Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Surface Treatment and Corrosion
Preparation of Porous Ni Catalysts from Ni-Ti Amorphous Alloy and Their Application in Hydrogen Production from Hydrogen Carrier Molecule
Yasutaka KuwaharaTasuku YasuokaAi NozakiTetsutaro OhmichiKohsuke MoriHiromi Yamashita
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 9 Pages 893-899

Details
Synopsis:

Skeletal Ni catalysts were prepared by the combined process of thermal treatment, mechanical milling, and dealloying using Ni40Ti60 amorphous alloy as a starting material. The influence of processing sequence on the catalytic activity of the prepared catalyst was investigated. The skeletal Ni catalyst prepared via i) thermal treatment at around the crystallization temperature (ca. 743 K), ii) mechanical milling, iii) dealloying by immersion in 1.0 mol/L HF aqueous solution showed the highest catalytic activity in the dehydrogenation reaction from ammonia borane compared with other skeletal Ni analogues prepared via different processing sequences. Thermal treatment around the crystallization temperature caused atomic rearrangement, which lead to a formation of electron-deficient Ni species on the surface of skeletal Ni alloy after dealloying treatment. SEM morphological observation and surface-area measurement indicated that thermal treatment decreased mechanical strength of the Ni-Ti alloy and that mechanical milling allowed the formation of finer Ni-Ti particles, which facilitated the formation of high-surface-area skeletal Ni after dealloying treatment. We found that processing sequence on Ni-Ti amorphous alloy made drastic impacts on surface area and electronic state of the resulting skeletal Ni, which consequently affected the catalytic performance in the dehydrogenation reaction.

1. 緒言

アモルファス合金は長範囲的に無秩序な原子配列と等方均一性を有し,従来の結晶性合金とは異なるユニークな性質を持つ15)。近年では,アモルファス合金が触媒や触媒の前駆体として利用され,水素化反応,酸化反応等の様々な化学反応において結晶性合金よりも優れた触媒活性を示すことが報告されている614)。バルク金属を触媒に利用する際の最大の欠点はその低い表面積にある。金属材料の高表面積化のため多元系合金から化学的処理によって特定金属を選択抽出し,多孔質金属を得る脱合金化処理が古くから利用されてきた15,16)。一方で,アモルファス合金に熱処理を施すと構造緩和,準安定相の析出といった複雑な結晶化過程を経て結晶合金に遷移することが知られている17)。即ち,アモルファス合金に熱処理を施した合金を多孔質金属触媒の前駆体として用いた場合,高表面積化だけでなく,アモルファス相から結晶相への遷移過程で形成される特異な原子配列・電子状態の形成により触媒活性が大きく変化する可能性がある。

本研究では,Ni40Ti60アモルファス合金を出発原料として用い,熱処理,粉砕処理,HF水溶液による脱合金化処理を様々な条件・順序で組み合わせることで多孔質Niを作製し,各処理の条件・順序が多孔質Niの微細構造および触媒特性に及ぼす影響について調査した。Ni-Ti合金は複数の中間相を有するが,急冷処理により比較的容易にアモルファス化し,またHF水溶液を用いた化学処理によりTiが選択的に抽出され,多孔質Niが得られることが知られている18)。作製した多孔質Niの触媒性能評価はアンモニアボラン(NH3BH3)の脱水素反応による水素生成により行った。水素は次世代エネルギー源として脚光を浴びているが,爆発性が高く常温で気体であるため,水素化物へと変換して水素を安全に貯蔵・運搬し,必要に応じて水素を発生できる化学的水素貯蔵・発生システムが有望視されている1922)。中でも,アンモニアボランは高い水素貯蔵量(19.6 wt.%)を有し,常温で安定な固体として存在し,非可燃性・非爆発性・非毒性であるため有望な水素キャリア物質であると考えられている。触媒としてのNiはPt,Pd等といった白金族元素と似た性質を示すことから,高活性なNi触媒が開発できれば,現行の化学プロセスで汎用されている高価なPt,Pd等の貴金属触媒を代替でき,安価な卑金属触媒の可能性を広げることができる2325)

