鉄と鋼
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論文
Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板の切断端面における防食機構
鈴木 優貴 山口 伸一松本 雅充武藤 泉
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2019 年 105 巻 7 号 p. 752-758

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Synopsis:

Zinc and zinc alloy coated steel is widely utilized for home appliance, construction, automobile, and so on for its high corrosion resistance. In this work, corrosion behavior at cut edges of Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si alloy coated steel sheets (SD) was investigated with cyclic wet-dry corrosion test. The result showed that SD have the superior anti-corrosive property to zinc coated steel sheets (GI) at early period of corrosion. GI produced red rust, whereas SD produced no red rust. After the cyclic wet-dry corrosion test, zinc-containing white rust deposited on steel substrate. In the case of SD, magnesium reached the center of cut edge and larger area on the steel was covered with white rust. With polarization measurements of steel substrate on which white rust deposited, it was clarified that white rust of SD reduced both anodic and cathodic current density of steel substrate more largely than that of GI. In the case of SD, galvanic current between steel substrate with white rust and coating layer was small compared with GI. It was suggested this anti-corrosive property of SD is due to magnesium-containing white rust.

1. 緒言

ZnやAlなどの金属を鋼板の上にめっきした表面処理鋼板は,家電・建材・自動車等の用途で広く用いられている。中でもZnめっき鋼板は,2017年の国内生産量が1067万トン1)で金属めっき鋼板の78%を占める代表的な表面処理鋼板である。Znめっき鋼板に求められる最も重要な性能は耐食性である。Znめっきが耐食性を発揮することにより,下地の鋼板が腐食して生成する赤錆により外観を損なったり減肉して強度が確保できなくなったりするのを防止することができる。

Znめっき鋼板の耐食性をさらに向上させるためにAlやMgを加えた様々なZn系合金めっき鋼板が開発されてきた。溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si(いずれもmass%,以後SDと称する)めっき鋼板もその一つであり,溶融Znめっき鋼板と比較して耐食性に優れることから,厳しい腐食環境に曝される建材・屋外家電用途を中心に溶融Zn-6%Al-3%Mgめっき鋼板等とともに多くの用途で使用されている2,3)

一方,めっき鋼板を切断した際にできる切断端面や,実際に使用されるまでの工程で受ける厳しい加工でめっき層が損傷した部位では地鉄が露出する。このような部位では,水分や塩分,酸素等の腐食因子に地鉄が曝されることで鉄の腐食生成物である赤錆の発生により外観が損なわれるため,使用時に人の目に触れるプレハブ住宅の構造部材,太陽光発電用ソーラーパネルの架台,道路防音壁や駅舎部材等,外観が重視される用途において赤錆を抑制することが望まれる。

亜鉛系めっきと地鉄の異種金属がともに腐食環境に曝される切断端面では,亜鉛の電位がより卑なために地鉄が腐食する代わりにめっきが溶解する犠牲防食作用が働く。しかし,地鉄の腐食抑制が継続する期間は,付着した溶液の電気伝導度等や板厚に対するめっき層の厚み,溶解しためっきの腐食生成物(以後,白錆と称する)による保護効果等の因子によって変化するため,めっきが赤錆発生に及ぼす影響は大きい。

SDは,切断端面の地鉄が露出した部位(以後,地鉄露出部と称する)において,板厚が厚く地鉄の露出面積が大きい場合に赤錆が発生することがあるものの,屋外に曝露してから数カ月後には緻密な白錆が地鉄露出部全体を覆い,それ以降の地鉄の腐食による赤錆を抑制する効果が大きいとされる4)。SDの防食機構については,平面部において検討されており,Morimotoらが,緻密な白錆の保護作用により耐食性を向上させると述べた2)

SDと同様にAl, Mgを含有するZn-6%Al-3%Mgめっき鋼板でも,白錆の組成や形態に着目した防食機構解明が検討されてきた5)。Komatsuらは,Zn-6%Al-3%Mgめっき鋼板の平面部でめっき層中のMgの役割や腐食試験後の電気化学特性や白錆の生成挙動について考察した。これらの研究は,平面部での白錆の効果を中心としたものであった。

一方,切断端面の地鉄露出部に堆積した白錆の防錆効果についての知見は少ない。Yamamotoらは,鋼とめっきが一体となった試料でカソード分極測定により白錆による防食効果を示した6)ものの,初期赤錆を抑制する防食機構についてはほとんど報告されていない。

