Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Articles
Effect of Si/Mn Ratio on Galvannealing Behavior of Si-added Steel
Mai Miyata Yusuke FushiwakiYoshitsugu SuzukiHideki NaganoYasunobu Nagataki
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 7 Pages 683-692

Details
Synopsis:

The influence of the Si/Mn ratio on the galvannealing behavior of 1.5 wt% Si -1.5~2.5 wt% Mn-added steel in the Fe oxidation-reduction process was investigated. The Si/Mn ratio of the steel affected the formation of Si-containing oxides during the annealing process. The amount of SiO2 formed on the steel surface decreased with as the Si/Mn ratio decreased, while the amount of Mn2SiO4 increased. In addition, the internal oxide formed in a relatively narrow area near the surface in the lower Si/Mn ratio sample, which indicated that the content of solute Si near the surface was lower in the lower Si/Mn ratio sample. The galvannealing reaction was accelerated by decreasing the Si/Mn ratio of the steel. The species and morphology of the Si-containing oxides determined the galvannealing behavior of the Si-added steel. The Si-containing selective surface oxide affected the formation of the initial Fe-Zn intermetallic compounds (IMC) during hot-dipping in molten Zn. The formation of SiO2 was suppressed in the sample with the lower Si/Mn ratio, which resulted in accelerated Fe-Zn IMC formation. On the other hand, solute Si in the steel affected the growth of the Fe-Zn IMC during heating in the galvannealing process. The content of solute Si was assumed to be lower in the lower Si/Mn ratio sample, which resulted in acceleration of Fe-Zn IMC growth.

1. 緒言

近年,自動車の燃費向上ニーズが益々高まっており,車体のさらなる軽量化が求められている。高張力鋼板は衝突安全性能を保ちながら,薄肉化による車体軽量化が可能であるため,自動車部品への適用範囲が拡大している。中でも耐食性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板は,自動車用途の需要が増加している。鋼板の高強度化には強化元素の添加が有効である。Siは強化元素の中でも延性を劣化させずに強度を向上させることが可能であり,優れた強化能を持つ1)。一方で,Si添加は溶融亜鉛めっき鋼板の表面性状を劣化させる。

鋼板に添加されたSiは再結晶焼鈍中に鋼板表面で酸化物を形成し,めっき濡れ性を劣化させることが知られている。これはSiがFeよりも低い酸素ポテンシャルで酸化物を形成するためである。再結晶焼鈍工程はFeが酸化しない雰囲気で行われるが,Siは鋼板表面で選択的に酸化される2,3)。Si酸化物は溶融亜鉛との濡れ性が極めて悪いため,Si酸化物が形成した鋼板は溶融亜鉛との濡れ性が劣化し,めっきが被覆しない不めっき等の欠陥が発生する4,5)。この不めっき欠陥に対しては,酸化還元法が効果的である。これは,再結晶焼鈍に先立ち,Feが酸化する雰囲気中で鋼板を加熱することにより,鋼板表層にFe酸化物層を形成する方法である。Fe酸化物層は,再結晶焼鈍において還元され,鋼板表面は清浄な還元Feで被覆される。還元Feは溶融亜鉛との濡れ性が良好であるため,表面欠陥の形成が抑制できる。

一方で,合金化溶融亜鉛めっき鋼板においてはSi添加により合金化が遅延するという問題がある。しかしながら,このSi添加による合金化遅延のメカニズムは未だ明らかになっていない。このメカニズムを解明するため,これまで多くの研究が行われてきており,鋼板表面のSi含有酸化物の影響,または,鋼板中の固溶Siの影響などが明らかとなってきている613)。しかしながら,これまで研究の多くはSi添加量の影響を調査するものであった。Siは固溶強化元素として有用なMnと共に鋼板に添加されることが多い。MnはSiとは複合酸化物を形成するため,Mnの添加はSi添加鋼の合金化挙動に影響を与えると推測される14,15)。しかしながら,酸化還元法におけるSi,Mn複合添加による合金化挙動への影響に着目した報告はほとんどない。

