Tetsu-to-Hagane
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Fundamentals of High Temperature Processes
Effect of Wettability on Penetration and Flotation Behavior of a Particle in Refining Process
Akihiro Matsuzawa Katsuhiro SasaiHiroshi HaradaMitsuhiro Numata
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 10 Pages 697-707

Details
Abstract

Powder blasting is often operated in refining process in order to achieve lower sulfur content in molten steel with high desulfurization efficiency. In this study, effects of wettability of a particle on penetration and flotation behavior were examined by water model experiment. A polypropylene particle was blasted onto water surface with Ar gas through a single-hole nozzle, and particle behavior during penetration into water to flotation to water surface was recorded by a high-speed camera. Wettability between the particle and water was changed by applying repellent or hydrophilic material on the particle. According to penetration of the particle, an air column was generated and a residual bubble was remained on the particle after rupture of the air column. The repellent particle floated to the water surface in a short time because maximum penetration depth was small and diameter of a residual bubble was large. On the other hand, the detention time of the hydrophilic particle became longer than the repellent particle because maximum penetration depth was relatively large and the residual bubble was separated from the particle. The reason that wettability between the particle and water affects penetration and floatation behavior is that adhering position of the air column on the particle changed. In the case of repellent particle, the position changed to penetrating direction of the particle. Therefore, the force caused by surface tension of water increases, and the residual air column on the particle after rupture of the air column becomes large.

1. 緒言

粉体吹き込み15)や粉体吹き付け68)は精錬反応効率化の手段として広く行われている。粉体吹き込みは溶鉄中に浸漬したランスから粉体を吐出させる方法であり,粉体吹き付けは溶鉄の上方に設置したランスから溶鉄面へ向かって粉体を吐出させる方法であるが,いずれも粒子が気液界面へ突入し,溶鉄中へ侵入した後に溶鉄表面へ浮上するという過程を経るため,現象としては類似している。

液体中への粒子の侵入・分散挙動に関してはこれまで様々な研究925)が行われており,液体と粒子の濡れ性が重要な因子であることが知られている。例えば,Naritaら14)やOdaら15)は種々の材質の粉体を水中へ吹き込む実験を行い,水と濡れにくい粉体は濡れやすい粉体よりも侵入距離や侵入率が低いことを報告している。またOgawaら16,17)はフラックスを溶鋼へ吹き込む実験を行い,溶鋼との濡れ性が良いフラックス粒子は溶鋼中へ分散しやすいことを報告している。

粒子の液体侵入過程についてはIguchiら1821)が水面へ粒子を自由落下させる実験により詳細に観察しており,液体と粒子の濡れ性が良好な場合は粒子がそのまま液体中へ分散するが,濡れ性が不良の場合は気柱が生成し,破断した気柱の一部が粒子表面に残留して気泡になると述べている。Duezら22)も同様の実験を行っており,粒子表面を液膜が進展して濡れが進行する速度が粒子速度より小さい場合に気柱が生成する,との機構を提唱して気柱が生成する粒子速度の閾値を定式化している。またKatoh23)らは残留気泡の形成過程について理論モデルによる検討を行い,液体と粒子の接触角が大きくなると残留気泡体積も大きくなることを示している。さらにNakano and Ito24)やNakata and Inamuro25)は粒子侵入挙動の3次元シミュレーション計算を行い,濡れ性が良い方が侵入しやすくなることを示唆する結果を報告している。

このように,粒子が液体中へ侵入・分散する過程については多くの研究例があるが,侵入した粒子が液体表面へ浮上する過程や液体と粒子の接触時間に着目した研究はほとんど行われていなかった。そこで,著者らは前報26)において単一球を水面へ吹き付ける水モデル実験により侵入から浮上までトータルの粒子挙動を評価し,粒子表面の残留気泡が滞留時間に大きく影響することを示した。本研究では単一球の濡れ性を変えて同様の実験を行い,濡れ性が侵入深さや滞留時間に及ぼす影響を調査した。さらに,滞留時間に大きく影響を及ぼす残留気泡径の支配因子を検討するとともに,濡れにくい粒子で侵入深さが小さくなる機構についても検討した。

