Tetsu-to-Hagane
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Effect of Welding Condition on Texture Evolution of Austenite in Stir Zone and Marternsitic Transformation Behavior during Cooling in Ni-C Steels
Takuya Miura Kohsaku UshiodaHidetoshi Fujii
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 9 Pages 631-641

Details
Abstract

Friction stir welding (FSW) was performed under the two welding conditions (rotation speed - traveling speed) of 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min using 24%Ni - 0.1%C (mass%) steel. The rapid cooling utilizing liquid CO2 was exploited to strictly evaluate the microstructural evolution of austenite in stir zone after FSW. In addition, the effect of the microstructural characteristics of austenite on martensitic transformation behavior during cooling were compared with that of 6%Ni - 0.63%C steel. Irrespective of the welding conditions, fine equiaxial grains with simple shear texture of {111}<110> orientation formed. At 200 rpm - 400 mm/min, finer grain formed without grain growth during cooling. On the other hand, at 150 rpm - 100 mm/min, recovery and grain growth occurred during relatively slow cooling after FSW. The grain growth preferentially proceeded presumably due to the strain-induced grain boundary migration of grain with lower dislocation density having {110}<110> orientation. Larger amount of retained austenite remained in the stir zone of 6%Ni - 0.63%C steel FSWed at 200 rpm - 400 mm/min due to both finer austenite grain size and higher dislocation density. Moreover, the influence of austenite grain orientation on the thermally induced martensitic transformation during cooling was revealed to be negligible, which is different from that of deformation induced martensitic transformation.

1. 緒言

摩擦攪拌接合(FSW: friction stir welding)は,回転ツールの摩擦熱と攪拌作用を利用した固相接合技術であり,溶融溶接と比較すると入熱量が低く,溶接変形の小ささや接合部の機械特性の劣化が小さいことから,アルミニウム合金などの低融点金属15)をはじめ,鉄鋼材料などの高融点材料への適用も研究されている611)。著者らはこれまでに,低合金鋼1214)やNi-C合金鋼15,16)に対して比較的入熱量の低い接合条件でFSWを施すことで,攪拌部において残留オーステナイト量が増加し,変態誘起塑性(TRIP)現象を発現させ,攪拌部の強度―伸びバランスが向上できることを明らかにした。残留オーステナイト量の増加は,攪拌に伴う塑性変形と発熱によるオーステナイト粒の微細化や転位の導入の影響を受けて生じており17,18),相変態前の旧オーステナイト粒径が微細なほど残留オーステナイトが増加することが明らかとなっている18)。一方,攪拌部における,旧オーステナイトの粒内の微細組織の特徴(転位密度や結晶方位など)が冷却中の相変態挙動に与える影響についてはほとんど評価されていない。その際,攪拌に伴う材料流動による塑性変形が終了してから相変態が開始するまでの焼鈍過程においても微細組織が大きく変化するため19),焼鈍過程におけるオーステナイトの微細組織の変化を明らかにすることも重要である。焼鈍過程での微細組織変化の影響を正確に把握する方法として,液体CO2をツール後方に吹きかける急速冷却を用いる手法が有効である16)

本研究では,室温において攪拌部の大部分が残留オーステナイトとなる24%Ni-0.1%C鋼(mass%)を用い,比較的入熱量が低く回転速度と接合速度の異なる組み合わせからなる2つの接合条件のFSWにおいて,液体CO2の有無を切り替えた。これにより,攪拌直後および焼鈍過程を経た相変態前のオーステナイトに形成する集合組織および微細組織を評価した。また,室温までの冷却中に適度な量のオーステナイトが残留する6%Ni-0.63%C鋼の攪拌部と比較することで,攪拌過程と焼鈍過程を経て形成したオーステナイトの集合組織および微細組織の特徴が冷却中のマルテンサイト変態挙動に与える影響を評価した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材には,高周波誘導溶解によって溶製した24%Ni - 0.1%C鋼15)および6%Ni - 0.63%C鋼18)を,約950°Cの熱間圧延により1.6 mm厚の板材に成形して母材として用いた。

