Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Development of Auto-Searching Method of Brittle Fracture Initiation Point Based on River-Pattern and Tear Ridge
Tetsuya Namegawa Manabu HoshinoMasaaki FujiokaHiroyuki Shirahata
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2021 Volume 107 Issue 11 Pages 934-943

Details
Abstract

A method to automatically search brittle fracture initiation point is proposed. The method calculates flow paths from each edge of an image to opposite side along flow potential. The potential is derived from the direction of river-pattern and tear ridge. The most concentrated position of flow paths is determined as a fracture initiation point. The method achieves 99% precision and high speed analysis for low magnification images of 206 thick plate samples. Furthermore, discriminating ductile fracture by machine learning and excluding noise potential obtained from it, and considering local feature of river-pattern that spread radially near a fracture initiation point, the method precision is improved for high magnification images. Using fractal feature of brittle fracture and repeatedly applying the method, a fracture initiation point is determined within the size of a single grain level.

1. 序論

厚板分野において構造物の大型化が進んでいるが,軽量化や鋼材コスト削減のニーズに応えるため高強度鋼が開発されている。大型構造物においては脆性破壊の発生を抑制することが重要な課題であるが,高強度鋼の靭性確保は難しい課題である。従来,脆性破壊の支配因子解明に向けた研究では,強度,結晶粒径,脆化相が主要な因子であり1),へき開破壊は3つのStageからなる破壊素過程を有することが報告されている2)。脆性破壊の特徴として,最弱リンクモデルに従うため,結晶粒径が粗大であったり,脆化相があったりして局所の破壊応力が低い位置で破壊が生じやすい3)。そのため,同一鋼種であっても各破壊試験で結果が異なり,しばしば靭性の低値が発生する。種々の破壊事故においては破面解析による破壊形態の調査を通じて事故原因が究明されるが4),脆性破壊発生の原因調査においても同様に破面観察が行われ,破壊起点を特定することで起点になったミクロ組織の結晶粒径や脆化相の有無が確認される。靭性のばらつきに対してはワイブル分布を用いた統計的な扱いがなされているが5),一つ一つの破面観察まではなされないことが大半である。近年では,様々な母相と脆化相からなるミクロ組織とその破壊素過程を考慮した靭性予測モデルとして,フェライト‐セメンタイト鋼のモデル6,7),フェライト‐パーライト鋼のモデル8,9),ベイナイト‐ラス間マルテンサイト鋼のモデル10),マルテンサイト‐セメンタイト鋼のモデル11),溶接熱影響部における粒界フェライト‐ベイナイト‐ラス間マルテンサイト鋼のモデル12,13)が開発されてきた。いずれのモデルにおいても破壊起点の位置,結晶粒径,および脆化相サイズを予測しており,実際の破壊起点情報が再現される。今後,これらのモデルを実用鋼の開発に応用していくと,Al2O3やMnSといった種々の介在物が破壊起点となりえる14)。そのため,鋼種あるいはミクロ組織毎に破壊応力を決定する有効表面エネルギーを,San Martinらの手法のように破面観察から得られる情報を活用して求め15),モデルを改良していく必要がある。すべての破面における破壊起点のミクロ組織情報まで含めた評価を行うことができれば靭性研究は確実に進歩するが,破壊起点の探索は技術者の直接観察によってなされるため,全数調査は難しいことが実情である。 破壊起点の探索はへき開破面が形成される際の痕跡であるリバーパターンとテアリッジを追跡していく作業である。リバーパターンは単一の結晶粒または結晶方位差が小さいミクロ組織単位がへき開破壊する際,完全には同一のへき開面とならずに段差をつくるため形成される16)。リバーパターンを含めて一つのへき開面からなる破面上の領域が破面単位である。テアリッジは結晶粒間のへき開破面がつながる際に,未破断の段差やねじれ部が延性的に破断されることで形成される。複数の結晶粒間で継続してへき開破面の高さが異なったまま亀裂が伝播すると,シェブロンパターンのように明瞭な長い段差が形成される17)。いずれも亀裂伝播の伝播方向を反映させる痕跡を残すため,これらの湧き出し点まで遡ることで破壊起点を特定できる18)。破壊起点の探索は破面観察に習熟している者でなければ難しい。結晶粒ごとにリバーパターンの流れを観察した情報を記録し,結晶粒間の流れの関係を整合させ,大局的にはテアリッジの流れとも整合させて破壊起点を決定する。そのため,大量の情報を丁寧に整理し,統合する労力のいる作業であるが,破壊起点がみつからない場合も多い。さらに,高強度鋼ではミクロ組織が階層構造を有すること,細粒組織であることが多いことから,フェライト鋼に比べるとテアリッジ・リバーパターンの追跡は難しい。このような背景から,習熟者にとっても容易ではない破壊起点の探索を自動化する手法の開発は有用と考え,破壊起点の自動探索プログラムの開発に取り組んだ。

