Tetsu-to-Hagane
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Fundamentals of High Temperature Processes
Liquid Motion in a Solid-liquid Mixed Region under Imposition of Ultrasound
Kazuhiko Iwai Yoshitake Mano
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 8 Pages 778-784

Details
Synopsis:

Flow excitation in a solid-liquid mixed region surrounded by a solid layer is not easy because of difficulty of direct exertion of force on the liquid and large apparent viscosity. Ultrasound is expected as a flow excitation tool in the solid-liquid mixed region because it can transmit force from the outside of the surrounding solid layer. Thus, investigation on the liquid motion under the ultrasound imposition on the solid-liquid mixed region has been done in this study. Because of the large difference of acoustic impedance between an alumina and a polyacetal, they were chosen as the solid particles in the solid-liquid mixed region while water was chosen as the liquid. The superficial velocity in the solid-liquid mixed region increased as its length became shorter under the condition that the voltage on the ultrasound vibrator was constant. Apparent porosity under the imposition of the ultrasound was larger than the real porosity evaluated without the ultrasound when the water-alumina system was used, and the former increased as the solid-liquid mixed region length became shorter. On the other hand, the apparent porosity under the ultrasound imposition was only slightly larger than the real porosity without the ultrasound imposition in the case of the water-polyacetal system. The difference between these systems might be caused by the acoustic impedance difference between the alumina and the polyacetal.

1. 緒言

超音波は,外部から印加することで様々な媒質の内部に空間的時間的な圧力変動を与えることが可能であり,局所的な高温高圧場,キャビテーション,マイクロジェット,放射圧,音響流などの現象を発現させうる。これらの現象は工業的に有用な機能として活用可能である。例えば,Okumura1)は,水中に生じたキャビテーションの崩壊に伴うマイクロジェットによって,固相の溶解速度が増加することを見いだした。Kawakamiら2)は,気泡吹き込み用ノズルへの超音波印加が気泡を微細化させること,および気泡と液相との化学反応を促進させること,を明らかにした。Kobayashiら3)は水モデル実験および理論解析により,溶鋼からの脱ガスおよび微小介在物の除去についての検討を行った。Osawa and Sato4)は,超音波を用いて過共晶Al-Si合金を微細化させるとともに,微細化の理由は,鋳型壁や伝達子近傍で核生成が促進され,内部で生じた流動によって核が試料全体に拡がったためであると考察している。Nastac5)はアルミ合金を超音波処理したときの流動と凝固組織を数値計算により求めた。Komarov6)は,水および溶融アルミニウムを対象としてキャビテーションが生成する振幅の閾値を明らかにするとともに,超音波DC鋳造プロセスの最適化を行った。Yamakadoら7)は,固液界面近傍に電気化学的手法で形成させた濃度境界層がマイクロジェットによって薄くなることを直接観察した。Komarovら8,9)は高温実験によりスラグフォーミングに及ぼす音波の影響を調査するととともに,コールドモデルでスラグフォーム高さ制御の検討を行った。すなわち,超音波は化学反応促進1),気泡の微細化2)や微小介在物除去3),凝固組織制御46),濃度境界層低減7),スラグフォーミング制御8,9)など,多くの工業的な機能を有している。

一方,連鋳鋳片の最終凝固部である鋳片中心部分やインゴット中心部分は,相変態に伴う凝固収縮流,バルジングによる中心偏析やポロシティーなど,様々な欠陥が生じる。そこで,濃化溶鋼流動の適正化や凝固収縮箇所への溶鋼の適切な供給などを精緻に行う欠陥対策が必要である。超音波はそのような箇所の流動制御ツールとして期待しうる。印加方法としては,鋳片外部から固相を通して固液混相へ超音波を伝播させる手法が考えられるが,液相から固液界面へ向けて超音波印加する実験が,アルミの連続鋳造では行われている6)

