鉄と鋼
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特集号:今後の資源・環境問題解決に資する鉄鉱石処理プロセス
部分還元処理による鉄鉱石中りんのダイカルシウムシリケート相への濃化
丸岡 伸洋 久保 裕也
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2021 年 107 巻 6 号 p. 527-533

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Abstract

It is necessary to develop an innovative iron-making technology for low-grade iron ore containing a high concentration of P. In this study, we propose a new process for enriching phosphorus in the C2S phase by mixing high-P iron ore, CaO, and graphite in appropriate proportions and partially reducing it. In this study, high-P iron ore adjusted to various basicities and reducing agent ratios was heated at 1573 K in Ar atmosphere, and the obtained sample was analyzed by EPMA. The results showed that in the reduced sample obtained under the conditions of C/S = 2.0 and Target FetO = 60%, more than 95% of P was distributed to the C2S phase, and the P content in metallic iron was sufficiently low.

1. 緒言

現行の一貫製鉄法は,高炉で鉄鉱石を炭素還元し,次の製鋼工程で不純物を除去する分業体制である。高炉の炉床近傍は炭素飽和であるため酸素ポテンシャルが低く,PやSiなどの不純物元素までもが還元される。特にPはほぼ全量が還元されて溶銑に移行し,製鋼工程で再酸化することでスラグとして除去されている。近年の鉄鋼原料の低品位化,特に鉄鉱石中のリン(P)濃度の増加1),および鉄鋼製品の高品質化に伴う溶鋼中P濃度の極低化要求の高まりから製鋼工程の負荷増大が懸念されており2),劣質原料対応型製鉄法の開発は急務の課題である。劣質原料対応型製鉄法に関する取り組みはこれまでに数多くなされており,その1つの手法として著者らは鉄鉱石の予備還元処理により,高炉装入前の原料からPを現行製鋼工程温度より低温で除去するプロセスを提案している35)。高炉原料の各温度,酸素分圧下における還元平衡組成を計算熱力学ソフトFactsage 6.4を用いて試算した結果をFig.1に示す。平衡相は①未還元の酸化物領域,②液相金属鉄領域,③固相金属鉄領域,④PおよびMnが還元し液相鉄に移行する領域,⑤PおよびMnが還元し固相鉄に移行する領域,⑥PおよびMnに加えSiまでもが還元し液相鉄に移行する領域に分かれる。図中の丸印は1843 K,酸素分圧10-16 atmの条件を示しており,これは現行の高炉炉床近傍の炭素飽和環境に相当する。この条件下では,鉄鉱石中のP,Mnはほぼ全量,Siは一部還元され溶銑中に不純物として存在することが分かる。一方,領域②,③の温度,酸素分圧に制御すれば,不純物を還元させずに高純度の鉄を得る「直接製鋼プロセス」が実現する可能性がある。一般に脱Pに有利な条件は,低温,高酸素分圧,高塩基度(CaO/SiO2,C/Sと略)であるため,著者らはより低温である領域③に着目した。

Fig. 1.

Stability diagram calculated by FactSage 6.4. (Online version in color.)

著者らはこれまでに固体鉄片をP含有溶融酸化物に20時間以上浸漬させて平衡到達させた固体鉄-溶融酸化物間のPの分配を測定しており,C/S≒1.2の高炉スラグ相当の低塩基度溶融酸化物でも鉄が固体で存在する1623 K環境下では酸素分圧が10-13 atm以上の場合は酸化物相側にPが分配し,固体鉄中のP濃度は十分低いことを明らかにした4)。一方,溶融酸化物を還元して固体鉄を生成させた場合は,固体鉄中のP濃度は低いものの,Pが分配した酸化物相を包含し,相互分離が困難であることが明らかになった5)。また,Park and Jungは高アルミナ鉄鉱石が1673-1773 Kの温度域で溶融還元する際のアイアンナゲットとCaO-Al2O3系スラグ間のP分配を測定し,CaO-Al2O3系の高塩基度酸化物でもPの鉄への分配を抑制できるが,酸化物相の分離が必要であることを報告している6)

上述のように鉄が固体で存在する温度域かつ高酸素分圧環境下では,Pの還元を抑制し,酸化物相に分配することが可能である。一方,現行の製鋼プロセスでは高塩基度スラグ(C/S > 2.0)を用いて,高効率,高速脱P操業を実現している710)。塩基度が高いスラグほど溶融スラグ中にダイカルシウムシリケート相(2CaO-SiO2,以降C2Sと略)が固相として共存し,リン酸カルシウム相(3CaO-P2O5,以降C3Pと略)との固溶体(C2S-C3P固溶体,以降C2S-C3Ps.s.と略)としてPが濃化することが知られており,マルチフェーズフラックスとして積極的な利用が進められている1116)

