鉄と鋼
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特集号:今後の資源・環境問題解決に資する鉄鉱石処理プロセス
点火中および点火直後における表面付近の温度測定のための焼結鍋試験装置
平 健治 原 恭輔
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2021 年 107 巻 6 号 p. 494-501

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Abstract

For achieving high sinter yield and quality, various technologies are being implemented and developed to control the heat pattern during the sintering reaction. Further improvements in these technologies necessitate detailed time-course profiles of temperature at all sinter-bed heights; however, no technique has yet been reported for determining the temperature distribution in the top layers of the sinter bed at high spatial and time resolutions. Herein, detailed heat patterns in these layers were visualized by a newly developed pot test apparatus having ~300-mm sinter-bed height. The developed apparatus demonstrated the effect of ignition time on heat patterns during combustion and immediately after ignition. Ignition times of 30, 60, and 90 s demonstrated that the high-temperature holding time increased with an increase in ignition time, and this effect is more evident in the top layer. All parameters, including high-temperature holding time, flue gas composition, and sinter yield, suggest that a longer ignition time intensified coke combustion in the top half layer. The developed technique to measure the temperature in the top layer will quantitatively clarify the effect of segregation or ignition condition on the heat pattern in the top layer.

1. 緒言

製鉄所の焼結工程では,連続式の生産設備であるドワイトロイド式焼結機が古くより利用されている1)。ドワイトロイド式焼結機は,下方吸引式の火格子燃焼装置であり,点火バーナーによって焼結層の表面付近の凝結材が着火して以降は,気流に沿って燃焼が下方へと伝播していく。一度燃焼が開始すると,焼結層全体の燃焼反応は,連続的に吸引される空気の流れによって自発的に進行し,最終的に焼結層全体が焼結鉱へと変化する。こうして得られる焼結鉱の品質と歩留は,点火条件と装入された焼結層の状態に大きく影響を受けることが知られている。

点火バーナーの改良によって点火条件を変化させることで,焼結機の歩留とエネルギー効率の向上が進められている。鉄鋼メーカー各社がそれぞれ独自にラインバーナー2),マルチスリットバーナー3,4),そして表面燃焼バーナー5)といったバーナーの開発や改良を行っている。一部のバーナーでは,燃料と空気の流路を工夫することにより,火炎中のO2濃度の最適化も達成されている6)。火炎中のO2濃度を制御することで,焼結層内での固体燃料の燃焼とバーナーの高いエネルギー効率との両立が図られている。点火バーナーの継続的な改良により,焼結層の表面付近での凝結材の燃焼率は向上してきているが,それでもなお表面付近の歩留は低くなりやすい傾向がある7)。この問題を解決するために,さまざまな技術が開発され,焼結機に実装されている5,811)。こうした技術のうち,最も広く活用されているものは,焼結原料の偏析である。ISF(intensified sifting feeder)などを使用して,細かい凝結材粒子を上層に濃縮することで,上層への凝結材の供給量を増やし,燃焼時の発熱量を増加させている11,12)。これにより,上層での歩留向上が達成されている。また,点火後に粉コークスを焼結層の表面に添加することも,焼結鉱の強度と還元性の向上に有効であることが報告されている13)。バーナーによる点火の完了後,添加された粉コークスは焼結層の表面からの熱供給により着火し,燃焼する。この燃焼熱によって表面付近での焼結反応が促進され,歩留が向上する。上層で発生した熱は気流に沿って下向きに流れ,下層の凝結材を着火させる。この時,下層の凝結材の燃焼の仕方はその上層の燃焼状態に影響される。つまり,表面付近のヒートパターンは,焼結層全体の品質と歩留に影響を与えるため,表面付近のヒートパターンの制御は,上層の歩留だけでなく,焼結機全体の生産性向上のためにも非常に重要である。

焼結鉱の品質をさらに向上させ,より高い歩留を得ること,そして,それによりCO2排出量を削減するためには,焼結原料の偏析と点火条件をさらに改善する必要がある。焼結層内の温度分布とその時間変化に関する詳細な情報を取得することで,表面付近のヒートパターンに対する各技術の効果を定量的に評価できると期待される。過去の研究では,中間層と下層におけるヒートパターンは詳細に可視化されているものの,特に表面付近で燃焼が進行している最中のヒートパターンを測定することはできていなかった14)。そこで,本研究では,点火中および点火直後の表面付近の温度と,表面付近のヒートパターンの時間変化を測定するための鍋試験装置を開発した。さらに,開発した鍋試験装置を用いて点火時間とヒートパターンの関係を検証し,点火条件が表面付近を含む焼結層全体のヒートパターンに与える影響を評価できることを確認した。

