Tetsu-to-Hagane
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Welding and Joining
Recrystallization Behavior of IF Steel at the Interface of Al Junction
Kaneharu Okuda Kwangsik HanRyosuke Kainuma
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2021 Volume 107 Issue 5 Pages 345-355

Details
Abstract

The recrystallization behavior of a cold-rolled IF steel sheets, which had experienced recrystallization at higher temperature, was investigated at the active interface between IF steel and pure Al, heat-treated at 650ºC. In the region surrounded by the tongue-like η-Fe2Al5 phase, the recrystallized structure of the IF steel was characterized by equiaxed structure including subgrains, whereas elongated pancake shaped ferrite was majored in other region. The η phase grew preferentially to the c axis, and the growing η phase distorted the surrounding iron due to the difference in the molar volume; compressive deformation was expected both in the a-axis and b-axis directions, and tensile deformation was expected in the c-axis. The growth of η phase obviously changed the recrystallization behavior of the IF steel. The development of γ-fiber crystalline texture (<111>//ND), which was a typical recrystallization texture of IF steel, was not observed in the region surrounded by tongue-like η phase. The local misorientation in the vicinity of the two-phase interface could not explain the texture change in the region surrounded by the η phase. It was considered that the growth and restraint of the η phase also affected the nucleation of recrystallization.

1. はじめに

地球環境保護や衝突安全規制の観点から,自動車用鋼板のハイテン化(高張力化)が進み,CO2排出規制は今後さらに強まると予想されている13)。このため,鋼板のハイテン化だけでは自動車の軽量化目標を達成するのは難しくなり,一部の部品をアルミやマグネシウム,CFRPなどの軽量材料に置換していく動きがある4)。自動車の組み立て時には部品同士の接合工程が必要になるため,異種材料間の接合技術が検討されている。異種金属の接合法の代表的な技術として,摩擦拡散接合(FSW)が挙げられる57)。接合部に耐熱性のピンを押し付け,回転させながら移動することで,材料を塑性流動させて接合する技術であり,被材料には非常に強加工が加わるとともに,高温にさらされるため,加工と再結晶が同時に生じる可能性がある。

ところで,自動車用の表面処理鋼板は,溶融亜鉛めっき鋼板が主流となっているが,近年Znの枯渇が懸念されており,Znめっきに置き換わる新めっきの探索も検討されている8)。その候補としてAlめっきがある。AlはZnよりも融点が高く,しかもFeとAlの界面に硬質で脆い金属間化合物が生成することから,AlにSiなどを添加してめっき組織,めっき品質を向上させる研究も報告されている9,10)。Alめっきの場合,通常のZnめっきと同一工程であれば,鋼の再結晶が完了したのちメッキをするが,再結晶温度が高い鋼板や,熱履歴を変化させた場合には,鋼の再結晶とFeとAlの界面反応が競合する可能性も考えられる。

以上のように,マルチマテリアル化の動きの中で,FeとAlの界面反応の制御は今後益々重要になると考えられる。

Fe-Al二元系状態図11)において,例えば600~700°Cの温度範囲では,BCC系の規則相であるα'-FeAl,Fe2Al5;η相,Fe4Al13; θ相,Fe-Al2;ζ相の金属間化合物が存在することが知られている。金属間化合物はいずれもビッカース硬さで1000 HV強と硬質であり,特にη相が最も硬質で脆く,溶接割れの原因とされている。Chang and Wang10)は,商用のAISI 1050鋼(Fe-0.05%C-0.24%Mn)を700°Cの純Alの溶融槽に浸漬し,Fe/Al界面反応を調べている。Al側にはθ相が層状に存在し,その次にη相が厚く存在する。Fe/η相界面は複雑に入り組み,tongue状にη相が成長していた。立方晶系のη相は,c軸方向に優先的に成長することが知られており,その成長には残留応力も影響していると報告されている9)。そこで,本論文では,再結晶温度が軟鋼よりも高いIF鋼を用いて類似の実験を行い,η相の成長が,鋼の再結晶に与える影響を調べた。

