Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Formation Mechanism of Coarse Austenite Grain during Hot Forging and Cooling in Case Hardening Steel
Takeshi Miyazaki Takeshi FujimatsuGoro MiyamotoTadashi Furuhara
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2020 Volume 106 Issue 2 Pages 108-120

Details
Abstract

Abnormally coarse microstructure consisting of coarse pearlite and bainite has been sometimes observed in case hardening steels when they are slowly cooled after hot forging. In order to avoid this abnormal microstructure, it is of industrial importance to clarify its formation mechanism. In the present study, effects of hot deformation condition and cooling rate on the formation of austenite grain coarsening during cooling were investigated by a thermomechanical simulator for JIS SCM420 (0.20C-0.26Si-0.82Mn-1.03Cr-0.15Mo steel, in mass%).

Coarse microstructures were observed when the specimen was deformed slightly at higher temperature after large deformation and subsequently cooled at slow cooling rate. In order to clarify the formation mechanism of coarse austenite grain, strain distribution (GOS: Grain Orientation Spread) in reconstructed austenite orientation map were analyzed for specimens quenched just after deformation. In the condition where coarse austenite formed, the GOS map made it clear that strain was introduced inhomogeneously grain by grain. This result suggested that abnormal austenite grain growth during slow cooling was induced by inhomogeneous strain distribution because growth of recrystallized grains (relatively low dislocation density) into work hardened grains (relatively high dislocation density) was driven by strain energy difference in addition to reduction of grain boundary area.

1. 緒言

自動車や建設・産業機械の動力伝達部品であるギヤ・シャフトの素材には主にSCr420やSCM420等の肌焼鋼が使用されている。これら部品の粗形状を作り込む方法として冷間鍛造に比べて変形抵抗の小さい熱間鍛造(以下,熱鍛)が適用される場合が多い。熱鍛後の粗加工品は疲労強度や耐摩耗性向上のため900~950°Cに加熱保持し,炭素を拡散侵入させて表面を硬化させる浸炭熱処理(浸炭窒化や窒化が選択される場合もある)が行われる。しかし,浸炭時にAlNやNb(CN)等の析出粒子のピン止めが外れると異常粒成長した粗大オーステナイトが発生し,部品の疲労強度や靭性の低下を招くことから1,2),粗大化を回避して整細粒を維持することは部品の要求特性を確保するうえで重要である。そのため通常,浸炭時の結晶粒度特性の改善を目的として熱鍛後の組織均質化を図る焼ならしが行われたり,熱鍛後の制御冷却や熱鍛後のインラインでの等温焼なまし3)の実施についての事例報告がある。ただし,これらの工程は製造コストの増加や工程負荷を招いてしまうことから,工程省略のために熱鍛のままで結晶粒度特性に優れるミクロ組織を作りこむことが望まれている。

熱鍛後のミクロ組織形成に影響を及ぼす因子として,鍛造時の加工温度・加工率,熱鍛後の冷却速度が挙げられる4)。例えば熱鍛時の加工温度を低くし,かつ加工率を高めることで熱鍛後のオーステナイト粒径は細かくなり,フェライト+パーライト組織を形成しやすくなる。しかし,オーステナイト粒径が細かい場合であっても,熱鍛後に十分な徐冷が施されない条件ではベイナイトを生成してしまう場合がある。熱鍛後にベイナイトが混在したミクロ組織を呈すると,浸炭加熱初期のオーステナイト初期粒径が小さくなり,かつ粒径ばらつきも大きくなるため,フェライト+パーライト組織に比べて浸炭時の結晶粒度特性に劣ることが報告されている5)。一方で,熱鍛後にベイナイトを回避するため十分な徐冷を施すと,徐冷過程で粗大オーステナイト粒を形成し,その結果,冷却後に局所的にパーライトやベイナイトを含んだ粗大組織となる場合があり,その回避が望まれている。

熱間加工後の粗大オーステナイトの形成について,関連研究として鍛造や圧延時の軽圧下付与による影響が報告されている617)。それら報告の中で,大型鍛鋼品の鍛造に関するKatsumataら11)の研究では,中炭素のNi-Cr-Mo-V鋼を用い大型鋼塊の鍛造を模擬したラボ実験から,形状を整えるための1250°Cでの軽圧下付与と,鋼塊芯部の徐冷を想定した5000 s保持の条件下で,粒界の張り出しによるバルジング機構によって粗大なオーステナイトが形成されると報告している。ただし,軽圧下付与時のひずみ速度は10-3/sであり,肌焼鋼が適用されるギヤ・シャフト部品の熱鍛(ひずみ速度1~100 s-1程度)に比べると非常に遅い。またNeishiら1315)は,中炭素鋼S45Cを用いて棒鋼の仕上げ圧延を模擬し,800~900°Cでひずみ速度10 s-1の加工後に1°C/sで冷却すると特定量の相当塑性ひずみが付与される領域で結晶粒度番号4.5程度(約80 μm)の粗大パーライトを形成することを示した。この粗大パーライトは比較的大きなオーステナイトを介して生成したものと報告されている。このように熱鍛後の冷却時に粗大オーステナイトが生成するという報告はいくつかあるが,肌焼鋼に通常付与される熱鍛(1000~1200°C,ひずみ速度1~100 s-1程度)およびその後の冷却過程における粗大オーステナイトの形成条件は明らかにされていない。また,粗大オーステナイト形成に影響を及ぼすと予想されるAlNのピンニング粒子の影響についても十分には考慮されていない。さらに,これらの従来研究は主として光学顕微鏡観察に頼るものであり,粗大オーステナイトの形成に関与する可能性が高い熱間加工後のオーステナイト粒内のひずみ分布等の影響については十分に考慮されていない。

