鉄と鋼
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論文
相変化材料とヒートパイプを用いた高速熱輸送システムの試作
小野 直樹
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2020 年 106 巻 8 号 p. 564-570

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Abstract

In this experimental study, a prototype system for transporting heat rapidly from a heat source. The system was a device combined with phase change material (PCM) and heat pipes. The prototype system was originally developed for an abnormal heat generation incident such as thermal runaway, of lithium-ion battery (LiB) in electric vehicles when the battery temperature exceeds 80ºC. In the study, one cell or two cells of A4-sized LiB cells were actually short circuited in the prototype system, and the performance of the system was evaluated by measuring the cell temperature. Two kinds of PCM were tested in the experiments. The melting point of one of the PCMs was 50ºC, and that of another PCM was 35ºC. Moreover, to enhance heat transport inside the PCM itself, SiC powders were added to PCM to have larger thermal conductivities. From those experiments, it was understood that PCM played an important role for receiving rapid and large heat source in the initial period, and that heat pipes and heat sink devices became well activated after the initial period. The PCM with lower melting temperature was better in cooling the LiB cell. Moreover, the effect of increasing thermal conductivity of the PCM was remarkable after the LiB cell reached the maximum temperature. These fundamental results of the prototype system combined with PCM and heat pipes would be helpful when this idea is applied to other practical purposes.

1. 緒言

製鉄業をはじめとする高温プロセスを用いる産業場所では,未利用エネルギーの有効活用がサステイナブル社会の構築に向けても重要視されている。未利用エネルギーには様々な発生形態や温度域があり,汎用的に有効な手段を考案することは容易ではない。特に定常的に発生する熱ではなく,突発的あるいは散発的に生じる未利用熱を使いやすい形で吸収し活用するには,技術的な工夫を要すると思われる。

著者は自ら融解することで潜熱として熱吸収する相変化材料(Phase Change Material,以降略してPCMと呼ぶ)と,ヒートパイプを組み合わせた熱輸送システムに着目し開発を進めてきた。PCMとしては使用温度域や材料によって様々な種類が従来から提案されている。製鉄業に関連したPCMについてはNomuraらの論文に詳しい13)。低温から中温の温度域ではパラフィン等の有機物を用いたPCMも知られており,市販もされている4)。一方ヒートパイプは70年ほど前に発明された代表的な熱輸送装置であり,その構造は単純で,金属管の中に液体を封入し,吸熱部で蒸発し,放熱部で凝縮させて,ウイックと呼ばれる管内面の微細構造部分の毛管力によって液体を凝縮部から蒸発部に戻す仕組みとなっている。技術的にはその理論や設計手法等がほぼ確立しており5,6),すでに様々な分野で活用されている。

著者は低温域の突発的な発熱の吸収・輸送技術の適用先として,最近急速に普及が進んでいる電気自動車の電池冷却技術に着目した。そこでは現在広く用いられているリチウムイオン電池(Lithium-ion Battery: LiB)が何らかの原因で,熱暴走(電池内部の障害等による急激な発熱化学反応)が生じた時の急速な冷却技術のシステム開発を実施した。安全性向上のため,短時間に急速に熱を外部へ輸送することによって,電池の温度上昇を極力緩和させ,電池の発煙や発火等に至るまでの時間を延長するといった技術の検討である7,8)。著者のグループはこの研究開発の中で上述したようにPCMとヒートパイプを組み合わせた急速な熱輸送技術を試しており,この技術は製鉄所のようなプラント等で散発的に生じる未利用な熱を急速に需要先へ届ける技術と共通する内容がある。継続的に発熱するのではなく,散発的ではあるが大量の熱が突発的に発生し,抜熱もしくは冷却を要するプロセスでは,まずその熱をPCMの潜熱で受けて,その後ヒートパイプのような熱輸送デバイスを用いて需要場所まで熱を運ぶ方法は合理的である。

ここでは,LiBの電池セルを活用して,外部短絡させて急激な熱発生を行い,PCMとヒートパイプで外部に熱を輸送するシステムの評価を行った。温度域としては,50°C~200°C程度までの熱を扱うので,低温・中温域を狙った技術であるが,このシステムによる急速な熱輸送を活用して,発熱源(ここではLiBセル)の温度の異常な上昇がどこまで抑制できるかに着目して研究を行った。