C2S-C3Ps.s.相は水に可溶であることが知られており,Teratokoら17),Numataら18),Iwamaら19)はスラグからのPの希酸浸出の可能性を報告している。また,KuboらはC2S-C3Ps.s.含有スラグを電気パルス破砕することで単相粒子化した後,強磁場によりPの濃縮物として選別するプロセスを提案している2022)。したがって,鉄鉱石中のPもC2S相に濃化できれば,浸出処理,磁気分離処理などによって容易に選択抽出が期待できる。しかしながら鉄鉱石を出発原料としてC2Sを積極的に生成する条件についてはほとんど調査されていない。そこで本研究では,鉄鉱石の塩基度および炭材の配合比を調整し,1573 Kで還元した際に生成する各種鉱物相を調査し,Pが選択的にC2S相に濃化する条件を実験的に検討することを目的とした。

2. 実験方法

実験装置図をFig.2に示す。外径φ60 mm,内径φ52 mmのムライト製炉心管および複ら管型シリコニット発熱体を搭載した縦型管状電気抵抗炉を用いた。粉鉱石(Pを0.1 mass%,Al2O3を1.7 mass%含有するGoethite系粉鉱石),グラファイト(特級粉末試薬)およびCaO粉末を所定量秤量し,瑪瑙乳鉢で混合した。CaOはCaCO3(特級粉末試薬)を大気雰囲気下,1273 Kで熱分解して作製した。配合条件をTable 1に,加熱処理後の目標組成をプロットしたCaO-SiO2-FetO系状態図をFig.3に示す。鉄鉱石の組成はFig.3の◎に位置しており,C2Sを生成させるためには,Fig.3中に網掛けで示したC2S飽和領域に位置するよう調整する必要がある。まず,粉鉱石に含まれるSiO2を基準に,塩基度(C/S)が1.0または2.0になる量のCaOを添加した。C/S=1.0の試料はC2S飽和領域外,C/S=2.0の試料はC2S飽和領域内に位置する条件である。原料に含まれる酸化鉄を全量還元すると,高炉同様にPが還元されFe中に混入することが予想されるため,一部をスラグとして残すことが肝要である。Goethite(FeOOH)の還元反応が式(1)に従い進行すると仮定した場合に,加熱処理後試料中のFetO濃度(残存量)が5-60 mass%になる量のグラファイトを添加した。

  
FeOOH + 1.5 C Fe + 1.5 CO + 0 .5H 2 O (1)
Fig. 2.

Schematic of the experimental apparatus.

Table 1. Experimental conditions.
Sample No. Target Charged /g
C/S [−] FetO [mass%] Iron ore CaO Graphite
1 − 60 1.0 60.0 20.0 1.22 2.59
1 − 40 1.0 40.0 20.0 1.22 3.19
1 − 20 1.0 20.0 20.0 1.22 3.50
1 − 10 1.0 10.0 20.0 1.22 3.60
1 − 5 1.0 5.0 20.0 1.22 3.64
2 − 60 2.0 60.0 20.0 2.47 2.12
2 − 40 2.0 40.0 20.0 2.47 2.98
2 − 20 2.0 20.0 20.0 2.47 3.42
2 − 10 2.0 10.0 20.0 2.47 3.56
2 − 5 2.0 5.0 20.0 2.47 3.62
Fig. 3.

Ternary phase diagram of CaO-SiO2-FetO system27) with the target composition of the oxide phase.

混合試料を鉄るつぼに入れ,Ar気流中,1573 Kで1 h加熱後,炉から取り出し,るつぼ外側を水中急冷して部分還元試料を作製した。急冷後,試料を冷間樹脂に埋め込み,切断・乾式研磨し,Electron probe microanalysis(EPMA)で構成鉱物相を調査した。生成した金属鉄中のPは低濃度であることが予想されるため,標準試料を用いた検量線法を採用することで分析精度を向上させた。標準試料はPを0.01,0.1,0.5,1.0 mass%含有する金属鉄試料をそれぞれアーク溶解炉で溶製後,2重収束型ICP-MSでP濃度を定量したものを用いた。C/S=2.0の試料に関しては,EPMA組成像を各試料15視野以上取得し,各相の面積率を算出した。