端面における初期赤錆について調査した結果,初期赤錆の抑制には白錆が影響していることを見出した。本報では,SDの端面における赤錆抑制機構を明らかにすることを目的として,地鉄露出部に沈着した白錆の役割について電気化学特性に調査した。

2. 実験方法

2・1 供試材

溶融Znめっき鋼板(GI)ならびに溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板(SD)を用いた。鋼板の板厚は0.6 mm,めっき層の厚さは片面につき10 μmとした。また,GIおよびSDのめっき層と鋼との間に流れるガルバニック電流を測定するため,めっき層と同元素組成の金属板(それぞれ以後GI(C),SD(C)と称する)を用いた。これらの金属板はめっき層中のものと同様の組織であることを確認した。

2・2 乾湿繰り返し試験

乾湿繰り返し試験に供する試料の作製手順をFig.1に示す。GIおよびSDをエポキシ樹脂で埋め込んだ後,SiC紙で#1500まで湿式研磨した。めっき鋼板断面を長さ10 mmで含むよう10 mm×10 mmの試験面を残してポリイミド粘着テープで被覆した。人工海水(ASTM D 1141-90,ヤシマ社製金属腐食試験用)を希釈した溶液を測定面に5×10−8 m3入れることで厚さ500 μmの水膜を形成した後,乾湿繰り返し試験に供した。用いた乾湿繰り返し試験の温湿度パターンをFig.2に示す。この温湿度条件は沖縄地区での屋外環境で曝露した際のステンレス鋼板上での温湿度変化7)に由来するもので,日本の本州での夏季の温湿度を参考に水蒸気の露点を301 Kに保った。1,3,5,7サイクル後に錆が剥離しないようにして純水で軽くすすぎ,人工海水の希釈液により再度水膜を形成した。人工海水は体積率で100倍に希釈し,溶液の量を50 μLとすることで,乾燥時の塩化物イオン付着量が平均0.01 g/m2(海浜地域を模擬)になるように調整した。なお,本研究で用いた条件は,Zn合金の大気腐食の進行度8)を参照した。

Fig. 1.

Procedure of specimens used for cyclic wet-dry corrosion tests. (Online version in color.)

Fig. 2.

Temperature and relative humidity (RH) pattern during one cycle of cyclic wet-dry corrosion tests. (Online version in color.)

乾湿繰り返し試験中の水膜厚さの変化をFig.3に模式的に示す。試験開始時(時間t=t0)に厚さ500 μmだった水膜は25°C,90%R.H.における平衡水膜厚さとなり(t=t1),乾燥過程では水膜が極薄いか島状となった(t=t2)後,水分が消失して乾燥状態となる(t=t3)ものと考えられる。

Fig. 3.

Schematic diagram of variation of electrolyte layer during cyclic wet-dry corrosion tests. (Online version in color.)

2・3 分析項目

2・3・1 電子線マイクロアナライザー(EPMA)

乾湿繰り返し試験7サイクル後に白金を蒸着した試料の表面を日本電子(株)製EPMA(JXA-8230)で観察しZn,Mg,C,Oの元素分布をマッピングした。

2・3・2 微小部X線回折(マイクロXRD)

白錆の構造を解析するため,リガク社製X線回折装置Smartlabを用いて微小部X線回折パターンを測定した。ターゲットをCo,スキャン範囲を2θ=4~111°として平行ビーム法(θ-2θ測定)で測定した。得られた回折パターンを既存データベースと比較することにより結晶相を同定した。

2・4 めっき層−鋼間のガルバニック電流測定

鋼とめっき層の間に流れるガルバニック電流を測定するために,次のような試料を作製した。Fig.4に示すように,予めリード線を接続しためっき層と同一組成の金属板GI(C)およびSD(C)と鋼板とを,絶縁樹脂を介して接着した試料をエポキシ樹脂に埋め込み,2・1と同様の方法で10 mm×10 mmの試験面を残してポリイミド粘着テープで被覆し#1500まで研磨した。この10 mm×10 mmの試験面は,GI(C)やSD(C)と鋼が人工海水希釈液や大気に曝される部分を10 mmの長さで含む。次に,GI(C)およびSD(C)と鋼板の試験面と逆側にリード線をはんだ付けして,リード線を無抵抗電流計に接続した状態で乾湿繰り返し試験に供し,3サイクル後の外観とその間にGI(C)およびSD(C)と鋼板との間に流れる電流の経時変化を測定した。鋼板の厚さは0.4 mm,白錆の影響が明確になるようGI(C)およびSD(C)の厚さを0.4 mmとした。

Fig. 4.