2. 実験方法

Fe-0.007%C-0.6%Mn-0.068%Nb(mass%)の化学成分を有するNb添加極低炭素鋼を供試鋼とした。本鋼は再結晶温度を高めるために一般的なIF鋼に比べNb,C量を高くし,原子比Nb/Cを1.05としてNbで炭素を固定するように設定した。当該組成を有する鋼を真空溶解にて溶製し分塊圧延を行った後,板厚30 mmの鋼板(シートバー)を1250°C,3.6 ksの溶体化処理後,仕上げ温度900°Cで板厚3.5 mmまで熱間圧延し,引き続き640°C,3.6 ksの巻取り相当処理を施し,室温まで炉冷した。この熱間圧延鋼板を2.8 mmに両面研削した後,90%の圧下率で一方向に冷間圧延し,板厚0.28 mmの冷間圧延鋼板とした。このIF鋼冷延板2枚で0.54 mm厚のAl冷延板を挟み込み,周囲をワイヤーで巻いて固定し,Ar雰囲気で石英管に封入した。これを赤外線イメージ炉にて,加熱速度2°C/sで昇温し,650°Cで2分および10分の2水準を熱処理した。

熱処理後の試料は導電性樹脂に埋め込み,表面をペーパー研磨し,0.25 µmのダイヤモンドペーストを用いたバフ研磨した後,酸化物琢磨懸濁液(OPU)による研磨を行い,電子後方散乱回折法(Electron Back Scatter Diffraction(EBSD))を用いて結晶方位を測定した。データの取得にはTSLソリューション社製のOIM data Correctionを,その後の解析にはTSLソリューション社製のOIM data Analysis 6.2を用いた。

また,EBSDで観察した後,特定のIF鋼/η相界面を収束イオンビーム(FIB:FEI製 Helios Nano Labo)装置で切り出し,収差補正走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope(STEM):FEI製 TITAN,300 KV)にて,相界面の下部組織の観察を行った。また,反応界面での元素の濃度を確認するために,X電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA:日本電子製 JXA8530F-Plus)にて,元素マッピングとライン分析を行った。加速電圧は15.0 kV,照射電流は1.0-7 Aとした。透過電子顕微鏡,EPMAの観察位置の詳細については後述する。

3. 実験結果

Fig.1に,650°Cで2分および10分熱処理した試験片のIF鋼とAlの接合界面付近のミクロ組織を示す。AlはFe板で両側から挟まれており,試験片中央のAlの領域には,針状や矩形の結晶が存在する。Alは一旦溶解した後凝固していることから,針状組織は凝固時に晶出したθ相と考えられる。接合界面では,状態図よりAl側からθ相,η相が生成すると考えられ,その組成からη相とθ相の境界を確認するこことができる。接合界面ではAl側のθ相は時間が経過しても殆ど成長しないのに対し,η相はIF鋼側に優先的に成長し,その形状はtongue状である。η相の成長は,平均すると2分では約40 µm,10分経過すると約180 µmとなり,2分から10分の間に4~5倍に成長した。また,η相の根元の方にはボイドや割れが目立つ。η相を含むFe-Alの金属間化合物は非常に硬質であり,鉄と化合物の熱膨張差による熱処理後の冷却時の応力の影響や,研磨時などに割れが発生したと考えられる。以下では,IF鋼とη相との界面付近でミクロ組織に着目しEBSD法による結晶方位解析を行った。

Fig. 1.

Microstructures of the diffusion couple with heat treatment at 650°C. The holding times are 2 min (a,b) and 10 min (c,d). The η phase grows preferentially into the side of the IF-steel with a tongue shape.

