Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Forming Processing and Thermomechanical Treatment
An Online Rolling Model for Plate Mill Using Parallel Computation
Takayuki Otsuka Masashi SakamotoYasuyuki TakamachiYasuhiro HigashidaYuji SegawaShohta Takeshima
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 8 Pages 812-818

Details
Synopsis:

A new online rolling model of the draft schedule setup for a plate mill has been developed. This model comprises plate temperature, rolling force function and flow stress calculations and their coupling for the roll separating force estimation. The roll separating force calculation is also used when the work roll gap control is made realising a precise plate thickness control for each rolling pass, which is often referred to as an adaptive control. The temperature model and roll separating force model, as well as its inverse calculation (calculate entry thickness from exit thickness and given roll separating force), are involved in the draft schedule setup calculations. Plate rolling is carried out according to the setup calculation results and thus the product plate quality is largely attributable to the setup calculation preciseness. In this model, a one dimensional finite element model is employed to the temperature calculation that enables a precise temperature control which is necessary for the Controlled Rolling (CR) technology. Another development includes the rolling force function model; a new mathematical model which takes the peening effect into account, derived from the three-dimensional rigid-plastic finite element calculations. Finally, a flow stress model is developed taking into account the metallurgical nature such as work hardening, recrystallization and recovery. The coupling of these models allows to a physical based precise model without unnecessary artificial fitting parameters.

In addition, for eliminating the convergence loop, an attempt has been made introducing a multi thread computing using General Purpose computing on Graphic Processing Unit (GPGPU). Thanks to this parallel computing technique, the computational time was remarkably reduced. The model was installed in a process computer and some trial rolling tests were conducted.

1. 緒言

厚鋼板は,造船分野,橋梁分野,建築構造物や掘削工具などの幅広い分野で使用される鋼材である。厚板における品質の向上は,構造物の安全性や信頼性の観点から非常に重要であり,従来から成分や熱処理(焼入れ,焼戻し,焼ならし,焼きなまし等)による組織制御が行われてきた。近年では,制御圧延:Thermo-Mechanical-Control-Process(TMCP)と呼ばれる熱間圧延ラインにおける温度制御により微細組織を達成するプロセスが発展している1)。TMCPでは,Controlled Rolling(CR)と呼ばれる圧延中の温度制御によって厚板材の組織制御を行い,機械特性を向上させる。一方で,TMCPでは圧延ラインでの複雑な温度制御が要求されるため,しばしば生産性の悪化や歩留りロスを伴っていた。このため,精緻な制御モデルが必要となり,荷重モデルを含む圧延スケジュールモデルの開発がなされてきた2)

本報告では設定計算モデル(スラブ厚または粗圧延終了後の板厚から製品厚までの圧延スケジュール計算:圧延前に実施)と適応制御モデル(次パス作業ロール間隙設定計算:圧延中に実施)の開発と適用例について述べる。本モデルには,温度,圧下力関数および流動応力モデルが含まれており,圧延条件や圧延材の材質変化を考慮している。設定計算では各圧延パスにおける板厚目標値が最終パスまで設定される。ここで,厚板仕上げ圧延は,薄板熱間仕上げ圧延と異なり,圧延パス数が固定ではなく,板毎に設備や圧延材の制約のもと,自由にパス数の設定が可能という特徴がある。このため,設定計算の自由度が高く,一般的には計算負荷が高い。したがって,本研究ではGeneral Purpose computing on Graphic Processing Unit(GPGPU)を用いた並列計算により計算時間短縮を図る。以下では,GPGPUを用いた設定計算のアルゴリズムとその適用例について述べる。

2. オンラインモデル

2・1 モデル概要

板厚設定計算では,製品厚を得るまでの圧延パス数と各パスでの板厚目標値を計算する。このとき,同時に温度計算も実施し品質精度も同時に担保する。一方,適応制御計算においては,設定計算で決定された次パスの目標板厚を実現するための作業ロール間隙計算,すなわち圧延荷重とミルストレッチ計算を実施する。このとき,当該パスまでの経過時間やデスケーリングの適用など,実際の圧延実績が適用される。

