Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties
An Elastic-plastic Constitutive Law Embedding Cohesive Cracks with Plasticity-induced Damage to Realize Degradation of Strength and Toughness under Cyclic Loading
Yuichi Shintaku Katsuya SoejimaSeiichiro TsutsumiKenjiro Terada
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 9 Pages 662-671

Details
Abstract

An elastic-plastic constitutive law embedding cohesive cracks with plasticity-induced damage is proposed to realize degradation of strength and toughness under cyclic loading. A conventional elastic-plastic constitutive law with isotropic and kinematic hardening is combined with our cohesive-force embedding damage model to realize plastic deformation and fracture behavior under monotonic and cyclic loading by solving two kinds of conditional equations. One of them is local balance equation between cohesive traction and principal stress and the other is yield function with nonlinear isotropic and kinematic hardening law. The relationship between the cohesive traction and the crack opening displacement is determined by a cohesive zone model associated with energy release rate to represent process of stress release due to formation of crack surface. In addition, a new plasticity-induced damage is introduced into the cohesive zone model to realize the degradation of the tensile strength and the energy release rate caused by the accumulated plastic strain. On the other hand, the difference of the plastic deformation under various ranges of cyclic loading is represented by additional hardening law depending on a memory surface that is corresponding to plastic strain range. After the material parameters are identified from three experimental results under monotonic and cyclic loading, the capability of our proposed constitutive law is demonstrated by prediction of residual tensile strength and breaking strain of a metal after cyclic loading.

1. 緒言

橋梁などの鋼構造物が地震による繰り返し載荷を受けると,溶接部や隅角部などの応力集中部では繰り返し過大な荷重が作用することによって塑性変形が生じる。これによって,地震動を経験する前よりも鋼材の強度および靭性が低下していることが懸念される。そのため,地震動後における鋼構造物の残存耐荷力の予測には,塑性ひずみに伴う引張強さおよび破壊靭性値(もしくは,破断伸び)の低下を評価する必要がある1)。特に,熊本地震2)のように複数回の地震によって過大な荷重が度々作用する場合には,破壊靭性値の評価はエネルギー吸収の観点から重要となると考えられる。

材料が破壊に至るまでの挙動を評価する既存の理論体系として,破壊力学と損傷力学が広く用いられている。前者はエネルギー解放率・応力拡大係数・J積分などのき裂先端におけるパラメータを用いて,材料の破壊靭性値や疲労き裂の進展速度などを予測する。また,荷重-変位関係を用いる簡便評価式3)から求めたJ積分範囲が低サイクル疲労問題に対して有効であることが実験的に報告されている4)。しかし,破壊力学のパラメータは全ひずみ理論に基づいて応力関数から解析的に導かれるため,繰り返し弾塑性変形が生じるような履歴に依存する問題におけるJ積分の物理的な意味が不明確であることが指摘されている5,6)。さらに,破壊力学はき裂の存在を前提とするためにき裂の発生を予測する問題には適していない。

一方,後者は材料内部に生じる微小き裂やボイドなどによる見かけ上の降伏曲面の変化や剛性の低下を表す内部変数を材料構成則に導入することで,材料が破壊に至るまでの応力低下を表現する。具体的には,Gurson-Tvergaard-Needleman(GTN)モデル7,8)ではマイクロメカニズムの観点から応力三軸度が高い状態のボイドの成長に伴う降伏関数の変化を表現したうえで,ボイドの発生や合体を考慮することで延性破壊の特徴であるカップアンドコーンを再現している。また,近年ではNahshon and Hutchinsonによって,応力三軸度が低い状態における延性破壊を表現するために改良が施されている9)。さらに,移動硬化を導入したGTNモデル10,11)も提案されており,ボイドを有限要素でモデル化した数値解析との比較も行われている12)。これに対して,連続体損傷モデルではボイドの成長による有効断面積の減少を表す損傷変数を材料剛性の低下と現象論的に関連づけることで延性破壊を表現している。さらに,引張と圧縮方向の違いを考慮するために,損傷変数と塑性ひずみの発展に対してUnilateral効果を導入したモデルも提案されている13)。これら2種類の損傷モデルから得られた繰り返し載荷の結果と実験を比較して,GTNモデルは連続体損傷モデルよりも破面形状をよく再現できるのに対して,疲労寿命は連続体損傷モデルの方が正確に予測可能であるとPirondiら14)は結論付けている。

