Tetsu-to-Hagane
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Formation of Fe2Al5 Phase Layer on Fe-Si Alloy Sheets Hot-Dipped in Zn-0.2Al Alloy Melt
Naoki Takata Kunihisa HayanoAsuka SuzukiMakoto Kobashi
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2019 Volume 105 Issue 7 Pages 701-708

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Synopsis:

We have characterized η-Fe2Al5 phase layers formed on Fe-Si binary alloys (pure Fe, Fe-0.2Si and Fe-1Si (wt%)) hot-dipped in a Zn-0.2Al (wt%) alloy melt at 460ºC for various times ranging from 2 to 3600 s. The Al addition in the Zn melt suppressed the interfacial reaction between liquid Zn and α-Fe phase with Si in solution. At an early stage of dipping (less than 10 s), Fe dissolution into the Zn-0.2Al alloy melt occurs more significantly on the α-Fe phase with higher Si content. The thickness of Fe2Al5 phase layer becomes slightly larger on α-Fe phase with higher Si content. These indicates that solute Si in α-Fe phase could enhance the Fe dissolution providing the driving force for the formation of η phase in liquid Zn alloy, resulting in the enhanced formation of η phase layer. The thicker η phase layer formed on Fe-Si alloy sheets would play a role of diffusion barrier, resulting in the suppression of subsequent interfacial reactions even after 3600 s in dipping.

1. 緒言

現在,溶融亜鉛めっきおよび合金化溶融亜鉛めっきを用いた自動車用鋼鈑への表面処理技術は広く普及している1,2)。自動車鋼板用の溶融亜鉛めっきでは,一般に約0.2 wt%のアルミニウム(Al)を添加したZn-Al合金浴が用いられる1)。Al無添加の亜鉛浴に浸漬された鋼鈑の固液界面においてFe-Zn金属間化合物相が形成されるが,Zn-Al合金浴に浸漬された鋼鈑では層状のFe-Al金属間化合物相(主にFe2Al53))が形成する1)。この層状のFe-Al化合物相は脆性的であるが4),粗大なFe-Zn化合物相の形成を抑制する。そのため,鋼鈑上に均質な組織を有するめっき皮膜が形成される。溶融Zn-Al合金めっき鋼鈑では,鋼鈑/合金浴界面における局所的な合金化反応(outburst)に伴うFe-Zn化合物相の形成が一般に知られている1,5)。これは,長時間Zn-0.2Al合金浴に浸漬した純Feにおいても認められる6)。Outburstによる粗大なFe-Zn化合物相の形成はめっき皮膜の機械的性質に大きな影響を及ぼす。したがって,溶融Zn-Al合金と鋼鈑の固液界面反応,特にFe-Zn化合物形成を抑制するFe2Al5相の制御が重要と考えられる。

溶融亜鉛合金めっき処理はDP(Dual Phase)鋼に代表される高強度鋼板へ適応されており711),今後更なる高強度鋼に適用が拡大すると予想される。近年開発された高強度鋼にはC,Mn,Si等の合金元素添加が必須である。特に,鋼に添加したSiは鋼鈑と溶融亜鉛の固液界面反応を著しく促進することが報告されており1216),めっき皮膜やめっき密着性に大きな影響を及ぼす17)。しかし,自動車用鋼鈑等で広く用いられている溶融Zn-0.2Al(wt%)合金めっき処理における固液界面反応に及ぼす鋼のフェライト(α-Fe)相に固溶するSi元素の影響を検討した報告17)はほとんどない。特に,Fe-Si-Al3元系状態図18)は600°CにおけるFe2Al5相は数%のSiを固溶することを示し,Fe2Al5の形成および成長はα-Fe相中の固溶Si元素の影響を受けると推察される。

本研究では,実用で広く用いられている溶融Zn-0.2Al(wt%)合金めっきに着目し,溶融めっき処理に伴うα-Fe固相と溶融亜鉛合金の固液界面反応に及ぼす固溶Siの影響を理解するため,Fe-Si2元系合金をZn-0.2Al合金浴に異なる時間浸漬し,それらの合金/亜鉛合金めっき界面の詳細な組織観察を行った。得られた実験結果を基に,Fe-Zn-Al3元系計算状態図を用いてα-Fe固相と溶融Zn-0.2Al合金の界面反応過程とそれに及ぼすSi元素の影響を検討した。

