鉄と鋼
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論文
低合金鋼ラインパイプの低H2S濃度サワー環境下における硫化物応力腐食割れ挙動
嶋村 純二 森川 龍哉山﨑 重人田中 將己
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2022 年 108 巻 9 号 p. 642-655

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Abstract

Resistance to Sulfide Stress Cracking (SSC) caused by local hard zones of pipe inner surface has been required in low alloy linepipe steel. In this study, using two samples with different surface hardness, the detailed SSC initiation behavior was clarified by four-point bend (4PB) SSC tests in which immersion time and applied stress were changed in a sour environment containing 0.15 bar hydrogen sulfide (H2S) gas. SSC cracks occurred when the applied stress was higher than 90% actual yield strength (AYS) in higher surface hardness samples over 270 HV0.1. From the fracture surface observation of SSC crack sample, it was found that the mechanism gradually shifted from active path corrosion (APC) to hydrogen embrittlement (HE), and that the influence of APC mechanism remained partially in the process of SSC initiation at the tip of corrosion pit or groove. The polarization measurement in the 4PB SSC test showed that the anodic and cathodic reactions (especially cathodic reactions) were activated when the applied stress was 90% AYS or higher. The FEM coupled analysis simulating the stress and strain concentration at the bottom tip of the corrosion groove and the hydrogen diffusion and accumulation was carried out. The principal stress in the tensile direction showed the maximum value at 0.04-0.06 mm away from the tip of the corrosion groove, and the hydrogen accumulation became the maximum. It was analytically found that the SSC crack initiated and propagated with HE mechanism dominated type when the threshold value of about 0.82 ppm is exceeded.

1. 緒言

天然ガス輸送用パイプラインには厚板鋼板を素材として造管され製造される低合金鋼ラインパイプ(UOE鋼管)が用いられる1)。ラインパイプの特性としては,強度,靭性に加えて耐腐食性が求められる2)。特に,硫化水素(H2S)ガスや炭酸(CO2)ガス等腐食性ガスを含んだ湿潤サワー環境において,水素誘起割れ(HIC)や硫化物応力腐食割れ(SSC)に対して十分な耐性が必要となる35)

パイプライン操業時にはパイプ内面の周方向に引張応力が負荷し,サワー環境においてはSSC発生による破壊事故の懸念がある。SSCは主に材料68),サワー環境9,10),負荷応力11,12)の3つの要因によって影響を受けるため,材料にはNACE MR0175/ISO 15156-1規格に示されるような硬度制限が設けられ,炭素鋼や低合金鋼では22 HRC(約250 HV10)の硬度上限が規定されている13)。しかしながら,近年掘削環境の過酷化に伴い,H2S濃度の高い境界領域では本硬度制約だけでは必ずしも十分でないことがわかってきた14,15)。そこで前報16)では,極表層に近い局所硬化部が表面腐食挙動やSSCき裂発生・伝播に及ぼす影響について実験的調査を実施した。そこでは,低合金ラインパイプの内表面から1 mm程度の範囲の極表層硬さ分布(特にパイプ内表層0.25 mm位置の微小硬さHV0.1)やH2S分圧条件が耐SSC性に及ぼす影響について明らかにした。その結果,SSCき裂の発生する極表層硬さ限界値はH2S分圧が0.15 barの低圧条件では約270HV0.1であり,H2S分圧が1 bar以上では250HV0.1である事が明らかとなった。また,H2S分圧が1 bar未満の0.15 barの場合と1 bar以上の場合を比較すると,表面腐食挙動やき裂発生形態が異なっており,SSC機構が異なっていることも明らかとなった。0.15 barでは腐食保護性を持つと考えられるFeS17)の生成が薄く,不均一であった。そしてSSCは局部腐食ピット形成を伴う活性腐食(Active Path Corrosion(APC))と水素脆化(Hydrogen Embrittlement(HE))の複合型の機構であった。そして,1 bar以上では全面腐食主体となり,H2S濃度の増加に伴い水素侵入量が多くなり18,19),SSCき裂発生はHE機構主体であった。このようにH2S分圧の環境に応じて,APC機構とHE機構の寄与度が異なっていることが示唆された。