しかしながら,低サイクル疲労破壊の発生原因は固執すべり帯と転位の再配置に起因した塑性誘起損傷1517)であり,溶接構造用圧延鋼材SM490等では引張強さに達する直前にボイドが発生することが報告18)されているため,GTNモデルの適用が必ずしも実現象と対応しているとはいえない。一方,材料に依っては繰り返し載荷中に材料剛性が低下していないことがZhouら19)によって指摘されており,連続体損傷モデルの適用が困難な場合もある。さらに,エネルギー吸収を評価する指標である破壊靭性値が塑性ひずみによって低下することが実験的に確認20)されているが,前述のように損傷力学はき裂の存在を考慮しないので,エネルギー解放率等と整合する材料定数も存在しない。そのため,既存の損傷モデルを用いて,塑性誘起損傷に起因した引張強さおよび破壊靭性値(もしくは,破断伸び)の低下を予測することは困難であると考えられる。加えて,異なるひずみ振幅の繰り返し載荷における弾塑性変形の違いを再現するには,Memory surface21,22)を用いた硬化則が必要であるが,前述のPirondiら14)の研究では一般的な硬化則が適用されているため,応力-ひずみ関係が実験結果とそもそも一致していない。

そこで,本研究では,単調載荷および異なるひずみ振幅による繰り返し載荷の応力-ひずみ関係を再現するとともに,塑性誘起損傷による引張強さおよび破壊靭性値(破断伸び)の低下を表現可能な弾塑性構成則を提案する。新たな弾塑性構成則は,結合力モデルを仮定したき裂を物質点に導入した著者らの結合力埋込型構成則23)に基づいて,エネルギー解放率の概念を用いてき裂面の形成に伴う応力解放の過程を表現する。具体的には,まず既存の弾性材料に対する結合力埋込型構成則の理論を拡張して,等方および移動硬化を考慮した弾塑性材料に対する定式化を提案する。次に,塑性ひずみの蓄積に伴う強度および靭性の低下を表現するための塑性誘起損傷を内部変数として指数型結合力モデルへ新たに導入する。さらに,異なる塑性ひずみ振幅による硬化挙動の違いを再現するために,Memory surfaceに基づく等方硬化則を提示する。最後に,単調および繰り返し載荷の実験から材料定数を同定したうえで,繰り返し載荷後に単調載荷を加えた実験との比較から提案した結合力埋込型弾塑性構成則の妥当性を検証する。

2. 塑性誘起損傷を考慮した結合力埋込型弾塑性構成則

2・1 弾塑性構成則に対する結合力埋込型構成則の定式化

本節では,等方および移動硬化を考慮した弾塑性材料に対する結合力埋込型構成則の定式化を提案する。まず,任意の代表体積要素において主応力の各方向にき裂が存在し,結合力がき裂面に作用すると仮定する。この時,き裂面における主応力σ(i)と結合力t(i)の釣り合い条件は,

  
gw(i)(w(i),γ˙p)=t(i)(w(i))σ(i)(w(i),γ˙p)=0(1)

となる。ただし,σ(1)σ(2)≥…≥σNdimの順とし,Ndimは空間次元である。これにより,き裂の発生および進展に伴う応力解放の過程は,第2・2節の結合力モデルによってき裂開口変位w(i)に関連して規定される結合力t(i)の変化によって表現される。ただし,γ˙pは塑性乗数である。また,き裂開口変位w(i)によって生じる見かけ上のひずみは,

  
εw=i=1Ndimw(i)he(i)e(i)(2)

で表される。ここで,hは代表長さ,およびe(i)は応力の固有ベクトルである。これにより,応力とひずみの関係は,

  
σ=e:εe=e:(εεwεp)(3)

として得られる。ここで,ɛは全ひずみ,ɛeは弾性ひずみ,ɛpは塑性ひずみ,およびℂeは等方弾性係数テンソルである。また,背応力βを考慮したPrandtl-Reussの流れ則により,塑性ひずみ速度は,