2・2 接合条件

ショルダー径12 mm,プローブ径4 mm,プローブ長1.4 mmのWC超硬合金製のツールを用い,1枚板に対するstir-in-plateでFSWを実施した。ショルダーには10°のへこみ角,プローブ先端には半径5.4 mmの丸みが設けられている。ツール回転速度と接合速度をそれぞれ200 rpm - 400 mm/min(20.9 rad/s - 6.67 mm/s)および150 rpm - 100 mm/min(15.7 rad/s - 1.67 mm/s)とする2つの接合条件を用いてFSWを行った。これら2つの接合条件は,最高到達温度がオーステナイト単相温度で比較的低温のほぼ同じ温度で,冷却速度が大きな条件と小さな条件で実験を行う目的で設定した。すなわち,従来の結果19,20)より予想される最高到達温度は200 rpm - 400 mm/min,150 rpm - 100 mm/minの条件でそれぞれ約700°Cおよび約730°Cであり,冷却速度はそれぞれ約100°C/sおよび約60°C/sである。押込み荷重をそれぞれの接合条件で36.3 kNおよび25.5 kNとし,接合中は一定に保った。また,接合中にはツール後方に液体CO2を吹きかけることで急速冷却を行った。液体CO2冷却によりツール通過後の冷却速度を著しく増加させることにより,焼鈍過程での組織変化を抑制することが可能である16)。一方,ツールの後方から冷却を行うため,本稿で対象とする攪拌部中央では液体CO2冷却による攪拌中の接合温度の低下は比較的小さいと推測される。液体CO2冷却を行わない場合はツールおよび試料の酸化を防ぐため,Arガスシールドを用いた。本稿では,板面法線方向をND(normal direction),接合方向をWD(welding direction),それぞれに垂直な方向をTD(transverse direction)と称することにする。また,ツールの回転方向と接合方向が一致する前進側をAS(advancing side),反対を向いている後退側をRS(retreating side)とする。

2・3 評価方法

得られたFSW試料に対して,WDと垂直な断面において,SEM-EBSD(scanning electron microscopy - electron back scattering diffraction)測定を行った。放電加工により切り出した試料片を機械研磨後,電解研磨したものをEBSD測定用試料とした。接合部中央の表面を基準として,板厚方向の深さ0.7 mmの位置においてEBSD測定を行った。測定範囲およびステップサイズは組織の微細さや測定目的に応じて変化させた。いずれの解析においても,CI値が0.05以下の測定点を排除して解析を行った。