従来研究1922)では,低合金鋼のSSCはHEの一種と見なされている。一方,低濃度H2S環境の先行研究2327)において,その前駆過程としてAPCの強い寄与が示唆されている。例えば,Yamaneら24)は,YS780 MPa級の高強度材において,定電位条件下のSSC試験の結果,特にNiを0.5 mass%以上添加すると腐食ピット・グルーブ(フィッシャーともいう)が陽極分極に従って深く成長することを示し,この局所的な腐食孔であるピット・グルーブの先端でHEが発生するSSCメカニズムを提案している。筆者らは,低合金鋼ラインパイプとして一般的なX65級(YS≧450 MPa)の材料について,0.15 barの低H2S分圧条件におけるSSC機構を検討し,腐食ピット・グルーブ形成過程がAPC機構に基づくアノード溶解支配であること28)を明らかにした。また,その局部溶解が塑性変形29)や材料高硬度化により促進されること30)を明らかにし,予き裂付きCT試験よりSSCき裂の発生・伝播過程が,HE機構によるものと推定した16)。しかしながら,ベイナイト組織の微視的組織形態や結晶方位分布,負荷応力増加に伴う引張表面の微視的弾塑性変形,H2S分圧やpH等サワー環境条件等の複合的な要因が存在するため,これらの因子が初期の腐食ピット・グルーブ形成過程およびSSCき裂発生・伝播過程にどのように結びついているかについては,不明な点が多い。特に,APC機構の鉄溶解腐食反応からHE機構のき裂発生・伝播のモードへの機構遷移が実際に起こっているのかどうか,起こるとすればその機構遷移のクライテリアは何かについては明らかとなっていない。

SSCのき裂発生・伝播は,「腐食ピット・グルーブ先端のpH等局所サワー環境」「腐食ピット・グルーブ先端での応力・歪集中度合い」「先端の材料特性」の3要素によって決定されるHE機構に支配される割れと考えられる。本研究では,低合金鋼ラインパイプにおいて,0.15 bar H2S環境では,腐食ピット・グルーブ先端からSSCき裂が発生する過程が主としてHE機構に支配されることを実験的,解析的に明確化することを目的とする。はじめに,0.15 bar H2S環境のSSC発生限界硬さ270 HV0.1近傍の材料を用いて,浸漬時間および負荷応力を変化させ,SSC発生挙動の詳細を4点曲げSSC試験により明らかにした。また,SSCき裂発生材の割れ破面観察により,APC機構からHE機構への遷移の有無を評価した。次に,4点曲げSSC試験の分極測定を実施し,浸漬初期24時間後のアノード・カソード活性化挙動に及ぼす材料,負荷応力の影響を検討した。さらに,腐食ピット・グルーブ底先端でのHE発現がSSCき裂発生・伝播の支配機構であることを想定し,腐食ピット・グルーブ底の応力集中および水素拡散・集積をシミュレートするFEM連成解析を実施し,APCからHEへの機構遷移挙動や,き裂発生がHE機構支配であることの妥当性を検証した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材には管厚20~30 mmの低炭素低合金鋼のベイナイト組織主体のX65級ラインパイプ(YS≧450 MPa)を用いた。厚板鋼板製造時のTMCP(Thermo-mechanical controlled process)条件における表層冷却速度の異なるパイプから300 mm角のクーポンを切り出し,250°Cで1時間のコーティング模擬した時効処理を施した。ミクロ組織観察用の試料は,鏡面となるまで機械研磨を行い,3%ナイタールエッチング後,ミクロ組織観察を行った。また,結晶方位解析(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)では,測定可能な程度までコロイダルシリカを用いて仕上げ研磨を施した。Fig.1にSEM(Scanning Electron Microscope)観察によるパイプ内表面0.2 mm位置の表面に平行な面の代表的なミクロ組織を示す。前報16)の結果を受けて,表層冷却速度が200°C/secを超える高い冷却速度で硬質のlath bainite(LB)主体組織となるサンプル(管厚30 mmの内側近傍から切り出した。以後15Wと称する。)および表層冷却速度が約100°C/secのgranular bainite(GB)主体組織となるサンプル(管厚20 mmの内側近傍から切り出した。以後9Wと称する。)を用いた。なお,前者の15Wは低H2S 分圧の0.15 bar H2S 環境におけるSSC 発生限界硬さの270 HV0.1 の試料に対応する。Fig.2に内表面0.2 mm位置のEBSDによって得られたIPF(Inverse Pole Figure)方位マップとKAM(Kernel Average Misorientation)マップを示す。IPFマップにおいて,サンプル9Wと比較して,サンプル15Wの方がラス状の細かい組織が多く見られる。また,同一視野のKAMマップにおいて,塑性歪が広範囲にわたって残存していることが分かる。KAMマップから測定した視野内での平均方位差角はサンプル15W,9Wでそれぞれ0.75°,0.54°であった。Fig.3(a)にパイプ内表面から板厚方向のビッカース硬さ分布例を示す。試料表層での15Wのビッカース硬度は9Wより約60 HV0.1程高く,その硬度差は試料内表面からの距離が大きくにつれて次第に低下し,約8 mmの所でビッカース硬さはほぼ同じになる。このことより,サンプル15Wと9Wはパイプ内部表層でのみ硬さ分布が異なる事が分かる。Fig.3(b),(c)にパイプ内表面下0.25 mm位置のHV0.1および1.0 mm位置のHV10のパイプ周方向の硬さ分布をそれぞれ示す。200°C/secを超える高い冷却速度の鋼板を用いたパイプサンプル15Wは,270 HV0.1を超える高硬度を示し,硬さばらつきが大きい(σ12)傾向がみられた。一方,冷却速度が100°C/secのサンプル9Wの場合,平均250 HV0.1以下の比較的低硬度で,硬さばらつきもやや小さかった(σ10)。Table 1に各サンプルの内表面1/4t位置を中心として採取した6 mm直径の丸棒引張および内表面から5 mmと1 mmで採取した平板引張の強度特性評価結果を示す。内表面硬度の高いサンプル15Wにおいて,サンプル取得位置が表層に近くなるほど,平板引張のYSおよびTSが高くなっていた。このように,15Wと9Wではパイプ表層部で局所的な力学特性の違いが見られた。このような力学特性の違いが,SSCに及ぼす影響を明らかにするため,これら時効後パイプの内表層から5 mm厚の試験片を採取し,4点曲げSSC試験および4点曲げ分極測定を実施した。