一般にLiBの温度が上昇し80°C程度以上に達した場合,自発的に発熱が継続する,いわゆる熱暴走が生じると言われており,最悪時にはセル内部のガスの放出,火災,爆発を伴うことが知られている9,10)。そのため,LiBの熱管理技術は無視できないものと言える。すでにLiBの冷却に関しては,水冷式や空冷式など数多くのものが研究され報告されている11,12)。しかし例えば自動車事故が発生して車体が停止し,水冷や空冷のために必要な動力が得られない最悪な状況においても駆動する冷却システムが好ましいと考え,著者のグループでは,ヒートパイプと相変化材料を用いたハイブリット型冷却システムの試作装置を開発して冷却性能を調べてきた7)。PCMは融解熱は大きいものの,一般に熱伝導率が小さいという欠点を持っている。従って溶けたPCMが持つ熱をヒートパイプで外部に速やかに輸送して放熱することを加えている。ここではシステム内に組み込んだLiBを実際に短絡(外部短絡)させ,短絡によるLiBの急速な発熱状態下での冷却システムの性能の評価・検討を行った8)ので報告する。最後に,ここではパラフィン系のPCMを用いたが,熱伝導率が小さいこのPCMの弱点を改善するために熱伝導率の大きな材料を簡易に混ぜて,実効的な熱伝導率を向上させてその効果を評価する実験も実施したので併せて報告する。

2. 試作した実験装置と短絡実験について

著者のグループが試作したシステムをFig.1に示す。Fig.1(a)は実際のLiBのセルを実験装置に組み込んだ写真である。LiBには円筒型(単三電池状の形状)や箱型,ラミネート型などがあるが,本実験ではA4サイズのラミネート型LiBセルを対象とした。ここで使用したラミネート型のLiBセルは,陰極にリン酸鉄リチウム(LiFePO4),陽極にグラファイトを使用したタイプのもので,通常時の電気容量は22 Ahで,サイズは縦×横×厚みの順に,237 mm×201 mm×8.5 mmの大きさを持つものである。全体がアルミ製のラミネート袋に収納されている.Fig.1(b)に示すようにこの冷却システムはLiBのセルが4枚並列に並べられた電池モジュールを対象として構成されている。LiBと接するように細く扁平な(厚み3 mm,幅10 mm)HP(ヒートパイプ)が片側20本,計40本配置され,HPにはフィンが7.5 mm間隔で片側10枚,計20枚取り付けられている。

Fig. 1.

Prototype system of the study. (Online version in color.)

このフィンから周辺の外気へ自然対流空冷(ここでは事故等で車が停止している時のように放熱的に厳しい条件を想定しているので強制対流空冷はしていない)されて放熱される。ヒートパイプとフィンのユニットの写真をFig.1(c)に示す。またPCMは,LiBとHPおよび容器の隙間に事前に溶かして流入させ固化させて充填されている。

HPは銅製(扁平部:120 mm×10 mm×3 mm,円筒部:100 mm×φ8 mm) のもので,もともとφ8 mmで長さ220 mmのヒートパイプの片側120 mmの長さの部分を少しつぶして扁平にし,幅10 mm×厚み3 mmの形状とし,その厚み3 mmの部分をLiBセルの間に挟められるようにした。作動液が純水であり,フィンはアルミニウム製(230 mm×119 mm×0.3 mm),容器はポリ塩化ビニル製(200 mm×49 mm×220 mm)のものをそれぞれ用いた。PCMにはRubitherm社7)のRT50(融点:45~51°C,熱伝導率:0.2 W/(m・K))と,融点低下の効果を見るために,RT35(融点:29~36°C,熱伝導率:0.2 W/(m・K))の二種類を用いた。RT50およびRT35はともにFig.2(a)(b)に示すようにパラフィン系の白色の蝋(ろう)状の物質である。

Fig. 2.

Photos of PCM materials tested. (a) RT50 (b) RT35 (Online version in color.)

ここでの実験では装置中のLiB4枚のうち1枚,あるいはさらに発熱量を増やすために2枚を,外部短絡によって異常発熱させて急激に温度上昇させ,その時の冷却システムの冷却性能を検証した。

実験には外部短絡を行うために容量満杯までに充電したLiBセル1枚(あるいは2枚)と,電池電圧を0 Vまで完全放電して電池としての機能を失わせたLiBセル3枚(あるいは2枚)を用いた。

外部短絡はLiB1枚(あるいは2枚)をマグネットコンタクタ(電磁式接触器)に接続することで回路を構築し引き起こした。Fig.3に外部短絡回路の外観写真を示す。またFig.4にLiBセル表面上の温度測定点位置と測定したセルの位置を示す。この実験装置全体を安全設備のついた恒温チャンバー内に入れて実験しており,万が一の火災発生時等に対応できるようにした。使用した恒温チャンバーでは厳密な温度制御は実施しなかったが,常時チャンバー内は25°C前後に保たれていた。事前に実施した予備実験から,LiB表面温度が90°Cに達した時点でLiBが膨張し始めることがわかったので,安全策として実験においてはLiB表面温度がほぼ90°Cに達した時点で実験を打ち切ることとした。

Fig. 3.

