鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
特集号「インフラ構造物の経年劣化に対する維持管理の最適化に向けて」
炭素鋼の大気腐食挙動に及ぼす降雨の影響
片山 英樹 清泉 康太四反田 功板垣 昌幸堤 祐介村瀬 義治
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2021 年 107 巻 12 号 p. 1004-1010

詳細
Abstract

A combined cycle corrosion test including the conditions simulating rainfall was conducted to investigate the effect of rainfall on the atmospheric corrosion behavior of carbon steel. Atmospheric corrosion sensors developed were used as the electrodes, and the corrosion rate during the corrosion test was monitored by an electrochemical impedance method. The corrosion rate was monitored by continuously measuring the impedance at low frequency (10 mHz) and high frequency (10 kHz) at 5-minute intervals. The corrosion rate of corrosion sensor exposed to the corrosive environment without a rainfall process showed a high value in a salt spray process, and dropped sharply after proceeding to the drying process. The salt deposited on the sensor surface absorb moisture in the wet process, resulting that the corrosion rate increased again. This change in corrosion rate was almost the same at the beginning of corrosion and after the formation of corrosion products. The corrosion sensors exposed to rainfall process gave very high corrosion rates after rainfall. Although The corrosion sensor with the rainfall process for 1 minute showed a higher corrosion rate in the early stage of corrosion, there was no difference in the corrosion rate due to rainfall time after the formation of corrosion products. Analysis of corrosion products showed that the attached salt was washed away by rainfall. However, in this study, the wetting due to rainfall greatly affected the corrosion rate of carbon steels.

1. 緒言

橋梁をはじめとするインフラ構造物の多くは大気環境にさらされており,大気腐食による腐食劣化が問題となる。大気腐食は気温や相対湿度など様々な環境因子の影響を受けながら薄い水膜下で進行する複雑な現象であり,特に,主要なインフラが海浜地域に集中する我が国では,飛来海塩の付着による腐食劣化が大きいとされている。Ishige1)は海浜地域で炭素鋼の長期暴露試験を行い,腐食量がドライガーゼ法で計測した飛来塩分量と非常に高い相関があることを示している。ただし,その相関については,必ずしも比例関係にあるわけではないことも報告している。

大気腐食挙動が複雑になる要因の一つとして,実際の環境下では腐食の促進と抑制の両方に関わる環境因子が存在することがあげられる。例えば,気温は大気環境で形成される水膜の温度に影響するため,化学反応速度論的にはアレーニウスの関係から気温の上昇に伴い腐食速度は増加すると考えられる。Kageら2)は長期間暴露試験した低合金鋼について,その腐食速度は温度に依存し,温度の上昇とともに腐食速度も高くなることを報告している。しかしながら,実際の大気環境では気温は相対湿度と相関があり,例えば晴れの日の昼間では,一般的に気温が上昇すると相対湿度は低下するため3),表面は乾燥しやすくなり腐食は生じにくい状況になる。また,溶液温度が上昇すると酸素の溶解度は減少することが知られており4),酸素の還元反応が支配的な大気腐食では,必ずしも腐食速度は高くならないと考えられる。Miyataら5)は海浜地域で溶融亜鉛めっき材の暴露試験を行い,腐食減量と平均気温との関係を調べた結果,得られた腐食減量は気温のみで整理できるほど相関は高くないことを報告している。また,Shinohara6)は,日本国内16カ所で炭素鋼の暴露試験を行い,平均気温に対して腐食速度を整理した結果,腐食速度は10°C付近に極小値があり,それ以下では温度が下がるほど,それ以上では温度が上がるほど腐食速度が増加することを報告している。

