鉄と鋼
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論文
未利用熱を利用したケミカル冷熱生成システムの開発
中曽 浩一筒井 優衣高橋 秀和三野 泰志後藤 邦彰丸岡 伸洋埜上 洋
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2020 年 106 巻 8 号 p. 556-563

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Abstract

Cold heat generation system using chemical reaction from unused thermal energy is investigated. In this study, water/urea system is particularly studied. While dissolution of urea in water is endothermic process, deposition of urea from water solution is exothermic process. Therefore, endothermic dissolution of urea in water is utilized for generation of cold heat. On the other hand, thermal energy can be released by the exothermic deposition of urea from water solution. This is the advantage of the system because total thermal energy required to evaporate the water can be reduced by the exothermic deposition of urea. The cyclic operation of dissolution and deposition of urea is experimentally studied. As a result, cold heat generated by the dissolution can be estimated from the energy balance and enthalpy of dissolution. Based on the experimental results, a numerical model to estimate temperature of water/urea solution and performance of the system is developed. From the numerical results, heat exchange rate of the deposition (concentration) process is essential especially for the improvement of the performance of the system.

1. 緒言

エネルギーの有効利用は,CO2排出量削減はもちろん,資源の自給率の低い我が国においては,安全保障の面からも,ますます重要となっている。エネルギー白書1)によると,国内のエネルギー消費に占める産業部門の割合は46.2%と依然として高く,このうち,化学工業,製鉄業が大きな割合を占めている。その一方で,これらの産業プロセスでは,さまざまな温度レベル,形態で排熱が生じており,特に,100°C以下の比較的温度の低い排熱,いわゆる低温排熱が多量に発生している。熱エネルギーは高温側から低温側へ移動することを考えると,低温排熱を蓄えて再利用しようとしても,基本的には排熱よりも低い温度でしか利用できないため,特に低温排熱の有効利用は進んでいない。産業排熱に加えて,太陽光熱,地熱などの自然エネルギーについても同様で,温度レベルがそれほど高くなく,エネルギーの得られる時間,量,大きさが一定ではないため,その利活用は途上である。このような未利用熱エネルギーの有効活用に対して,蓄熱やヒートポンプは直接的に寄与できると考えられる。特に,ヒートポンプは,熱源よりも温度レベルを高めたり,冷熱を生成したりできるため,より有効な手段であると考えられる。製鉄業でも革新的製鉄プロセス技術開発(COURSE50)2)を支える熱の有効活用技術として,ヒートポンプが期待されている3)

ヒートポンプには,冷媒の圧縮/膨張による機械式のヒートポンプ4),発熱/吸熱を伴う化学反応を利用するケミカルヒートポンプなどが挙げられる5)。これらのヒートポンプは,基本的に減圧や減圧を伴うため,装置の密閉性,耐圧性,耐真空性を確保する必要がある。また加圧/減圧を行うためのコンプレッサーあるいは真空ポンプなどが必要であり,これらを稼働させる電力が必要である。そのため,システムが複雑で,大掛かりな構造となる傾向にある。ヒートポンプでは,一般的に,熱の入力,出力を効果的にするために熱交換性能を高めることが重要となるが,上記のように,システムが複雑,大掛かりな構造である点は,伝熱性能の向上を困難としている。著者らのこれまでの検討では,直接熱交換式の化学蓄熱,吸着式ヒートポンプを検討し,シンプルな装置で効果的に温熱生成,高温蒸気生成を行うことができたが68),冷熱生成に関しては,シンプルな装置は提案されていない。

そこで,本研究では,既往のヒートポンプのように冷媒などの相変化に伴う蒸発潜熱を利用するのではなく,化学反応熱そのものを利用する冷熱生成システムを検討する。この検討として本研究では,溶媒中に溶質が溶解するとき発生する溶解熱に着目した。代表的な尿素の水への溶解を例にとり説明すると,式(1)に示すように,尿素は水に溶解する際に吸熱し,尿素水溶液から尿素が析出する際に発熱する。この性質を利用すれば,尿素と水を混合して冷熱生成させることができ,冷熱生成後の尿素水溶液を加熱濃縮して,尿素を再結晶させて再利用できる。しかも,尿素析出時に発熱するため,尿素水溶液から水を蒸発させるのに必要なエネルギーは,同量の純粋な水を蒸発させるときよりも少ない熱量で蒸発できる長所がある。このような水への溶解により冷熱を発する系としては,他にも硝酸アンモニウムや塩化アンモニウムなどが挙げられるが,冷熱生成システムへ用いるためには,吸熱系で溶解エンタルピーおよび,溶媒(水)への溶解度がともに高く,安定で,取扱いの容易なものが望ましいため,本研究では,この基礎研究として,尿素/水系を用いて検討した。