Photo of short circuit system. (Online version in color.)

Fig. 4.

(a) Positions of temperature measurements on the LiB cell, (b) Locations of the cell(s) in short circuit. Inner single or two cells were short circuited. (Online version in color.)

今回の実験では冷却システムを用いた実験の他に,比較対象として条件を変更して行った3つの実験を加え,計4種類の実験を行った。実験条件を以下(1)-(4)に示す。

(1)PCMとHPの両方による冷却:Fig.1に示したシステム(PCM&HP)。

(2)PCMのみによる冷却:システムにRT50あるいはRT35のみを組み込んだ状態(PCM only)。

(3)HPのみによる冷却:システムにHPのみを組み込んだ状態。PCMは組み込んでいないため,LiBは空気と接している(HP)。

(4)自然空冷による冷却:PCMおよびHPの両方とも使用しない状態。LiB4枚のみでは固定することができないため,LiB間にスペーサ(240 mm×8 mm×2 mm,アクリル製)が挿入されている(Without Cooling)。

パラフィン系のPCMは一般的に熱伝導率が0.2 W/mKと低いことが知られている。そこで,ここではさらなる取り組みとして,PCM自体の内部熱輸送を促進するために熱伝導率の高いSiCの粉末(粒子径約5 μm,熱伝導率170~200 W/mK)を上記のRT50に混ぜて実効的に熱伝導率の高いPCMを自作して,追加的に実験を行った。RT50に対して,SiC粉末を10, 25, 35, 50 vol%と混入量を増加させたサンプルを用意し,熱伝導率とRT50の融点50°C近くでの粘性を測定して確認した上で,SiC粉末の混入量を決めることにした。詳細は後述するが,得られた熱伝導率と装置への流し込みが可能となる粘性の双方を勘案して,SiCの混入量としては,10 vol%と25 vol%の二種とした。

3. 実験結果および考察

3・1 各実験の冷却効果の比較

本実験でのLiB温度の測定位置は,Fig.4に示したように,LiBの負極付近と中央部表面である。LiBの負極付近の温度は,LiBを短絡させた際の昇温が最も早く,LiB中央の温度は短絡時の最高温度となった点である。両者の場所での温度はほとんど差がなかったが,以降のデータでは高い方の温度をLiB温度の代表温度として用いた。

Fig.5にLiBセルを一枚外部短絡させた実験で得られた,短絡開始からのLiBの温度変化(上述した代表温度)を示す。ここではPCMとしては,RT50を使用している。短絡開始後から30秒後にHP onlyおよびWithout Cooling(自然空冷による冷却条件)においては,LiBの最高温度がそれぞれ91.3°C,89.9°Cとなったため安全のためこの時点で実験を打ち切った。この短絡初期30秒後までは,PCM&HPおよびPCM onlyでは,LiBの最高温度はそれぞれ55.0°C,60.2°Cであった。外部短絡による非常に大きな発熱条件下では短絡初期の30秒までの間は,HP onlyと自然空冷による冷却ではほとんど冷却効果が得られなかったことがわかる。Fig.5をみるとWithout Coolingよりも逆にHP onlyの方が若干高温になっている。この理由の詳細ははっきりしないが,この短絡初期の短絡後から,短い時間しか経過していない時は,HPは十分まだ熱を輸送できておらず,むしろHPのチューブである銅材が高熱部をLiB表面に広く伝搬させ発熱反応を若干促進した可能性が考えられる。

Fig. 5.

Results of short circuiting of single LiB cell. (PCM was RT50.) (Online version in color.)