2. 実験方法

実験は前報26)と同様の手法で行った。すなわち,内径5 mmの単孔ストレートノズルを真空槽上蓋の中央に取り付け,所定流量のArガスを真空槽内に流した。ノズルは長さ70 mmと140 mmの2種類を用い,真空槽内の水深は減圧前で80 mmとした。真空ポンプにより真空槽内を減圧し,真空レギュレータにより52 kPaに保持した後,単一球(ポリプロピレン球,密度910 kg/m3,直径3.2 mm)をArガスとともにノズルから真空槽内の水面へ吹き付けた。減圧下で実験を行ったのは,Arガス流速の上昇により粒子の侵入速度を高めるためである。粒子の挙動は高速度カメラにより250 frames/sで撮影し,あらかじめ求めておいた画像上の長さと実寸の換算式を用いて粒子侵入深さの時間変化を解析した。

本研究では単一球の表面に市販の親水スプレーあるいは撥水スプレーを十分に吹き付けて濡れ性を変化させた。親水スプレーあるいは撥水スプレーを吹き付けたポリプロピレン板上に静置した水滴の写真をFig.1に示す。水とポリプロピレンの接触角θは95°27)であるが,この写真より親水スプレー吹き付けの場合は6°,撥水スプレー吹き付けの場合は129°と評価した。実験水準をTable 1に示す。Arガス流量は0~25 NL/minとし,1水準につき実験を3回行った。なお,A1,B2,D1,D2,E1,E2は前報(θ=95°)の実験水準であるが,本研究ではこれらも合わせて解析したため,Table 1にも記載した。

Fig. 1.

Contact angle between water droplet and polypropylene plate with hydrophilic or repellent material.

Table 1. Experimental conditions.
No.WettabilityContact angle, θ(º)Ar gas flow rate (NL/min)Nozzle length (mm)Nozzle gap (mm)vP0
(m/s)
H1Hydrophilic65140563.4
H2Hydrophilic615140566.7
H3Hydrophilic6251405610.9
R1Repellent1290701261.7
R2Repellent12915701265.9
R3Repellent12925701267.2
R4Repellent129251405610.9
*A1Normal950701261.7
*B2Normal955140563.4
*D1Normal9515701265.9
*D2Normal9515140566.7
*E1Normal9525701267.2
*E2Normal95251405610.9

*Conditions in previous work.26)

vP0: Particle velocity before penetration

水面へ突入する直前の粒子速度(以下,侵入直前の粒子速度と表記)vP0は,上記の実験とは別に測定した。ノズルから吐出した粒子を1000 frames/sの速度で撮影し,水面へ突入する直前の2フレーム(0.001 s)間の移動距離から粒子速度を算出した。各水準におけるvP0Table 1に記載の通りである。

3. 実験結果

3・1 粒子侵入深さの経時変化

粒子の侵入挙動・浮上の例として水準R3(θ=129°)における侵入挙動・浮上の例をFig.2に示す。粒子の突入により水面が粒子に引っ張られ,気柱が生成した。その後,気柱にくびれが生じて破断し,気柱の一部が粒子表面に残留して気泡(Fig.2では直径4.3 mm)になった。気柱破断後の粒子はある深さに到達したところで侵入が停止し,その後は水面へ浮上した。

Fig. 2.

Penetration and flotation behavior of a particle. (Condition R3, θ=129º)

水準H2(θ=6°)における侵入・浮上挙動をFig.3に示す。これも粒子侵入から気柱破断までの挙動はFig.2と同様であり,粒子表面に気泡(Fig.3では直径3.0 mm)が付着したが,気柱破断後に粒子表面から離脱し,粒子は残留気泡がない状態で水面へ浮上した。

Fig. 3.

