Tetsu-to-Hagane
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Effect of Microstructure at Coating Layer on Fatigue Strength in Hot-Dip Galvanized Steel
Kayo HasegawaMotoaki Morita Shinichi Motoda
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2019 Volume 105 Issue 7 Pages 733-741

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Synopsis:

To understand the fatigue mechanism of hot-dip galvanized steel, the fatigue strength and fracture surface of hot-dip galvanized S45C (carbon steel) specimens were investigated. The galvanized coating layer was composed of δ1-phase, ζ-phase and η-phase, and its thickness was about 100 μm. In low cycle range (104 cycles < Nf <105 cycles), the fatigue strengths of both the carbon steel and the galvanized steel corresponded to the static strength. The fatigue strength of the galvanized steel was lower than that of the carbon steel. As the number of cycles increased, the difference between fatigue strength of the carbon steel and that of the galvanized steel increased. In addition, the morphologies of the fatigue fracture were also different in low cycle range and high cycle range. In the galvanized steel, the morphology of stage II crack on the fracture surface at low cycle range exhibited crescent shape, and multiple crack initiation sites in low cycle range were observed. On the other hand, the morphology at high cycle region (Nf > 105 cycles) exhibited an ellipse shape, and the crack initiation site was single. At both ranges, the crack initiation sites were in the coating layer. The mechanical properties of the microstructure in coating layer affect on the fatigue strength. When η-phase was removed from the galvanized coating layer, the fatigue strength increased only in high cycle range. Therefore, δ1-phase and/or ζ-phase cause the fatigue strength to decrease in low cycle range, and η-phase causes it in high cycle range.

1. 緒言

溶融亜鉛めっき鋼材は小型から大型の炭素鋼材に短時間で厚いめっき膜を成膜できるため大量生産に適しており,社会インフラの基盤材料となっている。近年,社会インフラの耐用年数を迎え疲労や腐食を要因とした事故が懸念されており,溶融亜鉛めっき鋼材の強度評価が求められている。使用される環境は腐食疲労の生じる環境にあるが,腐食疲労を理解するためには,腐食と疲労のそれぞれの挙動をまず知る必要がある。これまで,溶融亜鉛めっき鋼材の腐食13)や合金層の形態46)およびめっき皮膜の剥離7,8)については多く研究されており,それらに対する信頼性は高い。その一方で,溶融亜鉛めっき鋼材の疲労強度に関する研究は溶接部9),腐食部10),基材部が及ぼす影響11),めっき膜厚の影響12)などの特定の部分に注目した研究が多く,疲労強度に及ぼす溶融亜鉛めっき組織の影響についてはあまり研究されていない。溶融亜鉛めっきの組織は合金層と純亜鉛層から成る複層構造であり,それぞれの力学特性や結晶構造が異なるため1315),疲労強度に影響することが考えられる。そこで本研究では亜鉛めっき皮膜の組織が疲労強度に及ぼす影響を明らかにするために冷間加工ままの鋼材,溶融亜鉛めっき処理した鋼材,めっき処理時の熱履歴と同様の熱処理をした鋼材,めっき皮膜の純亜鉛層を除去した溶融亜鉛めっき鋼材の疲労試験を行った。そして,破面解析により破断サイクル数と破面形態の対応関係を整理し,それら鋼材の疲労強度に差が生じた要因を考察した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材には,引抜き加工ままのS45C丸棒を砂時計型試験片に加工したCS(carbon steel)材,CS材を熱処理したHT3(heat-treated CS)材,CS材を溶融亜鉛めっき処理したGS(galvanized steel)材,GS材からη相を除去したAT(acid-treated GS)材を用いた(Fig.1)。用いたS45Cの化学組成をTable 1に示す。試験片の表面粗さは1.6 μm Ra(算術平均粗さ)仕上げとした。亜鉛めっき処理はCS材を脱脂,酸洗,フラックス処理後,大気開放の下,Table 2の組成である溶融めっき槽450°Cの中に180 s浸漬させ,空冷30 s,水冷60 sの条件で行った。めっき後の後処理は行なっていない。HT3材の熱処理は450°Cのソルト槽に180 s浸漬後,空冷30 s,水冷60 sの条件で行った。3.5%希塩酸に腐食抑制剤を加えた溶液にGS材を浸漬させる酸処理によりη相を除去した。

Fig. 1.

