Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Improvement of Rigidity of Super Invar Cast Steel via Austenite Recrystallization Induced by Martensitic Reversion
Naoki Sakaguchi Kotaro OnaRui BaoNobuo Nakada
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2019 Volume 105 Issue 6 Pages 629-635

Details
Synopsis:

Super invar cast steel, 32 mass%Ni-5 mass%Co, with an excellent low thermal expansion coefficient exhibits very low Young’s modulus due to a course solidified columnar structure with <100> austenite texture. For the improvement of the low Young’s modulus, a novel heat treatment consisted of subzero treatment and subsequent annealing was applied to stimulate microstructure evolution accompanied with texture variation. Lenticular martensite preferentially formed along a dendrite structure with lower Ni concentration after subzero treatment at liquid nitrogen temperature and then reversed into austenite again by the subsequent annealing above 873 K via diffusionless shear mechanism, that is, martensitic reversion took place. Since the martensitic reversion realizes a crystallographic reversibility, the course columnar structure at initial state was reconstructed after the completion of reversion. Furthermore, the course structure formed via martensitic reversion recrystallized to equiaxed fine-grained structure when the annealing temperature became higher, because high density dislocations in martensitic reversed austenite caused by the invariant lattice deformation on two directional martensitic transformations drives the austenite recrystallization. The recrystallization leads to the formation of fine-grained austenitic structure with random orientation, and as a result, Young’s modulus of super invar cast steel was improved to be as high as the forged one without any plastic deformation process.

1. 緒言

インバー合金(Fe-36%Ni)ならびにスーパーインバー合金(Fe-32%Ni-5%Co)は,熱膨張係数が極めて小さく,精緻な寸法公差が求められる精密機器部材に広く使用されている(以下,%=mass%)。中でも半導体露光装置や液晶露光装置は,ナノメートルスケールでの超精密な加工精度が要求されており,使用環境によって生じる装置機構のわずかなブレを抑制するために構造体の骨格にスーパーインバー合金が適用される。近年では,露光装置の更なる高精度化および生産性のスループット向上を目指した構造体の大型化が加速しており,リブ構造を多用した複雑かつ大型形状の成型が可能な鋳鋼品の需要が高まっている。ただし,鋳鋼品に形成する凝固組織に起因した顕著な集合組織がスーパーインバー合金の新たな課題となっている。スーパーインバー合金は,多量のNiを含有しており本質的にヤング率が低い1)。加えて,凝固によって形成する柱状晶組織はヤング率が小さい〈100〉集合組織24)を発達させる。このように,スーパーインバー鋳鋼は低ヤング率という構造物として大きな欠点を抱えている。

集合組織を解消する冶金的手段として,再結晶または相変態の利用が挙げられる。ただし,再結晶のためには一般的に十分な加工度の塑性加工が必要なため,再結晶法を鋳鋼品に適用することは実質的に不可能である。一方で,相変態によりオーステナイト集合組織を解消するためには,一旦,fcc-bcc変態を生じさせた後,bcc-fcc逆変態を発現させることでオーステナイト組織を復元するとともに結晶方位のランダム化を図る必要がある。Tomimuraら5)は,準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるFe-18%Cr-9%Ni合金を用いて,室温での強冷間圧延によってfcc-bcc加工誘起マルテンサイト変態を強制的に発現させた後,700°C程度で短時間焼鈍することでマルテンサイトからオーステナイトへのbcc-fcc逆変態が生じ,超微細粒オーステナイト組織が形成されることを報告している。ただし,この手法においてもfcc-bccマルテンサイト変態を誘起するための塑性加工が必要となる。これに対して,Kraussや他の研究者69)は機械的な安定性が比較的高く,加工誘起マルテンサイト変態し難いFe-(25~33)%Niオーステナイト合金であっても,液体窒素を用いたサブゼロ処理によって,オーステナイト組織の一部がfcc-bccマルテンサイト変態し,その後の焼鈍処理によってサブゼロ処理で生成したマルテンサイトがオーステナイトへと逆変態することを報告している。ただし,この合金系で生じるbcc-fcc逆変態はマルテンサイト変態により進行する(マルテンサイト逆変態)。マルテンサイト変態は,原子の無拡散かつせん断運動によって結晶構造が変化する相変態であり,fcc-bccマルテンサイト変態ならびにbcc-fccマルテンサイト逆変態が生じた場合,結晶方位の可逆的な変化が生じることで,結果として,元のオーステナイト組織が復元することが報告されている。つまり,サブゼロ処理とその後の焼鈍処理によって相変態を生じさせたとしても,スーパーインバー鋳鋼に形成した凝固集合組織は解消できないと考えられる。