近年,Miyamotoら1820)はEBSD(Electron Back Scattering Diffraction)測定で取得したマルテンサイトの結晶方位の情報をもとに,母相オーステナイトとマルテンサイトが特定の方位関係を有することを利用して,母相オーステナイトの結晶方位や,ひずみの状態を再構築する解析技術を開発している。この解析技術によって,加工直後のオーステナイト粒が保有する方位差の情報を得たのち,それを用いて個々のオーステナイト粒内のひずみの情報を得ることが可能である。

粗大オーステナイトの形成には熱鍛の実状から考えて,熱鍛温度や部品の最終仕上げ成形における軽圧下の付与,軽圧下後の部品の徐冷といった因子の関与が想定される。そこで本研究では,ギヤ・シャフト用鋼として代表的なSCM420を用いて,前述のオーステナイト再構築法を糸口として,変形組織の不均一性という観点から熱鍛後の冷却過程における粗大オーステナイトの形成メカニズムの解明を目的とした。

2. 実験方法

2・1 試料準備

本研究用の素材は肌焼鋼SCM420を用いた。Table 1に化学組成を示す。100 kg真空溶解材を用い1250°Cで4 h保持後φ32 mmに鍛伸を行い,次に900°Cで1 h保持後空冷の焼ならしを施した。その後,φ32 mm材の中周部(中心から8 mmの円周部)より直径8 mm,高さ12 mmの円柱状試験片を切り出した。この試験片に対して,実際のギヤ・シャフトの熱鍛を模擬した熱間圧縮加工を熱間加工再現試験装置(富士電波工機社製・Thermecmastor-Z)を用いて付与し,熱鍛組織の再現を行った。実施した加工パターンをFig.1(a)に示す。試験片は真空中で高周波誘導加熱によって昇温速度40°C/sで1200°Cまで加熱し600 s保持後,加工温度まで3.3°C/sの冷却速度で降温した後,1000,1050,1100,1150°Cの各温度でひずみ速度10 s-1の65%圧下を行い,5 s保持後に室温付近まで連続冷却を施した。冷却速度は鍛造品単体が空冷される場合を想定した0.50°C/sの条件,鍛造品が集積状態で冷却される場合の徐冷を想定した0.05°C/sの条件,およびそれらの中間的な冷却速度として0.15°C/sの条件に設定した。これらの処理条件を以後ベース条件と呼ぶ。一方,熱鍛における最終の仕上げ成形を想定した軽圧下の影響を調査するため,ベース条件における65%圧下5 s保持後に引続いて同温度,同ひずみ速度で5%の軽圧下を付与し,ベース条件と同じ速度で冷却した。以後,この処理条件を軽圧下条件と呼ぶ。

Table 1. Chemical composition of the SCM420 studied (mass%).
CSiMnNiCrMoAlN
SCM4200.200.260.820.101.030.150.0280.0161
Fig. 1.

Heat patterns of (a) hot forging and subsequent continuous cooling, (b) hot forging, cooling and interrupted quenching. Series A: Hot forging and continuous cooling to room temperature, Series B: quenching immediately after hot forging, Series C: Interrupted quenching after hot forging and continuous cooling down to 750°C.

さらに,加工後のオーステナイトの観察を目的としてFig.1(b)に示すように1100°Cで65%加工直後,および65%加工5 s保持を経て5%軽圧下後に,0.05 s以内に水冷(加工温度から500°Cまでの冷却速度は試験片表面部で約500°C/s)して加工直後のオーステナイト粒の凍結を図った。なお熱間加工直後に水冷する条件のみ,試験片を一様に水冷するために真空中ではなくアルゴン雰囲気中で実施している。また1100°Cで熱間加工後の冷却過程におけるオーステナイトの粒径変化を観察するため,フェライト変態開始直前(Ar3点直上)の750°CからHeガス急冷(60°C/s)を実施した。全ての条件において,加工中の試験片上下面の塑性拘束を緩和するため潤滑剤として雲母薄片を使用した。

2・2 組織観察

何れの処理条件も組織観察は試料中心を通る圧縮軸に平行な断面の中心付近で行った。連続冷却材は機械研磨後にダイヤモンドペーストで鏡面に仕上げ,5%ナイタール液で腐食して観察した。旧オーステナイト粒界現出のためオーステナイト温度域から焼入れた試料についてはダイヤモンドペーストで鏡面に仕上げた後,水に飽和ピクリン酸やシュウ酸,塩化第二鉄を加えた水溶液を用いて腐食し,光学顕微鏡観察を行った。なお腐食液の組成は試料に応じて若干の調整を行っている。旧オーステナイト粒の粒径分布を得るため,光学顕微鏡を用いて倍率100倍で撮影した2~5視野の写真を用いてトレーシングペーパー上にその粒界を描き写した後,画像解析・計測ソフトウェア(WinROOF)で測定を行った。この解析において,オーステナイト粒径は各粒の面積と等しい面積をもつ正方形の一片の長さとして定義した。また平均粒径は式(1)に示す各粒の面積の重み付き平均により求めた。

  
dγ,AVE=idiwiiwi(1)

