鉄と鋼
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社会・環境
和釘の錆の微細構造に及ぼす過飽和固溶酸素の影響
永田 和宏 古主 泰子山下 孝子
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2021 年 107 巻 9 号 p. 769-779

詳細
Abstract

The oxygen concentration in old Japanese nails was measured to be 0.15 mass% to 0.38 mass% by EPMA. These nails were one with bended top used for the main hall of the Anumi shrine in 1835, one with rolled top for the gate of the Saidai-ji temple in ca. 1300, one with rolled top for the eaves of the main hall of the Amanosan-kongo-ji temple in 1085~1124 and one with bended top in the five-storied pagoda of the Bicchu-Kokubun-ji temple before 800. At the measurement point of EPMA, no oxide with the size more than 10 nm was detected by HRTEM. Oxygen in iron base of the nails is in the state of supersaturated solid solution. Oxygen was absorbed in molten iron with white sparks, ‟Wakibana”, during the processes of Tatara smelting, decarburization in Okaji process and forge-and-welding, followed by rapid solidification of iron for oxygen to be supersaturated in solid solution. This is the common characteristics of pre-modern ironmaking process in the world. A thin layer of Fe3O4 was observed in the interface between FeO layer and iron base of nail, which was formed by the reaction of oxygen supersaturated in solid solution at the interface during forging. Most of inclusions in nails were FeO silicate slag with FeO fine particles. As there were FeS particles in silicate slag inclusions in the nail of the Bicchu-kokubun-ji temple, the nail was probably manufactured from iron produced using the mixture of iron sand and iron ore by Tatara smelting in the south of Okayama prefecture.

1. 緒言

神社仏閣に使われている建築用の釘は,江戸時代まではたたら製鉄で作られた。この釘は和釘と呼ばれ,包丁鉄から作られた。たたら製鉄では砂鉄と木炭を原料に銑(ずく)と呼ぶ約3.5 mass%Cの銑鉄と1.0 mass%~1.5 mass%Cの鉧(けら)と呼ぶ高炭素鋼塊を製造した。銑鉄は大鍛冶工程で脱炭し0.1 mass%~0.2 mass%Cの包丁鉄あるいは割鉄と呼ぶ軟鉄にした。

和釘は長く朽ち落ちることなく使用されてきた。その理由として,Furunushi1)は備中国分寺の和釘を透過電子顕微鏡観察で調査した結果次のように述べている。釘製造の鍛冶工程で釘の表面に生成する酸化被膜は,母材の鉄素地からFeO,Fe3O4,Fe2O3の順に層状に構成されており,FeOと母材の鉄との密着性は良好でその界面に結晶子サイズ10 nmの微細な多結晶ウスタイト(FeO)が存在する。そして,この微結晶FeOの存在が外界からの酸素の侵入を防ぐとともに,その後の腐食速度を低下させていると結論づけた。一方,Igakiら2,3)は水中でのアノード分極測定結果から,和鉄が不働態皮膜を形成し,現代鉄より低い不働態化電流を示すことを明らかにした。

Furunushi and Nagata4)は,EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により和釘の鉄母材中の酸素濃度を測定し,それが純鉄の酸素固溶度より高い値を示すことを報告している。そして釘の鍛造工程で,表面近傍の過飽和固溶酸素が分解し薄い緻密なFe3O4被膜を生成する可能性を述べている。

鉄製品は使用後再溶解されリサイクルされたので古い和釘はほとんど残っていない。本報告では,8世紀から20世紀に製造された4本の和釘と鋼塊(玉鋼)について,和釘の鉄母材中の酸素濃度をEPMAで測定すると同時に,その測定位置に酸化物化合物が存在しないことを高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で観察し,鉄中の固溶酸素が過飽和に存在することを示す。さらに過飽和固溶酸素が和釘の製造時に鉄表面に形成するFeO被膜との間にFe3O4被膜を生成し腐食速度を低下させること,および非金属介在物が過飽和固溶酸素の生成に及ぼす影響を明らかにする。また,年代に依らず和鉄中の固溶酸素濃度が過飽和に存在することから,たたら製鉄の原理5)が前近代製鉄法の本質であることを示す。

2. 実験方法

2・1 試料

供した試料をFig.1に示す。No.1は愛媛県の亜沼美神社社殿の折釘,No.2は奈良県の西大寺三門に用いられた巻頭釘,No.3は大阪府の天野山金剛寺金堂軒廻りに用いられた巻頭釘およびNo.4は岡山県の備中国分寺五重塔の折釘である。

Fig. 1.

Samples of Japanese nails: Orekugi nail in the Shaden (main hall) of the Anumi shrine (No.1), Makigashira nail in the Sanmon of the Saidai-ji temple (No.2), Makigashira nail in the eaves of the Kondo (main hall) of the Amanosan-Kongo-ji temple (No.3) and Orekugi nail in the five-storied pagoda of the Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4). (Online version in color.)

