Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Three-dimensional EBSD Analysis and TEM Observation for Interface Microstructure during Reverse Phase Transformation in Low Carbon Steels
Kengo Hata Kazuki FujiwaraKaori KawanoMasaaki SugiyamaTakashi FukudaTomoyuki Kakeshita
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 107 Issue 3 Pages 247-256

Details
Abstract

For the development of advanced steels, phase transformation from ferrite(α) to austenite(γ) is essentially important to control the austenite phase in the heating process. Formation of austenite during the initial stage of α→γ transformation from the recrystallized ferrite in low carbon steel has been studied from the view-point of the orientation relationships and the interphase boundary structure. At high temperature, the in situ electron backscattering diffraction (EBSD) analysis of austenite grain growth during the α→γ transformation indicates that the different migration behaviors according to different α/γ interfaces, derive from the interfacial coherency with the specific orientation relationships. The orientation and microstructure of the interface between ferrite and austenite have been investigated using the 3D crystal orientation analysis and transmission electron microscopy (TEM) observations. When the crystal orientation relationship between ferrite and austenite grain are close to the Kurdjumov–Sachs relationship, the grain boundary normal itself is also close to the {111}α and {011}γ, respectively. The microstructure of these interfacial planes is revealed to be flat using 3D-EBSD and TEM analysis. These coherent planes are strongly connected to the formation of the austenite phase on heating and also affect the slow migration of the grain-growth process.

1. 緒言

鉄鋼材料に優れた機械的特性を付与するうえで熱処理は重要なプロセスであり,加熱と冷却によって起こる種々の冶金現象を利用し,金属組織を適切に制御することが求められる。その中でも,加熱過程で起こるフェライトからオーステナイトへの相変態(α→γ変態)は鉄鋼製品の組織形成を大きく左右する現象の1つである。例えば,DP(デュアルフェーズ)鋼の組織に含まれるマルテンサイトのサイズや形状を制御するには,熱処理で二相温度域に昇温された時のオーステナイトの形成を制御することが必要である。そのオーステナイト粒成長過程では,母相フェライトとの結晶学的関係が界面の易動度に影響することによって,成長方向に異方性が生じると考えられる。したがって,界面の易動度に強く関与する相界面の整合性に着目する必要がある。このように,α→γ変態に関して相界面の性質を理解することは,さまざまな鉄鋼製品の組織を制御する上で必要であり,また,材料科学の基礎を深める点でも重要である16)

フェライトとオーステナイトの相界面の整合性は,Kurdjumov-Sachs(K–S)の関係18)やNishiyama-Wasserman(N–W)の関係19)等の特定の結晶方位関係と関連付けた研究がなされている717)。例えばAaronsonらは,bcc相とfcc相の界面で接する原子について,格子点の幾何学的な位置関係をコンピュータ上で計算し,両相がN–W関係やK–S関係といった結晶方位関係を満たすとき,界面に部分的に整合な原子構造を満たす領域が周期的に現れることを予測している。

さらに近年の結晶方位関係に関する研究では,加熱過程で生成するオーステナイト相が複数の母相フェライト粒との間で特定の結晶方位関係を満たすことが報告されている2031)。LischewskiとGottsteinは,マイクロアロイ元素を含むC–Mn鋼のα→γ変態を高温その場電子後方散乱回折(EBSD)解析により観察し,母相フェライトとオーステナイト粒の結晶方位関係を解析した28,29)。その結果,変態オーステナイト粒は2つ以上の隣接母相フェライト粒とK–S関係に近い結晶方位関係を満たすことを明らかにした。

本研究の著者らも,低炭素鋼の加熱過程のα→γ変態を高温その場EBSD解析,および三次元(3D)EBSD解析により測定し,オーステナイトと隣接するフェライト粒との方位関係の頻度を解析した30,31)。相変態で生成するオーステナイト粒の周囲のフェライトに対する粒間の方位は, 1つまたは2つのフェライト粒とのK–S関係から6°以内の方位関係,さらに,別の隣接するフェライト粒とは12°以内のK–S関係に近い方位関係を持つ事を確かめている。