  
(NH2)2CO(s)+aq(NH2)2COaq,ΔHsol=+15.4kJ/mol(1)

本研究で提案するシステムの基本構成はFig.1のようになる。水を繰り返し利用する場合は,図のような装置構成となるが,水を繰り返し利用しない場合では凝縮器は不要となるので,点線で囲んだ混合器と濃縮器のみを考慮すればよく,装置構成がより単純となる。

Fig. 1.

Schematic of the cooling system using urea and water. (Online version in color.)

本システムを熱利用機器という観点で考えると,尿素水溶液を加熱濃縮して尿素を析出させる過程では,析出熱は発生するものの,大半は外部から熱を供給して水を蒸発させなければならないため,蓄熱工程に相当する。一方,再結晶した尿素に水を加えて冷熱生成するのが放熱工程に相当する。これらを考慮すると,温度レベルは異なるものの,蓄熱,放熱いずれも尿素水溶液は加熱される操作になっている点も興味深い。本研究で提案するシステムは,単純に尿素と水を混合するだけであり,濃縮を行う際も開放系で行うことができるため,単純な装置構成が可能であること,太陽光熱や地熱など自然エネルギーなどを用いる系にも対応可能で,必要な電力が既存のシステムに比べて小さくできることが利点として挙げられる。本システムの適用先としては,さまざま考えられるが,鉄鋼プロセスの低温排熱を熱源として冷熱生成し,これを空気冷却などに利用する,といった用途などが挙げられる。

研究に先立ち,尿素/水系のような混合熱を利用した検討について調査した。このような系は,このような系は,しばしば理科の授業等で反応熱を学習する際に取りあげられる9)ほか,混合熱の利用については,いわゆる「瞬間冷却パック」として市販され,広く普及しているが,冷熱生成は混合時の1回のみで繰り返し使用は想定されていない。学術的な検討としては,これまでFujisawaらにより,混合を利用した冷熱発生型ケミカルヒートパイプの検討が行われており,吸熱反応を起こす固液系(尿素/水,硝酸アンモニウム/水,フッ化水素アンモニウム/水)と液液系(イソブタノール/アセトニトリル,1-ブタノール/アセトニトリル)などの検討において,混合過程での冷熱生成量測定と乾燥および蒸留により冷却と再生が可能であることが示された10)。しかし,これ以降,混合を利用した冷熱生成の検討や具体的なシステムの検討はほとんどなされていない。

そこで,本稿では,尿素と水の混合による冷熱生成と加熱による濃縮,再結晶を繰り返しできるかどうかを検討した。その際,熱収支を確認して,設計の基礎式を検討した。さらに,この熱収支式を基に,提案するケミカル冷熱生成システムの性能を見積もった。

2. 実験装置および方法

尿素と水を混合して溶解させ,その後,溶液を加熱して尿素を析出させる操作を繰り返し行い,本研究で提案するシステムが可能かどうかを検証した。実験装置の概略をFig.2に示す。まず,Fig.2(a)に示すように,断熱容器内に設置したビーカー(容量200 mL)内に尿素5.0 gを入れ,室温の水10 gを加えて撹拌し,このときの溶液の温度変化をK熱電対で測定した。温度が定常状態に達した後,ビーカーを断熱容器から取り出して質量を測定した。次にこのビーカーをFig.2(b)に示すように,90°Cに設定したヒーター上に設置して,溶液を加熱し,水を約9 g蒸発させた。加熱後のビーカー質量を測定して,水の蒸発量を求めた。その後,このビーカーを断熱容器内に再度設置して,直前の操作で蒸発した水と同量の室温の水を加えて混合させた。以上の操作を繰り返して行った。実験では,溶液温度の他,サイクルごとに供給する水の温度を測定した。

Fig. 2.