設定計算および適応制御計算モデルでは,圧延荷重予測を実施する。そのためには,圧延材の板厚方向温度分布計算結果をもとに,流動応力計算を実施する。ここで,流動応力は圧延材のミクロ組織に依存するため,圧延中のミクロ組織変化を予測することが必要となる。例えば,圧延中には加工硬化により圧延荷重は増大するが,圧延後には回復や再結晶によって一旦硬化した材料は徐々に軟化する。Nbなどの析出物を生成する元素によってこれらの現象は影響を受けるが,何れの場合も正確な流動応力予測には,これらの現象の考慮が必要である。さらに,圧下力関数も圧延荷重の予測には重要である。圧下力関数とは,表層からのせん断の影響等を考慮した,単純圧縮に比した圧延加工の荷重増加割合であり,形状比や摩擦係数などの関数となる。従って,流動応力と圧下力関数は圧延荷重予測モデルには必要な要素である。厚板圧延における設定計算においては,圧延パス数が事前に決定されていないために,多自由度の解から,荷重,トルクや形状(クラウン比率一定)などの条件のもと,最少パス数で圧延を完了させる解を導く困難さがある。特に計算負荷の増大は不可避である。このため,本研究ではGPGPUを用いた並列計算を導入する。

2・2 温度

温度計算は圧延材の板厚方向1次元有限要素法により行う。板厚方向の熱伝導方程式は以下のようになる。

  
ρcTt=x(kTx)+L˙(1)

ここで,ρは密度,cは比熱,kは熱伝導率,L˙は単位時間における発熱量(加工発熱)である。本熱伝導方程式を有限要素方程式として以下のように離散化する。

  
e { ( V k ( [ ] T [ N ] ) T [ ] T [ N ]dV + S h [ N ] T [ N ]dS ){ T }+( V ρc [ N ] T [ N ]dV ){ T ˙ } } S h[ N ] T 0 dS S [ N ] L ˙ dV =0 (2)

hは熱伝達係数,T0は雰囲気温度,Nは以下に示す1次の形状関数である。

  
[N]=12[1ξ,1+ξ](3)

ここで,−1≤ξ≤1である。

そこで,下記のように定義し

  
[H]=Vk([]T[N])T[]T[N]dV+Sh[N]T[N]dS[P]=Vρc[N]T[N]dV{Q}=V[N]L˙dV{f}=Sh[N]T0dS(4)

さらに,Δt間での温度変化を以下のように線形近似する。

  
{T˙}={T}t{T}tΔtΔt,(5)

このとき,陰解法での有限要素方程式は以下のように表され,

  
([H]+[P]Δt){T}t=[P]Δt+{Q}+{f}(6)

式(4)のマトリクス形式は,以下で与えられる3)

  
[ H ]= elem ( k [ 1 1 1 1 ]+μh[ 1 0 0 0 ]+νh[ 0 0 0 1 ] ) [ P ]= elem ρc 6 [ 2 1 1 2 ] { Q }= elem L ˙ { 1 1 } { f }= elem ( μh T 0 { 1 0 }+νh T 0 { 0 1 } ), (7)

ここで,ℓは1要素の長さであり,μνは境界で1,その他で0となるような変数である。境界条件は,放射,対流,デスケーリング水による水冷,作業ロールとの接触抜熱,摩擦発熱を考慮する。実際の計算では,これらの境界条件は等価な熱伝達係数として処理される。

2・3 流動応力

材料の流動応力を定量的に予測するために,圧延中のミクロ組織変化を計算する。流動応力σは以下のBailey-Hirschの式4)から計算できる。

  
σ=αGb(ρdρ0)12(8)

ここで,ρdρ0は現在および初期の転位密度であり,Gはせん断弾性係数,bはバーガースベクトル,αはフィッティングパラメータである。式(8)におけるρdは,時間,温度および圧延条件の関数となる圧延プロセスを通じて計算される。以下にその手法について述べる。

転位密度は圧延加工による加工硬化に応じて上昇し,パス間においては静的回復や静的再結晶によって減少する58)。初めに,静的回復について述べる。静的回復では,転位密度ρrが時間tによって下記のように減少する。

  
ρr=(ρd(i1)ρ0)exp(dt)+ρ0(9)

ただし,ρd(i–1)は前パスと静的回復が発現する直前までの平均転位密度であり,ρ0は飽和転位密度,dは以下で定義される静的回復速度を規定する変数である。

  
d=d0exp(CNbT)Dr(i1)mdexp(Qd/RTb)(10)

ここで,d0は静的回復率を決定する材料定数であり,NbTは等価Nb量,Dr(i–1) は前パスにおける平均結晶粒径,Rは気体定数,CmdおよびQdは定数である。

次に,静的再結晶について述べる。50%再結晶完了までの時間9)t0.5を用いて,再結晶分率X,再結晶粒径Drecおよび平均粒径D'γは以下のように与えられる。

  
X=1exp(β(t/t0.5)2)Drec=g0Dγ(i1)mgεα(i1)ngXlgD'γ=DrecX+Dγ(i1)(1X)(11)