2. 実験方法

本研究で用いた合金組成は純Fe,Fe-0.2Si,Fe-1Si(wt%)である。合金組成の分析値をTable 1に示す。溶製したFe-Si 2元系合金インゴットに熱間圧延および冷間圧延を施した厚さ約1 mmの板材(冷間圧延材)を試料として用いた。長さ200 mm,幅50 mm に切り出した試料表面に機械研削およびバフ研磨を施した。本研究における板材試料の亜鉛浴浸漬実験実験は,亜鉛めっきシミュレータ19)を用いた。試料をN2-15%H2雰囲気(露点約−45°C)にて850°C/60 s加熱・保持後,460°Cまで冷却し,460°Cに保持したZn-0.2Al(wt%)合金浴に2~3600 s浸漬させ,その後窒素を用いたガスワイピングを用いて急冷した。これらの温度履歴は,板材に溶接したK熱電対を用いて測定した。本溶融亜鉛浸漬中の板材試料の代表的な熱履歴は既報16)に詳細を示す。作製した試料の組織観察は,光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いた。元素分析は,エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy:EDS)を用いた。観察および分析時の加速電圧は15 kVである。亜鉛めっき/Fe-Si合金界面に形成するFe-Al金属間化合物相の同定には,電子線後方散乱回折(Electron Back-Scattered Diffraction:EBSD)法を用いた。EBSD検出器を搭載した電界放射型操作電子顕微鏡(Field Emission type Scanning Electron Microscope:FE-SEM)用いて,加速電圧20 kVの条件にてEBSDパターンを取得した。本研究では,Al-rich組成のFe-Al金属間化合物であるFeAl3相(単斜晶mS102構造,a=1.589 nm,b=0.808 nm,c=1.248 nm,β=107.72°)20)およびFe2Al5相(斜方晶oC24構造,a=0.766 nm,b=0.642 nm,c=0.422 nm)21)の結晶構造情報を基にEBSDパターンの解析を行った。なお,350°C以下の低温にてoC24構造を基とした長周期構造を有するη’-Fe3Al8相(mC44構造)22)の生成が近年報告されている。EBSDパターンによる両相の判別は困難であるため,本研究ではη’相(mC44構造)の同定は行わなかった。

Table 1. Compositions of the alloy studied (wt.%).
SiCMnPAlSNOFe
Pure Fe0.010.001<0.01<0.0010.0020.0010.00100.008bal.
Fe-0.2Si0.180.001<0.01<0.0010.0020.0010.00100.008bal.
Fe-1Si0.96<0.001<0.01<0.0010.0010.0010.00110.005bal.

本研究で亜鉛浴浸漬に伴うFe-Si合金板の板材の厚さ(tFe)変化を定量化する16,23)ため,亜鉛浴浸漬前の板材の厚さを測定した。浸漬後の板材の厚さは,SEM像を用いて測定した。これらの値を用いて,亜鉛浴浸漬後の合金板の厚さ変化(ΔtFe)を求めた。なお,亜鉛めっき皮膜の厚さ(tZn)はSEM像を用いて測定した。

3. 実験結果

3・1 Zn-0.2Al浴浸漬に伴うFe-Si合金板の厚さ変化

Fig.1(a)に,異なる時間Zn-0.2Al合金浴に浸漬したFe-1Si合金試料の概観を示す。亜鉛浴(Al無添加)に浸漬したFe-1Si合金試料の概観16)も,Fig.1(b)に併せて示す。Zn-Al合金浴に浸漬した試料は合金板のSi濃度に依らず比較的良好な亜鉛めっきが施され,不めっきの箇所はほとんど認められなかった。3600 s亜鉛浴(Al無添加)に浸漬したFe-1Si合金では厚さ数mmのめっきが観察されるが(Fig.1(b))16),Zn-Al合金浴に浸漬した試料では認められなかった(Fig.1(a))。これは,Zn浴へのAl添加はFe-Si合金の著しい界面反応(sandelin 現象13,14))を抑制することを示す。

Fig. 1.

(a) Appearances of Fe-1Si alloy sheets hot-dipped in Zn-0.2Al (wt%) alloy melt at 460ºC for various times ranging from 2 s to 3600 s, together with (b) those of samples hot-dipped in Zn melt15).