3. 実験結果および考察

3・1 部分還元試料の鉱物相

部分還元処理後の試料断面のEPMA組成像の一例をFig.4に示す。代表的な組成像を掲載しており,同図に出現しない鉱物相も存在していた。全試料で還元が進行し,金属鉄相が生成していることを確認した。Goethite中のFeの主形態であるFeOOHは熱分解され,鉄鉱石中の不純物であるAl, Si, Pや添加したCaと反応することで各種鉱物相を形成した。C/S=1.0の試料は,全域に渡り平滑な連続面が観察され,実験温度において酸化物相は液相で存在していたと推察できる。一方,C/S=2.0の試料は,空隙(黒色部)が観察され,一部の液相酸化物が金属鉄相および酸化物固相を結合した組織を持つことがわかる。目標FetO濃度が60%の場合は,C/S=1.0および2.0共にFetO相,CaO-Al2O3-FetO相(CAFと略),CaO-MgO-SiO2-FetO相(CMSFと略)などのFetOを含有する鉱物相が観察された。一方,目標FetO=40%以下の場合はFetOを主とする相は観察されず,CaO-Al2O3-SiO2相(CASと略)等で構成されていた。C2S固溶体相はC/S=2.0では確認されたが,C/S=1.0では確認されなかった。

Fig. 4.

COMP image of samples after reduction at 1573 K. (Online version in color.)

EPMAで確認された金属鉄以外の酸化物相を状態図上にプロットして考察する。本実験の試料は,CaO,SiO2,FetOを主成分に,Al2O3やP2O5も含む複雑な多成分系であるが,簡単のため1573 KにおけるSiO2–CaO-FetO系等温断面図23)上に分析値を投影した。目標FetO=5%および60%のC/S=1.0および2.0の結果を抜粋してFig.5に示す。組成点の近傍の数値はAl2O3濃度を表す。

Fig. 5.

Comparison of oxide phase measured by EPMA by using SiO2–CaO–FetO system phase diagram at 1573 K23). (Online version in color.)

C/S=1.0,目標FetO=60%の条件(□ in Fig.5)では,FetO固溶体を含めた五相が確認された。この状態図は広い均一液相領域(L)によって左右に分断されているため,平衡状態であればFetO固溶体と左側の相は共存できない。FetO固溶体以外の四相は,FetO濃度が異なるが概ねC/S=1.0の線近傍に位置する。また,Fig.4のEPMA像によると,金属鉄の周囲にFetO固溶体が柱状に接触する箇所が多く存在する。したがって,FetO固溶体以外の四相を液相とみなせば,均一液相からFe成分がFetO固溶体,金属鉄として還元・析出する過渡状態にあったと推察できる。さらに還元が進行したC/S=1.0,目標FetO=5%の条件(■ in Fig.5)では,一相のみが確認された。状態図では,CS,C3S2,Lの三相,さらにAl2O3まで考慮するとGehlenite(2CaO・Al2O3・SiO2)やAnorthite(CaO・Al2O3・2SiO2)も共存し得る複雑な領域に位置している。測定値から計算すると,CSと2CaO・Al2O3・SiO2が4:1の割合で混合した場合と概ね一致する。EPMAでは一相とみなしたが,均一液相からFe成分が抜けたことによって高融点化し,SiO2–CaO–Al2O3系の酸化物が残留した状態と推察できる。

C/S=2.0,目標FetO=60%の条件(△ in Fig.5)では,FetO固溶体,C2S固溶体,中央部の合計三相が塩基度2.0の線に沿って確認された。この条件においても平衡状態では共存し得ない均一液相領域の左右の相が生成した。Fig.3に示したように,配合時の目標組成はC2S固溶体とFetO濃度が高い液相の二相共存領域に位置する。SiO2–CaO-FetO系状態図の液相線は,酸素分圧やAl2O3濃度によって変化する。例えばYajimaら24)PO2=1.8×10-3 PaにおけるSiO2–CaO–FetO–5.0 mass%Al2O3の液相線を計測し,Fig.5中の点線のようにAl2O3添加により液相線は左側にシフトすることを報告している。Al2O3の濃度が5.0 mass%を超える状態図の報告はないが,液相線はさらに左側にシフトすることが予想される。このサンプルの場合,高温状態では液相で存在していた相から冷却時にFetO固溶体が晶出することでAl2O3が滞留し,高Al2O3濃度の鉱物相が観察されたと推察できる。さらに還元が進行したC/S=2.0,目標FetO=5%の条件(▲ in Fig.5)では,平衡状態で共存し得ない多数の相が確認された。EPMAの測定領域によって確認される組成も大きく異なり,試料全体の組織が不均一であったが,固液共存状態からFe成分が還元して抜けながらカルシウムシリケート系酸化物が非平衡相として残留する傾向が示唆された。