本研究では酸化還元法おけるSi添加鋼の合金化挙動を鋼板成分により制御する可能性を検討することを目的とした。Si添加鋼の合金化挙動は過去の研究により固溶SiおよびSi酸化物の影響が大きいことが明らかとなっている。そこで,本研究では鋼板のSi/Mn比がSi添加鋼の焼鈍工程におけるSi酸化物形成挙動に与える影響を詳細に調査し,さらにSi酸化物形成状態が合金化挙動に与える影響を調査した。

2. 実験方法

供試鋼の組成をTable 1に示す。Si添加量を1.5 wt%とし,Mn添加量を1.5 wt%から2.5 wt%とした。これらの供試鋼をSiとMnの添加量比に基づいて,以下では1.0Si/Mn鋼,0.75Si/Mn鋼,0.6Si/Mn鋼と表記する。これらの鋼板を厚さ1.0 mmに冷間圧延後,70 mm×180 mmに加工した。加工後の鋼板は熱処理前にエタノール中で超音波脱脂を行い,さらに5 wt%HCl中で酸洗を行って,圧延油を除去し表面を清浄化した。

Table 1. Chemical composition of steel (wt%).
SteelCSiMnPS
1.0Si/Mn0.1211.451.520.0100.0006
0.75Si/Mn0.1211.482.020.0110.0006
0.6Si/Mn0.1221.472.510.0110.0010

供試材は溶融めっきシミュレーター(Rhesca製)により,酸化・還元処理および溶融亜鉛めっき処理を行った。酸化処理は0.1 vol% O2-N2雰囲気中で行った。試料を10°C・s−1で800°Cまたは830°Cまで昇温し,N2ガスで室温まで冷却した。比較のため,一部の試料は酸化処理を行わず,焼鈍処理のみ施した。焼鈍処理は10 vol%H2-N2雰囲気中で850°Cにおいて20 s間行った。焼鈍後の試料は直ちにN2ガスで460°Cまで冷却し,0.130 wt%Alを含有した溶融亜鉛に浸漬した。亜鉛めっき後の試料は,大気雰囲気中で合金化熱処理を行った。合金化処理温度は520°Cおよび540°Cとした。Fe-Zn合金の一種であるζ相(FeZn13)は530°C以下で形成する16)。このため,ζ相の有無による合金化挙動の変化を調査した。合金化処理時間は15 sを基本とし,合金化挙動を調査する目的で,3 sから30 sまで変化させた。

鋼板のFe酸化量は溶融赤外線吸収法で測定した。酸化ままのサンプルと酸洗により外部酸化層を除去したサンプルの酸素量を測定し,その差分をFe酸化量とした。また,外部酸化層を除去したサンプルの酸素量を内部酸化量とした。鋼板の表面およびFe酸化物と鋼板の界面に形成したSi酸化物種は全反射型フーリエ変換赤外線分光法(ATR-FTIR)で同定した。ATR-FTIRのピーク面積は酸化物量に比例するため,酸化物量の相対比較に用いた。サンプルの表面および断面は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。断面の詳細観察は収束イオンビーム装置(FIB)で45°断面を作製して行った。断面の元素分布分析には電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた。また,EPMAより広い範囲における深さ方向の元素分布分析には高周波グロー放電発光分析装置(RF-GD-OES)を用いた。分析範囲は直径4 mmとした。

亜鉛めっき後のサンプルは4 wt%サリチル酸メチル,1 wt%サリチル酸および10 wt%ヨウ化カリウム混合溶液中でη相を電解し,Fe-Zn初期合金相の観察を行った。合金化処理後のサンプルは5 vol%HCl中でめっき層を溶解し,溶解液中のFe濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)で測定した。

3. 結果

3・1 Si添加鋼の酸化挙動

Si添加鋼の酸化物層はFe酸化物とFe酸化物/鋼板界面に形成されるSi酸化物および鋼板内部に形成されるSi内部酸化物で構成されることが知られている。Fe酸化物量は酸化還元法において,合金化挙動に大きな影響を及ぼす。そこで,添加元素量の異なる鋼種でFe酸化量を同程度に制御するため,サンプルごとに酸化温度を調整した。Fig.1に酸化処理後のFe外部酸化量とSi内部酸化量を示す。各サンプルのFe外部酸化量とSi内部酸化量はほぼ同程度であり,鋼種間の差は認められなかった。界面に形成したSi酸化物をATR-FTIRで同定した結果をFig.2に示す。全てのサンプルにおいて,それぞれFe2SiO4およびFe酸化物に帰属する波数1000 cm−1および500 cm−1付近の吸収ピークが認められた17)

Fig. 1.