起点探索プログラムを開発するにあたり,先行研究の課題調査や異分野での類似検討例の模索をし,開発に役立てた。破面解析の支援を表面粗さやフラクタル次元の解析によって行うシステムでは,破面全体の特徴量に基づいて破壊形態を分類できるが19),破壊起点のように特定領域を同定することはできない。さらに,表面粗さやフラクタル次元の解析からリバーパターンを検出する手法も考案されているが20),破壊起点の同定まではなされていない。一対の破壊面のトポグラフィーを重ね合わせ解析して亀裂の発生箇所を特定する手法があるが21),脆性破壊のように変形が少なく,かつ結晶粒レベルでの破壊起点の特定を要するものへの適用には向いていないと思われる。直線を検知する手法であるHough変換を用いた破壊起点の探索手法では,単一または少数の破面単位を含む高倍写真においてはリバーパターンをHough変換することで亀裂伝播の開始地点を特定できるが,低倍において複数の破面単位が対象となると直線のような単純なパターンではなく,情報量も多いことから,破壊起点を精度よく決定できない22)。著者らは機械学習を用いて破壊起点を探索する手法を開発中であり,学習量の増加によって特定精度を向上させることができるが,大量の教師データが必要になることや,特定結果の物理的説明が難しいこと等の課題がある23)。リバーパターンの由来から類推されるように,河川を本流と支流からなるネットワーク状のシステムとみなした氾濫解析があるが24),本手法を用いた起点の特定は困難である。流量が最大となる地点を破壊起点として決定したいが,テアリッジ・リバーパターンは基本的に不連続であり,流れの方向も不定であるためである。さらに,テアリッジ・リバーパターンはすべての破面単位において明瞭に形成されるとは限らないため,破壊起点を特定する際に局所の情報不足によって亀裂伝播の経路を正しくトレースできない懸念がある。これらの問題を解決する手法として,テアリッジ・リバーパターン近くに電磁場のように離れた位置にも作用するポテンシャルを考え,局所情報が不足していても大局的に破壊起点にたどり着くようなセルラーオートマトン法が適切と判断し,破壊起点の探索手法の開発に取り組んだ。

2. 破壊起点探索プログラムの構築

破壊起点を導出する手法として,テアリッジとリバーパターンの近傍では線方向に沿ったポテンシャル場が形成されると考え,セルラーオートマトン法によって流路を逐次計算することにした。解析に供する入力画像は,厚板の溶接熱影響部を熱サイクル試験で模擬した206鋼種につき,フルサイズ(10×10(mm))シャルピー試験を行い,脆性破面率が高い破面を各1本選出し,2 mmVノッチが撮影画像の上辺となるよう撮影した。撮影倍率は倍率×30の低倍写真(実寸視野:縦3.2×横4.3(mm),ピクセルサイズ:縦960×横1280)から倍率×100,×200,×500の高倍写真までの4水準とし,計824枚の入力画像をFig.1に示す手順にて解析を行った。各手順を以下に説明する。

Fig. 1.

Abstract of determination method of fracture initiation point and calculation example. (Online version in color.)