3・2 FetO濃度とP濃度の関係

酸化物相中FetO濃度と目標FetOの関係をFig.6およびFig.7に示す。FetOは主にFetO固溶体相およびその他の相に存在したが,C2S固溶体相およびCAS相(その他の相に含まれる成分の1つ)にも0-10%程度存在した。FetO固溶体相は目標FetO濃度が60 mass%の試料のみで存在し,還元が進行すると消失し,40 mass%以下の試料ではFetOを含有する低融点の液相を形成した。さらに還元が進行するとAl2O3やCaOを主成分とする高融点の固相に変化したと推察できる。

Fig. 6.

Comparison of FetO content in oxide phases at C/S = 1.0.

Fig. 7.

Comparison of FetO content in oxide phases at C/S = 2.0.

次に,各試料の金属鉄相,C2S固溶体相,およびその他の相に含まれるP濃度と目標FetO濃度の関係をFig.8およびFig.9に示す。Fig.4に示したとおりC/S=1.0の場合はC2S固溶体相は観察されず,C/S=2.0の場合はC2S固溶体相が観察された。C/S=1.0, 2.0共に目標FetO濃度が高いほど金属鉄中のP濃度は低く,酸化物相中のP濃度が高くなる傾向を示した。これは試料中の酸素分圧がFe/FetO平衡に支配されるため,目標FetO濃度が高い条件ほど酸素分圧が高く,酸化物相の脱P能が高いことを示している。目標FetO濃度がC/S=1.0の場合は20%以上,C/S=2.0の場合は40%以上で金属鉄中にPはほとんど分配しないことが明らかになった。これは製鋼脱Pプロセスにおけるマルチフェーズフラックスの研究成果11,12)と一致する。目標FetO濃度が40%の試料では,C/S=1.0の金属鉄相中にはPは検出されないのに対し,C/S=2.0の金属鉄相中には0.2%以下と低値ではあるがPが存在しており,高塩基度ほどPは酸化物相に分配される一般的な傾向に反する結果を示した。これはFig.6およびFig.7に示したように酸化物相中のFetO濃度がC/S=2.0の方が低くなっているためで,塩基度だけでなくFetO濃度の管理も重要であることを示唆している。

Fig. 8.

Comparison of P content in each phase at C/S = 1.0.

Fig. 9.

Comparison of P content in each phase at C/S = 2.0.

金属鉄-溶融酸化物間の脱P反応は一般的に酸素分圧や溶融酸化物中FetO濃度に依存する。C/S=1.0における金属鉄-溶融酸化物のP分配とFetO濃度の関係をFig.10に示す。Pの分配比LPは次式で定義した。

  
L P = ( % P ) [ % P ] = 0.44 ( % P 2 O 5 ) [ % P ] (2)
Fig. 10.

Comparison of phosphorous distribution ratio with equilibrium value4,24).

ここで,(%M)および[%M]はそれぞれ溶融酸化物中,および金属鉄中のM濃度を示す。本研究で得られたLPは従来研究と同様にFetO濃度増加に伴い増加する傾向を示した。Maruokaら4),およびImら25)の平衡分配比(C/S=1.0前後)報告値をあわせて示す。全FetO領域にわたりC/S=1.0における平衡値と近い値を示した。また,傾きが同等であることから,還元過程におけるP分配は比較文献同様に次式に従うと推察できる。

  
[ P ] + 2.5 ( Fe t O ) = ( PO 2 .5 ) + 2 .5Fe (3)

次に,C2S共存系のP分配とFetO濃度の関係をFig.11に示す。溶融酸化物中および金属鉄中のP濃度はC2S共存の場合は著しく小さいため,次式で定義するC2S-液相間P分配比LP,SS11)で評価した。

  
L P,SS = ( % P 2 O 5 ) C 2 S ( % P 2 O 5 ) L i q o x i d e (4)
Fig. 11.

Influence of FetO content in liquid oxide phase on the distribution ratio of phosphorous between C2S and liquid oxide phases compared with results reported by Pahlevani et.al.11).