  
ε˙p=γ˙p32sβsβ(4)

で表される。ここで,sは偏差応力である。

次に,等方および移動硬化を考慮したvon Misesモデルを採用すると,降伏関数は,

  
gp(w(i),γ˙p)=σeq(w(i),γ˙p)σy(γ˙p)=0(5)

で与えられる。ここで,相当応力σeqは,

  
σeq=32sβ(6)

である。また,非線形移動硬化を表限するために,Chabocheモデル24)およびArmstrong-Frederick則25)を採用すると,背応力βの発展則は,

  
β˙=k=1Nkinβ˙(k)=k=1Nkin(akε˙pbkγ˙pβ(k))(7)

で表される。ここで,Nkinは分割された背応力β(k)の数,akbkは材料定数である。

さらに,繰り返し載荷における塑性ひずみ振幅による弾塑性変形の違いを考慮するために,第2・3節で示すMemory surfaceに基づいて発展する等方硬化則の項κmを導入すると,降伏応力σyは,

  
σy=σy0+κy+κm(8)

と表される。ここで,σy0は初期降伏応力であり,κyにVoce則を用いると,

  
κy=Lyε¯p+Ry(1exp(ryε¯p))(9)

と与えられる。ただし,LyRyryは硬化に関する材料定数,ɛpは累積塑性ひずみである。

以上をまとめると,提案モデルでは式(1)がき裂の発生および進展による応力解放の過程を表現し,式(5)が硬化による降伏応力の変化を表す。ここで,降伏応力には結合力モデルの影響は考慮していないため,塑性変形と結合力モデルに関する材料定数は独立に同定可能な点を強調しておく。なお,数値解析的にはリターンマッピングアルゴリズムを用いて二種類の条件式を連立して解くことになる。

2・2 塑性誘起損傷による強度および靭性の低下を考慮した指数型結合力モデル

本節では,塑性誘起損傷に伴う強度および靭性の低下を表現するための内部変数Dpを,Rice and Wangが提案した結合力モデル26)に導入する。まず,本研究で採用したRiceとWangの結合ポテンシャルは,

  
Ψ(w(i),γ˙p)=Gc[1(1+w(i)wc)exp(w(i)wc)](10)

と表される。これにより,結合ポテンシャルΨをき裂開口変位w(i)で微分して,結合力t(i)は,

  
t(i)=Ψw(i)=Gcwc(w(i)wc)exp(w(i)wc)(11)

として得られる。ここで,Gcは臨界エネルギー解放率,tcは結合力が最大値となる臨界結合力,およびwcはその時の臨界き裂開口変位である。式(11)により,き裂開口変位に対する結合力の変化はFig.1のように表される。ただし,除荷時にはFig.1のように結合力は原点に向かって減少27)し,再負荷時には除荷時と同様の経路で上昇していく。一方,き裂面が接触する場合には,原点において式(11)と連続的に接続する次式のようなペナルティ関数を用いる。

  
t(i)=kpw(i)(12)
Fig. 1.

Relationship between cohesive traction and crack opening displacement.

ここで,kpw(i)がゼロの時の式(11)の傾き(etc/wc)とする。ここで,eは自然対数である。また,臨界エネルギー解放率Gcは曲線と横軸で囲まれる部分の面積であり,次式で表現される。

  
Gc=0t(i)dw(i)=etcwc(13)

次に,繰り返し載荷に伴う塑性ひずみの蓄積による固執すべり帯と転位の再配置に起因した破壊靭性値の低下を表すために,塑性誘起損傷Dpを導入する。既存の結合力モデル28)と同様に,臨界エネルギー解放率Gcに内部変数として導入すると,

  
Gc=(1Dp)Gc0=(1Dp)etc0wc0(14)

として表現される。ここで,下付き文字0は塑性ひずみがゼロの時の各値を表し,処女材の物性値に対応する。また,本論文では無用な材料定数の増加を防ぐために,塑性誘起損傷Dpの発展則は,

  
D˙p=λ(1Dp)γ˙p(15)

と定義する。ここで,λは材料定数である。さらに,本研究ではFig.2のように塑性誘起損傷Dpが臨界結合力tcと臨界き裂開口変位wcを低下させるものと考え,次式のように分解できるものと考える。

  
tc=(1Dp)1αtc0wc=(1Dp)αwc0(16)
Fig. 2.