和釘の製造年を新しい順に述べる。No.1の亜沼美神社社殿の釘は1835年頃(天保6年)である。No.2の西大寺三門の釘は1300年頃(鎌倉時代)である。No.3の天野山金剛寺金堂軒廻りの釘は14Cによる年代測定6)では1085~1124年で平安時代末期に製造されている。No.4の備中国分寺五重塔の釘の製造年代は不明であるが,備中国分寺は756年に「続日本書紀」に記録されており,1821年~1844年(文政4年~天保6年)に再建されている。和釘は再利用されるので再建以前に作られた可能性もある。

和釘の大きさと外観は次のようになっている。No.1は,釘の長さ170 mm,中心の断面は8 mm×7 mmの角形である。表面に凹凸があり,製造時に生成した灰色の酸化被膜の一部がはがれ,内部の赤褐色の錆が見えた。No.2は,釘の長さ150 mm,中央の断面は6 mm×5 mmの角形で表面は平坦である。表面は褐色の錆で覆われ,その下にやや光沢のある黒錆が観察された。No.3は,釘の長さ145 mm,中央の断面は5.5 mm×6.5 mmの角形であり,腐食が進んでいる。No.4は,釘の長さ85 mm,中央の断面は5 mm×4.5 mmの角形であり,薄い錆層で覆われている。炭素濃度は亜沼見神社の釘が0.01 mass%,西大寺の釘は0.00 mass%,天野山金剛寺の釘が0.30 mass%,および備中国分寺の釘が0.037 mass%1)である。

さらに現在,島根県奥出雲町横田町字大呂にある(株)安来製作所鳥上木炭銑工場で日本美術刀剣保存協会が「日刀保たたら」を毎冬3回行っている。そこで製造した玉鋼(試料No.5,約1.3 mass%C,直径約1 cm)を酸素濃度測定と測定精度の検証に用いた。

2・2 測定方法

和釘の表面に生成している酸化被膜をX線回折装置(XRD)で同定した。

表面の酸化被膜,鋼中の非金属介在物組成および鉄マトリクス中に固溶する成分の濃度を定量するため,微小領域の定量分析装置であるLaB6電子銃を装備した電子線マイクロアナライザー(EPMA,日本電子製JXA-8200)を用いた。加速電圧15 kV,照射電流5×10-8 Aである。

酸化被膜および非金属介在物の微細構造を観察するために,電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM,Field Emission-Scanning Electron Microscopy)を用いて二次電子像(SE)および後方散乱電子像(BSE)を得た。さらに日本電子製JEM-2100Fを用いて透過電子顕微鏡像(TEM,Transmission Electron Microscope),走査透過電子顕微鏡像(STEM,Scanning Transmission Electron Microscopy),エネルギー分散X線分光(EDS,Electron Dispersive X-ray Spectroscopy)および制限視野電子線回折図(DP,Diffraction Pattern)を取得した。また日本電子製JEM-3000Fを用いてこれらの像やDPの他,高分解能透過型電子顕微鏡像(HRTEM,High Resolution TEM)を得た。DPはFFT(Fast Fourier Transformation)で解析し,原子間距離(d-spacing)を求めて化合物を同定した。

EPMA用試料は観察面を鏡面研磨した。標準試料にはSiO2, MgO,Al2O3等の酸化物を用いた。鋼中の酸素濃度の定量にはTiO2を標準試料としたZAF補正を用いた。

錆層から鉄層までの断面観察にはTEMあるいはHRTEMを用いた。このための試料の作製は集束イオンビーム加工装置(FIB(Focused Ion Beam,JEM-9310FIB)を用いた。FIBでは観察部位の両側を垂直方面からGaイオンエッチング(30 keV)により段階的に掘込み約100 nmの厚さにした。Fig.2に示すように傾斜をつけて研磨することによりさらに薄くした。

Fig. 2.

(a) Cross section of nail of Saidai-ji temple (No.2) and sampling position, (b) TEM image and DP at the radiation position of electron beam of EPMA indicated by arrow (⇔). (Online version in color.)

鉄母材に固溶する酸素量を測定するには,1 µm ~2 µmの微小酸化物の存在を考慮し,あらかじめ0.5 µmステップで,特性X線像により非金属介在物および酸化物が存在しない分析位置を決定し,1 µm ~5 µmのビーム径で定量した。さらにその後,EPMAで測定した位置を含めて分析面に垂直方向にFIBで薄膜試料を切り出し,HRTEMで非金属介在物の有無を調べた。

3. 実験結果

3・1 鉄母材中の酸素濃度

Table 1に,現代のたたら製鉄で製造した玉鋼(No.5)中の酸素濃度を示し,さらにEPMAの酸素濃度の測定精度を明らかした。測定点は試料断面の中心と端部を5点ずつ測定しその平均値を採った。酸素濃度は0.18 mass%~0.19 mass%で,標準偏差は0.013 mass%~0.086 mass%である。