2・1 テアリッジ・リバーパターンの抽出とポテンシャル場の算出

はじめに,ポテンシャル場の算出手順を述べる。Fig.1(a)に示す破面の入力画像からテアリッジ・リバーパターンを明瞭に抽出するため,入力画像に対し半径5ピクセルとする近傍セルの平均値を差し引いてバックグラウンド処理した画像を得た。その画像と輝度値を反転させた画像それぞれを二値化することで,周囲に比べて明るい線分と暗い線分を抽出し,両者を加え,さらに,以下に示す処理を経てFig.1(b)に示すテアリッジ・リバーパターンの画像を得た。まず,個々のテアリッジ・リバーパターンの特性を決定するため,連続しているテアリッジ・リバーパターンを線分近似し,そこから線分の長さとその方向を算出した。テアリッジは隣接する結晶粒との段差が小さいと明瞭には形成されないものの,テアリッジの前方,および後方においても大局的には亀裂伝播方向はテアリッジの向きに近しいと考えられる。同様に,破面単位内に形成されるリバーパターンは必ずしも粒界から粒界をつなぐように形成されるのではなく,破面単位内の一部に形成されることがあるが,破面単位内において亀裂伝播方向は一定と考えられる。そのため,テアリッジ・リバーパターンはその近傍にも影響を及ぼすと考え,線分長さを定数倍して作用域を拡張した。具体的には,定数を1~6の範囲で変化させた条件検討を行い,定数を2とすると精度がよかったため,この値を用いた。線分の方向については,水平方向を0°として反時計回り方向が+となる系にて,対称性を考慮して-90°~+90°の範囲で算出した。0°~+90°の範囲では+45°方向の流れを形成するポテンシャルとして白色で表示し,-90°~0°の範囲では-45°方向の流れを形成するポテンシャルとして黒色で表示し,テアリッジ・リバーパターンのないピクセル位置はグレー色で表示した。なお,+45°方向と-45°方向のポテンシャルが局所的に隣接していると,破壊起点に向かって収束しようとした流路が反対方向のポテンシャルによって発散してしまうため,半径20ピクセルとするGaussianFilterを適用することでポテンシャル場を大局化処理し,Fig.1(c)に示すようにポテンシャルの局所的なキャンセルアウトを防いだ。ノッチを上端に設けた場合,亀裂は局所的には破壊起点から放射状に伝播していくが,マクロ的には上から下に向かって伝播していく。この効果を取り入れるため,Fig.1(d)に示すノッチ方向に遡るための上方向のポテンシャルを算出した。上述の通り,破壊起点近傍では左右方向へも亀裂は伝播することから,破壊起点から遠いほど上方向のポテンシャルが強くなると考えられる。そのため,入力像の下端では上下方向となす角度が18°以下のテアリッジ・リバーパターンを抽出し,抽出する上限角度を上端で0°となるよう上下方向座標に比例させて減少させた。

2・2 ポテンシャルに基づく流路の計算

次に,セルラーオートマトンによる流路計算の方法を述べる。Fig.1(f)に示す下辺から上辺に向かう流路を例にする。下辺に均一な流量をもつことを表す,サイズが横ピクセル数に等しく,初期値がすべて1のベクトルを作成する。一つ上の段の流量は下段の流量がポテンシャルに従い合流していった結果として算出される。流路の計算方法を示すFig.2中において,in1,6は上段に進む際,いずれもポテンシャルに当たらないためout1,3まで直進する。なお,出発地点はin1~6の6点であるが,流路が到達した地点はout1~3の3点である。一方,in2~5は上段に進む際,+45°方向のポテンシャルに当たり,ポテンシャルに沿う流路を辿ることでout2の一つに流路が集中する。なお,Fig.2の例では+45°方向のポテンシャルが+60°方向に配列されることでその方向に従う流路となるように,+45°方向だけではなく配列によって任意の角度が表現される。6ピクセル分の流量をベクトル表記するとin側では(1,1,1,1,1,1)であり,out側では(1,0,0,0,4,1)となり,総和は不変であるが成分5に流量が集中したことが表されている。なお,反対方向となる-45°方向のポテンシャルに当たる際は合流方向も反対側,すなわち,左側となる。この合流計算を縦ピクセル数に相当する回数繰り返し,最終段まで計算する。同様に,Fig.1(f)に示す上辺から下辺に向かう流路,Fig.1(g)に示す左辺から右辺に向かう流路,その反対となる右辺から左辺に向かう流路の計4流路を計算する。計算方向が異なる際は合流方向も変化させるが,合流規則は同一である。実際にはスタートする辺に合わせて画像を回転移動させることで,単一の計算コードで実行可能である。上方向のポテンシャルについては,上下方向の計算では方向が平行となり効果が小さく,45°方向のポテンシャルを優先させるため使用せず,左右方向の計算ではポテンシャルに当たった場合,ポテンシャルの上端まで流路を移動して合流させる。Fig.1(f)に示す流路の計算例をみると,下辺からスタートした緑色で示す1280本の流路がテアリッジ・リバーパターンに従って合流していき,上下中央の段では6本に収束し,上辺に到達する際には最終的に3本に収束することがわかる。なお,途中で外側に流れてしまった箇所ができた場合,破壊起点の特定への寄与は小さいと考え,消失するものとして扱った。3本の流量は左側から順に全流量の約20%,60%,20%であり,中央の1本が起点候補である可能性が高い。合流後の流路は一意に決まることから,最終合流点以降の流量は一定である。しかしながら,実際の破壊起点においては破壊起点に向かってテアリッジ・リバーパターンが収束する一方,破壊起点を通過してからは発散していく。そのため,最終合流点で破壊起点の可能性が最も高くなるよう,流量の減衰勾配を設けた。下辺から流路計算する場合,下辺で1,上辺で0.5となる線形の補正係数を流量に乗じた。すなわち,下辺では総流量が1280であるが,上下中央の段では960,上辺では640となり,合流のない流路では流量は単調減少していく。Fig.1(g)に示す左辺からスタートした黄色の流路をみると,左辺近くの上下中央付近で破線が示されている箇所があるが,この下から上への移動が上方向ポテンシャルに従うものである。4辺からスタートするいずれの流路も破壊起点に概ね収束していく様子が確認できる。