Schematic diagram of top surface of specimens used for galvanic coupling current measurement. (Online version in color.)

2・5 動電位分極曲線

2・4の乾湿繰り返し試験後,無抵抗電流計からリード線を外してGI(C),SD(C)から電気的に分離させ,白錆が堆積した鋼を作用極とする動電位分極曲線を測定した。溶液には人工海水を体積率で100倍に希釈した水溶液を用いた。自然浸漬電位を5分間計測した後,50 mV貴あるいは卑な電位から0.38 mV/sの速度で掃引してアノード・カソード分極した。照合電極にはAg/AgCl(3.33 kmol/m3KCl)電極を使用した。以下は同電極基準で表示することとする。なお,溶液温度はすべて298 Kとした。

3. 結果

3・1 切断端面腐食後外観

乾湿繰り返し試験7サイクルまでの切断端面地鉄露出部の外観写真をFig.5に示す。GIの場合,Fig.5(a)に示すように1サイクル目から地鉄露出部の一部で赤錆が発生した。一方SDでは,Fig.5(b)に示すように1~7サイクルで赤錆は発生しなかった。GI,SDともに白錆の沈着が見られた。GIでは,3サイクル目から白錆面積が増加するものの,赤錆も一定割合で存在した。SDでは赤錆が発生しないまま白錆が沈着した。白錆の面積はGIの方がSDよりも多かった。

Fig. 5.

Surface appearance of (a) GI and (b) SD after cyclic wet-dry corrosion tests.

3・2 白錆の元素分布および結晶構造

7サイクル後のGI,SDのEPMAマッピング像をFig.6に示す。Fig.6(a)に示すように,GIではめっき層とその近傍の地鉄上でZnが検出された。CやOも地鉄上の特にめっき層とその近傍で検出された。一方,Fig.6(b)に示すように,SDではGIと同様にZnはめっき層とその近傍の地鉄上で検出されたのに加えて,地鉄の板厚方向中央部でMgが検出された。CやOもめっき層と地鉄の板厚方向中央部においても検出された。

Fig. 6.

EPMA images of (a) GI and (b) SD after 7 cycles of cyclic wet-dry corrosion tests.

検出されためっき成分を含む化合物の結晶構造を同定するために,マイクロXRD測定した結果をFig.7に示す。GIではFig.7(a)に示すように,ZnO(酸化亜鉛),Zn5(OH)8Cl2・H2O(塩基性塩化亜鉛),Zn5(CO3)2OH6(塩基性炭酸亜鉛)が検出された。一方SDでは,Fig.7(b)に示すように,Zn5(CO3)2OH6およびZn6Al2(OH)16CO3・4H2O(塩基性炭酸亜鉛アルミニウム)が検出された。GIで検出されたZnOは,SDでは検出されなかった。また,Mgに由来する結晶性化合物は検出されなかった。

Fig. 7.

XRD patterns of (a) GI and (b) SD after 7 cycles of cyclic wet-dry corrosion tests. (Online version in color.)

3・3 ガルバニック電流に及ぼす白錆の影響

GI(C),SD(C)と鋼の間に流れるガルバニック電流の経時変化を測定した結果をFig.8に示す。Fig.8(a)に示すように,0~72 hで鋼からGI(C),またはSD(C)へ流れた電流はいずれも正の電流であった。Fig.8(b)に示すように,SD(C)と鋼の間に流れる電流はGI(C)と鋼の間に流れる電流に比べて乾湿繰り返し試験の1サイクル目時点から小さかった。3サイクル目終了では30%程度まで減少した。乾湿繰り返し試験3サイクル後の外観をFig.9に示す。GI(C)−鋼の場合,Fig.9(a)に示すように白錆とともに赤錆が観察された。一方,SD(C)−鋼では,Fig.9(b)に示すように鋼上で白錆のみ観察され,赤錆は認められなかった。これは,3・1でGIにのみ赤錆が観察され,SDで赤錆が認められなかったのと同様の結果であった。

Fig. 8.

Galvanic coupling current variation during cyclic wet-dry corrosion tests from 0 h to (a) 72 h and (b) 8 h. (Online version in color.)

Fig. 9.