ここで,diはi個目のオーステナイト粒径,wiはi個目のオーステナイト粒の面積率である。i個目までの面積率の合計は1になるので,重み付き平均粒径は式(2)より算出した。

  
dγ,AVE=idiwi(2)

またオーステナイト温度域から焼入れた試料については,バフ研磨に続いてコロイダルシリカ研磨を20~25 min行って試料表面付近のひずみを除去した後,加速電圧20 kV,熱間加工直後水冷材はステップサイズ0.5 μm(一部の条件で0.2 μm),徐冷途中の急冷材はステップサイズ2 μmでマルテンサイト組織のEBSD観察を実施した。EBSD観察によって得られたマルテンサイトの結晶方位データをもとにCI値(Confident Index)が0.2以上のデータを使用して,Miyamotoら1820)が開発した解析プログラムにより,焼入れ前のオーステナイト粒を再構築した。なお再構築の条件は,オーステナイト粒が細かな熱間加工直後の水冷材は特に明記のない限りメッシュサイズ4×4 μm2,ステップサイズ2 μm,オーステナイト粒が成長している徐冷途中の900°Cや750°Cからの急冷材についてはメッシュサイズ8×8 μm2,ステップサイズ4 μmを用いた。ここでのメッシュサイズとは再構築を行う際の1つの単位領域を指し,ステップサイズとは隣接したメッシュに移動する際の距離を表す。再構築したデータからTSL社OIM analysisを用いてオーステナイト方位マップの作成と,各結晶粒内の方位差分布を評価するGrain Reference Orientation Deviation(GROD:粒内方位差。以下GRODと称する),ならびに各結晶粒の平均方位差を評価するGrain Orientation Spread(GOS:粒内方位差平均。以下GOSと称する)の解析を行った。なお本研究において,方位マップはいずれも圧縮軸に平行な方向を参照して表示した。

2・3 AlN定量測定

熱間加工後の冷却過程におけるオーステナイトの異常粒成長について考察するため,粒界移動に対するピン止め粒子として作用するAlNの定量測定を行った。AlNの定量にあたり,10%臭素メタノールにより抽出したAlNを含む残渣を0.2 μmメッシュのフィルタで捕集後,0.1%水酸化ナトリウム溶液を加え水蒸気蒸留を行い,残渣に含まれるNを回収した。続いて吸光光度法によりN量を定量し,その量をもとにAlN量に換算した。なお本手法におけるNの定量限界値は5 ppm(AlNとしての定量限界値は15 ppm)である。また一部の試料については,透過型電子顕微鏡(以下,TEM)を用いて抽出レプリカ法によって析出粒子の観察も行った。

3. 実験結果

3・1 連続冷却材のミクロ組織観察結果

代表例として1100°Cのベース条件および軽圧下後に0.05,0.15,0.50°C/sで冷却した試料の光学顕微鏡組織写真をFig.2に示す。ベース条件では0.05°C/sの徐冷を行うと整細なフェライト+パーライト組織(Fig.2a)であるのに対して,軽圧下を付与するとパーライトやベイナイトを含んだ異常粗大組織が認められる(Fig.2b)。なお本論文において異常粗大組織とはパーライトやベイナイトを含んだ局所的に400 μmを超える組織と定義した。冷却速度が速い0.15°C/sはフェライト+パーライト+ベイナイト組織(Fig.2c,2d),0.50°C/sではフェライト+ベイナイト組織(Fig.2e,2f)を呈した。これらのミクロ組織内には若干の混粒が認められるものの,Fig.2(b)に示したような400 μmを超える異常粗大組織は観察されていないことから,冷却速度の比較的速い条件のもとでは軽圧下を付与しても異常粗大組織は形成しないことが分かった。次に1000°Cのベース条件および軽圧下条件での処理後に,0.05°C/sで徐冷後の光学顕微鏡組織写真をFig.3(a),3(b)に示す。加工温度が1000°Cに低下すると,軽圧下付与の有無に関わらず0.05°C/sの徐冷の条件下でも整細なフェライト+パーライト組織を呈した。

Fig. 2.

Optical microstructures of the specimens cooled at various cooling rates after compression at 1100°C (series A). Base condition (a) 0.05°C/s. (c) 0.15°C/s. (e) 0.50°C/s. With 5% small compression (b) 0.05°C/s. (d) 0.15°C/s. (f) 0.50°C/s. Red dashed line in (b) indicates abnormally coarse microstructure.

Fig. 3.

Optical microstructures of the specimens cooled at 0.05°C/s after compression at 1000°C (series A), (a) base condition and (b) with 5% small compression. (c) Relationship between deformation temperature and cooling rate for the formation of abnormally coarse microstructure (with 5% small compression).

