Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Instrumentation, Control and System Engineering
An Optimization for Ore Blending Schedules Using Mathematical Programming Methods
Akira Kumano Yusuke YoshinariOsamu YamaguchiToru Miyazawa
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 9 Pages 611-620

Details
Abstract

We have developed an optimal scheduling method for raw material operations aiming the raw materials cost reduction. In this paper, we report optimization approaches to minimize the cost of ore blending in steel works.

The ore blending problem is to make schedules for the purpose of cost minimization under several constraints such as the stock in yards, ingredients in sintered ore. When formulating as a mathematical model, nonlinearity exists in this problem and make it complicated. However, this problem has characteristic that becomes a linear problem by fixing several key variables as constants. To overcome the nonlinearity, we developed our original Hybrid model that was a combination of Particle Swarm Optimization (PSO) and Linear Programming method (LP). We applied PSO to search the best way of fixing key variables, and obtained blending schedules by solving LPs. Our Hybrid model searched wide area effectively, and derived the solution within 2 minutes. Numerical experiments indicated a cost reduction of secondary materials by 1%.

1. 緒言

近年,日本の鉄鋼業を取り巻く状況は大きく変化した。ここ10年間で中国の鉄鋼業は急速に成長し,世界の鋼材供給量の半分を占めるようになった。しかし,中国の鉄鋼各社が増産を続けている一方で,中国内需の減速により鋼材価格が下落している。また,米国の輸入制限で行き場を失った鋼材の欧州・東南アジアへの流入や,米中貿易戦争による世界経済の減速感により,鋼材価格は更に下落している状況である。しかしながら,中国の鉄鋼各社が大量の原材料を必要とするため,鉄鉱石価格の高止まりが続く傾向にあり,鋼材価格の下落と相まって鉄鋼業の置かれる環境は非常に厳しい状況である。そのため,鋼材原価の削減に直接寄与する,原料コストの削減に対するニーズは非常に高まっている。そこで,本稿では特に,原料工程の物流業務最適化による原料コスト削減への取り組みについて述べる。

日本の鉄鋼業では,数理最適化の技術がさまざまな工程に適用され,成果をあげてきた13)。各工程における生産計画,物流計画の最適化・立案自動化が進んでいる。とりわけ製鉄業の最上工程となる原料工程においては,膨大な量の鉄鉱石,石炭を使用しているため,原材料コストは製鉄コスト中50%以上を占めている(Fig.1)。そのため,当工程の物流計画の最適化の経済効果は非常に大きくなることが期待できることから,原料工程の生産計画,物流計画の最適化を推進することが望まれている。

Fig. 1.

Cost ratio of Steel production. (Online version in color.)

原料工程には,原料山元から各製鉄所への原料船の割り当てを適切な時期に設定する配船計画と,高炉・焼結炉・コークス炉が所望する成分になるように原料をブレンドする配合計画,受入機・払出機の能力・稼働制約のもと粗鉱ヤード効率が最大となるように原料の受入場所を決めるヤード配置計画などがある。

これらの問題に対し,過去にシステム導入の試みがなされてきた。ヤード配置問題におけるエキスパートシステム4),原料搬送問題における試み5)などがある。しかし,どの事例も人手による計画を超えることができず,新たなシステム開発がなされないまま現在に至っている。近年の計算機能力の大幅な向上を背景にした,システム,最適化技術の導入により,大きなコストダウンが期待できる。

このような状況に対して,本稿では特に,鉱石配合計画の最適化について報告する。

2. 原料操業の概要と課題

2・1 原料操業の概要

原料操業の計画業務には,配船計画,配合計画,ヤード配置計画などがある。原料操業の日々の業務は,これらの計画を元に実施されている。Fig.2に原料の山元から製鉄所内の鉱石原料の物流の概要を示す。

Fig. 2.

Outline of raw material operations of ironworks. (Online version in color.)