3. 実験結果および考察

3・1 24%Ni-0.1%C鋼の攪拌部微細組織

それぞれの接合条件における24%Ni-0.1%C鋼の攪拌部中央部において,ステップサイズ0.1 μmのEBSD測定で取得したBCC相とFCC相それぞれの逆極点図マップをFig.1に,FCC相の011および111正極点図をFig.2に示す。Fig.1では,紙面垂直方向がWD,縦方向がND,横方向がTDとなる断面において,WDと平行な結晶方位を,マルテンサイトを示すBCC相とオーステナイトを示すFCC相に分けて示している。Fig.1より,いずれの攪拌部においても,数μm程度の非常に微細な結晶粒が形成していることが観察される。これは攪拌による塑性ひずみに伴う動的再結晶によって形成したものと考えられる19)。また,いずれの攪拌部においても伸張した形状を有するマルテンサイト組織の集合体が形成しているが,このマルテンサイト組織の集合体は帯状に集まって不均一に分布する様子が見られる。これは,NiあるいはCがわずかに偏析していることに由来すると考えられる。この帯状のマルテンサイト領域は,150 rpm - 100 mm/minではTDに平行に分布し,200 rpm - 400 mm/minでは右下がりに傾いて分布しており,接合条件の違いによる材料流動挙動の違いを反映していると考えられる。(a)と(c)を比較すると,150 rpm - 100 mm/minの場合に液体CO2冷却を行うとオーステナイト結晶粒がより微細になることが読み取れる。一方,(e)と(g)の200 rpm - 400 mm/minの場合では,液体CO2冷却による微細化は確認できないが,残留するオーステナイトが増加する傾向が認められる。また,結晶方位マップから,接合条件に依らず比較的ランダムな結晶方位分布の傾向がみられるが,Fig.2の正極点図からは011および111がそれぞれ集積する傾向が読み取れ,集合組織が形成していることが分かる。特にFig.2(a)や(b)の150 rpm - 100 mm/minの場合には,液体CO2冷却の有無によらず,TD付近に011が,ND付近に111が集積する集合組織が形成している。FSWの攪拌部では材料流動方向にせん断方向が平行なせん断集合組織が形成することが知られており,上記の結果はツールの回転に沿った材料流動によるせん断変形の影響を強く受けてせん断集合組織が形成していることを示唆している22)。一方,Fig.2(c)や(d)の200 rpm - 400 mm/minでは,同様にND付近に111が集積し,その90°方向に011が集積する傾向が見られるが,011の集積方向はTDから大きくずれている。これは200 rpm - 400 mm/minにおいてはツールの回転に沿っていない不均一な材料流動が生じていたことを示唆している23)。また,液体CO2冷却の有無による011の集積方向の変化はほとんど見られないことから,液体CO2冷却が材料流動挙動に与える影響は小さいと考えられる。

Fig. 1.

Inverse pole figure maps in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at (a, b, c, d) 150 rpm - 100 mm/min and (e, f, g, h) 200 rpm - 400 mm/min. (a, b, e, f) are with and (c, d, g, h) are without liquid-CO2 cooling. The crystal orientations parallel to WD are displayed for BCC and FCC phases. (Scan area: 20 μm×20 μm, step size = 0.1 μm) (Online version in color.)

Fig. 2.

Pole figures of FCC phase in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at (a, b) 150 rpm - 100 mm/min and (c, d) 200 rpm - 400 mm/min. (a, c) are with and (b, d) are without liquid-CO2 cooling. (Scan area: 20 μm×20 μm, step size = 0.1 μm)

3・2 24%Ni-0.1%C鋼の攪拌部の集合組織の解析

オーステナイトの微細組織や集合組織の特徴をより詳細に評価するため,マルテンサイトをほとんど含まない領域を抜き出し,オーステナイトのせん断集合組織のせん断方向(SD)がTDと平行となるように,またせん断面法線方向(SPN)がNDと平行となるようにND軸回り,WD軸回り,TD軸回りの順番に3回の回転によって結晶方位を回転させた。マルテンサイトを含まない部分の抜き出しと結晶方位の回転を行った後のTDおよびNDに平行な結晶方位マップ,すなわちTDおよびNDの逆極点図マップと011および111の正極点図をFig.3に示す。TDの逆極点図マップでは011を意味する緑色の領域が,NDの逆極点図マップでは111を意味する青色の領域が多いことが読み取れる。また,正極点図からは011//TDおよび111//NDのせん断集合組織の特徴が見て取れるが,150 rpm - 100 mm/minと比較して200 rpm - 400 mm/minでは011//TDおよび111//ND以外の方位への集積が見られるとともに集積方位毎の強度のばらつきも大きいなど,正極点図の特徴が異なっている。そこで,FCC金属のせん断集合組織を構成する理想方位に着目してより詳細な評価を行った。

Fig. 3.

Rotated inverse pole figure maps and pole figures of FCC phase in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min with and without liquid-CO2 cooling. (Online version in color.)