Oxidation behavior of 1.5 wt% Si-added steel.

Fig. 2.

ATR-FTIR spectra of oxidized samples.

3・2 Si/Mn比が焼鈍中のSi酸化に及ぼす影響

焼鈍後サンプルのSi表面酸化物はATR-FTIRで同定した。1.0Si/Mn鋼のATR-FTIRスペクトルをFig.3に示す。波数1240 cm−1付近の吸収ピークはSiO2に帰属し,1000,920,590および520 cm−1付近の吸収ピークはMn2SiO4に帰属する17)。ATR-FTIRの吸収ピーク面積は表面の酸化物量に比例するため,酸化物量の半定量比較に用いた。SiO2とMn2SiO4の半定量にはそれぞれ1240 cm−1および1000 cm−1付近の吸収ピークを使用した。Fig.4に結果を示す。比較として,酸化処理をせず焼鈍のみ行ったサンプルの結果も示した。酸化処理の有無にかかわらず,SiO2とMn2SiO4の半定量値はSi/Mn比の変化に対して同様の傾向を示した。SiO2量はSi/Mn比の増加に伴い増加した。一方,Mn2SiO4量はSi/Mn比の増加に伴い減少した。酸化処理をしたサンプルのSi酸化物量は酸化処理なしのサンプルと比較して,相対的に少なかった。

Fig. 3.

ATR-FTIR spectra of annealed 1.0Si/Mn sample.

Fig. 4.

Influence of Si/Mn ratio on formation of Si-containing oxide during annealing. (a) SiO2, (b) Mn2SiO4.

Fig.5に0.6Si/Mn鋼および1.0Si/Mn鋼の焼鈍処理後の断面SEM反射電子像を示す。いずれの像においても,最表層に金属Fe層が存在し,その直下に薄いSi酸化物層が存在していた。Si酸化物は,さらに,鋼板内部の粒界および粒内にも形成していた。1.0Si/Mn鋼では,Si内部酸化物は主に粒界に形成していた。Fig.5(b)のSEM像から,Si酸化物には濃い灰色と薄い灰色の2種類のコントラストが認められた。濃い灰色はSiO2,薄い灰色はMn2SiO4に対応すると考えられる。Si内部酸化物の多くは内層がMn2SiO4,外層がSiO2で形成されていた。0.6Si/Mn鋼においても,濃い灰色と薄い灰色のSi酸化物が認められた。しかしながら,濃い灰色のSiO2は1.0Si/Mn鋼と比較して少なかった。さらに,表層の鋼板粒径が1.0Si/Mn鋼と比較して小さいため,結果として表層付近におけるSi内部酸化物の密度が高くなっていた。

Fig. 5.

Cross-sectional SEM back scattered electron images of annealed samples (Ep=3.0 keV, 45 o tilted angle). (a) 1.0Si/Mn sample, (b) magnified image of framed area in (a), (c) 0.6Si/Mn sample, (d) magnified image of framed area in (c).

Fig.5の各サンプルについて,SiとMnの分布を調査する目的で,EPMAで元素マッピングした結果をFig.6およびFig.7に示した。いずれのサンプルにおいてもSiおよびMn強度は表層付近の内部酸化物が存在する粒界で高くなっており,内部酸化物の存在しない粒内では鋼板内部と比較して強度が低くなっていた。また,Mnは表層に近い粒界で強度が高くなっていたが,SiはMnより深い位置まで強度が高くなっていた。

Fig. 6.

Cross-sectional EPMA element intensity mappings of 1.0Si/Mn sample (Ep=15.0 keV). (a) composition image, (b) Fe, (c) O, (d) Si, (e) Mn.

Fig. 7.

Cross-sectional EPMA element intensity mappings of 0.6Si/Mn sample (Ep=15.0 keV). (a) composition image, (b) Fe, (c) O, (d) Si, (e) Mn.