これらの研究結果に基づくと,α→γ変態の初期段階においてオーステナイト粒と複数のフェライト結晶粒との界面でK–S関係に近い方位関係が満たされることで,上述したように整合性の高い界面が形成されることと予想される。そのような界面において易動度が低下することで,オーステナイトの粒成長挙動に異方性が生じる可能性がある3236)。このように,オーステナイトの相変態時に成立する結晶方位関係と界面構造が,その後のオーステナイトの結晶成長挙動に影響を及ぼすと考えられる。

本研究では,鋼の二相温度におけるオーステナイトの組織形成を理解するために,α→γ変態の初期にフェライト粒界から生成するオーステナイトについて,隣接フェライト粒との結晶方位関係とその界面の性質を研究することとした。二相温度域のフェライトとオーステナイトの三次元金属組織を研究するため,急冷によりその焼入れ組織を得た上で三次元EBSD解析を実施し,マルテンサイトから旧オーステナイト粒を再構築する方法を適用した。さらに界面の微視的状態を明らかにするため,焼入れ組織中のマルテンサイトを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し,フェライトとマルテンサイトの界面の性質を結晶学的に考察した。

2. 実験方法

Fe-1.0Mn-0.1C(mass%)合金を真空誘導炉で溶解し,50 kgのインゴットを鋳造した。熱間圧延で厚さ2 mmの鋼板とし,水噴霧により710°Cまで冷却した後,炉に装入して20°C/hの冷却速度で室温まで冷却した。この鋼板を冷間圧延で1 mmの厚さにし,板の中央部分から200×10×1 mm3の寸法の試験片を切り出した。試験片を5°C/sの速度で730°Cに加熱し,保持を行うことなく高圧の水噴霧を使用して1000°C/sを超える速度で室温へ冷却した。熱処理された試験片からTEM観察用の試料を切り出し,機械研磨によって0.1 mm未満の厚さに薄片化した。その後直径3 mmのディスクに打ち抜き,5%の過塩素酸と95%の酢酸の電解液を使用した一般的な電解研磨法(Struers社 テヌポール-5)によって薄片試料とした。観察には,200 kVの日立製電顕HF-2000(FE-TEM)を使用した。

3D-EBSD解析の試料は同じ熱処理された試験片から採取しているが,この試料作製に先立って,試料に含まれるマルテンサイトの鮮明な菊池バンドパターンを得るために400°Cで1時間焼き戻した。この400°Cの低温焼戻しにより,ラスマルテンサイトの結晶情報に変化が生じないことは組織観察から確認している。試料の表面はまず機械的に研磨し,次いでコロイドシリカ懸濁液で化学的に研磨した。

3D-EBSD解析には,GaイオンビームカラムとEBSD検出器を備えたFEI Quanta 3D FEGを使用した31)。測定システムの模式図をFig.1に示す。試料は,54°のプレチルトホルダーに据え付けられており,水平位置から逆方向に16°傾けたステージに取り付けた。この幾何学的配置によって,垂直から38°の角度で取り付けられたイオンビームカラムによって,観察面に平行な入射条件でイオンミリングを行った。ミリング位置からEBSD位置への移動はステージを180°回転させることで行い,その後,測定領域の周辺にミリングされたマーカーを検出して,ステージをユーセントリック位置に自動調整した。試料のスライス加工は,30 keVで加速されたGa+イオンビームのスパッタリングによって0.1 μmの厚さのステップで行った。スパッタされた27 × 40 μm2の領域でEBSD解析を行った。EBSD解析はステップサイズ80 nmの長方形スキャングリッドで行った。EBSDデータセットには,測定中のX, Y平面方向の試料ドリフトにより隣接するセクション間に僅かな位置ずれを含んでいる。三次元のEBSDマップを正確に位置合わせするために,EBSDマップ内のオイラー角とその位置(X, Y)を使用した計算方法によって各画像の位置ずれを補正した37)。この方法では,上下の測定断面のオイラー角の差を比較し,隣接する上下の断面像(スライス像)の間でオイラー角の差が最小になるようにEBSDデータの位置を修正した。

Fig. 1.

