鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
論文
未利用熱の有効利用を目的とした熱輸送デバイスに関する基礎的研究
麓 耕二山上 廣城石井 慶子
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2020 年 106 巻 8 号 p. 571-580

詳細
Abstract

Recently, many countries have become increasingly interested in unused but possibly useful energy resources. Among these unused resources, the thermal energy produced around us can be used as a potential energy source for heating, cooling and power generation. This thermal energy is relatively stable on the supply side as waste heat in the industrial field. Heat transport devices are one of the important technology for the effective use of unused heat energy. This paper conducts basic research on devices that effectively transport heat below 200ºC. A pulsating heat pipe (PHP) is an excellent heat transport device based on the phase change of a working fluid. Experiments are performed to investigate the thermal performance of a PHP using different working fluids. The PHP consists of 20 parallel channels made of a copper capillary tube with an internal diameter of 1.8 mm. The PHP is filled with deionized water and an aqueous solution of 1-butanol as working fluids, with different filling ratios (FRs) in the range 50-60 vol.%. The 1-butanol aqueous solution is known as a self-rewetting fluid. The experimental results indicate that, in the case of self-rewetting fluid, stable oscillating motion in the PHP arises at the heat load regime lower than that with water. In addition, the effective thermal conductivity of the PHP with the highest concentration of self-rewetting fluid is higher than that with other fluids in the high heat load regime.

1. 緒言

地球規模での環境悪化が大きな問題となる中,環境負荷低減を目的とした省エネルギー技術およびエネルギー利用の高効率化技術の進展が期待されている1)。またエネルギー多消費型産業(energy-intensive industry: EII)では,各種の環境目標をクリアするため,多大な企業的努力が必要とされている。特に工業分野では,パリ協定で表明されたCO2削減目標を達成するため,脱炭素化や環境問題への対応が迫られている。同時に総生産コストに占めるエネルギーコストの低減化にも取り組まなければならない状況にある。この様にエネルギー多消費型産業では,より持続可能な産業構造の構築に向けて,環境対応パフォーマンスとエネルギー効率を両立しつつ成長することが求められている。

一方,我が国のエネルギー供給過程において一次エネルギーの約6割が有効利用されずに排熱(未利用熱)として排出されている。各種事業者を対象とした排熱実施調査報告書2)によると,未利用熱利用の可能性では200°C未満への対応と熱輸送に伴う熱損失を抑制する対策の重要性が示されている。具体的には未利用熱エネルギーを効果的に削減(断熱,遮熱,蓄熱等),再利用(ヒートポンプ技術等),変換利用(熱電変換,排熱発電等)するための基盤技術の開発,および各技術を横断的,複合的に用いた熱マネージメント技術の進展が求められている。中でも熱輸送デバイスに代表される基盤技術は,未利用熱を効果的に輸送・回収するのみならず,超分散型中小規模の排熱利用や変動型の排熱源即応技術において重要なキーテクノロジーと位置付けられる。

従来,熱輸送デバイスに関しては,ウイックの毛管圧力を利用した毛細管型ヒートパイプ3)をはじめとして,多種多様な研究開発が行われている。近年では,軽量小型・高性能,かつポンプ等の駆動装置を必要としない熱制御デバイスとして「ヒートパイプ」が注目されており,LHP(Loop Heat Pipe)を含む蒸気圧利用ヒートパイプ4),気泡ポンプ利用ヒートパイプ5),および自励振動型ヒートパイプ6,7)に関する研究開発が進められている。中でも自励振動型ヒートパイプ(Pulsating Heat Pipe: PHP)8)は,加熱部と冷却部の間に細い流路を複数回往復させ,作動流体を流路体積の半分程度封入したもので,表面張力により形成された液スラグの自励振動によりパッシブで高い熱輸送を実現する(Fig.1)。さらに非定常効果による熱輸送促進および従来型ヒートパイプのように毛管力限界やフラッディング限界による液還流制限がないことから高い熱輸送性能を有すると考えられており,これまで様々な研究が行われている。特に同ヒートパイプ は高密度・高集積化された電子機器の冷却用,放熱用デバイスとして動作機構の解明を目的とした基礎的研究911),熱輸送性能向上を目的とした応用的研究1215),およびそれらの研究から得られた結果を考慮した数値シミュレーション16,17)が行われている。

Fig. 1.