Schematic of the experimental apparatus. (Online version in color.)

本検討での実験条件は,事前検討として行った尿素の水への混合試験および水溶液の加熱試験から決定している。事前検討から得られた主な知見として,尿素水溶液の加熱試験では,90°Cに設定したプレートヒーター上で加熱した場合,水溶液温度は最高で80°C程度であり,尿素の加水分解にともなうアンモニアの発生は確認されなかった。また,完全に水を蒸発させてしまうとFig.3(a)のように,析出した尿素の固体により撹拌子が固定されてしまい,次のサイクルでの水との混合が十分にできないことがわかったため,水1g程度が残留するようにした。このようにすると,Fig.3(b)に示すように,容器内は,析出した尿素と水溶液のスラリーとなるため,次サイクルで,水と速やかに混合できる状態となる。

Fig. 3.

Pictures at the end of the drying process. (Online version in color.)

3. 実験結果および考察

結果の一例として,経過時間ごとの溶液温度をFig.4に示す。混合過程に着目すると,最低温度到達までの温度変化が急激であることから尿素が速やかに溶解していることが確認できた。また,乾燥過程では,溶液温度が70°C程度まで急速に上昇した後,緩やかに上昇し,乾燥終盤で再度,急速に上昇した。ここで,緩やかな温度上昇は,水の蒸発によるもので,乾燥終盤における急速な温度上昇は,溶液の熱容量の減少,および,尿素の析出による発熱の効果であると考えられる。

Fig. 4.

The time variation of temperature of urea/water solution.

各サイクルにおける冷熱生成量は次のようにして求めた。実験では,水溶液(もしくは尿素)と水の温度が異なるため,まず,冷熱が発生しないと仮定して,混合前の水溶液エンタルピーと水のエンタルピーから,単純に水溶液/尿素と水を混合したときの温度T1を次式から求める。

  
CpuMu(T0Tref)+CpwMw(T0Tref)+CpvMv(T0Tref)+CpwMwf(TfTref)=CpuMu(T1Tref)+Cpw(Mw+Mwf)(T1Tref)+CpvMv(T1Tref)(2)

CpMTはそれぞれ比熱,質量,温度を示しており,添え字u,w,v,f,ref,0はそれぞれ,尿素,水,容器,供給,参照,混合前を示す。

式(2)から求めた温度T1と各サイクルで測定される最低温度到達時の液温T2から,実験冷熱生成量Qexpを次式で求めた。

  
Qexp=(T1T2)(MuCpu+MwCpw+MvCpv)(3)

理論冷熱生成量Qtheoryを求めるために,固体尿素を含む尿素水溶液に水を供給したときの変化を次ように考える。まず,固体尿素は一旦,供給された水にのみ溶解して溶解熱を放出し,濃度m1に達する。その後,この水溶液と,混合前から存在していた濃度m0の尿素水溶液が混合して濃度m2となると考えることができる。以上より,

  
Qtheory=(ΔHsolΔHdil(m10))nu,1+(ΔHdil(m10)ΔHdil(m20))nu,1+(ΔHdil(m00)ΔHdil(m20))nu,0(4)

nu,1nu,0は,溶解した尿素の物質量,混合前から存在していた溶液中の尿素の物質量をそれぞれ示す。また,∆Hsol,∆Hdll(m→0)は標準溶解エンタルピー,重量モル濃度mからの標準無限希釈エンタルピーを示す。なお,添え字の0,2は,それぞれ水との混合前と混合後を表す。式(4)の右辺第1項は,固体尿素の供給水への溶解による冷熱生成量を,第2,3項は,水の供給により新たに生成した濃度m1の尿素水溶液と,混合前から存在していた濃度m0の尿素水溶液の混合による濃度変化による冷熱生成量を表す。これを整理して,混合の前後の濃度のみで表すと,

  
Qtheory=(ΔHsolΔHdil(m20))nu,1+(ΔHdil(m00)ΔHdil(m20))nu,0(5)