Penetration and flotation behavior of a particle. (Condition H2, θ=6º)

各水準の粒子侵入深さの経時変化をFig.4に示す。vP0が低い(a)および(b)では濡れ性の違いはあまり明確ではないが,vP0が5 m/s以上となる(c)~(f)ではθが大になると侵入深さが小さくなり,短時間で浮上しやすくなった。またθ=6°のH2およびH3は浮上時間が長くなったが,これは残留気泡が生成しなかった,あるいは粒子表面から残留気泡が離脱したためである。

Fig. 4.

Change of penetration depths of a particle from water surface with time.

高速度カメラの撮影画像から評価した項目をFig.526)に示す。(a)侵入直後の粒子速度vP1は,粒子が水中に侵入した直後の2フレーム(0.004 s)間の移動距離から算出した。気柱長さおよび粒子侵入深さは,粒子が水面へ突入する直前の水面凹み深さを基準点とし,基準点から気柱破断直前の粒子上端までの距離を(b)最大気柱長さHmax,最深点における粒子中心までの距離を(c)最大侵入深さLmaxとした。(d)残留気泡径dBは,粒子表面に残留した気泡がほぼ球形になった時点の直径とした。(e)平均浮上速度は,粒子の浮上速度がほぼ一定となった時間範囲で粒子深さの時間変化を直線回帰して算出した。(f)粒子滞留時間tdは気柱破断から水面へ浮上するまでの時間であるが,水面に浮上する前に粒子が水面の凹みに隠れてしまい浮上時間を測定できないケースがあったため,平均浮上速度を算出する直線回帰式を外挿して粒子が水面へ浮上する時間を求めた。

Fig. 5.

Schematic diagram of a particle behavior and analyzed factors in present work.26) (Online version in color.)

各水準の測定データをTable 2に示す。いずれのケースも気柱が生成したが,H3-1およびR1-3では残留気泡が見られなかった。また,H2の3ケースとH3-2およびH3-3では気柱破断の0.020~0.076 s後に気泡が粒子表面から離脱した。

Table 2. Experimental results.
No.Particle velocity after penetration, vP1 (m/s)Maximum length of an air column, Hmax (mm)Maximum penetration depth, Lmax (mm)Diameter of a residual bubble, dB (mm)Average penetration angle (º)Average flotation velocity (m/s)Detention time of a particle, td (s)
H111.621.232.72.04.50.1300.378
21.821.631.72.15.30.1280.376
31.517.728.92.019.00.1360.310
H211.930.548.33.0 (0)*3.50.0800.938
23.232.749.42.4 (0)*4.50.0840.842
33.629.348.12.4 (0)*1.30.0870.863
H313.134.143.50.05.10.0910.933
22.922.526.53.2 (0)*26.60.0890.633**
32.736.151.72.7 (0)*1.00.0910.963
R111.212.322.00.95.00.0890.394
21.29.218.91.817.50.1120.268
30.98.017.50.05.50.0700.394
R212.221.432.01.510.10.1160.405
21.722.830.61.79.70.1320.341
31.423.333.21.77.00.1170.390
R313.427.328.92.030.00.1650.220**
23.825.131.94.11.70.2110.198
31.825.628.12.328.10.1630.228**
R412.024.627.83.223.30.1730.324**
22.029.236.34.35.50.1700.280
33.526.434.44.016.10.2250.259

*Detaching the residual bubble from the particle after rupture of the air column.

**Unavailable result for analysis because average penetration angle is larger than 20º.

なお,粒子は必ずしも鉛直下向き方向に侵入するとは限らず,侵入途中に軌跡が大きく横方向に曲がって最大侵入深さが浅くなるケースがあった。そのため,最大侵入深さの位置が粒子侵入の位置から横方向に20°以上ずれたH3-2,R3-1,R3-3およびR4-1は解析対象から除外した。

3・2 侵入直後の粒子速度

侵入直前の粒子速度vP0と侵入直後の粒子速度vP1の関係をFig.6に示す。vP0が1.7~10.9 m/sであるのに対し,vP1は0.9~3.8 m/sと大きく減少したが,θによる違いは見られなかった。したがって,水面衝突時の粒子の運動エネルギー損失に及ぼすθの影響は小さいと考えられる。

Fig. 6.