2. 実験方法

2・1 開発した鍋試験装置概略と焼結層表面付近の温度測定のための準備

焼結層内の温度測定に関する前回の報告では,焼結層内部で熱電対を垂直方向に走査して,焼結層内部の各位置の温度を測定しており,これにより表面付近を除く焼結層内の詳細なヒートパターンの時間変化を実験的に視覚化することに成功している14)。本研究でも類似の方法を使用しているが,既報とは電動スライダーと熱電対の位置が異なっている。Fig.1に,焼結層の表面付近の温度測定用に開発された鍋試験装置の概略図を示す。この装置は,直径319 mmの鋼管と厚さ9 mmの鋼板を使用して作成した。焼結原料充填部の内径は284 mm,深さは302 mmである。鍋試験装置の下部に設けられた空間に,ステップモーターを搭載した電動スライダー(オリエンタルモーター,EASシリーズ)を設置した。厚さ9 mmのロストルを原料充填部の底に設置し,さらに,原料充填部の内壁に厚さ10 mmのグラスウール断熱シートを設置した。残った直径260 mm程度の空間を原料充填部とし,以降の手順で原料を充填した。鍋試験装置下部の空間の天板に穴を開け,鍋試験装置の中心軸に沿って,内径1.2 mm外径1.8 mm,長さ440 mmのアルミナチューブ(TRIOセラミック,PTOシリーズ)を挿入した。 アルミナ管を通した穴とアルミナ管の隙間は耐熱粘土で埋没し,ガスの漏れ込みを防止した。この時,アルミナ管の中で熱電対が滑らかに動作するように,電動スライダーと熱電対の固定位置を決定した。アルミナ管の肉厚は0.3 mmであり,アルミナ管の直径は原料の平均粒径よりも小さかった。紐を用いてアルミナ管を鉛直に保持し,目詰まりを防止するために,アルミナ管の上側の穴をテープで覆った。原料充填部に,造粒機で事前混合した原料を装入した。焼結層の厚さは,~20 mmの返鉱層を含めて,~300 mmである。焼結原料の配合は,過去の研究に倣って決定した(Table 1)14,15)。なお,全ての試験において,凝結材としてコークスを利用した。アルミナ管の上側に設置したテープを外し,アルミナ管の下側から耐熱型のK型シース熱電対(岡崎製作所,HOSKINS2300シリーズ,シース外径1.0 mm,シース長460 mm)を垂直に挿入した。熱電対のシースのスリーブ部を電動スライダーのステージに固定し,上下方向へ動作させた。Pt–RhシースのR熱電対は高価で壊れやすいため,本研究ではK熱電対を使用した。熱電対の先端部は,点火の開始まで,焼結層の表面から20 mm離れた位置に保持した。これは,バーナーによる点火の最中に進行する焼結反応により,表面が約20 mm下方に移動するためである。

Fig. 1.

Schematics of the pot test for temperature measurements. Lifting gears are not shown.

Table 1. Blending ratio of the raw materials for the pot test.
Raw material Ratio (wt%)
Iron ore 68.92
Limestone 11.86
Olivine 0.42
Quicklime 0.84
Return ore 12.53
Coke 3.93
Dolomite 1.50
Total 100

Fig.1に示すように,電動スライダーと熱電対は点火バーナーからの干渉を受けることなく動作することができる。したがって,バーナーによる点火中にも,焼結層内部の温度を熱電対で測定可能である。焼結反応中のガス流路をFig.1に矢印で示す。焼結層の底と電動スライダーを設置した鍋試験装置下部の空間の天板との隙間は82 mmであり,本研究の試験条件では圧力損失がほとんど生じることなくガスが流れることができると判断した。なお,アルミナ管の内部は大気圧に保持されており,減圧部には接続されていない(付録Fig.A1)。したがって,測定中にアルミナ管を通って流れるガスは無視することができる。

