鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
化学蓄熱のためのクエン酸化合物添加水酸化マグネシウムの脱水および水和反応性
齋藤 鴻輝黒沢 諒劉 醇一
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2020 年 106 巻 8 号 p. 549-555

詳細
Abstract

This research focuses on dehydration / hydration of magnesium hydroxide as a chemical heat storage material. Previous studies have reported that the use of additives in magnesium hydroxide improved the dehydration / hydration reactivity. However, additives used in previous studies have had problems in terms of environmental impact and cost. Therefore, the purpose of this study is to search for safe and inexpensive additives. We have selected citrate compounds as an inexpensive and safe additive. The effect of the additive was verified by measuring the dehydration / hydration reaction of magnesium hydroxide using a thermogravimetric instrument. Furthermore, XRD was used for sample characterization. As a result, the most improved reactivity was confirmed in the sample using sodium citrate as an additive. SC5 (molar ratio, magnesium hydroxide: sodium citrate dihydrate = 100: 5) decreased the dehydration peak temperature by about 31ºC compared to pure magnesium hydroxide. Sodium citrate dihydrate was found to undergo thermal degradation during sample heating. Then, when the repeated reaction test was implemented, the improvement of the dehydration rate after the 2nd time was confirmed. These results indicate that the product of thermal decomposition of sodium citrate dihydrate is effective as an additive.

1. 緒言

近年,地球温暖化が問題視されており,二酸化炭素排出量の削減などの取り組みがなされている。その対策の一つとして未利用熱エネルギーの有効利用が挙げられる。未利用熱エネルギーを利用するための蓄熱技術には顕熱蓄熱,潜熱蓄熱,化学蓄熱の三種類があり,各蓄熱技術には長所と短所がある。顕熱蓄熱は,物質の比熱を利用する方法である。熱は,物質の温度を上げて維持することにより蓄えられる1,2)。ただし,蓄熱密度は比較的小さい。潜熱蓄熱は,物質の潜熱を利用する方法である。材料の相変化により熱エネルギーが保存される13)。蓄熱密度は比較的高く,出力温度は一定である。化学蓄熱は,物質の化学反応を利用する方法であり,他の2つの技術と比較して高い蓄熱密度を有している材料が多い2,4,5)。化学蓄熱の優れた点は,熱の需要と供給が離れている場所でもロスなく蓄放熱することが可能な点である。現在,多くの種類の化学蓄熱材が研究されている。これらの化学蓄熱材の蓄熱動作温度範囲は,使用する材料によって異なる4,6)。したがって,広い温度範囲で未利用熱エネルギーを処理できる。化学蓄熱材料による太陽熱や産業廃熱などの未利用熱エネルギーの利用は,環境問題に対する潜在的な解決策である。日本の温度範囲別の産業廃熱をFig.17)に示す。現在,日本では300°C以下の大量の廃熱がある。これらの廃熱を再利用することは,使用される化石燃料の量を減らし,二酸化炭素排出量を減らすための効果的な手段の一つと言える。

Fig. 1.

Industrial exhaust heat by temperature range in Japan6). (Online version in color.)

水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)系の化学蓄熱材は,300°Cの未利用の熱エネルギーの熱を蓄えるのに効果的と考えられている。式(1)にMg(OH)2の脱水/水和反応式を示す。脱水反応は蓄熱操作に対応し,水和反応は熱出力操作に対応する。

  
Mg(OH)2MgO+H2O(g)ΔH=81kJ/mol(1)

しかし,純粋なMg(OH)2を使用した蓄熱には,約350°Cの熱エネルギーが必要である。そのため,これまでの研究では,Mg(OH)2に添加剤を使用して脱水温度を下げる研究が行われてきた。添加剤に使用された材料は多くの種類があり,炭素材料816)やバーミキュライト17),様々な金属塩18)などが挙げられる。特にニッケルまたはコバルトの複合水酸化物(MgxM1-x(OH)2:M=Ni,Co:x=0-1)19,20)やリチウム化合物(LiCl,LiOH)添加Mg(OH)2(LiCl/Mg(OH)2,LiOH/Mg(OH)2)2123)においては300°C未満の熱エネルギーを蓄えることができ,中でもLiClとLiOHを同時に添加した試料が最も脱水温度域の低温化したという報告がなされている24)。しかし,これらの材料には遷移金属とハロゲン化合物が含まれることから,環境負荷や安全性について問題があり,リチウム化合物についてはリチウムイオンバッテリーにも使われることから価格の高騰が考えられるため,これらの添加剤の使用量を減らすことが望ましい。本研究では新しい添加剤の候補として,食品添加物としても使用され,またリチウム化合物と比べ価格面で有利なクエン酸化合物に着目し,Mg(OH)2に添加した試料の脱水/水和反応性評価を行った。