Comparison of particle velocity before penetration and after penetration.

3・3 最大気柱長さおよび最大侵入深さ

vP0と最大気柱長さHmaxの関係をFig.7に示す。Hmaxが0 mmのデータは気柱が生成しなかったことを意味する。θ=95°ではvP0が3.4 m/sより低い場合に気柱は生成しなかったが,θ=129°ではvP0が1.7 m/sでも気柱が生成した。θ>90°の場合にはθが大きくなるほど気柱生成の臨界粒子速度が低下する22)ことが報告されており,本研究でも同様の結果になった。Fig.7ではいずれのθでもvP0が大きくなるほどHmaxは増加する傾向にあるが,θ=129°のHmaxは6°や95°の水準よりもやや小さかった。

Fig. 7.

Effect of particle velocity before penetration on maximum length of an air column.

vP0と最大侵入深さLmaxの関係をFig.8に示す。θ=95°と同様に,θ=6°および129°においてもvP0が高くなるほどLmaxは増加する傾向にあった。またθ=129°は5.9 m/s以上において95°や6°よりLmaxが小さくなった。この理由については4・3節で考察する。

Fig. 8.

Effect of particle velocity before penetration on maximum penetration depth.

Ozawaら11)の粒子の運動方程式より,表面張力の影響を考慮すると式(1)26)が成り立つ。

  
vP02exp{3CDφ14(ρP/ρL+α)LmaxrP}4AσGLrPρLCDφ1LmaxrP+[4AσGLrPρLCDφ1{4(ρP/ρL+α)3CDφ1+1+cosθ}+8rPg(ρP/ρLφ2)3CDφ1][1exp{3CDφ14(ρP/ρL+α)LmaxrP}]=0(1)

抵抗係数CDは0.44,球体半径rPは0.016 m,粒子密度ρPは910 kg/m3,液体密度ρLは1000 kg/m3,液体の表面張力σGLは0.073 N/m28),重力加速度gは9.8 m/s2である。またAは液体表面の凹み生成により表面張力が増加する係数(-),αは仮想質量に関する係数(-),φ1とφ2はそれぞれCDと浮力に対する補正係数(-)である。Lmaxの計算値(A=2.5,α=0.25,φ1=1,φ1=0.5)をFig.8に示すが,θによるLmaxの差はほとんどなく,本研究の実測値より大幅に小さくなった。

表面張力の影響を無視(A=0)すると,Lmaxは式(2)で表される。

  
Lmax=4rP(ρP/ρL+α)3CDφ1ln{13CDφ1vP028rPg(ρP/ρLφ2)}(2)

式(2)の計算値(α=0.5,φ1=1,φ2=1)もFig.8に示すが,実測値よりも大きくなった。したがって,表面張力による粒子の運動エネルギー損失はあるものの,その影響はOzawaら11)の水銀実験よりは小さいと考えられる。

3・4 残留気泡径および平均浮上速度

vP0と残留気泡径dBの関係をFig.9に示す。図中の矢印は離脱する前の気泡径であることを意味する。ばらつきはあるものの,θ=95°および129°の場合はvP0が高い方がdBは大きくなった。一方,θ=6°の場合はvP0が6.7 m/s以上になると残留気泡が粒子から離脱した。この理由としては,vP0が高くなるほど深く侵入するため水面へ浮上するまでの間に粒子の濡れが進行しやすいことや,水中を運動する粒子に随伴する水の流動が強くなることが影響したと推定される。

Fig. 9.

Effect of particle velocity before penetration on diameter of a residual bubble. (Arrow means that the bubble was detached from the particle in water.)

HmaxとdBの関係をFig.10に示す。Hmaxが大きくなるほどdBも増加する傾向にあり,両者の間には相関があると言える。θが気柱生成に及ぼす影響については4・1節,dBに及ぼす影響については4・2節で考察する。

Fig. 10.