実験的に得られたオーステナイト相の集合組織データに基づき,せん断集合組織の理想方位としてよく知られるA{111}<110>方位,B{112}<110>方位,C{001}<110>方位,A*{111}<112>方位24,25)および{110}<110>方位のそれぞれの方位からおよそ15°の範囲に含まれる結晶粒,および上記のいずれの方位にも含まれないその他の方位を持つ結晶粒が占める面積率を求め,その結果をFig.4に示した。Fig.4より,150 rpm - 100 mm/minではA方位の面積率が最も高く,それ以外の理想方位成分の面積率が相対的に低いことが読み取れる。Al合金など積層欠陥エネルギー(SFE)が高い材料においては攪拌部において主にB方位が発達し,SFEが低くなるほどA方位の発達がより顕著になることが知られており22,26),A方位が強く発達したのは,24%Ni-0.1%Cでは比較的SFEが低いことに起因していると考えられる。一方,200 rpm - 400 mm/minにおいても,理想方位の中ではA方位の面積率が最も高いが,150 rpm - 100 mm/minと比べるとA方位の面積率が低く,その代わりに理想方位に含まれないその他の方位の割合が高くなっている。最も安定なA方位への集積が低いことは,せん断変形時の均一な塑性ひずみが相対的に小さかったことを示唆している22)。すなわち,ツールの回転に沿った円形の均一な材料流動が生じている150 rpm - 100 mm/minの方が,材料に均一に付与される塑性ひずみは大きかったものと考えられる。A方位とその他の方位を除くと,150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却ありの場合と200 rpm - 400 mm/minの液体CO2冷却ありおよび液体CO2なしの場合において,各方位が占める面積率がほぼ同一であることが読み取れる。一方,150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却なしの場合では,B方位およびC方位の面積率が低くなり,{110}<110>方位の割合が高くなる傾向が見られる。これは比較的冷却速度が遅い150 rpm - 100 mm/minの場合において,攪拌後の焼鈍過程で生じた組織変化を反映しているものと考えられる。

Fig. 4.

Area fraction belonging to each ideal orientation component in FCC phase in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min with and without liquid-CO2 cooling. (Online version in color.)

続いて,各方位の平均結晶粒径をFig.5に示す。Fig.5より,200 rpm - 400 mm/minでは液体CO2冷却の有無によってほとんど粒径に変化が生じていない。これは,200 rpm - 400 mm/minの接合条件では液体CO2冷却がなくても攪拌後の冷却速度が十分早く,焼鈍過程でオーステナイト相の粒成長が生じてないことを示している。一方,150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却がある場合では,200 rpm - 400 mm/minよりも平均結晶粒径が大きい。これは150 rpm - 100 mm/minの方が攪拌中の温度がわずかに高く19,20),攪拌中の動的再結晶によって形成する微細結晶粒の粒径が相対的に大きかったためであると考えられる。150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却がない場合には,冷却ありの場合と比べてさらに結晶粒径が粗大化する傾向がさらに顕著にとなっている。また,150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却なしの場合を除くと方位ごとに結晶粒径の差はほとんど見られない。しかし,150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却なしの場合においては,{110}<110>方位の粒径が他の方位に比べて大きい傾向が見られる。これらの150 rpm - 100 mm/minの液体CO2冷却なしの結果は,Fig.4で示した焼鈍過程における{110}<110>方位の面積率の増加と対応していると考えられる。

Fig. 5.

Average diameters of grains with each ideal orientation component in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min with and without liquid-CO2 cooling. (Online version in color.)