超音波は,媒質間の界面において一部が透過,一部が反射する。半無限に拡がった媒質同士が平面界面を形成している場合,反射,透過の比率は,密度と音速の積である音響インピーダンスの関数として与えられる。一方,固液混相領域での界面における超音波の透過や反射は,固液各相の物性値のみならず,固液界面形状,固相率,超音波の入射角といった複数の因子に影響される非常に複雑な現象となる。例えば,微細な固相粒子を含む液中で励起される音響流の速度は,粒子材質が同一であっても複雑な粒子形状であれば球形粒子からなる固液混相媒体と比べて速い10),との報告があるが,その原因は明らかにされていない。すなわち,超音波印加が固液混相領域内の液相流動に対してどのような影響を及ぼすのかは未だ不明である。

そこで本研究では,固液混相領域へ超音波印加したときの液相挙動を解明するための基礎的な研究として,水を液相,高分子球あるいはセラミックス球を固相とした固液混相領域の液相挙動を観察可能な実験装置を構築して,固液混相領域の長さ,固相材質をパラメータとした実験を行ったので,それについて報告する。

2. 実験

2・1 実験方法

実験装置をFig.1に示す。内寸で横幅60 mm×奥行12 mm×高さ100 mmの透明な矩形アクリル容器の底部から高さ20 mmの位置にSUS304製金網(細線直径0.8 mm,20 mesh)を水平に設置した。この金網のメッシュサイズは,後述の固相球が通過せず,かつ液体の流動抵抗とならない寸法である。また,容器横幅方向中央に,同一材質の金網を容器底部から後述の液深よりも上部まで挿入して,左右の仕切りとした。仕切りの片側には,容器底部より20 mmの位置から所定の高さL(以降固液混相長さLとする)まで固体球を充填した後に,真空ポンプにより減圧脱気した工業用精製水(アズワンA300)をアクリル容器に注ぐことで固体球の存在する部分を固液混相領域とみなす実験系を構築した。そのときの工業用精製水の液面高さは,固液混相長さにかかわらず固液混相上端から20 mm上方で一定とした。なお,固液混相領域の下端から上端までの範囲において,仕切りとして上述の金網に加えてSUS304製平板をあわせて挿入し,工業用精製水の左右への移動が起きないようにした。超音波振動子に接続した直径10 mmのSUS304製超音波伝達子の先端を,固液混相領域の中央直上の液面に接触させることで,固液混相領域に超音波を印加した。超音波振動子への印加交流電圧は150 Vp-p,周波数は26.5 kHzである。流動が定常に到達したと推定される超音波印加後30秒以後に,伝達子と仕切りとの間の水面上部にシリンジの先端を置いて,インクをトレーサーとして投入し,容器内部の様子を容器側面からカメラで撮影することで,超音波によって生じる流動を観察した。本研究ではパラメータとして固液混相における固体球の直径dp,固液混相長さL,固体球の物性に着目した。Table 1に実験条件を示す。固体球として,アルミナ球またはポリアセタール(以降POMと表記する)球を用いた。その直径dpは2 mmまたは3 mmである。固液混相長さLの最小値は,直径2 mmの球で10 mm,直径3 mmの球で8.5 mmとして,アルミナ球に対しては最大60 mmまで,POM球に対しては最大40 mmまで,それぞれ10 mm間隔で変化させた。実験に用いた工業用精製水(H2O),アルミナ,POMの密度,音速,音響インピーダンスをTable 2に示す。水の音響インピーダンスに対するアルミナの音響インピーダンスの比率は約24倍であるのに対し,水の音響インピーダンスに対するPOMの音響インピーダンスの比率は約2.2倍と大きく異なる。

Fig. 1.

Experimental apparatus.

Table 1. Experimental conditions.
Solid MaterialAl2O3Polyacetal (POM)
diameter dp (mm)232
solid-liquid mixed region length L (mm)10, 20, 30, 40, 50, 608.5, 20, 30, 40, 50, 6010, 20, 30, 40
Table 2. Physical properties of solid materials and water.
Density
[kg/m3]
Sound velocity [m/s]Acoustic impedance [kg/(m2·s)]
H2O1.00 · 1031.50 · 1031.50 · 106
Al2O33.60 · 10310.0 · 10336.0 · 106
Polyacetal (POM)1.42 · 1032.32 · 1033.29 · 106