Relation between maximum length of an air column and diameter of a residual bubble.

dBと平均浮上速度の関係をFig.11に示す。dBが同じであれば平均浮上速度はθによらずほぼ同じであった。前報26)と同様に粒子の見かけ密度を考慮した終末速度の計算値と比較すると,残留気泡が2 mm以上で平均浮上速度が計算値をやや下回った。これは残留気泡の存在により粒子の投影断面積が増加し,液体との摩擦力が増加したためと考えられる。

Fig. 11.

Effect of diameter of a residual bubble on average floatation velocity of a particle.

3・5 粒子滞留時間

Lmaxと粒子滞留時間tdの関係をFig.12に示す。左側の(a)はθで層別したグラフであるが,θ=129°の場合はLmaxが大きくなってもtdは変わらなかった。一方,θ=6°はLmaxが大きくなるとtdも大きくなった。次に,右側の(b)はdBで層別したグラフであるが,dBに対応して傾きが異なる2つのデータ群に分離した。θを変えても前報と同様の結果が得られたことから,粒子の濡れ性によらずdBがtdに及ぼす影響は大きいと言える。なお,dBが2 mm以上のデータ群から上方に外れている4点(図中の点線枠内)は残留気泡の離脱が起こった粒子であり,これらはいずれもθ=6°である。したがって,濡れ性が良好な粒子を高い速度で吹き込めば,深くまで侵入するだけでなく残留気泡が生成しても容易に離脱するため浮上もしにくく,滞留時間を長くできると考えられる。

Fig. 12.

Relation between maximum penetration depth and detention time of a particle.

4. 考察

粒子の侵入に伴って生成する気柱が残留気泡の原因となり,粒子滞留時間の減少に繋がることから,気柱が生成する粒子速度の閾値(臨界粒子速度)とθの関係について検討した。次に,粒子の濡れ性により残留気泡径が変化する機構について考察した。また,θが大きいと残留気泡径が大きくなるだけでなくFig.8に示したように最大侵入深さも小さくなり粒子滞留時間の減少に繋がるため,その機構についても考察した。

4・1 気柱生成の臨界粒子速度

本研究における気柱生成の有無をFig.13に示す。Duezら22)の実験式による臨界粒子速度vP*を実線で示すが,これよりv0が低い領域でも気柱が生成した。破線は本研究の結果から推定したvP*であり,θ≦90°においてDuezらの実験式ではvP*=7.3 m/sであるが本研究では3 m/s前後と推定される。

Fig. 13.

Comparison of experimental results in present work and threshold particle velocity of generating an air column, vP*.

Duezらと本研究の実験条件をTable 3に示す。本研究がDuezらと異なるのは,(a)粒径が小,(b)粒子と液体の密度比が小,(c)キャリアガスによる粒子の吹き付け,(d)雰囲気圧力が低い,の4点である。まず(a)粒径については,Duezらの実験において粒径が7.0~25.4 mmと大きく異なってもθ≦90°のvP*にほとんど差がなかったことから,粒径がvP*に及ぼす影響は小さいと考えられる。次に,(b)密度比については,粒子密度が液体密度より小さくなるほど粒子が受ける浮力は大きくなるため,液膜の進展は起こりやすくなってvP*は高くなると考えられる。一方,(c)のキャリアガスによる粒子吹き付けについては,キャリアガスにより水面が凹むためキャリアガスのない自由落下条件よりも気柱が生成しやすくなりvP*を低下させる要因になると考えられる。(d)の雰囲気圧力については,自由落下条件であれば気柱生成挙動にほとんど影響しないと推定されるが,キャリアガス吹き付けの条件ではガス流量が同じでも減圧するとガス流速が高くなり,キャリアガスによる水面の凹みが大きくなると推定されるため,vP*が低くなる可能性がある。すなわち,本研究でvP*が低くなったのは(c)と(d)に起因すると考えられるが,雰囲気圧力によりvP*がどの程度変化するかは今後の検討課題である。