次に,各方位のKAM (kernel average misorientation) の平均値をFig.6に示す。KAMは結晶粒内の局所方位差であり,結晶粒内のGN(geometrically necessary)転位密度および塑性ひずみの蓄積量と相関する27)Fig.6の各方位の平均KAM値において150 rpm - 100 mm/minと200 rpm - 400 mm/minを比較すると,A方位とその他の方位を除いてほぼ同様の傾向を示している。150 rpm - 100 mm/minにおいては,液体CO2冷却がない場合にすべての方位においてほぼ均等に平均KAM値が下がる傾向が見られ,Fig.5で示した攪拌後の焼鈍過程での粒成長と同時に結晶粒内の転位密度の低下が生じていることを示唆する。また,転位密度の低下量に方位依存性がないことが分かる。一方,200 rpm - 400 mm/minでは,いずれの方位においても液体CO2冷却がない場合の方がKAM値が高い傾向が見られる。液体CO2冷却を用いると変形温度はわずかに低下し,冷却速度は増大するため,通常であれば,粒内により多くの転位が蓄積されるはずであるが28),今回は逆の傾向を示している。FSWの接合部では,顕著な材料流動が生じた攪拌部の外側に熱加工影響部(TMAZ: thermo-mechanically affected zone)が存在し,攪拌部よりもむしろ強いせん断集合組織の形成が見られる場合がある29)。TMAZはツールが通過した直後の攪拌部の後方においても形成していると考えられ,塑性変形による粒内への転位の蓄積が生じると考えられるが,ツール後方を液体CO2冷却する場合は,攪拌部後方のTMAZが極端に狭くなることでTMAZでのせん断変形が生じず,液体CO2冷却なしの場合と比べて粒内の転位密度が低くなったものと推察する。また,{110}<110>方位の平均KAM値が他の方位と比較して低い傾向が見られる。Fig.4Fig.5で示した焼鈍過程における{110}<110>方位の増加や粒径の増大の傾向と合わせて考えると,攪拌後の焼鈍過程では,粒内の転位密度が低い{110}<110>方位を持つ結晶粒が比較的粒内の転位密度が高いB方位やC方位の結晶粒を蚕食しながら粒成長しているものと推測される。

Fig. 6.

Average KAM values of grains with each ideal orientation component in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min with and without liquid-CO2 cooling. (Online version in color.)

以上の結果から得られた知見をまとめると,比較的低入熱の異なる接合条件における攪拌部のオーステナイトの微細組織形成過程はFig.7に示す模式図の様に理解することが出来る。150 rpm - 100 mm/minおよび200 rpm - 400 mm/minのいずれにおいてもツール直下の攪拌部においては比較的微細な等軸粒が形成する。攪拌領域の材料流動が均一な150 rpm - 100 mm/minではせん断集合組織がより強く形成し,接合温度が比較的低い200 rpm - 400 mm/minではより微細な結晶粒が形成する。液体CO2冷却を用いるとこれらの微細組織がほぼそのまま得られる。一方,液体CO2冷却を用いない場合,攪拌部後方のTMAZにあたる領域で一旦転位密度が増加し,200 rpm - 400 mm/minの場合にはそのままの組織が得られ,150 rpm - 100 mm/minの場合には焼鈍過程における粒成長が生じることで粗大な結晶粒が得られることになる。以降では,以上のような過程で形成した各接合条件におけるオーステナイトの微細組織の特徴が焼鈍過程後の冷却中に生じるマルテンサイト変態挙動に与える影響について検討する。

Fig. 7.

Schematic illustrations showing the evolution of austenite microstructure in the stir zones during FSW at each welding condition. (Online version in color.)

3・3 マルテンサイト変態に伴うオーステナイトの集合組織および微細組織の変化

ここでは,FSW後の未変態オーステナイト量,言い換えるとマルテンサイト量の異なる24%Ni-0.1%C鋼と6%Ni-0.63%C鋼を比較検討することにより,マルテンサイト変態の進行に伴うオーステナイトの集合組織や微細組織の変化について議論する。