原料山元から各製鉄所への配船物流は,各製鉄所が所望する原料銘柄を,在庫不足を発生させないように安定的に供給することが求められる。計画担当者が提示した配船計画に基づいて,商船会社が運行管理を行っている。

所内原料物流は,焼結炉,高炉および製鋼の使用原料量を安定的に供給し,所望の品質を担保することが使命である。原料船が製鉄所に到着し,バースに着岸した後,アンローダーが積載原料を荷揚する。荷揚された原料はコンベアを経由して「粗鉱ヤード」と呼ばれる仮置きヤードにヤード配置計画に基づいて受け入れられる。ヤード配置計画では,後述の配合計画が実行可能となる様,スタッカーやリクレーマ等の移動機の能力の制約の範囲で原料の置き場番地を決定する。粗鉱ヤードには,石炭,鉱石,副原料と高炉ダスト等の回収物を含めた,全ての原料が銘柄毎に在庫として置かれ,石炭系と鉱石系に分かれて配置される。鉱石は粗鉱ヤードから焼結用粉鉱処理プロセスと高炉用塊鉱処理プロセスへ運ばれ,所望の品質となるように配合計画に基づいて配合された後,ブレンディングヤードに積み付けられる。ブレンドされた粉鉱石は焼結工場へ輸送され,塊鉱石は高炉へ輸送される。ペレット,焼結鉱は処理鉱と呼ばれ,粗鉱ヤードから高炉へ輸送される。石炭は石炭処理プロセスへ運ばれ,配合槽にてブレンディング後,コークス工場へ運ばれる。

2・2 原料操業の課題

配船計画を決めるうえで,計画担当者は,揚地側である各製鉄所の原料在庫を切らさないようにすることを第一の目的とし,次に船の傭船コストや滞船料といった輸送コストの削減を考慮している。しかし,原料の安定供給と輸送コストの削減は相反する関係のため,両立した最適な計画を立案することは非常に困難である。

また,原料の受入場所によっては払出機の制約上配合計画が実行できない場合があるので,配合とヤード配置は連携した計画にする必要がある。しかし,原料操業に関連する情報が膨大であること,加えて,人手での計画立案などの原因により,連携した計画が立てられていないのが現状である。その結果,当初の配合計画を変更せざるを得なくなり,成分調整のための副原料装入量が増加してしまう。また,熟練者であってもヤードの長期傾向の予測が難しく,長期的視点でのヤード効率の最大化が出来ていなかった。その結果,原料船の沖待ち時間が増加し多額の滞船料が発生している。

さらに,配船計画は天候等の影響を受けやすいため,頻繁に修正を余儀なくされる。所内物流計画は,到着予定の原料に基づいて計画を立てるため,配船計画が変更される度に修正する必要がある。各計画を修正するために時間を取られることも課題となっていた。

これらの課題を解決するためには,最終的に配船計画・配合計画・ヤード配置計画を同時に最適化することが求められる。しかしながら,実用上求められる計画単位での同時最適化は,問題規模が巨大で対処困難である。一方,対処可能なまでに粒度を粗くした計画では,操業の都合を十分に反映できない恐れがある。そこで,3つの計画を個別に最適化,高速計算によって計画作成時間を削減し,必要に応じて各計画を修正することで前述の課題の解決を図った。本稿では所内の原料操業計画のうち,特に処理量が多い鉱石系を対象とした配合計画の最適化に取り組んだ内容について述べる。

3. 鉱石配合計画

3・1 鉱石配合問題の概要と課題

Fig.3に,今回対象とした鉱石配合計画の概要を示す。

Fig. 3.

Outline of the ore blending problem. (Online version in color.)