2. 実験方法

2・1 試料調製

本研究では,Mg(OH)2(99.9%,和光純薬工業株式会社),クエン酸一水和物(C6H8O7・H2O,99.5+%,和光純薬工業株式会社),クエン酸マグネシウム九水和物(Mg3(C6H5O7)2・9H2O,94.0-103.0%,和光純薬工業株式会社)およびクエン酸ナトリウム二水和物(C6H5Na3O7・2H2O,99.0+%,和光純薬工業株式会社),炭酸ナトリウム(Na2CO3,99.8%,和光純薬工業株式会社),粉末グラファイト(C,98.0+%,和光純薬工業株式会社)を用いた。添加剤として用いたクエン酸化合物はC6H8O7・H2O,Mg3(C6H5O7)2・9H2OおよびC6H5Na3O7・2H2Oの3種類である。Na2CO3とCについてはC6H5Na3O7・2H2Oの分解生成物としての効果を検討するために使用した。試料調製の方法はすべての試料において含浸法を用いた。Mg(OH)2と添加剤を純水と共に混合し,ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で攪拌して40°Cで水を蒸発させた。1時間かけて水を蒸発させた後,120°Cの乾燥機内で一晩乾燥を行った。クエン酸化合物添加試料と比較のための試料の混合比と試料名についてはTable 1にまとめて示す。

Table 1. Sample list.
AdditiveMolar ratioSample name
C6H8O7·H2OMg(OH)2: C6H8O7·H2O = 100: 1C6H8O7 / Mg(OH)2
Mg3(C6H5O7)2·9H2OMg(OH)2: Mg3(C6H5O7)2·9H2O = 100: 1Mg3(C6H5O7)2 / Mg(OH)2
C6H5Na3O7·2H2OMg(OH)2: C6H5Na3O7·2H2O = 100: 1SC1
Mg(OH)2: C6H5Na3O7·2H2O = 100: 5SC5
Mg(OH)2: C6H5Na3O7·2H2O = 100: 10SC10
CMg(OH)2: C = 100: 10C10
Na2CO3Mg(OH)2: Na2CO3 = 100: 1NC1
Mg(OH)2: Na2CO3 = 100: 5NC5
Mg(OH)2: Na2CO3 = 100: 10NC10
C, Na2CO3Mg(OH)2: Na2CO3: C = 100: 7.5: 22.5NC7.5C22.5
Pure magnesium hydroxideMg(OH)2
Magnesium hydroxide with water treatmentMg(OH)2-w
Pure sodium citrate dihydrateSC
Sodium citrate dihydrate with water treatmentSC-w

2・2 反応試験

各試料の脱水および水和反応における質量変化を,熱天秤(TGD-9600,アドバンス理工)を使用して測定した。試料重量は約20 mgで,白金セルを用いた。

脱水反応試験では,アルゴンガス流通下(流量100 mL/min)で,室温から600°Cまで毎分10°Cの昇温速度で加熱した。天秤内の温度が100°Cに達した時点の質量を初期重量と定義した。

水和反応試験では,アルゴンガス流通下(流量100 mL/min)で,初めに毎分20°Cの昇温速度で室温から120°Cまで加熱し,30分間120°Cで保持して物理吸着水の除去を行った。次に,脱水反応温度(270,300°C)まで毎分20°Cの昇温速度で加熱し,30分間脱水温度(270,300°C)で保持して脱水反応を行った。このときの昇温開始時点の質量を初期重量と定義した。続いて,水和温度110°Cまで毎分20°Cの速度で温度を低下させ,80分間110°Cでキープした。水和反応操作は水蒸気およびアルゴンガス流通下で行い,このときの水蒸気分圧は57.8 kPaでおこなった。水和反応終了後,水蒸気の供給を停止し,110°Cを50分間保持して物理吸着水の除去をおこなった。