種々の温度で加工した後,軽圧下を付与して冷却した試料における異常粗大組織形成と加工温度の関係を整理したマップ図をFig.3(c)に示す。なおベース条件(軽圧下なし)ではいずれの条件においても異常粗大組織は観察されていない。一方,異常粗大組織(Fig.3c中にAで表記)は1050°C~1150°Cで軽圧下を付与した後,0.05°C/sで徐冷した条件下でのみ発生することが明らかとなった。またこれらの加工温度で軽圧下を付与した条件であっても,冷却速度が0.05°C/sより速い条件下では粗大組織は形成されていない(Fig.3c中にFで表記)。すなわち,熱鍛冷却後の異常粗大組織は高温で軽圧下を付与し,かつ徐冷を行った条件にのみ現れることが判明した。

1100°C加工では,軽圧下付与の有無で徐冷後のミクロ組織に大きな違いが認められたことから,以降の熱間加工・保持後のオーステナイトや,熱間加工後の冷却過程におけるオーステナイトの粒径変化は1100°C加工の結果に注目して説明する。

3・2 熱間加工後水冷材のオーステナイト粒観察結果

オーステナイトの粒径や分布に及ぼす熱間加工条件・保持時間の影響の確認を目的として,1100°Cの65%加工(ベース条件),ならびに65%加工後に5 s保持を経て5%軽圧下直後に水冷してオーステナイト粒の観察を行った。Fig.4に水冷した各試験片のオーステナイト粒の光学顕微鏡写真,EBSD観察によって得られたマルテンサイトの結晶方位情報をもとに再構築したオーステナイトの方位マップ,ならびにオーステナイト粒径分布を示す。ベース条件(Fig.4a,4b)は等軸のオーステナイト粒から構成されている。Ohtakara and Takada21)はSCM420を用いた1パスの圧延実験から,1150°C加熱後に1000°Cで33%以上の圧下(ひずみ速度5~10 s-1)を加えた場合,オーステナイトは全面的に再結晶することを報告している。よって,熱間加工後のオーステナイト粒の観察結果から判断すると,1100°Cベース条件の加工直後のオーステナイトは動的再結晶が完了していると考えられる。そこで今回用いたSCM420の動的再結晶の形成過程を明らかにするため,1100°Cで5%加工直後に水冷してオーステナイト粒の凍結を行った。Fig.5に5%加工材のオーステナイト粒の光学顕微鏡写真,再構築したオーステナイトの方位マップ,ならびにそれに基づくGRODマップを示す。ここでGROD値とは,各結晶粒の平均方位を基準として粒内の塑性ひずみ分布を定性的に示した値である。Fig.5(a)中に矢印で示したように粒界の一部に湾曲が認められること,またGRODマップ(Fig.5c)より一部の粒界近傍に大きな方位差(転位密度が高い)が認められることから,加工初期はひずみ誘起粒界移動が生じた不連続動的再結晶22)が進行していると考えられる。

Fig. 4.

Optical microstructures, and austenite orientation maps reconstructed from martensite orientation maps, and histograms showing the distribution of austenite grain size in the specimens water quenched just after compression at 1100°C (series B), (a~c) base condition and (d~f) with 5% small compression. In reconstructed austenite orientation map, thick and fine lines represent high angle and twin boundaries, respectively. Arrows in (b) and (e) indicate twin boundaries. Austenite grain sizes weight averaged by area fraction dγ,AVE were determined by image analysis.

Fig. 5.

(a) Optical microstructure, (b) IPF and (c) GROD maps of reconstructed austenite from martensite orientation map of the specimen water quenched just after 5% compression at 1100°C. Arrow in (a) indicates bulging of grain boundary. In reconstructed austenite orientation map, thick and fine lines represent high angle and twin boundaries, respectively. The mesh size for the calculation was 3×3 μm2 and the step size was 1.5 μm.

また65%加工後に5%軽圧下を付与した軽圧下条件 (Fig.4d,4e)のオーステナイト粒はベース条件(Fig.4a,4b)と同様に等軸であり,平均粒径や粒径分布に大きな差異は認められない(Fig.4c,4f)。なお軽圧下直後のオーステナイトは,動的再結晶オーステナイトに対して軽度の塑性ひずみが導入された状態と推測される。なお熱間加工条件の違いが各オーステナイト粒のひずみ状態(GOS値に相当)に及ぼす影響については,次章で詳細を述べる。