鉱石配合計画は,

・入力情報として,鉱石の成分情報,鉱石船の入船予定,粗鉱ヤード上の在庫情報,高炉出銑計画,焼結生産計画,主原料(塊鉱石,焼結鉱,処理鉱)の配分割合,塊鉱の必要払出量,コークス配合計画が与えられた状況で,

・在庫上下限,溶銑・焼結の性状などの制約の下,

・目的関数である鉱石コストが最小となる,鉱石の使用計画を数日単位・月単位で立案する問題である。

実操業では,使用する鉱石の銘柄は20銘柄以上あり,在庫制約,焼結の強度制約,スラグの流動性制約などを満たしながら5日単位の計画を1か月分作成するという大規模で複雑な問題となる。

しかも,鉱石配合問題を数理最適化問題6)としてモデル化すると,焼結鉱の歩留計算などに非線形性があるため,単純な線形計画問題6)にならず,解法に工夫が必要となる。

これらの課題に対して先行研究7)では,1年間分の長期の鉱石配合問題を,ローリングスケジューリングを取り入れた混合整数計画問題6)として定式化し,分枝限定法8)を基本手法とした汎用商用ソルバーを活用した手法を提案している。しかしながら,先行研究では長期の計画を対象としており,全制約を考慮すると実行可能解を得られないため,一部の主要な制約のみを考慮している。そのため,本稿で扱う1か月程度の短期計画には先行研究の手法は不向きである。

そこで筆者らは,非線形性を持つ変数を適切に処理することで,本問題を効率的に解く独自の手法を開発した。

3・2 数理モデル

本稿で対象とする鉱石配合問題の数理モデルについて述べる。なお,制約式に関しては問題の性質を保持できる範囲で省略し,非線形となる式を含む形で記述する。また,今回対象とした鉱石配合問題は,5日単位の1か月の計画,すなわち連続6期間の計画を立案する。

変数,および定数を以下のように設定した。なお,各変数や定数は実際行われている配合業務を踏まえて選定している。

決定変数

xi,j:期間jにおける銘柄iの配合量

変数

pfj:期間jにおける粉鉱石の総配合量

mrj:期間jにおける主原料比(銑鉄1 tあたりに必要な鉄鉱石の重量の比)

定数

ci:銘柄iのコスト

si:銘柄iの初期在庫

ai,j:期間jにおける銘柄iの入荷量

ri:銘柄iの焼成歩留

PLj:期間jにおける塊鉱石の総配合量

PSj:期間jにおける焼結鉱の生産量

PPj:期間jにおける処理鉱石(ペレット)の総配合量

Fei:銘柄iの含有Fe成分率

αiβi:銘柄iの任意の含有成分率

ω1,j~ω3,j:期間jにおける塊鉱石,焼結鉱,処理鉱石の配分率

C1 bottomC1 upper:塊鉱石の配合後の任意の成分の上下限を示す定数

C2 bottomC2 upper:粉鉱石の配合後の任意の成分の上下限を示す定数

C3:焼結副原料等の歩留を示す定数

C4:焼結副原料等の配合量を示す定数

C5:配合後の目標とするFe成分量を示す定数

数理モデルは以下のように定義される。

  
miniIjJcixi,j(1)
  
s.t.iLumpxi,j=PLjjJ(2)
  
C1bottom1PLjiLumpαixi,jC1upperjJ(3)
  
iFinexi,j=pfjjJ(4)
  
C2bottom1pfjiFineβixi,jC2upperjJ(5)
  
1pfjiFinerixi,j+C3=PSjpfj+C4jJ(6)
  
iPelletxi,j=PPjjJ(7)
  
k=1jxi,ksi+k=1jai,kiI,jJ(8)
  
mrj(ω1,jPLjiLumpFeixi,j+ω2,jpfjiFineFeixi,j+ω3,jPPjiPelletFeixi,j)+iSubFeixi,j=C5jJ(9)
  
xi,j0iI,jJ(10)

ここで,Iは銘柄全体の集合を,Lumpは塊鉱石の集合を,Fineは粉鉱石の集合を,Pelletは処理鉱石の集合を,Subは副原料の集合を,Jは期間の集合をそれぞれ表す。塊鉱石配合量PLj,焼結鉱生産量PSj,処理鉱石配合量PPjは操業の生産計画によりあらかじめ決定される一方,粉鉱石の総配合量pfjを変数としているのは,粉鉱石の配合によって焼成歩留が変わるため,粉鉱石の総配合量が定数とならないためである。