SEMによる断面観察は,詳細な情報が得られる一方,限られた領域における情報となる。このため,より広い範囲の深さ方向元素分布を確認するため,RF-GD-OES分析を行った。結果をFig.8に示す。全てのサンプルにおいて,Siは二つのピークが認められた。一つは表層のピークであり,これは表面酸化物に相当する。もう一つは鋼板表層直下であり,これは内部酸化物に相当する。RF-GD-OESのSiピーク強度はSi酸化物の量に比例し,Siピーク位置はSi酸化物の形成位置に相当する。0.6Si/Mn鋼では1.0Si/Mn鋼と比較して,鋼板直下のSiピーク強度が高く,また,Siピークがシャープであることから,鋼板表層近くのSi内部酸化量が多いことがわかる。また,1.0Si/Mn鋼では0.6Si/Mn鋼と比較して,Si内部酸化物はより深い位置に形成していると推定される。

Fig. 8.

RF-GD-OES profiles of annealed samples. (a) 0.6Si/Mn, (b) 0.75Si/Mn, (c) 1.0Si/Mn.

3・3 Si/Mn比が合金化挙動に及ぼす影響

Si酸化物がめっきの合金化挙動に及ぼす影響を調査するため,溶融亜鉛めっき浸漬中に形成するFe-Zn初期合金相の形態を調べた。Fig.9にFe-Zn合金相のSEM像を示す。1.0Si/Mn鋼では,Fe-Zn合金相が形成しない領域が多く認められた。0.75Si/Mn鋼ではFe-Zn合金相が形成しない領域は少なくなり,0.6Si/Mn鋼ではさらに少なくなった。

Fig. 9.

SEM images of initial Fe-Zn IMC. (a) 1.0Si/Mn, (b) 0.75Si/Mn, (c) 0.6Si/Mn. (Online version in color.)

Fig.10に合金化温度520°Cおよび540°Cにおける合金化挙動を示す。合金化処理時間は全て15 sとした。いずれの温度においても,Si/Mn比の減少に伴いめっき中へのFe拡散量は増加した。より詳細な合金化挙動を調べるため,0.6Si/Mn鋼と1.0Si/Mn鋼について,520°Cおよび540°Cで合金化挙動の時間変化を調べた。結果をFig.11に示す。いずれの温度においても,0.6Si/Mn鋼のFe拡散量は1.0Si/Mn鋼のFe拡散量より大きく,合金化時間の増加に伴い,Fe拡散量の差は大きくなった。また,Fe拡散量の差は合金化温度520°Cの方が大きかった。

Fig. 10.

Effect of Si/Mn ratio on galvannealing behavior of 1.5 wt% Si-added steel.

Fig. 11.

Effect of galvannealing time on galvannealing reaction of different Si/Mn samples. (a) at 520ºC, (b) at 540ºC.

Fig.12に合金化温度540°CにおけるFe-Zn合金相のSEM像を示す。0.6Si/Mn鋼では微細なFe-Zn合金結晶が鋼板表面に形成し,均一に成長していた。一方,1.0Si/Mn鋼では合金化時間5 sの初期段階で0.6Si/Mn鋼と同様の微細なFe-Zn合金結晶の他に粗大なFe-Zn合金結晶が形成した。この粗大な合金結晶は,合金化時間30 sでも残存していた。

Fig. 12.

SEM images of Fe-Zn IMC galvannealed with different galvannealing times at 540ºC. (Online version in color.)

4. 考察

4・1 Si/Mn比がSi選択酸化と内部酸化に与える影響

酸化還元法ではFe酸化量が合金化挙動に大きな影響を与える。今回の実験ではFe酸化による影響を最小化するため,各サンプルのFe酸化量を酸化温度で調整した。Fig.1に示したように,酸化処理後のFe酸化量とSi内部酸化量は全てのサンプルで同程度であった。したがって,本実験では酸化処理による合金化挙動への影響は全てのサンプルで同程度であると考えられる。焼鈍工程では,Si/Mn比はSi酸化物の形成挙動に大きく影響した。Si/Mn比の増加に伴いMn2SiO4形成量は減少し,SiO2形成量は増加した。鋼板内部に形成した内部酸化物は鋼板表層付近では主にMn2SiO4,鋼板内層ではSiO2であった。0.6Si/Mn鋼は1.0Si/Mn鋼と比較して,表層に近い領域の内部酸化物の分布密度が高かった。Fig.13に上記の結果を模式的にまとめた。

Fig. 13.