2・2 実験結果

固液混相長さが30 mm,アルミナ球直径が2 mmのときの流動観察結果をFig.2に示す。図中の(a),(b),(c)は,トレーサーとしてのインクを投入してから,それぞれ0 s,0.5 s,6 s経過したときの流動観察結果である。超音波伝達子の右側で投入されたインク(Fig.2(a))は伝達子直下へ向かって吸い込まれるような挙動を示し,伝達子直下に到達すると下方向へ向かって勢いよく流れ出た(Fig.2(b))。その後インクは固液混相領域上端に到達し,固液混相領域下端から流出した(Fig.2(c))。そして,インクは液相のみのアクリル容器右側へ向かった後に上昇した。すなわち,超音波伝達子下部に位置する固液混相領域内を下降して,液相のみの容器右側を上昇する循環流であった。これは,他の実験条件においても同様であった。

Fig. 2.

Observed fluid flow.

これらの画像データから,インクが固液混相領域上端に到達した時刻t1とインクが固液混相領域下端から流出した時刻t2を読み取り,その差t2-t1を固液混相領域通過時間とした。ここでは,固液混相長さLをその値で除した後に,固液混相領域の空隙率ϵで補正することにより,固液混相領域における空塔速度uを求めた。

  
u=ϵLt2t1(1)

得られた空塔速度を固液混相長さLの関数としてFig.3に示す。図中の白抜き記号は各実験データを,実線は中実記号で示された平均値を結ぶ線を,それぞれ示す。固液混相長さが短いほどデータのばらつきは大きい。また,多少のばらつきはあるものの,固液混相長さLが増加するほど平均の空塔速度は減少し,かつ,その減少度合いは固液混相長さが短いほど著しい。直径3 mmのアルミナ固体球の場合,平均の空塔速度は他の2条件に比べて速い。

Fig. 3.

Superficial velocity under various experimental conditions.

3. 考察

3・1 圧力損失

固液混相領域のレイノルズ数を次式で定義する。

  
Re=ρLudpη11ϵ(2)

ここで,ηρLはそれぞれ液相の粘性係数と密度である。

本実験におけるレイノルズ数は約3から685の範囲であった。そこで,空塔速度を以下に示すエルガン式に代入して,固液混相領域の圧力損失∆Pを計算した。なお,これ以降は平均値を用いてデータ整理を行った。

  
ΔPL=150η(1ε)2dp2ε3u+1.75ρL(1ε)dpε3u2(3)

エルガン式から得られた圧力損失をFig.4に示す。固体球がPOMの場合,固液混相長さが30 mm以下の範囲では,固液混相長さの増加に伴い圧力損失は減少し,30 mmと40 mmではほぼ同一の値となった。固体球がアルミナの場合,固液混相長さが10 mmから20 mmに増加する際に著しく圧力損失が減少し,その後,固液混相長さが30 mmから60 mmにかけて圧力損失は緩やかに減少した。また,固液混相長さが30 mmから60 mmまでの間の圧力損失は,固液混相長さに依存するものの,アルミナ固体球直径による違いはあまり見られなかった。直径が2 mmのアルミナ球とPOM球とを比較すると,固液混相長さが20 mmの場合を除いて,圧力損失はアルミナ球のほうが大きかった。

Fig. 4.

Pressure drop in solid-liquid mixed region.

3・2 見かけの空隙率

今回の実験において,超音波振動子への印加電圧は一定なので,超音波による流体駆動力∆PD(ここでは圧力の次元を持つものとする)は実験条件によらず一定と考えられる。また,今回の実験系において固液混相領域における圧力損失∆Pは,液相領域のそれに比べて著しく大きく,流動抵抗を支配すると考えられる。両者が釣り合えば,実験で得られた空塔速度からエルガン式を用いて計算される固液混相領域の圧力損失は一定となるものと予測される。一方,固液混相領域の圧力損失は,Fig.4に示す通り,固液混相領域長さが長くなるにつれて減少した。エルガン式で現れるパラメータのうち,固液混相長さ,液相の密度と粘性係数,固体球直径は超音波印加の有無によらず変化しない。そこで,超音波印加によって固体球の分布状態が変化することで,超音波印加時と無印加時とで空隙率が異なる値となり,圧力損失の長さ依存性が現れたと推測した。よって,以下の二つの仮定に基づいて,超音波印加時の見かけの空隙率ϵA(以降,見かけの空隙率と呼ぶ)を算出した。