2・3 評価指標の算出方法

脱水反応試験における評価指標として脱水ピーク温度を用いた。脱水反応試験で測定されたTG曲線を時間微分した際に下向きのピークとなる温度を脱水ピーク温度と定義する。すなわち,脱水ピーク温度は試料の脱水速度が最大となるときの温度のことである。脱水ピーク温度を下げることで,脱水操作可能温度域を低温側へ広げることができ,より低い温度の熱エネルギーを効率的に回収することが可能となる。

C6H5Na3O7・2H2O添加Mg(OH)2の脱水/水和反応試験における評価指標としてMg(OH)2のモル分率を算出した。Mg(OH)2のモル分率の算出は,式(2)から得られる。

  
x=(1(Δw(wiSCwSC))/MH2OwMg(OH)2/MMg(OH)2)×100(2)

ここで,∆w[g]は試料の重量変化,wiSC[g]は120°Cから昇温開始する時のC6H5Na3O7・2H2Oの重量,wSC[g]は反応中のC6H5Na3O7・2H2Oの重量,wMg(OH)2[g]は120°Cから昇温開始する時のMg(OH)2の重量,MH2O[g/mol]はH2Oのモル質量,MMg(OH)2[g/mol]はMg(OH)2のモル質量である。これにより試料の脱水/水和反応の速度や転化率を比較することができる。TG曲線から得られるモル分率変化グラフの例をFig.2に示す。水和反応試験では,脱水反応転化率(100-x0)と水和反応転化率(∆x1=xc-x0)を使用して試料の評価をおこなった。ここで,x0[%]は水蒸気導入開始直前のMg(OH)2のモル分率,xh[%]は水蒸気導入終了時のMg(OH)2のモル分率,xc[%]は水蒸気導入終了から10分後のMg(OH)2のモル分率である。

Fig. 2.

Example of reaction conversion in TG curve. (Online version in color.)

2・4 試料のキャラクタリゼーション

X線回折測定(XRD)は,X線回折装置(Ultima IV,Rigaku)を用いた。測定条件は,測定範囲は10-80°,スキャンスピード10°/min,電圧40 kV,電流40 mAの条件下で,CuKα線を用いて測定した。

3. 結果

3・1 脱水反応試験

クエン酸化合物添加Mg(OH)2の脱水反応試験のTG曲線をFig.3に示す。C6H8O7/Mg(OH)2およびMg3(C6H5O7)2/Mg(OH)2では,脱水ピーク温度が高温側へシフトし,C6H5Na3O7/Mg(OH)2は,純粋なMg(OH)2よりも低温側へシフトした。C6H5Na3O7/Mg(OH)2の脱水ピーク温度は純粋なMg(OH)2と比較して約25°C低温下した。この結果,C6H5Na3O7・2H2Oが本研究で用いたクエン酸化合物の中で脱水反応温度の低温化に対して最も効果的であると考えられるため,C6H5Na3O7・2H2Oの添加比を変えた試料を調製し,同じ条件下で脱水反応試験を実施した。

Fig. 3.

The TG curve of the dehydration reaction test of citrate-added magnesium hydroxide. (Online version in color.)

C6H5Na3O7・2H2Oを3つのモル比で添加した試料の脱水反応試験のモル分率変化のグラフをFig.4に示す。脱水ピーク温度はすべての試料で低温化した。その中でも,脱水ピーク温度はSC5で最も低い温度となり,純粋なMg(OH)2と比較して約31°C低温化した。試料の外観の変化は,SC5およびSC10で観察され,もともと白色の粉末であったが,熱重量測定後に灰色に変色した。これは,C6H5Na3O7・2H2Oの熱分解によるものと考えられる。C6H5Na3O7・2H2Oの熱分解は室温から600°Cまで加熱することで段階的に発生し,Na2CO3とCを生成すると考えられる。SC1については,C6H5Na3O7・2H2Oの添加量が少ないため,外観の変化は見られなかった。

Fig. 4.

The mole fraction change of the dehydration reaction test of the C6H5Na3O7/Mg(OH)2. (Online version in color.)