Schematic of the geometry of the 3D-EBSD analysis setup.

高温その場EBSD解析に使用する鋼の化学組成は,高温でのMnの蒸発を避けるために,Fe-0.2C(mass%)を選定した。冷間圧延した鋼板から5×7 mmの試験片を切り取り,表面を機械的に研磨して厚さ0.8 mmにした後,電解研磨した。高温その場EBSD解析は,TSLソリューションズ製の加熱ステージを備えたFE-SEM(FEI Quanta 200 FEG)を使用し,680~840°Cの温度範囲でEBSD解析を行った。

3. 実験結果

3・1 α→γ変態中のオーステナイト結晶粒成長の高温その場EBSD解析

高温その場EBSD解析を使用してFe-0.2C合金のα→γ変態の組織形成を直接観察した。730°Cから840°Cへ昇温した時のオーステナイト粒の成長をFig.2(a)~(d)に示す。同図は,フェライト粒をEBSD法で測定される菊池バンドの鮮明度を表すグレースケール画像(Image Quality像)で示し,その上でオーステナイト粒を赤色で表示している。730°Cの組織はフェライトとオーステナイトからなり,オーステナイト粒はフェライト粒の三重点に現れている。さらに温度が上昇するに伴って,オーステナイトは隣接するフェライト粒に向かって成長し,最終的には840°Cで観察領域全体がオーステナイト相に変態した。次にFig.2(a)の730°Cにおいて観察されたフェライトとオーステナイトの結晶方位関係を解析した。結晶方位関係の評価法については次節で詳細を述べるが,オーステナイト粒と正確にK–S関係を満たすフェライトの結晶方位に対して,測定したフェライトの結晶方位との方位差をΔϑKSと定義した。Fig.2(a)の結晶粒A~Dの結晶方位関係をTable 1にまとめた。同表には730°Cから790°Cへ昇温したときの各界面の移動距離も示している。オーステナイト結晶粒DのInterface 2の方位関係はK–S関係に近い(ΔϑKS=1°)が,1 μm未満しか移動しなかった。一方,Interface 1,3,4,5の方位関係はK–S関係から9°以上ずれているが,これらの界面は同じ条件で1 μm以上移動した。このように,K–S関係を満たす界面は移動距離が小さく,方位関係がK–S関係に対して9°を超える界面は移動距離が大きい。なおこの測定は試料表面の二次元的観察に基づいて行っており,実際の三次元的な界面移動を観察していない点には注意を要するが,Table 1に示す結果は,先行研究の結果と一致していることが確認できる31)

Fig. 2.

Microstructure measured by in situ EBSD at different temperatures during the reverse transformation in Fe-0.2C alloy (the ferrite microstructure is indicated by gray scale image representing the quality of Kikuchi band patterns and the austenite grains are shown in red color) 31).

Table 1. Misorientation from the K–S relationship and distance of interface migration between 730 °C and 790 °C.
Austenite grainNo. of interface
to adjacent ferrite grain
Misorientation from the K-S relationship,
ΔθKS (deg.)
Distance of interface migration between 730°C
and 790°C (μm)
AInterface 130.4
Interface 2140.7
Interface 310.9
BInterface 1151.6
Interface 2151.7
Interface 3242.5
Interface 4311.8
CInterface 130.4
Interface 210.5
Interface 3150.7
DInterface 191.3
Interface 210.4
Interface 3262.5
Interface 498.4
Interface 5191.8

3・2 3D-EBSD解析による相界面の方位解析

Fe-1.0Mn-0.1C合金を二相温度の730°Cに加熱し焼入れた試料において,K–S関係に近い結晶方位関係を満たすα/γ界面の法線方位を3D-EBSD解析によって測定した。5°C/sの加熱速度で二相温度領域の730°Cに加熱し,1000°C/sを超える速度で急冷した試料の組織をEBSD解析した結果から,フェライトの三重点にマルテンサイトが存在していることを確認した。このことから,Fe-1.0Mn-0.1C合金でも730°Cへの加熱過程でフェライトの三重点にオーステナイト粒が現れたことが分かる。これは,Fig.2(a)のその場EBSD解析で観察された組織とほぼ同じであり,両実験においてα→γ変態はフェライトの三重点から生じたことを確認した。