上式より,理論冷熱生成量を求める際,固体尿素の物質量と,溶解している尿素の物質量,濃度が必要になるが,これは,尿素の分解が無いと仮定し,固体尿素と尿素水溶液がともに存在するときは,混合前の水溶液は飽和溶液であると考えて,溶液の溶解度から算出した。計算に必要な尿素の水に対する溶解度,希釈エンタルピーは文献値11,12)および実測データをもとに作成した以下のフィッティング式を用いた。

尿素の水への溶解度(水100 gへ飽和溶解する尿素質量)の温度依存性は次のとおりである11)

  
w'u=0.475602T+42.192502(6)

無限希釈エンタルピーは,重量モル濃度mの多項式として次のように表せる。

  
ΔdllH(m0)=a0+a0m+a2m2+a3m3+a4m4(7)

式中の係数a0-a4はつぎのように与えられる。

  
a0=0.662×101,a1=0.262,a2=7.79×103,a3=9.91×105,a4=4.5×107

高濃度域の無限希釈エンタルピーは,文献12)には無いデータであったため,水溶液の濃度変化させたときの温度変化を測定する実験を別途行って求めた。この実験結果と文献値12)を組み合わせて,式(7)を得ている。

以上より算出した冷熱生成量をTable 1に示す。また,同様の実験を3回行い,各サイクルの温度変化から算出される冷熱生成量と溶解熱および希釈熱より算出される理論冷熱生成量の比Qexp/Qtheoryの平均値をFig.5に示した。尿素が加熱されるたびに分解する場合は,サイクル回数の増加とともに,冷熱生成量は減少すると考えられる。しかし,図に示すように,各サイクルで理論値に近い冷熱生成できたことが確認され,本実験条件においては,本システムで尿素が繰り返し使用できることを確認できた。

Table 1. Data of the cyclic experiment of urea/water solution.
Number of cycle
123456
Temperature of solution before mixing T0 [ºC]24.363.765.767.868.463.4
Temperature of water supplied Twf [ºC]23.921.821.321.821.721.6
Mass of water supplied Mwf [g]10.008.518.308.107.977.99
Mass of solution before drying [g]097.6597.4097.2096.9096.65
Mass of solution after drying [g]089.1089.1089.1089.0089.00
Mass of solution after mixing with water [g]97.6597.4097.2096.9096.6596.90
Mass of water evaporated [g]08.55 (+0.21)8.3 (+0.2)8.1 (+0.3)7.9 (+0.32)7.65 (+0.09)
Temperature after mixing T2 [ºC]6.83032.132.632.430.8
Calculated tentative mixing temperature T1 [ºC]24.038.539.340.540.739.1
Remained water after drying [g]1.241.251.151.031.351.24
Mass of urea dissolved [g]3.2673.4563.3493.0453.5323.267
Mass of urea deposited Mu,0 [g]1.7331.5441.6511.9551.4681.733
Molar concentration before mixing, m0 [mol/kg]43.8746.0448.4949.2243.5643.87
Molar concentration after mixing, m2 [mol/kg]5.5796.0266.0285.6336.2965.579
Cold heat from the experiment, Qexp1018.3500.3418.0451.7461.9473.7
Theoretical cold heat, Qtheory [J]1137.1525.5482.7503.6566.6464.3
Qexp /Qtheory0.8960.9520.8660.8970.8151.020
Fig. 5.

Comparison between cold heat generated from experiment and theoretical cold heat generated.

4. 冷熱生成システムの基本設計

実験では,ほぼ理論通りの冷熱生成が行うことができたため,これをもとに熱収支式を作成して,所定の操作条件での冷熱生成量を見積もる検討をおこなった。Fig.1に示したシステムの概略より,冷熱生成過程では,混合器内で尿素スラリー/尿素水溶液に水を加えて,尿素の溶解および水溶液の希釈を行う。濃縮過程では,尿素水溶液を加熱し,水を蒸発させて,尿素水溶液の濃縮および尿素の析出を行う。本研究では,Fig.1中の点線で囲んだ部分のみに着目し,各過程での液温の経時変化を以下の熱収支式で求めた。

  
(CpwMw+CpuMu,tot)dTdt=UA(TobjT)+FCpw(TfT)(ΔHsolΔHdil)dnudtnudΔHdildt(8)