3・2 水和反応試験

C6H5Na3O7/Mg(OH)2の水和反応試験のモル分率変化のグラフをFig.5に示す。純粋なMg(OH)2と比較して,SC5およびSC10では脱水反応転化率が向上した。SC1に関しては,純粋な水酸化マグネシウムと比較して脱水反応転化率の向上が確認できなかった。SC5とSC10の脱水反応転化率の向上は確認できたが,水和反応転化率はどちらも約60%であった。SC5に関しては水和反応転化率において100%に至っていないため改善の余地がある。

Fig. 5.

The mole fraction change of hydration reaction test of C6H5Na3O7/Mg(OH)2. (Online version in color.)

3・3 繰り返し反応試験

脱水/水和反応試験の前後における試料の外観変化から,C6H5Na3O7・2H2Oは加熱により熱分解することが示唆された。純粋なC6H5Na3O7・2H2O単体に対して熱重量測定を実施することでC6H5Na3O7・2H2Oの熱分解挙動の分析をおこなった。Fig.6に純粋なC6H5Na3O7・2H2Oの脱水反応試験のTG曲線を示す。室温から600°Cまで加熱したときに三段階の質量減少が確認された。水和反応条件においては最高温度が300°Cであるため,二段階目の反応まで熱分解が起こると考えられる。したがって,化学蓄熱材としての運用を考えたときに2回目以降の蓄熱操作では,添加剤として含まれている材料がC6H5Na3O7・2H2Oとは異なる可能性が高い。そこで,熱重量測定において熱分解により生成された物質がMg(OH)2の脱水および水和反応に与える効果を調べるために,繰り返し反応試験を実施した。前述した実験結果に基づき,純粋なMg(OH)2への添加による脱水ピーク温度の低温化,脱水/水和反応転化率の向上の効果が最も高いと考えられるSC5について繰り返し反応試験をおこなった。

Fig. 6.

The TG curve of dehydration test of C6H5Na3O7·2H2O.

SC5の繰り返し反応試験(脱水温度:300°C)のモル分率変化のグラフをFig.7に示す。SC5.1とSC5.2については水和反応試験が行われた回数を表しており,それぞれ一回目と二回目の試験の結果を示している。純粋なMg(OH)2と比較すると一回目,二回目ともに脱水速度と脱水/水和反応転化率の向上が確認できた。さらに,回数による違いについては,脱水速度では一回目の反応と比較して二回目の反応で増加していることがわかる。また,脱水および水和反応転化率も二回目の反応においてわずかに向上した。

Fig. 7.

The mole fraction change of the cycle reaction test of SC5 (dehydration temperature: 300ºC). (Online version in color.)

続いて,SC5の繰り返し反応試験(脱水温度:270°C)のモル分率変化のグラフをFig.8に示す。ここで,SC5.1は調製した試料に対して水和反応試験(脱水温度:270°C)をおこなったときのモル分率変化のグラフであり,SC5.2は調製した試料に対して一度水和反応試験(脱水温度:300°C)をおこない,その後に水和反応試験(脱水温度:270°C)をおこなったときのモル分率変化のグラフである。SC5.1では純粋なMg(OH)2と比較して脱水/水和反応転化率に対する効果は小さいが,SC5.2では脱水/水和反応転化率が約65%まで向上することが確認できた。この結果から二回目以降の脱水/水和反応において純粋なMg(OH)2と比較して,より低温で蓄熱操作が可能になることがわかった。すなわち,SC5.1とSC5.2の違いは添加剤として含まれる物質であり,C6H5Na3O7・2H2Oと比較して,C6H5Na3O7・2H2Oが熱分解して生成された物質が添加剤としてMg(OH)2の脱水/水和反応性の向上に対して効果が大きいと考えられる。一方,実用上の観点から,繰り返し反応に対する耐久性を評価する必要がある。

Fig. 8.

The mole fraction change of the cycle reaction test of SC5 (dehydration temperature: 270ºC). (Online version in color.)

3・4 炭素と炭酸ナトリウム添加の効果

水和反応試験の温度条件下においてC6H5Na3O7・2H2Oが熱分解することでNa2CO3とCを生成し,繰り返し反応試験における脱水速度の増加などの効果に対して,これらの生成物がMg(OH)2の脱水反応に関与していると考えられる。そのため,Mg(OH)2にNa2CO3とCを単独または同時に添加した試料を調製し,脱水反応試験を実施して添加物の効果を調査した。二つを同時に添加した試料NC7.5C22.5の混合比については,SC5に含まれるC6H5Na3O7・2H2Oが熱分解により完全にNa2CO3とCに分解されたと仮定した場合のそれぞれのモル比に対応している。Na2CO3とCを単独または同時に添加した試料の脱水反応試験のTG曲線をFig.9に示す。

Fig. 9.

