ここでは,転位密度が様々に異なる場合について,理論的にWHプロットを作成することを試みた。前出の式(10)については,αを左辺に移行して,次のように書き換えられる。

  
ΔKα=φKC(12)

パラメーターφについては,式(11)に対してパラメーターAと転位密度ρの値を与えてやれば計算で求めることができる。冷間圧延したフェライト鋼についてはA≅0.5ということがわかっているので8)φ値は転位密度ρ[m−2]との関係により次式で与えられる。

  
φ=1.567×1010ρ(13)

たとえば転位密度が1×1015/m2の場合,φ=0.00495となる。K値は,{hkl}面の面間隔の逆数に相当するので,bcc鉄の格子定数(0.2864 nm)から次式で求めることができる。

  
K[nm1]=(h2+k2+l2)1/2/0.2864(14)

コントラストファクターCについてはパラメーターSに依存して変化し,S=0,S=1の場合にはそれぞれΓの関数として次式で与えられる。

  
C=0.264×(11.398Γ)foredgedislocation(S=0)(15)
  
C=0.309×(12.653Γ)forscrewdislocation(S=1)(16)

代表例として,ρ=1×1015/m2(φ=0.00495)として計算した結果をTable 2に示す。また,S=0ならびにS=1として得られた結果に関するWHプロットをFig.13の(a)に示す。S値が大きいほどC値の結晶方位異方性が大きいため,(ΔK-α)値のばらつきが大きくなる。また,DF法を適用して補正したWHプロットを図(b)に示す。同じ転位密度であるにも関わらず,ε値に対応する直線の傾きは,らせん転位より刃状転位の方が大きい。その理由については,転位が有する弾性ひずみの違いで説明できる。転位のひずみエネルギーは,次式で与えられる線張力係数Tに比例することが知られている。

  
T={ln(r/r0)}/(4πk)(17)
Table 2. Theoretically introduced values of K and ΔK for bcc-Fe. Here, dislocation density was given at 1×1015/m2. (φ=0.00495)
hklΓK (nm–1)S=0 (Edge dislocation)S=1 (Screw dislocation)
CΔK-α (nm–1)CΔK-α (nm–1)
1101/44.940.1720.01010.1040.0079
20006.980.2640.01780.3090.0192
2111/48.550.1720.01760.1040.0137
2201/49.880.1720.02030.1040.0158
3100.0911.040.2310.02630.2350.0265
2221/312.100.1410.02250.0360.0113
Fig. 13.

Williamson-Hall plots of the data in Table 2; original plots (a) and corrected plots (b).

rは転位の応力場の半径,r0は転位芯の半径,kは転位の性質に依存した定数で,らせん転位については1,刃状転位については(1−ポアソン比)で与えられる。鉄のポアソン比は約0.3なので,刃状転位についてはk≅0.7となる。混合転位については,S値に対応して0.7~1の値をとる。つまり転位が有する弾性ひずみは,らせん転位が最小で,転位の刃状成分が多くなるにつれて大きくなると考えられる。そのため,同じ転位密度であっても,直線の傾きは,らせん転位より刃状転位の方が大きくなったと理解できる。

さらに,転位密度が様々に異なる場合について同様な計算をすることで,φ値とε値の関係を系統的に求めることができる。計算過程は省略するが,得られた結果をFig.14にまとめて示す。図中には実験で得られた結果も示している。パラメーターSの大小によって相関係数は異なるが,パラメーターφεの間には下記のような直線関係が成立する。

  
ε=0.408×φfor edge dislocation(S=0)(18)
  
ε=0.286×φfor screw dislocation(S=1)(19)
Fig. 14.

Relation between the parameter ε and parameter φ in iron.

εφの相関係数は,刃状転位の方が約1.43倍(=0.408/0.286)大きな値となっており,この値は,転位の線張力係数比1.43(=1/0.7)に一致している。また,冷延材については,加工率の増加とともにS値が小さくなることを前掲Fig.8において述べたが,図中の実験値は,加工が進むにつれてデータがらせん転位の直線から刃状転位の直線に向かって移行していく様子を示している。つまり,実験データについてεφの間に直線関係が成り立たないのは,集合組織の影響ではなく,加工率に依存してS値が変化したためと結論できる。

一方で,Fig.15は,任意のSを与えて上記の理論計算でDF法による補正を行ったときに得られたパラメーターωh00S値の関係を示している(図中実線)。転位密度に1×1014/m2または1×1015/m2を代入してそれぞれ計算を行ったが,転位密度とは無関係に,パラメーターωh00Sの関係は次式で表される一義的な相関性があることを確認した。

  
S=1.16+1.46ωh003.71ωh002(20)
Fig. 15.

Relation between parameter ωh00 and S. Theoretical calculation was performed for the dislocation density 1×1014/m2 and 1×1015/m2.

図中には実験で得られた結果(図中黒丸)も示しているが,実験値と理論計算で得られた式(20)で与えられる曲線がよく一致していることが分かる。

前掲Fig.12の結果からわかるように,40%以上の圧延を施した試料については加工集合組織がかなり発達しているものと推察される。それにも関わらず,Fig.14ならびにFig.15に示した結果については集合組織の影響がほとんど見られず,実験値と計算値がよく一致している。もし,DF法やmWH法による転位解析において集合組織の影響があったとすれば,これほど正確に実験値と計算値が一致することはないと思われる。これまで,X線や中性子線を利用した転位解析に関して,集合組織が及ぼす影響が検討された例はほとんどないが,少なくともDF法とmWH法による転位解析においては,集合組織の影響はほとんどないと考えてよいであろう。

4. 結論

冷間加工したフェライト鋼を対象として,direct fitting(DF)法とmodified Williamson-Hall(mWH)法で得られる各種パラメーターの相関性を調査し,以下の結論を得た。

(1)Williamson-Hallの式におけるパラメーターαについては,DF法とmWH法の両者でほぼ同じ値が得られた。

(2)DF法で得られるパラメーターεについては,同じ転位密度であっても転位の性質によってその値が変化し,らせん成分の割合(S)が小さいほどε値は大きくなる傾向にある。しかし,S値が一定の場合,mWH法で得られるパラメーターεφの間には直線的な相関性がある。

(3)DF法で得られるパラメーターωh00とmWH法で得られるパラメーターSの間には,転位密度とは無関係に,次式で与えられる一義的な対応関係がある。

  
S=1.16+1.46ωh003.71ωh002

また,DF法ならびにmWH法による転位解析については,加工集合組織の影響をほとんど受けないことを確認した。

謝辞

本研究は,JSPS科研費JP15H05768の支援を受けて行われたものである。なお,研究の一部は,日本鉄鋼協会「鉄鋼のミクロ組織要素と特性の量子線解析研究会」のもとで実施された。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top