730°Cから急冷された試料において,マルテンサイトとフェライトを含む典型的な局所領域を3D-EBSD解析法により測定した。マルテンサイトからオーステナイトの結晶方位を再構築する手順は以前の論文と同様であり31),その1つの解析例をFig.3の断面マップに示している。この解析に用いた断面像の総数は70枚であり,同図には,そのうちの深さ0.4,0.8,1.2,1.6,2.0,および2.4 µmの断面で測定した結晶方位マップを示している。マルテンサイト領域の内部に数種類の異なる方位のピクセルが観察できる。これは複数のマルテンサイトブロックが測定されたことを示している。同図において黒色のピクセルは,明確な菊池バンドパターンが得られなかった領域であるが,その面積率は小さくマルテンサイトの一部と見做した。以上の結果から,マルテンサイトの領域とフェライト粒の間の界面は信頼できる精度で測定されていることを確認した。

Fig. 3.

A series of orientation mappings of martensite in Fe-0.1C-1Mn alloy quenched from 730°C in the heat treatment, measured at a depth of (a) 0.4 μm, (b) 0.8 μm, (c) 1.2 μm, (d) 1.6 μm, (e) 2.0 μm, (f) 2.4 μm (the color indicates the crystal orientation, which corresponds to the attached standard stereo triangle).

三次元の金属組織内のマルテンサイトブロックの方位データを使用して,旧オーステナイトの結晶方位を解析した。その解析方法の詳細は過去に報告しているので省略する31,3844)。著者らの以前の研究31)では,再構築したオーステナイト結晶粒の方位を用いて,周囲の隣接フェライト粒と特定の結晶方位関係を満たす頻度を解析したが,本研究では界面そのものの結晶学的特徴に焦点を当て,界面を三次元的に捉えてその法線方位を解析する。まず,界面で接するフェライトとオーステナイトの結晶方位関係は,K–S関係からの方位差ΔϑKSとして,次の式(1)と(2)で評価する。

  
M=gα(RjViKSgγ)1(1)
  
ΔθKS=cos1((M[1,1]+M[2,2]+M[3,3]1)/2)(2)

ここでMは,再構築したオーステナイトの結晶方位と正確にK–S関係を満たす理想的なフェライト方位から,測定されたフェライト方位への回転行列を表わす。ViKS(i=1…24)は,正確なK–S関係による回転行列を表し,これはオーステナイト結晶座標系の<112>を軸として90°回転させる行列で表現できる。gγgαは,それぞれ旧オーステナイトと隣接フェライトの結晶方位を表し,試料座標系から各相の結晶座標系への回転行列として定義している。Rj(j=1…24)は,bcc結晶の対称性に関する回転行列である。回転行列Mの指数 [i, i](i=1…3)は,3×3行列の対角成分を表す。

三次元再構築した金属組織において,オーステナイト粒のほとんどは4つまたは5つのフェライト粒に隣接していた。これは,オーステナイトが母相フェライトの粒界コーナーで核生成したことを示している。三次元組織から代表的なオーステナイト粒を1つ抽出した例をFig.4に示す。このオーステナイト粒は,Fig.3(a)~3(f)に示したマルテンサイトの領域から再構築したものである。Fig.4(a)~4(c)の界面のボクセルの色は,各ボクセルにおける界面のサンプル座標系における法線方向を表している35)。同図(a)のオーステナイト粒は5つのフェライト粒との間に界面を持ち,これらの界面で隣接するフェライト粒との結晶方位関係をK–S関係からの方位差ΔϑKSで表すとそれぞれ2°,6°,14°,20°,28°である。

Fig. 4.