Fig. 1.

SEM microstructure of each cooling rate sample. (Online version in color.)

Fig. 2.

IPF map and KAM map from EBSD measurement in each cooling rate sample.

Fig. 3.

(a) Hardness distribution in thickness direction (Sample 15W and 9W). (b) Surface hardness distribution of Sapmle 15W. (c) Surface hardness distribution of Sample 9W. (Online version in color.)

Table 1. Tensile properties in each sample.
Sample No.Wall Thickness (mm)6 mmΦ round barTensile test (1/4t)5 mmt rectangularTensile test1 mmt rectangular
Tensile test
YS
(MPa)
TS
(MPa)
uEl
(%)
YS
(MPa)
TS
(MPa)
uEl
(%)
YS
(MPa)
TS
(MPa)
uEl
(%)
9W205926285.26266534.26426604.6
15W305936185.36696824.47217392.3

YS: 0.5% Yield Strength (underload), TS: Tensile Strength

uEl: Uniform Elongation

2・2 4点曲げSSC試験方法

耐SSC性能,特に腐食ピット・グルーブ底からのSSCき裂発生過程を評価するため,NACE TM0316規格31)に準拠し,0.15 bar H2Sの低H2S分圧条件下で4点曲げSSC試験を実施した。パイプ内表層から5 mm厚,15 mm幅,115 mm長の4点曲げ試験片を表面0.2 mm機械研削を施し,#240の表面仕上げで採取した。なお,#240表面仕上げでは,深さ数μm程度の加工層があることが確認されており,短時間浸漬の初期の腐食ピット形成に影響する可能性があるが,腐食が進んだ720時間の長時間浸漬では,比較的均一に明瞭な腐食ピットが観察されており28),今回も同様の#240仕上げとした。SSC試験条件をTable 2に示す。NACE TM0177 Buffered溶液32)を使用し,H2S分圧0.15 bar,CO2分圧0.85 bar,試験開始時pH3.1を狙いとした。Fig.4に4点曲げSSC試験の治具の模式図を示す。パイプ内表面側を4点曲げの引張側にセットし,負荷応力を無負荷,324 MPa(72% Specification Minimum YS(SMYS)),533 MPa(90% Actual YS(AYS)),622 MPa(105%AYS)を狙いとし,応力を負荷した。応力の値は圧縮表面側に取り付けた歪ゲージ(評点間1 mm)により制御した。なお,応力負荷はTable 1の丸棒引張試験結果を基準に設定した。試験時間は7,168,720時間の3水準とし,試験終了後の引張側表面の外観を観察するとともに,試験片の中央部を切断,研磨し,腐食ピットの数密度やSSC割れの有無を評価した。なお,文献8)を参考に目視ではっきりと判別のつくものをSSCき裂有りと判断した。また,同じ切断した試験片を用いて表層下0.25 mm位置での硬さ(HV0.1)を1 mmピッチで測定し,31点測定の最大値で評価した。試験後の腐食量を評価するため,試験前後の重量減量を測定した。試験後の腐食ピット・グルーブ深さを,レーザー顕微鏡観察の最大深さRz値の測定により評価した。

Table 2. Four-point bend testing conditions.
Test StandardTest solution (NACE TM0177)pH
(start/final)
Partial pressure (bar)I mmersiontime (h)
H2SCO2
NACETM0316-2016Buffered solution(5.0 wt%NaCl + 5.0 wt%CH3COOH+ 0.40 wt%CH3COONa + H2O)3.1/4.00.150.857
168
720
Sample
No.
Applied stress (MPa)
072%SMYS90%AYS105%AYS
9W0324533622
15W0324533622
Fig. 4.

Schematic illustration of four-point bend loading jig. (Online version in color.)