2・2 表面付近の温度測定のための鍋試験

鍋試験装置に2000 L/minの空気吸引を開始し,続いて,液化石油ガス(LPG)と空気をそれぞれ75および2300 L/minで供給するバーナーを用いて,焼結層の表面を30 s,60 s,または90 s点火した。電動スライダーの過熱を避けるために,試験開始から終了まで電動スライダー周辺をスポットクーラーで冷却した。排ガス中のO2,CO2,CO濃度は,ガス分析計(島津製作所,CLM-108,URA-208)を用いて,焼結反応終了まで測定した。鍋試験装置下部の負圧を制御することで,焼結層を流れるガス流量は,焼結反応試験全体を通じて2000 L/minに維持された。この流量は,層厚600 mmの鍋試験における流量の時間変化を参考に決定した。すなわち,層厚600 mmの試験では,上層300 mmが燃焼している最中の流量は約2000 L/minで一定であったため,この値とした。熱電対による温度測定値は,データロガー(T&D,MCR-4TC)によって0.1sごとに記録した。熱電対の走査は,点火開始から30 s後に開始した。この時,バーナーによる点火中の焼結反応の進行により,焼結層の表面が点火後には約20 mm下がったため,走査開始前の熱電対の先端は火格子から280 mm,すなわち,点火前の焼結層表面から20 mmの位置に保持した。走査速度は,既報に従って,上方向と下方向でそれぞれ3.0および5.0 mm/sとした14)。この走査速度を用いることで,アルミナ管内を走査した熱電対の温度測定値と,側壁から挿入された熱電対の温度測定値とがほぼ一致することが確認されている。取得したデータを,ヒートパターンとその時間変化を視覚的に確認するためにMATLABで解析した。温度,測定位置,および測定時刻を,3次元グラフにプロットし,さらに,プロットしたデータ点間を補間し,10 sおよび2 mmごとに格子データとして再構築した。データ解析方法のより詳細については,既報に記載の通りである14)。焼結反応終了後,得られた焼結鉱を上半分と下半分の層に分け,各層についてシャッター試験,ふるい分けを行った。点火時間を30 sとした試験では,焼結反応がほとんど進行せず,上下に二分できるだけの強度が得られなかったため,焼結層全体をまとめて評価した。歩留は,直径が5 mmを超える焼結粒子の比率として計算した。なお,歩留評価の際には,用いた返鉱の量を差し引いた値を用いた。鍋試験の再現性を確認するために,各点火時間について,鍋試験の手順全体を2回ずつ実行した。

3. 実験結果おとび考察

3・1 各点火条件におけるヒートパターン

各点火条件における一連の温度測定により,点火時間とヒートパターンの関係を評価した。Fig.2~4に示されるように,点火後の焼結層表面の位置である280 mmの温度は,点火時間の増加とともに上昇した。280 mmでの温度は,点火時間90 sとした場合には点火中に1200°Cより高くなったのに対し(Fig.4),点火時間30 sの場合には点火中の温度は約800°Cにとどまった(Fig.2)。一方,点火中のフレームフロントの位置は,点火時間に依存せず,約260 mmのままであった。これは,バーナーによる点火中には,フレームフロントがほとんど動かなかったことを示している。この現象は4つの要因によって引き起こされたと解釈した。一つ目の要因は,燃焼帯の温度上昇が融液生成によって制限されたことである。Fig.2~4の280 mmの温度は,点火時間に比例して増加しておらず,90 sの点火後においてもピーク温度は1200°C未満のままであった。焼結層内では,酸化カルシウムと酸化鉄が反応することで,融点1200°C程度のカルシウムフェライトが形成される16,17)。バーナーから供給される熱が,カルシウムフェライトの融液生成に利用された結果,焼結層の温度上昇が抑えられたと考えられる。したがって,バーナーからの入熱量が増えても,必ずしも下層のコークスの着火が促進されることにはならないと考えられる。二つ目の要因は,点火中に表面近くのコークスが消費されてしまうことである。点火時間の増加に伴い,表面近くのコークスが燃焼し,消費される。これにより,バーナーによる点火が完了した時点では,表面付近に残留するコークスの量が少なくなっており,コークスの燃焼によって発生する発熱量が減少したと考えられる。これは,表面近くの最高到達温度を低下させると予想される。点火時間90 sの試験における,点火中および点火後の温度測定結果も,この考察と矛盾しない結果となった。Fig.4に示すように,280から270 mmの部分では,90 sの点火完了直後に温度が低下し始めた。これは,層内のコークスがバーナー点火中に燃焼し切ったことを示唆している。三つ目の要因は,焼結反応によって引き起こされる,焼結層内における不均一なガス流れである。点火完了後,焼結鉱と鍋試験装置の内壁との間に数mmの小さな隙間が観察された。これは,鍋試験装置の内壁の近くで圧力損失が低下していることを示唆している18,19)。また,温度測定の結果から,焼結層の中心軸付近では融液の生成が進んでいると推定される。この融液生成に起因する圧力損失により,焼結層の中心軸付近ではガス流速が低下し,点火時のフレームフロントスピード(FFS)が低下したと考えられる20)。最後に,四つめの要因は,点火バーナーの火炎によってO2が消費されたことである。LPGバーナーによって,吸引される空気中のO2が消費される。これにより,吸引される空気中のO2濃度が低下し,フレームフロントでの点火が進行し難くなったと考えられる。

Fig. 2.