ここで,εngα(i–1)は静的再結晶開始前までの累積ひずみであり,t0βg0mgnglgはパラメータである。式(11)は増分型で示した方が便利である。このとき,t0.5は温度の関数であることを考慮すると,静的再結晶分率速度は以下のようになる。

  
dX=2β(t/t0.5)/t0.5exp(β(t/t0.5)2)dt(12)

式(12)をパス間時間で積分することで次パス直前の静的再結晶分率を得る。このパス間ではデスケーリングや空冷などの影響で温度が変化することを考慮する。結晶粒径予測と同様に考えると,再結晶後の転位密度ρ'は以下のようになる。

  
ρ=Xρ0+(1X)ρr(13)

厚板圧延においては,1パスの圧下率が大きくないため,動的再結晶が起こる頻度は低いと考えられる。そこで,本研究では動的再結晶の効果は無視できるとし,圧延中は加工硬化と動的回復のみが発現すると仮定する。このとき,圧延中の転位密度ρdは,

  
ρd=bε˙/c(1exp(cεa/ε˙))+ρ0(14)

となる。このとき,加工硬化と動的回復を表す係数bcはそれぞれ以下のようになる。

  
b=b0exp(ANbT)D'rmbε˙nbexp(Qb/RTr)(15)
  
c=c0exp(BNbT)D'rmcε˙ncexp(Qc/RTr)(16)

ここで,D'rは再結晶粒の平均結晶粒径,ε˙は圧延中の平均ひずみ速度,Trは圧延中の圧延材平均温度であり,b0c0ABmbmcnbncQbおよびQcはパラメータである。

一方,累積ひずみεaについては,多パス圧延の場合には,前パスまでの残留ひずみεrを考慮する必要がある。この残留ひずみεrは以下の式で与えられる。

  
εr=(ε˙/c)ln(1(ρρ0)c/bε˙).(17)

以上のモデルを用いることによって,圧延ラインにおける鋼材のメタラジー現象を考慮した流動応力予測が可能となる。また,この中にはNbに代表されるマイクロアロイと呼ばれる元素が作る析出物によるピンニング効果の再結晶や結晶粒径への影響も考慮される。また,Tiなどのマイクロアロイについては,等価Nb量として処理される。以上に示したパラメータの値をTable 159)に示す。これらのパラメータは,例えば単軸圧縮試験58)などによって同定することが可能である。すなわち,式(14)のcを解析的に求め,この値を用いて式(16)に示すパラメータを実験値から同定する。cが得られれば,式(8)のαや式(14)のbが求まり,関連する式(15)のパラメータが求まる。

Table 1. Parameters for flow stress59).
Parameter symbolsValues
α1.83
ρ01.0 × 10–6 mm–2
d01.06 × 10–9 s–1
C–85.6 mass%–1
md–0.9
Qd–1.8 × 105 J∙K–1∙mol–1
R8.31 m2∙kg∙s–2∙K–1∙mol–1
β0.693
g05.17 μm
mg0.29
ng–0.75
g0.29
b01.33×107 mm–2
A0.92 mass%–1
mb–0.207
nb0.105
Qb3.41×104 J∙K–1∙mol–1
c01.44×102 s–1
B–4.3 mass%–1
mc–0.182
nc1.02
Qc–1.82×104 J∙K–1∙mol–1

2・4 圧下力関数

圧延中の変形様態は,引張りや平面ひずみ加工のように単純ではなく,一般的に,圧延線荷重は変形抵抗と接触長との積とかい離する。このため,圧下力関数と呼ばれる値を用いて,このかい離を埋める手法が取られている。Orowanは,圧延法の不均一変形を,スラブ法を用いて方程式として与え10),Bland and Ford11)およびSims12)はOrowanの近似解を示しており,薄板圧延ではしばしば利用されている。しかし,厚板圧延においては,Orowan自身も論文中で言及しているように13),Orowanの式では,ピーニング効果14)と呼ばれる形状比(接触長と平均板厚との比)が1未満の領域で起こる圧延荷重の増大効果を考慮できていないため,しばしば圧延荷重予測精度が悪化することがある。そこで,ここでは,平面ひずみを仮定した2次元有限要素圧延解析を実施し15),形状比と圧延荷重との関係を整理し,以下の形式の圧下力関数を用いることとする。

  
Q=Axga+gb+B/x2(18)

ここで,x=C(ΓD),Γは形状比,ABCおよびDは定数であり,gaおよびgbはそれぞれ高形状比側の圧下力関数の傾きと切片であり。これらの値はそれぞれ,摩擦係数μ,噛み込み角ϕおよび圧延素材の加工硬化指数nの関数となっている。この圧下力関数の形状比に対する一例をFig.1に示す。式(18)のピーニング効果(B/x2の項)が低形状比側で示されている。本研究で使用する式(18)中のパラメータをTable 2にまとめて示す。

Fig. 1.