Relationship between cohesive traction and crack opening displacement with plasticity-induced damage.

ここで,αは材料定数であり,その値が及ぼす影響はFig.2のようになる。αがゼロの時はFig.2(a)のように臨界結合力tcのみが低下するのに対して,αが1の時はFig.2(b)のように臨界き裂開口変位wcが減少する。すなわち,前者は引張強さの低下を表し,後者は破断伸びの減少に対応する。また,既存の結合力モデル17)では損傷変数を引張強さのみに考慮しているが,提案モデルではαを用いることで引張強さと破断伸びの双方に影響を考慮した点で,より一般化形したモデルであるといえる。さらに,αが0.5の時は塑性誘起損傷が臨界結合力tcと臨界き裂開口変位wcに対して同等に作用するため,Fig.2(c)のように結合力の剛性はほぼ一定となり,材料剛性もほとんど変化しなくなる。

以上のように,塑性誘起損傷Dpを導入した結合力モデルでは,Dpが材料内部における固執すべり帯と転位の再配置に起因した強度と靭性の低下を表すのに対して,式(11)がき裂開口変位w(i)に関連したき裂の発生および進展に伴う応力の解放過程を表現する。

2・3 Memory surfaceに基づく等方硬化則

本節では,Chabocheらが提案したMemory surface29)について概説した後に,それを用いて塑性ひずみ振幅による弾塑性変形の違いを表現するための等方硬化則について説明する。まず,Memory surfaceを規定する関数は,

  
gm=23εppq=0(17)

である。ここで,pはMemory surfaceの中心であり,qはその半径を表す。すなわち,前者は繰り返し塑性ひずみの平均値であり,後者は塑性ひずみ振幅に対応する。また,Ohno30)が導入した材料定数cを用いると,pの発展則は,

  
p˙=(1c)(N¯m:ε˙p)N¯mH(gm)(18)

で表される。ここで,NmはMemory surfaceの単位法線ベクトルである。ただし,H(●)はHeaviside関数であり,●<0の時にH(●)=0,●≥0の時にH(●)=1と定義される。一方,qの発展則は,

  
q˙=cN¯p:N¯mH(gm)γ˙p(19)

として与えられる。ここで,Npは降伏曲面の単位法線ベクトルである。ただし,〈●〉はMacauley括弧であり,〈●〉=(●+|●|)/2と定義される。

次に,式(8)におけるMemory surfaceに基づいて発展する硬化則は,

  
κm=Lqε¯q(20)

と定義する。ここで,Lqは硬化係数,およびその硬化に関する内部変数である。塑性ひずみ振幅を表すqを用いて,Lqの発展則は,

  
L˙q=Lmq˙H(qε¯p)(21)

と定義する。ここで,Lmは材料定数である。一方,ɛqの発展則は,

  
ε¯˙q=γ˙psgn(ε¯pq)(22)

と定義する。ただし,sgn(●)は●≤0の時にsgn(●)=0,●>0の時にsgn(●)=1で定義される関数である。以上により,Fig.3(a)のように単調載荷の時には,累積塑性ひずみɛpとMemory surfaceの半径qが一致しているため,Lqのみが発展し,ɛqは発展しない。一方,Fig.3(b)および(c)のように単調載荷後の繰り返し載荷およびその後の単調載荷を加えた時には,累積塑性ひずみɛpの方がMemory surfaceの半径qより大きいため,Lqは発展せず,ɛqのみが発展する。すなわち,前者の時には硬化係数のみが増加し,後者の時に等方硬化挙動が表現される。

Fig. 3.

Memory surface monotonic loading.