Table 1. Oxygen concentration in solid solution in iron of Tamahagane steel produced by Nittoho Tatara smelting measured by EPMA (mass%).
One edge Center The other edge
1 0.168 0.171 0.193
2 0.191 0.185 0.180
3 0.178 0.174 0.206
4 0.153 0.199 0.172
5 0.189 0.168 0.193
Average 0.18 0.18 0.19
STD 0.016 0.013 0.086

和釘の鉄母相中の表層直下と内部の成分組成をTable 2に示した。どの試料からも酸素およびリンが検出された。酸素濃度は,和釘の表層直下で0.17 mass%~0.19 mass%,内部で0.15 mass%~0.38 mass%であった。Al,Mg,Caは検出されなかった。試料によりSi,Mn,SおよびTiが検出された。

Table 2. Concentration of elements in base iron of old Japanese nails of Anumi shrine (No.1), Saidai-ji (No.2), Amanosan-Kongo-ji (No.3) and Bicchu-Kokubun-ji (No.4) measured by EPMA (mass%).
Element No.1 No.2 No.3 No.4
near surface inside near surface inside near surface inside near surface inside
Si 0 0 0.02 0 0 0 0 0
Mn 0 0 0 0 0.01 0 0 0
P 0.02 0.08 0.01 0.02 0.01 0.02 0.05 0.05
S 0 0 0 0 0.01 0.02 0.01 0.01
Ti 0.01 0 0 0 0.01 0.01 0 0
O 0.19 0.15 0.18 0.18 0.17 0.19 0.17 0.38
Fe 98.62 98.33 98.04 98.26 98.35 98.07 98.46 97.64
Al 0 0 0 0 0 0 0 0
Mg 0 0 0 0 0 0 0 0
Ca 0 0 0 0 0 0 0 0
Total 98.84 98.56 98.25 98.45 98.56 98.31 98.69 98.08

全ての試料についてEPMAで酸素濃度を定量した領域を含む薄膜試料を作製してHRTEMで観察した。ここでは一例として,西大寺の釘の観察結果を述べる。

実際にEPMAで酸素濃度を測定した埋込試料から,FIBにより薄膜試料を作製した位置をFig.2(a)に示す。(b)にはEPMAによる電子線照射部(⇔部)における鉄母材のTEM像と電子線回折パターン(DP)を2ヶ所測定し全体がα-Feであることを示した。EPMAの電子線が照射された部分を含め,α-Fe部全体を透過電子顕微鏡で観察した。その一例をFig.3に示す。表面直下および内部のHRTEM像には10 nm程度以上の大きさの非金属介在物は存在していない事が分かる。すべての試料について同様に観察を行ったが,酸素濃度を測定した鉄母材中には10 nm程度以上の大きさの非金属介在物は存在しなかった。

Fig. 3.

TEM and HRTEM images of iron matrix at the radiation position of electron beam of EPMA indicated by (⇔), as shown in Fig.2; There is no oxide inclusion a) near surface and b) inside of iron matrix of nail.

3・2 和釘の表面の酸化被膜の構造

Fig.2 a)およびFig.4に和釘の断面を,Fig.5に表面の酸化物被膜のBSE像を示す。相対的に軽い元素は暗く見えるので,白く見える鉄母材の上に酸化物被膜が生成している。いずれの試料も酸化物被膜は複数の異なった酸化鉄の層で構成されていることが分かる。この結果から表面の酸化鉄被膜層の厚さを測定した。また,XRDで和釘表面の酸化物被膜の化合物成分を同定した。

Fig. 4.

Cross-sections of Japanese nails: The oxide films are shown on iron base of nails. The dark lines in iron bases are inclusions produced during forge-and-welding. Cross-section of nail of Saidai-ji temple (No.2) is shown in Fig.2. (Online version in color.)

Fig. 5.

BSE images of iron oxide films on each Japanese nail: White area is iron and darker areas are iron oxides because the darker image relatively indicates the lighter atom.

試料No.1(亜沼美神社社殿の釘)の酸化皮膜の厚みは60 µm~400 µmで,釘の表面被膜層にはFe3O4αγ-FeOOH,FeOおよびα-Fe2O3が検出された。表層に大気による腐食と類推される炭酸Ca系の腐食層および海塩粒子と類推できるMgを含む腐食生成物の存在が顕著に観察されるが,中間層はFeOに近い組成である。

試料No.2(西大寺三門の釘)の酸化皮膜の厚みは10 µm~100 µmで,表層に大気による腐食と類推される炭酸Caを含む腐食層が存在した。釘の表面の酸化物被膜にはFe3O4αγ-FeOOH,FeOおよびα-Fe2O3が検出された。