Fig.2に,650°C,2分熱処理材のEBSD測定結果を示す。Fig.2(b)η相の(001)方向(接合界面垂直方向,板面垂直方向)のIPF(Inverse Pole Figure)マップである。η相がtongue状に優先成長している領域では,c軸方向に伸長した結晶粒が観察される。tongueの根元やAl側でのη相は比較的等軸晶であり,先端部に比べ粒径が細かい。それらの結晶方位は,c軸から少し偏移しているものも見られる。Fig.2(c),(d)は,IF鋼(BCC鉄)のND方向(接合界面垂直方向,板面垂直方向)とRD方向(圧延方向,図では水平方向)のIPFマップである。η相との相界面より離れた領域では,再結晶途中の組織を呈し,圧延方向に伸展した冷間圧延由来の加工粒と再結晶粒が混在する。本研究で用いたNb系のIF鋼は,Nbにより再結晶核生成サイトが限定されるために圧延方向に少し延伸した再結晶粒であり,その方位は,<111>//ND(青)を主体とした典型的なIF鋼の再結晶集合組織である(圧延方向には<110>//RDが集積)12)。一方,tongue状η相に挟まれたFeの領域は等軸な微細粒であり,結晶方位も通常の再結晶では見られない<110>//NDに近い結晶方位が存在している。特にη相のtongue側面に接する部分で,その傾向が強い。Fig.2(e)に,各測定点とその周囲の測定点との局所的な方位差を表すKAM(Kernel Average Misorientation)マップを示す。IF鋼の母相側では,未再結晶部でKAM値が高く,再結晶粒内はKAM値が低い。一方,η相に挟まれた領域では,等軸晶組織にも関わらず,KAM値が高い部分が存在していた。特に,η相との界面付近でKAM値が局所的に高い部分が見られる。Fig.2(f)は,Fig.2(a)η相に挟まれた四角形の領域の粒界性格を示し,許容角度2~15°の粒界を赤線で示す。またFig.2(g)は同領域の結晶粒の平均方位からの偏移角度をマップ化したものである。η相に挟まれた領域では,亜粒界が多く存在し,方位の偏移量も多くなっている。

Fig. 2.

EBSD analysis around the interface of the sample annealed at 650ºC for 2 min; (a) image quality map, (b) inverse pole figure map (ND) of the η phase, (c,d) inverse pole figure map ((c); ND, (d);RD) of the steel, and (e) KAM map of the steel. Figs. (f,g) are the subgrain structure of the steel in the square region in fig.(a); (f) grain boundary character, (g) grain reference orientation deviation angle.

Fig.3に,650°C,10分保持の熱処理材のEBSD方位解析結果を示す。IF鋼は2分処理材より再結晶が進み,<100>//NDに近い再結晶の遅い加工粒が取り残されている13)。再結晶粒は圧延方向に少し伸びたパンケーキ状であり,粒内での方位分散は殆ど見られない。η相の先端付近では,微細な等軸粒と比較的大きな粒の混在した組織を有し,特に粗大な粒内に方位分散が存在し,局所的に方位変化している領域でKAM値が高い。η相に囲まれた領域では,熱処理時間2分と同様に等軸組織でありながらKAM値が局所的に高い部分が見られた。このように,2分処理材と比べると,一部の粒が成長し混粒であるものの,KAM値にはそれほど大きな変化は見られない。Fig.3(f)は,Fig.3(a)η相に挟まれた四角形の領域の粒界性格を示し,許容角度2~15°の粒界を赤線で示す。またFig.3(g)は同領域の結晶粒の平均方位からの偏移角度をマップ化したものである。η相に挟まれた領域では,亜粒界が多く存在し,方位の偏移量も多くなっていることはFig.2と同様であるが,一部粗大な粒界が混在していることが特徴である。

Fig. 3.

EBSD analysis around the interface of sample annealed at 650ºC for 10 min; (a) image quality map, (b) inverse pole figure map (ND) of the η phase, (c,d) inverse pole figure map((c); ND, (d);RD) and (e) KAM map of the steel. Figs. (f,g) are the subgrain structure of the steel in the square region in fig.(a); (f) grain boundary character, (g) grain reference orientation deviation angle.

650°C,2分処理したEBSD測定結果(Fig.2)において,IF鋼の母相側とη相に囲まれた領域の2つに分け,(200)極点図にプロットしたものと3次元結晶方位密度関数(ODF)を計算した結果をFig.4に示す。一般に,鋼の圧延後の再結晶集合組織は,Fig.2(a),(b)に示す様に<110>//RD(αfiber:φ2=45°,φ1=0°),<111>//ND(γfiber:φ2=45°,Ф=54.7°)に集積し,特にIF鋼ではγ-fiberへの集積が高くなる14)。IF鋼の母相側は,このようなα-fiberとγ-fiberに強く集積した集合組織を有する。一方,η相に囲まれた部分の(200)極点図では,Fig.2(c),(d)に示す様に集合組織は弱く主方位が判別しにくい。粒の数が少ないため定量的な議論できないものの,再結晶の遅い斜めCube({100}<110>)に近い部分が比較的強く,IF鋼のγ-fiberの主方位の周辺部にも若干の集積が見られた。

Fig. 4.