Configuration of specimens.

Table 1. Chemical composition of steel substrate. (mass%)
S45C CSiMnPSCuNiCrFe
0.440.200.660.0210.020.010.010.12bal.
Table 2. Chemical composition of hot dip coating bath. (mass%)
AlFeCdPbZn
0.00280.0290.0930.83bal.

2・2 引張試験と疲労試験

引張試験および疲労試験の試験片形状はFig.1に示した中央平行部長さ35 mmの試験片を用いた。平行部直径の平均値はCS材:5.17 mm(断面積20.99 mm2),GS材:5.38 mm(断面積22.73 mm2),AT材:5.37 mm(断面積22.64 mm2),HT3材:5.17 mm(断面積20.99 mm2)であった。引張試験は室温環境下で,初期ひずみ速度4.76×10−4 s−1の条件で行った。疲労試験は室温環境下で,応力比R=0.01,周波数f=10 Hz,荷重波形を正弦波とした負荷条件で行った。破断せずにサイクル数1×107回を超えた場合,試験を終了し,その時の最大繰返し応力を疲労限とした。

2・3 組織と破面解析

光学顕微鏡を用いて基材およびめっき皮膜の組織を観察した。試験片を鏡面研磨後,7%のNa2S2O5水溶液を用いてエッチングした。パーライトのブロック粒径とフェライト粒径を直線分割法によって算出した。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてパーライトのラメラー間隔と疲労試験した試料の破面を観察した。

2・4 マイクロビッカース硬さ

Fig.1に示す供試材の中央平行部を切断し,横断面が表面になるよう樹脂埋めした後,鏡面状に研磨した。その後マイクロビッカース硬度計を用いてめっき層と基材部の硬さを測定した。測定箇所はめっき層において,各相の厚さ方向の中央部とした。また,基材部においてはめっき層との界面から中心部にむかって100 μm毎に測定した。圧子荷重は29.42 mN(3 gf),保持時間5 sで10箇所測定し,平均値を算出した。

3. 実験結果

3・1 組織と静的強度

Fig.2は基材の横断面組織と縦断面組織の光学顕微鏡写真である。全ての試料で基材部はパーライト組織とフェライト相から成り,マルテンサイト相は見られなかった。横断面の組織では,CS材,HT3材およびGS材のパーライトブロック粒径とフェライト粒径はそれぞれCS材:7.4 μmと7.3 μm,HT3材:6.8 μmと7.4 μm,GS材:7.3 μmと6.6 μmであった(Fig.2(a)−(c))。ラメラー間隔はCS材:0.31 μm,HT3材:0.28 μm,GS材:0.32 μmであった。パーライトブロック粒径,フェライト粒径およびラメラー間隔に大きな差はなく,セメンタイト相の球状化も見られず,横断面においては熱処理した全ての試料の組織形態に明確な差はなかった。試験片の長手方向である縦断面組織では,CS材において加工方向に沿って結晶粒が伸長していたが,HT3材とGS材ではフェライト粒が等軸結晶粒化していたことから(Fig.2(d)−(f)),HT3材とGS材は再結晶していたといえる。なお,炭素鋼材において,HT3材およびGS材と同様の熱処理をマッフル炉により行い,組織と硬さを評価することで再結晶完了時間がマッフル炉では3~10分の間であることを確認した。ソルト槽では3分間で再結晶が完了しておりマッフル炉での再結晶完了時間よりも早いが,これは加熱媒体による熱伝達の差である。Fig.3(a)はGS材めっき皮膜の光学顕微鏡写真である。一般的な溶融亜鉛めっき皮膜の組織は3層構造を呈し,各相は基材側からFe濃度が高いδ116,17),柱状組織であるζ相,最表面にあるη相である18)。本研究で創製したGS材のめっき部組織も同様であり,η相,ζ相およびδ1相の厚さはそれぞれ16 μm,55 μm,19 μmであった。AT材では,酸処理によりGS材のη相が完全に除去されたことを確認した(Fig.3(b))。AT材のめっき皮膜の厚さはおよそ77 μmであった。

Fig. 2.