2・3 SSC機構評価の電気化学試験方法

4点曲げ試験における初期の腐食および水素脆化挙動に及ぼす材料,負荷応力の影響について評価するために,NACE TM 0177 Method A32)に基づき,電気化学試験を実施し,分極曲線を測定した。供試鋼は200°C/secを超える高い冷却速度の時効後パイプ(15W)を用いた。パイプ内表層から5 mm厚の4点曲げ試験片を表面0.2 mm機械研削を施し,#240の表面仕上げで採取した。一定面積のみが露出するように(ここでは引張面中央部の15 mm角)試験片表面を被覆した。試験水準をTable 3に示す。負荷応力を無負荷,72%SMYS(324 MPa),90%AYS(533 MPa),105%AYS(622 MPa)を狙いとし,応力を負荷した。0.15 bar H2S,NACE Buffered溶液,pH 3.1条件で実施した。分極は,試験ガス飽和後から24時間まで自然浸漬状態の保持時間を設け,24時間後に,その時点における自然電位(OCP: Open Circuit Potential)を基準として,掃引速度20 mV/min.にてOCPから,-250 mV(vs.OCP)→+500 mV(vs.OCP)の分極測定を実施した。参照電極には飽和 KClAg/AgCl 電極を用い,対極には白金電極を用いた。

Table 3. FPolarization measurement conditions.
Test StandardTest solution
(NACE TM0177)
pH
(start/final)
Partial pressure (bar)I mmersiontime (h)
H2SCO2
NACE
TM0316-2016
Buffered solution
(5.0 wt%NaCl + 5.0 wt%CH3COOH
+ 0.40 wt%CH3COONa + H2O)
3.1/4.00.150.8524
Sample
No.
Applied stress
(MPa)
15W0, 324 (72%SMYS), 533 (90%AYS), 622 (105%AYS)

2・4 水素拡散・集積のFEM解析

4点曲げSSC試験において,材料および負荷応力に応じて,一定時間経過後,腐食ピット・グルーブが形成し,その先端で応力・歪集中した結果,水素が拡散・集積し,水素脆化起因のき裂が発生すると推定される。本挙動を理解するために,ABAQUS 6.12-1を用いて応力分布解析および水素拡散解析を行った。Fig.5に,腐食ピット・グルーブ形成を模擬したノッチ付き4点曲げ試験片の1/4有限要素モデルを示す。4点曲げSSC試験と同様の5 mm厚,15 mm幅,115 mm長の試験片形状で,ノッチ先端径を0.06 mm,ノッチ幅を0.2 mmとし,浸漬時間168時間および720時間の腐食ピット深さを模擬するように,ノッチ深さを0.1 mmと0.2 mmの2水準とした。サンプル15Wの5 mm厚矩形引張試験から得られた応力歪曲線を使用し,90%AYS(533 MPa,Y方向変位量1.14 mm),105%AYS(622 MPa,Y方向変位量1.33 mm)の応力を負荷した。

Fig. 5.

FEM model of four-point bend SSC test with notch simulated corrosion pit. (Online version in color.)

水素拡散・集積挙動の計算において,強度グレードの同じX65サワー材のpH3.0,0.1 bar H2S条件の水素透過試験結果から得られた定常水素量(csteady=0.59 ppm),拡散係数(D=4.0×10-4 mm2/s),溶解度(s=0.02 ppm)を用いた33)

拡散問題は,拡散物質に対する質量保存の法則の式(1)によって定義される34)

  
VdcdtdV+SnJdS=0(1)

Vは任意の体積領域,Sは体積領域の表面,nはSの外向き法線,Jは拡散段階の濃度の流束,nJはSから離れていく方向の濃度流束を示す。

拡散は,Fick則によって表され,AbaqusのFick則は,一般化学ポテンシャルの特別な形式として提供されている。水素拡散は,濃度勾配と静水圧応力勾配の両方を含む一般化学ポテンシャルの勾配によって生じると仮定されている3437)。この場合,式(2)のように定義される。

  
J=D(cx+sκppx)(2)

Dは拡散係数,sは溶解度,cは拡散物質の質量濃度,kpは相当応力pの勾配による拡散を表す圧力係数を示す。応力勾配項の係数は濃度勾配項のそれより10倍程度高くなると解析されており35),ここでも同様の係数を用いた。