Fig.2に,2 s,600 sおよび3600 sの異なる時間Zn-0.2Al合金浴に浸漬した純Fe, Fe-0.2SiおよびFe-1Si試料断面の反射電子像(back-scattered electron image:BEI)を示す。2 sおよび600 s浸漬後,いずれの試料においても厚さ約20 μmのめっき皮膜が観察された(Fig.2(a-f))。3600 s浸漬した純Feにおいて厚さ約300 μmのめっき皮膜が形成するが(Fig.2(g)),Si添加した試料では観察されなかった(Fig.2(h, i))。また,3600 s浸漬した純Fe板材の厚さは数十μm減少した。これは,長時間浸漬に伴う純FeのZn-0.2Al合金浴への溶出を示す。亜鉛浴浸漬時間に伴う合金板の厚さの変化(ΔtFe)を,Fig.3に示す。いずれの合金板の厚さ(tFe)は亜鉛浴浸漬時間増加に伴い減少するが,その浸漬時間に伴う減少量は合金のSi濃度によって異なる。60 sまでの浸漬時間において純Fe板の厚さの変化はほとんど認められないが,600 s以降減少し,3600 s後約30 μm減少する。一方,Zn-0.2Al合金浴浸漬直後,Fe-0.2SiおよびFe-1Si板の厚さは約10 μm減少するが,その後の浸漬に伴う変化は少ない。したがって,純FeではZn-0.2Al合金浴の長時間浸漬後(600 s以上),顕著な溶出が起こるが,Fe-0.2SiおよびFe-1Siでは浸漬直後のみわずかな溶出が起こる。

Fig. 2.

BEIs of the cross-section of (a, d, g) pure Fe, (b, e, h) Fe-0.2Si and (c, f, i) Fe-1Si alloy sheets hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt for (a-c) 2 s, (d-f) 600 s and (g-i) 3600 s.

Fig. 3.

Variations of the difference in the thickness of Fe-Si alloy sheets hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt as a function of dipping time at 460ºC.

3・2 Fe-Si合金/亜鉛めっき界面のFe-Al金属間化合物相

Fig.4に,2 sおよび600 s亜鉛浴に浸漬した純Fe,Fe-0.2SiおよびFe-1Si試料の合金/めっき界面における組織のBEIを示す。いずれの試料において合金/めっき界面に厚さ約0.5 μmの層状のFe-Al金属間化合物相が形成する。その厚さは合金のSi濃度の増加によって増大するが,その形態は連続層から不連続層に変化する傾向にある(Fig.4(a, c, e))。すべての試料において浸漬時間増加に伴いFe-Al金属間化合物相の厚さは増大する。600 s浸漬後のFe-Al化合物相の厚さは不均一であり,最大で約2 μm程度である(Fig.4(b, d, f))。2 s浸漬したFe-0.2Si試料(Fig.4(c))において観察されたFe-Al金属間化合物から取得したEBSDパターンとその解析結果およびEDSによる元素分布図を,Fig.5に示す。Fe-Al金属間化合物相(Fig.5(a))から取得したパターン(Fig.5(b))は,η-Fe2Al5相(oC24構造)21)の電子線回折を基に指数付けしたもの(Fig.5(c))と良く一致する。解析ソフトウェアによるCI(confidential index)値24)は0.26であり,解析の高い信頼性を示す。また,EDSによる元素分析はFe-0.2Si合金/めっき界面にAl元素の濃化を示し(Fig.5(d-f)),これはFe-Al金属間化合物相に対応する。以上の結果は,本研究で観察されたFe-Al化合物相がη-Fe2Al5相であることを示す。これは,これまでの溶融Zn-0.2Al合金めっき鋼鈑の構造解析の結果25)と一致する。

Fig. 4.

BEIs showing the Fe-Al intermetallic layer formed on (a, b) pure Fe, (c, d) Fe-0.2Si and (e, f) Fe-1Si alloy sheets hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt for (a, c, e) 2 s and (b, d, f) 600 s.

Fig. 5.

(a) BEI showing the Fe-Al intermetallic layer formed on Fe-0.2Si alloy sheet hot-dipped in Zn-0.2Al alloy melt for 2 s, (b, c) electron back-scattered diffraction (EBSD) pattern obtained from the corresponding area in (a) and (d-f) corresponding EDS element maps.