一方,PCM&HPおよびPCM onlyではこの30秒までの時点ではLiBの最高温度を60°C程度に抑えることができた。この結果からPCMによる冷却がLiBの短絡初期における急激な温度上昇に対して有効であると言える。

Table 1にLiBの温度が80°Cに達するまでの時間をそれぞれ示す(著者はLiBセルが危険な状態になる温度の目安として80°Cを想定しているため調べた)。PCM onlyでは短絡開始後88秒で80°Cに達し,200秒後に最高温度の92.5°Cに達した。PCM&HPでは短絡開始後178秒で80°Cに達し,182秒後に最高温度の80.1°Cに達した。これよりPCM&HPの方がPCM onlyよりも,LiBの温度が80°Cに至るまでの時間が約2倍延長され,またFig.5からわかるように最高温度を約10°C低く抑えられた。またPCM&HPとPCM onlyの温度変化を比較すると,短絡開始後30秒程度から昇温速度が小さくなり,50~100秒で温度差が顕著に見られるようになった。これはHPおよびフィンによる冷却効果が表れ始めたためであると考えられる。その結果,LiBの最高温度を80°C程度に抑えられたと思われる。

Table 1. Time until reaching 80ºC under various conditions (Single cell short-circuited).
HPWithout CoolingPCM OnlyPCM & HP
Time [s]171988178

この実験結果から今回試作した冷却システムによって,LiBの1セルを長時間短絡させてもほぼ危険温度の80°C以上にはならない冷却能力がある程度実証できたと言える。

上記のようにPCMとHPの組み合わせが有効であることがわかったので,このPCMとHPを同時に用いる冷却システムを用いて,次にPCMの融点が35°Cと低融点化したものを使用した場合,および発熱をさらに激しくするためにLiBセルを2枚短絡させた場合の実験を行った。

ここで用いているRubitherm社のPCMは,製品のラインナップが豊富で,その融点温度も様々なものが用意されている7)。前節の実験において,容器の外側からの単純な目視による観察ではあるが,短絡実験が進んでも融解しているPCMは一部であることがわかった。発熱しているLiBセル周辺のPCMはもちろん融解しているはずであるが,HPによる徐熱効果もあるので,短絡したLiBセルの隣りのLiBセルの周辺のPCMまでも融解して吸熱したとは考えにくかった。そのため融解する体積を増すために,PCMの融点が35°Cのもの(RT35)に変更して実験を行い,融点低下の効果を確認することにした。

また発熱量を2倍にするために,容器に入れた4枚のうちの中央の2枚を直列に連結して短絡させることも行った。外部短絡時のセルからの発熱量の具体的な算出は大変難しい。内部を流れる電流および内部抵抗によるジュール発熱だけでなく,同時に発熱する化学反応が生じるため,総発熱量は電流電圧から推算されるジュール熱の数倍となるのが通例である。以前著者のグループが実施した予備的なセル単体の外部短絡実験を用いた見積もり8)によると,短絡直後に瞬間的に1800 W程度まで発熱量は達するが,100秒から200秒で急速に低下し,その後は,100 W前後の発熱量で推移した。その発熱量の推移の結果をもとに,スタートから100秒程度までの平均値をあえて推算すると約500 W程度となる。つまり1枚短絡時は約500 W,2枚短絡時は2倍の約1 kWが短絡初期にはセルから生じている模様であった。

以上のPCM2種(RT50とRT35)および短絡枚数を1枚と2枚の時の実験結果をまとめてプロットしたグラフをFig.6に示す。Fig.6の中で,1 cellは一枚短絡,2 cellsは二枚短絡を意味する。Fig.6からわかるように,まず二枚短絡にすると,温度上昇は激しくなり,最高温度は,RT50+HPで123°C,RT35+HPで112°Cまで到達した。この様に危険想定温度の80°Cを大きく上回っていることがわかる。また最高温度に達するまでの時間も1枚短絡時より2~3倍長く,発熱量の大きさが現れている。PCMの融点の違いに着目すると,RT50とRT35の違いは二枚短絡時に顕著で,RT35の方が,RT50よりも90秒時点あたりから昇温速度が鈍り,LiBの温度を比較的よく低下させていることがわかる。これはRT35は融点が低いため,容器全体の融解が促進され,その効果が二枚短絡時の90秒から300秒での低温下となって現れたと考えられる。一枚短絡時では,PCMの融点の違いは二枚短絡時ほど大きくなく,最高温度も両者でほぼ同じであった。ここではヒートシンクは自然対流による空冷を用いているため,熱の流れとしてはそこが律速部分となっており,その影響が一枚短絡時では強く現れたと考えられる。

Fig. 6.

Comparisons among single and two LiB cells short circuiting and two kinds of PCMs. (Online version in color.)