2. 実験方法

2・1 Ni-Tiアモルファス合金の作製

Ni40Ti60母合金作製には大亜真空製アーク溶解炉ACM-S01を用いた。Ni板(15 mm×50 mm×0.5 mm,計7.0 g),Ti板(15 mm×50 mm×0.5 mm,計8.6 g)を交互に積層させた試験片と酸素ゲッターを炉内の銅製水冷ハース上に置き,容器内を真空(10−3 Pa以下)にした。その後,容器内に約50 kPaの高純度Arを導入し,アーク電流約100 A前後でアークを照射して試料を溶解させた。均一な試料を得るために試料を裏返して再びアーク放電を行い試料を溶解させた。この溶解作業を計6回行い,Ni40Ti60母合金を作製した。Ni-Tiアモルファス合金は日進技研製単ロール装置を用いた液体急冷法により作製した。上記で作製したNi40Ti60母合金を石英ノズル(長さ120 mm,射出口径0.65 mm)に入れ,石英ノズルを高周波コイルの中央にセットし,石英ノズルと冷却ロールのギャップは0.8 mm,Ar噴射圧は0.04 MPaとなるようにした。チャンバー内を真空引きした後,試料を加熱し母合金をノズルから噴出させ,銅製の冷却ロール上で急冷することにより幅約1.2 mmの銀白色のリボン状Ni-Tiアモルファス合金(NiTi(amor))を作製した。

2・2 Ni-Tiアモルファス合金の脱合金処理,熱処理,粉砕処理

脱合金処理はHF水溶液を用いて行った。HF水溶液(1.0 mol/L)15.0 mLが入ったフッ素樹脂製容器にNi-Ti合金を入れ,室温(295±3 K)にて10,20,または30 min浸漬した。その後,試料をピンセットで回収し,数回蒸留水で洗浄した後アセトンで洗浄し,デシケーターで乾燥させて多孔質Ni触媒を得た。脱合金処理により作製した試料をr-Ni(HFx)(xはHF水溶液浸漬時間熱(min))とした。熱処理は試料を石英ガラス製セルに入れ,セル内を高真空(10−3−10−4 Pa)にした後,電気炉を用いて573-873 Kで2 h加熱することで行った。熱処理後,脱合金処理を施して作製した試料をr-Ni(T)(Tは熱処理温度(K))とした。粉砕処理はCMT製高速振動試料粉砕機TI-100を用い,アルミナ製容器に試料とアルミナ製ロッドを入れ,6 min粉砕処理を行った。

2・3 Ni-Ti合金および多孔質Ni触媒の物理化学特性の評価

試料のX線回折パターンはリガク製X線回折装置Ultima IVを用い,管電圧40 kV,管電流40 mAにて測定した。試料の表面形態はJEOL製走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-5600を用い,加速電圧12.0 kVにて観察した。試料表面の化学組成はSEMに備え付けられたエネルギー分散型蛍光X線分析装置EDAX DX-4を用いて分析した。Niの電子状態は島津製作所製光電子分光装置ESCA-3400を用いて評価した。線源にはMg Kα線(1253.6 eV)を用い,加速電圧10 kV,エミッション電流20 mAにて測定を行った。触媒の比表面積はマイクロトラックベル製高精度ガス吸着量測定装置BELSORP-maxを用いて液体窒素温度(77 K)にてKr吸脱着測定を行い,得られた吸着等温線をBET(Brunauer-Emmett-Teller)法で解析することにより見積もった。

2・4 多孔質Ni触媒の触媒活性の評価

作製した各種多孔質Ni触媒の活性はアンモニアボランの脱水素反応による水素生成により評価した。式(1)にアンモニアボランの脱水素反応の反応式を示す。

  
NH3BH3+2H2O3H2+BO2+NH4+(1)

作製した多孔質Ni触媒(10 mg)をパイレックス製反応セルに入れ,473 Kにて1 h水素還元処理を行った。水素還元後,蒸留水7 mLを入れ,水準管が接続されたガスビュレットにゴムホースを用いて接続した。オイルバスを用いて反応セルの温度を303±1 Kに保ち,反応セル内をN2で置換後,アンモニアボラン水溶液(2 mol/L)1.0 mLを注入して反応を開始した。反応中はマグネティックスターラーを用い,常時600 rpmにて撹拌を行った。ガスビュレットの水位の変化から水素発生量を算出し,触媒1.0 g,反応時間1 minあたりの水素生成速度を見積もった。触媒再利用試験は反応後のセルから反応液を取り除いた後,新たにアンモニアボラン水溶液1.0 mLを注入し,同条件にて3回まで繰り返し行った。