ここで,tFnuは時間,給水速度,溶液中の尿素の物質量をそれぞれ示す。UおよびAは混合器と濃縮器に設置した熱交換の総括伝熱係数および伝熱面積を,ΔHsolおよびΔHdilは溶解および無限希釈エンタルピーを示す。添字tot,objは総量,対象物をそれぞれ表す。式(8)の左辺は溶液のエンタルピー変化を表し,右辺第1項は対象物(加熱対象/熱源)からの入熱速度,右辺第2項は,単位時間あたりに冷熱生成過程で供給する水の持ち込む熱量,右辺第3項は,単位時間あたりに発生する溶解熱量,右辺第4項は,溶液濃度変化に伴い単位時間あたりに発生する希釈熱量をそれぞれ表す。

式(8)を溶液温度Tに関する微分方程式として数値的に解いた。その際,右辺第3,4項の溶液中の尿素の物質量変化速度dnu/dtおよび希釈エンタルピーΔHdilとその変化速度dΔHdil/dtは,給水速度Fを用いて,一時間ステップ前後の溶解尿素量から求めることができるが,これらは溶液温度Tに依存するため,まず,一時間ステップ後の溶液温度を仮定して溶解度を求めdnu/dt,ΔHdil,dΔHdil/dtをそれぞれ計算し,これらの値を用いて微分方程式から一時間ステップ後の溶液温度Tを求め,仮定した溶液温度と一致するかどうかを判定する作業を繰り返し行い,逐次,解を得た。

液温Tが沸点Tbpに達した場合,T=Tbpとし,式(8)に蒸発潜熱λおよび蒸発速度V˙を考慮した下記の熱収支式を用いて同様の計算を行った。

  
V˙λ=UA(TobjTbp)+FCpw(TfTbp)(ΔHsolΔHdil)dnudtnudΔHdildt(9)

本検討では,尿素/尿素水溶液と水の混合を行った後,加熱対象物の入熱により溶液温度が上昇するため,所定の切り替え温度Tchangeに達したら,加熱濃縮を行い,混合前の状態まで濃縮する過程を計算した。冷熱生成過程と濃縮過程の間のプロセスは本検討では無視した。

計算で得られる温度の経時変化より,冷却対象からの伝熱速度の平均値を

  
Qav=UA(TobjT)dtdt(10)

として求め,これを平均伝熱速度と定義して,比較に用いた。計算では比熱の温度依存性および,沸点上昇による影響を無いと仮定した。

まず,初期水質量Mw,mix,ini=0.01 kg,尿素の総量Mu,total=1.0 kg,水の総量Mw,total=1.0 kg,冷却対象物温度Tobj,mix=50°C,供給水温度Tf=50°C,濃縮時の熱源温度120°C,溶液の沸点(=混合前の溶液温度T0)Tbp=100°C,冷熱生成-濃縮過程切替温度Tchange=45°C,混合器,濃縮器の総括伝熱係数と伝熱面積の積UA値をともに0.1 kW/Kとした場合を解析した。冷却対象物の温度は,高温空気などを想定し,また,冷熱生成の効果を確認するために,初期水質量の少ない条件とした。このほかの計算条件をTable 2にまとめた。溶液温度の経時変化をFig.6に示す。まず前半の混合(冷熱生成)過程に着目すると,尿素/尿素水溶液と水の混合により,初期温度100°Cから約27°Cまで温度低下し,その後,対象物からの伝熱により温度上昇した。98秒経過した時点で,溶液温度が切り替え温度45°Cに達したため,それ以降は,加熱濃縮過程を行った。加熱濃縮開始後に溶液温度が沸点まで上昇し,その後は蒸発により溶液温度は一定となった。図には,点線で冷熱生成速度および熱交換速度を示すが,混合(冷熱生成)過程では,最大の伝熱速度が2.4 kW,伝熱速度Qavは1.1 kWであった。図中に示した冷熱生成時間tmixは98 s,加熱濃縮時間tconc=1102 sとなり,サイクル時間(tmix+tconc)に占める冷熱生成時間tmixの割合を「冷熱生成時間率」と定義すると,冷熱生成時間率は0.08であった。

Table 2. Calculation condition.
Specific heat of water,
Cpw [kJ/kg∙K]:
4.178Latent heat of water evaporation,
λ [kJ/kg]:
2257
Specific heat of urea,
Cpu [kJ/kg∙K]:
1.545Water feeding rate,
F [kg/s]:
0.05
Time step for calculation, dt [s]:0.2
Fig. 6.