Table 3. Comparison of experimental conditions between the previous work and present work.
AuthorParticleLiquidBlasting methodPressure above liquid surface
Duez22)Diameter: 7.0-25.4 mm
Material: Glass/Al/Steel
Water Isopropanol Ehtanol Water-glycerolFree fallAtmospheric
Present workDiameter: 3.2 mm
Material: Polypropylene
WaterAr gasReduced
(52 kPa)

4・2 気柱の付着位置が残留気泡径に及ぼす影響

Sakai and Iguchi21)は気柱剥離角という指標により気柱の付着位置を評価している。そこで本研究も気柱剥離角を評価し,θの影響やdBとの相関を解析した。気柱剥離角の定義をFig.14(a)に示す。気柱の破断直前において,粒子の重心点に対して気柱が粒子に付着する点(粒子-液体-気柱の三相境界)と,粒子の進行方向先端との角度が気柱剥離角である。気柱剥離角が小さくなるほど,気柱の付着位置が粒子の前方にあることを意味する。粒子左側の気柱剥離角βL(°)について,気柱の付着位置が粒子中心より後方(βL≧90°)の場合はsin(180°-βL)=∆xL/rP,前方(βL≦90°)の場合はsinβL=∆xL/rPが成り立つため,βLは式(3)あるいは式(4)で表される。

  
βL=180°sin1(ΔxLrP)(βL90°)(3)
  
βL=sin1(ΔxLrP)(βL90°)(4)
Fig. 14.

Schematic diagram of the air column on the particle. (Online version in color.)

粒子右側の気柱剥離角βR(°)も同様である。このβLβRの平均値βaveがvP0およびθによってどのように変化するか解析した。さらに,Fig.14(b)に示すように,気柱破断直後において粒子表面に残留した気柱の付着位置XL,XRの中点と気柱先端の距離を残留気柱高さと定義した。残留気柱高さが大になるほど,気柱が粒子後方の離れた位置で破断したことを意味する。この残留気柱高さがβaveによりどのように変化するか解析した。

vP0βaveの関係をFig.15に示す。vP0が高くなるほど,あるいはθが大になるほどβaveが小さくなる傾向が見られた。さらに,Fig.16に示すようにβaveが小さくなるほど残留気柱高さは増加する傾向にあり,Fig.17に示すようにdBも大きくなった。すなわち,vP0が高くなるほど,あるいはθが大になるほど粒子表面の液膜が進展しにくくなるため気柱の幅は広がりやすくなり,さらに気柱が粒子後方の離れた位置で破断しやすくなるため,dBが増加したと考えられる。このように,βaveによりvP0θが異なる条件のdBを統一的に整理することができた。

Fig. 15.

Effect of particle velocity before penetration on separation angle of an air column.

Fig. 16.

Effect of separation angle of an air column on height of a residual air column on the particle.

Fig. 17.

Effect of separation angle of an air column on diameter of a residual bubble.

Sakaiらによれば,慣性力と浮力の比を表す無次元数の修正フルード数Fr*(=vP0{ρP/(ρL・g・dP)}1/2,dP:粒子直径)が大きくなるほどβは小さくなる傾向にある。このためvP0が高くなるとFr*は増加しβは小さくなるが,本研究でも同様の結果が得られた。ただし,θの影響はFr*では説明ができないため,粒子が高速で運動する動的な状況における濡れ現象や気液界面の挙動に対してθがどのように影響するかは,今後詳細に検討する必要がある。