3. 材料定数の同定

本章では,単調載荷および2パターンの塑性ひずみ振幅一定の繰り返し載荷を負荷した実験より得られた応力-ひずみ関係から提案モデルの材料定数を同定する。

3・1 実験の手順

本研究では,提案モデルと比較するためにWES-16231)に準拠して,単調載荷および繰り返し載荷の実験を実施する。試験片材料には一般的な鋼構造物の溶接部に使用されている溶接構造用圧延鋼材SM490Aを用いる。繰り返し載荷試験についてはFig.4のように塑性ひずみ振幅Δɛpa一定の両振り試験を行い,WES規格に従って塑性ひずみ振幅が0.08,0.126となるように制御する。ただし,繰り返し載荷試験はそれぞれ3回実施する。すべての試験を室温で実施し,載荷速度を0.5 mm/minで一定とする。なお,試験片最小断面部の直径方向の変化量はレーザー厚み計を用いて10 Hzで連続的に計測する。

Fig. 4.

Stress-strain curve under cyclic loading. (Online version in color.)

また,塑性ひずみ振幅一定の繰り返し載荷試験から降伏応力σyと背応力のノルム||β||を算出する。Fig.4σyは降伏曲面の半径,||β||は降伏曲面の中心の移動量を表すため,それぞれ次式のように表される。

  
σy=|σAσB|2(23)
  
β=|σA+σB|2(24)

ここで,σAは除荷時の応力,およびσBは再負荷時の降伏応力を表す。

3・2 材料定数の同定結果

3・2・1 引張および圧縮方向の単調載荷

引張方向の単調載荷において提案モデルから得られた応力-ひずみ関係を実験結果と併せてFig.5に示す。ただし,バツ印は実験における破断点を表している。Fig.5より,単調載荷試験から得られた硬化挙動を提案モデルが定量的に再現できていることを確認できる。また,提案モデルが実験における引張強さおよび破断伸びを正確に予測可能なことがわかる。また,ひずみの増加に対する最大主応力方向のき裂開口変位と臨界き裂開口変位の比w(1)/wcおよび塑性誘起損傷Dpの関係をFig.6に示す。Fig.6より,応力低下が開始するまでの過程においてw(1)/wcおよびDpが徐々に増加していることがわかる。その後,w(1)/wcが1に達すると,w(1)/wcの増加に伴って応力低下が生じるのに対して,Dpは発展せず,一定値となることが確認できる。つまり,損傷変数が1に達した時に破壊に至る従来の損傷モデルとは異なり,提案モデルではw(i)wcに達した時に破壊が生じ,応力低下の過程ではDpの影響を受けず,結合力モデルで規定される軟化曲線に従って変化する。ここで,提案モデルに用いた材料定数をTable 1に示す。

Fig. 5.

Stress-strain curves obtained by proposed model and experiment under monotonic loading. (Online version in color.)

Fig. 6.

Evolution of ratio of crack opening displacement to its critical opening displacement. (Online version in color.)

Table 1. Material constants.
Young’s modulusE [GPa]206
Poisson’s ratiov0.3
Initial yield stressσy0 [MPa]250
Characteristic lengthh [mm]2
Isotropic hardening lawLy [MPa]0
Ry [MPa]180
ry10
Lm [MPa]220
Kinematic hardening lawa1 [MPa]12000
b1100
a2 [MPa]290
b20.01
Cohesive zone model with plasticity-induced damagetc0 [MPa]1050
Gc0 [kJ/m2]28.5
λ0.13
α0.8
Memory surfacec1

一方,圧縮方向に単調載荷を加えた場合の応力-ひずみ関係をFig.7に示す。Fig.7より,圧縮応力の絶対値がFig.5における軟化開始時の応力を超えても,提案モデルは硬化挙動を表現している。つまり,式(12)のように仮想的なき裂面同士の接触過程を考慮しているため,圧縮下では破壊が発生せず,提案モデルはUnilateral効果13)を表現可能となっている。なお,次節のように繰り返し載荷における圧縮の場合にもき裂は閉口しており,応力低下が発生することはない。

Fig. 7.

Stress-strain curve obtained by proposed model under compression loading. (Online version in color.)

3・2・2 異なる塑性ひずみ振幅における繰り返し載荷

塑性ひずみ振幅Δɛpa=0.08,0.126の繰り返し載荷において提案モデルから得られた応力-ひずみ関係をFig.8(a)および(b)に示す。ただし,実験から得られた結果も併せて載せる。Fig.8(a)および(b)より,提案モデルは異なる塑性ひずみ振幅における硬化挙動を定量的に再現できている。

Fig. 8.

