Tetsu-to-Hagane
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Fundamentals of High Temperature Processes
Dynamic Changes in Interfacial Tension between Liquid Fe Alloy and Molten Slag Induced by Chemical Reactions
Toshihiro Tanaka Hiroki GotoMasashi NakamotoMasanori SuzukiMasahito HanaoMasafumi ZezeHideaki YamamuraTakeshi Yoshikawa
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2020 Volume 106 Issue 3 Pages 133-142

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Abstract

The authors investigated the change in the interfacial tension with time for various combinations of molten slag and liquid Fe to elucidate the mechanism of the change in interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag over time accompanying reduction/oxidation reactions. The behavior of the change in the interfacial tension over time can be explained by the adsorption of oxygen at the interface and the diffusion of oxygen from the interface into the bulk of the liquid Fe and molten slag. In addition to that, we found that the interfacial tension decreases slowly and greatly from its initial value to a minimum point and then increases slowly to the final equilibrium state when molten silicate slag with low viscosity is brought into contact with liquid Fe without Al content and some of its SiO2 decomposes and dissolves into the liquid Fe. From these results, we suggest that the detachment of oxygen adsorbed at the interface into the liquid Fe is very slow and may be the rate-limiting step.

1. 緒言

溶鋼と溶融スラグ間との界面張力は製鋼プロセスにおいて重要な物性値の一つであり,その値が大きい場合には界面が平坦になる復元力が大きく,溶鋼への溶融スラグ滴の巻き込みを防止できるので,スラグに起因した介在物等の少ない清浄鋼が得られやすい。逆に,界面張力が小さい場合には,界面が不安定になり,溶鋼と溶融スラグが混ざりやすく,化学反応の進行が促進されることが期待できる。したがって,必要な界面安定性に合わせて溶鋼と溶融スラグ間の界面張力の大きさを制御できれば,様々な目的に合った製鋼プロセスを設計できる。一方,1950年代以来,界面で化学反応が生じた際に,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力が一時的に減少することが繰り返し報告されている17)。これは,仮に,界面張力の初期値を制御することができたとしても,化学反応中に界面張力が変化する可能性があることを意味する。しかし,溶鉄と溶融スラグとの間の化学反応中の界面張力低下の機構の説明は未だ十分になされていない。

例えば,Riboud and Lucas3)は,溶融Fe-4.45%Al合金と溶融CaO-SiO2-Al2O3スラグとの間の界面張力の変化に関する実験結果を報告している。この場合式(1)の化学反応が進行する。ここでは界面張力の変化を測定するために,X線透過法による静滴法が用いられた。

  
4AlinFe+3SiO2inslag2Al2O3inslag+3SiinFe(1)

Fig.1は,溶鉄中のAl含有量の減少速度が大きい場合に界面張力が著しく減少することを示している。このように,Riboud and Lucasによって,式(1)の化学反応が生じている場合には一時的に界面張力が小さくなることが報告されている。

Fig. 1.

Experimental results of the change in interfacial tension between liquid Fe-4.45 mass% Al alloy and molten silicate slag.

しかし,上記のRiboud and Lucas3)の研究では,初期Al濃度を4.45 mass%と非常に高く設定しているため,製鋼過程における化学反応速度と界面張力の関係に対応しているとは言い難い。

そこで本研究では,低濃度のAlを含む溶鉄に対しても,溶鉄と溶融スラグとの界面張力の変化をより正確に測定し,化学反応の最中に界面張力が減少する機構解明について種々の考察を行った。

2. 溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の測定

溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力を測定するために以下の手順で実験を行った。先ず,金属試料を直径50 mmの浅い皿状坩堝内で溶融させ,水平表面を有する溶鉄を所定温度において保持した。 この表面上に溶融スラグの小滴を滴下させると,Fig.2およびFig.3に示すようなレンズ状の形状となり,溶融スラグの見かけの接触角から,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力を測定することができる。

Fig. 2.

Schematic diagram of a droplet of molten slag on the surface of liquid Fe alloy.

Fig. 3.

Balance of the surface tension of liquid Fe alloy, the surface tension of molten slag, and the interfacial tension between the two phases at a triple point.