3・3 冷却途中急冷材のオーステナイト粒観察結果

3・1節では,1050°C~1150°Cで軽圧下後に徐冷した条件において,400 μmを超える異常粗大組織(Fig.3c)が認められたことを述べた。そこで,加工条件の違いによる冷却過程でのオーステナイトの粒成長過程の変化に注目して調査を行った。1100°Cのベース条件および軽圧下付与後に0.05°C/sで徐冷し,フェライト変態開始直前でのオーステナイト粒を凍結するためにAr3点直上の750°Cから急冷した。また比較として,1100°Cのベース条件および軽圧下後に,冷却速度の比較的速い0.50°C/sで冷却途中に750°Cから急冷も実施した。これらの750°C急冷材の光学顕微鏡写真をFig.6に,オーステナイト粒径分布をFig.7に示す。熱間加工直後に水冷したFig.4と対比することで,いずれの条件においても熱間加工後の冷却過程でオーステナイトが粒成長していることが分かる。ただし,ベース条件(Fig.6a)は0.05°C/sの徐冷過程で400 μmを超えるような粗大なオーステナイト粒は観察されないのに対して,徐冷後に異常粗大組織を観察された軽圧下条件(Fig.6b)では400 μmを超える粗大オーステナイトが認められる。またオーステナイト粒径分布においてもベース条件(Fig.7a)は正常粒成長を示す単一の粒径分布であるのに対し,軽圧下条件(Fig.7b)では少数の粒が周囲のオーステナイト粒を侵食して大きくなる異常粒成長が発生したことを示すbimodalの粒径分布23)を示した。他方で1100°C加工後に0.50°C/sで冷却した場合には,徐冷材に比べ粒径は微細であり,軽圧下の有無によらず粗大オーステナイトは認められない(Fig.6c,6d)。またいずれの場合も正常粒成長の粒径分布を呈する(Fig.7c,7d)。

Fig. 6.

Optical microstructures of the specimens cooled at 0.05°C/s and 0.50°C/s after compression at 1100°C, then quenched from 750°C (series C). Base condition (a) 0.05°C/s. (c) 0.50°C/s. With 5% small compression (b) 0.05°C/s. (d) 0.50°C/s.

Fig. 7.

Histograms showing the distribution of austenite grain size in the specimens cooled at 0.05°C/s and 0.50°C/s after compression at 1100°C, then quenched from 750°C (series C). Base condition (a) 0.05°C/s. (c) 0.50°C/s. With 5% small compression (b) 0.05°C/s. (d) 0.50°C/s. Austenite grain sizes weight averaged by area fraction dγ,AVE were determined by image analysis.

1100°C軽圧下の徐冷過程で認められた粗大オーステナイトに関し,特定の結晶方位を有するオーステナイトが優先的に成長した可能性が考えられる。そこで,軽圧下後の0.05°C/s徐冷途中に900°Cや750°Cから急冷を行った試料で観察された粗大オーステナイトの再構築方位マップをFig.8(a),8(b)に示す。Fig.8(a)に示すように,900°Cまで徐冷した時点で既に異常粒成長が起きている。またFig.4(e)で示したように軽圧下直後水冷材は一部の粒にのみ双晶境界が認められたのに対して,徐冷途中急冷材の粗大オーステナイト粒内にはFig.8(a)中に矢印で示すように多数の双晶境界を含んでいることから,双晶は粒成長の過程で形成されている。初析フェライトの核生成は双晶境界からではなくオーステナイト粒界から起こる24)ことから,Fig.2(b)で観察された400 μmを超える異常粗大組織は異常粒成長した粗大オーステナイト粒から生成していると考えられる。

Fig. 8.

(a), (b) Austenite orientation maps reconstructed from martensite orientation maps of the specimens cooled at 0.05°C/s after 5% small compression at 1100°C, then quenched from (a) 900°C and (b) 750°C (series C). Austenite orientation map in (b) 750°C corresponds to optical microstructure in Fig.6 (b). Inverse pole figures of (c) abnormally grown austenite grains and (d) normal austenite grains taken from (a) and (b) for compression direction. In reconstructed austenite orientation map, thick and fine lines represent high angle and twin boundaries, respectively. Arrows in (a) and (b) indicate annealing twin boundaries.

これらのオーステナイト方位マップをもとにFig.8(c)に異常粒成長した400 μm以上の粗大粒のみを抽出した結晶方位の分布を,またFig.8(d)に正常粒成長した粒の方位分布を逆極点図上に示す。逆極点図より異常粒成長,正常粒成長した粒の方位分布は比較的にランダムであり,方位の偏りは見られない。

4. 考察

4・1 粒成長抑制のピン止め力

これまでの結果から,冷却速度が速い(0.50°C/s)場合はいずれの加工条件でも粗大オーステナイトの生成が認められなかった。これは,徐冷(0.05°C/s)に比べてオーステナイト粒が高温にさらされて粒成長する時間が短いためであることが定性的に理解できる。しかし,1100°Cのベース条件の場合は徐冷でも異常粒成長は観察されなかったのに対して,軽圧下条件では同じ冷却速度でも異常粒成長による粗大オーステナイトが認められた。

そこで,粒成長の駆動力であるひずみエネルギー(ΔGstrain)および粒界エネルギー(ΔGgb),AlNによる粒成長抑制のピン止め力(ΔGpin)の観点から,異常粒成長の発現機構を議論する。

まずピン止め粒子の影響について検討する。AlNによる粒成長抑制のピン止め力ΔGpinはZener25)の式(3)を用いて算出した。

  
ΔGpin=3σVmf2r(3)

ここでσは粒界エネルギー700 mJ/m2,Vmはモル体積7.1 cm3/molを代入した。Table 2に1100°Cのベース条件と,軽圧下条件での加工直後,および0.05°C/sで徐冷途中の750°Cから急冷材のAlN析出量の測定結果を示す。なおTable 2で示した4~11 ppmのAlN量は,AlNとしての定量限界値は15 ppmであるため参考値になることに注意されたい。fは1100°C加工直後に水冷したAlN析出量からオーステナイト26)とAlN27)の密度を用いて換算したAlNの体積分率(ベース条件8 vol ppm,軽圧下14 vol ppm),rはTEMで観察されたAlNの半径18 nmを代入した。その結果,AlNによるピン止め力は0.003~0.006 J/molとなる。