それぞれの式について説明する。式(1)は,計画期間の総原料コストを表す評価関数を表す。式(2)は,塊鉱石の配合量充足制約である。式(3)は,配合後の塊鉱石が満たすべき成分制約を示している。式(4)は,粉鉱石の総配合量の計算式である。式(5)は,配合後の粉鉱石が満たすべき成分制約である。式(6)は,配合後の粉鉱石の焼成歩留値が,焼結生産量を総粉鉱石配合量で割った値と一致する焼成歩留に関する制約を表す。式(7)は,処理鉱石の配合量充足制約である。式(8)は,期間jにおける銘柄iの配合量xi,jが期間jにおける銘柄iの在庫量以下となる在庫量制約を示している。式(9)は,配合後の塊鉱石,焼結鉱,処理鉱,および副原料の含有Fe成分が高炉の目標Fe成分と一致する成分制約である。式(10)は,期間jに銘柄iが負にならないための条件である。

本モデルの式(5),(6),(9)は変数同士の乗除法が含まれる非線形式となる。しかし,本モデルは以下のように変数pfjmrjを定数化することによって線形計画問題として以下に示すように定式化可能である。

  
miniIjJcixi,j(11)
  
s.t.iLumpxi,j=PLjjJ(12)
  
C1bottom1PLjiLumpαixi,jC1upperjJ(13)
  
iFinexi,j=Zj(1)jJ(14)
  
C2bottom1Zj(1)iFineβixi,jC2upperjJ(15)
  
1Zj(1)iFinerixi,j+C3=PSjZj(1)+C4jJ(16)
  
iPelletxi,j=PPjjJ(17)
  
k=1jxi,ksi+k=1jai,kiI,jJ(18)
  
Zj(2)(ω1,jPLjiLumpFeixi,j+ω2,jZj(1)iFineFeixi,j+ω3,jPPjiPelletFeixi,j)+iSubFeixi,j=C5jJ(19)
  
xi,j0iI,jJ(20)

ここで,Zj(1)は期間jにおける粉鉱石の総配合量を,Zj(2)は期間jにおける主原料比をそれぞれ表す定数である。変数pfjmrjを定数Zj(1)Zj(2)と置き換えることによって,式(5),(6),(9)は,それぞれ式(15),(16),(19)の様に線形化可能である。

4. 提案アルゴリズム

前述のように,鉱石配合問題は非線形変数を含む,制約式が複雑な数理計画問題となる。一方で本問題は,一部変数の定数化操作によって線形計画問題に定式化可能なため,当操作により高速に解くことができる。しかしながら,出力解が定数化処理の方法に大きく左右される特徴を持つ。

そこで筆者らは,変数を一旦定数化して線形計画問題として解き,得られた解の評価関数が改善されるように,定数化した変数をメタヒューリスティックス6)を用いて探索する,独自の二段階のアプローチ9)(以下Hybridモデル)を提案する。本稿では,メタヒューリスティックスの中でも,収束が早く,メンテナンス性,柔軟性に優れた粒子群最適化法10)(Particle Swarm Optimization: PSO)の適用を検討した。また,PSOとの比較評価のため,様々な分野での適用実績のある数理最適化技術である遺伝的アルゴリズム11)(Genetic Algorithm: GA)の適用も実施した。

4・1 粒子群最適化法

PSOの基本的なアルゴリズムについて説明する。世代tにおいて,n次元の探索空間をK個の粒子により構成される群を仮定すると,k番目の粒子はn次元の位置ベクトルXk(t)で表現される。PSOによる解探索は,各個体が持つ自身の最良解の位置ベクトル(Personal Best: PB)Pk(t),群で共有している最良解の位置ベクトル(Global Best: GB)G(t),および各個体の速度ベクトルVk(t)の3つのベクトルの線形結合として,新しい世代t+1の探索点Xk(t+1)が生成される。以下に位置と速度の更新式を示す。

  
Vk(t+1)=wVk(t)+c1r1{Pk(t)Xk(t)}+c2r2{G(t)Xk(t)}(21)
  
Xk(t+1)=Xk(t)+Vk(t+1)(22)