一方で,bcc-fccマルテンサイト逆変態はインバー合金のみならず,マルエージング鋼などの高合金鋼でも発現することが知られている10,11)。マルエージング鋼はインバー合金と同様に多量のNiを含有したマルテンサイト鋼であり,bcc-fccマルテンサイト逆変態を活用することで優れた強靭鋼となる。つまり,bcc-fccマルテンサイト逆変態によって生成した高密度の転位を含有したオーステナイトを焼入れることで,オースフォームと同様の効果によって強靭なマルテンサイトを得ることが出来る。このような強靭化熱処理をマルエージング鋼の未再結晶溶体化処理と呼ぶ。ところが,この高密度の転位を含有した逆変態オーステナイトを高温かつ長時間保持すると,オーステナイトの再結晶が生じ11),オースフォーム効果が失われることで焼入れたマルテンサイトの靭性が低下するのである(再結晶溶体化処理)。このようなマルテンサイト逆変態に誘起されるオーステナイトの再結晶現象を利用することが出来れば,熱処理のみでスーパーインバー鋳鋼の凝固集合組織を解消し,剛性率を改善できる可能性がある。

そこで,本研究では塑性加工を必要としないスーパーインバー鋳鋼の剛性率改善手法の開発を目的として,サブゼロ処理によるfcc-bccマルテンサイト変態ならびにその後の焼鈍によるbcc-fccマルテンサイト逆変態とこれに誘起された再結晶に伴う組織変化を調査した。そして,これらの組織変化によるヤング率の改善効果を検証した。

2. 実験方法

本研究では,Table 1に示す化学組成を有するスーパーインバー合金を供試材として用いた。試料は30 kg大気高周波溶解炉を用いて溶解し,1723 Kまで徐冷した後,Y型試験片(JIS G 0307)の砂型に鋳込むことで作製した。得られた鋼塊の中心部からφ5.0×20 mm3の円柱試験片を採取し,NETZECH製DIL-402C熱膨張測定機を用いて変態点を測定したところ,冷却によって生じるfcc-bccマルテンサイト変態の開始温度:Ms点は211 K,その後の焼鈍によって生じるbcc-fccマルテンサイト逆変態の開始温度:As点と終了温度:Af点はそれぞれ733 Kと853 Kであった。Fig.1に示すように,このY型鋼塊より7.0×16×125 mm3の試験片を採取した後(as-cast材),77 Kにて3.6 ks保持するサブゼロ処理を行った(サブゼロ材)。その後,Af点直上である873 Kおよび1103 Kにて7.2 ks保持し水冷する焼鈍処理を行った(873 K,1103 K焼鈍材)。以上の熱処理工程をFig.2にまとめる。組織観察は,光学顕微鏡によって実施した。Fig.1に示す観察方向と直交する面を切断し,エメリー紙#1200までの研磨ならびにダイヤモンド遊離砥粒を用いたバフ研磨にて観察面を鏡面に仕上げた後,マーブル液(Cu2SO45H2O:HCl:H2O=10 g:50 ml:50 ml)にて室温で20 s腐食した試料を光学顕微鏡(OLYMPUS製DP20)によって観察した。そして,平均結晶粒径は,得られた光顕組織に対して,JIS G 0551に準じた求積法を適用することで測定した。凝固組織中のミクロ偏析は,電子線マイクロアナライザー(EPMA:日本電子製JXA-8100)を用いて分析した。光学顕微鏡用の試料に対して,加速電圧15 kV,測定間隔2.0 μmで線分析を実施した。ヤング率は,共振法によって測定した。Fig.1の破線矢印方向に沿った試験片長手方向に縦振動を発生させ,小野精機製オシロスコープにて共振周波数λ(Hz)を測定した。得られたλより下記の式にてヤング率E(Pa)を算出した。

  
E=0.9467×(Lh)3×(Mw)×λ2
Table 1. Chemical composition of a super invar alloy used in this study (mass%).
CSiMnPSNiCoFe
material0.0080.120.270.0040.00331.985.70Bal.
Fig. 1.