Pulsating heat pipe.

以上の様な背景を踏まえて,本研究は未利用熱の有効利用に資する熱輸送デバイスとして自励振動型ヒートパイプに着目し,その性能特性の把握および熱輸送性能の向上を主たる目的としている。特に本論文では非ループ型自励振動型ヒートパイプの作動流体として特異な表面張力挙動による沸騰熱伝達率の向上およびドライアウトの抑制が期待できるSelf-rewetting溶液を用いることで同ヒートパイプの性能向上の可能性について検討する。最終的に,これまで未利用である200°C以下の各種熱エネルギーに対して,さらなるカスケード利用を可能にする熱輸送デバイスの構築を目指す。

2. 実験装置および方法

2・1 実験装置

Fig.2に本実験で用いた実験装置の概略図を示す。実験装置は自励振動型ヒートパイプ本体,カートリッジヒーターに変圧器を接続した加熱系統,冷却水循環装置を接続した冷却系統,デジタル真空計を含む真空ポンプ系統,熱電対および圧力センサを含む各種測定系統,および作動流体封入用シリンジから構成されている。Fig.3に自励振動型ヒートパイプの詳細図を示す。同ヒートパイプは熱伝導率の高い銅製細管を用いて作製し,熱損失を低減するため周囲をグラスウールとベークライト板によって十分に断熱している。管形状は内径1.8 mm,外径3.2 mmの円形断面である。細管の加熱部および冷却部は,エンドミル加工によりU字型の溝を彫った銅ブロックに収めている。なお,Fig.4に示すように,銅管とU字型の溝の間には,接触熱抵抗の減少および細管固定のために半田(融点218°C,熱伝導率55 W/(m・K))を流し込んでいる。管径を決定するにあたり,自励振動型ヒートパイプが動作するのに必要な液スラグと蒸気スラグが形成できる最大内径Dmaxを式(1)より求めた。

  
Dmax=1.84σg(ρlρv)1.84σgρl(1)
Fig. 2.

Schematic diagram of experimental apparatus.

Fig. 3.

Details of pulsating heat pipe.

Fig. 4.

Cross-section diagram of heating and cooling section.

ここで,σは表面張力,ρは密度を示している。式(1)では,飽和蒸気密度ρvは液体密度ρlに比べて十分小さいことから無視することができるとし,Table 1の物性値を用いて,最大内径Dmaxを算出すると,水は4.98 mm,1-ブタノールは3.23 mmとなる。ブタノール水溶液の表面張力はブタノール単体よりも大きくならないことを考慮すると,自励振動型ヒートパイプは内径が3.2 mm以下であれば動作すると判断した。自励振動型ヒートパイプの蛇行形状は,片側10ターン(平行20チャンネル)の非ループ型である。加熱部,断熱部,および冷却部の各長さは,それぞれ87.5 mm,90 mm,および87.5 mmである。流路の両端は,それぞれコックによって密閉できる構造になっており,一端は真空装置に接続,他端は作動流体封入用のシリンジに接続されている。加熱部は細管固定用U字溝を加工した銅ブロックに,カートリッジヒーター(d=10 mm,L=60 mm×8本)を挿入し,変圧器により加熱部へ供給する加熱量を調節できるようになっている。一方,冷却部は細管固定用U字溝を加工した銅ブロックの裏面に別のU字型の溝を加工し,表面と同様に銅管(d=8 mm)を半田付けし,その銅管に一定温度に保った冷却水を循環することによって冷却を行っている。Fig.3中の黒丸印(●)は,細管表面に取り付けたK型熱電対(素線径127 μm)の設置位置を示している。温度測定点は,中心部に位置する隣り合った2本のチャンネルに対して加熱部,断熱部,および冷却部に熱電対を設置し,さらに加熱部および冷却部における平均温度を算出するために,それぞれに4本の熱電対を設置している。また,細管片側に圧力センサを設置し,自励振動型ヒートパイプの内部圧力を絶対圧として測定している。

Table 1. Physical properties of working fluids.
Water1-butanol
Density [kg/m3] (at 20ºC)998.2806
Boiling point [ºC]100117.65
Melting point [ºC]0–89.3
Surface tension [mN/m] (at 20ºC)71.724.57
Solubility in water [g/100 g]7.15