(a) A reconstructed austenite grain (martensite region) in Fe-0.1C-1Mn alloy reconstructed from the EBSD data of martensite blocks shown in Fig. 3(a)-(f) (the broken black lines are superimposed along the grain edge of the prior austenite to clarify its morphology), (b) definition of the sample coordinate system, (c) the color code on the surface indicating the grain boundary normal in the sample coordinate system, (d) schematic for analysis method of boundary plane normal based on the voxel model, displaying a voxel of interest and eight voxels in first neighbor on surface as well as eight vectors for calculating the normal vector.

この界面法線の計算方法を簡潔に説明する。ボクセルで構成された三次元組織において界面の法線ベクトルを求めるには,界面上での着目したボクセルからの前後左右に存在するボクセルを結ぶ位置ベクトルを設定し,それらのベクトルの外積を求めてその平均を取ることで,着目したボクセルの法線方向とすることで評価した。すなわちFig.4(b)に模式的に示すように,中心のボクセルにおける局所的な法線方向nsを決定するには,まず中心ボクセルから隣接ボクセルへ延びる8つのベクトルx1x8を設定する。x1x8のベクトルから隣り合う2つの組み合わせをすべて選んで外積方向ベクトルを求め,その平均を次のように与える。

  
ns=18i=18xi×xi+1|xi|2|xi+1|2|xixi+1|2(3)

なお式(3)のi=8の場合に現れるベクトルx9x1と等しい。上記の説明は,中心のボクセルの第1近接のボクセルのみを使用した計算を示しているが,実際の計算では界面法線をより正確に評価するために,第2近接のボクセルまで考慮して計算した。この3D-EBSD解析による界面法線の決定法に関しては,ボクセルのサイズが比較的大きい(~0.1 µm)ことを考慮すると,その1つのボクセル単位での方向精度は必ずしも高いとは言えない。しかしながら,この計算では界面を構成する多数のボクセルから法線ベクトルの集合を求め,その平均の方向を求めることから,統計的な法線方向の最頻値,つまり最も頻度が高い法線方向ベクトルを求めることができる。また,法線ベクトルの分散状態から界面の曲率を知ることができる。これによって,実空間における界面法線の最頻値を,フェライトおよびオーステナイトの結晶方位と比較して議論することが可能となる。

1つのマルテンサイト領域を例に,界面解析を行った結果をFig.5の極点図に示す。同図(d)~(f)では,界面法線の分布を等高線で表している。さらに,オーステナイトの{001}γ,{011}γ,および{111}γの法線方向を,それぞれ赤色,緑色,青色の十字のプロットで表し,オーステナイトに隣接するフェライト粒の{001}α,{011}α,および{111}αの法線方向を,同じ色の円のプロットで表している。極点図の縦軸と横軸は,それぞれ三次元構築した直方体の試料の基準となる2つの稜線に平行においた。

Fig. 5.

A three-dimensional morphology of an austenite grain (martensite region in the sample quenched from 730°C) and the analysis on the grain boundary normals at different interfaces in Fe-0.1C-1Mn alloy: (a)-(c) A reconstructed austenite grain observed from three different directions (the broken white lines are superimposed along the grain edge of the prior austenite to clarify the interfaces to different ferrite grains), (d)-(f) pole figures indicating the grain boundary normal as the contour map and the orientations for ferrite and austenite, each contour line corresponds to the pole density of boundary normal vectors by 2.5 times to random distribution of an assumed spherical interface.

Fig.5の解析結果からフェライトとオーステナイト界面の法線方位は次の通りである。Interface 1で接するフェライト相とオーステナイト相のK–S関係からの方位差はΔϑKS=1°であり,K–S関係に非常に近い方位関係を満たしている。これらのフェライト相とオーステナイト相の平行な最密面({111}γ // {011}α)の法線方向は,Fig.5(d)の極点図において矢印に示す方向である。等高線で示される界面法線の分布を見ると,その最頻値の位置は上述の最密面の法線方向に非常に近く,その方位差は約5°である。つまり界面の法線方向は,{111}γ // {011}αの法線方向とほぼ同じ方向を向いている。次にInterface 2を見ると,フェライト相とオーステナイト相のK–S関係からの方位差はΔϑKS=3°であり,この場合もK–S関係に近い方位関係を満たしている。そして,Fig.5(e)に示すように界面法線の最頻値と矢印で示す最密面法線の間の方位差は約6°である。すなわち,この界面においても法線方向は最密面の法線方向とほぼ同じ方向を向いている。一方,Fig.5(f)と5(g)のInterface 3と4においては,結晶方位関係はそれぞれK–S関係から8°および22°の方位差を持つ。これらの界面の法線方向は,フェライト相およびオーステナイト相の最密面から大きく外れた方向を向いている。