The position of plate sample cut from a cast steel with Y shape.

Fig. 2.

Heat treatment pattern to stimulate martensite transformation and subsequent martensite reverse transformation.

ここで,LhwMは,試験片の長さ(m),厚み(m),幅(m),質量(kg)を示す。また,集合組織は,X線回折法によって評価した。それぞれの供試材の中心部から16×25×3.0 mm3の小片試験片を切り出し,Fig.1の破線矢印と直交する面に対して光学顕微鏡試料と同様の鏡面研磨後,電解研磨を実施し,X線回折の試験片とした。X線回折装置はCoKαを線源とするRIGAKU製RINT-2500Hを使用し,30 kV-100 mAの条件で2θを45~130 deg.の範囲にて研磨面における集合組織解析を行い,配向指数により結晶方位性の評価とした。

3. 実験結果および考察

3・1 ミクロ偏析に起因した不均一なマルテンサイト変態

Fig.3は,(a)as-cast材ならびに(b)サブゼロ材の光顕組織を示す。高濃度のNiを含有した本鋼種では,凝固時に形成したオーステナイト相が室温まで残存するため,as-cast材(a)では,結晶粒が肉眼で確認できるほど粗大なオーステナイト柱状晶組織が形成した。一方で,サブゼロ材(b)では,Ms点以下まで冷却された結果,オーステナイトの一部がマルテンサイト変態し,レンズマルテンサイトと未変態オーステナイトの混合組織を呈していた。より広範囲の組織観察結果に対して画像解析を行ったところ,マルテンサイトの面積率は約70%であったが,その分布は特徴的であった。一般的にレンズマルテンサイトは,ひとつのオーステナイト粒の端から端へと粗大な一次プレートが成長した後,これらの一次プレートの間を埋めるように微細な二次プレートが発達する12)。ところが,サブゼロ材(b)に発達したレンズマルテンサイトとオーステナイト粒界の対応をスケッチしたところ(図(c)),オーステナイト粒とは無関係にレンズマルテンサイトが発達していることがわかる。これは,鋳鋼品に発達するミクロ偏析がマルテンサイト変態に大きな影響を与えることを示唆するため,EPMAによる元素分析を行った。Fig.4は,レンズマルテンサイトと未変態オーステナイトをより識別し易くするように腐食して観察した(a)光顕組織ならびに(b)Ni濃度の線分析結果を示す。なお,線分析(b)の測定域は,(a)中の黒実線に一致し,未変態オーステナイトに対応する領域をハッチングで表示している。レンズマルテンサイトは孤立して生成し,その隙間を縫うように網目状に未変態オーステナイトが存在している様子が観察できる(a)。鋼中の固溶Ni濃度は,場所に依存して大きく変化し,およそ30~34%Niの範囲でミクロ偏析していることがわかった(b)。そして,未変態オーステナイト中のNi濃度は高くなっており,ミクロ偏析によって濃化したNiが局所的にMs点を低下させることで,オーステナイトを安定化させたと理解できる。レンズマルテンサイト/未変態オーステナイト界面でのNi濃度に注目すると,いずれにおいても約32.7%Niであり,Ms点を77 Kまで低下させるには,この程度のNi濃化が必要であると考えられる。なお,Coのミクロ偏析はほとんど確認されなかった。

Fig. 3.

Optical microstructure of (a) as-cast and (b) subzero treated materials. Schematic illustration (c) showing the distributions of lenticular martensite and austenite grain boundaries. (Online version in color.)

Fig. 4.

Ni concentration profile in subzero treated material. Analyzed line (b) corresponds to the black arrow shown in (a).