4・3 接触角が最大侵入深さに及ぼす影響

最大侵入深さは,水面突入から気柱破断までの侵入距離と,気柱破断から最深点までの侵入距離に分けられる。この両者に対してθが及ぼす影響を検討した。まず水面突入から気柱破断までの侵入距離(気柱破断深さ)は最大気柱長さHmaxに粒子半径の1.6 mmを加えた長さであるからFig.7とほぼ同じであり,θ=129°の気柱破断深さは6°や95°の水準よりもやや小さいと言える。水面突入から気柱破断までの間に粒子は浮力,流体抵抗力および表面張力による力を受けるが,本研究において粒子と液体の密度差は一定であるから,浮力の影響は変化しないと考えられる。またθが大きくなるほど付着仕事が低下して粒子-液体界面がすべりやすくなる29)ことから,流体抵抗力は小さくなり,運動エネルギーの消費も小さくなる。したがって流体抵抗力でも気柱破断深さの変化を説明できない。表面張力の影響については,粒子が表面張力から受ける力FはFig.18に示すように気柱と粒子の接触線の長さLと表面張力σGLの鉛直成分σyの積であるから式(5)で表され,β=90°でFは最大値を取る。なお,σGL=0.073 N/m28)とした。

  
F=2πrPσGLcos2|β90°|(5)
Fig. 18.

Effect of separation angle of an air column on the force caused by surface tension of water. (Online version in color.)

Fig.15においてθ=129°ではvP0が高くなるほどβaveが小さくなり,vP0が7.2~10.9 m/sではβaveは86~106°であるからFはほぼ最大となる。したがって気柱破断深さが変化したのは表面張力による力の影響と考えられ,残留気泡と同様に気柱破断深さに関しても粒子表面における気柱の付着位置が重要な因子であると言える。

次に,気柱破断から最深点までの侵入距離に及ぼすθの影響を検討した。水中で粒子が受ける力は浮力と流体抵抗力である。dBと気柱破断から最深点までの侵入距離の関係をFig.19に示すが,両者の間に相関は見られなかった。したがってdBが大きくなって浮力が増加しても,気柱破断後の侵入距離はあまり変化しないと言える。また,同じdBで比較すると,θが大きい方が侵入距離は小さい傾向にあった。すなわち,流体抵抗力の影響も小さいと言える。したがって,気柱破断から最深点までの侵入距離に及ぼすθの影響は小さいと考えられる。

Fig. 19.

Relation between diameter of a residual bubble and penetration depth after rupture of an air column.

以上の検討から,θが大きくなると最大侵入深さが小さくなるのは,気柱が生成してから破断するまでに表面張力から受ける力が増加するためと推測される。なお,今回は気柱破断直前における気柱剥離角を用いて考察したが,厳密には粒子侵入から気柱破断までの気柱付着位置の変化を考慮する必要がある。本研究では粒子侵入の0.012~0.028 s後に気柱が破断しており,この短時間における気柱付着位置の変化は今後の検討課題である。

5. 結言

粉体吹き込みプロセスにおける反応効率向上の基礎検討として単一球を水面へ吹き付ける水モデル実験を行い,濡れ性が粒子の侵入深さや滞留時間に及ぼす影響を調査した。さらに,滞留時間に関与する粒子表面の残留気泡径や,その原因となる気柱生成について支配因子を解析し,濡れ性により残留気泡径や侵入深さが変化する機構を検討した。得られた結果は以下の通りである。

(1)水との接触角が大きな粒子は最大侵入深さが小さく,かつ残留気泡径が大きくなるため,水面へ短時間で浮上した。一方,水との接触角が小さな粒子は最大侵入深さが大きくなり,さらに水中で残留気泡が粒子から離脱するため,滞留時間が長くなった。

(2)本研究における気柱生成の臨界粒子速度は,従来研究の自由落下により測定された値より低かった。これはキャリアガスにより水面が凹むことで自由落下よりも気柱が生成しやすくなるためと推察される。

(3)侵入直前の粒子速度や接触角が大きくなると残留気泡径が大きくなるのは,気柱が粒子に付着する位置が粒子の進行方向側へ変化し,気柱破断後の残留気泡の幅と高さが増加するためである。

(4)接触角が大きい粒子は気柱破断が起こる侵入深さが小さくなるが,気柱破断後の侵入距離に対する接触角の影響は見られなかった。気柱破断深さが小さくなるのは気柱の付着位置が粒子の進行方向側へ変化することで表面張力による力が増加するためであり,これにより最大侵入深さも小さくなると考えられる。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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