Optical micrographs of substrates for (a) (d) CS, (b) (e) HT3 and (c) (f) GS materials.

Fig. 3.

Optical micrographs of galvanized layers in (a) GS and (b) AT materials.

Fig.4はCS材,GS材,AT材,HT3材の応力−ひずみ曲線である。450°Cのソルト槽で3分間熱処理したHT3材の降伏点と引張強度はCS材よりも大きく,かつ伸びも大きくなった。この温度域ではひずみ時効が生じるため19),降伏点と引張強度の上昇はひずみ時効によるものである。一般的にひずみ時効においては伸びが低下するが20,21),HT3材では伸びが大きくなった(Fig.4)。CS材では引抜方向に対して伸長していたフェライト粒がHT3材では等軸組織となっており,熱処理により再結晶が生じ,伸びが増したといえる。同様の組織変化はGS材でもみられた。GS材と同様の熱履歴に当たる処理をしたHT3材の引張特性を比較した。GS材の伸びはHT3材と同程度であるが,引張強度および降伏点はHT3材よりも低下した(Fig.4 and Table 3)。めっき層各相のビッカース硬さはそれぞれη相:83 HV,ζ相:277 HV,δ1相:509 HVであり,ζ相のビッカース硬さはHanらの結果22)とほぼ一致したが,δ1相においては異なった。δ1相のZn含有量を測定したところ87.9 at%でありHanらの結果と異なっていた。本研究においてδ1k相とδ1p相を区別せず,δ1相と総じて評価しているため,このZn含有量の差がビッカース硬さの差になったと考えられる。各相と基材の面積比からGS材としてのビッカース硬さを算出した結果,303 HVであった。この値はCS材のビッカース硬さ333 HVよりも小さく,引張試験の結果と一致したことから,GS材の強度は妥当である。AT材の強度は軟質相のη相が除去されたことによりGS材より若干大きくなったが,均一伸びはη相の除去後で小さくなった。η相を除去したことにより表面粗さが大きくなっており,この粗さが切欠き効果となり伸びが減少したと考えられる。以上の検討から,めっき処理時に基材部への熱影響があったが,その影響についてはHT3材をモデル材にできると考え,以降めっき組織が及ぼす疲労強度への影響について議論した。

Fig. 4.

Stress-strain curves for HT3, CS, GS, and AT materials.

Table 3. Mechanical properties of materials.
MaterialσYS/MPaσUTS/MPaEl./%
CS7428837.3
HT38249449.4
GS74185510.4
AT7808598.7