3・2 オーステナイト組織に及ぼす焼鈍温度の影響

Fig.5は,(a)873 Kおよび(b)1103 K焼鈍材の光顕組織を示す。Af点以上に加熱することでサブゼロ処理によって形成した全てのレンズマルテンサイトはオーステナイトへと逆変態し,再びオーステナイト単相組織となる。実際,X線回折でも,両試料ともオーステナイト単相であることが確認された。ただし,その組織は焼鈍温度によって大きく異なる。873 K焼鈍材(a)は,as-cast材(Fig.3(a))に類似した粗大なオーステナイト組織を有しており,fcc-bccマルテンサイト変態ならびにその後のbcc-fccマルテンサイト逆変態によって粗大なオーステナイト柱状晶組織が復元されたことがわかる。しかしながら,その組織中には,逆変態前に存在していたレンズマルテンサイトの痕跡が観察される。Krauss6)ならびにMakiら13)は,Fe-高Ni合金においてbcc-fccマルテンサイト逆変態が発現する場合,同様の痕跡(ghost image)が形成することを報告している。そして,著者らの一人は,復元したオーステナイト組織の中で,レンズマルテンサイトの痕跡が確認される理由について,逆変態オーステナイト中には多量の転位が含有されており,この高密度転位によって未変態オーステナイトと腐食の程度が異なることを指摘している13,14)。その一方で1103 K焼鈍材(b)では,873 K焼鈍材(a)で確認された粗大オーステナイト粒は観察されず,オーステナイトが微細化していること,また,ghost imageが消失していることがわかる。つまり,マルテンサイト逆変態によって形成したオーステナイトが再結晶によって微細化することが明らかとなった。

Fig. 5.

Optical images of austenitic structure in (a) 873 K and (b) 1103 K annealed materials. (Online version in color.)

一方で,Makiら13)もマルテンサイト逆変態に誘起されるオーステナイト再結晶を調査し,再結晶の発現を確認しているが,これによる微細化効果は小さいと結論している。その理由として,再結晶が初期オーステナイト粒界に優先して生じ,その数密度が小さいためと述べている。再結晶は転位を駆動力として生じるため,本プロセスにおける再結晶は,未変態オーステナイト(低転位密度)/逆変態オーステナイト(高転位密度)の境界で生じると考えられる。ところが,Makiらが実験に用いたFe-33%Ni合金では,サブゼロ処理によって体積率85%ものマルテンサイトが生成するため,逆変態後,再結晶の優先サイトが少なく,初期オーステナイト粒界のみに限定されてしまう。これに対して,本研究で用いた鋳鋼材では,ミクロ偏析に起因してレンズマルテンサイトが生成するため,未変態オーステナイト/レンズマルテンサイト境界はオーステナイト粒内に形成され,その密度は比較的高い(Fig.3(b, c)およびFig.4(a))。そのため,逆変態後,再結晶粒が高密度に分散したため,再結晶終了後のオーステナイト粒が微細になったと考えられる。実際,中間温度である973 Kで7.2 ks焼鈍処理を行った試料を観察したところ(Fig.6),矢印で示すように,初期オーステナイト粒内から再結晶オーステナイト粒が形成する様子が観察された。

Fig. 6.

Optical microstructure of partially recrystallized austenite in 973 K annealed material. (Online version in color.)

以上の結果をもとに,サブゼロ処理とその後の焼鈍処理によるスーパーインバー鋳鋼のオーステナイト粒微細化プロセスを模式的にFig.7にまとめる。前述したように再結晶粒を高密度に形成させるためには,体積率に加えて,ミクロ偏析に起因したレンズマルテンサイトの不均一な分布が重要な因子になると推察され,これらの効果に関するさらなる調査が必要になるであろう。

Fig. 7.

Schematic illustration showing microstructure evolution through subzero treatment and subsequent annealing.

このオーステナイト再結晶プロセスによるマクロな組織変化の一例として,(a)as-cast材および(b)1103 K焼鈍材における試験片全体の光顕組織をFig.8に示す。凝固によって形成した粗大なオーステナイト柱状晶組織(a)は,再結晶によって微細かつ均質なオーステナイト組織(b)となることが確認できる。それぞれの平均結晶粒径は,1670 μmおよび101 μmであり,本プロセスは加工を必要とせず,オーステナイト粒径を1/10以下にできる非常に有用な微細化法であると結論づけることができる。

Fig. 8.

Macroscopic optical microstructure of austenite in (a) as-cast and (b) 1103 K annealed materials. (Online version in color.)