ここで,k(=1,2,…K)は各粒子のインデックス,wは速度に対する正の重み係数である。C1C2は各項に対する正の重み係数である。r1r2は[0,1]の一様乱数を表している。

PSOのアルゴリズムは以下の通りである。

Step 0:K個の粒子をランダムに初期配置。

Step 1:各粒子のPBを更新。

Step 2:K個のPBを比較し,GBを更新。

Step 3:各粒子について速度ベクトルを更新。

Step 4:終了条件を満たしていれば,Step 5に進む。満たしていなければ,各粒子の位置ベクトルを更新し,Step 1に戻る。

Step 5:GBを出力して終了する。

4・2 Hybridモデルのアルゴリズム

Hybridモデルのアルゴリズムについて述べる。HybridモデルのアルゴリズムのイメージをFig.4に示す。本アルゴリズム内の定数化方法探索部分(図中のPSO part)では,K個の粒子が変数pfjmrjを定数化するベクトル変数pk=(Zk,j(1)Zk,j(2))の最適な位置ベクトルを探索する。粒子によって線形化された鉱石配合問題は,粒子数と同じ数のK個の線形計画問題として定式化され,それぞれ線形計画法を用いて解き,出力解を得る。得られた解は粒子の比較指標となり,PSOのアルゴリズムに用いられる。以下にフローを示す。

Fig. 4.

Algorithm of Hybrid Model. (Online version in color.)

Step 0:K個の粒子の位置ベクトルをランダムに設定。

Step 1:K個の粒子について線形計画問題を定式化し,それぞれ解く。

Step 2:各粒子の位置ベクトルと出力解を比較し,PBを更新。

Step 3:各粒子のPBを比較し,GBを更新。

Step 4:各粒子の速度ベクトルを更新。

Step 5:終了条件を満たしていれば,Step 6に進む。満たしていなければ,各粒子の位置ベクトルを更新し,Step 1に戻る。

Step 6:GBを出力して終了する。

以上の操作により,非線形変数を含む鉱石配合問題を高速に解くことができる。しかし,PSOのアルゴリズムのデメリットとして,局所最適解に収束すると,探索の多様性が失われ,以降のステップでの解の改良が困難になることが挙げられる。そこで筆者らは,更に2つの発展型PSOを検討した。

4・3 発展型PSOの検討

4・3・1 MG-PSO

PSOの課題に対して,筆者らは全粒子をM個の小グループに分け,グループ毎に最良解の位置ベクトル(Local Best:LB)Lm(t)を設定し,PSOのアルゴリズムを実行する独自の多群探索PSO(Multi-Group PSO:MG-PSO)を提案した(Fig.5)。

Fig. 5.

Algorithm of MG-PSO. (Online version in color.)

以下にグループ毎の位置と速度の更新式を示す。

  
Vk,m(t+1)=wVk,m(t)+c1r1{Pm(t)Xk,m(t)}+c2r2{Lm(t)Xk,m(t)}(23)
  
Xk,m(t+1)=Xk,m(t)+Vk,m(t+1)(24)

ここで,m(=1,2,…M)は各グループのインデックスである。MG-PSOのフローは以下の通りである。

Step 0:各粒子をランダムにグループ分け。

Step 1:グループ毎にLBを設定し,各グループのLBが収束するまでPSOのアルゴリズムを実行。

Step 2:LBが局所解に収束したら,各グループの要素をランダムに入れ替えてグループ再構成。

Step 3:終了条件を満たしていればStep 4へ。満たしていなければStep 1に戻る。

Step 4:各LBを比較し,最良の解を出力して終了.