Relation between shape factor and rolling force function.

Table 2. Parameters for rolling function.
Parameter symbolsValues
a0.602
b0.230
c0.209
ga–0.032φ + 1.12
gb1.176

3. アルゴリズム

以上に示す要素モデルを用いて,圧延荷重を計算する。このとき,圧延荷重は以下の式で表される。

  
P=kmQldW(19)

ここで,kmは2次元変形抵抗,Wldはそれぞれ板幅と接触長である。接触長ldは作業ロールの偏平変形に影響を受け,作業ロールの偏平変形は圧延荷重に影響を受け,圧延荷重は接触長に影響を受けるため,式(19)は収束計算によって解を求める必要がある。これらの計算シーケンスをFig.2にまとめる。この圧延荷重は,次パスの作業ロール間隙設定(適応制御モデル)に使用される。作業ロールの偏平変形は,厚板の場合,以下のHitchcockのモデル

  
R=(1+C0ΔhP)R,C0=16(1ν2)πE,(20)

を用いることで計算できる16,17)。ここで,R'は作業ロールの偏平半径,Rは作業ロールの初期ロール半径,Δhは圧下量,νEはそれぞれ作業ロールのポアソン比とヤング率であり,ここでは,ν=0.3,E=205 GPaを用いる。

Fig. 2.

Flow of rolling separating force calculation.

一方,設定計算モデルでは,仮スケジュールの構築と検証の繰り返し作業によって実際の板厚・温度スケジュールが決定される。厚板の設定計算では,製品厚,圧延荷重およびトルク(圧延機能力の最大利用を仮定),製品の平坦度制約をインプットとし,各パスにおける入側板厚を計算していく。このとき,初回の試行では,各パスの温度や変形抵抗は不明であるため,経験的に決定した値からスタートする。この計算によって当初の板厚スケジュールが決定されると,次に初期厚(スラブ厚または粗厚)から製品厚までの詳細計算を行い,温度や変形抵抗を補正する。この作業を温度や変形抵抗が収束するまで繰り返すことによって板厚・温度スケジュールが決定される。本アルゴリズムの簡単な説明をFig.3に示す。また,本モデルを用いて計算した,厚板熱間圧延ラインにおける板の温度,転位密度変化を示したものがFig.4である。Fig.4のCR startおよびCR endは温度調整前後のパスを示し,このパス間に空冷あるいは水冷を行い,目標温度を達成する。この温度はオーステナイト域の再結晶温度となる。この結果から,先行の圧延工程によって導入されたひずみは制御圧延における温度調整時にほぼ初期状態になり,制御圧延時の温度調整直後の圧延では荷重が下がっていることが分かる。

Fig. 3.

Convergence flow of entry thickness calculation.

Fig. 4.

Variation of temperature and roll separating force (comparison between adaptive control prediction and measured ones).

4. GPGPUを用いた並列設定計算モデル

4・1 計算時間

以上でのべたモデルを厚板プロセス計算機に導入し,実際の圧延材についてスラブ厚から製品厚までの一連の設定計算を実施したところ,90.4 sの計算時間がかかり,プロセス計算機における設定計算の許容時間である2.0 sを大きく超過した。これを薄板熱延における場合と比較するとTable 3のようになり,反復法による収束計算の場合,厚板の最適な板厚スケジュールを得るには計算速度が十分でない。そこで,本アルゴリズムにおいて計算負荷が高い部分を調査したところ,Fig.5に示すとおり出側板厚をインプットとして入側板厚を算出する収束計算にCPUの95%を占めた計算負荷がかかっていることが判明した。そこで,この収束計算の計算時間低減を図り,以下ではGPGPUを用いた並列化を検討する。本研究で用いたGPGPUの仕様をTable 4に示す。

Fig. 5.

Estimation of CPU time for each module.