3・2 疲労強度と破面形状

破面形態が破断までのサイクル数によって異なった。その破面形態の違いにより低サイクル域と高サイクル域を定義し,サイクル数が104回以上105回未満を低サイクル域とし,105回以上を高サイクル域と定めた。Fig.5は各試料のS-N曲線である。破面解析において,放射模様の放射出発点,もしくは急速破断域StageIII破面の呈する位置の逆側に位置し,き裂の安定成長領域StageIIの破面を構成する試料表面円弧の中央部近傍をき裂起点部と判断した。低サイクル域において,めっき材であるGS材とAT材の疲労強度はCS材より低下した。CS材の破面は低サイクル域と高サイクル域ともに同様の形状を呈したが,GS材とAT材の破面は低サイクル域と高サイクル域で異なる形状を呈した。Fig.6はCS材の低サイクル域で破断した試料の破面である。CS材のき裂起点部は最表面に1ヵ所あり(Fig.6(b)),StageIIの過程における破面形状は楕円状であった。HT3材もCS材と同じ破面形態であった。Fig.7はGS材の低サイクル域で破断した試料の破面写真である。き裂起点部は複数個あり(Fig.7(a)),全てめっき皮膜内にあった(Fig.7(b))。StageIIの過程における破面形状は試料円周部を円弧とする三日月状であった。GS材において繰返し最大応力が561 MPa以下では,破面の形態が変化した。すなわち,き裂起点部はめっき皮膜η相内に1ヶ所あり,StageIIの過程の破面形状は楕円状になった(Fig.8)。このような破面形態の遷移はAT材でも105回以降で見られた。各試料の疲労限はCS材:563 MPa ,HT3材:586 MPa,GS材:410 MPa,AT材:521 MPaであった(Fig.5)。GS材の疲労限はCS材のそれより小さく,S45Cにめっき処理すると疲労限は低下した。AT材の疲労限はGS材のそれよりも大きく,GS材からη相を除去した時,疲労限が大きくなった。HT3材とCS材の疲労強度の差は107回に近づくほど小さくなった。Fig.9は高サイクル域で破断したGS材の破面である。き裂起点部はめっき皮膜内で1ヶ所あり(Fig.9(b)),AT材の破面も同様であった。高サイクル域では,いずれの試料においても破面形態に大きな差はなかったが,めっき皮膜の有無やη相の有無によって強度に差が生じた。低サイクル域と高サイクル域の両方でGS材とAT材の疲労強度は,CS材よりも小さかった。また,同様の熱処理を施したHT3材よりも小さく,めっき皮膜の存在により,疲労強度が低下したと言える。次章でめっき皮膜が疲労強度に及ぼす影響について議論する。

Fig. 5.

S-N curves of materials and types of crack initiation.

Fig. 6.

Secondary electron (SE) images of fracture surface in low cycle fatigue of CS material (a) (σmax=703 MPa, Nf=30,620 cycles) and its enlarged one near the crack initiation site (b).

Fig. 7.

SE images of fracture surface in low cycle fatigue of GS material (a) (σmax=690 MPa, Nf=17,880 cycles) and its enlarged one near the crack initiation site (b).

Fig. 8.

SE images of fracture surface in low cycle fatigue of GS material (a) (σmax=561 MPa, Nf=51,570 cycles) and its enlarged one near the crack initiation site (b).

Fig. 9.

SE images of fracture surface in high cycle fatigue of GS material (a) (σmax=518MPa, Nf=100,030 cycles) and its enlarged one near the crack initiation site (b).

4. 考察

4・1 疲労強度に及ぼす静的強度の影響

亜鉛めっき皮膜を成膜したGS材とAT材の疲労強度は同様の熱処理をしたHT3材よりも低下した (Fig.5)。この低下要因として考えられることの1つにめっき皮膜が存在することによる静的強度の低下がある。

最大引張強さと疲労強度の間には相関があり,特に鉄鋼材料の場合,その関係は明瞭である23,24)。そこで静的強度が及ぼす疲労強度の低下を把握するために,最大引張強さに対する疲労強度(繰返し最大応力σmax/最大引張強さσUTS)で整理することにより静的強度の影響を評価した(Fig.10)。Nf=104回ではすべての試料のσmax/σUTSが同等であったが,Nf=2×104回になるとその値に差が出てき始め,高サイクル側になるにつれてσmax/σUTSの差が大きくなった。これは低サイクル側では静的強度により疲労強度が支配されているが,高サイクル側では組織によって疲労強度が決まることを示唆する。特に,他の試料と比較してGS材の疲労強度低下が著しく,めっき組織が疲労強度の低下を引き起こしている。η相を除去したAT材は低サイクル域ではGS材と同等のσmax/σUTSであったが,高サイクル域ではGS材よりも明瞭に大きくなり,めっき皮膜のないCS材とHT3材よりもわずかに小さかった。これらのことから低サイクル・高サイクル共に疲労強度低下要因はめっき皮膜にあり,高サイクル側ではη相が疲労強度を低下させていた。

Fig. 10.

Relationship between σmax/σUTS and number of cycles to failure.