Temperature measurement result for 30-s ignition.

Fig. 4.

Temperature measurement result for 90-s ignition.

上層で放出された熱は,気流によって下層へと移動して蓄積されていく。その結果,上層と比べて下層の温度は高温になりやすいことが知られている7,11,12)。上層での燃焼中の温度は,下層における熱の蓄積量に影響を与え,その結果として下層の温度を変化させることとなる。Fig.2~4は,ヒートパターン全体の点火時間への依存性を示している。点火時間が30 s間の場合,表面付近のコークスに点火することができなかった。30 s間の点火中に検出されたピーク温度は約800°Cで,これはコークス粒子の点火温度,すなわち約600°Cよりも高くなっている。しかしながら,表面は冷たい外気にさらされており,すぐに冷却されてしまう。こうした急速な冷却によって,点火直後の表面付近ではコークスの燃焼が速やかに終結したと考えられる。一方で,点火時間が60 sの結果は,ヒートパターンの一般的な傾向とよく一致するものとなった。ピーク温度が上昇し,フレームフロントの下方への伝播とともに高温保持時間が延長された(Fig.2)。焼結層の上部50 mm(Fig.3の280~230 mm)では,ピーク温度は1000°C未満のままであったが,焼結層の底から約220 mmでピーク温度が1200°Cを超え,それより下層では,層内で放出される燃焼熱によりさらに上昇した(Fig.3)。熱の蓄積により,焼結層の温度が上昇し,下層での融液生成が進行したと考えられる。点火時間が90 sの場合には,温度と高温保持時間がさらに増加した。Fig.4の点火時間90 sの場合における280 mmの温度は,Fig.3に示す点火時間60 sの場合よりも高かった。さらに,260 mmにおいても点火時間90 sでは1200°C以上の層が確認され,それに伴い下層の高温保持時間が延長された。確認された高温保持時間に対する点火時間の影響を,Fig.5に定量的に示す。最底部(Fig.5の2~40 mm)以外の焼結層のすべての位置で,点火時間90 sの条件において,点火時間60 sおよび30 sの場合よりも高温保持時間が長くなった。また,下層に向かうに従って,保持時間が長くなる傾向が確認された。この結果から,焼結反応中のヒートパターン全体に対する点火時間の影響が確かめられた。なお,最低部(Fig.5の2~40 mm)の高温保持時間が,その他の部分と異なる傾向を示した原因については,3・3節で議論する。

Fig. 3.

Temperature measurement result for 60-s ignition.

Fig. 5.

Average temperature holding time above 1200ºC at each layer under the 30-, 60-, and 90-s ignition conditions. The layer from 0 to 20 mm corresponds to the return-ore layer. The edges of the error bars correspond to the values of the first and second tests.

三種類の点火時間それぞれでの焼結鉱の歩留をTable 2に示す。点火時間が30 sの場合にはコークスの燃焼が下層まで伝播しなかったため,下層部の歩留は0%となった。焼結鉱は,点火時にバーナー火炎によって直接加熱された表面近傍にのみ形成されたことが確認された。一方で,焼結鉱の歩留は点火時間の増加とともに着実に増加した。点火時間90 sの場合では,上層と下層の両方の層で歩留が最も高くなったが,点火時間60 sの場合との差異は上層でより顕著であった。点火時間90 sでは64.3%の収率が得られたのに対し,点火時間60 sでは42.3%の収率しか得られなかった。この結果は,ヒートパターンと排ガス組成の時間変化と一致していた(Fig.5)。すなわち,点火時間が長くなると,表面付近の高温保持時間が大きく延伸されるため,点火時間が長くなるほど上層部の歩留が高くなったと考えられる。