一方,降雨についても腐食の促進と抑制の両方に関わると言われている。金属表面に水分を供給するという点において,降雨は通常,腐食を加速させる因子と考えられるが,腐食環境の厳しい海浜地域では,表面に付着した海塩粒子や汚染物質など腐食促進因子を洗い流す効果もあるといわれており7),この場合,腐食は低減すると考えられる。塩の洗い流し効果について,Haraら8)は,凍結防止剤が散布される地域の耐候性鋼橋梁に対して定期的に表面を水洗した結果,腐食が抑制されることを報告している。また,Takebaら9)は,実際の耐候性鋼橋梁について集中豪雨の前後での付着イオンを分析し,Na+とCl-の付着量が低くなっていることを報告している。しかしながら,日本国内での炭素鋼の暴露試験結果をもとに,年平均降雨量と腐食速度との関係を調査した結果,明瞭な関係性がないという報告6)もあり,降雨の影響・効果は感覚的には理解できるものの十分明らかにはなっていない。

そこで,本研究では炭素鋼の大気腐食挙動に及ぼす降雨の影響を調査するため,炭素鋼製同心円型腐食センサを用いて,降雨を模擬した条件を組み込んだ複合サイクル腐食試験を行い,電気化学インピーダンス法による腐食モニタリングおよび腐食試験後のさび層の分析を行った。

2. 実験方法

2・1 試料電極

試料電極にはFig.1に示す同心円型腐食センサ(以下,腐食センサ)10)を用いた。腐食センサは炭素鋼(SM490A)製のピン型とリング型の2つの電極からなり,これらが100 µmの絶縁層を介して同心円状に配置され,エポキシ樹脂に埋め込まれている。電極の側面はすき間腐食の影響を避けるため,電着塗装が施されている。2つの電極の露出面積は同じである。

Fig. 1.

Schematic illustration of atmospheric corrosion monitoring sensor. The thickness of insulator is about 100 µm.

2・2 腐食試験

腐食試験は複合サイクル腐食試験機(スガ試験機製 CCT-LXG)を用いて行った。Fig.2に複合サイクル腐食試験機内における腐食センサの設置状況を模式的に示す。腐食センサは試験機内に水平上向きに設置した。複合サイクル腐食試験の基本条件は,塩水噴霧過程(0.5 h,25°C,50%RH),乾燥過程(3 h,60°C,25%RH),湿潤過程(2 h,25°C,80%RH),乾燥過程(2.5 h,60°C,25%RH)とした(以下,降雨無し腐食試験)。降雨の影響については,基本条件に対し最初の乾燥過程後に降雨時間(1分および3分)の異なる降雨過程を組み込み調査した(以下,降雨1分腐食試験および降雨3分腐食試験)。噴霧溶液には0.05 moldm-3のNaCl水溶液を用い,降雨過程では蒸留水を噴霧した。降雨試験の降水量は毎時50 mmとし,腐食試験は25サイクル行った。

Fig. 2.

Set-up illustration of the corrosion sensor in combined cyclic corrosion test instrument.

2・3 腐食速度のモニタリング

腐食試験中の腐食速度のモニタリングは腐食モニタ(シュリンクス製 SICM-714B)を用い,印加電圧を10 mVとして低周波数(10 mHz)および高周波数(10 kHz)でのインピーダンスを5分間隔で連続測定することにより行った11)。高周波数でのインピーダンスから2電極間の溶液抵抗Rs,低周波数でのインピーダンスから分極抵抗Rpと溶液抵抗Rsの和が求められることから,2周波数のインピーダンスの差から分極抵抗Rpが求められ,Stern-Gearyの関係式12)から腐食速度を決定することができる(icorr=k/Rp)。なお,本研究では各過程での比例定数kが不明であることから,分極抵抗の逆数(1/Rp)を腐食速度に対応する値として用いた。

2・4 表面解析・分析

腐食試験後の腐食センサについて,表面の外観観察をデジタルカメラによって行った。また,外観観察後,表面に形成された腐食生成物をかき取り,XRD分析(BRUKER製 D2 PHASER)および蛍光X線分析(HORIBA製 MESA-500W)を行った。XRD分析では表面に形成された腐食生成物の同定,蛍光X線分析では腐食生成物中のCl量の測定を行った。