(200) pole figures, (a,c), and ODF φ2=45°sections, (b,d), of IF steels with heat-treated at 650ºC for 2 min. Figs. (a,b) are analyzed with the redion in the matrix region. Figs. (c,d) are in the region surrounded by η.

4. 考察

本研究では,Nb添加IF鋼を用いて,Fe-Al接合面で金属間化合物の成長とFe側の再結晶が同時に進行する条件を選び,ミクロ組織変化を追跡した。その結果,tongue状に成長するη相で挟まれたIF鋼部は,一見すると再結晶が速く,等軸組織が形成されるものの,実際は大角粒内に方位分散をもつサブグレイン組織であり,通常のIF鋼の再結晶では見られない<110>//NDから離れた方位を有していた。

このような特異な結晶方位が出現した原因として,①Alとの接合面であることから,Alが拡散して再結晶に影響した,②η相に挟まれた領域であることから,隣接するη相の存在自体が何等かの影響を及ぼした,③接合界面と母材では再結晶の核生成サイトが異なり,接合界面ではη相/α界面,母材中心部では変形帯等の差が集合組織に影響した,の3点が考えられる。以下,これらについて検証する。

Fig.5に,650°C,2分処理材のIF鋼とAlの接合界面における元素濃度マップをEPMAで測定した結果を示す。Fig.(a),(b),(c),(d)は,それぞれFe,Al,Mn,Nbに対応する。AlやFeの濃度マップではθ相とη相が明瞭に区別できる。θ相は必ずしも均一な厚みではないが,η相に比べると成長が遅い。またη相中にはMnが存在しており,IF鋼の母相側に向けて,その濃度が高くなる傾向が見られる。これはη相がIF鋼を侵食する際に,界面における分配によりη相中内に少量のMnが残留したからであると考えられる。Nbも類似の傾向は見られるが,低濃度であるために明確でない。Fig.6に,同熱処理材の界面付近でのFeとAlの濃度ラインプロファイルを示す。Line1はη相の成長が遅れた谷部,Line2はη相が優先成長している部分での測定結果である。界面近傍のIF鋼におけるAl濃度は,先端部,谷部ともにほぼゼロに近い値であった。これより,今回のフェライトへのAlの拡散が,再結晶挙動や再結晶集合組織を変えた主要因であるとは考えにくい。なお,電子線は試料内部にも侵入し,そこからの信号も取り込まれるため,η単相領域の一部に濃度の変動が見られる。これらのノイズを取り除いたとしても,η相内での元素の濃度は一定でなく,先端部に向けてAl濃度が若干低下していた。Alの濃度勾配はη相の成長の駆動力にも関係していると考えられる。また,η相とIF鋼の間にα’の存在は確認することができなかった。存在したとしてもEPMAの分解能以下の非常に薄いものであると考えられる。

Fig. 5.

Concentration maps of the elements by Fe-EPMA of the specimen heat-treated at 650ºC for 2 min. Figs, (a), (b), (c), (d) correspond to the maps of Fe, Al, Mn, Nb, respectively.

Fig. 6.

Line profiles of the concentration of both Mn and Al near the steel/Al interface on the specimen heat-treated at 650ºC for 2 min. Fig. (b) is the profile of the line 1 in fig. (a): fig. (c) is the profile of the line 2 in fig. (a).

