Tetsu-to-Hagane
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Welding and Joining
Friction Stir Welding of High Phosphorus Weathering Steel– Weldabilities, Microstructural Evolution and Mechanical Properties
Takumi KawakuboTomoya NagiraKohsaku UshiodaHidetoshi Fujii
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 12 Pages 892-901

Details
Abstract

Phosphorus (P) addition is expected to simultaneously increase the strength and corrosion resistance of weathering steels. However, P causes solidification cracking in the fusion welding process and reduces the toughness of steel. To avoid these problems, the P content of weldable SMA490AW weathering steel is currently limited to below 0.035 mass%. High P steels which are impossible to be joined by the fusion welding process, can be joined by a solid-state joining process, friction stir welding (FSW). Because the stir zone obtained by FSW contained very fine grains, its toughness was expected to improve. This study applies FSW to high-P weathering steels and examines the weldability of the product. The microstructural evolution and mechanical properties of the stir zone were investigated at different welding temperatures. The macroscopic cross-sectional observations of the FSW joints revealed crack-free structures even in steel containing 0.3 mass% P. Moreover, FSW significantly refined the grain structure in the stir zone. Consequently, the ductile-to-brittle transition temperature of the stir zone was approximately 150°C lower in the steel containing 0.3 mass% P and welded below A1 (average grain size = 2.5 µm) than in the base material (average grain size = 23 µm). It appears that the grain refinement by FSW overcomes the embrittlement caused by excessive P content.

1. 緒言

耐候性鋼は少量のCu,P,Cr,Niなどの元素を含む低合金鋼で,大気中で裸使用した時に表面に緻密な保護性の高い錆層を形成し,優れた耐大気腐食性を示す。塗装なしで長期的な耐久性を確保でき,ライフサイクルコストの低減が可能であることから,橋梁を中心に広く適用されている。

耐候性鋼において,Pは安価に耐候性および強度を向上させることができる魅力的な元素である。Pの添加により耐候性が向上し16),少なくとも0.5 mass%までは,P量の増加に伴い大気暴露環境下での腐食量が減少することが報告されている1)。また,Pは少量の添加で効果的に強度を高めることができる7,8)。一方ではPは母材の靭性を低下させたり916),溶接性を著しく悪化させる1721)問題がある。

Pの溶融溶接性への悪影響については,凝固温度幅を大きく拡大するため高温割れの一つである凝固割れを誘発するためと考えられている21)。そのため,既存の溶融溶接を想定した耐候性鋼であるSMA490AW22)では,P量は0.035 mass%以下に制限されている。一方,耐候性は優れるが溶融溶接が不可能な非溶接耐候性鋼としてP量が0.1 mass%添加されたSPA-H23)も存在する。

Pに起因する溶接性の課題を克服するために,摩擦攪拌接合法(Friction Stir Welding: FSW)の適用が有効であると考えられる。FSWは,金属の融点以下の温度で接合する固相接合プロセスである。主にアルミニウム合金で実用化されているプロセスであるが2427),鉄鋼材料への適用を目指した研究も盛んに行われている2834)。FSWは,接合中に凝固を伴わないため溶接割れを抑制できると考えられ,Pにおける溶接性の課題の克服が期待される。

また,Pの靭性への悪影響については,Pが粒界に偏析して靭性を悪化させることが多数報告されている915)。その理由として,Yamaguchi15)はPの粒界偏析濃度の増加が粒界凝集エネルギーを減少させ,粒界破壊応力が低下するからであると説明した。一方で,Suzukiら9)はCを約0.01 mass%以上添加すると,粒界にCが先に偏析するためPの粒界偏析量が減少し,粒界破壊が抑制されることを示した。耐候性鋼のC量は約0.1 mass%であり,またP量の上限の設定や粒界偏析を低減するためのプロセス条件を制御することにより,粒界破壊は起こらないと考えられる。しかし,この場合においても,Pは大きな固溶強化により転位のすべりを阻害するため,P量の増加はへき開破壊を生じさせ,靭性の低下を招くことが予想される。