Fig.3において,溶鉄/溶融スラグ/気相の三相界面では溶鉄の表面張力と溶融スラグの表面張力,ならびに両者間の界面張力が,垂直方向と水平方向にて均衡することから,界面張力σFe/Slagについて次式が得られる。

  
σFe/Slag=σFe2+σSlag22σFeσSlagcosθ2α(2)

ここで,θ2αは溶鉄上の溶融スラグの見かけの接触角である。溶鉄の表面張力σFe,溶融スラグの表面張力σSlagは次節で詳しく説明するモデルから得られる。したがって,見かけの接触角θ2αを測定することにより,式(2)から溶鉄-溶融スラグ間の界面張力σFe/Slagを得ることができる。

2・1 溶鉄の表面張力の評価

溶鉄の表面張力は,溶存する酸素および硫黄濃度に強く依存することから,Oginoら8) によって提案された次の式(3)を用いて,溶融Fe-O-S合金の表面張力を推算した。

  
σFe=1910825log(1+210mass%O)540log(1+185mass%S)(mJ/m2)(0mass%O0.0160+mass%S0.03001)(3)

本研究では,ZrO2酸素センサを用いて溶鉄の酸素濃度を測定し,これを式(3)に代入して溶融合金の表面張力を得た。溶融合金中の硫黄濃度は実験中一定であると仮定した。Fig.4には,溶鉄に浸漬したZrO2酸素センサによって測定された,溶鉄中酸素濃度の変化の一例を示す。

Fig. 4.

Oxygen content in liquid Fe alloy monitored using a ZrO2 sensor.

2・2 溶融スラグの表面張力の評価

Tanakaら9,10)によって提案された次の式を用いて,溶融スラグの表面張力を算出した。

  
σ=σiPure+RTSilnMiSurfMiBulkMiP=RARxXiPRSi4+RSiO44XSiO2P+RCa2+RO2XCaOP+RAl3+RO2XAl2O3P+RMg2+RO2XMgOP+RNa+RO2XNa2OP+RCa2+RFXCaF2P(4)

(P=SurfまたはBulk)

ここで,iは溶融スラグの成分を示し,AおよびXは成分iのカチオンおよびアニオンをそれぞれ示す。SurfとBulkは,表面状態とバルク状態を示す。Rは気体定数,Tは絶対温度である。σiPureは純粋な成分iの表面張力である。xiPは成分iのモル分率である。RAおよびRXは,それぞれ成分iのカチオンおよびアニオンの半径である。Siは,以下の式を用いて成分iのモル体積から計算できる成分iのモル表面積である。

  
Si=N01/3Vi2/3(5)

2・3 実験

Fig.5は,溶鉄と溶融スラグ間の界面張力を測定するために用いた炉の概略図である。鉄試料90 gをAl2O3製の浅い皿状のるつぼに入れた後,炉を1823 Kまで昇温した。浅い皿状のるつぼの上に直径8 mmの孔を有するMoプレートを設置し,スラグ粉末を圧縮して得られた0.8 gのスラグ固化タブレットを置いた。溶鉄と溶融スラグ液滴の融解を確認の後,Mo支持棒を下方に押し込み,水平面を有する溶鉄表面にスラグ液滴を滴下した。その後,スラグ液滴が移動しないように,さらにMo支持棒の位置を下げて,液滴を溶鉄表面に支持した。Fig.3に示すように,接触角の経時変化をカメラで測定し,溶鉄上の溶融スラグの見かけの接触角を測定し,界面張力を評価した。

Fig. 5.

Schematic diagram of the experimental apparatus for the measurement of the change in interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag.

本研究においては,種々の溶鉄およびスラグの組み合わせによって,以下(A),(B)の実験を行った。

(A)溶鉄と溶融スラグの界面張力の動的変化に対する機構を調査する。

(A-1)化学反応式(1)を生じる,溶融Fe-Al合金と溶融SiO2-CaO-Al2O3スラグの組み合わせ,

(A-2)後述する化学反応式(6)に示す,スラグ中のSiO2がSiと酸素へ分解した後に,溶鉄中に溶解する,Alを含まない低炭素溶鉄と溶融ケイ酸塩スラグの組み合わせ

上に示す,(A-1)および(A-2)の実験で用いた溶鉄および溶融スラグの化学組成をTable 1およびTable 3中の①,②に示す。

Table 1. Chemical composition of the steel used in the present experiments (mass%).
CSiMnPSAlN
Steel A0.0270.0100.0800.0110.0060.0100.0006
Table 2. Chemical compositions of the molten slag used in the present experiments (mass%).
CaOSiO2Al2O3CaF2Viscosity (Pa·s)
Slag A40.040.020.00.00.434
Slag B36.036.018.010.00.257
Table 3. Al mass% in liq.-Fe and slag composition information of the experiment categories in Fig.14.
CategoryAl mass% in liq.-FeSlag Composition [mass%]Slag viscosity at 1823 K [Pa s]
CaOSiO2Al2O3CaF2
0.04845401500.284
0.00740402000.434
0.04240301100.115
0.007363618100.257