Fig.6に,3600 s浸漬した純FeおよびFe-1Si試料における合金/めっき界面のBEIを示す。比較的顕著な溶出を示す(Fig.3)純Fe試料は,亜鉛めっきと湾曲した界面を持つ(Fig.6(a))。また,純Feとめっき界面にはFe2Al5相(η相)が観察されなかった(Fig.6(b))。一方,Fe-1Si試料は平滑な界面を呈し,連続層の形態を有するη相が観察された(Fig.6(c))。これらの結果は,長時間浸漬後,純Feではη相が消失し,Feの溶出が顕著に起こったことを示す。長時間浸漬に伴う顕著な界面反応の発生は,Kainumaらの結果6)と良く一致する。なお,これらの組織形態は試料全体で観察され,界面反応領域がFe-Si合金の結晶粒界等に局在する1,5)傾向は認められなかった。

Fig. 6.

BEIs showing (a, b) the interfacial microstructure of pure Fe sheet hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt for 3600 s and (c) the Fe-Al intermetallic layer formed on Fe-1Si alloy sheet hot-dipped for 3600 s.

Fig.7に,Zn-0.2Al合金浴浸漬に伴う層状のη-Fe2Al5相の厚さ(tη)の変化を示す。η相の厚さは浸漬時間に伴い増加する傾向が認められるが,その増加の傾きは約0.1以下と非常に小さい。またη相の厚さは不均一であるが,その平均厚さは試料のSi濃度増加に伴い増大する。3600 s浸漬したFe-1Si試料においてもη相の平均厚さは0.9 μm程度であった。本研究では,Fe-Si合金/めっき界面に形成するη相の界面を被覆する割合(被覆率)をSEM像を用いて定量化した。その結果をFig.8に示す。本研究で使用したSEM分解能を考慮し,厚さ50 nm以下と判断されるη相(tη<0.05 μm)は未被覆として測定した。2 s浸漬した純Feのη相の被覆率は100%であり,600 s浸漬後も変化しない。なお,3600 s浸漬後の試料においてη相は観察されなかったため(Fig.6(b)),未測定である。一方,Fe-0.2SiおよびFe-1Si試料におけるη相の被覆率は2 s浸漬後それぞれ92%および83%であるが,浸漬時間増加に伴い増大し,600 s後ほぼ100%に達する。したがって,Zn-0.2Al合金浴に浸漬したFe-Si合金上において比較的粗大なη相が浸漬直後不均一に形成するが,浸漬中の成長に伴いα-Fe固相/Zn-0.2Al合金液相界面を被覆する。

Fig. 7.

Change in the thickness of Fe2Al5 phase layer on Fe-Si alloy sheets hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt as a function of dipping time.

Fig. 8.

Change in the area fraction of Fe2Al5 phase layer on the surface of Fe-Si alloy sheets hot-dipped in the Zn-0.2Al alloy melt as a function of dipping time.

3・3 Fe-Al金属間化合物相の組成分析

Fig.9に,600 s 浸漬したFe-1Siに形成したη-Fe2Al5相のBEIとEDS分析による元素分布図を示す。厚さ約1.5 μmの層状のη相(Fig.9(a))から高濃度のAl元素が検出されるが(Fig.9(d)),Si元素の優先的な濃化は認められない(Fig.9(e))。η相内の組成を詳細に分析するため,めっき/Fe-1Si合金界面を横断する線分析(Fig.9(a)中に示す線)を行った。その結果を,Fig.10に示す。η相内のSi濃度はFe-Si合金側からZn合金めっき側にかけて減少する傾向にあることがわかった(Fig.10(c))。本組成分析にて用いた電子プローブ径(加速電圧15 kV)を考慮すると,分析結果の一部は隣接するα-Fe相やη-Zn相と重複した組成であると予想されるが,本分析結果はη相内にSi元素は濃化しないことを示す。なお,Zn合金めっき側に比較的高いFe濃度(約10%)を示す領域(Fig.10(b))は,δ-FeZn10相に対応すると考えられる。

Fig. 9.

(a) SEM image showing the Fe2Al5 phase layer on the Fe-1Si alloy sheet hot-dipped for 600 s and (b-e) corresponding element maps measured by EDS.

Fig. 10.

Concentration line profiles across the Fe2Al5 phase layer formed on Fe-1Si sheet dipped in the Zn-0.2Al alloy melt for 600 s. The measured location corresponds to the line indicated in Fig.9(a).