靭性改善の方法として,結晶粒の微細化が良く知られている3539)。例えば,フェライト組織において,結晶粒径を20 µmから1 µmに制御することにより,延性脆性遷移温度(ductile-brittle transition temperature: DBTT)が282°C低温側にシフトすることが報告されている35)。結晶粒超微細化の手法には,従来の制御圧延技術36,37)に加え,ECAP(Equal-Channel Angular Pressing)法38),ARB(Accumulative Roll- Bonding)法14,39)などの強加工と熱処理の組み合わせが提案されている。FSWは,接合中にきわめて大きいせん断加工が導入され,また発熱が生じるため,動的再結晶が生じ著しく細粒化した組織が得られることが知られている31,32)。したがって,高P鋼の攪拌部は組織微細化による靭性の向上が期待される。

本研究では,P量を0.1-0.3 mass%の範囲で添加した溶融溶接が不可能な耐候性鋼を作製し,FSWによる接合性を検証した。加えて,母材およびFSW攪拌部における微細組織および機械的特性について評価し,機械的特性に及ぼすP量および結晶粒微細化の影響について調査することを目的とした。

2. 実験方法

Table1に本研究で用いた試料の合金組成を示す。SMA490AWは既存の耐候性鋼であり,溶接構造用であるためPの添加量が0.01 mass%程度に抑えられている。0.1P材および0.3P材は実験室で作製した高P添加の耐候性鋼である。これらの試料は高周波溶解により作製した。原料には,電解鉄(99.9%,小片状),純カーボン(99.9%,粉末状),純シリコン(99.9%),電解マンガン(99.9%,薄片状),フェロリン(Fe-20 mass%P, 塊状),純銅(99.99%,粒状)および電解クロム(99%,薄片状)を用いた。これらの原料をアルミナ製耐火るつぼに投入し,高周波溶解装置を用いて溶製した。溶解は0.5気圧のアルゴン雰囲気中で行った。得られた350 gのインゴットは,最終凝固部を切除し,最終的にφ30×40mmの形状とした。得られたインゴットに対して,1000°Cの熱間圧延を繰り返して9回行い,3.5-4.0 mmの厚さとした。最後に1000°C,10 min,空冷の条件で焼きならし熱処理を行った。表面の酸化膜を研削して除去し,3 mm厚のプレートを得た。なお,第3章で述べるように,1000°Cは0.1Pおよび0.3PのAe3点より高い,オーステナイト域での温度である。

Table 1. Chemical composition of base materials investigated in this study.
CSiMnPSCuNiCrAl
SMA490AW0.120.21.140.010.0020.320.100.48
0.1P0.100.510.090.10<0.0010.490.010.390.03
0.3P0.080.50.090.27<0.0010.490.010.40.02

作製したプレートに対してFSWを行った。ツールの材質はタングステンカーバイド(WC)を主体とする超硬合金製であり,形状はプローブをネジ加工していない円柱状である。ツールの寸法については,ショルダー直径15 mm,プローブ直径6 mm,プローブ長さ2.9 mmとした。接合条件は接合温度がそれぞれA3点以上(回転速度: 400 rpm,接合速度: 150 mm/min)とA1点以下(回転速度: 80 rpm,接合速度: 150 mm/min)となるように2種類の条件を用いた。熱電対を用いて攪拌部の裏側の温度履歴を測定した。

得られた接合部の接合方向に対して垂直な断面を放電加工により切り出し,その断面において微細組織観察およびビッカース硬さ試験を行った。微細組織の評価には,SEM,EBSD(JEOL製:JSM-7001FA)を用いた。SEM観察用の試料は,エメリー紙#400-4000を用いた湿式研磨,バフ研磨を行った後,4%ナイタール液を用いて常温で約5秒間エッチングして準備した。EBSD観察用の試料は,湿式研磨,バフ研磨後,過酸化水素-酢酸混合電解液(HClO4:CH3COOH=1:9)中で電圧15Vと設定して,15秒間の電解研磨を行い準備した。ビッカース硬さ試験は,接合部の断面に対して,荷重を2.94 N,保持時間を15 sとして行った。また,母材,攪拌部のそれぞれの機械的特性を評価するため,引張試験と衝撃試験を行った。引張試験は,平行部長さ5 mm,幅2 mm,厚さ2 mmの試験片を用いて,ひずみ速度は5.0×10-3 s-1として行った。なおFig.1(a)に示すように,平行部の方向は接合方向と垂直な方向であり,攪拌部が平行部に入るように設定した。また,ひずみ測定にはDigital Image Correlation(DIC)法を用いた。公称ひずみは,初期の評点間距離4.5 mmの引張変形中の変化から評価した。衝撃試験は,計装化微小シャルピー衝撃試験機(タナカ,MIT-D05KJ型)を用いて,長さ,幅,厚さがそれぞれ20 mm,1 mm,1 mmの特殊小型試験片(Fig.1(b))で評価した。接合方向に深さ0.2 mm,先端のRが0.08 mmのノッチを導入した。試料の採取場所は,攪拌部についてはノッチが接合中心部にくるように,母材についてはノッチが接合中心から10 mm以上離れた位置にくるような場所とした。またDBTTは,試験片サイズが微小であることによる影響が少ないと考えられる,完全に脆性破壊する温度域と延性-脆性遷移温度域の境界の温度とした。