Schematic diagram of effect of Si/Mn ratio on external and internal oxidation behavior of Si-added steel during annealing. (Online version in color.)

Si含有酸化物の形成挙動はこれまで様々な条件において広く研究されてきた。Suzukiらは1.0 wt%Si添加鋼の選択酸化挙動を熱力学計算により調査し,その結果が実験データと良く一致することを示した18)。Suzukiらの報告内容を以下にまとめる。焼鈍により形成されるSi含有酸化物は鋼板のSi/Mn比と酸素ポテンシャルによって決定される。酸素ポテンシャル一定の条件(logPO2/atm<−19)においては,鋼板のSi/Mn比が高い場合にはSiO2が安定であり,Si/Mn比が低い場合にはMn2SiO4またはMnSiO3が安定となる。一方,鋼板のSi/Mn比が一定の条件(−2<log{(Si/mass%)/(Mn/mass%)}<0)においては,高酸素ポテンシャルまたは低酸素ポテンシャルではMn2SiO4またはMnSiO3が安定であり,中間の酸素ポテンシャルではSiO2が安定となる。

本実験で使用した鋼板のSi添加量はSuzukiらの実験とは異なるが,本実験の結果は定性的に説明可能である。1.0Si/Mn鋼を露点が−35°Cの雰囲気中で焼鈍した場合,鋼板表面に初期に形成される酸化物はSiO2である。鋼板の固溶Siはこの酸化反応により消費されるため,SiO2が形成した周辺のSi/Mn比は相対的に低下する。Si/Mn比が十分低下しMn2SiO4の安定存在領域まで達するとMn2SiO4の形成が始まると考えられる。同様に,0.6Si/Mn鋼の鋼板表面に初期に形成される酸化物はSiO2である。しかしながら,鋼板に添加されたSi/Mn比がもともと低いため,初期SiO2の周辺のSi/Mn比は1.0Si/Mn鋼より早く低下する。したがって,0.6Si/Mn鋼ではMn2SiO4量が多くなり,1.0Si/Mn鋼ではSiO2量が多くなると推測される。

内部酸化の場合は,表面濃化より複雑であると考えられる。SiO2形成の平衡酸素ポテンシャルはMn2SiO4より低いことが知られている。鋼板内部の正確な酸素ポテンシャルを測定することはできないが,鋼板内部の酸素ポテンシャルは鋼板表面より低く,表面から離れるにしたがって低下すると推測される。したがって,Mn2SiO4は比較的表面に近い位置に形成し,SiO2はそれより深い位置に形成すると考えられる。一方,内部酸化物の形成密度は結晶粒径が影響しているため,酸素ポテンシャルのみで議論することは困難である。表面近傍の結晶サイズは0.6Si/Mn鋼で1.0Si/Mn鋼より小さかった。内部酸化物は主に酸素ポテンシャルが比較的高い結晶粒界に形成するため,表面近傍の結晶粒径が小さい0.6Si/Mn鋼で,表層の内部酸化物密度が高くなったものと考えられる。したがって,Si/Mn比は内部酸化物の形成に,鋼板組織の面からも間接的に影響したと推測される。

4・2 Si/Mn比が初期Fe-Zn反応および合金化反応に与える影響

Si添加が合金化反応を抑制することは知られているが,そのメカニズムは未だ明らかになっていない。しかしながら,鋼板表面に形成するSi酸化物が鋼板と溶融亜鉛の接触を阻害するため合金化が抑制されるとする報告や,固溶SiがFe2Al5層を安定化する,または固溶SiがFe-Zn金属間化合物内のFeおよびZnの拡散を阻害するといった報告がある6,19)。本研究では合金化反応を溶融亜鉛浸漬中の初期Fe-Zn合金相形成および合金化熱処理中のFe-Zn合金相成長の2つのプロセス観点から考察する。