3. 実験結果と考察

3・1 4点曲げSSC試験結果

3・1・1 局部腐食ピット形成・SSCき裂発生挙動に及ぼす極表層硬さ,負荷応力の影響

サンプル9W,15Wの720時間浸漬の4点曲げ試験後のサンプル引張表面側の評点間40 mm範囲の外観写真をFig.6(a),(b)に示す。なお,いずれも写真左右方向が引張方向に対応する。無負荷および負荷応力324 MPaでは腐食ピットの形成はほとんど見られなかった。一方,負荷応力533 MPa(90%AYS)以上の場合,Fig.6(c)にレーザー顕微鏡による粗さ測定プロファイル結果の一例を示すように,引張方向と垂直の方向に延びた多くの腐食ピットの形成が見られた。また,Fig.6(b)に赤矢印で示すように,サンプル15Wでは,負荷応力533 MPa以上の場合,SSCき裂が試験片内部や幅端部にランダムに発生していることが目視で確認された。Fig.7(a),(b)に15Wおよび9Wにおける負荷応力533 MPa(90%AYS)と622 MPa(105%AYS)の時の浸漬時間と局部腐食ピットの数密度の関係をそれぞれ示す。なお,数密度の測定では,局部腐食ピット深さ10 µm以上のものを対象とした。軟質GB主体組織のサンプル9Wの方が,硬質LB主体組織のサンプル15Wと比較して,浸漬時間に拠らず,局部腐食の数密度が大きかった。浸漬時間168時間で数密度は最も高い傾向にあり,720時間の浸漬で一定値に落ち着く。これは浸漬時間の増加とともに腐食が深さ方向および周囲に浸食するように進行し,微細な局部腐食ピットが消失するとともに局部腐食ピットが成長・合体し粗大化したためである。Fig.8に浸漬時間とレーザー顕微鏡で測定した腐食ピット深さ最大値との関係を各負荷応力条件について示す。浸漬時間の増加ともに腐食ピット深さが増加した。特にサンプル9Wにおいていずれの条件においてもサンプル15Wと比較して,腐食ピット深さが大きい傾向にあった。一方,サンプル15Wでは533 MPa(90%AYS), 622 MPa(105%AYS)の負荷応力をかけた試料において168時間以上の浸漬でSSCが発生した。サンプル15Wおよび9Wの負荷応力533 MPa(90%AYS),720時間浸漬後の表層から0.25 mm内部における硬さHV0.1の最大値はそれぞれ279,249であり,SSCき裂発生の硬さ閾値は前報16)と同様の結果であった。Fig.9に負荷応力をTable 1の内表面1 mm厚の平板引張のYSで除した指標をマクロな表層側の%YSとし,局部腐食数密度との関係を整理した図を示す。軟質のGB主体組織であるサンプル9Wでは,硬質のLB主体組織であるサンプル15Wと比較して,負荷応力533や622 MPaの場合,相対的に表面引張負荷応力が高く,表面引張負荷時,Fig.2Fig.4で示すようなミクロな硬さ,組織あるいは結晶方位の分布に起因する微視的塑性歪集中箇所が多くなり38,39),局部腐食しやすかったと考えられる。一方,硬質のLB主体組織のサンプル15Wでは特に負荷応力533 MPaでは局部腐食発生頻度が極端に少なく,負荷応力が622 MPaに増加した場合に局部腐食発生頻度が増加しているが,サンプル9Wよりは局部腐食発生頻度は少ない。微視的な塑性歪集中以外に,硬質LB組織のマトリクスの転位密度が高いことに起因する局部腐食と考えられる。

Fig. 6.

Effect of applied stress on surface corrosion and SSC behavior after 720 h immersion.

Fig. 7.

Effect of immersion time and applied stress (90%AYS and 105%AYS) on the number density of corrosion pits. (Online version in color.)

Fig. 8.

Effect of immersion time and applied stress on maximum corrosion pit depth after four-point bend SSC test. (Online version in color.)

Fig. 9.

Relationship between the actual applied stress level on the tension side and the number density of corrosion pits. (Online version in color.)

硬質のサンプル15Wにおいて,負荷応力622 MPaでは浸漬時間168 hrおよび720 hrのサンプルでSSCが発生し,き裂深さはそれぞれ1.4 mm,4.7 mmであった。また,負荷応力533 MPaでは浸漬時間720 hrのサンプルのみSSCが発生し,き裂深さは0.57 mmであった。負荷応力が高く,浸漬時間が長いほどSSCき裂深さが増加した。浸漬時間増加に伴うき裂深さの増加は,SSCき裂進展過程に時間依存性があることを示唆している。一方,軟質のサンプル9Wでは,腐食ピットの形成が顕著に見られたが,SSCはいずれも発生しなかった。Fig.10(a)に硬質のサンプル15Wの試験後SSCが発生したサンプルのピット形成表層側およびき裂部の光学顕微鏡組織を示す。表層側のピット部では腐食溶解によりピットを挟んだ左右の組織は対応していないのに対し,表層から200 µmより深い領域で見られるき裂では形成初期からき裂先端部に至るまで左右の組織が対応しほぼ一致しており,粒界ではなく,粒内をき裂進展していた。また,擬へき開割れ特有の直線的な割れが多数見られる一方,ところどころき裂の分岐や分断が見られ,水素脆化機構によるき裂発生・進展機構であることが示唆された。以上の結果より,表層から約200 µm以下で腐食ピット・グルーブが形成した後,腐食ピット・グルーブ底からSSCき裂に遷移し,試料内部へ進展している事が分かる。一方,Fig.10(b)に軟質のサンプル9Wの試験後SSCき裂が発生しなかったサンプルの腐食ピット先端の光学顕微鏡組織を示すように,ピット先端で複数方向に分岐して進展し,腐食溶解領域が拡大していく様相を示し,15Wで見られたようなSSCき裂への遷移は見られなかった。

Fig. 10.