4. 考察

4・1 η-Fe2Al5相の形成に及ぼす固溶Siの影響

本研究は,460°CのZn-0.2Al合金浴浸漬に伴うFe-Si2元系合金のα-Fe固相とZn液相の界面反応(Fe/Zn固液界面)とそれに伴うη-Fe2Al5相の形成を調査した。Zn合金浴浸漬初期(10 s以下),Fe-Si合金の浴への溶出量はSi濃度の増加に伴い増大する(Fig.3)。この傾向は,純亜鉛浴浸漬の傾向15)とも一致する。また,層状のη-Fe2Al5相の厚さはSi濃度の増加に伴い増大し(Fig.7),α-Fe相に固溶するSiはη相の生成を促進すると考えられる。一方,Fe-Si合金上に形成するη相にはSi元素の優先的な分配は認められない(Fig.9Fig.10)。したがって,α-Fe相に固溶するSi元素がη相の核生成・成長を促進する効果は小さいと推察される。以上の結果を基に,α-Fe固相とZn-0.2Al液相の界面反応に伴うη相の形成とそれに及ぼす固溶Siの影響をFe-Zn-Al3元系の熱力学計算26,27)を用いて検討する。

Fig.11に既報の熱力学データベース26)を用いて作成したFe-Zn-Al三元系状態図のZn-rich領域を示す。再現した相領域は,実験により同定されたもの28)と良い一致を示す。η-Fe2Al5相は99 at%以上のZn-rich領域においても平衡相として存在し,η相/液相の二相域,η相/液相/δ-FeZn1029)の3相域を形成する。Zn-0.5 at%Al(Zn-0.2 wt%Al)液相は,Zn-Al 2元系において液相単相であるが,0.1 at.%のFe含むとη相/液相の二相域に遷移する。これは,純Fe(Fe-Si合金)の溶出が過飽和なFeを含むZn-Al液相を生み出し,液相からη相を晶出させることを示す。本実験から,Fe-Si合金板の浴への溶出量はSi濃度の増加に伴い増大し(Fig.3),η相の厚さが増大する(Fig.7)ことを明らかにした。したがって,α-Fe相中のSi元素はFeの溶出を促進し,Feの過飽和度を増大させるため,η相の生成を促進すると考えられる。

Fig. 11.

Isothermal section at 460ºC in a Zn-rich portion of a Fe-Zn-Al ternary system calculated utilizing the reported thermodynamic database23). (Online version in color.)

以上の考察を基に作成したSiを固溶するα-Fe相とZn-0.2Al合金浴の界面におけるη相の形成過程の模式図をFig.12に示す。浸漬直後,溶出したFeを含むZn-0.2Al液相(Fig.12(a))からη相がα-Fe相近傍に晶出し,η相の連続層が形成する(Fig.12(b))。0.3 at%以上のFeがZn-Al液相中に溶出した場合,液相組成はη相/液相/δ相の3相平衡となる(Fe溶出によるZn合金浴の組成変化はFig.11中の矢印方向に対応する)ため,η相に続いてδ相が生成すると予測される(Fig.12(c))。η相の連続層はFe拡散の障壁として作用し,その後のFe-Zn金属間化合物相の形成を著しく遅滞させる1,4)と考えられる。長時間浸漬後純Feの試料ではη相が消失し(Fig.6(a, b)),δ相の形成に伴う固液界面反応が起こる6)と推察される。一方, α-Fe相に固溶したSiは浸漬直後のFe溶出を促進するため(Fig.12(d)),比較的粗大なη相がα-Fe相近傍に晶出する(Fig.12(e))。η相は浸漬直後局所的に生成すると推察されるため,固液界面を完全に被覆しない(Fig.8)。η相は浸漬中に成長し,不連続膜から連続膜形態に変化し,固液界面を完全に被覆する(Fig.8)と考えられる。Fe-Si合金上に形成するη相は純Feのものより厚いため(Fig.7),より顕著なFe拡散の障壁として作用する(Fig.12(f))。そのため,長時間浸漬後もη相の連続層は安定に存在(Fig.6(c)),溶出等の界面反応を抑制したと考えられる。なお,浸漬直後において固溶Siが促進するFe溶出(過飽和なFeの増加)に起因するδ相の生成が状態図から予測されるが(Fig.11),本研究では2 s浸漬後のZn-Al合金めっき内部においてδ相は観察されなかった(Fig.4)。したがって,Feの溶出量はSEM分解能で検出可能な粗大なδ相を生成するほど高くないと推察される。

Fig. 12.