Table 2. The amount of AlN analyzed by extraction residue method (ppm).
Water quenched just after compression at 1100°C0.05°C/s slow cooling → quenched from 750°C
Base condition*4 (*N content = 1)*11 (*N content = 4)
With 5% small compression*6 (*N content = 2)15 (N content = 5)

*Reference value

一方,粒界エネルギーによる粒成長の駆動力ΔGgbは式(4)より求めることができる。

  
ΔGgb=2σVmR(4)

Rは加工直後のオーステナイト粒半径(ベース21.5 μm,軽圧下20.3 μm)を代入した。その結果,粒界エネルギーによる駆動力は加工条件によらず同等の0.46~0.49 J/molであり,ピン止め力に比べて2桁も大きい。よって,徐冷過程における粒成長抑制に対してピン止め力はほとんど影響を及ぼさないことが分かる。

さらに,異常粒成長が起こる発生条件について,Gladman28,29)がピン止め粒子の粒界移動抑止力と粒成長の駆動力から導いた式(5)より検討した。

  
rcrit=6R0fπ(322Z)1(5)

ここでrcritは異常粒成長が起こる臨界析出物半径(nm),R0はマトリクスの平均粒半径であり,rcritより微細なピンニング粒子が分散していれば異常粒成長は抑制される。またfはピン止め粒子の体積分率,Zは成長粒とマトリクスの結晶粒(R0)の比であり,粒径の不均一性(ばらつき)を表す。式(5)より1100°C加工後の徐冷において異常粒成長が起こる臨界析出物半径rcritを計算した結果をTable 3に示す。ベース条件の臨界析出物半径は0.5 nm,軽圧下条件のそれは0.9 nmであり,TEMで観察された析出物半径18 nmに比べて小さいことからベース条件,軽圧下条件ともに異常粒成長の発生条件を満足する。両条件の粒界エネルギーは同等であること,またピン止め力は粒界エネルギーに比べて2桁も小さいことから,軽圧下条件は加工直後のひずみエネルギーによって粒成長が促進された可能性が考えられる。

Table 3. The parameters used for evaluation of critical radius of AlN particle.
R0
(μm)
Z
(=Rmax/R0)
f
(vol ppm)
rcrit (nm)*Precipitation particle radius observed by TEM (nm)
Base condition21.52.480.5
With small compression20.32.2140.918

*Specimens were cooled at 0.05°C/s after compression at 1100°C, then quenched from 900°C.

– Precipitation was not observed.

なお本研究で用いたSCM420の化学成分に対して,AlNの固溶温度を熱力学平衡計算ソフトウェアThermo-Calc(データベースTCFE6)を用いて計算したところ1155°Cであり,今回の実験での熱間加工前の加熱温度1200°Cよりも低いことからみて,熱間加工前にAlNは完全に固溶していると考えられる。一方で,1100°CでのAlNの平衡析出量は72 ppmである。Kubota and Ochi30)は,SCr420-Nb鋼 (0.034Al-0.0175N mass%)を用いて1000°Cでの50%加工およびその後の冷却中のAlN析出率を測定し,AlNは熱間加工時に加工誘起析出しないこと,また加熱後に0.05°C/sで冷却した場合のAlN析出量は添加量を大きく下回ることを報告している。よって平衡析出量を大きく下回る量のAlNが析出する今回の測定結果は妥当であると判断される。

4・2 熱間加工後オーステナイトのひずみエネルギー

前節ではピン止め力および粒界エネルギーが異常粒成長の駆動力の場合を考察したが,1100°C軽圧下付与による粗大オーステナイトの形成理由を説明することはできなかった。その他の可能性としては,加工後のオーステナイト粒に蓄積されたひずみエネルギーによって異常粒成長を引き起こす可能性について検討した。そこで,徐冷過程に異常粒成長が認められた1100°C軽圧下条件(65%加工5 s保持後に5%軽圧下を付与)について,オーステナイトに蓄積されるひずみ分布に関与すると想定される1100°Cで2段目の圧下量の影響について調査した。Fig.9に実施した加工パターンを示す。65%加工後に2段目の圧下量をFig.1の5%から10%(ひずみ速度は65%加工と同じ10 s-1)に増加し,加工後の冷却速度は0.05°C/sとした。Fig.10にこの0.05°C/s徐冷材の光学顕微鏡組織写真を示すように,異常粗大組織は認められておらず,またフェライト+パーライト組織は5%軽圧下の場合(Fig.2b)に比べて整細である。

Fig. 9.

Heat pattern of hot forging and subsequent continuous cooling to room temperature (Series A), quenching after hot forging (Series B). (a) 65% compression and 5 s hold, (b) 65% compression followed by 10% compression.

Fig. 10.

Optical microstructure of the specimen cooled at 0.05°C/s after 65% compression followed by 10% compression at 1100°C (series A).