Detailed observation of surface region. (Sample 15W and 9W, 90AYS-720 h) (Online version in color.)

硬質のサンプル15Wにおいては,負荷応力が533 MPa(90%AYS)から622 MPa(105%AYS)へと高くなることでSSCき裂が短時間での浸漬で発生するとともに,き裂進展量が大幅に増加した。これは,腐食ピット・グルーブ底での応力集中による応力・歪の増加に伴い,水素脆化が促進されたためと推定される。つまり,サンプル9Wと比較して表層硬さが高いLB主体組織のサンプル15Wにおいて,腐食ピット・グルーブ底での応力集中が増し,局所的に開口方向に働く引張応力が高くなり,水素拡散・集積しやすくなって,き裂化に要する限界水素量を超えたために水素脆化き裂が発現したものと推定される。一方,軟質のGB主体組織のサンプル9Wでは,微視的塑性場の腐食溶解が進み局部腐食ピットを形成しても負荷応力が小さいために,応力集中が小さく,その腐食ピット・グルーブ底におけるき裂化に要する限界水素量を超えるに至っておらず,水素脆化き裂が発現しなかったものと推定される。なお,水素脆性の破壊機構については不明な点が多く,特に本研究で取り扱った湿潤サワー環境のH2S分圧が変化した場合の水素脆化機構については未だ明らかでない。水素の役割としては,格子脆化説や塑性変形促進説(HELP,HESIV等)があるが,最近では後者のHESIV説が特に有力であり,塑性変形に伴う原子空孔性損傷(ナノボイド)の生成を水素が助長するとして理解されている4043,45,46)。本研究で見られたSSCき裂発生サンプルの破面SEM観察による破壊機構について次節で詳しく述べる。

3・1・2 SSCき裂発生材の破面SEM観察

Fig.11(a)にサンプル15Wの負荷応力622 MPa(105% AYS),浸漬時間720時間の条件において発生したSSCき裂部の断面観察結果を示す。表層から0.1 mm,0.2 mm,0.5 mm,1.0 mmにおける破面を観察し,それぞれFig.11(b),(c),(d),(e)に示す。表層0.2 mm程度までは,延性破面の特徴である塑性変形を受けたディンプル破面の中で,ネットワーク状に一部腐食溶解した凹凸の窪みがある領域が多く見られた。一方,表層0.2 mmを超えて内部に進んだ表層0.5 mmや1.0 mmの位置では腐食溶解した凹凸の窪みがある領域が見られず,塑性変形を受けたディンプル破面と平坦な擬へき開的な破面が混在していた。この破面形態の変化は表層の腐食ピット・グルーブ形成がAPC機構に支配されるのに対し,SSCき裂化はHE機構が支配的であることに対応し,腐食ピット・グルーブ底からSSCき裂が発生する過程において,APC機構からHE機構へ反応の強弱の主体が遷移したことに対応するものと考えられる。ただし,Fig.11(f),(g),(h)に一例を示すように,表層0.5 mm,1.0 mmのいずれの位置においても,破面の比較的フラットな領域においてSを多量に含む腐食生成物の痕跡がEDX分析により観察されており,APCの影響はSSCき裂発生以降も,一部残存している事が分かる。0.15 barという比較的低いH2S濃度であるため,FeS被膜形成が薄く不均一であること16)や侵入水素量が小さいことが影響していると考えられる。

Fig. 11.

(a) Cross-sectional observation of SSC crack, (b),(c),(d),(e) Fracture surface observation by SEM, (f),(g),(h) EDX analysis.(Online version in color.)

APC機構は塑性変形によって促進され,すべり変形に伴う新生面の露出や転位密度の増加が影響してFe溶解のアノード反応を加速すると考えられている28,44)。一方,HE機構は前節で述べたように,塑性変形に伴う原子空孔性損傷(ナノボイド)の生成を水素が助長するとして理解されている4043,45,46)。塑性変形を含む局部応力集中による応力場拡大に伴って,局部塑性不安定性(ナノボイドの生成・連結)が水素集積によって促進されると考えられる45)。今回,硬質のLB主体組織のサンプル15WのみSSCき裂が発生したことは,腐食ピット・グルーブ底での応力歪集中によって,応力が増大した領域に水素が拡散・集積し,一定の水素量を超えた場合に,水素存在下の局部塑性不安定条件を満たした結果,ナノボイドが形成・合体し,HE支配型のき裂発生につながったのではないかと考えられる。H2Sサワー環境におけるHE機構のナノボイド形成についての実験的検証は今後さらに進める予定である。次に,応力集中と水素集積量の関係を検討するため,腐食ピット・グルーブ深さを0.1 mm(浸漬時間168時間想定),0.2 mm(浸漬時間720時間想定)と仮定した時の腐食ピット・グルーブを模擬したノッチ底の応力・歪状態および水素集積量をFEM計算によって評価した結果について述べる。