・超音波印加時の固液混相の圧力損失∆Pは,音波による流体駆動力∆PDと等しい。

・固液混相領域が長くなるほど超音波の影響が弱くなり,ある長さに達したときに見かけの空隙率は超音波無印加時の空隙率(通常の空隙率を示すが,あえて超音波無印加時の空隙率と呼ぶ)と同一になる。

見かけの空隙率と超音波無印加時の空隙率とが等しくなるとき,超音波無印加時の空隙率をエルガン式に代入して得られる圧力損失は,超音波による流体駆動力∆PDと等しい。見かけの空隙率と超音波無印加時の空隙率とが同一となる固液混相長さであるが,Fig.4において固体球がPOMの場合は,固液混相長さが30 mm,40 mmで得られた圧力損失はほぼ同じ値となることから40 mm,アルミナ球の場合は60 mmとした。

見かけの空隙率を超音波無印加時の空隙率ϵとあわせてFig.5に示す。固体球がPOMの場合,超音波無印加時の空隙率に対して,見かけの空隙率はわずかに大きい程度である。一方,アルミナの場合,見かけの空隙率は固液混相長さが短いほど超音波無印加時の空隙率より大きくなった。これは,固液混相長さが短いほど,超音波印加により流動抵抗が減少したことを意味する。また,固液混相長さが同一のときの見かけの空隙率は,POM球に比べてアルミナ球のほうが大きな値となった。

Fig. 5.

Porosity without ultrasound and apparent porosity with ultrasound.

3・3 みかけの空隙率が物理的に可能か否かの検討

上述の計算で得られた見かけの空隙率の最大値は約0.84であった。そこで,見かけの空隙率が今回の実験条件で物理的に可能か否かについて検討した。検討に当たって,固液混相領域に超音波を印加すると,空隙率が異なる二領域が並列に並んだ状態となり,それぞれの領域でエルガン式が成立する,と仮定した。具体的には,Fig.6に示すように容器幅a,奥行きb,長さL,超音波無印加時の空隙率がεである固液混相領域に超音波を印加すると,超音波無印加時の空隙率εより小さな空隙率ϵS(固相体積VS)の領域の割合がα,大きな空隙率ϵL(固相体積VL)の領域の割合がβ(=1−α)である,空隙率の異なる二領域に分かれるものと仮定した。空隙率ϵϵSϵL,固相体積VVSVL,固液混相領域の寸法abL,空隙率の大きな領域が占める割合βには以下の関係式が成立する。

  
VS=(1ϵS)(1β)abL(4)
  
VL=(1ϵL)βabL(5)
  
V=VS+VL(6)
  
V=(1ϵ)abL(7)
Fig. 6.

Analytical model for evaluation of apparent porosity in mixed bed under ultrasound imposition.

このうち,新たに導入した未知数,ϵSϵLVSVLβに関する関係式は(4)−(6)の三式である。それらと式(7)を組み合わせて,VSVLVを消去して,ϵSϵLβの間に成立する関係式を得る。

  
1β=ϵLϵϵLϵS(8)

更に,実験データから得られた空塔速度uは,大きな空隙率を有する領域の空塔速度uLに等しいと仮定する。固液混相領域における圧力損失∆Pは超音波の液体駆動力∆PDと等しいものとして,見かけの空隙率ϵAを空塔速度uから既に求めているので,この仮定は,空隙率の大きな領域の空隙率ϵLは,見かけの空隙率ϵAに等しく,かつ,固液混相領域における圧力損失∆Pは,超音波の液体駆動力∆PDに等しい,との仮定を同時に含むこととなる。

  
u=uL(9)
  
ϵL=ϵA(10)
  
ΔP=ΔPD(11)

また,空隙率の小さな領域の圧力損失∆P,空塔速度uSもエルガン式を満足するものとする。

  
ΔPL=150η(1ϵS)2dp2ϵS3uS+1.75ρL(1ϵS)dpϵS3uS2(12)