再現性を確かめるために,このような解析を別のオーステナイト粒についても行った。その結果をFig.6に示す。同図のオーステナイト粒は,Interface 1と2でそれぞれΔϑKS=6° および11°の方位差を持ちK–S関係に近い界面である。これらの界面の法線はFig.6(d)および6(e)に示すように最密面法線に近い方向を向いており,その方位差は~17°および~24°である。一方,Fig.6(f)および6(g)のK–S関係から逸脱した方位関係を持つInterface 3と4では,界面法線と最密面の法線の間に一致は見られない。この結果は,Fig.5のオーステナイト粒のInterface 3,4の結果と一致している。

Fig. 6.

A three-dimensional morphology of an austenite grain (martensite region in the sample quenched from 730°C) and the analysis on the grain boundary normals at different interfaces in Fe-0.1C-1Mn alloy.

以上,個別の粒について述べた界面方位の方向を統計的に評価するため,K–S関係およびK–S関係に近い方位関係を満たす97の界面について,上述のように界面法線とオーステナイトおよびフェライトの最密面が一致する頻度を分析した。本研究で測定したα/γ界面の中で,K–S関係とN–W関係の間の方向関係(すなわちΔϑKS< 5.3°)を持つ界面の数は41の界面であり,他の56の界面はK–S関係から6°から12°の方位差を持っていた。界面の法線方向と結晶の最密面{111}γ // {011}αが40°以内の方位差にある時に両者は近傍にあると考えるとすると,前者のK–S関係またはN–W関係に近い41の界面に関しては,その83%(つまり34の界面)が最密面{111}γ // {011}αの近傍に位置していた。後者のK–S関係から6~12°ずれた56の界面については,その60%(つまり33の界面)が{111}γまたは{011}αの近くにあった。

3・3 オーステナイト粒界面のTEM観察

α→γ変態初期のオーステナイトの形成とその成長過程において,K–S関係に近い方位関係を満たす界面が及ぼす影響は重要である。界面の微視的状態を知るため,熱処理で730°Cから急冷した試料のマルテンサイトの組織を室温でTEMにより観察した。その観察から,ほとんどのマルテンサイト領域は母相フェライトの粒界三重点に存在することを改めて確認できた。またマルテンサイトの内部またはその境界にはセメンタイトは観察されず,セメンタイト粒子の殆どはフェライトの粒内またはオーステナイト粒界とは関係のないフェライト粒界に存在していることを確認した。前の研究においてもオーステナイトへの変態前の組織を観察しているが31),セメンタイト粒子はフェライトの粒界三重点に特に偏在していることはなく,フェライト粒内を含めて組織内にランダムに分散していた。このため,初期のオーステナイト粒が粒界コーナーに形成されたとき,セメンタイトを起点としてオーステナイト粒が核生成した可能性は低く,両者の間で核生成を容易とするような結晶方位関係が成立する状態ではなかったと考えられる。

TEM観察からマルテンサイトの形態は転位を含むラス構造を持つことを確認した。典型的な例として,マルテンサイトと周囲のフェライト粒を含む明視野像をFig.7に示す。この観察から,マルテンサイトとFerrite grain 1の間の界面は平坦であり,Fig.7(a)に示すように,[311]電子線入射の条件でエッジ入射条件を満たしている。Ferrite grain 1の011反射による暗視野像をFig.7(b)に示すが,この観察像において界面のトレースはFerrite grain 1の[011]α方向に垂直である。他の界面を見ると,Ferrite grain 2および3への界面もほぼ平坦であるが,Ferrite grain 4の界面は曲率が大きく複雑な形状をとっている。

Fig. 7.