Table 2. Yields for the top and bottom halves of the sinter cake. The two values in the parenthesis are the yields for the first and the second tests. As for the ignition time of 30 s, the yield was attributed to the top half layer since the bottom half layer remained the wet raw material after the reaction.
Ignition time (s) Top half (%) Bottom half (%)
30 25.6 (23.6, 27.4) 0 (0, 0)
60 42.3 (46.4, 38.1) 72.6 (71.5, 73.6)
90 64.3 (65.3, 63.3) 76.9 (77.0, 76.7)

3・2 点火時間と排ガス組成との関係

Fig.2~4の温度測定結果の妥当性を,燃焼中の排ガス組成によって評価した。Fig.6(a)に,排ガス中のCO2濃度を示す。点火中のCO2濃度は,点火時間が長くなるにつれて増加した。排ガス中のCO2濃度は,点火時間が30 sの条件では最大でも約9%にとどまったが,点火時間60 sや90 sの条件では約14%にも達した(Fig.6(a))。これらの結果は,点火時間30 sでは,焼結混合物中のコークスに十分に点火できなかったことを示唆している。事実,点火時間30 sの場合には点火終了直後にCO2が発生しなくなった。この結果は,燃焼が下方に伝播しなかったことを示す,Fig.2の温度測定結果と一致している。

Fig. 6.

Composition of the flue gas for pot tests (a) CO2, (b) O2, and (c) CO.

点火時間60 sと90 sの場合における排ガス組成についても,温度測定結果と矛盾しないものとなっている。点火時間60 sと90 sの排ガス組成を比較すると,CO2濃度は点火時間が長くなるに従って増加していた(Fig.6(a))。約200 sでのCO2濃度は,点火時間60 sの場合よりも90 sの場合に明らかに高くなっており,点火時間90 sではより激しく燃焼していると考えられる。CO2濃度は点火時間60 sの条件では,200 sの時点で約7%にまで低下したが,一方で点火時間90 sの場合には8%超に留まっていた。また,O2濃度についても,約200 sの時点で90 sの場合の方が点火時間60 sの場合よりも低く,点火時間90 sの条件では60 s条件よりも激しく燃焼が進行していることが示唆された(Fig.6(b))。これらの結果は,Fig.3およびFig.4の温度測定結果とよく一致している。約200 sの時点での焼結層内部のピーク温度は,点火時間90 sの場合に1291°C,点火時間60 sでは1137°Cであった。この結果も,上層からの潤沢な熱供給により,点火時間60 sの場合よりも点火時間90 sの場合においてコークスの燃焼が激しくなったことを示唆している。上述のように,燃焼排ガスの組成は,燃焼中の温度測定結果と矛盾がないものとなっており,本研究の温度測定法の妥当性を示している。

3・3 取得されたデータの有用性

本研究の温度測定手法の妥当性は,温度測定結果,歩留,そして排ガス組成によって裏付けられた。点火時間をより長くすることで,焼結層内でのコークスが効率的に燃焼し,より長い高温保持時間が得られる様子が確認された。本節では,取得したデータの有効性をよりよく理解するために,いくつかの点について説明を行う。

まず初めに留意すべきは下層の温度である。Fig.5に示したように,図中100から2 mmに対応する最下層付近の高温保持時間は,同図中280から102 mmの層と比較してエラーバーが大きくなっている。さらに,同図中80~2 mmの層では,点火時間60 sのエラーバーの端が点火時間90 sの値を上回っていた。こうした,最下層付近における温度測定結果の不安定性は,FFSの不均一性に起因したと推定した。多くの報告で,FFSの値は,鍋試験装置の内壁付近においては,焼結層の中心付近よりも大きくなる傾向があることが指摘されている18,19)。この傾向により,鍋試験装置の内壁付近では,中心部よりも早いタイミングでフレームフロントが最下層に到達したと考えられる。この仮定は実験結果によっても裏付けられている。Fig.7に示す通り,鍋試験装置下部の負圧は800 s程度で低下し始めており,焼結層のどこかで燃焼が最下層まで進行したことを示唆している。また,Fig.6(a)に示す通り,800 s程度でCO2濃度が急激に減少し始めており,コークスの燃焼完了と,焼結層のどこかで焼結反応が完了したことを示唆している。一方で,Fig.3Fig.4に示す通り,中心軸付近の温度測定結果によると800 sの時点ではフレームフロントは約70 mmの位置に留まっていた。これは,焼結層の中心軸付近ではフレームフロントが最下層に到達していないことを示す。これらの結果は,中心軸付近以外の位置,すなわち鍋試験装置の内壁の近くで焼結反応が完了したことを示唆している。鍋試験装置内壁付近で焼結反応が完了すると,その周辺での圧力損失が低下し,内壁付近に選択的に空気が流れることとなる。これによって,焼結層の一部では空気供給が不十分となったと考えられる。すなわち,鍋試験装置内壁付近での焼結完了により,80~2 mmの位置で不均一なガス流が発生し,それによってヒートパターンが変形したものと考えられる。以上のように,焼結層の底部付近の温度測定結果は,焼結反応進行速度の不均一性の影響を強く受けていると考えられるので,慎重に解釈する必要がある。この問題を解決するには,鍋試験装置の設計を見直し,焼結層をより厚くすることが効果的と考えられる。