試料No.3(天野山金剛寺金堂軒廻りの釘)の酸化皮膜の厚みは100 µm~200 µmで酸化被膜の組成はFe3O4α-Fe2O3であった。

試料No.4(備中国分寺五重塔の釘)の表面の酸化皮膜の厚みは10 µm~50 µmで,Fe3O4,FeOおよびα-Fe2O3が検出された。鉄母材鍛造中に表面の酸化物が巻き込まれた部分や母材と酸化皮膜との界面に非金属介在物が存在する。

いずれの試料も酸化物被膜は複数の異なった酸化鉄の層で構成されていることが分かる。

3・3 鉄との界面近傍の酸化皮膜の微細構造

酸化鉄被膜の構造を調べるため,Furunushi1)が既に報告している備中国分寺の釘と鉄母相と酸化鉄被膜の密着性が良い西大寺の釘とを分析した。

3・3・1 備中国分寺五重塔の和釘

試料No.4の酸化皮膜の一部をFig.6 a)に示す。鉄母材の上にFeOとFe3O4の2層が生成している1)。この試料から採取した鉄母材と酸化物層を含むTEM用試料を30 µm幅で採取した。鉄母材と外層の間に中間層がある。

Fig. 6.

(a)SEM image of sample and (b)LAADF (Low-angle annular dark field) STEM images near the surface of the nail of Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4) (Online version in color.).

Fig.6 b)はこの中間層の低角度環状暗視野像を示す。鉄母材から表面に向って(I),(II),(III)および(IV)の4層構造になっている。(II)層の結晶は(I)層から(III)層に向かって約0.5 µmの幅で柱状の伸び,(III)層との界面近傍で約0.1 µmの細粒を呈している。

Fig.7には,領域(I)と(II)における電子線回折図を示す。その解析結果は,(I)層がα-Fe,(II)層がFe3O4であった。(I)層が層状に見えるのは薄膜の厚みが厚く電子線の透過および反射が異なっているためである。

Fig. 7.

HAADF (High-angle annular dark field) and BF (Bright-field) STEM images of (I) and (II) in Fig.6 and their DP of the nail of Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4).

Fig.8には(III)と(IV)の電子線回折図を示す。(III)のポイント1の電子線回折図はリング状でありアモルファスである。EDSによる定量分析ではFeとOのat%の比63:37でポイント2のFeO結晶の比と一致したことからFeOと同定した。EDSの分析精度は良くないが標準試料との比較で同定することができる。(IV)のポイント2は電子線回折図からFeO結晶である。Fig.9はFe3O4層に近い(IV)の位置の電子線回折図から結晶粒径が数µm のFeO結晶である。

Fig. 8.

HAADF and BF STEM images of (III) and (VI) in Fig.6 and their DP of Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4): Amorphous at point 1 is estimated to be FeO from the concentration of Fe and O determined by EDS.

Fig. 9.

HAADF and BF STEM images and DP of (IV) in Fig.6 near the surface layer of Fe3O4 in the nail of Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4).

3・3・2 西大寺三門の和釘

Fig.2に示すように,西大寺三門の釘のFIB試料は片側保持にて薄膜化を可能にしたことでTEM像は非常に鮮明になった。試料の端にある鉄マトリクスと酸化皮膜のTEM像と電子線回折パターンをFig.10に示す。母材はα-鉄である。酸化皮膜の電子線回折図は回折点が少しリング状に広がっていたが,FFT解析からこれはFe3O4である。HRTEMの結果は10 nm程度の微結晶からなることを示している。

Fig. 10.

HRTEM images of α-Fe and Fe3O4 layers near the boundary in the nail of Saidai-ji temple (the left side of Fig.2); DP of Fe3O4 is analyzed by FFT.

3・4 和釘中の非金属介在物の観察

Fig.2 a)およびFig.4に示す和釘の断面には介在物が並んだ線が複数現れている。特に備中国分寺と西大寺の釘に多く,亜沼見神社と天野山金剛寺の釘には少ない。この線状の介在物は鍛錬時に生じたものである。鉄母材鍛造中に表面の酸化物が巻き込まれた部分や母材と酸化皮膜との界面に非金属介在物が存在する。これらの和釘の金属組織は光学顕微鏡観察の結果フェライト単相であった。

これらの中の代表的な非金属介在物をFig.11に示す。非金属介在物には,溶融スラグから多数の結晶が晶出していることが分かる。スラグ相と晶出した結晶の成分濃度をEPMAで測定した結果をTable 3に示す。SiとFeの濃度比から,No.1,No.2およびNo.4のスラグ相はファイヤライト(Fe2SiO4)近傍の組成である。また,Fe,Si,Alの濃度比からNo.3のスラグ相は28.3%FeO-48.4%SiO2-23.3%Al2O3(mass%)近傍の組成であり,トリジマイト(SiO2)とムライト(3Al2O3・2SiO2)の約1300°Cにおける共晶近傍の組成である。

Fig. 11.

SEM images of inclusions in each Japanese nail: Round crystals in No.1, No.2 and No.4 are FeO, angular crystals in No.1 are Fe2TiO4 and those in No.3 are Fe2SiO4.