3・3 集合組織に及ぼすヤング率の影響

Table 2はX線回折で測定したas-cast材,1103 K焼鈍材および鍛鋼品の結晶方位の配向指数を示す。粗大な柱状晶であるas-cast材では,顕著な(200)集合組織が確認された。ところが1103 K焼鈍材は,(200)以外にも(111),(220)や(311)が強く観察され,再結晶によりオーステナイトの結晶方位がランダム化したと理解できる。Table 3はas-cast材,1103 K焼鈍材および鍛鋼品のヤング率の結果を示す。鍛鋼品は,1423 Kにて熱間鍛造を3パス実施し断面減少率94%とした後,1103 Kで7.2 ks保持した後に水冷したものである。(200)配向が強いas-cast材のヤング率が118 GPaと極めて低いのに対して,結晶方位がランダム化した1103 K焼鈍材は,134 GPaの高いヤング率を示す。Masumotoら2)は,単結晶のスーパーインバー合金を作製し,そのヤング率の結晶方位依存性を調査した結果,(111)や(220)に比べて,(200)に配向した場合にヤング率が低く,58 GPa程度にまで減少することを報告している。つまり,as-cast材に見られる,ヤング率が低い(200)集合組織が,再結晶により解消された結果,スーパーインバー鋳鋼のヤング率が改善できることが明らかとなった。なお,1103 K焼鈍材のヤング率は,鍛鋼品に近い値となっており,本プロセスが極めて有用なヤング率改善法であることもわかる。

Table 2. Orientation index by XRD analysis in as-cast, 1103 K annealed, and forged materials.
Crystal planeγ-Fe
(111)(200)(220)(311)(222)
2θ [deg]50.959.689.5111.4119.2
as-cast material4.420.03
1103 K annealed material0.840.831.851.350.18
forged material1.021.530.521.180.29
Table 3. Result of Young’s modulus in as-cast, 1103 K annealed, and forged materials.
Y blockforged material
as-cast material1103 K annealed material
Young’s modulus (GPa)118134135

Fig.9は,スーパーインバー鋳鋼のヤング率に及ぼすサブゼロ処理後の焼鈍温度の影響を示す。Af点直上の逆変態オーステナイトが存在する温度域では,ヤング率はas-cast材と大きな変化がないが,約950 K以上でヤング率が急激に改善する。Fig.6で示したように973 Kでは再結晶の初期結晶粒が観察されており,再結晶により結晶方位のランダム化が始まったことに対応する。その後,1103 K以上ではヤング率は一定となる。つまり,再結晶が完了した後,さらなる焼鈍温度の上昇は,再結晶オーステナイト組織の粗大化を招くものの,結晶方位やヤング率の変化は小さいことがわかる。

Fig. 9.

Change in Young’s modulus of super invar cast steel as a function of annealing temperature after subzero treatment.

本試験片の他に,より大型の鋳鋼品に対しても同様の評価を行っており,組織の微細化・ヤング率の改善が確認できた。しかし鋳鋼品の偏析はその形状,凝固条件などで大きく変化する可能性がある。偏析の程度によって,サブゼロ処理によるマルテンサイトの変態量が変化すると考えられ,マルテンサイト量とヤング率の関係などの研究が必要であり,今後の課題である。さらに,逆変態オーステナイトの再結晶は,冷間加工によって生じる核生成・成長型の再結晶とは異なり,バルジ型再結晶13,15,16)によって進行すると予想される。そのため,このバルジ型再結晶によって結晶方位がランダム化するメカニズムにもより詳細な調査が必要となる。

4. 結言

スーパーインバー鋳鋼の低ヤング率改善を目指して,マルテンサイト逆変態とこれに誘起される再結晶に伴う組織変化ならびにヤング率の変化を検討し,次のような結論を得た。

(1)Niのミクロ偏析に起因して,鋳鋼には大きなNi濃度分布が存在する。そのため,サブゼロ処理で生成するレンズマルテンサイトは,オースナイト組織とは無関係にNi濃度の低いデンドライト部で優先的に生成する。

(2)マルテンサイト逆変態完了温度直上で焼鈍した場合,凝固組織と同様に粗大な柱状晶オーステナイト組織が復元される。

(3)焼鈍温度を高くすることで,逆変態オーステナイト中の高密度転位を駆動力としてオーステナイトの再結晶が生じる。とくに,オーステナイトの再結晶は,逆変態オーステナイト/未変態オーステナイト界面で生じる。

(4)オーステナイト再結晶により,凝固組織の集合組織が解消され,結晶方位がランダム化する。これに伴い,スーパーインバー鋳鋼のヤング率は鍛造品と同等まで改善する。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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