Comparison of stress-strain curves obtained by proposed model and experiment under cyclic loading. (Online version in color.)

次に,式(23)で算出した降伏応力と累積塑性ひずみの関係をFig.9に示す。また,式(8)から得られた降伏応力の解析値を併記する。Fig.9より,実験値における2つの塑性ひずみ振幅の降伏応力はどちらも線形的に増加しており,塑性ひずみ振幅0.08よりも0.126の方がより加工硬化の影響が強く出る傾向がある。一方,Memory surfaceに基づく等方硬化則を導入したため,2つの塑性ひずみ振幅で挙動が変化する降伏応力を提案モデルは定性的に表現できていることが確認できる。

Fig. 9.

Relationship between yield stress and accumulated plastic strain. (Online version in color.)

また,式(24)で算出した塑性ひずみ範囲0.08,0.126の背応力のノルムと累積塑性ひずみの関係をFig.10(a)および(b)にそれぞれ示す。ただし,式(7)から得られた背応力の解析値を併記する。Fig.10(a)および(b)より,実験から得られた背応力は2つの塑性ひずみ振幅ともに累積塑性ひずみの増加に伴って,一定値に収束していく傾向が見られる。また,塑性ひずみ振幅0.126の背応力が塑性ひずみ振幅0.08よりも高く出ている。一方,移動硬化則であるChabocheの背応力モデルはFig.10(a)および(b)のように,実験から得られた2つの塑性ひずみ振幅で背応力の値が異なる挙動を定性的に表現できている。

Fig. 10.

Relationship between back stress and accumulated plastic strain. (Online version in color.)

さらに,塑性ひずみ振幅0.08における累積塑性ひずみの増加に対する最大主応力方向のき裂開口変位と臨界き裂開口変位の比w(1)/wcおよび塑性誘起損傷Dpの関係をFig.11に示す。Fig.11より,w(1)/wcが引張方向の載荷時には正の値で変化しているのに対して,圧縮方向の載荷時にはゼロとなり,き裂面の接触を表現できていることが確認できる。また,塑性ひずみの蓄積に伴うDpの増加によって,引張方向の載荷時のw(1)/wcが徐々に増加し,最終的に破壊に至ると急激に増加する。すなわち,提案モデルは前節で示したように圧縮方向の載荷によって破壊に至ることはないが,その際に生じる塑性誘起損傷Dpの増加によって強度や靭性の低下が表現される。

Fig. 11.

Evolution of ratio of crack opening displacement to its critical opening displacement under cyclic loading. (Online version in color.)

これにより,実験および提案モデルから得られた疲労寿命をTable 2に示す。Table 2より,実験から得られた各繰り返し載荷時の疲労寿命の平均値を提案モデルは正確に予測できている。ただし,第2・1節で述べたように降伏応力は結合力モデルに影響しないため,塑性変形に関する材料定数を同定した後に,塑性誘起損傷Dpに関する材料定数を決めた。

Table 2. Fatigue lifetime obtained by experiments and proposed model.
Fatigue lifetime [cycles]
ExperimentsProposed model
Δɛpa = 0.0827272731
Δɛpa = 0.12616171315

最後に,実験および提案モデルから得られた塑性ひずみ振幅0.08における剛性の変化をFig.12に示す。ただし,それぞれの剛性はFig.4のように載荷方向を変えた時の弾性除荷から算出した値であり,1サイクル目の引張方向(Tension:T)から圧縮方向(Compression:C)へ変えた時の剛性で正規化している。Fig.12から,SM490Aはサイクル数を重ねていくと,徐々に剛性が高くなっていく傾向がある。一方,第2・2節で記したように,提案モデルは材料定数αを0.8に設定することで実験結果をよく表現できている。以上より,同定した材料定数をTable 1に示す。

Fig. 12.

Change of Young’s modulus under cyclic loading. (Online version in color.)