2・2 Self-rewetting溶液について

Self-rewetting溶液とは,炭素数が4以上のアルコールの希薄水溶液であり,これらの水溶液は一般的な純液体とは異なり,表面張力がある温度において下に凸の極小値を有し,その極小値以降の温度領域において表面張力が温度上昇とともに増加する特徴を有している(Fig.5)18)。この特異な表面張力挙動により,ヒートパイプなどの高温伝熱面を有する熱輸送デバイスにおいては沸騰熱伝達率の向上およびドライアウトの抑制が期待されている。これはFig.6に示すように,加熱面側の液体の表面張力が高くなるため,低温側から高温側へと液還流力が生じることにより,液体が気泡底部に回り込む方向へ流れることが期待できる(自己浸潤性とも言う)。Abe19)は,Self-rewetting溶液を従来型のヒートパイプに用いることで,水単体に比べ最大熱輸送量が向上することを報告している。また自励振動型ヒートパイプについても,Huら20)やFumotoら21)が水単体に比べSelf-rewetting溶液による最大熱輸送量の増加や熱抵抗の減少を報告している。しかしながら,自励振動型ヒートパイプにSelf-rewetting溶液を用いた報告例は少なく,また熱輸送性能向上に対する現象論的な把握は十分に行われていないのが現状である。

Fig. 5.

Schematic diagrams of Marangoni effect by Self-rewetting fluid.

Fig. 6.

Marangoni effect by Self-rewetting fluid.

2・3 実験方法

実験方法としては,作動流体の封入後に自励振動型ヒートパイプへの加熱および冷却を開始し,温度が定常状態になったのを確認後,ヒーターへの供給熱量を増加させた。以下にそれぞれの手順について,詳しく記述する。

作動流体の封入方法を以下に示す。初めにシリンジ側のコックを閉め,流路内を回転式真空ポンプによってゲージ圧-98 kPaまで減圧し,真空ポンプ側のコックを閉じる。その後,シリンジ側のコックを開き,流路内に所定量の作動流体を封入した後,シリンジ側のコックを閉じて流路内を密閉構造とする。なお本実験では作動流体封入量の指標として封入率(Filling ratio: FR)を用いている。ここで,封入率とは,常温大気圧下における作動流体の封入体積をPHPの内容積で除したものである。以下に実験条件について述べる。

(1)作動流体には,脱気した蒸留水(以下,水)およびSelf-rewetting溶液である炭素数4の一価アルコールである1-Butanol水溶液を用いた。Self-rewetting溶液の質量濃度は,1.0,3.0,および7.15 wt%である。

(2)設置姿勢は,垂直ボトムヒート(下部加熱,上部冷却)および水平ヒートモードで行った。加熱部のカートリッジヒーターへの供給熱量は,100 W刻みで100 Wから1400 Wまで変化させた。実験は,供給熱量が1400 Wに達するか,あるいは加熱部温度が130°Cを越えた時点で終了とした。冷却部へ供給する冷却水の温度および流量は,それぞれ20°Cおよび4 L/minと一定とした。

(3)封入率は,垂直ボトムヒートモードの場合は50 vol%,水平ヒートモードの場合は60 vol%とした。なお,各設置姿勢における封入率は,予備実験によって本実験の供給熱量範囲において,自励振動型ヒートパイプの安定的動作および最大熱輸送性能が示された条件を採用している。

2・4 実験結果の整理方法

実験結果の整理には,自励振動型ヒートパイプの温度履歴圧力履歴,および加熱部・冷却部の平均温度と温度差から算出される熱抵抗値と実効熱伝導率を用いている。以下に各種データ整理に用いた算出式を示す。

加熱部・冷却部の温度差は次式で定義される。

  
ΔT=ThTc(2)

ここで,加熱部温度(Th)および冷却部温度(Tc)は,加熱部および冷却部に設置した各6点の平均温度であり,次式で定義される。

  
Tc=Tc1+Tc2+Tc3+Tc4+Tc5+Tc66(3)
  
Th=Th1+Th2+Th3+Th4+Th5+Th66(4)

また,熱抵抗は次式で定義される。

  
R=ΔTQ(5)

ここで,Q[W]はカートリッジヒーターへの供給熱量として定義した。次に実効熱伝導率は次式で定義される。

  
λeff=LAQΔT(6)