MG-PSOは,粒子群を複数グループに分けることで,複数の局所最適解を探索することを目的としている。また,ランダムに各グループの要素を入れ替えることで,局所最適解からの脱出を図っている。なお,実運用上は計算時間の制約で2~3世代のみの計算となるため,各世代終了時にグループ同士の要素の入れ替え処理を実施することとした。

4・3・2 TC-PSO

Two-Swarm Cooperative PSO12)(TC-PSO)は,2014年にS.SunとJ.Liにより紹介されたアルゴリズムである。粒子群を広域探索用のマスター群と,局所探索用のスレーブ群に分けることで,通常のPSOよりも探索の効率を向上させることに成功している。

広域探索用のマスター群の位置ベクトルXkM(t),および速度ベクトルVkM(t)の更新式を下記に示す。

  
VkM(t+1)=wVkM(t)+c1Mr1{PkM(t)XkM(t)}+c2Mr2{GS(t)XkM(t)}+c3M{G(t)XkM(t)}(25)
  
XkM(t+1)=XkM(t)+VkM(t+1)(26)

局所探索用のスレーブ群の位置ベクトルXkS(t),および速度ベクトルVkS(t)の更新式は下記の通りである。

  
VkS(t+1)=c1r1{PkS(t)XkS(t)}+c2r2{G(t)XkS(t)}(27)
  
XkS(t+1)=XkS(t)+VkS(t+1)(28)

ここで,PkMはマスター群のPB,PkSはスレーブ群のPB,GSはスレーブ群のGB,Gは全粒子のGBを示す。式(27)のように,スレーブ群は位置ベクトルのみから速度ベクトルを更新するため,マスター群に比べて探索範囲が狭くなり,Gの近傍をより深く探索できる。Fig.6にマスター群とスレーブ群の探索のイメージを示す。TC-PSOによれば,探索の多様性を保つことが期待できる。

Fig. 6.

Algorithm of TC-PSO. (Online version in color.)

しかしながら,TC-PSOでは,局所解に収束する場合がある。そこで筆者らは,Hayashidaらによって提案された,一定期間GB値が変化しない場合,マスター群の評価値上位30%の粒子を保存し,下位70%の粒子を再配置する処理13)を追加した。当処理を追加した場合のアルゴリズムのフローは以下の通りである。

Step 0:各粒子をマスター群,スレーブ群に振り分け。(マスター群70%,スレーブ群30%)

Step 1:更新式に従って,GBが収束するまでPSOアルゴリズムを実行。

Step 2:マスター群の粒子のうち,PB評価値が下位70%の粒子を再配置。

Step 3:終了条件を満たしていればStep 4へ。満たしていなければStep 1に戻る。

Step 4:全粒子のGBであるGを出力して終了。

なお,MG-PSOの場合と同様に,計算時間の制約上,各世代終了時にマスター群粒子の再配置処理を実施することとした。また,マスター群とスレーブ群の粒子数比は,文献13)を参考に設定している。

4・4 遺伝的アルゴリズム

メタヒューリスティックスの代表的な手法の一つとして,GAがある。GAでは,遺伝子で表現した個体を複数用意し,評価値の良い解を優先的に選択して交叉・突然変異などの操作を繰り返しながら解を探索する。非線形変数の固定方法の探索へのGAの適用を検討した。GAのアルゴリズムは以下の通りである。

Step 0:K個分の個体の初期値を計算。

Step 1:個体毎に最適化計算を行い,評価値を取得。

Step 2:Step 1で求めた評価値をもとにトーナメント選択で個体を2つ分(同一の2つでも可)選択する。

Step 3:Step 2で選んだ個体を交差し,次世代の個体を1つ作成。

Step 4:Step 1~3をK回繰り返し,次世代の個体をK個準備する。

Step 5:終了条件を満たしていればStep 6に進む。満たさなければStep 1に戻る。

Step 6:最も良い評価値をもつ個体を最良個体として出力し,終了する。

なお,アルゴリズム内で用いたトーナメント方式とは,個体群から一定数の個体をランダムに取り,その中で最も適応度の高いものを次世代に残す手法で,各遺伝子の評価値に差が出にくいため採用した。

4・5 アルゴリズムの比較検証

基本的なPSOと,前述のMG-PSO,TC-PSO,更にGAについて1か月間の実データを用いてアルゴリズムの比較検証を実施した。

定式化において高炉の安定操業を行うことができる制約条件を定義しているため,比較は目的関数である配合コストと現状人手で行っている配合業務の効率化を踏まえて計算時間で行う。条件として,粒子数は800個,PSOの5世代目の計算が完了した時点で終了とした。Fig.7に示した結果から,TC-PSOを適用した場合が最もコスト最小となる解を求めることができることがわかる。

Fig. 7.