3・2 PCMの高熱伝導率化の効果

PCMのRT50に対して,SiC粉末を10, 25, 35, 50 vol%と混入量を増加させたサンプルを用意して,熱伝導率とRT50の融点50°C近くでの粘度を測定した結果をFig.7(a)(b)示す。熱伝導率は温度勾配法による単純な実験装置(自作)での測定により,また粘度は市販の回転式の粘度計による測定の結果である。Fig.7(a)からわかるように,SiCの混入量を増加させるほど熱伝導率は向上するが,一方,Fig.7(b)に示すように,SiCの混入量を増すと粘性が指数関数的に増加することがわかる。今回の伝熱実験では,実験前のセッティング時にあらかじめLiBセルの隙間に,SiCを添加したPCMを融かして流入させて必要があるため,粘性が高すぎると流し込むことが非常に困難になる。従って,ここでは,SiCの混入量としては,10 vol%と25 vol%の二種とした。

Fig. 7.

Influence of mixture with SiC particles on properties of PCM (RT50). (a) Thermal conductivity (b) Viscosity (Online version in color.)

PCMとヒートパイプを組み合わせたシステムを用いて,RT50にSiCを10 vol%,および25 vol%混ぜて熱伝導率を向上させた場合の結果をFig.8に示す。ここではLiBセル1枚の外部短絡実験であり,比較としてSiC粉末を含まないRT50を用いた場合の結果も示す。

Fig. 8.

Effect of increasing thermal conductivity of PCM (single cell short circuited). (Online version in color.)

まず最高到達温度についてであるが,SiCを混ぜて熱伝導率を向上させても,その最高温度の低下は,数度に留まり,あまり大きくはなかったことがわかる。これは急激な初期の発熱を主に受けているのは,PCMの融解潜熱であり,PCMからヒートパイプを通じてヒートシンクへ輸送するプロセスは,まだ発熱初期の200秒程度までは活発化しておらず,その間,PCMの熱伝導率を向上させてもあまり効果がなかったことを意味する。

しかし最高温度到達後の過程では,PCMの熱伝導率向上の効果が現れている。Fig.7(a)からわかるように,PCM(RT50)のみ→SiC 10 vol%添加→SiC 25 vol%添加となるにつれて,PCMの実効熱伝導率は,0.2→1.25→2.15 W/mKと向上する。それにつれてFig.8からわかるように,200秒以降の温度の低下速度が促進されている。600秒時点でみると,RT50のみと,SiC25 vol%添加を比べると,約10°C温度低くなっている。実験は1000秒でやめており,その時点でどの条件でも50°Cに収斂している変化を示しているが,これはRT50の再凝固によるものである。このように最高温度到達後で,ヒートパイプおよびヒートシンクが十分駆動している状態では,PCMの高熱伝導率化の効果が良く引き出せることがわかった。これはPCMと外部への除熱のための装置を組み合わせる際の留意点と言える。

4. 結言

本研究ではヒートパイプとPCMを用いて試作した高速熱輸送システムを用いて,実際にLiBセルの1枚,および2枚を外部短絡させた時の急激な発熱状況下でどのような性能を示すか実験を行い,評価を行った。またさらに熱輸送を促進するためにPCMにSiCを添加して高熱伝導率化した場合の効果についても基礎的な評価を行った。その結果,以下のことがわかった。

(1)外部短絡による急速な発熱実験を実施したところ,ヒートパイプと相変化材料(PCM)を用いて試作した今回の熱輸送システムは,1枚短絡時ではLiBセルの危険温度と考えらえる約80°C以下に抑えられることが実証できた。一方,2枚短絡時では約120°C以下に抑えることができた。

(2)得られた温度変化の実験結果から,セルから発生した熱は,短絡初期においては,まず相変化材料(PCM)へ優先的に移動し,ある程度時間が経過してヒートパイプ/ヒートシンクが十分働き始めてから外部へ熱移動することが理解された。

(3)SiC粉末をPCMに混合して熱伝導率を向上させることで,主にセルの最高温度到達後の冷却過程において高熱伝導率化の効果が強く現れて熱輸送が向上し,セルの冷却が進むことがわかった。

今回の試作装置は,あくまでコンセプト的な冷却システムであり,ヒートシンク部分は大きく,電気自動車用としては実用性に乏しい。しかし,このアイディアを高速熱輸送システムととらえてみると,ここで明らかにした基礎的な特徴は,輸送総熱量やPCM融点温度を変化させても,同様な特徴が現れると思われる。ここでは基礎的な特徴をつかむ実験研究を紹介させて頂いたが,例えばプラント等での短時間に急激に排出される熱の再利用技術の開発等において参考にして頂ければ幸いである。

謝辞

研究の実施は著者の研究室の多数の学生の協力なしでは実現できなかった。ここに深く感謝する。またLiBセルの外部短絡実験の実施に関して,海上技術安全研究所の平田博士の多大な協力を得た。あわせて心から謝意を表する。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本鉄鋼協会
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