Fig.14に,焼鈍後のSi酸化物の形成状態と合金化挙動の結果をまとめた。初期Fe-Zn合金相は高Si/Mn鋼では局所的に形成しており形成領域の面積は小さかったが,Si/Mn比の低下に伴い形成領域の面積は増加した(Fig.9)。この初期Fe-Zn合金相の形成領域の面積は鋼板表面の反応性に対応すると考えられる。本実験では鋼板表面の反応性は焼鈍中に形成した鋼板表面のSi酸化物によって決まると推測される。鋼板表面にはSiO2およびMn2SiO4が形成し,これらの形成量は鋼板のSi/Mn比によって決まっていた(Fig.4)。SiO2は元素拡散を抑制する薄いアモルファス層を形成することが知られている20)。一方,Mn2SiO4は元素拡散の抑制効果が小さい粒状結晶を形成する傾向がある21)。したがって,初期Fe-Zn合金相はSiO2が形成された鋼板表面にはほとんど形成せず,Mn2SiO4が形成された鋼板表面に形成すると推定される。本実験におけるFe-Zn合金相の形成挙動は以下のように説明できる。1.0Si/Mn鋼の場合,焼鈍直後の鋼板表面にはSiO2とMn2SiO4が形成されている。初期Fe-Zn合金相は,SiO2が形成した領域には形成しないと考えられる。したがって,この領域がFig.9の初期合金相が形成していない領域に相当すると推定される。一方,Si/Mn比の低下に伴いSiO2の形成量は減少し,Mn2SiO4形成量は増加した。これは,鋼板表面の反応性が向上したことを表す。以上の推定から,0.6Si/Mn鋼の場合,SiO2形成がほぼ抑制された結果,Fe-Zn合金相が鋼板全面で均一に核形成したと推測される。

Fig. 14.

Schematic diagram of effect of Si/Mn on galvannealing behavior of Si-added steel. (Online version in color.)

次に,Fe-Zn合金相の成長挙動について考察する。Fig.11に示したように,合金化速度は低Si/Mn鋼で速く,また,反応時間の長時間化に伴いFe拡散量の差は大きくなった。この傾向は520°Cおよび540°Cどちらの合金化温度でも同様であったが,Fe拡散量の差は520°Cで特に大きかった。合金化温度はζ相の形成温度を考慮して選択したが,本実験では合金化反応中に形成したFe-Zn合金相は全てδ1相であった。このため,合金化温度520°Cと540°Cの合金化挙動の差は合金相の違いによるものではなく,合金化反応温度の差によるものと推定される。したがって,Fe-Zn合金相の成長速度はFeとZnの界面反応が影響すると考えられる。Fig.12に示したように,鋼板表面は合金化反応の初期段階で全面的にFe-Zn合金相に覆われており,Si酸化物が存在しないことを示している。したがって,鋼板表面に形成したSi酸化物はFe-Zn合金相の成長にはほとんど影響しないと推定され,固溶Siなど表面酸化物以外の因子が合金相の成長に影響していることを示唆している。

Fig.6およびFig.7に示したように,鋼板表層付近のSi酸化物の分布密度は0.6Si/Mn鋼で最も高かった。内部酸化物が形成している表面近傍は,合金化反応が生じる領域である。内部酸化物が多く形成していることは,この領域での固溶Si濃度が低下していることを示唆している。したがって,0.6Si/Mn鋼では表面近傍の固溶Si濃度の低下が,合金化反応の遅延を抑制し,合金化速度が速くなったと考えられる。また,Si/Mn比による合金化反応の速度差が低温側で大きいことから,固溶Siの影響は低温合金化でより強く影響したと考えられる。

5. 結言

1.5 wt%Si添加鋼の酸化還元プロセスにおける合金化挙動にSi/Mn比が与える影響について調査した結果,以下の知見を得た。Si/Mn比は合金化挙動に大きく影響するSiの酸化挙動に影響を与えることが分かった。選択表面酸化の場合,鋼板のSi/Mn比の増加に伴いSiO2の形成量は増加し,Mn2SiO4の形成量は減少した。鋼板表面のSi酸化物種は溶融亜鉛浸漬中の初期Fe-Zn合金相に影響し,SiO2形成量の多い高Si/Mn鋼では初期Fe-Zn合金相形成が抑制された。これはSiO2が鋼板と溶融亜鉛の反応を阻害したためと考えられる。一方,内部酸化物はSi/Mn比の低下に伴い,鋼板表層付近の形成量が増加した。このため,鋼板表層近傍の固溶Si濃度が低下し,低Si/Mn鋼でFe-Zn合金相の成長が促進されたと考えられる。以上の知見から,Si添加鋼の合金化挙動は鋼板中のSi/Mn比によって制御可能であると言える。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top