Table 3. Concentration of elements in grains and textures of non-metallic inclusions in old Japanese nails of Anumi shrine (No.1), Saidai-ji (No.2), Amanosan-Kongo-ji (No.3) and Bicchu-Kokubun-ji (No.4) measured by EPMA (mass%).
Sample No. Grain Texture
No.1 No.2 No.3 No.4 No.1 No.2 No.3 No.4
element Ti rich Fe rich Fe rich Si rich Fe rich Ti rich
Si 0.07 0.19 0.38 14.86 0.17 1.68 15.43 15.73 19.52 16.77
Mn 0.31 0.12 0.12 0.52 0.13 0.18 0.53 0.25 0.14 0.28
P 0 0 0 0.10 0 0 2.44 0.56 0.43 1.31
S 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.14 0.12 0.33 0.19
Ti 15.42 1.85 2.02 0.21 2.18 12.53 0.45 0.32 0.49 0.52
O 31.83 27.43 26.84 35.91 26.35 33.86 36.37 38.51 42.79 40.22
Fe 50.38 70.64 69.41 50.29 69.39 49.04 37.60 41.78 19.03 33.70
Al 2.84 0.75 0.92 0.27 0.59 6.67 2.45 3.26 10.65 4.69
Mg 0.24 0.11 0.01 0.58 0.38 0.45 0.78 0.72 0.03 1.01
Ca 0.03 0 0.06 0.55 0 0.73 4.76 2.33 6.15 3.25
Total 101.13 101.10 99.77 103.30 99.20 105.15 100.95 103.58 99.56 101.94

晶出した粒子は,No.2,No.3およびNo.4のFe組成が約70 mass%のものはFeOである。これはFig.11のNo.2とNo.4の丸形の結晶であり,No.1にも観察される。No.3は細かい結晶である。No.1とNo.4のTi濃度の高い粒子はFeとTiの濃度比からFeOとウルボスピネル(Fe2TiO4)の混合物であり,Fig.11のNo.1には角形の結晶が観察される。No.4ではFeO粒子の間に小さな角形の結晶が観察される。No.3のSi濃度の高い粒子はFeとSiの濃度比からFeOとFe2SiO4の混合物であり角形の結晶である。

この中で,西大寺の釘中の非金属介在物をTEMで観測した結果をFig.12に示す。シリケートスラグ相の地からFe2SiO4とFeO結晶および10 nm~20 nm径の様々な形状のFeO微粒子が観察された。また,Fe2SiO4結晶粒には多くの歪線が観察された。

Fig. 12.

TEM images of non-metallic inclusions in the nail of Saidai-ji temple (No.2); (a) Some strains in Fe2SiO4 particles shown by arrows. (b) Fine FeO particles crystallized from silicate glass. These compounds were determined from each DP.

備中国分寺の釘中の非金属介在物にはTable 3に示すように主にFeOが晶出しており,局所にAlを含むウルボスピネルが存在した。さらにスラグ相をTEMで観察したところ,Fig.13に示すように,ケイ酸塩系ガラス中に100 nm以下の径の丸い球がある。DPの解析からこれらはFeSである。柱状のものはFe2SiO4結晶である。

Fig. 13.

TEM images and DP of FeS particles in silicate glass of non-metallic inclusions in the nail of Bicchu-Kokubun-ji temple (No.4).

4. 考察

4・1 鉄の溶解を示す沸き花の発生

日本の古来の製鉄工程には,銑鉄と鋼塊を製造する「たたら製鉄」工程,銑鉄を脱炭して軟鉄の包丁鉄を製造する「大鍛冶」工程,加工時に行う「鍛錬」と「鍛造」工程がある。さらにこしき炉を用いた銑鉄溶解工程と下(おろ)し炉を用いたリサイクル鉄製品の溶解がある。これら全ての工程で「沸き花」が発生し,これが操業中に鉄が溶解した指針になっている。沸き花とは炎中に発生する白色の火花である。

たたら製錬では,鉧(けら)と呼ぶ鋼塊と銑(ずく)と呼ぶ銑鉄を同時に製造する。鉧は炉内に生成し,玉鋼はその一部である。羽口先では溶鋼が滴下し,空気中のO2で表面が酸化されて温度が上がり光って見える。溶鋼は炉壁沿いに炉底に流れ落ちる過程で温度の低下に伴い凝固してオーステナイトを晶出して鉧を成長させると同時に炭素濃度の高い銑鉄を生成する。銑鉄のほとんどは炉の下部に開けられた湯路(排滓口)から「ノロ」(スラグ)と共に炉外に流出し凝固する5)。炉内からはCOガスが発生する「しじる」と呼ばれる音がし,湯路から出る炎の中に沸き花が見られる。これは生成した鋼や銑鉄が溶解し液滴の表面が溶融FeOで覆われていることを示している。