3. 結果と考察

3・1 複合サイクル試験環境下での腐食速度の変化

降雨無し腐食試験における腐食センサの1から3サイクルまでの腐食速度(1/Rp)の変化をFig.3に示す。塩水噴霧時(領域a)の腐食速度は高い値を示し,塩水噴霧時は腐食が進行することがわかる。乾燥過程(領域b)になると,腐食センサ表面は乾燥していくため腐食速度は急激に低下し,かなり低い値を示す。その後,湿潤過程(領域c)になると腐食速度は再び上昇するが,これは塩の吸湿により表面に濡れが生じることによると考えられる。再び乾燥過程(領域d)になると,腐食速度は低下する。これらの結果はサイクル数に関係なく同じ傾向を示した。表面が濡れている環境での腐食速度については,塩水噴霧時の腐食速度の方が湿潤時のときよりも大きな値を示した。これは,腐食初期では還元反応として酸素の還元反応の影響が大きいことに起因すると考えられる。しかしながら,湿潤時の腐食速度は徐々に上昇しており,3サイクルではさびの還元反応も少なからず腐食速度に影響していると考えられる。

Fig. 3.

Change in corrosion rate of the carbon steel in 1 to 3 cycles under corrosion test conditions without rainfall process. a: salt spray process, b: drying process, c: wet process, d: drying process.

Fig.3と同じ腐食センサの22から24サイクルまでの腐食速度(1/Rp)の変化をFig.4に示す。腐食速度の変化において,基本的な傾向は腐食試験初期とほとんど同じであるが,湿潤時の腐食速度の値が腐食初期(Fig.3)と比較して大きな値になっているのがわかる。腐食試験サイクル後期での腐食センサ表面には腐食生成物が堆積しており,腐食速度の上昇はカソード反応として酸素の還元反応だけでなく,さびの還元反応も含まれる13)ことによるものと考えられる。Okadaら14)は電気化学的手法により腐食反応に及ぼすさび層の影響について調査し,暴露試験で形成されたさび層がある普通鋼では主なカソード反応はFeOOHのFe3O4への還元反応であることを報告している。Nishikataら15)も乾湿繰り返し腐食試験を行った炭素鋼について分極測定を行い,同様の結果を報告している。

Fig. 4.

Change in corrosion rate in 22 to 24 cycles of Fig.3.

一方,乾燥時の腐食速度の値も腐食初期と比較して大きな値になっており,腐食生成物の影響が示唆される。同サイクルでの溶液抵抗Rsの変化をFig.5に示す。乾燥過程での溶液抵抗は非常に大きな値を示しており,表面は十分乾燥していると判断できる。したがって,これは腐食生成物の堆積により表面が乾きにくくなっているのではなく,腐食生成物が測定データに対して直接影響を及ぼしていると考えられる。この点については,鉄鋼材料の腐食モニタリングから耐食性を検討する場合に,腐食速度(1/Rp)のデータのみで解釈するのではなく,溶液抵抗Rsのデータも併せて現象の解析を行う必要がある。

Fig. 5.

Change in solution resistance of Fig.4.

3・2 腐食初期における降雨の影響

降雨無しおよび降雨時間の異なる腐食試験環境下での腐食センサの1サイクルおよび2サイクルでの腐食速度(1/Rp)の変化をFig.6に示す。図中,領域bと領域cの間の矢印のタイミングで降雨の過程が組み込まれている。降雨過程のない腐食センサにおいて,領域cは湿潤過程であることから塩の吸湿による腐食速度のゆるやかな上昇が見られるのに対し,降雨過程のある腐食センサでは降雨後に腐食速度は急激に上昇した。ここで,降雨時の腐食速度は塩水噴霧時の腐食速度と同等以上であった。さらに,降雨時間の違いに対する降雨後の腐食速度について,降雨1分腐食試験での腐食センサの方が高い腐食速度を示した。このときの環境について,乾燥時の塩の析出量はほとんど同じと考えると,降雨時間が長い方が腐食センサ表面の液量が多いため,降雨時間が短い方が高い塩濃度の液膜が腐食センサ表面に形成されると考えられる。Fig.7に示す1,2サイクルでの溶液抵抗をみると,降雨後の湿潤過程での溶液抵抗は,降雨1分腐食試験での方が低い値を示しておりこれは腐食センサ表面の液膜の塩濃度が高いことを示す。また,降雨時間の違いによる液量については,湿潤過程から乾燥過程への移行する部分で,降雨3分腐食試験での腐食センサの方が高い腐食速度を示す時間が長いことからもわかる。乾湿繰り返し過程での塩濃度と炭素鋼の腐食との関係について,Nishimuraら 16)は滴下したNaCl溶液の濃度と腐食試験後の炭素鋼の腐食重量増加を整理し,NaClの濃度が大きいほど腐食量が大きくなることを報告している。

Fig. 6.