(B)溶鉄と溶融スラグの界面張力の動的変化に及ぼす溶融スラグ粘性の影響を調査する。

上記の実験について,溶鉄と溶融スラグの界面張力の動的変化に及ぼす溶融スラグ粘性の影響を調査するために,Table 3②,④に示す2種類の組成の溶融スラグを用いた。

3. 実験結果

Fig.6は,低炭素溶鉄上の溶融シリケートスラグの見かけの接触角および界面張力の時間変化の一例を示している。Fig.7は,溶鉄中のSiとAl濃度の変化と溶融スラグ中のSiO2とAl2O3濃度の経時変化を示している。これらの成分の変化は,式(1)の化学反応が低炭素鋼でも生じることを示している。Fig.6に示すように,化学反応中,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力は,初期値から急激に減少し,最小値に達した後,徐々に増加した。

Fig. 6.

Typical change in contact angle (L) and interfacial tension (R) between liquid Fe alloy and molten slag with time.

Fig. 7.

Typical change in the concentrations of Si and Al in the liquid Fe alloy and of SiO2 and Al2O3 in the molten slag with time.

また,Alを含まない溶鉄と溶融シリケートスラグとの間の界面張力の変化を測定した。この条件では,SiO2の分解と,酸素およびSiの溶鉄への溶解が,式(6)によって生じることを想定している。

  
SiO2inSlagSiinFe+2OinFe(6)

Fig.8に示すように,Alを含まない溶鉄と溶融シリケートスラグの組合せにおいても界面張力は初期値から急激に減少し,その後,徐々に増加した。

Fig. 8.

Typical change in the interfacial tension between liquid Fe alloy without Al content and molten slag with time.

3・1 界面における酸素の吸着による溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力の変化の機構の提案

本節では,化学反応が生じている間の溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の変化の機構を,界面における酸素の過剰吸着を考慮して考察を行った。ここで界面は二次元に広がっている欠陥の一種であるため,界面自由エネルギー,すなわち界面張力が緩和して減少する際に,酸素が過剰に吸着する可能性がある。

上記の考え方を,先に示した式(1)を以下の2つの反応に分解して考察を進める。

  
SiO2inSlagSiinFe+2OinFe(7)
  
2AlinFe+3OinFeAl2O3inSlag(8)

溶鉄と溶融スラグとの界面張力の変化の機構について,以下の2つの場合について検討した。

-式(1)による酸化還元反応が生じる場合,すなわち溶鉄中Alが関与する場合

-式(7)に示す溶鉄へのSiO2の分解・溶解のみが生じる場合,すなわちAlが関与しない場合

3・1・1 酸化還元反応に伴う溶鉄と溶融スラグ間の界面張力変化の機構

まず,式(1)に示す酸化還元反応に伴う溶鉄と溶融スラグの界面張力の変化について考察する。SiO2の分解・溶解(式(7))は溶融スラグが溶鉄と接触した直後に起こる。Si原子は溶鉄中に拡散するが,酸素は強い界面活性元素であるため,溶鉄中へ拡散する代わりに,酸素原子は溶鉄側の界面に優先的に吸着する。溶鉄側の界面に蓄積した酸素原子はFig.9の①,②のように界面張力を低下させる。

Fig. 9.

Schematic diagram describing the mechanism of the change in contact angle and interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag with time.

Fig.10は,溶鉄中に含まれる種々の元素の酸化物飽和における溶鉄中平衡酸素濃度を示す。同図より,Al2O3に対する平衡酸素濃度はSiO2の場合よりも小さい。溶融スラグが接触する前の溶鉄中Si活量は小さく,溶融スラグが溶鉄に接触した後,スラグ中SiO2は式(7)に示すように,Siおよび酸素原子として溶鉄に溶解する。酸素原子は溶鉄側の界面で吸着し,界面張力を低下させる。次に,酸素原子の一部がAl原子と反応し(式(8)),溶融スラグ側の界面にAl2O3が生成する。しかし,溶融スラグ中のAl2O3の拡散は,化学反応の速度よりも遅く律速段階になることが予想される。これにより,溶融スラグ側の界面にAl2O3として酸素が蓄積され,溶鉄側の界面に吸着した酸素が脱離して溶鉄中のAlと反応することを抑制する。

Fig. 10.