Fig.8に6%Ni-0.63%C鋼の150 rpm - 100 mm/minおよび200 rpm - 400 mm/minの接合条件でFSWした攪拌部中央において,ステップサイズ0.05 μmのEBSD測定で取得したBCC相とFCC相の逆極点図マップを示す。Fig.1と同様にWDと平行な結晶方位を,フェライトやマルテンサイトを示すBCC相とオーステナイトを示すFCC相に分けて示している。Fig.8より,いずれの接合条件においても伸長した形状を持つマルテンサイト組織の集合体の間に残留オーステナイトが分布する組織を示している。ここで,残留オーステナイトの量は150 rpm - 100 mm/minでは2%,200 rpm - 400 mm/minでは12%程度であり,200 rpm - 400 mm/minの方が残留オーステナイト量が多く,マルテンサイト変態の進行が抑制される傾向が見られる。この残留オーステナイト量の増加は旧オーステナイト粒径が微細なほど促進されることが明らかとなっているが18),旧オーステナイトの微細組織における粒径以外の影響は明らかとなっていない。また,より広範囲においてステップサイズ1.0 μmで行ったEBSD測定によって取得したFCC相の正極点図をFig.9に示す。Fig.9に示した6%Ni-0.63%C鋼とFig.2に示した24%Ni-0.1%C鋼の正極点図を比較すると,オーステナイト量は大きく異なるがいずれの接合条件においてもオーステナイトの正極点図の特徴が一致している。また,せん断集合組織のSDの傾きの傾向もよく似ている。これは,6%Ni-0.63%C鋼のFSWにおいても24%Ni-0.1%C鋼の場合と同様の材料流動が生じ,攪拌直後にはFig.4と同様の集合組織をもったオーステナイトの微細組織が形成していたことを示唆している。すなわち,24%Ni-0.1%C鋼の攪拌部の微細組織は冷却中の相変態が生じる前の特徴を示し,6%Ni-0.63%C鋼の攪拌部の微細組織は相変態が生じた後の特徴を示すと見做すことができる。そこで,冷却中の相変態挙動を推定するため,24%Ni-0.1%C鋼と6%Ni-0.63%C鋼の攪拌部のオーステナイトをより詳細に比較した。Fig.3において説明したのと同様の手順で結晶方位の回転を行い,Fig.4と同様にせん断集合組織の各理想方位の面積率を評価した結果をFig.10に示す。図中には,比較のために,Fig.4で示した24%Ni-0.1%C鋼の液体CO2冷却なしの結果も示している。Fig.10より,150 rpm - 100 mm/minおよび200 rpm - 400 mm/minいずれの接合条件においても,集合組織を構成する理想方位成分の面積割合の構成に大きな変化は見られない。これは,冷却中のマルテンサイトの生成速度が母相オーステナイトの結晶方位に依存しないことを意味している。すなわち,材料流動の変化に起因する旧オーステナイトの集合組織の変化は,残留オーステナイト量の変化に直接的には影響していないことを示唆する。一方で,加工誘起マルテンサイト変態の進行においては,外力の負荷方向と母相オーステナイトの方位がマルテンサイト生成速度に大きく影響することが知られている30,31)。したがって,FSW継手の機械的特性の向上に残留オーステナイトのTRIPを利用する際には,材料流動挙動に起因する集合組織の制御が非常に重要であると考えられる。

Fig. 8.

Inverse pole figure maps in the center of stir zones of 6%Ni-0.63%C steel FSWed at (a, b) 150 rpm - 100 mm/min and (c, d) 200 rpm - 400 mm/min without liquid-CO2 cooling. The crystal orientations parallel to WD are displayed for BCC and FCC phases. (Scan area: 20 μm×50 μm, step size = 0.05 μm) (Online version in color.)

Fig. 9.

Pole figures of FCC phase in the center of stir zones of 6%Ni-0.63%C steel FSWed at (a) 150 rpm - 100 mm/min and (b) 200 rpm - 400 mm/min without liquid-CO2 cooling. (Scan area: 80 μm×250 μm, step size = 0.05 μm)

Fig. 10.

Comparison of area fractions of each ideal orientation component in FCC phase in the center of stir zones in between 24%Ni-0.1%C steel and 6%Ni-0.63%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min without liquid-CO2 cooling. (Online version in color.)