Fig. 1.

Schematic of (a) sampling position of tensile test specimen and impact test specimen and (b) shape of impact test specimen.

3. 実験結果

3・1 接合温度および接合体の健全性

Fig.2(a)に各接合条件における接合中の温度履歴を示す。また,Fig.2(b)にThermo-calc.により作成したFe(0.1C-0.5Si-0.1Mn-0.5Cu-0.4Cr)-Pの状態図を示す。既に述べたA3点以上およびA1点以下のFSW条件での最高到達温度はそれぞれFig.2(a)に示すように1018,695°Cであり,どちらの試料においてもそれぞれの条件がAe3点以上またはAe1点以下であることが確認できる。

Fig. 2.

(a) Heat cycles obtained by thermocouples located on the bottom surface at the centerline for SMA490AW; (b) Fe(0.1C-0.5Si-0.1Mn-0.5Cu-0.4Cr)-P pseudo-binary phase diagram evaluated by thermodynamic calculation, using the Thermo-Calc. TCFE9.

Fig.3に各試料をそれぞれの接合条件でFSWした後の,FSW断面マクロ写真を示す。いずれの接合部も欠陥のない健全な接合部であることがわかる。

Fig. 3.

Photographs showing the cross section of FSW joints for 0.1P and 0.3P samples under the two different FSW conditions.

3・2 母材およびFSW攪拌部の組織

Fig.4に各試料の母材と攪拌部におけるSEM像を示す。母材は各試料ともフェライトとパーライトから構成される。フェライト粒径は,0.1P材で49 µm,0.3P材で23 µmである。A3点以上の攪拌部は各試料とも,フェライトとパーライトに加えて,ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態生成物も存在する。これは,接合後の冷却中にオーステナイトからの変態で形成されることに起因する。P量の増加に伴い低温変態生成物の量は減少する傾向を示した。また,フェライト粒径は,0.1P材で12 µm,0.3P材で7.3 µmに微細化した。A1点以下の攪拌部は,各試料ともフェライトと微細な球状セメンタイトから構成される。フェライト粒径は,0.1P材で1.4 µm,0.3P材で2.5 µmであり,予想に反して0.3P材の方が粒径が大きい。また,母材と比較して,攪拌部では両材ともに著しく微細化したことは特筆される。微細なセメンタイトサイズは,0.1P材,0.3P材ともに大きいものでも0.5 µm程度で,小さいものでは0.1 µm以下である。

Fig. 4.

SEM microstructures of base material and stir zones under above A3 and below A1 conditions for 0.1P and 0.3P samples.

Fig.5には,各試料の母材と攪拌部におけるフェライト粒を正確に把握するために,EBSDのInverse Pole Figure(IPF)マップを基に得られた,方位差15°以上の高角粒界からなるフェライト組織を示す。各試料とも攪拌部のフェライトの結晶粒は,接合中のオーステナイト域あるいはフェライト域での動的再結晶により,母材と比べて微細であり,特に接合温度が低いA1点以下の攪拌部の結晶粒はA3点以上のそれと比べてさらに微細である特徴がある。また,A1点以下の攪拌部における結晶粒は,0.1P材では平均結晶粒径が約1.4 µmの比較的均一な微細粒を示すが,0.3P材では約2.6 µmのBimodal組織を示すことは特筆される。

Fig. 5.

EBSD map showing grain boundaries of base materials and stir zones under above A3 and below A1 conditions for 0.1P and 0.3P samples.