The solubility of various elements and oxygen in liquid Fe alloys (1873 K)11).

このように,酸素の過剰吸着は,溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の減少に寄与することが考えられる。Fig.11は,溶鉄と溶融スラグ間の界面張力と溶鉄中の酸素濃度,すなわち界面張力と界面に吸着された酸素量との関係を示す。

Fig. 11.

Change in the interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag with oxygen content of the liquid Fe alloy12).

溶融スラグへのAl2O3の拡散や界面の溶鉄側の吸着酸素原子の脱離は遅いものの,溶融スラグ中に徐々にAl2O3が拡散し,さらに酸素原子が溶鉄中に拡散する。このようにして,界面に吸着していた酸素量が減少し,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力は増加すると考えられる。(Fig.9の③,④)

3・1・2 溶融スラグ中SiO2の溶解による溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の変化の機構

本節では,溶融スラグ中SiO2の溶解に伴う溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力の変化の機構について議論する。溶融スラグが溶鉄と接触した直後に,式(7)に従って,溶融スラグ中のSiO2の一部が分解し,Siおよび酸素原子が式(7)によって溶鉄に溶解する。酸素原子は,界面の溶鉄側に吸着し,界面張力を低下させる。吸着された酸素原子の脱離は遅いが,徐々に溶鉄中に拡散する。界面吸着酸素量の減少は,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力を増加させる。

4. 酸化還元反応に伴う溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の変化に及ぼす溶融スラグの粘性の影響

前節では,界面張力の最小値から最終平衡値への変化は,界面から溶融スラグ中へのAl2O3の拡散に依存し,律速段階になることを提案した。律速段階の効果をより明確にするため,溶融スラグの粘性が,Alを含まない溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の変化に及ぼす影響を測定した。本研究では,溶融スラグにCaF2を添加して粘性を変化させた。

Fig.12および13は,異なる粘度の2つの溶融スラグの接触角および界面張力の経時変化を示す。CaF2の添加により溶融スラグの粘度が低下すると,界面張力は大幅に低下した。さらに,界面張力は高粘度スラグの場合に比べて,最小点からゆっくりと増加する傾向を示した。

Fig. 12.

Typical change in the interfacial tension between liquid Fe alloy without Al content and molten slag of high and low viscosity over time.

Fig. 13.

Change in interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag with time for molten slags having high and low viscosity.

4・1 溶融スラグの粘性が界面張力の時間変化に及ぼす影響

高粘性の溶融スラグでは,溶融スラグのバルクから界面へのSiO2の供給速度は遅いと考えられる。溶融スラグが溶鉄と接触した直後に,初期界面に存在するSiO2が分解されるが,分解によって生成した酸素原子が溶鉄側界面に速やかに吸着して界面張力が低下する。溶融スラグの粘度が高い場合には,界面張力が最小点に達した後でも,溶融スラグ中のバルクから界面への酸素供給速度が遅く,界面に吸着した酸素が徐々に脱離するため界面張力はゆっくりと増加したと考えられる。また,高粘性スラグのバルクからのSiO2の供給が遅いため,界面に吸着される酸素量は低粘性スラグよりも少なくなるため,界面張力は大きく低下せずに初期に低下した値をほぼ維持したままであると考えられる。

一方,溶融スラグの粘度が低い場合には,SiO2はバルクから界面に移動しやすくなり,酸素の供給が増加する。したがって,界面の溶鉄側に吸着した酸素原子の脱離速度よりもSiO2の供給速度が大きいと仮定すると,酸素吸着量が大きく増加して,界面張力がより急激に低下し,さらに最小値に達するまで時間を要すると考えられる。その後,酸素原子は界面から溶鉄中に徐々に拡散し,界面張力が増加し始める。溶鉄中の酸素原子の拡散は速いが,界面に吸着した酸素の脱離はそれに比べて遅いと考えられる。また,式(1)のような酸化還元反応が起こらず,溶融スラグの粘性が低いため,溶融スラグのバルクからの界面への酸素供給が継続され,界面張力が最終平衡状態に達するまでに時間がかかると考えられる。