3. 結果およびと考察

3・1 脱合金処理時間の影響

HF水溶液による脱合金処理時間を変更して作製したNiTi合金試料について,その表面構造をSEMにより観察した(Fig.1)。前駆体であるNiTi(amor)は平滑な表面を有していたが,脱合金処理後には幅1 μm程度の網目状のクラックが広範囲に形成され,微細構造を持つ金属表面が観察された。脱合金処理時間を長くすることで網目模様は更に微細化し,20 min,30 minの脱合金処理後には表面の一部が剥離している様子が観察された。EDX測定により見積もられた各試料の表面組成比およびKr吸着測定より見積もられた比表面積(SBET)の値をTable 1に示す。NiTi(amor)は平滑表面を有しているため非多孔性(SBET<0.01 m2/g)であり,その組成比は概ね仕込み通り(Ni 42 atom%, Ti 58 atom%)であった。脱合金処理後はTi量が大きく減少(4-12 atom%)するとともに,比表面積は大きく増大し,脱合金処理時間が長くなるにつれてこれらは更に顕著化した。即ち,脱合金処理によりTiが選択的に抽出されることで試料表面にミクロレベルの微細構造が形成され,多孔質Niが得られることがわかる。比表面積の増加は,微細構造形成に伴って新たに表面に露出したNiサイトが形成されるためである。

Fig. 1.

SEM images of (a) Ni-Ti amorphous alloy (NiTi (amor)) and (b-d) those after dealloying process for (b) 10 min, (c) 20 min and (d) 30 min using HF solution (1.0 mol/L).

Table 1. Compositions, surface areas and catalytic activities of NiTi amorphous alloys upon dealloying process.
SampleHF treatment (min)CompositionaSurface areab (m2/g)Catalytic activity (mmol/g-cat/min)
Ni (atom%)Ti (atom%)
NiTi (amor)4258<0.010.3
r-Ni (HF10)1088121.59.5
r-Ni (HF20)20891112.527.9
r-Ni (HF30)3096416.755.0

a Determined by EDX analysis.

b Determined by BET method using Kr adsorption isotherm data.

これら脱合金処理時間を変えて作製した多孔質Ni触媒のアンモニアボラン脱水素反応における水素生成速度と比表面積の比較をFig.2(a)に示す。出発材料であるNiTi(amor)はほとんど触媒活性を示さなかったのに対し,脱合金処理を施すことで触媒活性が著しく向上した。脱合金処理時間を長くすることで触媒活性は大きく向上し,30 min脱合金処理を施した試料(r-Ni(HF30),SBET=16.7 m2/g)は10 min処理を施した試料(r-Ni(HF10),SBET=1.5 m2/g)の約6倍の活性を示すことが分かった。反応基質であるアンモニアボランの分子径(約3 Å)は表面に形成された微細構造の幅(約0.3-1 μm)に比べて十分に小さく,微細構造の幅の大小が触媒活性に与える影響は限りなく小さいと考えられる。一方で,Kr吸着測定より見積もられた比表面積と触媒活性との間には良い相関が見られた(Fig.2(b))。これらのことから,触媒活性向上の主たる要因は脱合金処理に伴う表面微細構造の形成と,それに伴う触媒表面積の増大にあると考えられる。

Fig. 2.

(a) Comparison of catalytic activities and surface areas of skeletal Ni catalysts prepared from Ni-Ti amorphous alloy with different HF immersion time (0-30 min). (b) Correlation between the catalytic activities and surface areas.

3・2 熱処理温度の影響

熱処理温度がNi-Tiアモルファス合金および多孔質Niの結晶構造に及ぼす影響についてX線回折により調査した。各温度で熱処理したNi-Tiアモルファス合金のXRDパターンをFig.3(a)に示す。液体急冷法により作製したNiTi(amor)はアモルファス構造に特有のハローパターンのみを示した。573,673 Kでの熱処理後もアモルファス構造が維持されていることが確認された。一方で,773 Kでの熱処理後にはTiNiおよびTi2Ni中間相の形成が確認され26),873 Kで熱処理した場合にはこれら中間相が更に発達し,十分に結晶化したTiNi/Ti2Ni合金が得られた。示差熱分析から求められたNiTi(amor)の結晶化温度は743 Kであり,これら結晶構造変化が起こる温度帯とよく一致する。

Fig. 3.

(a) XRD patterns of Ni-Ti amorphous alloys before and after thermal treatment at various temperatures (573-873 K) and (b) the corresponding XRD patterns of skeletal Ni catalysts prepared from thermally treated Ni-Ti alloys via dealloying process.