Fig.11(a)に24%Ni-0.1%C鋼の各攪拌部のオーステナイトの平均粒径,および6%Ni-0.63%C鋼の各攪拌部において残留オーステナイトの方位と旧オーステナイトとマルテンサイトとの間に成立するK-S方位関係21,18)を用いて再現した旧オーステナイトの平均結晶粒径を示す。Fig.11(a)より,24%Ni-0.1%C鋼の各攪拌部においてはFig.5で示した傾向と同様に,接合温度がわずかに高いことと攪拌後の焼鈍中の粒成長により150 rpm - 100 mm/minの方がオーステナイト粒径が粗大な傾向が見られる。同様に,6%Ni-0.63%C鋼の攪拌部で再現された旧オーステナイトの結晶粒径もほぼ同程度の値を示している。一方,24%Ni-0.1%C鋼および6%Ni-0.63%C鋼の各攪拌部の残留オーステナイト中の平均のKAM値をFig.11(b)に示す。ただし,EBSD測定のステップサイズが試料により異なるため,ここではKAM値をステップサイズで除して単位長さ当たりの平均方位差として算出した。Fig.11(b)より,焼鈍過程後のオーステナイトに対応する液体CO2冷却なしの場合では,200 rpm - 400 mm/minの方が長さ当たりの方位差が大きく,オーステナイト粒内により高密度の転位が蓄積していることが示唆される。一方,冷却中のマルテンサイト変態後にあたる6%Ni-0.63%C鋼においては,24%Ni-0.1%Cと比較して長さ当たりの方位差が大幅に増加していることに加え,150 rpm - 100 mm/minと200 rpm - 400 mm/minで差が見られない。このことは,6%Ni-0.63%C鋼においては冷却中のマルテンサイト変態に伴い,未変態オーステナイトに転位の導入が生じていることを示唆している32)。24%Ni-0.1%C鋼の液体CO2冷却なしの場合,すなわち相変態前は150 rpm - 100 mm/minの方が平均方位差が小さいにもかかわらず150 rpm - 100 mm/minと200 rpm - 400 mm/minでその差が見られなくなることから,相変態に伴うオーステナイト中への転位の蓄積量がある一定程度に達した段階でマルテンサイト変態が停止しているものと解釈することができる。すなわち,変態前のオーステナイト中の転位密度が高いほど,より早く転位の蓄積量が一定程度に達するため,結果として室温において残留オーステナイトがより多く残留すると考えられる。

Fig. 11.

(a) Average grain diameters of austenite and (b) average KAM values in retained austenite divided by step size in the center of stir zones of 24%Ni-0.1%C steel and 6%Ni-0.63%C steel FSWed at 150 rpm - 100 mm/min and 200 rpm - 400 mm/min with and without liquid-CO2 cooling, respectively.

4. 結言

24%Ni-0.1%C鋼および6%Ni-0.63%C鋼の200 rpm - 400 mm/minおよび150 rpm - 100 mm/minの2つの接合条件のFSWにおいて,液体CO2冷却の有無を切り替えることで,攪拌後の焼鈍過程,およびマルテンサイト変態後の残留オーステナイトの集合組織および微細組織を評価し,以下の知見を得た。

(1)いずれの接合条件においても攪拌部のオーステナイトにおいてはせん断集合組織を持つ微細な等軸粒からなる組織が形成される。

(2)150 rpm - 100 mm/minでは均一な材料流動に起因してA{111}<110>せん断集合組織がより強く発達する。一方,200 rpm - 400 mm/minでは不均一な材料流動に起因して,オーステナイトの集合組織が変化し,A方位は減少し,せん断集合組織以外の成分が増加する。

(3)150 rpm - 100 mm/minの攪拌部ではFSW後の焼鈍過程において粒成長が生じる。焼鈍過程での粒成長はすべての方位において生じるが,相対的に粒内転位密度の小さい{110}<110>方位を持つ結晶粒の粒成長が優先的に進行する。

(4)200 rpm - 400 mm/minの接合条件では冷却速度が非常に速いことに起因し,FSW後の焼鈍過程での粒成長がほとんど生じない。

(5)冷却中のマルテンサイト変態の進行に対して,オーステナイト粒の方位の影響は認められない。

(6)焼鈍過程後のオーステナイト粒径が小さく,粒内の蓄積転位密度の高い200 rpm - 400 mm/minの攪拌部においては,より多くのオーステナイトが残留する。残留オーステナイトの量に関わらず,マルテンサイト変態停止後のオーステナイト中の蓄積転位密度はほぼ同程度であり,その時にマルテンサイト変態が停止すると推察した。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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