3・2 4点曲げSSC試験の分極特性評価と水素拡散・集積FEM解析

Fig.12にサンプル15Wの初期段階のアノード・カソード反応活性化に及ぼす負荷応力の影響の結果を示す。サンプル15Wにおいて,応力なしと比較して応力ありの場合,アノード,カソードともに反応が活性化した。また,負荷応力が高いほど顕著であった。負荷応力の増加に伴うアノード反応の活性化は,活性な新生面の露出の影響と考えられる。負荷応力の増加に伴うカソード反応の活性化は,引張表面の微視的な塑性変形量の増加によって表面凹凸が増加した結果,反応面積が増加したことや水素過電圧低下の影響と考えられる。これにより,腐食電流密度も高い値を示した。この応力増加に伴う腐食電流密度の増加は,4点曲げSSC試験における応力付与による腐食減量の増加と良好に対応する。

Fig. 12.

Polarization curve in four-point bend SSC test (Sample 15W). (Online version in color.)

また,本分極測定結果は,90%AYS以上の応力が負荷された場合,微視的応力・歪集中に伴い,カソード反応が活性化し,水素発生が促進されることを意味する。このことは,サンプル15Wの4点曲げSSC試験で,90%AYS以上の応力条件において顕在化するSSCが,水素脆化を駆動力とした現象であることを示唆しており,水素脆化の特徴である塑性変形の局所化や擬へき開的な破面を認めたSEM観察結果(Fig.11(e))とよく対応している。

4点曲げSSC試験において,材料および負荷応力に応じて,一定時間経過後,腐食ピット・グルーブが形成し,その先端で応力・歪集中した結果,水素が拡散・集積し,水素脆化起因のき裂が発生すると推定される。本挙動を理解するために,ABAQUS 6.12-1を用いて応力分布解析および水素拡散解析を行った。

Fig.13(a)にFEMで求めた24時間経過後水素濃度のノッチ深さ方向の分布を示す。サンプル15Wのノッチ深さ0.1 mmおよび0.2 mm,負荷応力533 MPa(90%AYS)および622 MPa(105%AYS)の条件における水素濃度の時間変化に関する計算の結果,24時間で水素拡散は飽和していた。ノッチ深さが0.1 mm,0.2 mmの場合,それぞれノッチ底よりも僅かに内側である深さ0.14 mm,0.26 mmの位置で水素量の最大値を示した。また,ノッチが深く,負荷応力が高いほど,水素集積量は増加した。Fig.13(b),(c)にそれぞれノッチ深さが0.1 mm,0.2 mmの時のノッチ底からの距離と引張方向主応力および相当塑性歪の関係を示す。いずれもノッチ底で相当塑性歪は最大となり,主応力は0.14 mm,0.26 mmの箇所で最大値を示した。これらは水素量が最大となった箇所と対応する。3・1節の実験結果と比較すると,サンプル15Wの720時間浸漬サンプルにおいて,0.2 mm程度の腐食ピット・グルーブ底直下で塑性変形が局所化し,水素脆化き裂が発生すること(Fig.10(a)Fig.11)と対応している。水素脆化き裂の発現はノッチ底直下の相当塑性歪最大箇所から始まり,ノッチ底から0.06 mm程度離れる範囲内の主応力拡大領域で水素集積量が増加することによって二次的なき裂の発生・成長を招き,き裂進展につながったものと推察される。

Fig. 13.

(a) Effect of notch depth and applied stress on hydrogen concentration and (b),(c) Distribution of principal stress and equivalent plastic strain at the notch tip calculated by FEM. (Online version in color.)

Fig.14に引張方向の主応力最大値と水素集積量最大値の関係を示す。3・1節の実験結果から,硬質のLB主体組織のサンプル15WのみSSCき裂が発生した。168時間浸漬模擬のノッチ深さ0.1 mm,負荷応力622 MPaの場合,水素量0.82 ppm程度,720時間浸漬模擬のノッチ深さ0.2 mm,負荷応力533 MPaの場合,水素量0.88 ppm程度の閾値をそれぞれ超えた場合,HE機構支配型でSSCき裂が発生・進展することが解析的にわかった。

Fig. 14.

Effect of maximum principal stress on maximum hydrogen concentration. (Online version in color.)