4. 提案モデルの妥当性の検証

本章では,単調載荷および繰り返し載荷において同定した材料定数を用いて,繰り返し載荷後に単調載荷を加えた解析を実施し,提案モデルの妥当性を検証する。また,提案モデルと比較するために,繰り返し載荷後に単調載荷を加えた実験を実施する。ただし,繰り返し載荷部分については塑性ひずみ振幅を0.126とし,繰り返し回数を5回,12回の2パターン行う。

提案モデルから得られた応力-ひずみ関係を実験結果と併せてFig.12に示す。ただし,繰り返し回数が5回の結果をFig.13(a),12回の結果をFig.13(b)に示す。Fig.13(a)および(b)より,実験における繰り返し載荷後に単調載荷を加えた部分の硬化挙動を提案モデルが定量的に再現できている。また,Fig.13(a)および(b)より,実験における各繰り返し載荷後の単調載荷時の引張強さおよび破断伸びを提案モデルが予測できている。さらに,提案モデルにおけるFig.13(a)と(b)を比較すると,繰り返し回数5回よりも繰り返し回数12回の方が,引張強さおよび破断伸びが小さくなっている。したがって,繰り返し載荷後における強度および靭性の低下を提案モデルが表現可能であることを確認できる。

Fig. 13.

Comparison of stress-strain curves obtained by proposed model and experiments. (Online version in color.)

また,実験と提案モデルの引張強さおよび破断伸びに対する相対誤差をFig.14に示す。ただし,単調載荷の結果も併せて載せる。Fig.14より,引張強さにおける相対誤差はすべて小さいことがわかる。また,繰り返し回数が少なく,塑性ひずみの蓄積量が小さいほど破断伸びに対する相対誤差は小さくなっている。ただし,繰り返し回数12回における全ひずみは他の結果よりも小さいため,相対誤差が大きくなっている点に留意されたい。一方,提案モデルはTable 2のように疲労寿命を正確に予測できており,塑性ひずみ振幅0.126の繰り返し載荷における破断回数は15回であるため,12回から繰り返し回数を増やしたとしても,破断伸びに対する誤差がそれほど大きくならないと示唆される。

Fig. 14.

Relative errors between proposed model and experiment of the tensile stress and breaking strain. (Online version in color.)

5. 結言

本研究では,塑性誘起損傷による引張強さおよび破壊靭性値(破断伸び)の低下を表現可能とするために,塑性誘起損傷を考慮した結合力埋込型弾塑性構成則を提案した。提案した構成則によって単調載荷および異なるひずみ振幅の繰り返し載荷における応力-ひずみ関係を再現したうえで,塑性誘起損傷に起因した引張強さおよび破断伸びの低下を予測可能なことを確認した。得られた知見を以下に示す。

・提案モデルは塑性誘起損傷に起因して発生する繰り返し載荷後の強度および靭性の低下を表現可能である。

・Memory surfaceに基づく等方硬化則を導入したことによって,単調載荷・異なる塑性ひずみ振幅における繰り返し載荷・繰り返し載荷後の単調載荷を加えた時のそれぞれの硬化挙動を定量的に再現可能である。

・新たに導入した塑性誘起損傷を表す内部変数およびMemory surfaceに基づく等方硬化則によって,異なる塑性ひずみ振幅における疲労寿命の定量的な予測が可能である。

・引張強さに対応する臨界結合力および,破断伸びに相当する臨界き裂開口変位の双方に対して,塑性誘起損傷の影響を考慮することで,繰り返し載荷における剛性の変化を再現可能である。

・提案モデルではき裂を仮定し,その面同士の接触を考慮することで,Unilateral効果が表現される。

ただし,本論文では繰り返し載荷の実験は2パターンの塑性ひずみ振幅に対してのみしか実施していないため,塑性誘起損傷の発展則には材料定数が1つしかない比較的単純なものを採用している。そのため,今後はさらに実験データを増やしたうえで,Manson-Coffin則やJ積分範囲を用いた経験則などとの関係を念頭に,破断回数が数千回程度まで適用可能な塑性誘起損傷の発展則について検討していきたい。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP 17K17627,第27回鉄鋼研究振興助成,および2019年次世代を担う研究助成を受けたものです。ここに,記して謝意を表します。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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