Fig.6に各試料のA1点以下の攪拌部における粒度分布を示す。破線は平均粒径である。0.1P材では全ての結晶粒の粒径が4 µm以下であるのに対して,0.3P材では,粒径が約4 µmにおいてもピークが存在し(図中矢印),4~7 µmの範囲の粒も多く分布しており,Bimodal的な粒度分布が認められた。

Fig. 6.

Area fraction distribution of the grain sizes in the stir zone under below A1 condition for (a) 0.1P and (b) 0.3P samples.

3・3 母材およびFSW攪拌部の機械的特性

Fig.7に各試料の母材と攪拌部における引張試験で得られた公称応力―公称ひずみ曲線を示す。比較としてSMA490AWの結果も併せて示す。各試料とも,母材,A3点以上の攪拌部,A1点以下の攪拌部の順に強度が増加した。また,0.1P材と0.3P材を比較すると,母材,攪拌部ともに0.3P材の方が強度が高い。微細粒からなるA1点以下の攪拌部における公称応力―公称ひずみ曲線においては,P量にかかわらず,比較的大きな降伏点伸びを示した。特に,比較的一様な微細粒と微細セメンタイトから成る0.1P材においては,強度と延性のバランスに優れる特徴があるように見える。

Fig. 7.

Nominal stress-nominal strain curves of base materials and stir zones under above A3 and below A1 conditions for (a) 0.1P and (b) 0.3P samples, and the base material for SMA490AW for comparison.

Fig.8に各試料の母材と攪拌部における衝撃吸収エネルギーの温度依存性を示す。Fig.8(a)に示す0.1P材においては,DBTTが母材,A3点以上の攪拌部,A1点以下の攪拌部の順に低温側にシフトしており,A1点以下の攪拌部は液体窒素の温度でも脆性破壊せず,高い吸収エネルギーを示した。Fig.8(b)に示す0.3P材においても,DBTTは同様に母材,A3点以上の攪拌部,A1点以下の攪拌部の順に低温側にシフトした。しかし,0.1P材と比較すると母材,攪拌部ともにP量の増加によりDBTTは高温側にシフトしている。また,0.1P材と異なり,0.3P材のA1点以下の攪拌部は約-180°Cで脆性破壊した。

Fig. 8.

Temperature dependence of absorbed impact energy of base materials and stir zones under above A3 and below A1 conditions for (a) 0.1P and (b) 0.3P samples, and the base material for SMA490AW for comparison.

Fig.9に各試料の母材と攪拌部の完全に脆性破壊した試験片(Fig.8の矢印)の破面を示す。母材については,各試料ともリバーパターンの観察されるへき開破面である。A3点以上の攪拌部は,P量によらず,母材よりも破面単位が小さくなるという変化はあるが,同様のへき開破面を呈する。一方で,0.3P材のA1点以下の攪拌部では,様相が異なり,一部の領域で約1 µm程度のサイズの粒界破面が観察された(Fig.9(e)の矢印)。なお,0.1P材は,脆性破壊を示さなかったので,破面観察は行っていない。

Fig. 9.

SEM images showing the brittle fracture surfaces of base materials and stir zones under above A3 and below A1 conditions for 0.1P and 0.3P samples.

4. 考察

4・1 P量と接合性について

FSWによる接合部断面マクロ写真(Fig.3)に示したように,全ての試料および条件において接合部は無欠陥であった。溶融溶接性を著しく悪化するPを含有していても,0.1 mass%C鋼において少なくとも0.3 mass%PまではFSWによる接合が可能であることが示された。

Pが溶融溶接性に悪影響を及ぼす原因は,主に凝固割れを促進する点にある。凝固中の固液共存領域は,凝固脆性温度領域(Brittleness Temperature Range: BTR)と呼ばれており延性が極めて低い。このときの延性を凝固収縮による変位が上回ったときに凝固割れが発生する40)。Pは凝固偏析し,また結晶粒界に著しく偏析する結果,融点の低い液膜を形成し,BTRを拡大させることにより,割れ発生の危険性を高めることが知られている。Fig.2(b)に示す状態図から明らかなように,液相からの温度低下に伴いまずδ相が晶出し,その後δ+γ+Lの三相共存状態を経た後,δ+γの二相共存状態となり凝固が完了する。しかし,最終凝固場所や結晶粒界ではPの濃化が著しく,状態図から明らかなように,P濃度が極めて高くなるとδ+γ+Lが安定である温度範囲が低温側まで拡大し,これが高温割れを引き起こすことがわかる。一方,FSWでは融点以下の固相の温度で接合できるので,溶融溶接のような凝固偏析現象は起こらず,無欠陥の接合部が得られたと考えられる。