以上より,六つの未知数∆PuSuLϵSϵLβに対して式(8)−(12)の五つの関係式が与えられることとなる。そこで,球を最密充填したときの値である0.26を小さな空隙率ϵSとして,解を求めたところ,固体球がPOMで固液混相長さが30 mmのとき以外は,全て上述の式(8)−(12)を満足する解が存在した。固体球がPOMで固液混相長さが30 mmの場合には,大きな空隙率の領域の割合βが1.016と1をわずかに超えた。このときの超音波無印加時の空隙率と見かけの空隙率はFig.5に示す通りほぼ同一なので,これは計算誤差の範囲内と推察される。超音波無印加時の空隙率εよりも大きな空隙率の領域の割合であるβの計算結果を固液混相長さの関数としてFig.7に示す。固体球がPOMの場合,大きな空隙率の領域の割合であるβは0.8以上であるが,見かけの空隙率と超音波無印加時の空隙率とは大差ないので,実質的にはFig.6に示した2領域はほぼ同一と見なせる。アルミナ球の場合も,直径によらず固液混相長さが長くなるほど,大きな空隙率の割合であるβは増加する。一方,Fig.5で示した通り,アルミナ球の場合は固液混相長さが短いほど空隙率の大きな領域の空隙率は超音波無印加時の空隙率に比べて相対的に大きくなるので,液相が容易に通過しやすくなり,空塔速度が増加したとみなすことができる。ここでは,小さな空隙率の領域に関して実験からの情報がないので,そこの空隙率を一定値(0.26)と仮定して得られた結果であることに注意しなくてはならない。しかしながら,この解析から,超音波を固液混相領域に印加することで,空隙率の異なる二領域が並列した状態になるとすれば,見かけの空隙率が0.84という大きな値でさえ,物理的には可能であることが明らかとなった。実際には,Fig.6に示すように,空隙率の大きな領域と小さな領域とが大きく二分割している必要はなく,Fig.8に示す通り,それぞれの領域の一つ一つは小さく,それらがまだらに多数分布していても良い。すなわち,液相が容易に通過可能な太い流路が数多く形成されることで,空塔速度が増加したものと推測される。

Fig. 7.

Ratio of large porosity region.

Fig. 8.

Liquid flow path in solid-liquid mixed layer.

3・4 固体球が運動する駆動力の検討

超音波印加によって,固液混相領域内の固体球の分布状態,すなわち,空隙率が変化するためには,何らかの外力が固体球に作用することで,固相球が配列を変えることが必要である。超音波印加時に球に加わる外力としては,液相流動による抗力,音響放射圧が考えられる。そこで,最初に液相流動による抗力について検討した。流速u1で一様に流れている密度ρLの液体中に置かれた半径aの固体球に作用する抗力Dを球の単位断面積当たりで規格化した値は次式で与えられる。

  
Dπa2=12ρLCDu12(13)

ここで,CDは抗力係数である。

実験で観測されたインクの通過時間で固液混相長さを除した値を流速u1として,実験における最大流速である0.27 m/sとそのときのアルミナ球直径である3 mmから,単位断面積当たりの抗力D/πa2を求めると約16 Paとなった。本実験では,この値が液相流動による抗力の最大値である。

次に,固体球に加わる音響放射圧の評価を行った。半無限に拡がった音速c1,密度ρ1の媒質1と,同じく半無限に拡がった音速c2,密度ρ2である媒質2とが平面で接しているとき,媒質1内のある領域をビーム状に進行する超音波が媒質2との界面に到達すれば,その一部は透過し残りは反射する。直交入射のときのLangevinの音響放射圧∆PLは,Lee and Wangによれば次式で与えられる11)

  
ΔPL=2Ei(1+Z)2(1+Z22c1c2Z)(14)
  
Z=ρ1c1/c2ρ2(15)
  
Ei=A22ρ1c12(16)

ここで,Eiは入射波のエネルギー,Aは圧力変動の振幅をそれぞれ示す。

振動子の振幅を5 μmとして,水からアルミナへ超音波が入射するときの音響放射圧を計算すると約700 Paとなるが,この値は液相流動による抗力の最大値である16 Paの約44倍である。振動子の振幅を10 μmとすれば,音響放射圧は約2800 Paであり,液相流動による抗力の最大値の約175倍である。以上のことから,固体球に加わる外力は音響放射圧であると推定される。