4・2 疲労強度低下に及ぼす安定き裂成長速度の影響

静的強度の影響ではなく,めっき層の存在により疲労強度と疲労限が低下した。ここでは,めっき処理による疲労強度低下要因を考察する。繰返し変形に伴う転位下部組織形成後における疲労破壊の素過程は,変形集中による損傷の集積,微小き裂の発生・成長(StageI),き裂の安定成長(StageII),急速破断(StageIII)の4過程に分類される25)。これらの中で,StageIとStageIIが疲労寿命に対し支配的である。はじめに,StageIIについて考える。き裂進展速度da/dNを評価するため,応力振幅が同程度で破断した試料を用いて,き裂起点部から同じ距離にあるストライエーション間隔Sを観察した(Fig.11)。ストライエーション間隔は1サイクル中のき裂進展量に相当し式(1)で表せる。

  
Sda/dN(1)
Fig. 11.

SE images of striations for (a) GS, (b) AT and (c) CS materials.

ここでaはき裂長さであり,Nはサイクル数である。GS材,AT材,CS材のストライエーション間隔はそれぞれSGS=2.00×10−7 m/cycle,SAT=2.06×10−7 m/cycle,SCS=1.89×10−7 m/cycleであった。このようにストライエーション間隔に大きな差はなかった。次に,き裂の安定成長(StageII)から急速破断(StageIII)へ遷移するときの疲労破壊靭性値を考える。楕円状のStageIIの過程における破面形状のは次式で近似できる26)

  
KIC0.65σπarea(2)

ここでσは負荷応力,areaはStageII面積である。StageIIにおけるき裂形状が楕円状であったGS材のKICGSは67.5 MPam(σ=606 MPa),AT材のKICATは67.7 MPam(σ=608 MPa),CS材のKICCSは63.3 MPam(σ=593 MPa)であり,KICはめっき処理により変化しなかった。

以上の結果から,き裂進展速度da/dNとき裂先端の疲労破壊靭性値KICはいずれの試料においても差がなかったといえる。めっき材における疲労強度の低下はき裂の安定成長域(StageII)のき裂進展速度が主要因ではなく,めっき皮膜内での微小き裂の発生・成長(StageI)が早期に発生することに起因するといえる。微小き裂の発生・成長は微視組織の影響が大きい。低サイクル域においてGS材とAT材の疲労強度はCS材・HT3材のそれらよりも低下し,GS材とAT材の疲労強度は同じであった。このことからめっき材の低サイクル域における疲労強度低下にη相は関与しておらず合金層でのき裂発生にある。一方,高サイクル域においては疲労強度が低下したGS材のき裂起点部は最表面のη相であった。また,η相を除去すると疲労強度が向上した。したがって,高サイクル域での疲労強度低下要因となる組織はη相である。このように破断サイクル数により,めっき材の疲労強度低下要因となるめっき皮膜内の組織は異なった。

4・3 初期き裂形成過程と疲労強度低下

低サイクル域で破断したStageIIの過程における破面は三日月状を呈した。破面側面を観察すると,非めっき材の破面端部は引張軸と垂直方向に直線状であったが(Fig.12(a)),めっき材は凹凸状であった(Fig.12(b))。加えて,三日月状であるStageIIの破面には,段差(ステップ)の存在を意味するラチェットマークが試料中心部に向かって放射状にあった(Fig.13)。これらの観察結果は,き裂が同時に複数箇所で生じ合体したことを示唆し,き裂が合体した結果StageIIの過程における破面形状は三日月状になったと考えられる。言い換えると,楕円状になる前に複数のき裂が合体したことにより三日月状になり疲労破壊靭性値KICに達したと考えられる。上記の仮説が正しいと仮定した時,CS材におけるStageII領域の面積ACSとGS材におけるStageII面積AGSはほとんど同じとなるはずである。i個のStageIIを有すると考え,式(3)で近似してAGSを求めた。

  
AGSΣiAi(3)
Fig. 12.

SE images of specimen surface near the crack initiation site of fracture surface for (a) CS and (b) GS materials.

Fig. 13.