また,Pは,溶融溶接において微細組織に影響を及ぼし溶接部の靭性を低下させることが知られている4143)。例えば,溶融溶接においてPは未変態オーステナイトにおけるセメンタイトの析出を遅延させ,靭性を悪化させる島状マルテンサイトの生成を促進すると報告されている41)。一方で,A1点以下のFSWの攪拌部ではγ相への変態を伴わないため,島状マルテンサイトの形成は生じず,上記のような問題を防止できる。また,4・3・2項で詳しく述べるように,FSWの温度によらず攪拌部の組織微細化による靭性向上効果が期待できる。このように,高P鋼のFSWは接合体の欠陥を防止できるだけでなく,接合体の特性向上にも貢献すると考える。

4・2 微細組織の形成機構について

母材とA3点以上の攪拌部では,P量の増加により結晶粒が微細化した(Figs.4, 5)。これはPのソリュート・ドラッグ効果に起因すると推察する。Pはオーステナイト粒界,フェライト粒界のどちらにも偏析する元素として知られているが915,44),特にフェライトに比べて固溶限が低いオーステナイトの粒界への偏析が顕著であると予想する。したがって,母材の熱処理,およびA3点以上の条件でのFSWの際に動的再結晶により形成されるオーステナイト粒は,P量の増加により微細化されると推察した。オーステナイト粒径がPにより微細化される結果,その後の冷却で得られた組織もP量の増加に伴い微細化する傾向を示したと考えた。

A3点以上の攪拌部の組織において,P量の増加によりベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態生成物の量が減少した(Fig.4)。一般に,Pはフェライト形成元素であり,A3点を上昇させ,フェライトの生成を容易にする45,46)。したがって,P量の増加に伴い,FSW後の冷却中のフェライト変態が促進されることが考えられる。さらに,既に述べたようにPはFSW中のオーステナイト粒径を小さくする効果を有すると考えられ,フェライト変態が促進されることが予想される。これらのPのフェライト変態促進効果により,ベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態生成物を生成する未変態オーステナイト量が減少したと推察した。一方では,Pは焼入れ性を高める元素としても知られている47)。以上のことを総合的に考慮すると,P量の増加により低温変態生成物の量が減少したのは,PによるA3点を上昇させる効果およびオーステナイト粒径を微細化する効果が,P量増加による焼入れ性を増加させる効果を上回ったためと推察した。

一方で,A1点以下の攪拌部においては,P量によらず共通して微細フェライトと微細セメンタイトから成る組織が得られた(Figs.4, 5)。これは,低温でのFSWにより,フェライトは動的再結晶して著しく微細化し,一方母材に存在したパーライトは破砕し微細に分散したためと考える。しかし,0.3P材の方が0.1P材よりフェライト粒径が大きく,またbimodalなフェライト組織を呈したことは特筆される。上に述べたように,0.3P材のA3点以上の温度でFSWした攪拌部においては,低温変態生成物の量が0.1P材より少なかった。同様のことが,母材におけるフェライトとパーライト組織のパーライト量についてもいえる。すなわち,0.3P材の方が,0.1P材より少ないことが予想される。このことは,Fig.4において認められる。一般的に,フェライトとパーライトから成る母材をA1点以下の温度でFSWを施すと,パーライトを含む領域での動的再結晶粒の核生成頻度は,フェライトの領域でのそれより大きく,パーライトを含む領域で微細化が著しくなることが予想される。その結果,母材のパーライト量が少ない0.3P材の方が,むしろ粒径が大きくなったと考えた。また,0.3P材では母材のパーライト量が少なく不均一性が高いため,bimodal組織が顕著になったと推察される。