固液混相領域内の固液界面は複雑な形状を呈するが,超音波はそこで一部が透過,残りは反射する。よって,反射波が他の固体球に再度入射する,あるいは固体を通過した透過波が再び他の固体球に入射することにより,固体球にはあらゆる方向から音響放射圧が作用することとなる。固体球にはそれらを合成した応力が作用する(Fig.9)。固体球に作用する合力が超音波の初期の進行方向とは直交する方向の成分を有しており,かつ他の固体球が移動の妨げにならなければ,固体球の移動によって超音波は固液混相領域のより内部にまで浸透することとなり,その先に存在する固体球に音響放射圧を及ぼすこととなる。従って,Fig.8に示すような,局所的に空隙率の高い領域が超音波の初期の進行方向に連なった形態に固液混相領域の内部が変化したものと推測される。固液混相長さが短いほど超音波の影響が大きかった理由であるが,上述の通り,超音波は固液界面で透過,反射をしながら固液混相の下部へ伝播するので,固液混相領域の下部ほど超音波が伝播しにくくなるためであると考えられる。また,Fig.3において固液混相長さが短いほど空塔速度のばらつきが大きかったのは,固体球が運動していて定常状態,あるいは安定状態になりにくかったためと解釈できる。

Fig. 9.

Movement of particle by radiation pressure and further penetration of ultrasound.

アルミナ球の直径の効果であるが,得られた結果の解釈については,今後検討が必要である。

アルミナ球とPOM球との違いについて述べる。上述の式(14)−(16)から,水からアルミナへ超音波が入射するときの音響放射圧は,水からPOMへ平面超音波が入射するときの音響放射圧に対して約3.1倍大きいとの計算結果を得た。これからアルミナ球とPOM球の加速度を求めると,両者の比率は約1.22倍であり,大差ない。今回の実験系のように固体球が多くあり,固液混相領域内における超音波の透過,反射が複雑な系では,Fig.9に示すような斜め入射も起こりうる。水から入射するときの臨界角は,アルミナで約9度,POMで約40度なので,アルミナはPOMに比べて全反射する確率が高く,音響放射圧が作用しやすい。また,直交入射から臨界角入射までの間の音圧の反射率は,アルミナで0.92以上である一方,POMでは直交入射で約0.37,臨界角に比較的近い35度でさえ0.59と小さな値なので,音響放射圧の値そのものが小さくなることが推測される。以上のことから,同一エネルギー密度の超音波であれば,超音波による音響放射圧の影響をPOM球に比べてアルミナ球は受けやすく,Fig.8に示すような局所的に空隙率の高い領域を形成しやすかったものと考えられる。

ここでは,固体球を運動させる駆動力の観点から議論した。一方,超音波により作り出された下向きの水流は周囲の水を巻き込みながら幅を拡げてゆく。ここまで議論してきた音響放射圧が固体球を運動させる効果と比較してこの影響が大きいのか小さいのかは現時点で不明であり,今後の課題である。

4. 結言

外部を固相に囲まれた固液混相領域へ超音波を印加することで流動誘起が期待される。そこで,本研究では液相として水,固相としてPOM球,あるいはアルミナ球から構成される固液混相領域の液相挙動を観察可能な実験系を構築して,そこへ超音波印加したときの液相の挙動解明を行った。得られた主な知見は以下の通りである。

(1)超音波への印加電圧が一定の条件下において,固液混相内の空塔速度は固液混相長さが短いほど速くなった。

(2)固相がアルミナ球の時,超音波印加時の見かけの空隙率は増加し,その増加度合いは,固液混相長さが短いほど大きかった。一方,固相がPOM球の時,超音波印加時の見かけの空隙率は超音波無印加時と大きな差がなかった。よって,超音波印加時の固体の物性値に依存すると推測される。

謝辞

本研究の一部は第25回日本鉄鋼協会鉄鋼研究振興助成金によるものであることをここに記し,謝意を表します。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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