Schematics showing the interfacial reaction between Zn-0.2Al alloy melt and solid α-Fe phases: (a-d) pure Fe, (e-h) Fe-1Si alloy. (Online version in color.)

しかしながら,α-Fe相中の固溶SiがZn-Al合金浴へのFeの溶出を促進する主要因は現状不明である。この結果は純Zn浴でも確認されている15,16)。本要因の解明には,溶出の駆動力として作用するZn液相のFeの溶解度とそのSi量に伴う変化を今後詳細に調べる必要があると考えられる。

4・2 溶融アルミニウムめっき鋼板に形成するη-Fe2Al5相との相違

一般に,粗大なη-Fe2Al5相は溶融アルミニウム(Al)めっき鋼鈑(Al液相/Fe固相界面)に形成し3,30),溶融AlへのSi添加はη相の成長を抑制する3,23,31)。これらの理解は,α-Fe相における固溶Siによるη相の生成を促進する本研究結果と異なる。この相違は,溶融Al合金とZn-Al合金におけるη相の生成機構の違いに起因すると考えられる。溶融AlへのSi添加によるη相成長の抑制は,oC24構造における低い占有率を持つAl副格子へのSi原子の置換に起因する原子拡散の遅滞3,32,33)や液相側に存在するAl-richなFeAl3相のSi固溶による形態変化(連続膜形態変化に伴いFeAl3相が拡散障壁として作用する)23)に起因すると考えられている。これらの要因は,Si元素によるη相生成・成長に要する拡散の遅滞に対応する。一方,Zn-0.2Al合金浴におけるη相の生成は過飽和なFeを含むZn合金浴中からの晶出に起因し(Fig.11),固溶SiはFeの溶出量を促進する(Fig.3)。これは,Si元素によるη相の生成に要する駆動力の増加を意味する。したがって,溶融AlめっきにおけるSi添加はη相成長の速度論(拡散の遅滞)に影響を及ぼし,溶融Zn-Al合金めっきにおけるSi添加はη相生成の駆動力(液相中のFeの過飽和度の増加)に影響を及ぼす。これらのSi元素の影響の相違が,溶融AlめっきとZn-Al合金めっきにおけるη相の生成および成長の相違に起因すると考えられる。

5. 結言

本研究では,460°Cにおいて異なる時間Zn-0.2Al合金浴に浸漬したFe-Si2元系合金の組織解析を行い,Fe-Zn-Al3元系状態図を基にSiを固溶したα-Fe固相とZn-0.2Al液相に形成するFe-Al金属間化合物の形成とそれに伴う界面反応を検討した結果,以下の結論を得た。

(1)600 s以上の長時間亜鉛浴に浸漬したFe-1Si合金に形成する著しく厚いめっき16)は,Zn-0.2Al合金浴浸漬した試料では観察されなかった。これは,Zn浴へのAl添加はα-Fe相に固溶するSiにより促進される界面反応を抑制することを示す。

(2)Zn合金浴浸漬初期(10 s以下),Fe-Si合金板の浴への溶出量はSi濃度の増加に伴い増大する。α-Fe相/Zn-0.2Al合金液相の界面には層状のη-Fe2Al5相が形成し,その厚さはSi濃度の増加に伴い増大する。また,Fe-Si合金上に形成するη相にはSi元素の優先的な分配は認められなかった。

(3)長時間浸漬後(3600 s),純FeとZn-0.2Al合金浴界面のη相は消失し,溶出等の界面反応が起こる。一方,Fe-Si合金上には層状のη相が安定に存在した。

(4)α-Fe相に固溶したSiは浸漬直後の溶出を促進し,α-Fe相近傍に晶出するη相の生成を促進する。その形態は不均一であるが,浸漬時における成長に伴いη相の連続層が形成する。Fe-Si合金上に形成するη相の連続層は長時間浸漬後も安定に存在し,溶出等の界面反応を抑制すると考えられる。

謝辞

本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会研究会II「高機能溶融亜鉛めっき皮膜創成とナノ解析」(2016~2019)にて活動した成果である。本研究の亜鉛浴浸漬実験は,新日鐵住金(株)竹林浩史博士の協力によるものである。また,熱力学計算は(株)材料設計技術研究所橋本清氏にご協力頂いた。ここに特記して謝意を表す。

文献
 
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