次に,η相の成長によるIF鋼への力学的な影響について考察する。η相のc軸へ優先成長は,c軸方向へのAlサイトの空孔の存在により,その方向への拡散が早いことで説明されている15)η相の成長は,成長過程において周囲に応力を与えることが考えられ,長時間熱処理すると,c軸への優先性が崩れることも報告されている。本研究でもη相に囲まれた領域で再結晶集合組織が変化しており,η相の成長に伴う周囲への応力状態が再結晶挙動に影響している可能性がある。

BCC鉄は,格子定数2.86Åの単位格子に鉄2個を含み,単位格子の体積は23.4Å3であることから,鉄原子1個当たりの占有体積は11.7Å3となる。一方,η相は,斜方晶系のoC24構造であり,格子定数は,a=7.66,b=6.42,c=4.22Åとc軸が若干短く,その単位胞に15.2の原子を含む。単位格子の体積は207.5Å3,金属原子1個当たりの占有体積は13.65Å3である。このように原子1個当たりの占有体積が大きく変化するので,η相の成長は周囲の鉄を歪ませる。特に,a軸,b軸方向には圧縮変形が加わることになる。これにより,通常IF鋼で見られたγ-fiberが見られず,そこから回転した方位が観察されたと考えられる。

Fig.2Fig.3において,η相に囲まれたIF鋼は,等軸組織を有しながら,粒内での方位分散が見られ,KAM値も特にη相との界面付近で局所的に高い領域があった。これに関して,TEMによる下部組織の観察を行った。650°C,2分処理材について,事前にEBSD観察し,η相に囲まれた特定部分をFIBにて切り出しを行った。Fig.7(a,b)にEBSD測定結果と,FIB切り出し位置,Fig.7(c)はFIBでピックアップした試験片の写真を示す。この試験片について,η相の成長方向に電子線を照射し下部組織観察を実施した。Fig.8に界面付近の明視野像を示す。EPMAでは明確ではなかったが,界面には約100 nmの薄いFe固溶体相が存在していた。WDS(波長分散型X線分析)による組成は,Al: 29.2 at.%,Mn:0.34%,Fe:70.5%であることから,その領域はα’(B2)相であると考えられる。IF鋼領域では,試料全体に渡って加工組織のような高転位密度の下部組織が観察されることはないが,IF鋼領域でも界面付近(B)で転位が密集した部分が存在し,明らかに再結晶した組織とは異なっていた。以上より,回復,再結晶途中の結晶粒はη相の侵食に伴う拘束で歪まされた状態にあると言える。なお,η相内部に見られる(格子)縞状の組織は,熱処理後の冷却過程で,η相における規則-不規則変態16,17)が生じたことに由来するコントラストと推定される。

Fig. 7.

Preparatory EBSD analysis for TEM observation of the sample which was picked up from the joint part, annealed at 650 ºC for 2 min: (a) inverse pole figure map (ND) of the steel, in which pickup part indicated by a red rectangular, (b) inverse pole figure map (ND) of η phase, (c) pickup specimen by FIB.

Fig. 8.

TEM micrographs of joint part of the specimen annealed at 650 ºC for 2 min. Fig. (a) is a bright field image. Fig. (b) is the magnified BF image of fig. (a). Fig. (c) is the diffraction pattern of the point A in fig. (a) . Fig, (d) is the diffraction pattern of the point B in fig, (a) .

ここで,η相のtongue状の形成について考察する。Takataら9)は,αη変態に伴う応力場がtongue(論文中ではsaw-tooth)形状を生成させる機構を提案している。η相とFeの格子の違いから,成長方向には引張場,成長方向と垂直方向には圧縮場が生じ,空孔は圧縮場に,Al原子は先端側に拡散(拡散クリープ)し,結果として展伸したη結晶粒が形成されると考えた。今回のEBSD方位解析結果によると,谷部には異相界面垂直方向にcから外れた微細な等軸粒が存在していたことから,応力場以外に結晶方位の影響も考えられる。η相は核生成時に比較的ランダムな方位を有していると考えられる。これらがそれぞれc軸に向かって成長する際,他の方向は互いにぶつかり合い成長が止められ,結果として,異相界面垂直方向にc軸が向いた結晶粒が優勢となりtongue状になった可能性がある。

Fig.9に,Fig.7のB,C部について,異相界面付近での方位変化をプロットした結果を示す。隣接する測定点間の方位差(misorientation)を実線で,異相界面を起点として,その点と各測定点との方位差を破線で示す。IF鋼では,異相界面近傍にて方位が変化し,内側に比べ3~4°方位回転している。η相も方位変化は存在するものの,IF鋼よりも小さい。両者の違いは,材料の硬さや弾性率に由来すると考えられる。

Fig. 9.