ここで,L[m]は加熱部と冷却部に設置した熱電対のPHP長さ方向距離であり,A[m2]は銅製細管を中実丸棒と見なした場合の管断面積と定義した。

3. 実験結果および考察

3・1 垂直ボトムヒートモード

Fig.7に設置姿勢が垂直ボトムヒートモード,封入率がFR=50 vol%における加熱部(Th3),断熱部(Ta3),および冷却部(Tc3)の温度履歴を示す。グラフの横軸は時間,縦軸は温度を示している。同時に,それぞれのグラフ上方にはヒーターへの供給熱量を同じ時系列で示している。作動流体は(a)水,(b)ブタノール水溶液(1.0 wt%),および(c)ブタノール水溶液(7.15 wt%)である。作動流体が水の場合(a),加熱部温度が50°Cを越えた辺りから温度履歴に変動が表れ,加熱部温度の急激な上昇を抑制していることが分かる。また供給熱量の増加に伴って,各部温度は単調に増加していることが分かる。一方,作動流体がブタノール水溶液の場合(b),(c),供給熱量の低い領域において,水よりも高い加熱部温度を示していることが分かる。これは加熱部において,ブタノールよりも沸点の低い水が優先的に蒸発し,一時的にブタノールリッチの状態となり,液スラグを駆動するのに必要な蒸気圧が得られないためだと考えられる。ここで本実験では加熱部と断熱部の温度差が極めて小さくなった時をPHPが熱輸送を開始した時とし,「動作開始温度」と定義している。また断熱部温度を比較すると,水の場合,12000 sで断熱部温度の勾配が変化し,それ以降,加熱部と冷却部の温度差が拡大するのが分かる。これはPHP内が過加熱状態となり,ドライアウトに近づいていることを示している。一方,ブタノール水溶液の場合は,その増加傾向が小さいことが分かる。この現象については,Fumotoら21)が流路形状および細管寸法が同一で,管材料にガラス管を用いた自励振動型ヒートパイプの可視化実験よって明らかにしており,ブタノール水溶液を用いた場合に見られる管内壁面に形成される特殊な液膜形状が要因として考えられる。

Fig. 7.

Temperature history of pulsating heat pipe (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

Fig.8に加熱部平均温度と供給熱量の関係を示す。パラメータは作動流体である。図よりブタノール水溶液の場合,供給熱量の増加に伴う加熱部温度の上昇割合は,水単体に比べて小さく,特に供給熱量が高い領域では,加熱部温度が有意に低く抑えられていることが分かる。これは供給熱量の増加に伴い,ブタノール水溶液特有の表面張力特性によって加熱部における沸騰・蒸発が促進され,高い熱伝達率を実現した結果であると考えている。具体的には,Nishiguchi and Shoji 22)によるSelf-rewetting溶液を用いたプール沸騰実験において,その特異な表面張力特性による沸騰気泡の微細化,およびそれによる沸騰限界熱流束の上昇が報告されている。同様に本PHPの加熱部においても沸騰気泡の微細化により,熱伝達を促進していることが推察できる。

Fig. 8.

Heating section temperature (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

Fig.9に設置姿勢が垂直ボトムヒートモード,封入率がFR=50 vol%における自励振動型ヒートパイプ内部の圧力履歴を示す。グラフの横軸は時間,縦軸は内部圧力である。同時に,それぞれのグラフ上方にはヒーターへの供給熱量を同じ時系列で示している。作動流体は(a)水,(b)ブタノール水溶液(1.0 wt%),および(c)ブタノール水溶液(7.15 wt%)である。水の場合(a),供給熱量の低い領域において,比較的周期が長く,不安定な振動が発生し,供給熱量の増加に伴い振動様相は周期が短く,安定的な振動に遷移していることが分かる。これは供給熱量の低い領域では液スラグを振動させるための蒸気圧が得られにくいが,供給熱量の増加に伴い加熱部における沸騰・蒸発が促され圧力差が得られたためである。また供給熱量の増加に伴い圧力変動の振幅が大きくなっているが,これは加熱部において蒸気プラグの急激な膨張が生じているためだと考えられる。一方,ブタノール水溶液の場合(b),(c),供給熱量の低い領域において,周期が長く振幅の大きな振動を生じ,水よりも不安定な動作を示すことが分かる。しかしながら,供給熱量の増加に伴い周期が短く振幅の小さな安定的な振動に遷移し,供給熱量がQ=800 W以上になると水よりも圧力変動の振幅が小さく,供給熱量の増加に伴う変化が見られないことが分かる。これはブタノール水溶液の場合,供給熱量の低い領域では,液スラグを駆動するための蒸気圧が得られにくく動作が不安定であるが,供給熱量の高い領域では,ブタノール水溶液の特異な表面張力挙動により加熱部へ液膜が供給され,局所的なドライアウトを抑制し,安定的な動作を生じているためだと考えられる。

Fig. 9.