そこで,オーステナイト粒径に及ぼす熱間加工後の保持時間や2段目の圧下量の影響を確認するため,1100°Cで65%加工5 s保持後,ならびに65%加工5 s保持後に10%圧下直後に水冷を行った。Fig.11に各試験片のオーステナイト粒の光学顕微鏡写真と,EBSD観察によって得られたマルテンサイトの結晶方位情報をもとに再構築したオーステナイトの方位マップを示す。65%加工5 s保持後のオーステナイト(Fig.11a,11b)はFig.4に既に示したベース条件や軽圧下条件で加工後に水冷した場合と同じく全面が等軸粒から構成されており,粒径も同程度と見られる。なお65%加工後の5 s保持の間に静的復旧3134)が起こることが考えられるが,Fig.11(a),11(b)Fig.4(a),4(b)との比較からそれを読み取ることはできなかった。対して圧下量を増やした10%圧下後のオーステナイト(Fig.11c,11d)の場合には,全面が等軸粒を呈しているだけでなく,ベース条件や軽圧下条件に比べて熱間加工後のオーステナイト粒径が明らかに細かくなっていることが分かる。

Fig. 11.

Optical microstructures, austenite orientation maps reconstructed from martensite orientation maps of the specimens water quenched after compression at 1100°C (series B), (a, b) 65% compression and 5 s hold, (c, d) 65% compression followed by 10% compression. In reconstructed austenite orientation map, thick and fine lines represent high angle and twin boundaries, respectively.

以上の結果から,熱間加工後のオーステナイト中のひずみ分布には加工条件によって違いがあり,それが徐冷過程におけるオーステナイトの粒成長挙動に影響を及ぼしている可能性が高い。そこで,EBSD測定データを用いて熱間加工後のオーステナイトを再構築し,塑性変形の程度を反映しているGOS値を求めて検証を行った。ここでGOS値とは,各結晶粒の平均方位を持つピクセルを基準として粒内の各ピクセルの方位差を平均した値であり,各オーステナイト粒の方位差は各粒が受けている塑性ひずみの程度と関係があると考えられている。Kubotaら35)は中炭素鋼の熱間加工後の静的再結晶挙動について再構築オーステナイト粒のGOS値を用いて検討を行っている。その結果,加工によってオーステナイトのGOS値は上昇し,その後,静的再結晶粒が生成するとそのGOS値は低下することを報告している。この結果は,再構築した熱間加工後オーステナイトのGOS値によって,オーステナイトのひずみ状態の比較が可能であることを示すものである。1100°Cのベース条件,65%加工5 s保持,およびその後に5%軽圧下や10%圧下を施し水冷した試料から得られた再構築オーステナイトのGOS mapをFig.12に示す。また各条件のGOS値の低いオーステナイトから順に面積率を累積した結果をFig.13に示す。ベース条件や65%加工5 s保持の条件では4°以上の高方位差のオーステナイト粒が僅かに認められるものの,ほぼ全面が2°以下となる低方位差の状態であった (Fig.12a, 12b, 13a, 13b) 。ベース条件のGOS値が高方位差のオーステナイトは,再結晶後に比較的大きな変形を受けて次の再結晶に至る直前のひずみが蓄積された状態にある粒として,GOS値が低方位差のそれは再結晶直後でほとんど変形を受けていない粒として存在したと考えると動的再結晶状態36)と判断される。また,65%加工後の5 s保持は静的復旧過程にあると見られるが,Fig.12では65%加工材と大きな違いは見られない。軽圧下の条件では高方位差のオーステナイトと低方位差のそれが混在していることが明らかであり,不均一な加工硬化状態にあると見られる(Fig.12c13c)。一方,2段目の圧下を10%まで増やすと粒径は細かくなり,ほぼ全面が2°以下の低方位差のオーステナイトであることから,2段目に10%圧下を付与すると再結晶が発現する臨界ひずみを超えたため,再び動的再結晶状態になっていると考えられる(Fig.12d13d)。

Fig. 12.

GOS maps of reconstructed austenite in the specimens water quenched after compression at 1100°C. (a) 65% compression, (b) 65% compression and 5 s hold, (c) 65% compression followed by 5% small compression, (d) 65% compression followed by 10% compression (series B). In reconstructed austenite orientation map, thick and fine lines represent high angle and twin boundaries, respectively.

Fig. 13.

Cumulative area fraction of GOS values of reconstructed austenite in the specimens water quenched after compression at 1100°C.