このように,バルクから溶融スラグ中の界面への酸素の供給速度と溶鉄への酸素原子の分離および拡散との間のバランスが,界面張力の変化の時間依存性を決めていると考えられる。さらに,上記の考察により,溶鉄への界面における酸素原子のゆっくりとした脱離が,溶鉄と溶融スラグとの間の界面張力の変化に強く影響すると考えられる。

5. 酸化還元反応の変化と溶融スラグの粘性による,溶鉄と溶融スラグとの界面張力の変化機構

上記の実験結果は,溶融スラグ中のバルクから界面への酸素の供給速度にスラグの粘性が影響を及ぼし,また酸化還元反応の有無も界面張力の時間変換に影響することを意味している。そこでFig.14に示すように,酸化還元反応の有無と溶融スラグの粘度の大小との4種類の条件下における溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の時間変化を分類し,考察を行った。Fig.14の4つの分類の溶鉄および溶融スラグの条件をTable 3に示す。

Fig. 14.

Four identified categories of the change interfacial tension between liquid Fe alloy and molten slag with time.

Fig.15は,経時的な界面張力の変化機構の概要を示す。

Fig. 15.

Summary of the mechanism for the change in the interfacial tension with time.

まず,溶融スラグの粘性が低い場合(Fig.14の③,④)には,SiO2は溶融スラグ中のバルクから界面まで移動しやすくなり,酸素の供給が増加する。そして,界面からの酸素の界面への供給速度が溶鉄中への酸素の脱離速度よりも大きいため,界面に吸着される酸素量が増加する。これは界面張力がその初期値から大きく減少し,最小点に達するまでに時間がかかることを意味する。特に酸化還元反応のないFig.14のカテゴリー④の場合には,界面に吸着した酸素の離脱と溶鉄への拡散は,界面張力が最小点に達した後に加速され,界面張力は最終平衡状態まで徐々に増加する。溶鉄中の酸素の拡散は速いが,界面からの酸素の脱離はそれに比べて遅いと考えられる。従って,界面における酸素の吸着量の減少は,主として,界面からの酸素の脱離および溶鉄中への酸素の拡散に依存する。さらに,溶融スラグの粘性が低くなるとバルクから溶融スラグ中の界面への酸素の供給が継続するので,界面張力は最終的な平衡状態までゆっくりと増加する。

酸化還元反応を伴うFig.14のカテゴリー③の場合には,界面に吸着した酸素の溶鉄への拡散と,式(1)の反応で生成したAl2O3の拡散の両方が起こる。その際,局部的には式(8)の反応が生じている。バルクから界面への酸素の供給は溶融スラグ内で継続するが,界面からの脱離はFig.14のカテゴリー④よりも速い。なぜなら界面からの拡散が溶鉄および溶融スラグ中の両方で発生するからである。したがって,界面張力は,カテゴリー④よりも最終平衡状態に向かってより急速に増加する。

逆にFig.14の①,②のカテゴリーでは,溶融スラグの粘性が高いと,溶融スラグ中のバルクから界面への酸素供給速度が遅い。このように,溶鉄と接触する直前の溶融スラグの初期表面に存在するSiO2のみが分解して溶鉄に溶解する。このSiO2の初期分解によって生成された酸素原子は,主に溶鉄側の界面に吸着され,界面張力はその最小点まで急速に減少する。しかしながら,溶融スラグが高粘性のためにバルクから界面へのSiO2移動に伴う酸素供給速度が小さいため,界面に吸着される酸素原子の量はあまり高くならないと考えられる。そのため,カテゴリー①の挙動とFig.14のカテゴリー②の挙動を区別することは非常に困難である。

6. 結言

本研究では,還元・酸化反応に伴う溶鉄と溶融スラグ間の界面張力の変化の機構を解明するために,溶融スラグと溶鉄との種々の組み合わせについて経時的な界面張力の変化を測定した。得られた結果を以下に示す。

(1)経時的な界面張力の変化の挙動は,界面における酸素の吸着と界面から溶鉄および溶融スラグのバルクへの酸素の拡散によって説明することができる。

(2)経時的な界面の変化の挙動は,酸化還元反応の有無ならびに溶融スラグの粘性の大小によって分類することができる。

(3)低粘度の溶融シリケートスラグをAl濃度のない溶鉄に接触させた際には,SiO2の一部が分解して界面張力は,初期値から最小値までゆっくりと大きく減少した後,最終的な平衡状態までゆっくりと増加する。これらの結果から,界面に吸着した酸素の溶鉄への脱離は非常に遅く,律速段階である可能性があることを示唆している。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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