Internal pressure history of pulsating heat pipe (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

Fig.10に圧力振動の周波数と供給熱量の関係を示す。なお,周波数は各供給熱量の定常時における圧力データに対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform: FFT)を適用することで自励振動の中の支配的な周波数を算出している。図より供給熱量の比較的低い領域においては,水とブタノール水溶液の振動周波数に大きな差がないことが分かる。しかし,供給熱量がQ=800 Wを越える領域では,ブタノールの振動周波数が水単体と比べて明らかに高くなっていることが分かる。以上の結果から分かるように,ブタノール水溶液は,ある供給熱量以上の領域になると,その特異な表面張力効果により,加熱部において沸騰熱伝達率が向上し,それに伴い自励振動現象が促進すると考えられる。

Fig. 10.

Pressure frequency (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

Fig.11に封入率がFR=50 vol%における熱抵抗値の結果を示す。図の横軸は供給熱量,縦軸は熱抵抗である。図より,いずれの作動流体においても,供給熱量の増加に伴い熱抵抗は指数関数的に減少することが分かる。また供給熱量の低い領域では水の熱抵抗が小さく,供給熱量が増加するにつれてブタノール水溶液の熱抵抗が小さくなる。このことは,温度履歴および加熱部温度からも明らかなように,ブタノール水溶液は動作開始温度が高いが,供給熱量の増加に対する加熱部温度の上昇割合が小さいため,高い供給熱量の領域では熱抵抗が小さくなったと考えられる。

Fig. 11.

Thermal resistance (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

Fig.12に自励振動型ヒートパイプの実効熱伝導率を示す。横軸は供給熱量,縦軸は実効熱伝導率を示している。図より,いずれの作動流体においても,最大熱供給量において銅の熱伝導率の約75倍から100倍の実効熱伝導率を示していることが分かる。また供給熱量の低い領域では,水の実効熱伝導率が高いが,供給熱量が増加していくと,ブタノール水溶液の熱伝導率が大きくなることが分かる。一方,本実験の範囲内では,ブタノール水溶液濃度の違いによる実効熱伝導率への影響は小さいことが分かる。

Fig. 12.

Effective thermal conductivity (Bottom heat mode, FR=50 vol%).

3・2 水平ヒートモード

Fig.13に設置姿勢が水平ヒートモード,封入率がFR=60 vol%における加熱部(Th3),断熱部(Ta3),および冷却部(Tc3)の温度履歴を示す。横軸は時間,縦軸は温度を表している。また,それぞれのグラフ上方にはヒーターへの供給熱量を同じ時系列で示している。作動流体は(a)水および(b)ブタノール水溶液(3 wt%)である。作動流体が水の場合(a),加熱部温度が70°Cを越えた辺りから温度履歴に変動が表れ,加熱部温度の急激な上昇を抑制していることが分かる。また,供給熱量の増加に伴って,各部温度は単調に増加していることが分かる。一方,作動流体がブタノール水溶液の場合(b),供給熱量の低い領域において,水よりも高い加熱部温度を保持した状態で動作していることが分かる。これは,垂直ボトムヒートの場合と同様,ブタノール水溶液の場合,液スラグを駆動するのに必要な蒸気圧が得られにくいためだと考えられる。しかしながら熱供給量が増加しても,加熱部,断熱部の温度は上昇することなく,水のそれに比べて低く抑えられていることが分かる。これは水平状態におかれた自励振動型ヒートパイプに対してもブタノール水溶液の自己浸潤効果によって良好な動作状態を維持し,水に比べて高い熱輸送性能を有していることを示している。

Fig. 13.

Temperature history of pulsating heat pipe (Horizontal heat mode, FR=60 vol%).