上記の熱処理したNi-Tiアモルファス合金を脱合金処理することにより作製した多孔質NiのXRDパターンをFig.3(b) に示す。この際の脱合金処理時間は10 minとした。熱処理をしない場合(r-Ni(none)),および573 K以下での熱処理(r-Ni(573))ではNiTiアモルファス相およびNi相に帰属されるブロードなピークが観測された。アモルファス構造を維持しながらも脱合金処理によってTiが選択的に抽出されたため(残存Ti量=11-12 atom%),Ni微結晶が形成したものと考えられる。673 Kでの熱処理後に脱合金処理を施した試料(r-Ni(673))ではNiTiアモルファス相に由来するブロードなピークが,773 Kでの熱処理後に脱合金処理を施した試料(r-Ni(773))ではNiTiアモルファス相に加え純Ti相に帰属される複数の回折ピークが観測された。EDX測定により見積もられた各試料の表面組成比およびKr吸着測定より見積もられた比表面積(SBET)の値をTable 2に示す。EDX組成分析の結果,これらの試料の残存Ti量(27-32 atom%)は他の試料と比べて高いことがわかった。結晶化温度付近での熱処理によってNi-Tiアモルファス母相内に準安定相や結晶相が部分的に析出した結果,脱合金処理時のTiの抽出が妨げられたためであると考えられる。一方で,873 Kでの熱処理後に脱合金処理を施した試料(r-Ni(873))ではNi相由来の回折ピークのみが観測され,Ti化合物に由来する回折ピークは観測されなかった。EDX分析で求められた残存Ti量(8.0 atom%)は他の試料と比べ最も低かったことから,熱処理によって結晶化が進行した結果TiNi/Ti2Ni粒界が導入され,粒界を起点としたTiの溶出が促進されたためであると推測される。

Table 2. Compositions, surface areas and catalytic activities of skeletal Ni catalysts prepared from Ni-Ti amorphous alloy thermally treated at different temperature.
SampleThermal treatment (K)CompositionaSurface areab (m2/g)Catalytic activity (mmol/g-cat/min)
Ni (atom%)Ti (atom%)
r-Ni (none)none88121.59.5
r-Ni (573)57389111.510.8
r-Ni (673)67373271.215.8
r-Ni (773)77369323.650.5
r-Ni (873)8739288.728.6

a Determined by EDX analysis.

b Determined by BET method using Kr adsorption isotherm data.

このように熱処理→脱合金処理を施して作製した各種多孔質Ni触媒のアンモニアボラン脱水素反応速度と比表面積の比較をFig.4(a)に示す。比表面積は熱処理温度が高くなるにつれ大きくなる傾向を示した。一方,触媒活性も熱処理温度が高くなるにつれ高くなったが,熱処理温度773 Kの場合に最大値をとり,873 Kで熱処理後脱合金した試料の触媒活性は著しく低下した。Fig.4(b)には,各試料の単位表面積あたりの触媒活性の比較を示す。もし触媒が同じ活性種状態を有していれば単位表面積当たりの触媒活性は同じになると予想されるが,r-Ni(673)とr-Ni(773)は他の試料と比較して表面積当たりの活性が高いことが分かる。このことは,これら試料表面に異なる化学状態のNi種が形成していることを強く示唆している。そこで,表面Ni種の化学状態について詳細に検討するためNi 2p XPS測定を行った(Fig.5)。Ni 2p XPSスペクトルでは2価のNi種の2p3/2軌道に帰属されるピークが855 eV付近に観察される27)。r-Ni(673)とr-Ni(773)では他の試料に比べこれらのピークが高エネルギー側にシフトしており,Ni種が相対的に電子欠乏状態で存在していることが示唆された。一方,Ti 2p XPSスペクトルを測定したところ,いずれの試料においても4価のTi種が検出され,表面にはTiが酸化物として析出していると考えられた。先述したように,r-Ni(673)とr-Ni(773)では他の試料に比べ残存Ti種の割合が高かった。673-773 Kでの熱処理後に脱合金処理した試料で表面積当たりの活性が高かった要因は,多孔質Ni表面にTi酸化物が存在することで電子欠乏状態にあるNi2+種が多数形成されたためであると考えられる。

Fig. 4.

(a) Comparison of catalytic activities and surface areas and (b) comparison of catalytic activities per surface area for skeletal Ni catalysts prepared from Ni-Ti amorphous alloy thermally treated at different temperature (573-873 K).

Fig. 5.

Ni 2p XPS spectra of skeletal Ni catalysts prepared from Ni-Ti amorphous alloy thermally treated at different temperature (573-873 K). (Online version in color.)