ここで,1100°Cのベース条件,軽圧下条件のひずみエネルギー(ΔGstrain)による粒成長の駆動力を求めた。算出には加工直後オーステナイトの転位密度が必要になることから,Calcagnottoら37)が適用したねじり粒界を仮定し,らせん転位が存在した場合の幾何学的に必要なGN転位密度ρgnd(Geometrically necessary dislocations density)の式(6)より求めた。

  
ρgnd=2θub(6)

ここでθは再構築したオーステナイトのKernel Average Misorientation(KAM:局所方位差)の平均値(rad),uはオーステナイト再構築のステップサイズ2 μm,bはバーガースベクトル0.25 nmを代入した。得られたベース条件,軽圧下条件の転位密度から,ひずみエネルギーによる粒成長の駆動力ΔGstrainは式(7)を用いて算出した。

  
Δ G strain = ρ gnd G b 2 V m (7)

Gは剛性率であり,1100°Cにおけるオーステナイトの剛性率はGhosh and Olson38)が求めた回帰式より32.6 GPaを代入した。その結果,ひずみエネルギーによる粒成長の駆動力はベース条件の1.57 J/mol(ρgnd=1.1×1014/m2)に対して,軽圧下条件のそれは2.08 J/mol(ρgnd=1.4×1014/m2)で若干大きいと見積もられる。なお1100°C無加工材は1.51 J/mol(ρgnd=1.0×1014/m2)であり,ベース条件と同等である。以上より求めた粒成長の駆動力の計算結果をTable 4に示す。AlNベース条件の粒成長の駆動力は2.03 J/molに対して,軽圧下条件のそれは2.56 J/molで大きいことから,軽圧下条件は徐冷過程で粒成長が促進されやすかったと定量的にも理解できる。

Table 4. Calculation for driving force of grain growth during slow cooling.
ρgnd
(m–2)
ΔGstrain
(J/mol)
ΔGgb
(J/mol)
ΔGpin
(J/mol)
ΔGstrain + ΔGgb-ΔGpin
(J/mol)
Base condition1.1×10141.570.460.0032.03
With small compression1.4×10142.080.490.0062.56

これらのオーステナイト中のひずみ分布および粒成長の駆動力の計算結果をもとに,変形およびその後の徐冷過程での粗大オーステナイト形成メカニズムの模式図をFig.14に示す。ベース条件(65%加工)の熱間加工後のオーステナイトはほぼ全面がひずみの少ない動的再結晶状態であり(Fig.14a),徐冷過程で粒径が徐々に増加し正常粒成長する(Fig.14d)。また65%加工後に5 s保持を行ってもオーステナイト粒径は変化せず,徐冷過程でベース条件と同様に正常粒成長する。しかしながら,5 s保持後に5%軽圧下を施すと,熱間加工後にひずみの多いオーステナイトとひずみの少ないオーステナイトとが混在した不均一な加工硬化状態になるため(Fig.14b),徐冷過程でオーステナイト粒の局所的なエネルギー差を駆動力としてひずみの少ないオーステナイト粒がひずみの多いオーステナイト粒を蚕食するひずみ誘起粒界移動によって異常粒成長を引き起こすと考えられる(Fig.14e)。また5%よりも圧下量を増やした場合,10%圧下では全面が均一な加工硬化状態を経て再び動的再結晶が起こりひずみの少ないオーステナイト状態(Fig.14a)になることから,徐冷過程で正常粒成長が起こるとみられる。

Fig. 14.

Schematic illustration showing the change in austenite grains during slow cooling with various austenite conditions just after hot forging.

以上より,徐冷過程における粗大オーステナイトは,熱間加工後に不均一な加工硬化状態であることに起因したひずみ誘起粒界移動によって異常粒成長が発生し,形成されたものと考えられる。一方で,熱間加工後のオーステナイトが動的再結晶状態もしくはその後の静的復旧過程にある場合には,オーステナイトのひずみ状態が比較的均一なことにより徐冷過程での異常粒成長の発生を回避できると思われる。今後は,軽圧下の付与によって不均一な加工硬化状態が形成される機構について詳細な解析を行っていくことが必要である。

5. 結言

本研究では,ギヤ・シャフト用として幅広く使用されている肌焼鋼SCM420を用いて,熱鍛後の冷却過程における粗大オーステナイトの形成メカニズムについて明らかにした。得られた主な結果は以下の通りである。

(1)パーライトやベイナイトを含む異常粗大組織は,比較的高温の加工温度で最終の仕上げ成形を想定した軽圧下を付与し,かつ徐冷を行った条件で観察された。

(2)異常粗大組織が認められた1100°C軽圧下の条件では,徐冷過程において異常粒成長した粗大オーステナイトが観察された。一方,徐冷完了後に整細な変態組織を呈した加工条件では,徐冷過程のオーステナイトは何れも正常粒成長したもののみが観察された。

(3)熱間加工後のオーステナイトの粒内平均方位差を評価するGOS値を用いた検証のもと,熱鍛後の冷却過程における粗大オーステナイトの形成メカニズムを提案した。1100°C軽圧下の条件は熱間加工後に不均一な加工硬化状態であったため,徐冷過程でひずみエネルギー差を駆動力としたひずみ誘起粒界移動によって異常粒成長が発生したと考えられた。一方,熱間加工後に動的再結晶状態もしくはその後の静的復旧過程にある場合は,再結晶粒の面積が大部分を占めているため正常粒成長が起こったとみられた。

(4)熱鍛後の冷却過程で粗大オーステナイトの形成を回避するにあたり,熱間加工後のオーステナイトのひずみ分布が重要であり,加工後に動的再結晶状態のオーステナイトが得られるような加工条件を選定することが望ましい。また熱間加工後に不均一な加工硬化状態であっても,加工後からフェライト変態開始付近までの区間の冷却速度を速めるような冷却の制御を行うことで,異常粒成長の回避が可能になると考えられる。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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