TG curve of the dehydration reaction test of NC7.7C22.5. (Online version in color.)

脱水ピーク温度は,Cを単独で添加した試料に関しては純粋なMg(OH)2と比較して約6°C高温化し,Na2CO3を単独添加した試料とNa2CO3とCを同時に添加した試料に関しては純粋なMg(OH)2と比較してわずかに低温化した。したがって,Na2CO3とCの単独または同時の添加は,Mg(OH)2の脱水挙動への効果が小さいと考えられる。

3・5 C6H5Na3O7・2H2Oの熱分解による生成物の分析

先述したとおり,C6H5Na3O7・2H2Oは加熱することで熱分解する。Fig.10にTG測定(室温から600°Cまで加熱する脱水反応試験)前後のXRDパターンと純粋なNa2CO3のXRDパターンを示す。XRDの結果からC6H5Na3O7・2H2O はTG測定後にNa2CO3を生成したことがわかった。

Fig. 10.

XRD pattern of three samples. (Online version in color.)

Fig.11に純粋なC6H5Na3O7・2H2O(SC),含浸処理したC6H5Na3O7・2H2O(SC-w),脱水反応試験後(脱水温度:300°C)のC6H5Na3O7・2H2O,純粋なNa2CO3のXRDパターンを示す。含浸処理したSCに関しては純粋なSCと比較してピーク位置の違いが小さいため,含浸処理による生成物はないと考えられる。TG測定後のSC-wに関しては,強度が非常に小さくアモルファスになっていることがわかり,C6H5Na3O7を300°Cで加熱した場合のXRDパターンが既往研究と一致している25)。したがって,C6H5Na3O7・2H2Oの熱分解においてNa2CO3を生成している可能性が示唆される。

Fig. 11.

XRD pattern of four samples. (Online version in color.)

XRD測定からC6H5Na3O7・2H2Oに対する脱水反応試験の結果,300°Cまで加熱したときの熱分解によりNa2CO3の生成が示唆されたが,純粋なNa2CO3を添加した試料に関しては脱水ピーク温度の低温化は確認できなかった。したがって,熱分解によりNa2CO3以外の生成物が存在するか,C6H5Na3O7・2H2O単体での熱分解とMg(OH)2に混合したときの熱分解のそれぞれで生成する物質が異なるという可能性が考えられる。Mg(OH)2の脱水反応におけるリチウム化合物の効果については既往研究があるが2124),ナトリウム化合物の効果については,今後さらに検討を進める必要がある。

4. 結言

Mg(OH)2の脱水/水和反応挙動に対するクエン酸化合物添加の効果を検討した。本研究で使用されたクエン酸化合物の中ではC6H5Na3O7・2H2OがMg(OH)2/MgOの反応性に対して最も効果的であることが確認された。今回調製した三つのモル比の試料の中でもSC5が,C6H5Na3O7・2H2Oを添加した試料の最適なモル比であると言える。SC5の脱水ピーク温度は純粋なMg(OH)2と比較して約31°C低温下した。また,水和反応試験では,脱水および水和反応転化率が改善された。さらに,繰り返し反応試験の結果から,脱水速度は1回目に比べ2回目において増加した。

試料のキャラクタリゼーションについては,C6H5Na3O7・2H2Oの熱分解による生成物はNa2CO3である可能性が示唆された。しかし,純粋なNa2CO3を添加した試料では脱水温度域の低温化は確認されなかった。したがって,C6H5Na3O7・2H2O単体の熱分解による生成物と,Mg(OH)2に混合したときの熱分解の生成物が異なり,後者の生成物がMg(OH)2の脱水/水和反応性の向上に関与している可能性が示唆された。本研究ではMg(OH)2の脱水/水和反応に対するクエン酸化合物の添加効果を示した。一方,クエン酸ナトリウム二水和物の作用機構や繰り返し反応に対する反応転化率の変化等は未解明であることから,今後これらの項目について詳細な検討が必要である。

謝辞

本研究の一部は,千葉大学ベンチャービジネスラボラトリープロジェクトとして行われたものである。ここに謝意を表する。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top