Fig. 7.

Negative pressure below the sinter bed during the reaction.

2つ目に留意すべき点は,温度測定結果の再現性である。本研究では,各測定に熱電対を1本だけしか使用しておらず,これは,本方法では焼結層の中心軸付近の温度しか取得できないことを意味している。一方,焼結層は不可避的に不均一となっている。コークス粒子は,焼結混合物中に分散しており,さらには 焼結反応により焼結層に亀裂が形成され,反応中にガス流が不均一となる。たった一度の温度測定結果だけで議論を進めると,そうした不均一性による影響を考察することができない。したがって,温度測定結果の有効性を確認するために,測定を複数回実行することが推奨される。

3・4 提案された温度測定手法のさらなる適用先

3・1節と3・2節に示した結果から,本研究で示された鍋試験装置により,バーナー点火および燃焼中の温度分布と,排ガス組成の時間変化との相互評価が可能になることが示唆された。上半分と下半分の各層の歩留は,対応する層の高温保持時間とよく一致しており,焼結層の表面付近の温度に対するさまざまな技術のヒートパターンへの影響を定量的に可視化できると考えられる。以下では,本研究の手法を適用可能と考えられる研究分野について示す。

焼結原料の偏析は,表面付近の歩留と焼結鉱品質を高めるために最も広く活用されている技術である11,12)。特に広く利用される凝結材,すなわちコークスと石炭の偏析はもちろんのこと,微粒子マグネタイトの偏析が表面付近での融液生成と歩留増大に寄与することも報告されている21)。本研究で提案された温度測定技術を適用すれば,10 mm未満という高い空間分解能で温度分布を定量的に推定することができる。これにより,焼結原料の最適な配合と偏析状態を決定することができ,表面付近の生産性を高めることができると考えられる。

焼結機では,さまざまな点火バーナーが使用されている。焼結機用のサイドバーナー,ラインバーナー2),マルチスリットバーナー3,4),そして表面燃焼バーナー5)などが利用されているが,バーナーの種類によって表層付近のヒートパターンがどのように変化するかを詳細に調べた報告はない。これらのバーナー火炎のピーク温度や火炎中のO2濃度といったパラメーターが,焼結層上層のヒートパターンに与える影響を精査すれば,バーナーの改良に寄与する知見が得られると期待される。

4. 結言

焼結層厚約300 mmの,新しく開発した鍋試験装置を用いて,焼結層の表面付近の詳細なヒートパターンを測定した。開発した鍋試験装置によって,バーナー点火中およびバーナーによる点火直後のヒートパターンに対する点火時間の影響を定量的に示した。火格子から280 mmの位置での温度は,点火時間30 sの条件では800°C未満のままであったが,点火時間90 sの場合には1200°C以上となった。点火中の温度は,点火直後の温度にも影響を与えた。点火時間30 sの場合には,焼結層内のコークスに効率よく点火できず,燃焼が途中で停止してしまった。一方,点火時間60 sおよび90 sの試験では,いずれも焼結層のコークス粒子が正常に点火されたが,燃焼帯のピーク温度は異なっていた。点火時間90 sの場合には,222 mmから280 mmの全ての位置で燃焼中のピーク温度は1200°Cを超えたが,点火時間60 sの条件ではフレームフロントが約220 mmに達するまで,ピーク温度は1200°Cに到達しなかった。点火時間が長いほど,燃焼全体の高温保持時間が長くなり,歩留が向上した。点火時間の違いによる影響は上半分の層でより顕著であった。燃焼排ガス組成もまた,点火時間が長くなるほど,表面付近におけるコークスの燃焼が激しくなることを示唆していた。

付録

The vacuum region of th pot test apparatus

Fig. A1

The vacuum region of the pot test apparatus.

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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