Change in corrosion rate of the carbon steels in 1 (above) and 2 (below) cycles under all the corrosion test conditions. The arrow indicates the starting point of the rainfall process. ●: without rainfall test, : 1 min-rainfall test and ○: 3 min-rainfall test.

Fig. 7.

Change in solution resistance of Fig.6. ●: without rainfall test, : 1 min-rainfall test and ○: 3 min-rainfall test.

一方,乾燥過程での腐食速度の値は降雨条件のある腐食センサでは初期から高い値を示していた。3・1と同様にこのときの溶液抵抗を調べた結果,表面は十分乾燥していることが確認された。したがって,これも腐食生成物が測定データに対して直接影響を及ぼしていると考えられる。ただし,降雨過程にさらされる腐食センサは腐食の進行が早いために直接影響を及ぼす腐食生成物量になるまでのサイクル数が短いため初期から影響が生じるものと考えられる。

3・3 腐食生成物形成後の降雨の影響

降雨無しおよび降雨時間の異なる腐食試験環境下での腐食センサの23サイクルおよび24サイクルでの腐食速度(1/Rp)の変化をFig.8に示す。降雨の過程は図中の矢印のタイミングである。降雨無し腐食試験での腐食センサでは,初期と同様に領域cでは塩の吸湿による腐食速度のゆるやかな上昇が見られるのに対し,降雨過程のある腐食センサでは降雨により腐食速度は急激に上昇した。降雨時の腐食速度は初期と変わらず,塩水噴霧時の腐食速度と同等以上であった。降雨過程後の腐食速度については,降雨時間にかかわらずほぼ同じ値を示した。降雨により表面に形成される液膜の塩濃度は初期と同様,溶液抵抗の結果から異なることが確認されている。しかしながら,この場合,腐食センサ表面には腐食生成物が十分形成されており,腐食反応のカソード反応は主にさびの還元によると考えられ,したがって,ほぼ同じ腐食速度を示したと考えられる。

Fig. 8.

Change in corrosion rate of the carbon steels in 23 and 24 cycles under all the corrosion test conditions. The arrow indicates the starting point of the rainfall process. : without rainfall test, ●: 1 min-rainfall test and ○: 3 min-rainfall test.test.

乾燥過程での腐食速度の値は降雨無し腐食試験での腐食センサと降雨3分腐食試験での腐食センサではほぼ同じ値を示し,2サイクル目よりもやや大きい値となっていた。これについては,腐食生成物量の増加に起因すると考えられるが,一方で降雨1分腐食試験での腐食センサは初期に近い値を示した。腐食モニタリングの経時変化を見ると,降雨1分腐食試験での腐食センサの腐食速度も他と同様に高い値を示す期間もあることから,この結果は腐食生成物の脱落に起因するものと考えられる。

腐食試験後の腐食センサ表面の外観写真をFig.9に示す。腐食センサはすべて全面的に腐食生成物で覆われていた。降雨無し腐食試験後の腐食センサ上の腐食生成物は黒褐色を呈していたが,降雨過程のある腐食センサ上の腐食生成物は黒褐色のほか茶褐色を呈していた。これはさびの種類に起因するものであり,降雨過程の有無による違いであると考えられる。

Fig. 9.

Surface appearances of all the corrosion sensors after the combined cyclic corrosion test. (a): without rainfall test, (b): 1 min-rainfall test and (c): 3 min-rainfall test.