Fig.14に水平ヒートモード,封入率がFR=60 vol%における自励振動型ヒートパイプ内部の圧力履歴を示す。横軸は時間,縦軸は内部圧力である。同時に,それぞれのグラフ上方にはヒーターへの供給熱量を同じ時系列で示している。作動流体はそれぞれ,(a)水および(b)ブタノール水溶液(3.0 wt%)である。作動流体が水の場合(a),供給熱量の増加に伴い圧力変動の振幅が増大し,特に供給熱量の高い領域において極めて大きな振幅を示すことが分かる。これは,加熱量の増大に伴い,加熱部が一時的にドライアウト状態となり,不規則な自励振動が発生することに起因していると考えられる。一方,作動流体がブタノール水溶液の場合(b),供給熱量の低い領域において,供給熱量の増加に伴う振幅の増加割合は極めて小さく,供給熱量の高い領域においては安定的に動作していることが確認できる。

Fig. 14.

Internal pressure history of pulsating heat pipe (Horizontal heat mode, FR=60 vol%).

Fig.15に設置姿勢が水平ヒートモードにおける実効熱伝導率を示す。横軸は供給熱量,縦軸は実効熱伝導率である。図より,供給熱量の低い領域では,水の実効熱伝導率が若干高い傾向を示すが,供給熱量の増加とともにブタノール水溶液の値が大きくなるのが分かる。また供給熱量が1000 W以上では,水の実効熱伝導率の増加傾向が緩やかになるのに対して,ブタノール水溶液のそれは直線的に増加することが分かる。さらに,いずれの作動流体においても水平設置の実効熱伝導率は,垂直設置の実効熱伝導率(Fig.11)と比較すると約80%低下することが分かった。このPHPの性能に及ぼす設置姿勢の影響としては,以下の理由が考えられる。一般的にPHPは加熱部に液体が存在することで沸騰・蒸発が生じ,その圧力差に基づく自励振動によって熱輸送を行う。一方,加熱部が乾き状態になるとドライアウトと呼ばれ,自励振動は発生しない。ここで垂直設置の場合,流路内の液スラグが重力の影響を受けて加熱部へ移動しやすくなるのに対し,水平設置の場合,その効果が得られないため,性能が低下する結果となった。また水平設置において水とブタノール水溶液の性能を比較した場合,Self-rewetting溶液であるブタノール水溶液は,その特異な表面張力特性により,加熱部へ向けて液膜が水平方向へパッシブ移動することができるため,水単体の場合と比較して熱輸送性能が向上したと考えられる。一方,ブタノール水溶液濃度に着目すると,いずれの設置姿勢においても高熱供給量において,3.0 wt%が最も実効熱伝導率が高くなったことから,自励振動ヒートパイプの性能に及ぼすブタノール水溶液濃度の最適値が存在することが示唆された。現時点において最適濃度に関する影響を詳細を明らかにすることは困難であるが,今後,ブタノール水溶液濃度と熱輸送メカニズムの関係について明らかにする必要がある。

Fig. 15.

T Effective thermal conductivity (Horizontal heat mode, FR=60 vol%).

4. 結言

ブタノール水溶液が自励振動型ヒートパイプの熱輸送性能に及ぼす影響を実験的に調査した。本実験の範囲内で得られた主な結果を以下に示す。

(1)PHPの設置姿勢に関わらず,作動流体にブタノール水溶液を用いた場合,蒸発部の沸騰伝熱が促進されるため,水を用いた場合に比べて加熱温度は低減する。

(2)作動流体にブタノール水溶液を用いることで高い供給熱量においても実効熱伝導率は,水に比べて有意に上昇する。

(3)ブタノール水溶液の特徴的な性質として,断熱部温度と内部圧力は,供給熱量が増加しても大きな変化を示さない。

最後に,本報告では実験装置の都合上,最高温度(実験上限温度)を130°Cに設定して実験を行った。一方,作動流体に水を用いた場合の最高使用温度は約200°Cと示される報告もあるため,今後,自励振動ヒートパイプのさらなる高温利用を目指した研究に取り組む予定である。最終的に未利用熱の有効利用に資する高温熱輸送デバイスの開発につなげたい。

謝辞

本研究の一部は,日本鉄鋼協会 鉄鋼未利用熱エネルギーの有効活用研究会における高温高速熱交換を実現ための要素技術開発として実施した。なお本研究の遂行にあたり同協会より研究援助を頂戴した。ここに感謝の意を表します。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top