TEM micrograph of ferrite-martensite microstructure and orientation analysis at the interface in Fe-0.1C-1Mn alloy quenched from 730°C in the heat treatment ((a) Bright-field image, (b) Dark-field image taken by 011 reflection from Ferrite grain 1, (c) The diffraction pattern of 011 reflection from Ferrite grain 1.

4. 考察

3D-EBSD解析により測定したフェライト粒とオーステナイト粒の界面について,本研究ではボクセルの法線方向ベクトルの決定法を提案した。この解析方法の妥当性を考察する。マルテンサイトの界面が平滑でない場合は,オーステナイト界面を再構築することは困難である。しかし,低炭素鋼のラスマルテンサイトはオーステナイトの粒界から核生成することが知られていて,マルテンサイト相の成長界面を除き,変態開始粒界となったオーステナイトの平滑な界面は室温でも維持されると考えられる。実際にFig.7(a)に示したように,フェライトとマルテンサイトの組織において界面をTEMによって観察したところ,平滑な界面を持つマルテンサイト領域が多数観察された。これらの観測は3D-EBSD解析によってα/γ界面を解析することの妥当性を支持している。

Fig.5Fig.6のオーステナイト粒について,結晶の最密面と界面法線の方位差をTable 2にまとめた。Fig.5のオーステナイト粒1について,Interface 1はフェライトとオーステナイトの晶癖面と見做され,α→γ変態の初期段階で形成されたものと考えられる。Fig.5(e)のInterface 2の場合にも,界面法線の方向が(111)γ // (011)αの法線方向に近い事が確認できる。以上から,K–S関係とN–W関係の方位関係の間の方位関係を満たす界面は,フェライトとオーステナイトの最密面({111}γ // {011}α)の近傍にあると結論することができる。K–S関係から6~12°ずれた方向関係を持つ界面も,{111}γまたは{011}αに近い傾向がある。Fig.6(d)およびFig.6(e)に示したように,界面法線が{111}γ // {011}αの最密面から少しずれた方向にあることは,界面の重要な性質を示していると考えられる。過去の研究では,K–S関係やN–W関係などの特定の方位関係を持つ界面の構造を顕微鏡観察した結果が報告されている9,12,14)。界面にはミスフィット転位の配列,ならびに,平行に配列した構造レッジが含まれ,見かけの晶壁面は{011}bcc // {111}fccから大きく外れると報告されている。本研究の3D-EBSD解析においても同様に,界面が最密面からずれた方向にあることを確かめている。

Table 2. Orientation relationships and the deviation of grain boundary normal from the close-packed planes of the phases at each interface of two martensite regions (martensite region 1 and 2 correspond to those shown in Fig. 5 and 6, respectively).
Austenite
grain
InterfaceMisorientation
from the K-S,
ΔθKS / deg.
Misorientation
between {111}γ and
{011}a, Δθcpp / deg.
Misorientation
between <011>γ and
<111>a, Δθcpd / deg.
Deviation of boundary normal from the
close-packed planes
Deviation /deg. Location to the c.p.p
1Interface 10.80.40.8~5°In vicinity
1Interface 22.70.52.6~6°In vicinity
1Interface 38.07.77.0LargeNot related
1Interface 421.719.811.6LargeNot related
2Interface 16.30.86.2~17°In vicinity
2Interface 211.82.611.6~24°In vicinity
2Interface 322.116.718.4LargeNot related
2Interface 426.823.112.1LargeNot related

本研究の高温その場EBSD解析では,K–S関係に近い方位関係を持つ界面はほとんど移動しなかった。それらの界面の性質を明確にするために,フェライト相とオーステナイト相の最密面の方位差Δϑcpp,および,最密方向の方位差Δϑcppを測定した。これらの方位差ΔϑcppおよびΔϑcppは,<011>γと<111>α,および{111}γと{011}αの法線方向の中から最も近い方向の組み合わせを選択し,次の式を計算して求めた。