銑鉄は拳大の大きさに破砕後,大鍛冶工程に送り,脱炭して包丁鉄にする7)。大鍛冶工程では「下(さ)げ」と「本場(ほんば)」と呼ぶ2工程で脱炭する。下げでは銑鉄塊を羽口前にトンネル状に積み上げ,枝などを炭にした「小炭(こずみ)」で覆って燃焼させ,外熱で銑鉄塊を加熱溶融する。鉄の一部は空気中のO2で酸化されて溶融FeOを生成し,それで覆われた溶融銑鉄は激しくCOガス気泡を発生させて,約1350°Cで炭素濃度を約3.5 mass%から平均濃度約0.7 mass%に下げる。これを鉄の鉤で小分けして取り出す。歩留りは100%である。この時激しく沸き花が発生する。

本場では,下げで生成した鋼塊を下げと同様に積み小炭で覆って空気を吹き付け燃焼させ加熱する。空気中のO2で鉄塊表面を酸化させ,酸化熱で鉄塊を1500°C以上に加熱して鉄を溶解し脱炭する。この時炎中に激しく沸き花が発生する。溶解し脱炭した個々の鉄塊は炉底に溜り凝固する。同時に溶融FeOが炉底に流れ落ち溶融した鋼塊の表面を覆う。凝固した鉄塊を鉄の鉤で一塊にまとめた後炉から取り出し,金床上で一気に鍛造し幅約10 cm,長さ約60 cm,厚さ約1 cm,重量約5kgの鉄板4枚に切り分ける。この鋼板を包丁鉄と称する。歩留りは60%~70%である。これらの工程では溶融した鉄は溶融FeOと接触し,急速に溶解と凝固を繰り返す。この結果,溶鉄中の炭素濃度は0.1 mass%~0.2 mass%に減少する。

鍛冶技術には「鍛錬」という工程がある。たたら製鉄で製造した鋼塊は粗で粘りが無く炭素濃度に濃淡のムラがあるので,鍛錬により緻密にして炭素濃度の濃淡を分散させる。先ず,和鉄の鋼板を鉄の梃棒の先に溶接した台を作る。その上に鉄片を積み重ねて藁灰と泥で塗し,鍛冶炉の火床で加熱する。炎の中に沸き花が盛んに発生すると炉から取り出し,金床の上に置き金槌で軽く鍛造する。これで鉄板と鉄板が溶接する。「仮付け」という。再度,藁灰と泥で塗し加熱して沸き花が盛んに発生すると鍛造して方形の角材に仕上げる。「本付け」という。これを「積沸し鍛錬」と称する。

次に,黄色に加熱した方形の角材の真中に鏨で切れ目を入れて折り返し,仮付けと本付けを行う。これを「折返し鍛錬」と称する。折り返す前に「水打ち」といって金床と金槌を水に濡らして鍛造する。これにより表面に生成する錆を水蒸気爆発で除去する。この一連の操作を数回繰返す事により鉄板界面はほぼ完全に溶接される。針金や鎧の小札は1回~2回8,9),包丁など刃物は4回~5回,日本刀は10回以上折返し鍛錬が行われた。鍛錬では鉄を酸化するので鍛錬1回当り鉄が3 mass%~4 mass%減量する。

和鉄片の表面は脱炭されて0.2 mass%以下になり高温で溶け,鍛造すると鉄片面どうしが溶接される。鍛接不良の部分ができると温度低下時にその部分が赤黒くなるのでわかる。「フクレ」と呼ぶ。この部分に鏨で切り込みを入れ,あるいはポンチで穴を開けて空気と接触させ加熱すると沸き花を発生し,鍛造するとフクレが消失する。

こしき炉では沸き花の発生と同時に銑鉄塊が溶解する。羽口先で銑鉄が空気中のO2で酸化され昇温すると同時に,溶融FeOとの反応でCOガス気泡が生成ししじる音が発生する10)

沸き花は,西洋で行われた脱炭精錬炉で発生していた図があり11),前近代的製鉄法では共通の現象である。

Nagataら12)は,沸き花発生の原理を次のように述べている。溶融FeOは溶鋼中の炭素と反応してCOガス気泡を生成する。気泡は大気圧と界面張力のために内圧が3気圧以上で突然発生するので,溶融鉄表面を強い力で掃き鉄微粒子を取り込む。この鉄の微粒子が炉外に出て空気中のO2で酸化し発熱して沸き花となる。沸き花としじる音の発生は鉄が溶けたことを示している。

4・2 過飽和固溶酸素濃度の成因

沸き花の発生は,溶融FeOで覆われた鉄表面の溶融とCOガス気泡の発生を示している。

溶融FeO中は鉄イオン空孔と正孔が移動し,さらに電気的中性条件を満たすようにすべてのイオンが動くので,酸素は溶融FeOが空気に触れる面から鉄表面に玉突き状に押し出され,見かけ上高速で移動し鉄表面を酸化する13)