Arrows show the ratchet marks which appeared in galvanized layer and substrate for GS at low cycle fatigue. (σmax=647 MPa, Nf=34,950 cycles)

ここで,Aiはi番目のStageIIにおける領域の面積である。StageIIの過程における破面が三日月状であった低サイクル域において,全体に対するStageII領域の面積率と最大応力の関係をFig.14に示す。破面全体に対するStageII領域の面積率はいずれの試料でも同程度であり,上記の仮定を支持する。Fig.15は,破面解析の結果を踏まえ,めっき材の低サイクル域におけるき裂進展過程を模式化したものである。めっき材に繰返し引張応力が負荷され続けると,引張軸と垂直方向に微小き裂が複数生じる(Fig.15(a))。複数の微小き裂は繰返し数が増加するにつれて成長し(Fig.15(b)),それらの微小き裂が合体した結果,主き裂となる(Fig.15(c))。主き裂は同一平面上にない複数の微小き裂が成長・合体した結果破断に至る。そのため,破面側面はFig.12(b)のような凹凸状になり,破面上でラチェットマークを呈し破断する(Fig.15(d))。高サイクル域において,疲労強度低下要因となる組織はη相である。それぞれの相のビッカース硬さからη相は他の相と比較して最も軟質なため変形容易であり,η相ではすべり変形が容易であると言える。疲労変形過程において表面でのすべり変形は転位の非可逆的な運動によって表面に凹凸の形成を生じさせ,さらに繰返し変形させれば材料内部まで深く凹凸が発達した固執すべり帯となり,疲労破壊の起点部となる27)。その結果,η相で早期に微小き裂が形成され疲労強度が低下したと考えられる。

Fig. 14.

Relationship between area ratio of stage II to fracture surface and maximum cyclic stress.

Fig. 15.

Schematic illustrations of fracture process for galvanized steel in low cycles; (a) subcracks formation, (b) subcracks growth, (c) main crack formation by the coalescence of subcracks, and (d) main crack growth and fracture.

本研究では,溶融亜鉛めっきした炭素鋼材の疲労き裂要因となる組織がめっき皮膜内にあることを明らかにした。しかし,低サイクル域において,合金層中のいずれの相が疲労強度を低下させたかは明確でなく,今後更なる解析が必要である。

5. 結言

冷間加工ままの鋼材とそれに溶融亜鉛めっき処理した鋼材の疲労強度を評価し,き裂起点部周辺とStageIIの領域を破面解析した。加えて,溶融亜鉛めっき処理と同様の熱処理やめっき層を除去したモデル材を作製し,同様の評価・解析を行った。それらの結果から疲労強度低下要因について考察した。得られた主な結果は以下のとおりである。

(1)炭素鋼材(S45C)に溶融亜鉛めっきを施すと低サイクル域(104-105回未満)で疲労強度はわずかに低下し,高サイクル域(105回以上)で大きく低下した。

(2)炭素鋼まま材と溶融亜鉛めっき鋼材のき裂進展速度および疲労破壊靭性値に差はなかった。疲労強度の低下要因はき裂の安定成長域になく,初期き裂形成にある。

(3)溶融亜鉛めっき鋼材のη相を除去した時,低サイクル域における疲労強度は変化なかった。低サイクル域における疲労強度低下要因は合金層にある。低サイクル域の溶融亜鉛めっき鋼材のStageIIの過程での破面形状は複数のき裂起点部から発生したき裂が合体し1つの主き裂を形成したため三日月状であった。

(4)溶融亜鉛めっき鋼材のη相を除去した時,高サイクル域における疲労強度は大きくなり,炭素鋼まま材の疲労強度と差が明瞭に小さくなった。このことから,高サイクル域における疲労強度低下要因となる組織はη相である。これはη相が軟質であるため,固執すべり帯の形成が容易であったためと考えられる。

謝辞

本研究の一部はJSPS科研費15K18232の助成を受けたものである。また破面解析をするにあたり,協力および助言頂いた物質・材料研究機構材料強度基準グループ小野嘉則氏と疲労腐食グループ小松誠幸氏に厚く感謝の意を表す。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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