  
Δθcpp=arccos(((gγ)1Pcppγ)((gα)1Pcppα))(4)
  
Δθcpd=arccos(((gγ)1Pcpdγ)((gα)1Pcpdα))(5)

ここで,PcppPcpdは,それぞれ最密面の法線方向と最密方向の結晶座標系でのベクトルである。2つの方位差の関係をFig.8に示す。同図は,高温その場EBSD解析において730°Cと790°Cの測定データの間で1 μm以上移動した界面を白抜きのプロットで示し,1 μm未満しか移動しなかった界面を黒色のプロットで示している。この結果から,最密面の方位差Δϑcppが2°未満を維持しながら,最密方向の方位差Δϑcpdが0°から5°までを満たす界面が非常に多いことが分かる。この方位関係は,K–S関係(Δϑcpd, Δϑcpp)=(0°, 0°)とN–W関係(Δϑcpd, Δϑcpp)=(5.3°, 0°)の間の方位関係に対応している。また,(Δϑcpd, Δϑcpp)=(2.5°, 2.0°)のGreninger–Troianoの関係45)に近い方位関係も多い。明らかな傾向として,易動度の低い界面は最密方向の間の方位差よりも最密面の間の方位差が小さい方位関係を持つ傾向がある。これらの特定の方向関係を持つ界面は,フェライトとオーステナイトの整合性の良い結晶面の組み合わせで構成され,それによって界面の易動度が低くなっていることが示唆される。この傾向は,3D-EBSD解析とTEM観察で得られた結果とも一致している。このように,α/γ界面が選択的な結晶面からなる構造を持つことによって,界面の易動度を低下させていると予想される。

Fig. 8.

The misorientation of the close-packed planes and close-packed directions at α/γ interfaces measured using in situ EBSD of Fe-0.2C alloy.

5. 結論

Ac1温度においてフェライト相から変態したオーステナイト相の界面の結晶学的性質を,室温へ焼き入れた後のフェライト-マルテンサイト組織に対する3D-EBSD解析およびTEM観察を通して研究した。3D-EBSD解析においては,マルテンサイトのバリアント解析による旧オーステナイト粒の結晶方位の再構築法を使って,高温のオーステナイト組織を解析した。さらに,高温でのオーステナイト組織の形成を,高温その場EBSD法によって直接的に測定した。これらの実験結果に基づいて,α/γ界面の易動度と界面の三次元組織の関係に関して以下の結論を得た。

(1)鋼の加熱過程において,フェライト相の三重点からオーステナイト粒が変態すると,オーステナイトの粒界の1つまたは2つにおいて,K–S関係から僅かにずれた結晶方位関係が満たされ,その界面法線は最密面{111}γ // {011}αの法線方向の近傍にある。

(2)3D-EBSD解析で測定した結晶粒の界面の性質を議論するため,界面上のボクセル間の位置ベクトルの外積を計算することにより界面法線方向を決定する方法を提案した。

(3)フェライト-マルテンサイト組織をTEM観察した結果から,マルテンサイトと隣接するフェライト粒との間に平滑な界面が多いことが分かった。典型的な界面のトレース方向は,フェライト粒の[011]αに垂直である。この結果は,3D-EBSD解析によって界面法線を解析した結果と一致している。

(4)730°Cでのオーステナイト結晶粒の成長過程において,K–S関係に近い方位関係(許容方位差9°以内)を持つα/γ界面の易動度は著しく低下する。フェライトおよびオーステナイトの最密面の法線方向と最密方向は,K–S関係から5°以内の条件を満たす。このような界面は,特定の結晶面を持つ高い整合性を持った構造を形成し,α→γ変態のオーステナイトの粒成長において界面の移動を抑制する因子の一つとなり得る。

謝辞

本研究で用いた結晶方位解析の計算方法について,茨城大学の富田俊郎博士から多くの貴重な議論の機会を頂きました。ここに深く感謝いたします。日本製鉄(株)の中川淳一博士とNSソリューションズの中村望氏には,本研究で適用した界面法線の解析法に関して貴重なご助言を多数頂きました。厚く感謝の意を表します。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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