たたら炉では木炭の燃焼で鉄が加熱される温度は1300°C~1400°Cであり,鍛冶炉では1300°C程度である。その後は鉄表面が羽口から吹き込まれる空気中のO2で酸化し,その時発生する反応熱で表面の温度が約10分で約200°C上昇し1500°C以上に達する。鉄は溶融し同時に鉄の酸化で生成した溶融FeOと共存する。溶融FeOとγ-Feは1528°Cで偏晶反応をして酸素濃度0.17 mass%の溶鉄を生成する。さらに温度が上がると溶鉄中の酸素溶解度は増す14)。炭素が溶解すると酸素溶解度はさらに増加する4)。溶融した鉄は直ぐに凝固し,あるいは凝固と溶解を融点近傍で繰り返した後凝固する。したがって,大気圧と界面張力の和以上の圧力のCOガス気泡を固液界面から発生する間もなく凝固し酸素はそのまま固溶する。

Fig.3に示すように,EPMAで濃度測定した場所には検出限界の10 nm以上の大きさの非金属介在物は存在しなかった。純鉄中の酸素固溶度はδ-Feでは1528°Cで0.029 mass%,γ-Feでは1371°Cで0.0094 mass%,α-Feでは912°Cで0.0002 mass%~0.0008 mass%である15)Table 2の酸素濃度0.15 mass%~0.38 mass%の値は過飽和固溶酸素濃度である。同様に,Table 1の玉鋼中の酸素濃度も過飽和固溶状態にある。

本研究では,沸き花と和鉄中の過飽和固溶酸素の関係を明らかにした。これはたたら製鉄法の全ての工程で共通して生じる状態であり,8世紀から20世紀に至るたたら製鉄法の特徴で,製精錬機構には本質的に変化がないことを示している。

4・3 鉄母材と表面の酸化物層界面における微細構造と過飽和固溶酸素の影響

鍛錬を経た鋼材は,「沸し伸(のば)し」で鍛接を確実にして伸しながら角形の鉄棒にする。沸し伸しとは,鋼材に藁灰を塗して加熱し,沸き花を発生させた状態で金床上にて素早く鍛造して延ばす操作である16)。この時,水打ちを行いあるいは水を掛けながら鍛造して表面の錆を常に除去する。そのため急速に冷却される。これを数回繰り返す。

次に「火造り」で釘に成形する。鉄棒を所定の長さに鏨で切り落とし,鍛冶炉で赤黄色になる約800°Cに加熱する。鋼材の端をハシでくわえて取り出し,金床の上で90°ひねりながら角形のまま金床の端を利用して延ばす。冷えて色が消えると再び鍛冶炉に入れて加熱しながら成形する。この時,水打ちを行い,表面に生成する錆を除去する。表面は直ぐに酸化され薄い酸化膜で覆われるので表面は青く見える。これを数回繰り返して釘の形にする。最後に釘の頭を所定の形にする17)

沸し伸しでは溶融FeOで覆われた状態で鋼材表面は溶融し,水打ちで急速に冷却され凝固する。この工程では釘の表面は過飽和固溶酸素が生成する状態にある。火造りでは加熱後,鋼材の表面は水打ちで急冷されながら製品の形に鍛造される。

Fig.8の(III)層で,鉄マトリクス側に生成したFeOの非晶質層は沸し伸しで溶融FeOが短時間に冷却されて生成した可能性がある。FeO中は鉄イオン空孔と正孔が移動するので,火造りの段階で非晶質FeOの表面からFeOの結晶層(IV)が成長する。そしてさらに酸化鉄被膜の表面が酸化して釘表面にFe3O4層を生成する。

Fig.6Fig.7を見ると鉄母材とFeO層の間にFe3O4層が柱状に生成しFeO層との界面では微細な結晶層が生成している。これは釘の鉄母材中に過飽和に固溶した酸素が560°C以下で反応しFe3O4を析出したものである。そのためTable 2に示すように,No.4の酸素濃度は表面近傍が内部より下がっている。火造りの初期では水打ちにより急冷され微細な結晶になるが,冷却に従い柱状に析出した。FeOが分解する場合は,FeO中を鉄イオン空孔と正孔が移動して鉄母材側に鉄を,反対側にFe3O4を析出する。したがって,鉄母材とFeO層の間にFe3O4層は生成しない。

Fig.10に示す鉄母材表面にはFe3O4の微結晶が生成しており,鉄中の過飽和固溶酸素が反応し析出したものである。

このように和鉄中の過飽和酸素の存在は560°C以下で反応し,緻密な結晶構造のFe3O4被層を生成し,鉄の腐食速度を著しく遅くする効果がある。

4・4 和鉄中の過飽和固溶酸素と非金属介在物の関係

Fig.2 a)とFig.4に示す和釘の断面には,製作年代に関わらず非金属介在物が曲線状に並んでいる。例えば,西大寺の釘(No.2)は明確ではないが逆S字状に7層からなっている。これから3回折返し鍛錬したことが分かる。このことは,我国に古くから鍛錬技術があったことを示している。