ここで,(%P2O5)C2Sおよび(%P2O5)liq-Oxideは,C2Sおよび溶融酸化物中のP2O5濃度を示す。溶融酸化物中FetO濃度の増加にともないLP,SSは増加する傾向を示した。Pahlevaniら11)の報告している1573 KにおけるC2S飽和のFetO系製鋼スラグ中の平衡LP,SSを同図に示す。平衡LP,SSと比較し,部分還元処理で得たLP,SSは大きな値を示した。本研究で用いたPは鉄鉱石由来,つまり実験初期段階では酸化物として存在する。このPが金属鉄相に移動するためには,還元反応および酸化物相から金属鉄相への物質移動を伴う。C/S=1.0の場合は,Fig.10に示したとおり,金属鉄-溶融酸化物間の分配比は平衡値と同程度の値を示しており,酸化鉄の還元反応に合わせてPの還元,分配は迅速に進行するため平衡値と近い値を示したと推察できる。一方,C/S=2.0の場合は,試料混合組成は,C2S飽和領域に位置しており,添加したCaOと部分還元処理初期に反応して溶融酸化物相が生成し,更に過剰なCaOとの接触およびFetOの還元に伴いC2S相が生成する。溶融酸化物中のP2O5はC2S相が生成する時にC2S-C3Ps.s.として迅速に固定化される15,26)ことが知られており,本実験でも同様の現象が起こったと推察できる。本研究では1時間の還元処理を実施しており,長時間保持によりPahlevaniらの報告している平衡値11)に近づくと予想できる。つまり短時間の非平衡還元処理により,平衡論で求まるP分配よりも大きな分配比が得られる可能性を示した。したがって,C2S共存系の場合は,液相中FetO濃度を10%程度まで還元してもC2Sに効率的にPを分配できることが判明した。

3・3 Pの存在比

C/S=2.0の試料中の金属鉄相,FetO固溶体相,C2S固溶体相,およびその他の相(主成分:CaO-SiO2-FetO-Al2O3)の面積率をFig.12に示す。目標FetOが小さいほど金属鉄相の割合が増加し,酸化物相の割合は大きく減少した。C2S飽和系(C/S=2.0)の各種鉱物相の面積率および分析値から算出したPの存在比率をFig.13に示す。目標FetO濃度が20%以下の条件では,80-95%のPが金属鉄中に存在することが明らかになった。一方,目標FetOが40%以上の場合は金属鉄中のPは少なく,70%以上のPがC2S中に存在することが明らかになった。特に目標FetOが60%の場合は95%以上のPがC2Sに分配することがわかる。緒言で述べたとおり,著者らが提案する鉄鉱石の部分還元処理プロセスでは,C2S相を次工程で分離するため,C2S相にPを効率よく分配させることが重要で,本成果はその可能性を強く支持するものである。Siの存在比率を同様の手法で算出した結果をFig.14に示す。C2SのSiは鉄鉱石中のSi由来で,処理後試料中のSiはC2S相,またはその他の低融点相に存在することが分かる。C2Sの析出割合が高い条件では,SiのC2S相への濃化割合が高く,C2S相分離により鉱石中のPだけでなくSiも低減できる可能性を示唆した。

Fig. 12.

Area fraction of each phase at C/S = 2.0.

Fig. 13.

P distribution as a function of target FetO content.

Fig. 14.

Si distribution as a function of target FetO content.

4. 結言

鉄鋼原料の高P化に対応するため,鉄鉱石中のPをダイカルシウムシリケート(C2S)相に濃化し,分離するプロセスを提案した。CaOおよびグラファイトを添加した鉄鉱石を1573 Kにおいて部分還元処理した試料の構成相を実験的に検討し,以下の知見を得た。

(1)還元の進行に伴い,Pは金属鉄相に分配するが,酸化物相中FetO濃度が10%以上の条件では,還元が抑制され酸化物相に留まる。

(2)C/S=1.0の場合,C2S相は生成せず,Pはその他の酸化物相に分配する。一方,C/S=2.0の場合,Pが固溶するC2S相が生成し,Pは平衡値以上に酸化物相に分配する。

(3)C/S=2.0,目標FetO=60%の条件で,95%以上のPはC2S相に分配する。

謝辞

本研究の一部は「物質・デバイス領域共同研究拠点」の共同研究プログラム,科研費(課題番号 JP 20K05591)および東北大学多元研プロジェクトの助成を受けたものです。また,有益な助言を頂いた日本鉄鋼協会 サステナブルシステム部会「エコメタラジーフォーラム」のメンバー並びに東北大学多元物質科学研究所埜上洋教授,および研究支援頂いた伊藤昭久氏,早坂未穂氏に感謝致します。

文献
 
© 2021 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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