このように,Ni-Tiアモルファス合金を結晶化温度(743 K)付近での熱処理後に脱合金処理を行うことで脱水素反応に対する触媒活性が大きく向上することがわかった。脱合金処理による表面積の増加に加え,熱処理の影響により残存Ti種が多孔質Ni表面に析出し,電子欠乏状態のNi種が多く形成されたことも活性が向上した要因の一つであると考えられる。

3・3 処理順序の影響

粉砕処理(MM),熱処理(TT),脱合金処理(Dealloy)の処理順序を変更して作製した多孔質NiのSEM像をFig.6に示す。この際の脱合金処理時間は10 min,熱処理温度は773 Kとした。未粉砕の試料では粗大なリボン形状が観察されたが,粉砕処理を行うことで平均粒子径100 μm以下の粒子が得られたことがわかる。粉砕処理(MM)→熱処理(TT)→脱合金処理(Dealloy)の順序で作製した試料では50 μmから100 μm程度の粒子が観察された。熱処理(TT)→粉砕処理(MM)→脱合金処理(Dealloy)の順序で作製した試料では15 μmから50 μmのより微細な粒子が観察された。これは熱処理により結晶相が生じることでNi-Ti合金の機械的強度が低下し,粉砕時に容易に粒子化したためであると考えられる。いずれの試料表面にもクラックや凹凸が多く見られ,脱合金処理時に形成されるミクロレベルの微細構造を有することが分かった。これら試料の比表面積はそれぞれ16.3 m2/g, 39.6 m2/gと見積もられ,脱合金処理のみを施した試料(SBET=1.5 m2/g)と比べ大幅な表面積の増加が達成できたことが分かる。一方,熱処理(TT)→脱合金処理(Dealloy)→粉砕処理(MM)の順序で処理した試料では平滑な表面を持つ粒子が多く観察された。上述のように,脱合金処理を施すとリボン状合金表面にミクロレベル(幅1 μm程度)の微細構造が形成されるが,その後の粉砕処理によってマクロレベルでの組織の粒子化が起こる。粉砕処理時には粒子同士の衝突で生じる摩擦熱による合金粒子表面の溶融と組織の緻密化が起こるため,ミクロレベルの微細構造が消失したものと考えられる。

Fig. 6.

SEM images of skeletal Ni catalysts prepared via different processing sequences; TT: Thermal treatment at 773 K, MM: Mechanical milling, Dealloy: dealloying treatment using 1.0 mmol/L HF solution for 10 min.

これら処理順序を変更して作製した多孔質Niのアンモニアボラン脱水素反応における触媒活性と比表面積の比較をFig.7に示す。熱処理(TT)→粉砕処理(MM)→脱合金処理(Dealloy)の順序で処理した多孔質Niが最も高い触媒活性(72.2 mmol-H2/g-cat/min)を示し,脱合金処理のみを施した多孔質Ni(9.5 mmol-H2/g-cat/min)の7倍以上の活性を示した。各触媒の触媒活性と比表面積との間には相関が見られたことから,粉砕処理によるマクロレベルの粒子化後に脱合金処理を施しミクロレベルの微細構造が形成されることで表面積が大幅に増加し,その結果触媒活性が向上したと考えられる。

Fig. 7.

Comparison of catalytic activities and surface areas of skeletal Ni catalysts prepared via different processing sequences; TT: Thermal treatment at 773 K, MM: Mechanical milling, Dealloy: dealloying treatment using 1.0 mmol/L HF solution for 10 min.

本研究で最も高い触媒活性を示した熱処理(TT)→粉砕処理(MM)→脱合金処理(Dealloy)の順序で作製した試料を用いて,触媒再利用試験を行ったところ,3サイクル目の反応においても1サイクル目の90%以上の触媒活性を維持した。SEMによる観察においても試料表面構造の目立った変化は見られず,本研究で作製した多孔質Ni触媒は固体触媒として十分な耐久性を有していると言える。

4. 結言

本研究ではNi40Ti60アモルファス合金に熱処理,粉砕処理,脱合金処理を施して多孔質Niを作製し,各処理の条件および処理順序が多孔質Niの触媒活性に及ぼす影響について調査した。Ni40Ti60アモルファス合金の結晶化温度(743 K)付近で熱処理を施し,その後粉砕処理,最後に脱合金処理を施すことにより作製した多孔質Niが,アンモニアボランからの水素生成反応に対して最も優れた触媒活性を示した。本手法で得られた多孔質Niが高い触媒活性を示す要因は以下のようであると推察された。

(1)脱合金処理により金属にミクロレベルの微細構造が形成されることで多孔質化され,表面積が大きく向上する。

(2)結晶化温度付近での熱処理により準安定相・結晶相が析出することで脱合金処理時のTi溶出を制御でき,残存Ti種の影響により多孔質Ni表面に電子欠乏状態のNi種が形成される。

(3)熱処理により合金の機械的強度が低下し,続く粉砕処理で小さな合金粒子が形成されることで表面積が大きく向上する。

謝辞

本研究は,第25回鉄鋼研究振興助成の支援を受けて実施されました。ここに記して謝意を表します。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top