Fig. 2.

Calculation method of flow path derived from potential field formed by tear ridge and river-pattern. (Online version in color.)

2・3 破壊起点の決定

最後に,破壊起点の決定手法を述べる。破壊起点は4方向の流路を重ね合わせ,流量が最大となる地点を算出して決定する。単純に重ね合わせをすると最大流量となる候補は異なる流路との交点になることから,破壊起点の可能性が高いと考えられる近接する流路の影響を評価できない。そこで,流路上だけでなく近傍領域も破壊起点の候補となるよう,流路上の流量をGaussianFilterによって大局化した。ここで,流路近傍での影響は強いが流路から離れても影響を及ぼすよう,半径100ピクセルと半径200ピクセルのGaussianFilterを適用し,それらの和をとった。ここで,合流数が少ない流路として流量が50以下のものを除外することで,破壊起点の特定に寄与する合流数の多い流路のみを対象とした。さらに,偶発的に流路が近接することで局所の流量が最大となる地点ではなく,局所流量は必ずしも最大ではないが近傍の流量が平均的に大きい地点を破壊起点として選出するため,半径50ピクセルのMeanFilterを適用することで平均化し,Fig.1(e)に示す破壊起点を決定するための流量を算出した。Fig.1(e)では最大流量が輝度値1となるよう規格化しており,輝度が明るいほど流量が多いことを表す。

3. 低倍写真の破壊起点特定結果

206鋼種の破壊起点の推定精度を定量的に評価するため,Fig.3に破壊起点の実測点に対する推定点の相対誤差の分布を示す。ここで,図中の1/16 boxとは実測した起点のピクセル座標を中心として,元画像に対して面積が1/16である相似な矩形範囲(縦240×横320)を表し,1/4 boxも同意である。これらの領域に推定起点が入る比率から推定精度を求めると,1/4 box内の存在比率は98.5%であった。この結果は観察倍率を2倍としても破壊起点が視野内に含まれることを意味し,十分に実用レベルである。すなわち,破面がフラクタル構造であることを利用し25),倍率を上げて繰り返し本手法を適用することで破壊起点を結晶粒レベルで特定することができる。さらに,1/16 box内の存在比率は85.0%であり,大半の精度は非常に高い。解析時間の測定に使用した計算機のCPUはcore i9-9900 Kで,クロック速度は3.6 GHz,コア数は8である。並列計算なしの場合の解析時間は206枚で37.7 min.であり,11.1 sec./枚のスピードであった。並列計算ありの場合の解析時間は206枚で12.3 min.であり,3.6 sec./枚のスピードであった。in-situ観察または自動測定を行うには十分なスピードを実現している。

Fig. 3.