Table 3. Comparison of rolling setup model between plate mill and hot strip mill (before GPGPU application).
Rolling setup model
Plate millHot strip mill
Number of roll separating force calculation32000 times560 times
Number of temperature calculation112 times64 times
Max. calculationtime (industrial requirements)2.0 s7.0 s
Max. calculation time90.4 s
(sequential version)
5.0 s
Table 4. Details of computer system used in the research.
OSCentOS release 6.5 (Final) 2.6.32-431.23.3.el6.x86_64
CPUIntel (R) Xeon (R) CPU E5-2637 v3 @ 3.50 GHz
GPUNVIDIA Tesla K40c
CUDA Driver Version / Runtime Version7.5 / 6.5
CUDA Capability Major/Minor version number3.5
Total amount of global memory11520 MBytes (12079136768 bytes)
(15) Multiprocessors, (192) CUDA Cores/MP2880 CUDA Cores
GPU Clock rate745 MHz (0.75 GHz)
Memory Clock rate3004 Mhz
Maximum number of threads per multiprocessor2048
Maximum number of threads per block1024

4・2 GPGPUを用いた並列計算

繰り返し収束計算による入側板厚算出において,収束が達成されるまで常に30回以上の反復計算を実施しており,非常に多くの計算時間を要していることから,この部分の並列化を志向する(Fig.3に示すhinの繰り返し計算を並列化する)。1パスでの最大圧下量を40 mmと設定し,出側板厚から出側板厚+40 mmまで0.08 mmおきに入側板厚を設定すると,500回の計算試行で全ての計算が完了する。そこで,GPGPUを用いて入側板厚から出側まで500スレッドを利用し,すべての試行計算を実施し,荷重やトルクが最適となる入側板厚を選択することとする。一方で,精緻な荷重計算のためには,0.08 mmの板厚メッシュでは不十分である。このため,一回目のGPU計算において0.08 mmの精度で最適値を算出し,この0.08 mmの範囲内で二回目の500スレッドでの計算を実施することで,1 μm以下の精度で入側板厚を算出することが可能となる。これらの一連の計算を実施した場合,50回以上の反復計算にも及ぶ場合がある収束計算において,常に2回の計算で入側板厚の算出が可能となり,2 s以内で全ての設定計算が完了することが分かった。

5. 実圧延荷重との比較

設定計算では,実際の圧延条件から圧延時間等が異なる可能性があることから,ここでは適応制御計算での荷重予測結果と,試圧延時の実圧延荷重とを比較することでモデルの精度を検証する。既にFig.4に示しているとおり,中間冷却後の圧延時においても,本モデルによって精度のよい圧延荷重予測が可能となっている。この理由として,熱間圧延ライン上における転位の蓄積や,回復や再結晶などによる減少を逐次予測することによって,パス間時間や中間冷却の影響があっても,Fig.6に示すとおり,精度よく圧延荷重を予測できるということがあげられる。

Fig. 6.

Evolution of temperature and dislocation density in conjunction with thickness change by rolling.

次に設定計算への適用について述べる。適応制御計算においては,圧延速度やデスケーリング回数,中間冷却条件などが既知となるが,設定計算時にはこれらの値は予測値となる。これは,適応制御計算においては,圧延後に再現計算がなされるためであり,一方,設定計算では圧延が開始される前に計算が実行されるためである。このことから,設定計算モデルは適応制御モデルに比べて精度の確保が難しい。Fig.7に設定計算,適応制御計算および実圧延での荷重・温度結果を示す。この結果から,適応制御計算においては実荷重や温度を精度よく再現できていることが分かる。一方で,設定計算結果は,測定結果よりも高い温度を予測しており,荷重予測値も実圧延時よりも低い値となっている。この原因は,設定計算時に仮定したデスケーリング回数よりも,実圧延で実施したデスケーリング回数の方が多かったためである。しかし,このような差があるものの,実圧延に使用する設定計算精度としては十分な精度を示しており,設定計算においても,並列化によって実装可能な計算時間内で精度よく圧延スケジュールが組めることが分かる。

Fig. 7.

Comparison of temperature and roll separating force among setup, adaptive control model and measurement.

6. 結論

厚板熱間圧延ラインにおけるミクロ組織変化を考慮した適応制御モデルおよび設定計算モデルを開発した。本モデルでは,中間冷却があるような制御圧延においても精度よく流動応力の計算が可能となっている。設定計算モデルにおいては,出側板厚から入側板厚を算出する逆計算において,収束計算で計算負荷が増大した。このため,GPGPUを用いた並列計算により数多くの入側板厚の候補から最適解を選択する方法を採用し,工業的に使用可能なプロセス計算機で2 s以内での圧延スケジュール算出を可能とした。本モデルを用いた設定計算および適応制御計算による試験材圧延を実施し,工業的に十分な精度での板厚圧延を実現した。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top