Time variations of the temperature of solution and heat transfer rate.

先ほどの条件を基本条件として,操作条件がシステム性能に及ぼす影響を検討した。まず,混合時の初期溶液温度T0が冷熱生成に及ぼす影響を検討した。ここでは,連続的に冷熱生成するために同質量の溶液を2つ以上用意して,冷熱生成と加熱濃縮を同時に行う場合を考える。このとき,加熱濃縮直後の尿素/尿素水溶液を,冷熱生成後の水溶液と熱交換させれば,濃縮後の尿素/尿素水溶液の放冷と,加熱濃縮のための水溶液の予備加熱を同時に行うことができる。実際には,熱交換の条件などを詳細に別途検討する必要があるが,ここでは,そのような方法により,例えば濃縮後の溶液を冷却対象物と同じ温度(50°C)にしてから混合する場合を想定して計算した。結果をFig.7に示す。これより,混合時の最低温度が約20°C,液温が切り替え温度45°Cに達するまでの混合時間も2割程度増加し,図には示していないが,混合時の平均伝熱速度Qavは1.5 kWと,基本条件のときに比べて性能向上することがわかった。

Fig. 7.

The effect of the initial cycle temperature T0 on the mixing process.

次に,システムで用いる熱交換器の総括伝熱係数と伝熱面積の積UAをパラメータとした場合のサイクル時間,および冷熱生成時の平均伝熱速度をFig.8に示す。まず,点線で示した基本条件(T0=100°C)の場合に着目すると,UAの増加によりサイクル時間が短縮され,冷熱生成時の伝熱速度も向上することがわかった。Fig.9に冷熱生成時間率に及ぼすUAの影響を示すが,UAの増加により冷熱生成時間率は若干増加する傾向にあるものの,大きな変化は無かった。ここで,改めてFig.6に示した結果を見直すと,1サイクルの時間のうち,大半の時間は加熱濃縮に費やされていることがわかる。これは,水の蒸発潜熱が,溶解熱よりも10倍程度大きいため,当然の結果であると考えられるが,冷熱生成時間率は装置サイズを決定する重要な因子であるため,加熱濃縮の効率化がシステム構築には重要な因子であることを示唆している。

Fig. 8.

The effect of UA on cycle time and averaged cooling rate.

Fig. 9.

The effect of UA on the ratio of the mixing time to the cycle time.

Fig.8および9に示した図には,初期溶液温度T0を50°Cとした結果,および,T0=50°Cとしたうえで,加熱濃縮時の熱交換性能UA値(UA)concを,混合冷却時のUA値(UA)mixの5倍すなわち,(UA)conc=5(UA)mixに設定した場合の結果も合わせて示す。これより,熱交換性能の向上により,サイクル時間は大きく低下でき,冷熱生成時間率は上昇することがわかった。特に,濃縮時のUA値を混合時よりも大きく設定することが,サイクル時間の短縮に大きく貢献できることがわかった。

5. 結言

本研究では,溶解熱を利用したシンプルな構造の冷熱生成システムを提案した。本システムに用いる反応系の候補として,尿素と水を用いた混合(溶解)と加熱濃縮(析出)の繰り返し実験を行い,本実験条件においては,繰り返し冷熱生成ができることを確認した。物質収支および熱収支を基にした解析を行い,尿素を利用する効果を確認できた。解析結果より,加熱濃縮時の熱交換性能を高めることがシステム構築に重要であることが分かった。また,水と尿素を混合させる前の温度も重要な因子であることがわかった。今後は,繰り返し冷熱生成できるシステムを実際に構築し,システム構築のための課題を明らかにして,効率化の方策を検討する予定である。また,尿素が加水分解する条件を検討し,安定的に使用できる上限の温度を見極める検討や尿素水系以外の系についても検討を行う予定である。

謝辞

本研究は,「物質・デバイス領域共同研究拠点」の共同研究プログラム,および,日本鉄鋼協会「第28回 鉄鋼研究振興助成」の助成を受けたものである。ここに謝意を表す。

文献
 
© 2020 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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