腐食センサ表面の腐食生成物について,XRD分析を行った結果をFig.10に示す。降雨条件の有無に関係なく,腐食センサ表面にはαβγ-FeOOHおよびFe3O4が形成されていたが,降雨無し腐食試験での腐食センサでは,降雨過程のある腐食センサと比較して,β-FeOOHが多く検出され,27°付近のピークも高い値を示している。β-FeOOHはCl-の影響を受ける海洋雰囲気で存在するさび層である17)ことから,降雨条件のない環境では腐食に及ぼすCl-の影響が大きいことを示唆する18,19)。同じ腐食生成物について,蛍光X線により含有Cl分析を行った結果,降雨無し腐食試験での腐食生成物では0.77 wt%だったのに対し,降雨過程のあった腐食生成物では降雨1分では0.3 wt%,降雨3分では0.21 wt%となっており,降雨過程のない腐食センサの方がCl-の影響が大きいことがわかる。

Fig. 10.

X-ray diffraction patterns of the rusts formed on all the corrosion sensors. (a): without rainfall test, (b): 1 min-rainfall test and (c): 3 min-rainfall test.

3・4 腐食に及ぼす降雨の影響

本研究では降雨として蒸留水を用いており,実際の降雨成分20)とは異なるが,付着塩の洗い流しや表面への給水という観点で降雨の影響として考えてみる。降雨過程による塩の洗い流しについては,3・3の蛍光X線分析の結果から,降雨過程がある場合に腐食生成物中の含有Clは低下し,また,降雨時間が長い方がより低下するという結果が得られており,その効果が確認された。一方,腐食を促進する影響についても,Fig.6Fig.8の湿潤過程で測定されたように降雨により腐食速度は増大し,また濡れ時間も長くなっており,その影響が確認された。Fig.11に25サイクル後の各腐食センサの腐食量の比を示す。ここで,腐食量は得られた腐食速度を時間に対して積分することにより求め,降雨過程のない腐食センサの腐食量を1とした。降雨無し腐食試験での腐食センサの腐食量に対して,降雨過程がある場合,腐食量が非常に大きくなることがわかった。これについては,湿潤過程での腐食速度の大きさや濡れ時間が長くなることに起因していると考えられる。すなわち,本研究の複合サイクル腐食試験環境下において,降雨過程は腐食を促進する影響の方が塩の洗い流しよりも大きいことがわかった。また,降雨時間の影響について,腐食センサの腐食量は降雨時間が短い環境の方が長い場合よりも大きくなった。これは,降雨後に形成される液膜の塩化物イオン濃度が高く腐食速度が大きかったことによるものと考えられるが,この差はサイクル数とともに小さくなっており,また濡れ時間については降雨時間が長い方が長いことから,この腐食量の差についての妥当性は十分明らかではない。Iwasakiら21)は,耐候性鋼のワッペン試験片を実橋梁の雨洗部位と無雨洗部位に1年間暴露試験し,さび厚と腐食減耗量の比較を行った。この結果では,同じ腐食減耗量において無雨洗部位のさび厚の方が雨洗部位のさび厚よりも厚くなっており,降雨の影響の可能性の一つとして降雨による腐食生成物の脱落促進の可能性も考えられる。腐食生成物が脱落した場合,さびの還元反応速度は低下するため,結果として腐食量の低減につながることも考えられる。

Fig. 11.

Ratio of the corrosion loss for all the corrosion sensors after the combined cyclic corrosion test. (a): without rainfall test, (b): 1 min-rainfall test and (c): 3 min-rainfall test.

4. 結言

本研究では,炭素鋼の大気腐食挙動に及ぼす降雨の影響を調査するため,降雨を模擬した条件を組み込んだ複合サイクル腐食試験環境下で炭素鋼の腐食モニタリングを行った。その結果,以下のことがわかった。

(1)降雨過程直後に腐食速度は急激に上昇し,腐食初期においては降雨時間が短い方が腐食速度は高い。

(2)腐食生成物形成後の降雨後の腐食速度は降雨時間に関係なく,ほとんど同じである。

(3)腐食に及ぼす降雨の影響について,塩の洗い流しによる腐食抑制効果も水の供給による腐食促進効果も確認されたが,本研究の腐食試験条件下では後者の影響の方が大きい。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本鉄鋼協会

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top