Surface appearance of galvanic coupling specimens of (a) GI (C)-steel and (b) SD (C)-steel after 3 cycles of cyclic wet-dry corrosion tests.

3・4 白錆の堆積した鋼単独の動電位分極曲線

白錆の堆積した鋼単独での電気化学特性を明らかにするため,乾湿繰り返し試験3サイクル後のGI(C)の白錆と赤錆,SD(C)の白錆がそれぞれ堆積した鋼ならびに試験前の鋼の動電位分極曲線をFig.10に示す。アノード分極曲線は,3サイクル後の試料ではGI(C),SD(C)ともに腐食サイクル試験前の鋼板に比べて小さくなり,SD(C)ではGI(C)よりもさらに小さくなった。−0.5 Vでは,試験前の鋼板で電流密度が4.8×10−4 A・cm−2だったのに対し,3サイクル後の試料ではGI(C)の場合5.7×10−5 A・cm−2,SD(C)の場合1.5×10−5 A・cm−2であった。これは,試験前の3%,GI(C)の25%であった。カソード分極曲線は,試験前の鋼板では−0.7 Vから−1.0 Vの範囲において電流密度が1.0×10−4 A・cm−2程度であったのに対し,3サイクル後の試料では,GI(C)の場合−0.7 Vで5.0×10−5 A・cm−2,−1.0 Vで9.0×10−5 A・cm−2程度で,試験前の鋼板と比べた電流密度の減少は僅かであった。一方,SD(C)の場合,−0.7 Vで1.7×10−5 A・cm−2,−1.0 Vで3.5×10−5 A・cm−2程度で電流密度が30%となり,GI(C)の場合よりも大きく減少した。

Fig. 10.

Polarization curves of steel separated from GI (C) and SD (C) before and after 3 cycles of cyclic wet-dry corrosion tests. (Online version in color.)

4. 考察

3・1でSDではGIに比べて赤錆が抑制された原因を考察する。本サイクル試験では,Fig.3t=t1の時間帯では水膜厚さが厚く溶液の電気抵抗が小さいためめっき層による犠牲防食作用が働きやすい9)。すなわち,鋼上での溶存酸素還元反応を主とするカソード反応に対応して,めっき層が溶解するアノード反応により鋼の腐食が抑えられる。一方,t=t2のように水膜が薄くなると溶液の電気抵抗が大きいためにめっきによる犠牲防食作用が働きにくくなるために,鋼の腐食が進行しやすくなる。さらに,t=t3の時間帯では水膜の乾燥により腐食はほとんど進行しないと考えられる。よって,鋼の腐食による赤錆が最も発生しやすいのは,t=t2の時間帯であると推定されることから,t=t2の時間帯での電気化学的挙動がGIとSDで異なったために赤錆の発生に差が出たものと推察される。

t=t2の時間帯で腐食挙動が異なるのは,主にt=t1で犠牲防食作用によりめっきが溶解し鋼上で堆積した白錆によるものと考えられる。3・4で述べたように,白錆の堆積した鋼の分極曲線から,試験前の鋼に比べるとGI(C)でもカソード電流・アノード電流が抑えられたもののSD(C)に比べると減少幅が小さかった。一方,SD(C)ではアノード電流がGI(C)の25%程度に抑制されており,鋼のアノード溶解を発生源とする赤錆が抑制されたことと傾向が一致した。なお,カソード電流が30%に抑制されたことも鋼の腐食抑制に作用したものと推察される。本報では,SDに由来する白錆の堆積した鋼単独での動電位分極曲線を初めて測定することができた。

白錆が堆積した過程について考察する。白錆が堆積するためには,めっきが溶解する必要があり,最も溶解が進むのがめっきによる犠牲防食作用が働くt=t1の時間帯であると考えられる9)。本サイクル試験においても,3・3のガルバニック電流値がいずれも正であったことから,めっきによる犠牲防食作用が働いたことが確認できた。鋼上でカソード反応の主となる溶存酸素の還元反応(1/2 O2+H2O+2e→2OH)で発生したOHとの電気的中性を満たすため,GIの場合Zn2+,SDの場合はZn2+,Mg2+等が溶解・移動して,白錆が堆積したと考えられる。