Table 3に示したスラグ相とそこに晶出したFeO粒子から,溶融スラグはFeO濃度の高いFeO-SiO2系スラグであることがわかる。鍛錬では鋼材の表面に酸化鉄の溶剤として藁灰と泥を塗す。この操作により沸き花を鋼材全体から均一に発生させることができる。溶剤の主成分はSiO2であり,泥にはさらにAl2O3が含まれている。藁灰や泥は,鉄が酸化されてできる融点1371°CのFeOと反応してFeO濃度の高い共晶点1177°CのFeO-SiO2系溶融スラグを生成し,鍛錬鋼材の界面に均一に充填される。これが鉄表面への酸素の供給を促進し,鋼材全体からの沸き花の生成と鉄中の過飽和固溶酸素の生成に寄与する。

Fig.12に示す西大寺の釘中の非金属介在物の地はFe2SiO4でそこにFeO粒子が晶出している。Fe2SiO4の融点は1205°Cなので,火造りの冷却中にFeO濃度の高いFeO-SiO2系溶融スラグからFeO粒子が晶出し,共晶点の1177°C以下でFe2SiO4が晶出する。そのFe2SiO4粒子には多くの歪線が入っている。これは和釘を成形する際の変形時に生成したもので,火造りがFe2SiO4の融点より低い温度で行われたことを示している。一般に,火造りは800°Cより低い温度で行われた。

非金属介在物の成分にはTiO2が含まれており,冷却中にFeO微粒子の他,ウルボスピネルが晶出している。たたら製鉄で製造される溶銑は連続的に炉外に流出し冷却凝固するので,製錬スラグ(ノロ)はほとんど混入しない。Table 2に示されたTiは製錬時のノロが混入したと考えられる。

4・5 備中国分寺の釘の製造年代の推定

備中国分寺五重塔の釘(No.4)の製造年代は不明である。Fig.13に示すように,この釘の非金属介在物のTEM像および電子線回折からケイ酸塩ガラス質中に大きさ50 nm程度の球状のFeSが晶出している。たたら製鉄技術が伝わった6世紀後半から8世紀後半にかけ岡山県南部では主に鉄鉱石が使われていた18)。焙焼し1 mm~7 mmに砕き製鉄原料に使われた。しかし,これは8世紀後半には使用可能な鉄鉱石が枯渇し衰退した。当時,朝鮮半島南西部で行われていた製鉄では主に鉄鉱石が使われており,鋼中の介在物中にFeSが観察されている19)。備中国分寺は岡山県南部総社市に位置しており,朝鮮半島からの製鉄技術の連続性がうかがえる。このことから,本研究で用いた備中国分寺の釘は8世紀後半以前に,鉄鉱石と砂鉄を混合した原料で製鉄を行い製造した鋼塊を用いて作製された可能性がある。

5. 結言

本研究では次のことを明らかにした。

(1)8世紀から20世紀に作られた建築用和釘の酸素濃度および現代,日刀保たたらで製造された玉鋼をEPMAで測定したところ,和釘の表層直下で0.17 mass%~0.19 mass%,内部で0.15 mass%~0.38 mass%であった。その測定位置をHRTEMで観察したところ,鉄母材中には10 nm程度より大きい非金属介在物は存在しないことを確認した。その結果,鉄母相中に酸素が過飽和に固溶している。

(2)たたら製鉄法で作られた和釘の製造工程では,鉄の溶融を示す炎中の「沸き花」の発生を指標としている。この時,溶融FeOと溶鉄の包晶点(1528°C)で溶融と凝固を繰り返しながら製精錬と鍛錬を行っている。鉄中の過飽和固溶酸素はこの過程で生成する。さらに,西洋の脱炭精錬においても沸き花が発生することを示し,これがたたら製鉄法を含む前近代的製鉄法の特徴であり,製精錬反応の本質である。

(3)FeO被膜と鉄母相との間には過飽和酸素の反応で生成した緻密な結晶構造のFe3O4層が生成していた。これにより鉄の腐食速度を著しく遅くしている。

(4)和釘中の非金属介在物は鍛接界面に線状に並んでいた。これは主にFeOとFe2SiO4からなるシリケートスラグ(共晶点1177°C)であり,鍛錬時に塗した藁灰と泥が鉄片表面の酸化で生成したFeOと反応して生成したものである。この溶融スラグが鋼材の鍛接界面に充填することにより空気中からの酸素の供給が促進され,鉄片表面の酸化と昇温を生じ,過飽和固溶酸素の生成に寄与している。

(5)備中国分寺五重塔の釘の介在物中にはFeSが晶出しており,この釘は,砂鉄と鉄鉱石の混合原料からたたら製鉄で製造した鋼塊を用いて,8世紀後半以前に作製された可能性がある。

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