3・3 APC機構からHE機構への遷移モデル

以上の結果を踏まえ,4点曲げSSC試験において,材料および負荷応力に応じて,一定時間経過後,腐食ピット・グルーブが形成し,その先端で応力・歪集中した結果,水素が拡散・集積し,水素脆化起因のき裂が発生すると推定される。Fig.15に硬質LB主体組織のサンプル15Wと軟質GB主体組織のサンプル9Wの腐食ピット・グルーブ形成およびSSCき裂発生・伝播の挙動の違いを模式的に示す。硬質LB主体組織のサンプル15Wでは,Fig.9に示したように表層1 mm厚の引張試験結果からマクロ的には弾性域であるが,腐食ピット・グルーブ底で局所的な応力歪集中が起こり,Fig.13(c)に示したように表面で3%程度の塑性変形を受けHE機構に支配されるSSCき裂が発生し,腐食ピット・グルーブ底から0.06 mm程度離れる範囲内の主応力拡大領域で水素拡散・集積した結果,二次的なき裂の発生・成長を招き,SSCき裂が進展する。一方,軟質GB主体組織のサンプル9Wでは,腐食ピット・グルーブ底表面で同様に塑性歪量が大きくなり腐食が進展するが,APC機構の腐食Fe溶解に留まり,腐食ピット・グルーブ底表面での塑性歪量および応力拡大域での水素集積量が十分ではなくHE機構に支配されるSSCき裂は発生しない。Fig.16にサンプル15Wと9Wの表層1 mmの矩形引張の真応力真歪曲線と加工硬化率の関係を示す。硬質LB組織主体のサンプル15Wは軟質GB組織主体のサンプル9Wと比較して早期に塑性不安定条件σ≧dσ/dεを満たし,応力が増加するとより低歪量で延性破壊に至る。これらは大気中の試験データであるが,鋼中の水素侵入を伴うサワー環境下ではさらに塑性不安定化が促進され16,46),サンプル15Wではサンプル9Wと比較して同等の塑性歪量でもHE機構に支配されるSSCき裂が発生しやすかったものと考えられる。腐食ピット・グルーブ底でのき裂発生とそこから0.06 mm程度離れる水素集積位置の二次的なき裂への連結過程についてはさらに詳細な検討が必要であるが,腐食ピット・グルーブ底での塑性歪の高まりと応力集中に伴う水素集積量の増大の両者のバランスによって,局所塑性不安定化によるナノボイド合体・連結,最終的なき裂化に至るかどうかが決定される。パイプ内表面側で硬度の高いサンプル15Wにおいて,鋼中に水素が侵入した環境下では,より局所塑性不安定化が促進され,ナノボイド形成しやすくなり,き裂の連結・進展が起こりやすく,3・1・1節で述べたように例えば負荷応力533 MPaの720 h浸漬後の場合では0.57 mm深さの長大なき裂進展につながったものと考えられる。

Fig. 15.

Comparison between sample 15W and 9W regarding the corrosion groove formation and SSC crack initiation mechanism.

Fig. 16.

Comparison of true stress strain curve and work hardening rate.

4. 結言

本研究では,0.15 barの低H2S分圧環境中での低合金鋼ラインパイプのSSCき裂発生に及ぼす各種因子(材料硬度,負荷応力,浸漬時間)の影響を4点曲げSSC試験により調査した。主な結論を以下に示す。

(1)SSC割れ感受性(き裂発生性)が硬さ(材質,組織),応力,浸漬時間によって影響を受けており,表層高硬度のサンプルにおいて,SSCき裂が発生した。具体的には,硬さが270HV0.1 at 0.25 mm以上,応力90%AYS以上の場合にSSCき裂が発生したのに対し,硬さが270HV0.1以下あるいは応力72%SMYSではSSCき裂は発生しなかった。

(2)断面の割れ形態および破面観察結果から,硬質LB主体のサンプル15WではAPC機構の鉄溶解に伴う腐食ピット・グルーブ形成後,ピット・グルーブ底先端でHE機構に機構の主体が遷移しSSCき裂が発生した。ただし,き裂発生以降にも一部APCの寄与があることが示唆された。一方,軟質のサンプル9WではAPC機構の鉄溶解のみに留まり,HE機構によるき裂発生は起こらなかった。

(3)4点曲げの分極特性評価の結果,高硬度のLB主体組織かつ533 MPa(90%AYS)以上の負荷応力の場合,初期のアノード・カソード反応がいずれも大きく活性化し,特にカソード反応が活性化した。APC鉄溶解のみならず,HE水素脆化が大きく促進されることが示された。

(4)腐食ピット・グルーブ底先端の応力集中および水素拡散・集積をシミュレートするFEM連成解析の結果,腐食ピット・グルーブ底表面で相当塑性歪量が最大値を示すとともに,先端から0.04~0.06 mm程度離れた箇所で主応力が最大値を示し,水素集積量が最大となった0.82 ppm程度の水素量のしきい値を超えた場合,HE機構支配型でSSCき裂が発生・進展することが解析的にわかった。

(5)硬質LB組織主体のサンプル15Wにおいては,APC機構で形成される腐食ピット・グルーブ底先端で局所的応力・歪集中の増大に伴いHE機構主体に遷移し,塑性不安定化が促進され,SSCき裂が発生しやすかったものと考えられる。

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