4・3 機械的特性について

4・3・1 強度と延性

A3点以上の攪拌部の公称応力―公称ひずみ曲線は,0.1P材と0.3P材とで若干異なる挙動を示し,0.1P材では連続降伏の,一方0.3P材では不連続降伏の様相を示す。これは,0.1P材,0.3P材の微細組織におけるベイナイトやマルテンサイトなどの低温変態生成物量に起因すると考えられる。DP鋼のような,フェライト組織にマルテンサイトなどの低温変態生成物が存在する鋼では,両組織の界面に可動転位が存在するため連続降伏が発現することが知られている48)。0.1P材は,これらの低温変態生成物量が多いため界面転位の密度が増し連続降伏の様相を示し,一方0.3P材ではマルテンサイトが存在するものの極めて少量であるため不連続降伏の様相を示したと推察される。また,0.1P材の破断伸びは,0.3P材と比較して低いが,これもベイナイトやマルテンサイトの量が多いためと考えられる。

A1点以下の攪拌部は,0.1P材,0.3P材どちらにおいても母材やA3点以上の攪拌部と比較して高い強度を示し,特に0.1P材においては延性も良好であり,優れた強度-延性バランスが示された。A1点以下の攪拌部における降伏応力は,母材と比較して0.1P材では394 MPa,0.3P材では353 MPa向上した。降伏強度と結晶粒径との間にはHall-Petchの関係が成り立ち,結晶粒の微細化に伴い降伏強度が増加することはよく知られており4951),A1点以下の攪拌部における強度の向上は主に結晶粒微細化に起因すると考えられる。また,0.1P材,0.3P材ともに明確な降伏点伸びが確認された。降伏点伸びは細粒組織によく見られる現象であり,結晶粒径の微細化に伴い発現し,増加することが報告されている5255)A1点以下の攪拌部の試料で共通して降伏点伸びが見られたのは,いずれも微細粒のためと考える。その中でも,0.1P材において,0.3P材と比較して降伏点伸びが大きいのは,結晶粒径がより小さいことに起因すると考えられる。また,0.1P材については0.3P材と比較して局部伸びが良好である。細粒化により絞りが向上することが報告されており56),0.1P材のA1点以下の攪拌部においても細粒化により局部伸びが向上したと考えられる。一方で,0.3P材の局部伸びは0.1P材と比較して小さい。このように0.3P材のA1点以下の攪拌部で局部伸びが小さいのは,0.3P材の方が平均粒径が大きいことに加え,Bimodal組織であることに起因すると考える。すなわち,0.3P材のBimodal組織においては,粒径の大きな弱い部分にひずみが集中し,局部伸びが低下したことも推察される。

4・3・2 靭性

0.1P,0.3P材ともに,攪拌部では母材と比べてDBTTが低温側にシフトした。特に,A1点以下の攪拌部では,0.1P材では液体窒素の温度でも脆性破壊せず,0.3P材ではDBTTが-175°Cであった。このようにA1点以下の攪拌部で著しく靭性が向上したことの主な要因として,結晶粒微細化が挙げられる。Fig.10に0.1P材,0.3P材の母材と攪拌部における結晶粒径dと延性–脆性遷移温度(DBTT)の関係を示している。比較として,既に報告されているC-Mn鋼57),C-Mn-Nb鋼58)およびIF鋼14)の結果も併せて示す。0.1P材と0.3P材の直線の傾きは,C量がおおよそ同程度であるC-Mn鋼(0.15C-1.5Mn[mass%])と等しいと仮定した。0.1P材のA3点以上の攪拌部のDBTTは,直線よりも高温側に位置する。これは,A3点以上の攪拌部においては,1 µm以上の粗大なマルテンサイトが存在することに起因すると推察される(Fig.4)。また,0.3P材のA1点以下の攪拌部のDBTTも直線よりもわずかに高温側に位置する。これは,0.3P材のA1点以下の攪拌部においては,DBTTよりも低温側の脆化域で粒界破壊が示されたことから,粒界脆化に起因するものと推察される(Fig.9)。以上のように,DBTTは微細組織や破壊形態の影響は受けるものの,0.1P材,0.3P材ともに結晶粒微細化に伴い靭性が向上した。その結果,0.3P材のA1点以下の攪拌部のDBTTが,P量が0.01 mass%まで低減されたSMA490AWよりも低い温度となった点は,高P添加による脆化を結晶粒微細化により克服できることを示しており,特筆に値する。

Fig. 10.

Effect of grain diameter on ductile-to-brittle transition temperature of base materials and stir zones for 0.1P and 0.3P samples; BM: base material, SZ: stir zone, IGF:intergranular fracture; Data of C-Mn-steel57), C-Mn-Nb steel58) and IF steel14) are superimposed.