Relative error between estimated and actual points of fracture initiation. (1 pixel=3.4 μm)

個別の計算結果の詳細を示す。流路計算の結果,誤差が最小のものでは推定点は実測点と一致した(Fig.4)。起点をうまく特定できなかった例においても,流路は概ね再現できているが,流路が起点に収束していないため破壊起点の候補となる流量のピークがずれている(Fig.5,6)。Fig.5では実測点の位置で流量がピークとはなっていないが,多くなっていることがわかる。

Fig. 4.

Calculation result of fracture initiation point. (No.53: Minimum error. Estimated point corresponds to actual point.) (Online version in color.)

Fig. 5.

Calculation result of fracture initiation point. (No.18: Second-largest error.) (Online version in color.)

Fig. 6.

Calculation result of fracture initiation point. (No.72: The largest error.) (Online version in color.)

4. 高倍写真への適用に向けた破壊起点特定手法の改良結果

最終的に結晶粒レベルで破壊起点を特定するため,構築手法の高倍における精度検証を行った。×30の低倍写真で1/4 box内に破壊起点を推定できる精度が98.5%であった手法を×100の206枚の高倍写真に適用した結果,高倍写真では精度が75.5%に低下した(Fig.7)。同様に,低倍写真の1/16 box内に破壊起点を推定できる精度が85.0%であったのに対し,高倍写真では40.2%へと顕著に低下した。推定点は実測点に対して上側に誤推定している傾向であった。

Fig. 7.

Relative error between estimated and actual points of fracture initiation derived from base method for lower magnification analysis. (1 pixel=1.0 μm)

計算結果を詳細に確認すると,課題の一つは延性破面内でテアリッジ・リバーパターンを誤認してしまうことであった(Fig.8)。特に,延性破面と脆性破面の境界をテアリッジ・リバーパターンと誤認してしまうことで,本境界近くを誤って破壊起点に特定してしまうと考えられる。ここで,延性破面とはマクロな領域を意味し,等軸ディンプルからなる延性破面にはテアリッジとみなされるパターンは形成しえない。テアリッジそのものはミクロには延性破壊によって形成されるが,テアリッジはマクロな脆性破面の一部に形成されるものとしている。もう一つの課題はマクロな亀裂伝播方向の影響を上方向ポテンシャルで過大に扱ってしまうことであった。ノッチが上辺にある場合,マクロには亀裂伝播は上から下に進行するが,結晶粒レベルのミクロには破壊起点から隣接する結晶粒に順次伝播していくことから亀裂伝播は放射状に進行している(Fig.9)。すなわち,破壊起点の上側の領域では局所的には亀裂伝播が下から上に進行しているのであるが,高倍になるほどこの影響が顕著になるといえる。そこで,上方向ポテンシャルを作用させる範囲を制限することを検討した。上述の通り,破壊起点の周囲には放射状のテアリッジ・リバーパターンが存在することから,破壊起点が存在する縦方向の位置では水平方向のテアリッジ・リバーパターンが多くなる可能性が高いことを利用し,該当する位置を算出する。水平方向からの角度差が22.5°以下であるテアリッジ・リバーパターンが存在するピクセル数について横方向の総和をとり,二次曲線で近似して上に凸の場合は最大値を算出する。最大値までの範囲に上方向ポテンシャルを作用させるが,下に凸の場合は上方向ポテンシャルの作用範囲を制限しない。ここで,2・1節では低倍では上端で上下方向との角度差が0°となるように上方向ポテンシャルを抽出したが,最大値となる位置で角度差が0°になるようシフトする。残る問題として,延性破面上で水平方向のテアリッジ・リバーパターンと誤認したパターンを含めると,真の水平方向のテアリッジ・リバーパターンの分布から求まる最大値は正しく算出されない。そのため,延性破面中のパターンを誤認しないようにする目的も含め,両方の課題解決に寄与する延性破面の特定を行うこととした。

Fig. 8.

Calculation result of fracture initiation point derived from base method for lower magnification analysis. (No.20: Misidentification of river-pattern in ductile fracture. Over effect of macroscopic crack propagation direction.) (Online version in color.)

Fig. 9.

Consideration method of macroscopic crack propagation direction based on direction distribution of river-pattern.