Comparison of each methods. (Online version in color.)

MG-PSOでは,粒子数の上限が定められている場合,小グループ毎の粒子数が少なくなり,探索効率が悪くなっていると考察できる。また,TC-PSOでは並列計算が可能である。粒子数を揃えて4スレッドで並列計算した場合,MG-PSOに比べて計算時間を約5割削減できることがわかった。

一方,計算世代が進むにつれてGAの解が更新されており,TC-PSOと遜色ない解が得られている。しかしながら,実運用の際には,配船の変更やトラブルが発生するたびに再計算の必要があるため,人による修正作業を考慮すると,1~2分で十分に収束するほどの高速計算が求められる。従って,実運用では計算時間上の制約から,限られた粒子数で効率良く探索する必要があるため,TC-PSOを採用することとした。

5. 効果検証

2017月10月~12月の連続3か月分のデータに対して,担当者3名によるマニュアル計画のコスト平均とTC-PSOを適用したHybridモデル(以下Hybridモデルβ)を1か月毎に3回計算した結果による計画のコストを比較し,効果の検証を実施した。なお,粒子数800個,PSOの3世代目の処理完了をもって計算完了とした。計算時間は1ヶ月分で約1.5分である。なお,連続3か月のデータで検証した理由は,3か月程度で貯鉱ヤード内のサイクルが入れ替わるためである。また,主原料となる鉄鉱石は,事前に長期購入の契約がなされており,計画の最適化によってたちまち削減可能では無いので,購買に融通の利く副原料の配合量で比較を行っている。

Fig.8に3か月分の効果金額を集計した結果を示す。グラフは,3か月分の計画で使用する副原料の配合量を示している。配合担当者のマニュアル計画の配合量平均を100%とすると,Hybridモデルβによる配合計画は98.7%と,約1%の副原料配合量を削減できることを確認した。また,スタッフによる計画作成は平均して120分程度要したのに対し,Hybridモデルβを用いた場合,修正を考慮して各月3回計算を実行しても,3か月分の計画が20分程度で計画を作成可能であった。本手法によって,金額効果に加えて業務効率化の効果をも期待できる。

Fig. 8.

Cost comparison of Hybrid model β and stuffs (using 10~12/17 data). (Online version in color.)

6. 結言

原料コスト削減を目的として鉱石配合計画の最適化に取り組んだ。鉱石配合問題を数理計画問題として定式化すると,非線形変数を含む複雑な最適化問題となるが,PSOとLPを組み合わせた独自のHybridモデルを適用し,高速に解いた。更に,PSOを発展させたTC-PSOを適用することで更なる高速化に加えて,評価関数値を改善することに成功した。TC-PSOの適用により,実用上十分な計画をわずか2分程度の計算時間で作成できた。2017年10月~12月の実データを用いた数値実験により,効果を確認した。

しかし,前章でも述べた通り,本モデルで得られる計画は人手による修正を前提にしているため,複数回計算を実施する必要がある。例えば修正方法や良く配合される銘柄の組み合わせを学習させることで修正回数を削減するなど,配合計算の自動化に向けた改良の余地がある。また,本稿で述べた鉱石配合計画の最適化はあくまである製鉄所の局所最適に過ぎず,最終的には配船計画,複数の製鉄所のヤード配置計画・配合計画の同時最適化まで含めた全体最適化を実施することが求められる。今後は更に原料操業計画分野への最適化技術の導入を進め,配船計画・配合計画・ヤード配置計画と真に連携したシステムを構築し,鋼材コストの更なる削減を進めて行く予定である。

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  • 13)  T. Hayashida, I. Nishizaki, S. Sekizaki and S. Koto: JSEA, 10(2017), 143.
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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