また,Fig.10において0.1P材と0.3P材の結晶粒径dが等しいときのDBTTの差がPの影響を示していると考えられる。P量0.2 mass%の増加でDBTTは115°C高温側にシフトした。Suzukiらは,Fe-C-Pの三元型合金(0.04 mass%C)において,P量0.11 mass%から0.34 mass%までの増加で,DBTTが約55°C高温側へシフトすることを示した10)。このように, P量の増加によるDBTTの変化量は,本研究ではSuzukiらの報告に比べて大きくなった。C量,硬質第二相および結晶粒径などがその要因として考えられるが,詳細は今後の課題としたい。

A1点以下のFSWで,0.3P材は脆化域で粒界破壊を示した(Fig.9(e))。破面単位から判断すると,フェライト粒界での破壊であると推察され,0.3P材のA1点以下の攪拌部では,粒界破壊強度がへき開破壊強度より低いことを示している。その原因としてA1点以下でFSWを行った時のPの粒界偏析量の増加が考えられる。

一般的に,A1点以下の攪拌部で得られるような動的再結晶フェライトは,フレッシュな粒界を持ち,形成された直後はPの偏析は無いと考えられる。また,冷却中のPの粒界偏析も,通常のPの拡散では困難であると推察される。一方では,FSWによるA1点以下での強加工時に,動的なPの粒界偏析が生じる可能性もある。高温で変形を加えることにより,平衡状態よりも過剰にPが粒界偏析するといった報告が数多くある5962)。変形が特にA1点以下の温度で加わると,粒内に過飽和の空孔が発生し,それらの空孔が過飽和状態の不純物と結びついた複合体を形成し,粒内と粒界の間に複合体の濃度勾配ができ,複合体が粒界に移動し,不純物が粒界に短時間のうちに偏析すると考えられている。このような動的な粒界偏析は,ひずみ速度の増加に伴い増えることも報告されている62)。したがって,材料流動を伴い多量のひずみが導入されるFSWでは,上記のような動的な粒界偏析が起こっていることが推察される。これを実証するためには粒界偏析を実測する必要があり,今後の課題としたい。

5. 結言

溶融溶接が不可能な,P量を0.1-0.3 mass%に増量した0.1 mass%Cの高P耐候性鋼を作製し,FSWした時の接合性,組織の発達および機械的特性を調査し,以下の知見を得た。

(1)A3点以上およびA1点以下のFSWともに,接合部は無欠陥であった。FSWは固相接合であり,溶融溶接における欠陥発生の原因となる凝固を伴わないことに起因すると考えた。FSWでは,少なくとも0.3 mass%P鋼までは接合可能であることが明らかとなった。

(2)FSW攪拌部の結晶粒は母材より微細化し,特にA1点以下のFSWにおいてその傾向は著しい。結晶粒の微細化に伴い,DBTTは低温側へシフトした。0.3P材のA1点以下の攪拌部(~2 µm)のDBTTは母材(~23 µm)より,約150°C低温側にシフトした。P量の増加による脆化は,結晶粒の微細化により克服できることが明らかとなった。

(3)P量の増加に伴い,母材およびA3点以上の攪拌部は細粒化した。Pのソリュート・ドラッグ効果が原因と考えた。一方,A1点以下の攪拌部は微細であるが,0.3P材の方が粒径は大きく,Bimodal組織を示した。これは,母材におけるパーライト量が0.3P材の方が少なく,FSW中のフェライトの動的再結晶核の生成頻度が低く,また不均一であるためと考えた。

(4)P量によらず母材とA3点以上の攪拌部では脆性破壊形態はへき開破壊であるのに対し,0.3P材のA1点以下の攪拌部では粒界破壊であった。A1点以下の攪拌部では,超強加工のFSW中に動的再結晶に伴うフェライト粒界へのPの動的偏析が生じるため粒界破壊が生じたと推察した。

謝辞

この成果の一部は,国立研究開発法人科学技術振興機構の未来社会創造事業,科学研究費補助金(基盤A:19H00826)および一般社団法人鉄鋼協会の研究会IIにおいて得られたものです。また,研究にあたってご助言いただいた大阪大学大学院工学研究科 大畑充教授に感謝いたします。

文献
 
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