4・1 機械学習による延性破面の特定

機械学習による延性-脆性破面の分類を行う。206鋼種の100倍写真から延性破面と脆性破面が混在する領域を除いて,明瞭に延性破面,脆性破面と識別できる128ピクセル角の分割画像を各250枚作成し,人間がラべリングした。ここで,脆性破面のみを抽出することが目的であるから,機械加工面であるノッチやその面上に形成される縞模様も延性破面としてラベリングしている。延性,脆性各100枚の計200枚を教師データとして,ロジスティック回帰モデルにて学習した。学習結果は99.5%の正解率で,検証用データの延性,脆性各150枚の計300枚に対して93.7%の正解率となった。Fig.10に機械学習による延性-脆性破面の分類の例として,166枚を延性破面の確率が高いものから低いものまで順に並べた結果を示す。破面全体に学習モデルを適用すると,モデル自体の精度と,延性破面と脆性破面の混在領域を判定することによる誤判定が起こる。そのため,判定精度が低い箇所は画像を細分割して,判定精度が向上するか所定のサイズ以下となるまで再判定を繰り返し,精度向上を図った。その結果,人間が延性破面と認識する領域を除外し,脆性破面上の情報のみを抽出可能となった。

Fig. 10.

Example of brittle-ductile fracture classification by machine learning. (Segmented images align one dimensionally. Upward and left ward have high probability of ductile fracture.)

4・2 改良手法での解析結果

延性破面を除外したことで,テアリッジ・リバーパターンのみを正しく抽出でき,マクロな亀裂伝播方向を考慮する範囲を適切に決定できた。その結果,高倍写真においても破壊起点を精度よく同定できた(Fig.11)。改良手法では1/4 box内での推定精度が75.5%から94.1%に改善した(Fig.12)。

Fig. 11.

Calculation result of fracture initiation point derived from improved method. (No.20: Ductile fracture is excluded. Macroscopic crack propagation direction is considered appropriately.) (Online version in color.)

Fig. 12.

Relative error between estimated and actual points of fracture initiation derived from improved method. (1 pixel=1.0 μm)

Fig.13に200倍,500倍と倍率をさらに上げて破壊起点の特定精度を向上させていく様子を示す。推定した起点を中心とする高倍画像に実際の破壊起点が含まれていれば,高倍で観察されるより鮮明なテアリッジ・リバーパターンを用いて繰り返し解析をすることで,うまくいくものでは最終的に結晶粒レベルで破壊起点を特定できる。Fig.14に破壊起点の繰り返し解析を行った倍率と,破壊起点の実測点と推定点の距離である特定誤差を示す。30倍と分類される結果は30倍の解析で1/4 box内に破壊起点を推定できず,以降の解析が行われなかったものである。500倍と分類されるものは4度の繰り返し推定後の結果を表す。84%の結果は500倍まで特定できたものであり,その大半が粗大な結晶粒のサイズに相当する100 μm以下まで特定ができた。この結果は,破壊起点に脆化相があればそのEDS分析まで実施できるレベルであり,十分な精度である。99%の結果は100倍まで特定できたものであり,画像中には破壊起点候補を含む結晶粒~100個程度まで絞り込めている。その後の人間による直接観察で簡易に破壊起点を特定できるため,実用レベルといえる。例えば,破壊起点の破面単位は測定できる程度の画像が得られる。

Fig. 13.

Accuracy improvement of initiation point determination by repeated application to higher magnification. (Online version in color.)

Fig. 14.

Identification error of fracture initiation point by repeated application to higher magnification. (Online version in color.)

5. 結論

靭性研究の基盤となる破面観察を自動化する破面解析手法を構築した。脆性破面のみを機械学習によって識別し,テアリッジ・リバーパターンを抽出してそれに沿う流路が収束する点を求める手法で,精度よく破壊起点を特定することができた。本手法によってフラクタル構造をもつ破面を順次倍率を高倍に上げながら破壊起点を追い込むことで,結晶粒レベルでの破壊起点特定に成功した。本手法により,時間がかかり熟練を要する破面観察を効率化,標準化することが可能となった。今後,本質的にばらつきを有する靭性に対し,破面観察の側面からも統計的アプローチをとることが容易となり,靭性研究の促進,および理解深化が期待される。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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