次に,白錆によるめっき−鋼間のガルバニック電流変化について考察する。ガルバニック電流がSD(C),GI(C)いずれも時間とともに小さくなったのは,鋼上でのカソード反応が小さくなったことが原因であると推察される。すなわち,Fig.4で示したようにGI,SDともに鋼上でのカソード反応が小さくったことに対応してめっきの溶解を主とするアノード反応が減少した結果,ガルバニック電流が小さくなった。SD(C)−鋼の方がGI(C)−鋼よりもガルバニック電流が小さくなったのは,鋼上のカソード反応の減少量がより大きかったためと推定される。これにより,アノード反応で溶解するめっきの量はSDの方が少量となると予想され,Fig.3において外観写真で白錆の量はSDの方がGIよりも少なかったこととも対応していた。これは,55%Al-Zn合金めっき鋼板の鋼上カソード反応抑制により端面近傍のめっきの腐食が抑制されたとの知見10)とも一致する。

この白錆の組成はGIとSDでは異なっていた。これまでの平面部を対象とした研究で,GIではZnOが生成したのに対し,Mgを含有するSDやZn-6%Al-3%Mgめっき鋼板では防食効果の低いZnOの生成が抑えられ,緻密で防食効果の高い塩基性炭酸亜鉛,塩基性塩化亜鉛が生成したことが,耐食性発現の要因とされている5,11)。これは塩基性炭酸亜鉛,塩基性塩化亜鉛を複塩に持つ水酸化亜鉛がMgによって安定化され,ZnOへの変化を抑制する効果があるためとされている12)。Azevedoらも,Zn2+とMg2+の共存する溶液を用いたモデル実験で,Zn2+単独の場合には塩基性炭酸亜鉛や塩基性塩化亜鉛からZnOに変化するのに対し,同じpHであってもMg2+存在下ではこれらの塩基性炭酸亜鉛や塩基性塩化亜鉛の安定化によりZnOが生成しないことを示した13)。熱力学的にはZnOが安定なpHであるにも関わらずZnOが生成しないのは,Mg2+の速度論的効果によるものと考察した。

以上は平面部における白錆の挙動であるが,ZnOが端面地鉄露出部に堆積した場合も防食効果を低下させると考えられた。切断端面の地鉄露出部に着目した本報でも,SDではZnOが確認されなかったことから,Mgを含む白錆による酸素や塩に対するバリア効果が端面の地鉄上においても発現したものと考えられる。

次に,Fig.6でMgが端面板厚方向の鋼中央部まで到達した要因について述べる。SDの場合,Mgの含有率は3%で,Znの86%に比べて僅かである。それにも関わらず鋼中央部でMgの濃度が高かったのは,カソード反応で生じるOHとの化合物である水酸化物の溶解度積で説明することができる。すなわち,Zn(OH)2の溶解度積は1.2×10−17であるのに対しMg(OH)2の溶解度積は1.8×10−11であり,5オーダー大きい14)。Tadaらは,地鉄上でめっき層から遠いほどpHが上昇すなわちOHの濃度が高くなることを示した15)が,Mgは同じOHであっても沈殿になりにくく,めっき層から遠方まで移動することが可能である。また,SDではカソード反応の電流密度がGIよりも小さかったことから,溶存酸素の還元反応により発生したOHの量も少なかったものと考えられる。そのためMg(OH)2の沈殿が生成しにくくなり,このこともMgがより遠方まで移動できた要因となった可能性がある。以上より,Mgが遠方まで移動することで,Mgを含有する白錆がより広範囲にわたって地鉄露出部を被覆したこと,さらにMgを含有することでよりバリア効果の高い白錆となったことで鋼単独のアノード電流・カソード電流が低減されて,赤錆が抑制されたものと考えられる。

5. 結言

Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Siめっき鋼板(SD)とZnめっき鋼板(GI)の鋼板の切断端面における防食挙動を調査し,以下の知見を得た。乾湿繰り返し試験で,腐食初期にGIでは赤錆が発生したのに対し,SDでは発生しなかった。SDではMgを含む白錆が地鉄露出部を広範囲に覆うことを明らかにした。モデル試料を用いた鋼とめっき金属の間に流れるガルバニック電流測定で,SDではGIの30%程度に電流値が抑制されることを示した。白錆の堆積した鋼単独での動電位分極測定から,GIに比べてSDでは赤錆の発生源となるアノード電流,カソード電流ともに低減されること,Mgを含む白錆がそれに寄与することを明らかにした。SDの白錆には,鋼上のカソード電流を抑制することでガルバニック電流を減少させる効果があるものと推定した。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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