Line profiles of misorientations along the lines near the phase boundaries. Figs. (a) and (b) correspond to the regions, B and C in fig.7, respectively.

ここで,2分保持材と10分保持材のη相に囲まれたIF鋼部のミクロ組織の違いについて考察する。Fig.2のミクロ組織では,2分保持段階でのη相先端部厚みは約40 µmであり,10分保持段階でのη相の根元(谷)部分の厚みは50~60 µmであった。つまり,10分保持後に観察されたη相に囲まれた部分は,保持時間2分段階ではまだη相の影響を受けていなかったはずである。2分保持の段階で沖合にあったIF鋼は既に再結晶を開始していることから,一部の再結晶粒がパンケーキ状に成長し始めている途中でη相が侵食してきたため,2分保持材よりも混粒になったと考えられる。η相が侵食する場合としない場合での再結晶過程の模式図をFig.10に示す。γ-fiber,α-fiber,η相の影響で方位が変化した他の結晶方位を色分けし,粒界性格についても高角と低角粒界を分けて示した。本実験では,再結晶の進行とともにη相による拘束を受けるため,η相が成長してくる時の再結晶状態により粒径や結晶方位が変化する。Fig.2,3η相に囲まれたIF鋼のKAM値,Fig.8の下部組織,そしてFig.9の方位変化には,いずれもη相の拘束が強く影響していることを説明するものである。しかし,Fig.9の3~4°の方位変化は,Fig.4の集合組織解析によるものより小さな値であることから,η相の存在は,鋼との界面極近傍の方位を回転させるだけでなく,η相間に囲まれた全体の領域に影響を与える。つまり,η相間に囲まれた領域全体を回転変形させることや,η相による拘束が再結晶核方位そのものに影響を与えていることが考えられる。また,動的な回復や再結晶も生じるため,一旦再結晶した結晶粒も,ηの成長により変形が加わり,熱処理後の粒内に亜粒界や局所的な方位変化が確認されたと推測される。

Fig. 10.

Schematic image of recrystallization behaviors of the IF steel with and without growing η phase.

最後に,特異な結晶方位が出現した原因の3番目として,接合界面ではη相/α界面が再結晶核生成サイトとなり,母材中心部での変形帯などから通常の冷間圧延された軟鋼板の典型的な再結晶方位と異なる方位が生成したことが考えられる。η相に囲まれた領域では,等軸晶状の組織となっており,異相界面より少し内側においても,鉄の典型的な再結晶集合組織とは異なる方位が観察されていることから,この要因も無視できないが,これだけでは本実験で得られた集合組織の変化は説明できないと考えられる。

η相の成長は,実際3次元でみると,鉄とAlの接合界面から突起状に伸びており10),3次元的な拘束力の解析が必要である。η相の成長とそれに伴う鉄の再結晶の関係についてはさらなるメカニズムの解明が必要である。

5. 結言

本研究では,冷間加工ままNb添加IF鋼板とAl板を接合し,Fe-Alの界面反応とIF鋼の再結晶が競合する条件で熱処理を行いミクロ組織変化について解析した結果,以下の知見を得た。

(1) η相はc軸方向に優先的に成長し,その形状はtongue状であった。これらに囲まれたIF鋼の結晶粒は圧延加工粒から変化し,一見すると等軸晶状の組織を呈していた。熱処理時間を長時間化し,母相側の再結晶が進行した条件では,一部粗大な結晶粒が存在する混粒となった。

(2)η相に囲まれた部分では,一般的なIF鋼の再結晶集合組織から偏移した結晶方位を有していた。結晶粒内での方位分散も存在し,GN転位に相当するKAM値が局所的に高い領域が見られた。

(3)このようなη相に囲まれた領域での集合組織変化は,異相界面近傍でのIF鋼のAl濃度が母相と殆ど変わらないことからAl量の影響とは考えられず,モル体積の違いによるη相の拘束が,再結晶集合組織に影響を及ぼしたと推定される。

(4)再結晶途中でη相が侵食することで,IF鋼の結晶が回転する。しかし,異相界面近傍での局所的な方位変化だけでは,η相に囲まれた部分全体の集合組織を説明することはできず,η相の成長・拘束が再結晶核方位にも影響を及ぼしていると考えられる。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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